E組転入前オリジナル回でございます。
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プロローグ 親子の時間
「…で、あるからして……を……するように……なる。」
分からん…もう何を言ってるのかさっぱり分からん。
なんでだ…?どうしてこうなった…?
確かに1年の頃から数学は苦手だった。でもここまでじゃなかったはずなんだ…2年に入ってからどんどん分からなくなっていた…
なんでだ…?
なんで…
いや、分かってる、知ってる。
全部自分のせいだ。
昔から人に頼るという行為がどうも苦手だった。迷惑をかけているかもしれない、相手の時間を奪っていて相手がしたいことを出来なくさせているのかもしれない。
そういった考えが頭から離れず、頼れなかった。友達にも、先生にも、親にも。
授業で分からなかったことも勿論誰にも聞くことができず、自分の力でどうにかしてきた。いや、どうにもできなかった。
休み時間も、部活の無い放課後も、家に帰ってからも…分からないままではだめだと必死になって復習した、勉強した。
書いて、消して、止まって、また書いて、消して、止まる。
そんな日々がずっと続いた。分からなかった。でも頼れなかった。
分からないまま授業はどんどん進み、分からないことがどんどん増え、置いていかれた。今じゃ先生が何を喋っているのかすら全くわからない。本当に日本語か?
「テストに出るからしっかりと復習をするように、今日の授業はここまで。」
ああ、今日も分からなかった。
「部活がある者は頑張りなさい。無いものは寄り道せずまっすぐ帰るように。ああ、白井君。HRが終わったら私のところに来なさい。以上、号令。」
HRが終わりクラスの人間たちが様々な方へ散っていく。部活に急ぐ人、友達と話す人、ノートを取り出して自習を始める人。俺だけ呼び出され、担任の元へ向かう。
何も分からなかったのに、これから担任に何を言われるかはすぐに分かった。
「これ、親御さんのサインと印鑑押してもらって。明日私のところに持ってきなさい。」
渡されたのは1枚の書類。
特別強化クラスについての通知書。
「…E組、ですか。」
「これから君は晴れて落ちこぼれの仲間入りだ。」
当然か。何も分からない授業、どんどん下降していく点数。数学に気を取られているうちに、得意だった国語や社会まで点数も落ちていた。
落ちこぼれ、その言葉だけは胸の内にスっと落ちていった。
「そうですよね…これから、E組で頑張ります。」
自分でも驚くほど、その言葉を発した時の自分は、晴れやかな笑顔だった。
もう期待されなくていい、もう必死にならなくていい、しがみつかなくていい。頼りたいけど頼れない葛藤に悩まされる必要もない。
だって、落ちこぼれだから。
「フン…笑ってんじゃねえよ…」
そう言い残し先生は、教室を出ていった。自分の生徒を見る目とは思えない、酷く見下した、冷たい視線だった。
でも、それでよかった。
「アイツE組だってよ。」
「やめなよ、聞こえる。」
教室に残っていたクラスメイトたちからも、冷ややかな視線と言葉をこちらに向けてきていた。しばらくこれが続くと考えたら少し気が重いな。
でも、E組に行けばそれも無くなる。今のクラスメイト達とも顔を合わせる必要がない。
そう考えたら、楽な気がした。
「親父になんて言おっかなあ…」
下校中、E組に関する書類とにらめっこをしながら一人ぼやいていた。
E組行きは全然いい、いいんだが…親父への説明と謝罪が1番のハードルだ。
どういえば納得してもらえるのか、あれこれ言い訳するよりとにかく謝った方がいいか、最悪拳が飛んでくるか…
色々な事に頭を悩ませている間に家に着く。
『食事処 しらい』父が経営する店、そして俺の家。
常連しか来ない小さな定食屋だ。今日は定休日で、暖簾はしまわれている。
「まあ…とにかく謝るっきゃねえかあ…」
意を決して、玄関兼店の裏口の軋んだドアを開け、靴を脱ぎ、階段を登る。1歩1歩がとてつもなく重い…中学生になっても親父に怒られるのは本当に怖い…このままずっと階段だったらいいのにと、叶わぬ願望に思考を逃がす。
「…すううううっ…はあ…ただいま。」
ついに階段を登り切り、リビングに入る。
ソファに座り、夕刊を読んでいる見慣れた親父がそこにいた。
「…学校から連絡があった。出せ。」
「…うん。」
夕刊を閉じ、そう言った。こちらに顔は向けてこない。その後ろ姿がとにかく怖い。ああ多分これ殺されるんだろうな…グッバイ今世…
親父の元へ向かい、少し震えた手で、持っていた通知書を親父に渡す。
「本当に、ごめんなさい…」
親父は通知書に目を通している。返事はない。こちらの謝罪を聞いてもらえているのか分からない。怖い。
「すぐ…すぐ良い点数取って、戻れるように頑張る…から」
返事は、ない。
親父は少しの間通知書を読み通し、サインし、印を押した。
「ほれ、お前も名前書くとこあンだろ。さっさと書いて明日忘れねえように鞄の中しまっとけ。つーかこれよお…入学の時も書かなかったか?何枚もめんどくせえなあ。」
親父から帰ってきた言葉は、驚くほどなんの棘も無く、怒りのいの字も見えなかった。
「…え、は?怒んないの?」
「怒るったって…何怒りゃいいンだよ。」
鼻で笑いながら親父はそう返してきた。あまりにもいつもの親父すぎて、呆気に取られた。
「いや、だって…勉強ができないから、成績が落ちてったから…3月から特別強化クラスに転入なんだぞ?通称エンドのE組だぞ?落ちこぼれって呼ばれるんだぞ?」
自分が勉強についていけなくなったことや、特別強化クラス、E組のこと。とにかく悪い言い方で親父に説明した。
「…」
一時の沈黙。
「ガーッハッハッハ!!!」
沈黙を破ったのは、親父の笑い声。
耳をつんざくようなデッカい笑い声が、家中に響いた。
「いいじゃねえか落ちこぼれ!伸びしろしかねえだろうが!伸びてけ伸びてけ!!勉強なんざできなくったってどうにでもならあ!!」
…ああ、そうだった。どうにでもなる精神で、全部デッカい笑い声で吹き飛ばしちまうくらい快活なのが親父だった。
「俺だって勉強はからっきしだ!オメェよりできねえ自信あるぞお?」
「いや、そんな自信持つなよ…」
「オメェが勉強できなくって、その、イー組?とかならなあ…俺ぁ…ゼットか?ゼットだな!ゼット組!!ガーッハッハッハ!!!」
「…プッ…ッハハ…」
あまりにも豪快な笑い声に、つられてこっちも笑顔になっていた。いつもうるさくてイラッとしてたのに、今はとても心地が良かった。
「俺の息子だからなあ!勉強できるなんざハナっから期待しちゃいねえよ!俺の!息子!だからなあ!!」
「そこは期待してくれよ親なんだから…あと別に昔から勉強できなかったわけじゃねえし…」
バシバシと背中を叩かれる。すっごい痛い。
「お?そいやぁそうだな。オメェ1年の頃はもっと点数高かったもんな?」
「…2年入ってから、どんどん置いてかれた…」
「ほおぉぉん…進学校?っつーのは、やっぱ授業も難しいもんなんだなあ。」
「高い学費払ってもらってんのに…本当にごめん。」
「馬鹿野郎!ガキが金のことなんざ気にする事ねえんだよ!!ガキはガキらしくしとけってんだ!」
そう言いまた親父はガハハと強く笑い飛ばした。背中もバシバシ叩かれ続けている。いっっったい。
「でもなあ遊。」
背中を叩く手がピタッと止まり、両肩をガシッと掴まれた。
さっきまで怖くて見れなかった親父の顔を見る。優しい笑顔だった。
「勉強できなくっても、運動できなくってもいい。しっかり飯食って、しっかり寝て、元気でいろ。友達を見捨てんな。困ってる人がいたら助けてやれ。」
ああ、これ…母さんからずっと言われてたな…
『いい?遊。しっかり食べて、しっかり寝て…いつも元気でいるのよ。優しい子でいなさいね。お友達を見捨てずに、困ってる人がいたら、遊が一番に助けてあげるの。』
俺が小学生の頃、テストで悪い点を取った時も、膝を擦りむいて泣いて帰って来た時も。母さんが死ぬ直前も、いつも言われてきた言葉。
「それが俺と、」
「母さんの願い、だろ?」
「おうよ!」
親父はサムズアップして、また豪快に笑い始めた。
俺もまた、つられて笑顔になった。
「うし!飯作んぞ!オメェも手伝え!」
「…おう。今日は何?」
「今日はそうだなあ…何食いてえ?」
「決めてねえのかよ…」
「ガーッハッハッハ!!!」
親父の笑い声は、やっぱりうるさい。
ただの親父回でした。
次回からE組ライフがスタートです。
2年生から一気に3年生になるので時間はだいぶ飛んでしまいますが…オホホ…
アンケート実施中でございます。ぜひとも。
誤字脱字報告、お待ちしております。
ヒロインは
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欲しいでしょ
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要らないんじゃない?