星になったヒーロー 作:日暮 蛍
凶人の殺意に危機感を覚えた黒い精子とホームレス帝は一時的な協力関係を結び、まずはホームレス帝が凶人の足止めに集中した。
「いくぞ野朗ども。あいつの望み通りぶっ殺してやるぞ!!」
他のヒーロー達の相手は別の黒い精子達に任せ、誰にも邪魔されないうちに黒い精子達は合体した。
一方でホームレス帝は冷や汗をかいていた。
凶人に光の玉をぶつけ続けて足止めをしているのだが、常人が触れれば骨も残らないほどの威力のある光の玉を何発受けても消し飛ぶどころか徐々に、徐々に、凶人は近づいてきていた。最初のうちは光の玉をまともに受けていたのだが、盾を取り出してそれを使ってうまく受け流していく。
その上、どういうわけか初対面のはずなのにホームレス帝に対し凶人は怒りと殺意をむき出しにしていた。
近づかせてはならないと光の玉の数を増やそうとした時、凶人はホームレス帝に向けて盾を投擲した。即座に盾を光の玉で消し飛ばし、その判断が間違っていた事に気がついた時にはもう、凶人がホームレス帝の脳天にめがけて鉈を振り下ろそうとしているところだった。
迎撃するには距離が近すぎる。
神秘の力を得ても身体能力は人間の頃のままの為光の玉の余波でも大きなダメージは免れない。避ける事も出来ない。
しかし、割り込んできた黄金の何かが鉈を掴んだ為ホームレス帝は無事だった。
「誰?」
「黄金精子といいます。」
鉈を砕き、凶人を殴り飛ばしたのは黒い精子達が合体した事で爆誕した、黄金精子。
名前に違わず逞しい全身が金色に輝いていた。
「凶人!? 大丈夫か?」
「大丈夫でーす。」
クロビカリがいるところまで吹っ飛ばされた凶人は気だるげな様子で起き上がる。
「あー。まさかこのタイミングでパワーアップするとは。一対一でやり合いたい。でもその前に何が何でもあのおじさんを殺さないと。放置したらまずいかなりまずいあいつが関わってるんだから。」
「お、おい。本当に大丈夫なのか?」
俯いて近くにいるクロビカリでさえ聞こえないほどの声量の独り言をぶつぶつと口にする凶人の姿に具合が悪いのかと心配するクロビカリ。
「おや。もう戦闘不能ですか?」
知らない声がして振り向けば、クロビカリは絶句した。
「う、嘘だ。」
自分よりも鍛え抜かれた肉体。
自分よりも遥かに輝いている黄金の肉体。
「うそだあぁああああ!!!」
ヒーローである自分よりも輝いている怪人の存在をクロビカリは信じたくなかった。
絶望し絶叫するクロビカリを情け容赦なく黄金精子は殴り飛ばした。
勢いよく吹き飛びアトミック侍達がいる方まで転がっていったクロビカリはそのまま気絶してしまった。
「クロビカリ!?」
屈強な体で有名なクロビカリがあっさりとやられてしまった事に凶人も驚愕する。
「...強いんですね、あなた。」
「えぇ。あなたを始末する為に合体しました。」
「悪いんですけど、私と戦うの後にしてくれません? あのおじさんを殺害したらすぐに相手しますので。」
「お断りします。」
「ですよねー。」
なるべく黄金精子から視線を逸らさずにジェノス達がいる方へと視界に入れると、ホームレス帝による光の玉の連射と、クロビカリによって吹っ飛ばされたが怪人と凶人の殺気に反応して復活してしまったエビル天然水の高圧水鉄砲をなんとか防いでいるところだった。
どうにかして助太刀に行きたいところだが、黄金精子がそれを許すとは思えない。
どうすればいいかと行き詰まっている時、巨大な光の玉が斬られたのを目撃した。
黄金精子と共にそちらに目線を向けると、光の玉を斬ったのがアトミック侍だというのが分かった。
「また厄介ごとですか。」
苛立った声でそう言うなり黄金精子はホームレス帝の元に急ぐ。
「あれって斬れるものなの!?」
その隙に凶人はジェノス達の元へと跳んだ。
ジェノス達の元についた頃にはアトミック侍が黄金精子の腕を切り落としていた。
アトミック侍はすぐさま黄金精子から距離を取り、刀を鞘に収めると吐血し膝をつく。
「師匠!」
「アトミック侍?! 大丈夫ですか? ...あれ。違う刀。」
巨大な光の玉や黄金精子の腕を両断したかと思えば明らかに立つ事すらまともに出来ないほど疲労困憊のアトミック侍の様子を見て凶人は急激な力の増大にはアトミック侍が今手にしている刀に原因があると見て、そして大きな制限があるのだと予想がついた。
もうアトミック侍は戦えない。
凶人はそう判断し、周りを見る。
まずはヒーロー側の戦力。
クロビカリの他に倒れているのはオカマイタチとブシドリル。剣聖会のメンバーでは2人、アマハレとザンバイ。
意識がある者は皆息を切らしていたり刀が折れていたりとまともに戦える状態ではない。
洗脳していた黒い精子達は全員ヒーロー達を守る為の肉壁として立ち向かった為もう残っていない。
そして怪人側の戦力。
数は幾分か減らせたが、まだまだ数えきれないほどいる黒い精子。
その黒い精子が合体しパワーアップした黄金精子。
光の玉を無尽蔵に生み出すホームレス帝。
向けられた殺気に反応して金属をも切断する高圧の水鉄砲を放つエビル天然水。
絶望的なまでの戦力差を理解した凶人は表情を無表情に固定しておいて良かったと思った。
後ろにいるジェノス達を見捨てる気は一切無い。
しかし、凶人は誰かを守りながら戦った事は一度も無い。全員を守れる自信がない。誰かが人質に取られたらまともに戦えないと簡単に予想が出来た。
絶体絶命の状況に陥ってしまった絶望への歓喜と皆を逃がしたいという焦り、2つの感情の板挟みとなった凶人はどう動けばいいのか全く分からなかった。
かつてない危機に固まる凶人の耳がある音を拾った。
聴き覚えのある音だ。
サイタマの家にお邪魔している時、何度か聞いた音だ。
顔を上げ、音を鳴らしている人物の顔を見て、凶人は強い安心感を感じた。
キング。
史上最強の称号を得ているヒーローがキングエンジンを鳴らしてやって来た。