星になったヒーロー 作:日暮 蛍
キングエンジン。
それは史上最強の男、キングが戦闘体制に入った時に鳴る轟音。災害レベルの低い怪人ならばその音を聞いただけで戦意喪失する。
様々な伝説を背負い最強の称号を与えられた男、キングが瓦礫の山の上から怪人達を見下ろしてキングエンジンを響かせている。
「気に入らねぇ。静観決め込みやがって。勝負だ。人類最強をボッコボコにできたら気持ち良いだろうな。」
「待ちなさい。早まってはダメです。そこにいるのはヒーロー協会の最大戦力。全開時のタツマキや凶人よりも警戒すべき最大の壁キングです。全員でやりましょう。」
ヒーロー達を再起不能に追い込んだ怪人達を前にしてもなおキングは腕組みをして堂々と立っていた。
「...動かねーな。」
「こっちの出方を伺っている?」
「オイ。あいつどんな戦闘スタイルなんだ?」
「さぁな。ヒーローの中でキングのみ不自然に戦闘データが少ない。情報操作に長けている。最強と持てはやされるだけの事はある様だ。キングは手も触れずに怪人を失神させると聞く。いくら我々でも油断はできん。」
「ケッ。我々だ?」
「一緒にすんなよ。」
「後ろに凶人がいるのを忘れたのか?」
ホームレス帝がそう言った途端黒い精子達は苦々しい顔で黙り込んでしまった。
「奴が動かないのは手負いのヒーロー達を庇っているからだ。奴の理性があるうちに決着をつけなければ我々は全滅する。」
黒い精子の何体かが後ろを見れば、凶人が無表情でドス黒い殺意を瞳に宿したまま怪人達をじっと見ていた。
冷や汗を流しながら黒い精子達はキングの方へと視線を戻した。
「...まずは、私が試すとしよう。」
ホームレス帝は光の玉の狙いをキングに定める。
「え? 試すって? 何を?」
「キング。貴様程の男が、私の攻撃をどういなすかを、だ。」
「ほう...ちなみにその光に当たるとどうなる?」
「通常なら蒸発する。」
「そうか。」
「さぁ、どう動く? キングよ。」
ホームレス帝が光の玉をキングにぶつけようとした時、
「待て。まだ気付いていないのか?」
キングからの投げかけにホームレス帝は光の玉を飛ばすのを止める。
「まだ気付いていないのか、だと?」
「ああ。足元を見ろ。」
急いで足元を見れば、何も無い。せいぜい瓦礫がある程度だ。
どういう事なのだと視線をキングの方へ戻せば、キングはゆっくりと説明を始めた。
「お前の立っている場所。ガレキが細かくてかなり不安定だぞ。危険だ。気付いていない様だから、教えておいた。」
説明を聞いて、ホームレス帝は呆気に取られた。
ただ、足場の注意をしただけ、と。
しかし、すぐに思い直す。あのキングがただ足場を注意しただけとは思えない。言葉の裏を読み、キングが本当に伝えたい事を推測した。
これは警告。
光球をかわし一息でお前の懐まで間合いを詰められるがそんな足場で俺の攻撃から逃げられるとでも思っているのか?
キングはそう言いたいのだ。
そう考えたホームレス帝は踏みとどまれて良かったと安堵し、僅かに見えたキングの戦闘スキルの高さに圧倒される。
「フ、片鱗を見せて来たな。うまく手の内を隠した気でいる様だが、今日こそ正体を暴いてやるぞキング。」
ホームレス帝からの宣戦布告にキングは余裕そうに鼻で笑う。
「フッ。ただの人間が。」
キングの一言にホームレス帝はひどく動揺する。
そう、ホームレス帝は確かにとある事情で神秘の力を宿し光の玉を無尽蔵に作る事が出来るのだが、身体能力は人間の頃のまま。
キングはその事を見抜いてしまったのかとホームレス帝は焦る。
その事実を黒い精子達や凶人に知られてはかなりまずいのだ。弱みとなる。致命的だ。
「アイツにこれ以上喋らせるのは危険だ! さっさと殺してしまおう!!」
キングを急いで黙らせなければ。
そう思い焦ったまま光の玉を今度こそキングにぶつけようとした時、地中から出てきたとある人物によって地面に倒され、首元を押さえられてしまう。苦しさから光の玉の維持が出来ず、霧散する。
「さすがに死ぬかと思ったぜ。三途の川がはっきり見えた。」
ホームレス帝を押さえつけているのは、S級ヒーロー、ゾンビマンだ。
「ゾンビマンさん!!」
「おォ、童帝。無事か。」
ぷりぷりプリズナーによって助け出され合流してきた童帝はゾンビマンの無事を確認出来て安心と喜びを表に出す。
「ゾンビマン! あれだけやってまだ生きていたのか!?」
一方、怪人協会のアジト内で交戦していたホームレス帝は忌々しそうにゾンビマンを見上げていた。
「俺は泳ぎがてんでダメでな。川を渡るのはまだ難しいようだ。」
すぐに光の玉をゾンビマンにぶつけようとするが、ゾンビマンが首を絞める力を強めた為動きを止める。
「残念ながら、まだしばらくは死ねそうにないな。光の玉を撃ってみろ。爆発でお前も致命傷を受けるだろう。」
「くっ黒い精子ッ! こいつを引きはがせッ! 今度は肉骨粉にして牛の餌にしてやるッ!! 早くしろォォォ!!!」
ホームレス帝は必死に叫ぶが、黒い精子は動かない。
キングや凶人を前にホームレス帝を助けに行くのはかなりのリスク。黒い精子達は無数にいるとはいえ無限ではない。
エビル天然水も全く動かない。
エビル天然水の特性を黒い精子は知っている為、ある考えに行き着いた。
この臨戦体制に入らざる状況の中、キングは殺気を放っていないのだ。
いや、あるいは敵意すら抱いていないのだ。
目の前にいる
エビル天然水はもう動かない。
黒い精子しか、動けない。
あっという間に追い詰められた黒い精子だが、それでも闘志は消えていない。
全力でヒーロー達を殺すと覚悟を決めた。