サボテン日光様が作り上げた『意識低い系英雄譚リメイク』と一般落第騎士様が作り上げた『落第騎士の英雄譚 意識低い系風味』とのクロスオーバー三次創作作品となっております。二つの作品に登場する主人公が戦ったらこうなるんじゃねぇかなぁ。という完全興味本位から生まれた作品です。一般落第騎士さんの作品が良過ぎて筆が乗り気付けば書いてました。
偉大なる二つの作品へ最大のリスペクトを込めて書きました。
東京都湾岸部。今は誰もいないこの場所ではかつて《夜叉姫》と《世界時計》の2人が衝突し、大規模な範囲で立入禁止区域に指定された場所。破軍学園から依頼を受けた《天譴》甘木悠は、人気のない倉庫街を歩いていた。内容は単純。突如発生した空間歪曲現象の調査。近隣住民が「人が消えた」「知らない景色が見えた」と証言しており、何らかの能力者が関与している可能性が高い。
「……こういうの、絶対面倒なやつだよなぁ」
報告書書くのとか苦手だし、と気の抜けた声を漏らしながら歩く。だがその眼だけは、油断なく周囲を見渡している。甘木悠は自他共に認める面倒臭がりであり、強敵との戦闘など願い下げだった。しかし、仕事は仕事。任務を放り出すような性格でもない。
――その時だった。空間が、裂けた。
「……は?」
バリィッ――!!
ガラスが砕けるような音と共に何もない空中に巨大な亀裂が走る。その向こうに見えたのは、東京ではないが日本であるとわかるようなどこか見知った地形が映る。
そして――
「……なんだ、これ」
そこから、一人の青年が転がり出てきた。
長身と呼ぶには少し普通されども服越しからでもわかる異常なまでに発達した身体。それに反比例するかのようにどこか疲れたような目つき。圧力らしい圧力は感じられない。そのチグハグさを前に少しだけ油断しそうになるがすぐに気を引き締める。
何故ならば甘木の持つ天稟たる目からはわかってしまうから。目の前に立つこの不審人物が自身が知る限り最も強いとされる女教師《
青年――貴剣良誠は、突然の事態に困惑しつつも周囲を見回した。
「…………」
静寂。そして、
「ちょっと待て。ここ……どこだ?」
当然の疑問だった。つい先ほどまで彼は、ある能力犯罪者を追っていた。任務が終わりつつあるタイミングでいざとどめを刺そうとしたその最中、空間が突然歪み――気付けばここにいた。だが、目の前には見知らぬ少年。しかも、
「……伐刀者か」
「……そっちも」
両者の視線が交差する。
空間系能力者。
異常空間。
見知らぬ伐刀者。
状況だけ見れば『敵である』。そう判断するには十分だった。
「悪いけど」
甘木が《自在天》を顕現させる。
「今、任務中なんだ。事情聴取に付き合ってもらえると助かる」
そんな甘木の言葉に対して貴剣の眉が僅かに動く。
「……奇遇だな。俺も仕事中だ」
その言葉と同時魔力が立ち上る。するとそこには先ほどまでなかった筈の彼の固有霊装である《悠天》と呼ばれる無骨な白塗りの日本刀が、その手に現れた。
「任務中であるにも関わらず、いきなり武器を向けられた」
ゆっくりと構える。
「……敵対行動と判断するには十分だ」
「だよなぁ……」
甘木がため息を吐く。
「こういう時って、大体戦う流れになるんだよな……」
「同感だ」
二人ともバトルジャンキーでもなければ戦士でもない。どちらかというならば仕事人間とも言える存在だ。本来ならばこんな強そうな敵を相手に戦いたくない。できれば話し合いで済ませたい。しかし、『任務中である』。その事実が二人の背を押した。
「……行くぞ」
「……うん」
瞬間。
―――――――ッッッ!!!
地面すら爆ぜず、音もないまま最初に動いたのは、貴剣良誠。
「ッ――――!!」
低い姿勢。そこから繰り出されるまるで空間を切り取って貼り付けたような出来の悪いアニメを見せられたかのような神速の踏み込み。
速い。
甘木の瞳が見開かれた。
「(は?いやいや待て、おかしいだろ……!?)」
次の瞬間、鋭い刃が振り下ろされる。
轟音。
甘木が後方へ跳ぶ。すると、延長線上にあったものが何かの冗談のように真っ二つに割れた。
「うわ……!」
「今の避けんのか」
貴剣の声に驚きはない。ただ淡々と。目の前の相手を脅威として認識する。
(速い……! しかも重い……!)
甘木が距離を取る。今の一撃。受けていれば、《自在天》ごと押し潰されていた。
技量。
身体能力。
純粋な剣士としての性能。
目の前の男は、それら全ての能力値が一級品を超過したナニカ。
「……勘弁してくれ」
甘木がぼやいた。
「なんで初手からこんなのと当たるんだよ……」
「それはこっちの台詞だ」
ゲンナリとしながら貴剣が剣を構え直す。
「今のを回避するんだ。只者じゃない」
そして、互いに理解する。
――強い。
目の前の相手は、自分と同格。あるいは、それ以上。だからこそ二人とも、ほんの少しだけ。尻込みした。
「…………」
「…………」
沈黙する。内心では『簡単な仕事じゃないのかよ赤座さん』やら『なんでこんな技量持っててテロリストなんぞやってんだよ』と喚きまくってるが。だが、次の瞬間。
「……仕事だからな」
「ああ。仕事だ」
二人の声が重なると同時に割り切る。そして、再び。
ドンッ――――!!
両者が同時に踏み込んだ。
《自在天》と《悠天》。二つの相反する色合いの霊装が激突する。
ギィィィィィン――――!!
火花が散った。
「……っ!」
「……お」
重い。けれども
その事実を悟った甘木は霊装の衝突を利用して跳ね飛ばされることを利用しながら距離を取る。そして、
ぎゅるり。
視線を相手へと巡らせる。それは甘木曰く大道芸の域を出ないが便利な技。しかし、世界有数の剣技を持つ黒鉄一輝をして持っていれば一生食うに困らないとまで言わしめた視線によって生じるエネルギーを用いて斬るという意味のわからない絶技。少し先の未来にて《視線斬り》と呼ばれる技術。不可視にして感知困難な絶技を相手目掛けて放つ。しかし、
「は?」
ぎゅるり。
貴剣の目もまた不気味に動いた。瞬間、貴剣に迫っていた
「うぉぉおおおおおおおおおッ!?」
突然にして想定外の出来事。本来であれば相手目掛けて放たれるはずだった一撃がカウンターとして放たれる。自慢ではないが割と自信のあった一撃を倍にして返されだ事実に驚愕の声を上げながら回避する。
「マジで?これを避けんの?」
貴剣が驚いたように呟く。今までの敵であれば今の一撃でこと済んでいた。それどころか自身のように視線で相手を斬るなどという芸当など不可能だった。『手心を加える余地はない』。そう判断した貴剣は迷うことなく自身の十八番の使用に踏み切る。
「―――【
瞬間、ノーモーションのまま幾億もの不可視の刃が甘木目掛けて殺到する。これこそ貴剣の伐刀絶技【
魔力を用い斬撃を飛び道具として繰り出せる能力というのは、中距離、或いは魔力次第では遠距離の戦闘域すらカバーすることができ、牽制や撹乱にも使用できる使い勝手の良い力と評せる。
けれども明確な『当たり』とは言い難い。
何せステラ・ヴァーミリオンや黒鉄珠雫のような自然干渉系能力者ならば、その刃に秘める力の性質こそ違えど、能力の一環として似たような事が再現できるからだ。黒鉄王馬のように人外の膂力を持つものならば、それこそ単に剣を振るだけで可能な芸当でもある。
しかし、ただ飛ぶ斬撃だと侮るなかれ。そこに内包された一撃の重さはかの《雷切》こと東堂刀華の代名詞とも言える【雷切】の全力とほぼ等価であるのだ。それが幾億も殺到する。KOK世界ランキング第三位。日本において最強クラスの魔導騎士とされる《夜叉姫》西京寧音でさえも無傷での対処は不可能な技。それを、
「……まじか」
霊装から漏れ出た白い焔を払うことで全て舐めとった。殺す気はなかったものの再起不能にする気で放ったにも関わらず無傷でいなされたことに貴剣から少しばかりの驚きの声が漏れる。
「斬撃を飛ばす能力か」
「まぁな、そっちの能力はやべーな。よく扱う気になれるな」
「え?見てわかんの?結構上手く隠してる自信あったんだけど…」
甘木は相手の能力に対して確信を至りつつも生涯を通して隠し続けるつもりだった能力を看破された事実に驚く。対する貴剣は
そして、ここまでの戦闘を経て予感は確信へと至った。
「いやぁ、ナーフされたほうがいいでしょその技量」
「そっくりそのまま返すわ。なんだそのふざけた能力と魔力量。自慢じゃないけど俺、魔力量Bよ?明らかに倍近くはあるでしょ?」
それは互いに劣っている点と優っているところがあるということだ。
貴剣のフィジカル評価は驚異の
例えば黒鉄王馬。半t近い体重と筋繊維一本一本がワイヤーとまで評されている。その身体能力たるや《
例えばステラ・ヴァーミリオン。生まれながらにして《竜》の力をその身に宿し、《解放軍》幹部にしてアメリカの真の黒幕であるカール・アイランズをして全てが人類の水準を超えているとまで言わしめたその存在。
そんな人物たちでさえもAランクである。
そんな両者をも上回るフィジカル。さらに視線斬りを絡め取って相手へと返す技量。技を同じ技で返されたということはこと技量面においては甘木を上回っていることに他ならない。これらのことから肉体の性能面においては差があることは明白だ。
それに対して貴剣もまた甘木に劣っている点がある。それが魔力量とその能力だ。保有している本人でさえも「墓場まで持っていく」と言い切り、遠い未来にて世界大戦という特大の役ネタを知っていることもあって大抵のことでは動じない筈の総理大臣を寝込ませるほどの馬鹿げた能力を保有にしている。対して貴剣が持ってるのはあくまでも斬撃の射出。能力の格差に関しては多少死なないようにはしたとはいえ手心なしの攻撃を漏れ出た残火を振るって無効化していることから察することができる。
((ああ…))
両者共に初めて会う負けるかもしれない相手。
((なんて))
内心が荒れ狂う。
((なんて))
それは未知なる相手に対する恐怖が己の全霊を発揮できるという高揚がいる筈のなかった己のライバルたるある存在への賞賛が巻き起こる。
……ことはなく、
((面っっっっっっ倒臭い相手なんだ!!))
両者とも心底、心の底から相手にしていることを後悔している。先ほども言ったが 二人ともバトルジャンキーでもなければ戦士でもない。どちらかというならば仕事人間とも言える存在だ。格上どころか少し格下相手であっても逃げ果せたいまである。今からでも見て見ぬ振りして帰ってやろうかとすら思っている。
しかし、
((そうもいかないんだよなぁ))
確かに2人は戦士ではない。バトルジャンキーではない。けれども抜刀者だ。全ては国のために。それを2人は《世界時計》の背を見て学んでいる。今ここでこいつを逃せば間違いなく歯止めが効かなくなる。話し合いをするにしても真偽がわからぬまま置いておくにはあまりにも相手が強すぎる。
――できれば帰りたい。
しかし、仕事だから仕方ない。互いにため息を大きく吐く。そして再び剣を構え衝突した。
ガキィィンッッ!! というけたたましい衝突音と共に、爆発的な衝撃波が周りの瓦礫を消し飛ばす。貴剣の馬鹿げた膂力と上回る技量を前に甘木はわずかに顔を顰めながらも両者の刀はまるで鏡写しのように対極へ弾かれ、そしてわずかに貴剣が早く体勢を立て直す。そして、
「【魔翔刃】」
貴剣良誠が斬撃を
次の瞬間、先ほどを上回る規模の斬撃が空中へ解き放たれる。まるで翼を広げるように。四方八方へと放たれた魔力の刃が、周囲の建造物を切り裂きながら甘木へと殺到した。
「……ッ!」
先ほどのように残火では消すことができなと悟った甘木が後方へ跳ぶ。ビルの壁を蹴り、さらに空中へ。そして空を蹴って回避を続ける。
しかし、
「逃がすとでも?」
貴剣の声。飛翔していた【魔翔刃】の軌道が一斉に不自然に曲がった。
「――なっ」
追尾。甘木の表情が変わる。放たれた伐刀絶技の操作は珍しいことではない。それでも甘木が驚いたのは貴剣のもつあまりにも卓越した魔力操作。それによって一瞬、ただ様子見のために放った単発式の攻撃だと見誤ったからだ。回避しようにも全方位を囲まれている。
普通の伐刀者であれば絶望に膝を折るような光景を前に甘木はなんてことなさそうに刀を攻めの位置に構えたまま、相手の攻撃を最小限の体捌きで かわして反撃をおこなう。甘木は名は知らないが《天衣無縫》と呼ばれる技術で肉体、魔力操作全てを総動員させて回避しようとする。が、
「あ、無理だこれ」
直ぐにそれが不可能なのを察する。分かるのだ。物体の"一番弱い部分"が見える、類い稀なる浄眼。視覚で受け取った莫大な情報を処理する脳髄。空間の歪みさえ解析する圧倒的な演算能力。
それらを持ち合わせるが故にわかってしまう。あの刃はこちらの防御などお構いなしに全てを断ち切るのだと。念の為にもと【魔翔刃】に干渉していなそうとしたものの干渉しようとした力場もろとも両断されて諦めた。事実、《魔翔刃》が通った後の空間がズレているのが確認できる。回避は不可能。
ならば、
「【絶滅領域】」
消滅させるのみ。甘木の伐刀絶技死ぬほど使い勝手が悪い。何せ効果範囲が広すぎるのだ。普段、相手に向けて使わないのも舐めプとかではなく単に周囲を絶対に巻き込むから使えない。チェーンソーでお料理するアホはいないし、核ミサイルで焚き火する馬鹿も居ない。よって、使うときはこのように、詠唱で制御する必要がある。しかし、ここは立入禁止区域。加減などいらない気遣い。故に詠唱を破棄してそのままブッパする。
瞬間、破滅的な白い極光が甘木を中心に突き立つ。それを見た貴剣はギョッとしながら空気抵抗を斬りながら最速で回避しつつ迫る極光から逃げ仰る。しかし、
「逃しませんよ」
いつの間にか背後に回り込んだ甘木が《自在天》を貴剣目掛けて突き立てる。【絶滅領域】で【魔翔刃】を迎撃しつつ隠れ蓑にすることで盛大な目隠しを用いて背後をとったのだ。《自在天》の封を僅かに緩めて白い焔を漏らす。魔力を燃やす焔を前に魔力による防御など不可能。ここから回避することは自身でも不可能なのを確信しつつ振り下ろす。そして、
「危なっ」
「は?」
――掴まれた。
「……は?」
甘木の思考が一瞬だけ停止し、己の目を疑う。《自在天》の刀身は、あと数センチで貴剣の肩口へ届くはずだった。魔力を燃やし、あらゆる術式と魔力干渉を焼き尽くす白き焔を纏う神剣。防御など意味を成さない。魔力障壁は燃え落ち、霊装で受ければ刀身ごと焼失する。それが《自在天》という伐刀絶技の理だった。
――にもかかわらず。
ギリッ。
白い焔を纏う刀身を、貴剣良誠は左手で握り締めていた。刀身は確かに掌へ食い込んでいる。しかし、まるで傷一つついてない。このことから察することができるのは
「……おいおい」
その事実を前に甘木の口元が引き攣る。
「素手って、嘘だろ」
「嘘じゃない」
貴剣は淡々と答える。それと同時にその腕の筋肉が僅かに隆起する。
ミシッ。
生半可なことでは壊れない筈の霊装が軋むほどの握力。そしてそれは刀を保持する甘木の両腕へ、凄まじい圧力が伝わっていた。
(なんだ、この握力……!)
人間ではない。
大概は自身に言われ続けたことを甘木自身が思わされるほどの二つの山の間に挟み込まれたのではないかと錯覚させられるほどの圧迫感。
「……えっと、能力?」
能力はとっくに判明してるのに甘木は思わずといった様子で問いかけてしまう。甘木の問いに関して貴剣はあっけらかんとした様子で答える。
「え、いや生まれつき」
その言葉と同時にあたりがシンッと静まり返る。そして、一拍。
「いやいやいやいや」
甘木は思わず声を荒げた。
「素の能力だけで《自在天》を素手で止める奴がいてたまるか!」
「え、嘘でしょ、お前が言う!?さっきからジリジリとさぁ!掴んでるこっちがやばいんだけど!だからお互い様な!?」
「全然お互い様じゃねぇよ!」
叫びながらもこの状況にたまりかねた甘木は霊装を引き抜こうとする。しかし、
(嘘だろ……!?)
ピクリとも動かない。自身の霊装はいまだに貴剣の手によって握られているだけ。それだけなのに《自在天》が完全に固定されている。
次の瞬間、甘木の目に貴剣の腰が沈むところが目に映った。
「しまっ――」
理解した時には遅かった。掴んだまま身体を半歩だけ踏み込ませる。それだけ。ただ、それだけの動作。それだけの動作で神懸かりの如き破壊力が込められる。自身の全能力を用いても逃げられない膂力でぶん殴られたらどうなるのか。それを想像しただけでも甘木の顔から血の気が引いていく。霊装を解除して逃げようとする。しかし、
「はぁ!?おまっ、マジでバケモンかよ!」
霊装が消えない。理由はすぐにわかった。信じられないことに貴剣は魔力を悉く焼き払う《自在天》の焔をくぐり抜け、魔力を用いて自身の霊装をハッキングしたのだ。能力の封鎖までは出来ないようだが、霊装を出したり消したりすることを封じることは出来たらしい。ならばと霊装を手放そうとする。
が、身体の軸が一瞬でブレて膝から力が抜け落ちる。貴剣のやったことは単純だ。合気に似た技術を用いて甘木の力を分散させたのだ。甘木とて武の極地に居座る人間。しかし、こと身体という面では貴剣の方が優っていたそれだけの話だった。
「ヤバ」
もはや言えることはそれだけ。掌一つで完璧に身体の主導権を奪われてしまい、回避など到底不可能なこの状況。せめても全身の魔力を着弾点の一点に込めて防ごうとする。そして、
ドゴォォォォォォンッ!!
鉄骨同士が衝突したようなおおよそ人体から出たとは思えないような轟音と共に、甘木の腹部へ貴剣の右拳がめり込んだ。
「――――――――ッッ!!」
衝撃、衝撃、衝撃に次ぐ衝撃。
拳圧だけで地面が消し飛ぶ。悲鳴一つあげられない甘木の身体がギャグ漫画のやられ役のように吹き飛び、何棟もの廃墟となった建物を一直線に貫通していく。轟音が幾重にも連なり、最後に巨大な粉塵が空へ舞い上がった。
左手を開き、すぐに甘木の霊装を手放す貴剣。掌には今更のように《自在天》によって裂かれた傷が残っている。血は流れているし、魔力を燃やされたという未知の感覚もまだ残っている。だが、その腕は微塵も震えていない。
「……危なかった」
それでも
「あと少し遅ければ、結構ヤバかったな」
白炎に晒され続けた手をプラプラと払いながらそう呟く。確かに今の貴剣の怪我は掌にできた裂傷のみ。そう
そして瓦礫の向こうでは、
「危なかったぁ」
甘木が立ち上がる。対する甘木もタダで殴り飛ばされた訳では無い。魔力を一点に収束させてなお身の危険を感じた彼は殴られる直前、身体から力を極限まで抜いた。殴られる直前になってその力に合わせて後ろは跳躍したのだ。そうすることでダメージを最小限に抑えたのだ。0.00000…単位でもタイミングがずれていれば最悪体が真っ二つになっていた筈の一撃。それを前にしながらも難なくこなしてみせるその技量。まさに傑物。しかし、
「ごほっ……」
制服は破れ、口元から血を流している。いくらダメージを最小限に抑えたとはいえ、完全に消し切ることまでは出来なかった。人生で初めて負う明確なダメージ。それでも、その目だけは死んでいなかった。
「……マジで勘弁してくれ」
血反吐を吐きながらも心底うんざりした声。
「今まで会った中で、一番殴り合いたくないタイプだ」
姿は遠くて見えない。されども対する貴剣もまた、似たようなことを相手は思っているのだろうと思いながら深く息を吐くと応えるように喋る。
「俺もだよ」
そうして《悠天》を静かに構え直す。
「こんなにこれ以上能力を使わせたくない相手は初めてだ」
両者に走る緊張。片や天への試練とまで称され触れることさえ叶わぬとされた《天譴》。片や踏み入れることさえ不可能とされその領域内のものは等しく敗北を与え続けた《絶圏》。両者共に生涯無敗にして無傷。喰らわないことが当たり前。そんな人生だった。そんな当たり前を害する相手。早期決着を望むのはある意味当然とも言えた。
「――――天に
「――――
両者共に距離を置きながら詠唱を開始する。それは加減だとか制限などというぬるい理由などではない。ただ、目の前の人物を屠る。ただその為だけに全霊を賭す。
「恩寵断絶―――――【
「還るべき処を失え―――――【
詠唱の完了とともに甘木は刀を振り下ろし、貴剣は刀を薙ぎ払う。
瞬間、音すらも置き去りにした、純粋な光の奔流が。音をも飲み干した、万象を引き裂く黒き刃が。互いを喰らい合う。世界に致命的な音が鳴る。まるで悲鳴のようにそこかしこで響き渡る。周囲で天変地異が起きては二つの
永遠とも思えた衝突は消える。瓦礫も《夜叉姫》と《世界時計》の両者が刻んだ戦歴も何もかもが初めから存在しなかったのではないかと疑いたくなるくらい何も無くなった。そうして残ったのは先程負った傷を除けば無傷の両者。
―――――もはや、両者の頭に加減の文字は消え失せた。
「「来い」」
その言葉と共に霊装に変化が生じる。そして、
「《ラハト・ハヘレヴ》」
「《生太刀》」
二つの霊装の真名が唱えられた。それと同時に2人の言葉に呼応するように霊装がひび割れる。
形状を偽装し、無駄に大きすぎる威力を抑え込むために掛けられていた何重もの拘束。それが内側から溢れ出す圧倒的なエネルギーに耐えきれず、まるで脱皮でもするようにボロボロと崩れ落ちていく。
片や天上にて招くべき相手を楽園で秤り、輪る白き炎の剣。片や天上の法を地上に敷き、神をも律する黒き七支の刀。大凡、人の身には余る筈の二振りの武器が顕現する。
《絶圏》貴剣良誠。
《天譴》甘木悠。
世界線を超えて出会ってしまった二人の剣士。その戦いが、今、本当の意味で幕を開ける。
【名前】貴剣 良誠(きつるぎ りょうせい)
【所属】破軍学園三年一組(国立暁学園三年)
【伐刀者ランク】B+
【伐刀絶技】魔翔刃(スパーダ)
【二つ名】《七星剣王》《絶圏》
【ステータス】
攻撃力:A
防御力:E
魔力量:B
魔力制御:S+++
身体能力:A+
運:C
上記のはサボテン日光さんの書いた主人公の説明欄です。攻撃力と防御力に関しては『公式戦で見せた記録から判断したもの』という設定らしいです。
最後の伐刀絶技と霊装の名前、及び形状変化はこうだったらいいなぁという完全に私のオリジナルです。