ユウ、起きてー!」
コンコンコン、と元気なノックが響く。
「朝だよ!」
ユウはゆっくり目を開けた。
昨日はヘスティア・ファミリアへ入団し、疲れてすぐ眠ってしまった。
「今行きます!」
扉を開けると、エプロン姿のヘスティアが笑顔で立っていた。
「朝ご飯できてるよ!」
「ありがとうございます。」
二人で質素な朝食を囲む。
パンとスープだけ。
豪華とは程遠い。
それでも温かかった。
「ごめんねぇ……。」
ヘスティアが申し訳なさそうに笑う。
「もう少し稼ぎがあれば、お肉も出せるんだけど。」
「十分ですよ。」
「そう?」
「はい。」
ユウが笑うと、ヘスティアも安心したように笑い返した。
少しの沈黙。
そして、ヘスティアが思い出したように手を叩く。
「あっ、そうだ!」
「紹介し忘れてた!」
「紹介ですか?」
「うん!」
「実はね、うちにはもう一人眷族がいるんだ!」
ユウは驚いたふりをする。
「そうなんですか?」
「ベルくんっていう男の子!」
「すっごく頑張り屋さんなんだよ!」
ヘスティアは嬉しそうに話し始めた。
「朝早くダンジョンへ行って、夜遅くまで頑張ってるんだ。」
「最近は私が起きる前に出ちゃうことも多くてね。」
「帰ってくる頃には君は寝ちゃってるかもしれないなぁ。」
「だからまだ会えてないんだ。」
ユウは内心で納得した。
(やっぱりベルは毎日潜ってるんだ。)
原作が始まったばかりのベル。
まだ誰にも知られていない、小さな冒険者。
「きっとすぐ会えるよ!」
ヘスティアは笑った。
「ベルくん、きっと喜ぶから!」
「はい。」
ユウも微笑んだ。
(その時が来るまでは、普通の後輩でいよう。)
◇◇◇
「それじゃあ今日は街を案内するね!」
朝食を終えると、ヘスティアは元気よく歩き始めた。
「ここがギルド!」
「ここが武器屋!」
「薬屋は覚えておいた方がいいよ!」
一つ一つ丁寧に説明してくれる。
途中、他の神とすれ違う。
「あれ? ヘスティアじゃないか。」
「お、新しい眷族?」
「やっと二人目か!」
「うるさいなぁ!」
ヘスティアはぷくっと頬を膨らませる。
「ちゃんと増えたもん!」
神々は笑いながら去っていった。
ユウは思わず吹き出す。
「仲がいいんですね。」
「からかわれてるだけだよ!」
ヘスティアは少し照れくさそうだった。
◇◇◇
その日の午後。
ユウは木剣を握る。
重い。
想像以上だった。
「まずは素振り千回だ!」
一回。
二回。
十回。
三十回。
腕が悲鳴を上げる。
百回を超えた頃には、握力も限界だった。
「はぁ……はぁ……。」
木剣を地面につく。
「今日はここまで!」
ヘスティアは笑いながらタオルを渡した。
「大事なのは、明日も続けること。」
ユウは深く頷く。
「はい。」
◇◇◇
夜。
ベルはまだ帰ってきていなかった。
「今日は少し遅いねぇ。」
ヘスティアは窓の外を見ながら呟く。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫!」
「ベルくん、ちゃんと無茶はしない子だから。」
そう言いながらも、少しだけ心配そうだった。
ユウは思う。
(今ごろダンジョンで頑張ってるんだな。)
会ってはいない。
でも同じ屋根の下で暮らす仲間。
それだけで、不思議な実感が湧いた。
その夜。
眠りにつく直前。
ユウの視界にだけ、銀色の文字が静かに浮かび上がる。
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《転生神の加護》
【才能】
なし
【耐性】
なし
【適性】
なし
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昨日と変わらない。
何も増えていない。
『焦る必要はない。』
世界の狭間で聞いた言葉が蘇る。
『才能は、積み重ねた時間の証だ。』
ユウは静かに目を閉じた。
明日も剣を振ろう。
明日も学ぼう。
一歩ずつ、この世界で生きていこう。
その積み重ねが、いつか自分だけの才能になると信じて。