界渡りの不確定な切り札 作:アルフレッド
ストライクside
コードが猛烈な勢いで書き換えられていく。
「あなた……何をしているの?」
「OSを書き換えています!」
「書き換える!?」
「このままじゃまともに動きません!」
「そんなことができるの!?」
「やるしかないでしょう!」
ぶつぶつつぶやき、間に悪態や舌打ちを挟みながらキラは猛然とOSを書き換えていく。
マシンガンを構えようとするジンの動きを見て、キラはペダルを踏みこんだ。それに即座に反応し『ストライク』は高くジャンプする。
さっきまでの稚拙な動きが嘘のようだ。
少女も、女兵士も違いに驚く。
「……動きが」
「変わった……」
さらにPS装甲が起動して、
鋼色だった機体に色が走る。
灰色だった装甲が白、青、赤へと染まっていく。
「…………」
少女は言葉を失った。
つい先ほどまでまともに歩くことすらできなかった鋼の巨人が、まるで別の機体のように立っている。
その変化を起こしたのは――。
少女は目の前に座る少年の背中を見た。
「来る!」
「え?」
「掴まって!」
「どこに!?」
「どこでもいい!」
「だから変なところ触るなよ!」
「今それ言う!?」
「他に武器、アーマーシュナイダーこれか!」
モニターに機械図が表示され腰部に収納されたアサルトナイフが点滅する。
「───これだけか」
ボタンを押すと機体の両腰から巨大なアサルトナイフが射出される。それを掴み、マシンガンを乱射しながら追いすがってくるジンに向かって飛びかかった。
「こんなところで……やめろよ!」
キラの操る機体のスピードと運動性に、避ける間もなく、アーマーシュナイダーの切っ先がジンの首のジョイント部に突き立てられた。
電気系統が火を噴く。ジンは動きを止めバランスを崩して斜面に倒れこんだ。そして爆発。
シートの後ろで一部始終を観ていた女兵士と少女は、唖然としてモニターを見つめ、次にキラを見た。その目には、驚愕と――目の前の少年がただの学生ではないと気づいた色が浮かんでいた。
「…………」
キラの手が止まった。
「……今の」
少女の声が後ろから聞こえる。
「…………」
「キラ」
「仕方なかったんだ」
誰に言ったのか、自分でも分からなかった。
「撃たなきゃ……僕たちが……みんなが……」
「……分かってる」
「…………」
「分かってるから」
◇ ◇ ◇
「……そういえば」
「なんだ?」
「君、名前は?」
「…………」
「何?」
「今聞くのか!?」
「だって知らないんだから仕方ないだろ!」
「カガリだ!」
「カガリ?」
「そうだ!」
「僕は――」
「キラだろ!」
「……そうだった」
◇ ◇ ◇
キョウスケside
宇宙はすでに戦場になっていた。
鍔迫り合うモビルスーツとモビルアーマー。
モビルスーツの方は――ジンに似ているな。
サンプルが欲しくなる。
だが、それよりも。
「……この感じ」
覚えがある。
理屈ではない。
だが、一度感じたものを間違えるとも思えなかった。
「いるな、ここに」
ラウ・ル・クルーゼ――!
◇ ◇ ◇
ムウ・ラ・フラガside
『なんだ、あの機体!?』
金色のモビルスーツが高速で接近する。
こちらへ――ではない。
シグーへ向かっている。
『おいおい……』
ムウは思わず笑った。
『あいつ、クルーゼに喧嘩売る気か?』
◇ ◇ ◇
ラウ・ル・クルーゼside
小惑星の中から金色のMSが出てくる
(なんだ!あのMSは!あんなもの情報には入ってきていなかったぞ!どうやらあちらには隠しごとがあったらしいな。オーブの狸め!)
『あのMSはわたしが相手をする!メビウスの相手は常に二機で隙を見せないように相手をしろ!」
『その踏み込み……』
「…………」
『なるほど』
シグーが距離を取る。
『以前とは随分と派手な機体になったものだ』
「覚えていたか」
『忘れるものかね』
「そうか」
『あの赤いジンのパイロット』
『隊長!』
「何だ?」
『もう一機います!』
「何!?」
『姿が――』
通信が途切れる。
「…………」
『ダーリン、そっちは楽しそうね♡』
「エクセレン」
『私も混ぜてちょうだい♪』
「…………まったく狸だ」
◇ ◇ ◇
アークエンジェルside
「そんな艦を発進させるなんて無理です!」
ノイマンは抗議した。だがナタルは発艦作業の手も止めず、彼を叱責する。
「それを言ってる間に、やるにはどうしたらいいかを考えろ!モルゲンレーテはまだ戦闘中かもしれんのだぞ!それをこのまま引きこもって見過ごせと言うのか!」
トノムラ伍長が数名の人員を連れて戻ってきた。
「ご命令通り動ける者すべて連れて戻ってきました」
「シートにつけ!コンピュータの指示通りやればいい!」
命じるナタルを、ノイマンはどうにか思いとどまらせようとする。
「外にはまだザフト艦がいます。戦闘なんてできませんよ!」
「わかっている。艦起動と同時に特装砲発射準備!───できるなノイマン曹長!」
睨みつけられて、ついにノイマンも腹をくくった。
「発信シークエンススタート!非常事態のためプロセスC30からL21までを省略、主動力オンライン!」
自分は艦長席に座ったナタルがきびきびと指示を出す。
「主動力出力上昇!」
「推進系、オンライン!」
「火器管制システム起動!」
「特装砲、発射シークエンスへ!」
「艦内各ブロック、隔壁閉鎖!」
「発進準備完了まで――」
「450秒!」
「長すぎる!ヘリオポリスとのコンジットの状況は?」
いきなり振られたトノムラは上ずった声で。
「い、生きています!」
と答える。
「そこからも電力をもらえ!コンジット、オンライン!パワーをアキュムレーターに接続……」
着々と発進シークエンスが進められている。
「主動力コンタクト!エンジン異常なし!【アークエンジェル】全システムオンライン!……発進準備完了!」
ノイマンが不安を押し隠して叫ぶと、ナタルの声が響いた。
「…………」
ナタルは正面モニターを見据えた。
外にはザフト艦。
まともなクルーすら揃っていない。
実戦経験のない新造艦。
条件だけを並べれば、発進など正気の沙汰ではない。
だが――。
「気密隔壁閉鎖!総員、衝撃に備えよ!特装砲発射と同時に最大戦足!【アークエンジェル】発進!」
巨大な艦体が、ゆっくりとドックを離れていく。
◇ ◇ ◇
ストライクside
───ドォォン……!
凄まじい轟音とともに、鉱山の岩盤が崩れ落ちた。濛々と立ちこめる土煙をかき分けるように現れたのは白く輝く巨大な戦艦だった。
キラは呆然とモニターを見つめる……。
「戦艦……コロニーの中に⁉」
「……あれも、地球軍のなのか?」
「え?」
「あんなものまで……オーブの中で造ってたのかよ……」
全長300メートルは有ろうかという戦艦が、自分たちの住む街並みの上に浮かんでいる。その規模と見たこともない外観にキラは目を奪われている。
「アークエンジェル……無事だったのね」
女性兵士がつぶやく声がパイロット席に響いた気がした。
◇ ◇ ◇
キョウスケside
「今のビーム砲はなんだ?」
明らかに小惑星から発射されていた。すくなくともMSが放てるレベルじゃない。
クルーゼとの一騎打ちは明らかにキョウスケの方が上手であった。すでにかなりの手傷を負わしている。とはいえこちらもOSが未完成なためか動きが鈍く破壊された部分が少なからずあった。
『アスランか!こちらも被弾した帰投する!』
いつの間に現れたのか赤紫のガンダムとともにクルーゼのシグーは戦域から脱出していた。
「……あれも新型か?」
『みたいね。でも、さっきまでいなかったわよ?』
「奪われたか」
『……ダーリン、どうしてそう思うの?』
「クルーゼがあの機体を警戒していない」
『なるほどね』
しかも
「一機だけじゃない」
そのほかに3機の機体が帰投していくのが見えていた。
◇ ◇ ◇
アークエンジェルside
「しかしすげーなー、これキラが動かしてたわけ?」
「ガンダム?何それ?」
「それよりこの人の手当。あ、目を覚ましたみたいだ」
マリュー・ラミアスはゆるゆると現状を認識し、自分がアークエンジェルを見た瞬間気絶したことに気がついた。
さっきの黒髪の少年が気づかわし気に顔色をのぞき込み、傍らには膝をついた姿勢のX105『ストライク』とそのコックピットにもぐりこみ、騒いでいる少年たちが見えて、彼女ははっとした。差し伸べられた手に向かって拳銃を突きつけ。
「その機体から離れろ!」
身動きをすると負傷した肩にずきんと衝撃が走った。彼女を見る少年たちの顔にキョトンとした表情が浮かぶ。かまわずマリューは彼らの頭上に向けて一発銃弾を撃った。
「な、なにをするんです!」
抗議しようとした少年の鼻先に銃口を突きつけ、コックピットから少年たちが下りてくるとマリューは口を開いた。
「動かないで!」
「そいつらはキラの友達だぞ!」
「……これは軍の最重要機密よ。民間人がむやみに触れていいものじゃないわ」
「だったら最初からこんなところで造るな!」
「それとこれは別問題です!」
「同じだろ!」
「違います!」
少年たちが一様に不満げな顔つきをしているのを見て、彼女はため息をつきたくなった。
この子たちに含むところはない。意識を失って大切な機密から目を離してしまったことに自分に腹が立つが、少しは彼らも自分たちの立場を理解するべきだ。
それに───。
彼女の目がさっきの黒髪の少年の上に止まった。ストライクのコックピットで見せたあの能力───あれは……。
彼女は内心の迷いを押し殺し断固とした口調で言った。
「私はマリュー・ラミアス。地球軍の将校です。申し訳ないけどあなた達をこのまま開放するわけにはいきません。事情はどうあれ軍の最高機密を見てしまったあなた達はしかるべきところと連絡が取れ、処置が決定するまでは、私と行動を共にしていただきます」
案の定少年たちはいっせいに不平の声を漏らした。
「なんで───」
「冗談じゃねぇよ何だよそれ」
「僕たちはヘリオポリスの民間人ですよ。軍とは関係ない!」
カガリだけなぜか方向性が違うが
「私はあいつらとは関係ないぞ!」
「あなたもです」
「なんでだ!」
「あなたはストライクのコックピットにいたでしょう!」
「乗せられたんだ!」
「自分から戻ってきたじゃないか!」
「お前は黙ってろ!」
「なんで僕が怒られるんだよ!」
「黙りなさい!何も知らない子供が!」
マリューの一喝に、みな気圧されて黙った。
「中立だ、関係ない、と言ってさえいれば今でも無関係でいられる。まさか本当にそう思っているわけではないのでしょう?周りを見なさい!」
少年たちはそっと、周囲に目をやった。人っ子一人いない街並み。傷ついたシャフト、自動修復されつつあるがぽっかり宇宙空間をのぞかせた外壁の穴。
「…………」
カガリは口を閉ざした。
その言葉だけは、否定できなかった。
つい先ほど自分自身が、この国の『中立』に怒りを覚えたばかりなのだから。
「───これがあなた達の現実です。……戦争をしてるのよ。あなた達の世界の外はね」
◇ ◇ ◇
キョウスケside
「ラミアス大尉!」
少年たちにストライクの部品を乗せたトレーラーを運転させ、マリューが『アークエンジェル』に到着するとナタル・バジルールが駆け寄っていった。
「ご無事で何よりでありました!」
「あなた達もよくアークエンジェルを。おかげで助かりました」
「久しぶり……でもないかマリュー」
「…………」
マリューは声のした方を見た。
「……ナンブさん?」
「ああ」
「…………」
「無事だったようだな」
「どうしてここにいるんですか!?」
「仕事だ……モルゲンレーテからMSを受け取ってきた」
「ラミアス大尉。お知り合いですか?」
「ええ……以前から」
「何者です?」
「…………」
マリューがキョウスケを見る。
「私もそれを知りたいんです」
「キョウスケ・ナンブだ」
「それは知っています!」
ナタルも気になるのか質問を続ける。
「この機体について説明を」
「オーブとの正式な交渉で譲渡されたものだ」
「オーブから?」
「ああ」
「あなた個人にですか?」
「正確には違う」
「では、どこに?」
「それは言えん」
「…………」
「聞いても無駄よ。所属は前から教えてくれないから」
ミラージュフレームも姿を見せて
『マリューさん、無事だったのね♡』
「エクセレンさんまで!?」
「あー、感動の再開を邪魔して悪いんだが」
突然脇から声をかけられて、マリューはそちらへ顔を向けた。パイロットスーツ姿の長身の男が端正な愛想よい───やや軽薄だが───笑みを浮かべ、歩み寄ってくる。
「地球軍第七機動艦隊所属、ムウ・ラ・フラガ大尉だ。よろしく」
「あ、地球軍第二宙域第五特務師団所属、マリュー・ラミアスです」
「キョウスケ・ナンブだ」
「それはさっき聞いた」
「そうか」
「……あんた、クルーゼと知り合いなのか?」
「知り合いというほどじゃない。一度戦った」
「一度?」
ムウの眉がわずかに上がった。
「それであそこまで動きを読めるのかよ」
「…………」
俺は男を見る。
やはり、感じる。
クルーゼとは違う。
だが――どこか似た感覚。
「お前も妙な感じがするな」
「……は?」
今度はムウが俺を見る。
「…………」
「…………」
「あんたもか?」
「何がだ?」
「いや……」
「それにしても、あんただったのか。あの金ピカ」
「金ピカ?」
「そいつだよ」
「ゴールドフレームだ」
「そのまんまじゃねえか」
「そういう名前だ」
「…………そうかい」
『あら、ダーリン。もうお友達?♡』
「今会ったばかりだ」
「いや、俺も今自己紹介したところなんだが」
「ダーリンの花嫁、エクセレン・ブロウニングよ♡」
「……所属は?」
「ダーリン♡」
「いや、そうじゃなくて」
「聞いても無駄だ」
「あんたが言うのかよ」
「フラガ大尉、諦めた方がいいです」
「ラミアス大尉?」
「私も以前聞きました」
「で?」
「教えてもらえませんでした」
「……なるほどねぇ」
余計な邪魔は入ったがそれぞれ敬礼した後、ムウが切り出す。
「乗船許可をもらいたいんだが。俺が載ってきた船はザフトに落とされちまってね。この艦の責任者は?」
重い口調でそれに答えたのはナタルだった。
「艦長はじめ主だった士官は戦死されました。……よって今はラミアス大尉がその任にあるかと」
「えっ……‼艦長が……!」
マリューは衝撃に凍り付く。
「……そうか」
ムウの表情から軽さが消えた。
「悪い。知らなかった」
「いえ……」
マリューは小さく首を振る。
まだ気持ちの整理などできていない。
だが、今はそれをしている場合でもなかった。
『ラミアス大尉、バジルール少尉、至急ブリッジへ!』
「どうした!」
『またモビルスーツです!』
死者を悼む余裕もなかった。身を固くしたマリューの背中を俺は叩く。
「指揮を取れ!マリューが艦長をしろ!」
「わ、私が……⁉」
「そういう事だな、先任大尉はムウだろうが……」
ムウは肩をすくめて。
「俺に艦のことはわからん」
だろうな。それにマリューには艦長となる素質があると思う。
「マリュー艦長、俺たち二人の乗船許可も頼む」
『よろしくね♡』
「こちらこそよろしくお願いします」
マリューとナタルは一瞬顔を見合わせた。
「『ストライク』はまだ外ですか?」
「はい。搬入はまだです」
「回収している余裕はないわ。自力で合流させましょう。」
「自力で……?」
ナタルが眉を寄せる。
「誰が操縦するのです?」
「…………」
マリューの視線がキラへ向いた。
「え?」
キラが自分を指差す。
「僕ですか!?」
「あなた以外に動かせる人がいないの」
「でも僕、軍人じゃ――」
「分かってるわ」
「だったら!」
「いいから行ってこい!」
イラつきだしたカガリが爆発したか。
「なんで君が決めるんだよ!」
「置いていかれるぞ!」
「君はもう乗らないから気楽だよね!?」
「誰のせいであんな狭いところに押し込まれたと思ってる!」
「僕じゃないよ!!」
「二人とも!!」
「「はい!」」
「ケンカしてる時間は無いの。いいわね?」
「「わかりました!!」」
「『アークエンジェル』発進準備!総員第一戦闘配備!」
◇ ◇ ◇
艦内に警報が響き渡った。それを聞きながらミリアリアはそっとつぶやいた。
「キラ、大丈夫かしら」
トールが強く、その肩を抱いた。
激しい爆音が再びヘリオポリスを揺さぶった。外壁に新たな穴が穿たれ、『ジン』の編隊がコロニー内部へ侵入してくる。
「きゃっ!」
ミリアリアが身をすくめる。
「伏せろ!」
サイが叫んだ。
巨大な影が開口部を横切る。
一機。
二機。
三機――。
「また来たのかよ……」
カズイの顔から血の気が引いていく。
『総員第一戦闘配備! 民間人は指定区画から動かないでください! 繰り返します――』
艦内放送にマリューの声が響く。
「キラ……」
ミリアリアがもう一度呟いた。
今度は誰も何も言わなかった。
◇ ◇ ◇
ブリッジside
「い……一機はX303───『イージス』です!」
奪取されたXナンバーの一機だ。艦橋に重苦しい空気が流れた。自分たちが作り上げたMSに攻撃されるとは……。
「もう実戦に投入してくるなんて……」
するとムウがあっさり言い放つ。
「今は敵だ。あれに沈められたいか?」
「コリントス発射準備!レーザー誘導、厳に!」
「他にもシグーがいるな。キョウスケたちはすでに出ているのか?」
「ええ、モルゲンレーテに技術者が残っているとかで救助に向かったわ」
「敵モビルスーツ、接近!」
「数は!?」
「シグー一、ジン六! アークエンジェルへ向かっています!」
「迎撃――」
「待って!」
オペレーターが声を上げた。
「別方向からモビルスーツ二機、高速接近!」
「識別は!?」
「これは……!」
モニターに映った金色の機体を見て、マリューが目を見開く。
「ゴールドフレーム……!」
その直後、もう一機の反応がレーダーから消えた。
「もう一機、ロスト!」
ムウがニヤリとする。
「消えたんじゃない。あの嬢ちゃんの方だ」
「ミラージュフレーム……」
「救助に行ったんじゃなかったのか?」
「救助が終わったんでしょう」
「仕事が早いねぇ」
「X303、さらに接近!」
「コリントス――」
「待ってください! ストライクが前に出ます!」
「ストライクが!?」
「……キラ」
マリューが息を呑む。
ムウはモニターを見つめ、
「なるほど。あっちは坊主に任せるしかなさそうだな」
◇ ◇ ◇
キョウスケside
『ダーリン、ちょっと偉そうなのがいるわよ♡』
「指揮官機か」
『どうする?』
「俺がやる。ジンを頼む」
『了解♡』
指揮官機と思われるシグーから通信が入ってくる。
『金ぴかとは派手ですねぇ。私に、綺麗な死に様を見せてくれ!!』
「…………」
妙な男だ。
クルーゼとは違う。
だが――こいつからも、まともではない何かを感じる。
「名乗れ」
『おや? 死ぬ前に私の名前を知りたいと?』
「確認したいだけだ」
『いいでしょう』
男は愉快そうに笑った。
『ルビッカ・ハッキネン』
「…………」
聞いたことがあるような気がする。
だが――
「エリカ、聞いたことがあるか?」
モルゲンレーテから救出してきたエリカに聞いてみる。
「最近クルーゼ隊の中で名前を上げてきたパイロットってことしか知らないわね」
「まあいい、ここで討ち取れば同じことだ!」
ゴールドフレームを加速させる。
『おやおや! ずいぶん威勢がいい!』
シグーが重突撃機銃を乱射する。
「当たらん!」
機体を左右に振りながら射線を抜ける。
『ならこれはどうです!』
「っ!」
シグーが間合いを詰めた。
重斬刀とゴールドの剣が激突する。
――ガキィィン!
『いいですねぇ! もっと私を楽しませてください!』
「断る」
『おや?』
「お前を楽しませるために戦っているわけじゃない!」
『ダーリン! こっちは終わったわよ♡』
「なら……こいつだけか!」
『ですが先ほどから動きが一拍おくれてます。機体が不調なんじゃありませんか』
アーチボルトを思い出しそうな不快な声で通信を入れてくる。
「だが俺は一人じゃない!」
ゴールドフレームとシグーの間にミラージュの弾丸が撃ちこまれる。
◇ ◇ ◇
三人称side
『ストライク』を駆るキラは、破壊されたモルゲンレーテの施設で機体のパーツを探していた。
命じたのはマリュー・ラミアス。先ほどまでただの兵士だと思っていたが、どうやら士官だったらしい。
『ジン』が突入した爆音に、彼はギクッと空を振り仰いだ。そして『ジン』の装備している大型ミサイルや長砲身のライフルに気づき、顔色を失う。あれをコロニーの中で使われたら……。
「『ソードストライカー』……剣なのか?」
彼は瓦礫の中から運び出そうとしてたコンテナを見つめ、おもむろに『ソードストライカー』をアジャストする。
その時だった。
『キラ! 敵機接近!』
「えっ!?」
警告音。
振り返ったストライクのモニターに、赤い機体が映った。
「あれは……」
『――キラ!?』
「アスラン……!」
『キラ! そこを退け!』
「アスラン……」
『お前と戦うつもりはない!』
「僕だってないよ!」
『なら退け!』
「退けない!」
『キラ!』
「後ろにはまだ人がいるんだ!」
『…………!』
『キラ……本気なのか?』
「違う……!」
ストライクが大剣を構える。
「戦いたいわけじゃない!」
『なら――!』
「でも、退けないんだ!!」
「なぜ、なぜ君が!」
キラは泣きそうになりながら叫んだ!軍隊───人殺しの集団に属するなんて彼には似合わない!
「ヘリオポリスに……中立のコロニーになんでこんなひどいことを!」
先ほどから大きくきしみ、過負荷に耐えかね、大きく身をよじるように揺れていたセンターシャフトが、ついに崩壊を始めた。
轟音を立てながらコロニーの背骨というべきシャフトが分解を始めると、ねじ切られるように残っていたアキシャルシャフトが次々とはじけ飛び、地表を傷つけさらに崩壊を加速させる。
『中立だと!?』
「え……?」
『中立を名乗りながら、ここで地球軍のモビルスーツを造っていたんだぞ!』
「だからって……!」
キラは崩れていく街を見た。
「ここに住んでる人たちには関係ないだろ!!」
『キラ!』
「っ!?」
二人の間へ、崩壊したシャフトの巨大な構造材が落下する。
ストライクとイージスが左右へ飛んだ。
「うわああっ!」
『くっ!』
地面が割れる。
街が沈む。
もはや戦っている場合ではなかった。
◇ ◇ ◇
キョウスケside
『おや? どこへ行くんです? まだ私たちの楽しい時間は――』
「エクセレン!」
『分かってる!』
「救助を優先する!」
『了解!』
『…………』
「お前に構っている暇はない」
『これはまた……随分とつれないですねぇ』
◇ ◇ ◇
第三者side
シェルターが一斉に救命艇として射出された。それが終止符となった。
「ヘリオポリスが……」
キラは悲鳴のような声で叫んだ。対峙している『ストライク』と『イージス』の足元にもすさまじい勢いで亀裂が走っていた。
その二機に流出物が激しい勢いで打ち付けられ、激しい音を立てる。
『キラ! 飛べ!!』
「っ!?」
アスランの叫びと同時だった。
大地が裂けた。
亀裂から噴き出した空気が瓦礫を巻き上げ、『ストライク』と『イージス』へ叩きつける。
「うわああああっ!!」
『くっ……!』
二機が同時に地面を蹴った。
もう敵も味方もない。
崩壊するヘリオポリスから脱出しなければ、二人とも死ぬ。
「うあぁぁぁぁっ……」
キラは悲鳴を上げた。バーニアを噴射するが気流に押され、虚空へ引きずり込まれていく。
『キラッ!』
アスランが叫び、『イージス』を寄せようとしているがやはり乱気流にもまれ二機の距離は離れるばかりだ。
『ストライク』は散っていく隔壁とともに、果てしない宇宙に押し出されていった。
◇ ◇ ◇
「……ヘリオポリスが」
誰かが呟いた。
だが、マリューには立ち尽くしている暇はない。
「ストライクを探して!」
「ですが艦長、本艦も――」
「分かってる! 脱出を優先! その上で捜索するの!」
『X105ストライク、応答せよ……』
通信機はさっきから同じ呼びかけを繰り返している。コックピットではキラのせわしない呼吸音だけが聞こえていた。
『X105ストライク、応答せよ……』
「……こちら、ストライク」
自分でも驚くほど声が震えていた。
『キラ!?』
聞こえてきたのはマリューの声だった。
「……はい」
『無事なの!?』
「たぶん……」
『たぶんってなんだ!』
別の声が通信に割り込んできた。
「カガリ?」
『ちゃんと返事しろ! 心配するだろうが!』
「なんで君が通信に出てるんだよ!」
『うるさい!』
『二人とも静かにして!!』
「「はい!」」
その時電子音が響き、モニターに何かが表示された。
「……救難信号?」
そこには、ランプを点滅させている円筒形の細長い漂流物が映っていた。