現代ファンタジーバトルです。タイトルにタッQとありますが、まともなスポーツはしません。
テーマは殺し合い。
タッQ――それは一対一で勝敗を決める、史上最速の球技!!! 超音速で振るわれるラケットから魂が込められ、眼にも止まらぬ速度で翔ける夕日色のボールはまさに文字通り電光石火!!!
「喰らえ――――ッ!!!」
ズドッ!!! ゴォアァァァァァァァァァ!!!
「うぅわぁぁあああああああああああああ!!」
一人の男がスマッシュを放った。ボールはラケットとの衝突、台への激突で耳をつんざく轟音を上げたが、その音すらかき消さんと一人の悲鳴が響いた。
放った必殺のスマッシュが台に反射し、相手選手の喉へと喰らい付いていた。球威により弾け飛んだ相手は数十リットルも喀血しながら絶叫したのだ。四、五メートル跳ね上げられ、バウンド後も勢いは止まらず何度も回転しながら後方へ吹き飛んでいく。
ド!! ド!! ドドッ!! ゴォシャァァッバアキィィィィィィ!!
「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぶっ、部長っ!! 腕がっ!!」
盛大に後ろの壁に激突し、更に倍の血を吐く選手に、同校同部の副部長が駆け付けた。どうやらスマッシュを受けたことにより、部長は左腕が破壊されてしまったらしい。
脚立に固定された得点板がスマッシュの威力により一気にめくり上げられ、十一を示す。この瞬間、必殺球を放った男の勝利が決定された。
「き、貴様!! よくも部長を――俺達の仲間を!!」
涙を両目に溜めて睨み付ける副部長。部長――たった今、吐血した敗者はもとより、仲間――他の部員たちも、皆が力なく倒れている。部室の隅で、あるいは台の上で、彼ら全員が死んだように意識を失っており、頭、腕、腹、脚……至る部位に怪我を負って、部室は血の海と化していた。
「オォ――――ッホッホッホ!! 県大会二位を誇るこの高校も、私たち『世紀末孤高高校』<セイキマツココウコウコウ>にかかれば所詮この程度!」
派手で露出度の高い黒ボンデージに身を包んだ女、三木野<ミキノ>が高々に相手を嘲笑う。
そう、惨敗した彼らのタッQ部は、県大会において二年連続二位を記録する超強豪校。筋骨隆々の肉体と風をも見切ると言われた動体視力をはじめとする圧倒的な技術を持つ彼らだが、ミキノが率いるセイキマツの軍勢には手も足も出なかった。二十人ほどの部員の内、副部長を除く全員がたった五人のセイキマツ選手に無残な敗北を味合わされていたのだ。
「使ってる部室も脆いし……二位がこれじゃあ、一位の『超北海道高校』もたかがしれてるわね」
「黙れ!!」
ボンデージ女が部室を見渡し、それについても見下した発言をする。部室の床や壁は軍勢の放った弾により数メートルのクレーターがあちこちにできて、中には外からの木漏れ日が刺す所もある。
ニヤニヤ笑う女に、副部長が怒声を飛ばす。無論、部室を莫迦にされたこと……にもあるが、実質は同じ地区の一位校を笑われたことに対してだ。
『超北海道高校』! それは高校卓球では県大会一位にして、全国一位を誇る超強豪校! ここ数年は一位をキープしており、ミキノはそちらを狙う予定であった! だが運悪く海外出征中! そこで、「実験台」として二位の高校を襲ったのだ。
「ゆ……許さんぞセイキマツ……チョーホクさえいれば、貴様らなんか!!!」
「あらあら、他校に頼るなんてみっともない。でも威勢だけはいいのね、気に入ったわぁ」
圧倒的な力量差を見せ付けられて尚、睨み付ける副部長。しかし、その強い意志はミキノにとって「素材」としての評価点に過ぎない。
未だ反抗する心を持つ男に、手に持つムチをしならせ、舌舐めずりしながら振り下ろす。
ビシィィィィィィィ!!
「ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「アナタじゃあオーラの欠片もないでしょうけど……手駒としては一応使えるわね」
ミキノは柔らかく手首を回し、鞭の先で輪を作る。革が蛇のように副部長の首へ巻き付き、圧し折らんとばかりに締め上げる。
「ぐえっ!! や、やめろ!! やめろっ!! お前らに使われるぐらいなら、死んだ方がマシだーっ!!!」
ずるずると、大きい箱の中に引き摺られていく副部長。箱の蓋が閉じる直前に放ったその一言が、タッQ部副部長としての最期の言葉であった。
◆
――異常高校!
春!!! 華が芽を開き、猫が発情する神秘なる季節!!
ここ、公立「異常<コトツネ>高校」も、古びた生徒を追い出して空いた枠を埋めるため、新たな若人が数百人ほど取り込まれていた!!! 取り込まれた生徒は無事に入学式を完遂し、堕ちる種の如く、自らが根を張る場……部活に所属しようと血眼になっていた!!!
「あれぇ……? ピンキュー撃つ音が聞こえねえ……」
彼、玉田卓<タマダ・タク>も己の望む部活を求めて彷徨う若人の一人!! 彼が所属を望む部活はタッQ部!!
『全スポーツで最も動体視力を動員させるスポーツ』という華々しい謳い文句を持つ! 屋内限定の球技・タッQ!! それに魅入られた彼は! 同士と共にタッQ部の部室を探していた!!
タッQ部なのだから当然! ピンキュー! 其即ちボールを撃ち合う独特の小気味いい打球音が聞こえると思っていたが! どうもそれが聞こえてこない!!
「なァ、やっぱセンコーに聞こうぜ。この学校ムダに広いんだよ」
愚痴を零すのは同じく若人、一年のタナカ。彼は小学六年三学期の頃からタッQを続けており、高校でもタッQ部に入部することを決めていた。偶然知り合った二人は、タッQ部志望ということで部室を探すのを共にしていた。
「ん……あっちだ! ラケットの匂いがする!!」
「マジかよ、ちょっと待てよ!」
タッQのラケットが持つ独特の匂い! それを嗅ぎつけた玉田は! ツッコむタナカを置き去りにするかのように一目散に奔り出す!
◆
――タッQ部室前!
「おお、あったぁ!」
「はッ……は……お前……案外突拍子もないのな……」
全速力で疾走し、息切れするタナカをよそに眼を輝かせる玉田。その眼の先、戸の上には確かに「タッQ部」と書かれていた。マジックで書いたのだろうがかなり古い字で、薄くなっており存在感を感じさせない。
「あ、開いてる」
「センパイたちいんのか? アイサツしねえと……」
恐る恐る玉田が引き戸に手をかけた次の瞬間。
「観念なさい! もうこの部は終わりなのよ!」
!!?
◆
――先日の話である!
異常高校<コトコウ>タッQ部は県内有数の実力を持つ部であった! しかし! それに目を付けたのが世紀末孤高高校<セイキマツ>であった!
セイキマツは勝つために手段を選ばない治外法権糞外道と噂の学校! 実際! 全国!世界!方々に手を伸ばし! タッQの実力者を権力!暴力!性!金!あらゆる手法によって取り込んでいた!
ある者は嬲り殺しにされ! ある者は辱められ! ある者は財産・家庭を脅迫材料にされ! セイキマツに服従を強いられていた!!
証拠こそないものの、誰もがセイキマツの仕業だと理解して疑わなかった! 故に!! 誰も彼らには逆らえない!!
強大になりながらも表沙汰にはならず証拠も残さず、のうのうと跋扈する!! N国人ならばこの事実に怯え隠れ伏す他なかった!!
コトツネに対してもセイキマツの凶爪は無慈悲! かつての二年と一年のほぼ全てが心神喪失!! 四肢切断!! 自己破産!! 様々な窮地に追い込まれ! 今や健康を維持できる者は僅か二名となっていた!!
部活生存条件は四名の部員! 部活生存そのものが危機に陥った矢先! セイキマツを支配するミキノが分校を引き連れて練習試合を申し込む!
かくして人数不足の問題がコトコウに知れ渡り! コトコウタッQ部は最大のピンチを迎えていた!!
そうとも知らずノコノコと部活見学に来た玉田卓! 物騒な連中を引き連れるボンデージ女と、彼女に相対する三人の男の言い争いを見てしまった!
「たった二人の部員じゃ試合もできないじゃない。どうせ部活抹殺は確定。とっととセイキマツに降りなさい」
「うるせぇ! てめぇらに従う気も、部活やめる気もねえよ!」
「そうですよ、せめて最後にお姉さんたちをリョナりたい……あ・いや、試合ぐらいはいいじゃないですか!」
「……それに、まだ新入生が来る可能性もある……」
残った部員二名の後ろに佇む老人が、ゆっくりと口を開いた。
「ミキノ、これ以上バカなことはやめぇ。こんなことをしても、お前の望むものは手に入らん……」
「耄碌したジジイの言葉なんて聞きたくないわぁ。それに、欲しいものは手に入りつつあるし」
「なんじゃと……?」
「もういいから。どうせ新入生なんて来ないわよ。いい加減に諦めなさい」
部員が足りなくなったコトコウタッQ部が、セイキマツに圧力をかけられているらしい。一連の流れを視て、自分たちが遅れたせいで部が生存の危機に瀕しているのがわかった。
――セイキマツは国家権力に匹敵すると言われる強大凶悪な集団だと噂されている。
――それでも立ち向かいますか?
『いいえ……』
「やべえセイキマツに目ぇつけられてる……おれ、そんなガチなつもりじゃねえし……やっぱタッQ部入るのやめるわ……」
タナカは逃げようとした!
「オレら一年です! タッQ部やります!」
「!?」
逃げられない!
「オイ、玉田……!」
タナカが逃げ腰で訴えるが、玉田の面接受けする活力に溢れハキハキとした大きな声が一瞬だが場を支配した。部員二名と老人はこの流れを逃すまいと、玉田とタナカを部員扱いして話を進める。
「いいところに来たじゃねえか一年! 助かったぜ!」
坊主頭で筋骨隆々の三年生が、見た目に相応しい剛毅な声で玉田を歓迎する。
「これで四人ですよ! さぁ早く女子と! 試合をっ!」
同じく三年生、眼鏡の奥で目を血走らせセイキマツの女性たちを凝視し続ける優男。終始そわそわしており、丁寧語で誤魔化してはいるが、新入部生のことよりも女子と試合できることにしか思考が向けられていないのが容易に推測できる。
なんにせよ部活生存に喜ぶ先輩たち。しかしそこにムチのしなる音が割って入る。
ビシィィィィッ!!
「ちょっと待ちなさいよ!」
「?」
調教鞭を持つ女……セイキマツのミキノが玉田とタナカを冷ややかな目で見やる。
「アナタ、威勢よくタッQヤリマスって言ったけど……。私たちセイキマツのことを知らないのかしら?」
「知ってるよ?」
「セイキマツに刃向ったらどうなるかも……」
「知ってるけど?」
ミキノの脅迫を、淡々と返す玉田。皮肉や嫌味ではなく、精神未熟な子供の如き純粋性故の淡々さであった。
「知っていながら、なぜタッQ部をやりたがるのか理解できないんだけど……」
その幼稚とも形容できる打算なき純粋さに、ミキノがムチを両手で握り怒りを表す。鬼気迫る緊張が漂うが、それでも玉田は臆せず、むしろ更に純粋さを丸出しにした笑顔を作る。
「だってオレ、タッQが好きだから」
シンプル! 一途な想い! その場の誰もが理解していた、そして誰もが忘れていた感情をただ答える! 常人には真似できない明朗快活な回答は、ミキノのみならずセイキマツ集団ほぼ全員を呆れさせる!
「うわキモッ……」「香ばしいな」「きっっっしょ」「おえっぷ」「くさそう」「ん~、キモい」
「え?wお前タッQ好きなの?wwwwタッQ好きなの?wwwww」
「タッQが好きとかwwwwアタマおかしいwwwwwww」
「負けたら泣きながら親呼んできそう」
「ああいうヤツに限って都合良く言い訳して辞めるんだよなぁ」「あーいうのが詐欺師とか性犯罪者になるんだろうな」
「……」
セイキマツの連中が口々に玉田の純粋性を罵る。N国の陰湿な悪意を集約せんばかりに言いたい放題するセイキマツ。だがその中に一人、何一つ発さず、ただ静かに、しかし尋常でない殺意で玉田を視る男が居た……。
「へぇ、タッQが好きなの……だったらなおさら、こんな所じゃなくてセイキマツに来るべきじゃない?」
配下が一しきり悪口を言い終えたタイミングで、ボンデージ女が指を鳴らす。するとどこからともなく派手な恰好をした美女たちが出現! 玉田を取り囲む!
「タッQ、お好きなんですかぁ?」
「だったら世紀末孤高高校に転入しませんかぁ?」
「最高の設備と洗練されたトレーニングで一週間以内に全国レベルになれますよぉ♥」
「十八歳未満には過激なサービスも充実してまぁす♥」
「いやオレ、アンタらキライだから。姉ちゃん以外の女にも興味ないし」
異常な露出度と密着度で誘惑する美女たち。だがしかし、財力と性で買収しようとするセイキマツを、玉田は顔色一つ変えず真顔で突き返す。
「好きなタッQを、わざわざキライなオバサンと一緒にやりたくないんだけど」
あっさりと、あまりにもあっさりと断る玉田。真顔っぷりを見たミキノは、ヒクヒクと口端を吊り上げる。
「い……言ってくれるじゃない……! せっかく搦め手で手籠めにしてあげようと思ってたのに……。そんなに死にたいのなら、お望み通り殺してあげるわ!」
かくして! 玉田たちの入部によって部活生存が決定し! 同時に最悪集団・セイキマツとの試合も決定してしまった!
◆
「ありがとう! これで女子と試合……あ・いや、部活生存!」
「助かったぜ! けど本当によかったのか?」
「はい! オレ、キライなヤツと一緒にタッQするなんてイヤなんで!」
「よく言った!」
「ボクの目の前で女子に誘われるとか……断ってなかったらキレるところ、あ・いや、買収とか許せないよねアイツら」
三年二人が玉田を激励する中、タナカが小さく呟く。
「あの、いや、自分は……。何でおれまで……」
しかし、怯えた小声は先輩たちには届かない。代わりに監督と思われる老人が彼の目の前で土下座する。
「すまん、この通りじゃ。一時でいい、どうかこの部を救ってくれんか……!」
「その、自分は、」
逃げられない!
◆
試合と言うことで、体操服に着替えながら簡単な挨拶を済ませる。
「ちなみにお前ら、タッQ歴はどんくれえだ?」
筋肉質の坊主頭、副部長の仙道頑真<センドウガンマ>がラケットを取り出しながら訪ねる。
「自分は、中学から……」
青ざめたタナカの自信無さげな答えに、仙道がとりあえず「よし」と安心する。
「オレは生まれた時からずっと!」
「それはスゴいねえ、ボクらより長いじゃないか」
相槌を打ちながら、眼鏡のブリッジを持ち上げるフリをしてセイキマツの女子を凝視するのは部長の東堂平助<トウドウヘイスケ>。
「部長としては期待してるよ」
「タッQ歴じゃ俺らよか先輩じゃねえか。よろしくなタマァ!」
「玉田です!」
「スマン噛んだ!」
試合直前になり盛り上がる三名。死んだように青ざめるタナカを励まそうと、髭を蓄えた老人――監督の徳<トク>が肩を叩く。
「ちなみにこいつら、二年連続で県大会八位になっとるからな」
「そ、そうなんスか……!」
県大会個人戦八位という強豪然とした戦歴を聞き、僅かに安堵するタナカ。顔面が青色から黄緑色になったところで、遂にセイキマツの選手たちが一人ずつ台の前に立つ。
「誰でもいいぜ。かかってこいよ」
挑発するのはセイキマツの女子選手。女子にしては高い身長と陰湿な性格から、やたらと威圧的な態度だ。
「舐めやがって!」
タッQ団体戦は本来、各チームが対戦順『オーダー』をあらかじめ決定し、その順をぶつけるように試合を行う。「相手を見てから選手を決定する」というハンデを失くすためである。
そのフェアルールを放棄した相手に、すかさず仙道副部長が食って掛かるが、
「待ちたまえぇぇぇぇぇ!!!」
タッQ部とは思えないガタイの良さを誇る坊主頭が拳を鳴らした途端、優男が必死の形相でしがみつく。
「相手は可愛い可愛い女子じゃないか! ココはオレが! いやボクが! 女体を堪能、あ・いや、様子見をだな……」
「なんだよお前、単に女子と闘<ヤ>リてぇだけじゃねえか」
「ああそうだよ!! 何が悪い!! 女子との試合なんて、文字通り千載一遇のチャンスなんだ!! ここはキャプテンのボクに任せてくれたっていいだろう!!」
「あーも、わあったよ行けよ」
「ィよっしゅぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
部長は決して顔が悪いわけではなく、むしろどちらかというと整っている方だが、それにしては女性を見るやテンションが急上昇するらしい。試合が開始され、玉田とは違う意味で興奮している。
「とっとと決めろやカス」
「ハァァ……女子と試合、女子と試合……揺れる、揺れるぞチチシリフトモモ、あ・いや、闘争心!!」
相手の悪態にもお構いなしに発情する東堂部長。仕方なく譲歩した仙道副部長が二番手の台につく。
「ワリぃ、こっちはこの順番で」
「別に構いませんよぉ(ワラ」
仙道の相手は、女子とも男子ともつかない微妙な体躯、やたらと不気味な頭部。東堂の相手とは対照的な「陽気な嫌味」を放つ気味の悪い選手であった。
「順番なんて関係なく、貴方がたは負けるんですからぁww」
「んだとてめぇ……!」
目を閉じたまま愉快に挑発する相手選手。仮にも手間取らせたことに対する詫びを入れただけに、ふざけた態度を取られ仙道は再び怒りを露わにする。
◆
「よろしくおねがいしまーす」
「……」
「あらあら、理糸エイジと当たっちゃうなんて、あのコも運が無いわねえ。ナマイキ働いた罰だわ、フフッ」
三番手、玉田の相手は理糸エイジと呼ばれた物静かな少年。玉田がタッQ愛宣言をした際、セイキマツ連中の中で唯一口を閉ざしていた男だ。
悪態こそつかないが、物言わぬ鋭い眼から伝わるのは――無尽蔵の憎悪と言ってもいい、刺すような敵意!
そして玉田は確信する!
(こいつ……強え!)
◆
「女子と試合女子と試合女子と試合女子と試合女子と試合! 女子と試合女子と試合女子と試合女子と試合女子と試合!」
目が飛び出んばかりに女子選手を凝視し、早口で願望を唱える東堂部長。感情を隠さない言葉に、見ているタナカも緊張感を忘れそうになる、その瞬間。
「フフ……強気女子……いいよお……ああいうのをズタズタに……あ・いや……」
「はあっ!!」
ズパパァァァン!!
いつの間にか浮き上げられていたボールが相手女子の手元にまで落下した途端、高速で台の角から角へと突き進んだ。スピード重視のサーブが綺麗な線を描く。
「ああっ部長ぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
鉄球を思わせる剛速球にタナカが叫んだ。だが部長は顔色一つ変えない。轟鉄球と激突するかに見えたその時――ぶら下がっていた部長の右手が消えた。と思うや否や、
「ズッタズッタにしたいねぇっ!!」
ギャッ!! ギィィィィィィィィィィィィィィ!!
チェーンソーを思わせる金属質な摩擦音が部室に轟く。部長はいつの間にかラケットを振り終えた姿勢となり、消えていた右手は先程よりもやや少し高い位置に戻ってきていた。
どうやらサーブに対し、眼にも止まらぬ速度でカット打法でスピンをかけたようだ。高速回転するボールが金切り声のような音を放ったと分かった時には、既に返球が敵コート上でバウンドを始めていた。
ドギュォァァァァァァァァァァッッ!!
スピンがかけられたボールは女子にぶつかるギリギリ手前で上昇した。スピンによって生まれた風圧で得点版が捲られ、東堂部長に一点が入る――そしてそれも束の間、新たな衝撃が彼女を襲う。
ビッ! ビリッ! ビリビリビリビリィィッ!!
カットスピン……文字通り斬り裂く力を持った回転球が、女性の肌を傷付けずに体操着の繊維を引き裂いたのだ。弾の軌跡に沿ってやや斜めの角度に裂かれた衣服は本来の役目を失い、パックリ割られた裂け目から中の下着が露わになってしまう。
「ふほぉぉっ!! これだよこれぇ!! やっぱり女子との試合は最高だねぇぇぇ!!」
対戦相手をあられもない姿にして歓喜する東堂部長。凄まじいスピンに感心する玉田。呆れる仙道副部長。安堵するタナカ。
スポーツマンシップというのは何処へ行ったのか、もはやどちらが悪役か分からない形相を浮かべ、部長がテンションを昂ぶらせる!
「見ていたまえ一年! ボクのリョナ、あ・いや、対女性用特化スキルを……」
ガドォォォォン!!
――昂ぶったテンションが、一瞬で冷めた。
それは、鉄球が落ちる音。それは、鉄骨の降り注ぐ轟音。だがしかし、確かに、その音は相手女子の衣服が床へ落下した際のものだ。
次いで、建造物の解体を想像させる音が響く。やはり音の出どころは、相手女子……肩をぐるぐると回す仕草と共に、鉄骨音が弾け飛ぶ。
バァキィ!! ゴォキィ!!
「ありがとよ……これで本気が出せる」
不敵に笑い、再びサーブに構える鉄の女! その身には、気のせいか、目の錯覚か――オーラのようなものが漂っていた! そして!
ザギョオォォン!!
「ぎゃあああああ――――――っ!!」
今度こそ、正に眼にも止まらぬ速度でサーブが放たれた! 弾道軌跡さえ見えぬそれは、傷痕――東堂を袈裟斬りし、激しく出血させることではじめて玉田たちの知覚の内に入る!
「東堂!」
「「ぶ、部長ぉぉ――――――――っ!!」」
「あ、あれは……!」
これには仙道副部長も狼狽え、一年は声を合わせて叫んでしまう。徳監督だけは平静を保とうと慌てる素振りを見せないが、部員の大量出血、漂う謎の気、そして捲り上げられた五枚の得点版に滝汗を隠せない!
「ぬうう……! しかも……い、一度に……五点……じゃと……?!」
そう! 相手サーブの威力に押し上げられ、得点版は複数枚捲られていた! その数は五! よって今! 点数は『1-5』となる!!
「あらあら、たかがサーブすら受け切れないなんて……県大会ベスト8が聞いて呆れるわね」
「っ! てめぇら……」
「次は貴方の番ですよぉ(ワラ」
衝撃を受ける仙道副部長をからかうように、対戦相手が半笑いの薄気味悪い声でピンキューを渡してくる。
「サーブ権はお譲りしますw その代りこの試合、三点マッチでお願いしますよぉ(ワラ」
無駄に色気のある指使いで、自身の不細工な目を押さえながら。
「ワタクシ、目が乾きやすいものでしてww 人呼んで、瞬眼<ドライアイ>のキタノ……ともかく、長期戦は辛いんですよw これぐらいの変則ルール、別に構いませんよねぇ?(ワラ」
「……ああ、いいぜ! 速攻で終わらしてやる!」
敵先鋒の、圧倒的な実力に心が押されていた仙道副部長。挑発的な態度をされて頭に血が上りそうになる。
しかし、相手の発した瞬眼<ドライアイ>という言葉を聞き逃さなかった! それはつまり! タッQにおいて重要な「視る力」が弱いということ!
無論ブラフの可能性もある! しかし三点マッチならば、先に大技を決め、初手三点を取ればいいだけの話!
怒りを昂ぶらせるのではなく静かに練り上げ、サーブを構え――!
「あ、タイムですぅー(ワラ」
集中力が最高潮に達した瞬間を狙い定めたように、相手の不快声が邪魔をする。
「目が乾いたんで、目薬差しますねww」
こちらの了解を待たず、点眼する敵選手。やはりわざとなのか、点眼し終えるまで間抜けに口を開け「あーー」と言い続けている。点眼すると、眼を押さえ、じっっっ……くりと眼球を休ませ、ようやく構えに戻る。
「はい、お待たせ致しましたぁ(ワラ まあ、眼なんて閉じてても、貴方がたには勝てますけどwww」
閉眼したまま煽りを続ける敵に、仙道副部長の怒りと集中力が研ぎ澄まされる。そして仙道副部長の右手が一瞬消えた、と思った時には強烈なサーブが撃ち込まれている。速度が控え目なサーブ……に見えたが、コートに触れると急激に球速を増して相手へと襲いかかる。
「速くなった!!」
「すッ、凄いドライブだ!! これが県大会八位のサーブ!!」
「仙道は生粋のドライブマンじゃ!! あのサーブは言わば直線的変化球!! 初見で対処は……」
ズパシュォォオオン!! ド!! ゴオォォォッ!!
強烈な前方回転球が激突するかに見えた時には、既に相手はラケットを振り終えていた。凄まじいドライブボールをものともせず、弾丸、いやそれ以上の威力が仙道副部長に打ち込まれ、アクション映画のように派手に血潮を噴いて壁に叩きつけられる。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ほwらwねwwwwww ギャハハハハハハハハ!!www ダっっセぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
閉眼のままカウンターを放った『瞬眼』。一点を取ったことが、仙道副部長を痛めつけたことがそんなに嬉しいのか、大きく開口し狂ったように哄笑する。
「せ、先輩ぃぃぃぃ!!」
「そんな……! あいつもオーラみたいなのが……!!」
――余所見をするな……
未経験の事態に戸惑う玉田が、底冷えする声に体温を奪われる。
「ゴミが……」
玉田の相手――セイキマツ三番手・理糸エイジが、その憎悪を玉田に向けて解放した。
途端、部室内の空気が変わる。セイキマツの煩い外野が、笑い続ける敵選手すら沈黙する、膨大な青黒い気。
玉田の手が震える。セイキマツの先鋒、次鋒に尋常ならざる力を見ていた玉田だが――今、目の前に立ち、ただ気を放つだけの男に恐怖していた。
「っ……! ひ、人を……! 簡単に、ゴミとか言うなよ……!」
ラケットを強く握りしめ、玉田は自分を鼓舞する。
「やってやるよぉ! やってやるぅ!」
もはや殺気とも言うべきそれに、玉田が勇気と気合いで立ち向かう!
視界に据える理糸エイジの周囲がぐらりと揺れる。サーブの際の、殺気の動きを視覚に捉えたのだ。
音速を遥かに超えた敵サーブ……それを玉田は驚異の動体視力、そして気合いと根性で撃ち返す!
ド!! ゴッオォッ!!
カウンターにより更に加速したボール。音よりも早く敵コートを射抜き、理糸エイジをも通り過ぎる。
「っしゃぁ!」
そう言う玉田の右腕は――燃えていた。否、燃やされていた。更に正確に言えば、爆発させられていた。
誰もが。そう、玉田自身も、得点を確信した。理糸エイジの脇を駆け抜けるはずの閃光――それはいつの間にか断たれていた。
その動きは全く見えなかった。超音速すら逃がさない玉田の眼に収まることなく、理糸エイジからの返球が、ボールに宿る炎が、玉田の右腕を焼き尽くす。
「っがぁっ! うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「……やはりゴミだな」
それは敵意の具現か。憎悪の顕現か。凍て付く殺気を反転させたが如く爆炎が燃え盛る。衝撃に空気の焼き弾ける音が裂き響き、部室のガラス窓が罅入る。
「ひ、ひぃぃっ!」
「こやつら……やはり『王羅』を……!」
傍観者と化したタナカと徳監督には、もはやどうすることもできない。圧倒的な力を前にして、身体が動かないのだ。
「玉田!」
「タマァ!」
その緊張を破ったのが先輩二人であった。二人は寧ろ、今の爆発で目を覚まし、重傷を負った身体でなんとか立ち上がる。
「ぐ……この脱衣お姉さん、強いねえ」
「わかってたこったろ……っ」
「ボクが喰らったのが斬撃で……」
「俺が銃撃……玉田が……炎……!? どうなってやがるコイツらぁ?!」
得体の知れないものをなんとか分析しようとして、それでも理解できない二人。その様を見たミキノは軽快に鞭を鳴らす。
「その様だと、本当に何も知らないみたいね。だからといって手加減する気はないけど♪」
鞭音を聞いたセイキマツ選手が、東堂部長と仙道副部長に更なるダメージを与えんとサーブを繰り出す。
「王羅も知らねえ奴がアタイらに勝てるわけないんだよ! くたばっちまいなぁ!」
「そうですねえ(ワラ まだ目が潤ってる内に、決着、付けちゃいますねえwww」
ズギャォアア!! ドギュォアア!!
「何でボクが……美人幹部がいるセイキマツに降らないか……」
ふらりと立つ東堂部長。焼き苦しむ玉田に、怯えるタナカに聞かせるように、その意思を語る。
「それはボクが……」
血塗れのシェイクラケットを振り上げ――その瞬間、玉田たちには刀を抜刀する侍の姿を東堂部長に重ね視た!
大太刀振り下ろすが如く、超音速のカット打法が巨大な断裂衝撃を発生させる!
「サディストだからだ!!」
――メガスライス!!!
「ああ! 納得できねえことには屈する訳にいかねえな!」
両手を広げ、掌を上に向かせて静かに構える仙堂副部長の姿。巌の如き佇まいでありながら、後光さえ錯覚しそうになる風格はまるで菩薩を思わせるようだ。
仙堂副部長の広がっていた両腕の肘から先が消える。ボールが近付く寸前に、小さい破裂音が聞こえた。両手を合わせて合掌の動作に入ったのだ。次の瞬間、仙道副部長の分厚い背中から翼のように何重何十もの腕が飛び出してきた。
――千手観音!!!
「あれは……二人の必殺技!」
「これなら!」
ドギャオアァオォォォォォォォ!!!
「「ぐっはぁぁぁぁぁぁぁぁ――――っ!!!」」
「「せ、先ぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」」
セイキマツの連中が使う不可思議な力――それに似たものを感じさせる先輩二人の必殺技。しかしそれは所詮、似て非なるものなのか、これが自力の差なのか。全力を出して尚、完膚なきまでに撃ち破られた二人は、壁に叩き付けられて今度こそ気を失い、強い痙攣と大量喀血の後に動かなくなってしまう。
今の一撃で得点版も捲られ、勝敗は決した。しかし、それでセイキマツの攻撃が終わるというわけではなかった。
「失神してんじゃねえぞオラァ!」
ズドォォォッ!!
「うげぇぇぇぇっ!!」
「ワタクシ、近視なもので(ワラ 今何点取ってるかも分かんないんで、サーブ、勝手に撃っちゃいますねぇwww」
ドギャァァッ!!
「ぎあぁぁぁぁっ!!」
点数がマッチポイントを超え、対戦相手の体力も限界を迎えている。誰が見ても勝利が確定した状態で、セイキマツの二選手は一切の躊躇無く攻撃を続けたのだ。
気を失った二人を撃鉄と斬撃が無理矢理に起こす。意識を失うことすらできず、二人は嬲り殺しにされるのを待つのみ。
「や、やめろ……」
「おい、お前ら!」
見るに堪えかねた徳監督と玉田だが、それぞれ恐怖と動揺、ダメージによる身体能力低下により止めに入ることができない。
一方、セイキマツの選手は実に手慣れていた。動けない相手に、どうすれば更なる苦痛を与えられるか。どうすれば気を失わせずに攻撃を続けられるか。相手の生を徹底的に嬲る暴虐に、心の底から愉しみながら、確実に命を削っていく。
先輩二人は自分の意思で動くことはできない。
その両眼は開いていない。その右手は、ラケットを握ることすらできない。
しかし意識はあるため、腹部を攻撃されれば自然と呻き声が出る。斬られれば苦痛に顔が歪み、撃たれれば内臓が損傷し血を吐く。そしてその様をセイキマツが嘲笑う。
「ねえ何で降参せんの?wwww 何で降参せんの?wwwwwwwww」
「バカじゃないんあいつらwwwwwwwww ケガが嫌なら降参したええやんwwwwwwwwww」
「転がったまま呻きよるwwwww 『ぎゃぁ~~』www 『わああ~~』wwwwww 『やめろぉ~~~~』wwwwwwwwwwwwww」
このためだけに存在するのか、セイキマツの外野連中がこぞって茶化し、罵倒を繰り返す。
「こいつら……タッQしたいとか、勝ちたいとかじゃない……! ただ人を苦しめるためにタッQしてる……!」
もはや集団暴行の様相を呈した行為に、玉田は拳を握りしめる。
「タッQを……!」
邪な意思のためにタッQを利用しているだけ――セイキマツのしていることは、玉田の目にはそう映った。
「タッQを何だと思ってるんだ!!」
そしてそれは試合を、タッQを冒涜する行為に他ならない。タッQ愛から生まれた理不尽への怒りが、玉田を再び立ち上がらせる。
(負けたくない! こんなヤツらに!)
「……死ね」
満身創痍で立つ玉田に、対戦相手・理糸エイジがサーブを放つ。空間を揺るがす炎の殺気弾が真っ直ぐ玉田へと向かう!
(負けられないんだ!!)
「うおおおおおっ!!! おあああああああああああっ!!!」
その魂に有り余るタッQ愛を燃やし、身を振り絞る咆哮がセイキマツの罵倒音をも飲み干した。その時――
ボ!! ボ!! ゴォォォォアアアアアアアアッッ!!!
その時――異常なタッQ愛に呼応するように、玉田の身体が、ラケットが炎を纏う!
「――ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! ああああぁぁぁぁぁ――――――――――ッッ!!!」
ド!!! ゴォギュュァァァァアアアアアアアアア!!!
燃え盛るボールが何かに激突した。更に、その何かは火炎弾を跳ね返す。ドライブカウンターにより球速をまたも増した火の玉はまっすぐに飛閃し、理糸エイジの頬を掠めていく。
ビシィィィッ!!! ヴァキャァァァアンッ!!!
今後こそ理糸エイジを通り過ぎたカウンター弾。そのあまりの威力にピンキューは壁に着弾しコンクリートにヒビを入れた直後、木端微塵に爆裂した。纏った火炎で黒く焦げたボールが放つ独特の異臭――それが漂う中、理糸は左頬から血を流しながら、自分の球を撃ち返した相手――ラケットを振り切った玉田を見据える。
しゅゅぅぅぅぅぅぅぅ…………!
ペンホルダーの赤いラバーにて、ボールと炎との摩擦により発した熱が音を上げる。もうもうと沸く燻りを、ラケットを持つ者の眼……玉田から発せられる気――闘気を通り越した殺気――が掻き消していく。紅の瞳で刃物のような眼光を飛ばす玉田が、ハッと我に帰る。
「……っしゃ! 一点! 一点獲ったぞぉぉぉぉぉ!」
コトツネタッQ部部員として初の得点に、無邪気に喜ぶ玉田。それとは裏腹に、誰も予想しえなかったこの一点に、またも部室内の空気が変わる。
「?!」
「た、玉田もなんか出したぞ!」
「まさか、あんなガキが……!」
打って変わって静まり返るセイキマツ軍。団体戦としてはもはや勝利しており、たった一点を獲られただけだが、その一点こそ信じられないようだ。
――そんな……あの理糸が……
――理糸さんから一点獲るなんて……
ざわつく外野連中。たった一点だが、この試合に限っては希望の火が灯った――かに見えた。
「……フン、丁度いいわ。理糸エイジ、その子を確保しなさい!」
「断る」
理糸が身に纏うもの……怖気のする紅だったそれが、暗い藍の色へと変貌する。
ミキノからの謎の要求を拒否し、理糸の左手がラケットを突きつけてくる。
「貴様……タッQは好きか?」
「おう! この世で一番好きだ!」
唐突な問いに、玉田は迷うことなく返答する。体の内に奔る激しい苦痛を堪え、撃ち返した達成感、悦びに僅かながらも笑顔を見せる。
「……そうか……」
対する理糸エイジの顔も、笑顔であった。
――殺す!!
その一言と共に藍色のオーラが吹き荒れる。戮欲のまま獲物を蹂躙する野獣そのものの笑みを浮かべ、殺気を先に見せた紅のそれより遥かに増大させていく。
そして玉田は気付く。理糸が持つ、未だ片鱗さえ見せぬ底知れぬ力を! 理糸と自分の力量差を!
「思い上がるなよゴミが……貴様のタッQなど殺してくれる!」
灯った希望が霞みそうになる。セイキマツ軍が使っていた「力」に少しでも近づいたからこそ知る、途方もない絶壁の如きレベルの違い!
絶望的な実力差! しかし同時に! 玉田は心の底からワクワクしていた!
――ラスト――!
サーブに構える理糸の、終焉の言葉。それが意味する「終」は試合のことか、それとも――
殺気が高まった瞬間、玉田は全感覚を覆う藍の気――自分を蹴散らす氷山の潮流を視た!
◆
「そこまでよ理糸エイジ!」
呑み込まれる……その寸でに、敵の言葉に救われた。ミキノの言葉にサーブを止める理糸。もはや殺気を抑えられる段階ではなく、邪魔者に振り向く眼は同士であろうと殺さんばかりのものであったが――
「ご両親が見つかったわ。試合は中止よ」
「………………っ!」
自チーム監督の言葉に、急激にテンションを下げる理糸。渋々ではあるが、自ら構えを解き、背を向ける。完全に試合を放棄したのだ。
「お、おい! ちょっと待てよ!」
これに納得いかないのは誰より玉田であった。抗えない力の差。決定的な死の予感。だがしかし、その寸先にこそ、求める理想のタッQ感があったというのに!
「逃げるのかよ! 理糸エイジぃぃぃぃぃぃぃ!!」
恐怖とも歓喜ともつかない激情余韻に戦慄きながら相手の名を叫ぶ。だが闘気の萎んだ者にその熱気は届かない。
「今日の所は、このくらいにしといてあげるわぁ」
代わりに返ってくる、ミキノの冷めた声。そしてそれが終わるとほぼ同じくして、仙道副部長が受けた攻撃に酷似した鉄撃音、そして着弾音を、玉田卓は最も近くで聞くことになる。
「……?」
胸部から伝わる違和感。生徒たちを盾に身体を隠していたミキノ。彼女は銃と呼ばれる兵器をこちらに向けている。
そして自身の胸には鈍痛と、迸る鮮血。
拳銃で撃ち抜かれた――その事実に気付くも遅し、玉田は意識を手放し倒れ伏す。
「野郎!!」
敗北と卑怯な不意打ちに対する仙道副部長の怒声は空しく霧散する。こちらが反応する間を置かずして、セイキマツ軍の姿はそこにはなかったのだ。
「……消えた……」
次!!!回!!!予!!!告!!!
圧倒的かつ超常的な力を見せ、玉田たちを抹殺しようとした世紀末孤高高校!!!
奴らの目的は一体何なのか?!! そして『王羅』とは一体?!!
今、人間の基礎力が試される!!!
次回!!! 殺人タッQ第二話!!!
『設定解説!!! 修羅の如き王の力!!!』
余の中、基礎だ!!!