不眠気味のヒナに提案されたのは、戦闘後に“信頼できる人”とハグすること。
その相手に選ばれたアコは大混乱しつつも協力を決意する。

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第1話

 不眠症。

 どんな人でも大なり小なり睡眠に関する悩みは必ずある物である。ただし、睡眠や休憩が好きな人にとってどんなに小さな睡眠の悩みでも致命傷になりかねない。毎日の様に忙しい人ならば尚のことである。

 

「この間、シャーレに手伝いに行ったときに先生と話していたんだけれど……」

「え……は、はい。なんでしょうか?」

 

 ゲヘナ学園の風気委員会に割り当てられた部屋にて風紀委員長である空崎ヒナと行政官である天雨アコが放課後の平和で貴重な時間を使って書類の山を片付けていた。アコが記憶している限り、ヒナがこうした作業中に世間話をする事はなかったので嬉しい反面、その話題がシャーレの先生だという事に若干の苛立ちを覚えていた。アコは怒りを原動力に変えながら書類をひとつでも多く片付けながらヒナの声に耳を傾ける。

 

「私、少し前から寝付きがわるかったのを先生に相談していたの」

「そ、そうだったんですか!?」

 

 アコは驚愕のあまりサインを書き損じる所であったが気合いで軌道修正をして事なきを得る。あの完璧なヒナ委員長が軽い不眠症のような症状に悩まされているなんて……それに気がつけなかった自分が許しがたいし、その相談を真っ先に受けることが出来る先生という存在にアコは嫉妬していた。いや、もう心の中で呪っていた。今、自分たちがやっている書類と同じぐらいの量の仕事が先生の前に訪れますようにと。

 

「そしたら先生が色々調べてくれたみたいで……眠れないのは毎日の様にゲヘナの生徒に銃を向ける戦闘をしているから精神的にも肉体的にも昂ぶってしまっているのが原因じゃないかって」

「なるほど……それは確かにそうですね」

 

 如何に毎日の様に戦闘をして慣れてしまっているからと行ってアドレナリンなどの興奮物質が分泌されないとは限らない。今後はカフェインのあるコーヒーではなく、少しでも落ち着けるハーブティーの入れ方を学ぼうとアコは心に決めながら書類にサインを続ける。自分が出来ることでアコはヒナ委員長の力になりたいのだ。

 

「それで先生が調べてくれた落ち着く方法をしばらく試してみたいの。アコ、協力してくれる?」

「……えぇ、もちろんです。ヒナ委員長の力になれるのであれば」

 

 ヒナ委員長の悩みがひとつでも解消されるのであれば喜んで協力するが、先生の案だというのがアコにとってはとてももやっとしてしまう。これで効果があったらヒナ委員長はもっともっと先生を好きになってしまうのではないか? 今でももう十分デレデレなのに……これ以上傾倒されたら先生に対しての根も葉もない悪い噂を流しかねない。生徒に首輪をつけてお散歩する趣味があるとかどうだろうか……実績もある。もしくはできる限りの人を動かしてシャーレの出番をなくして地位を下げるという手も……アコは器用にも手を動かしながら今後について考え始める。

 

「良かったわ……先生は戦闘が終わった後のハグが効くんじゃないかって言ってたわ」

「なるほどハグ……ハグ!? ハグってあのハグですよね?」

「ハグに他の意味があるとは思えないけど……あのハグよ?」

 

 ハグという言葉を頭の中で色んな文字で変換してみたが最終的に落ち着いたのは『抱きしめる』という意味である。なんて物をオススメしてくれているのだ。よりにも寄ってハグ!? 色んな生徒に手を出してきているという噂だけはあったが、このような手段で手を出していたのかとアコは色々な物に裏切られた気分になる。

 更に更に戦闘後にハグを行うということはヒナ委員長が先生にハグをされにいくのをサポートしろと言うことなのだろうか? ヒナ委員長を先生の元に送り出せと!? アコの中で激しいせめぎ合いが起こる。それでも顔には出さないように表情筋を殺していたので発散できなかったエネルギーはペンに向かい、サインを書いていた書類にじわりと穴を開けていく。精神的なエネルギーはおそらく先生の元へ呪いとなって降り注いでいるだろう。

 

「えぇ、ハグ。それじゃあ、明日から私の戦闘終わりに……1分間、ハグをしてもらえる?」

「……????? え、私がですか?」

「えぇ、そうよ??」

 

 アコの反応にヒナはきょとんっとしていた。アコもヒナの言葉と反応にきょとんっとしていた。

 そんな事であれば別に許可を取らずともアコはヒナに対してであればいつ何時であろうと、1分間と言わず鯖折りされるぐらい抱きしめられる覚悟があった。言葉では伝えていないが、態度では示していたつもりである。

 

「えっと、それは何故そうなったんですか?」

「そうね……先生曰く、ハグの相手は誰でも良いというわけじゃないと言う話だったわ。最初の条件は私が信頼している人である事。私だと風紀委員のみんなが真っ先に思い浮かんだわ」

 

 アコの胸に終幕:デストロイヤーで貫かれたような衝撃が走る。信頼されていると言うことはわかりきっていたが、ヒナの口から直接その信頼を口にされると威力が違う。どうしてボイスレコーダーをオンにしなかったのだろうかと過去の自分をぶん殴りたくなってくる。

 

「肌と肌の接触がより強い効果を生むということだったから……風紀委員で一番の薄着そうなのはアコだったのだけれど……アコは他に薄着の人に心当たりは――」

「いえ、私が一番薄着です!! 何ならもっと薄くなれますよ! 0.01mmとかどうですか委員長!」

「そこまでする必要は無いわよ?」

 

 まさかこんな所でこの薄着が役に立つとは思わなかった。おっぱいに変な日焼け跡が付かないように毎日毎日アホみたいな量の日焼け止めを塗り込んできたのは今日の日のためにあったのだとアコは理解した。そして、この幸せな結末の立役者である先生に心の底から全力で感謝した。

 明日からと言わず今日からでも良いぐらいだが、アコにも準備がある。より一層薄着に磨きをかけたり、リラックス出来るハグの仕方を学んだりしたい。そして、出来れば換えのパンツもカバンに入れておきたい。

 

「ハグをした後の休憩の仮眠で効果があったら……申し訳ないのだけれど夜にもハグをお願いするかもしれないわ。ハグの効果は10分しか持たないみたいだから」

「わかりました。全力で当たらせていただきますね」

 

 もしも、これで効果が出れば……夜にもハグが待っているかもしれない。いや、何ならお互いに薄着の方が良いのであれば一緒にお風呂からのお風呂上がりのハグなんてコースも誘導によっては可能かもしれない。出血多量で死んでしまう可能性があるが、ヒナ委員長の役に立って死ねるのであればむしろ本望である。明日からはレバーとほうれん草の炒め物にチーズをたっぷりと乗せたおかずを毎日たべよう。

 

「負担をかけて悪いわね」

「いえ……さて、私はコーヒーでも淹れてきますね」

 

 アコはコーヒーを入れるついでにモモトークを開いて先生にメッセージを送る。できるだけ完結にしかし、感謝の言葉とこのテンションを的確に表した言葉を探しだした。

 

『ぐっしょぶ!』

『え、なに、こわっ、え、こわっ……どうしたのアコ? アコに手放しで褒められるのすごく怖いんだけど、何をしてるの? 何があったの? ねぇ? ねぇ!』

 

 結果、先生は恐怖と混乱で飲んでいたコーヒーをこぼし、一部の書類を駄目にしてしまっただけではなく、作業に全く身が入らなくなってしまうのであるが、それはまた別お話である。




あとがきという名の語り

お世話になっております。今日はなんとなく気分を変えてブルーアーカイブの二次創作に手を出してみました。

ブルーアーカイブは1.5年とまだまだ新参者ではありますが……二次創作するのにやっている時間は関係ないですしねっ!

少しでも楽しんでいただければ幸いです。

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