FINAL FANTASY Ⅶ Revengers 作:オレンジⅩⅢ
カームを発ったのは朝も早い時間だった。
行き先はジュノン。ザックスの手掛かりも、セフィロスの真意も、まだ何一つ掴めていない。だが立ち止まっていても仕方がない。まずは神羅の情報網に繋がる伝手のある土地を目指す。それが、今の自分達に選べる最も確実な一手だった。
「――で、歩きなのか? ジュノンまで」
町を出て早々、バレットが億劫そうにそう零す。
「いや、途中から歩きにはならない」
短く応じながら、懐から買い求めたばかりの地図を広げる。
「ジュノンへ抜けるにはミスリルマインを通るのが最短だ。だが、その手前に厄介な湿地帯がある」
「厄介って?」
ティファが怪訝そうに問いかけてくる。
「ミドガルズオルムという大蛇が縄張りにしている。生半可な武装ではまず生き残れない相手だ」
淡々と告げれば、バレットが顔をしかめる。
「おいおい、そんなのがいるって分かってて突っ切る気か」
「チョコボを使う。あの大蛇は、チョコボの素早さなら十分に回避できる。徒歩で踏み込むより遥かに安全だ」
「――なるほどな。だからチョコボファームか」
得心したように、バレットが頷いた。
「途中のファームに寄る。まずはそこで足を確保する」
「悪くねぇ計画だ」
草原を進む道中、誰の口数も自然と少なくなっていった。ザックスの安否、ニブルヘイムで語られた真実、そして自分自身の過去。昨夜のカームで多くのものが晒された。互いに、まだその重みを消化しきれていないのだろう。
「ねぇ、ジュノンって、どんな街?」
沈黙を破ったのはエアリスだった。
「軍港都市だ。神羅の軍事拠点の一つで、ウータイとの最前線に位置している。タークス時代、何度か足を運んだことがある。警備は厳重だが、逆に言えば、それだけ情報も集まりやすい」
「相変わらず頼りになるじゃねぇか」
バレットの軽口に、小さく肩をすくめて応じる。
「街の外観だけは立派だがな。中身はまぁ期待するな」
「あんたにそこまで言われると逆に見てみたくなるな」
クラウドが苦笑気味にそう零す。
「私も、ジュノンって初めて! 海が見えるんだよね?」
エアリスが、少しだけ楽しげに、そう問いかけてくる。
「ああ。もっとも、観光を楽しむ余裕があるかは、また別の話だがな」
素っ気なく答えれば、エアリスは「えー、夢が無いなぁ」と頬を膨らませてみせた。
そうこうしているうちに、遠方に木造りの柵に囲まれた施設が見えてくる。あちこちに黄色い羽毛の鳥が放し飼いにされていた。
「あれが、チョコボファームか」
クラウドが目を細めながらそう呟く。
施設に近づけば、日に焼けた牧場主が、こちらへ気づいて手を上げた。
「おや、旅の人達かい。ジュノンへ抜けるならチョコボは必須だよ」
心得ているとばかりに、そう告げてくる。
「六羽、譲ってもらいたい。丈夫な個体を頼めるか」
「ああ、任せておきな。近頃は湿地の大蛇に困ってる旅人が多くてね。運がいいよ、あんたら」
男が慣れた様子で囲いから鳥を選び出していく。
「――やっぱり、あの大蛇のことは有名なんだな」
バレットがそう零す。
「ミドガルズオルムだろう。あれに睨まれたら最後、まず助からない。チョコボの脚があってこそ抜けられる道だ」
牧場主の言葉に内心で頷く。事前に得ていた情報と相違はなかった。
六羽のチョコボを譲り受け、それぞれが鞍にまたがる。
「――こいつに乗るのは久しぶりだな」
慣れた手つきで手綱を握るクラウドの姿に、少しだけ意外の念を覚える。
「田舎育ちなんでな」
視線に気づいたのか、クラウドが少しだけ得意げに答えた。
「じゃあ私も負けてられないね」
ティファも器用に鞍へと跨り、そう笑ってみせる。ニブルヘイム育ちなら無理もないだろう。
「エアリスは大丈夫か?」
心配げにクラウドが問いかける。
「うーん、あんまり慣れてないかも……」
危なっかしく手綱を握るエアリスに、ティファが笑いながら手を貸す。
チョコボファームを後にし、ジュノンへと続く街道を進む。
「あんたの魔法ほんと便利だよなぁ。俺なんてろくにチョコボの手綱も握れてねぇのに」
隣を進むバレットが、危なっかしく揺れる鞍の上から、そう零す。
「体重移動が悪い。もう少し力を抜け」
「言うのは簡単だけどよ……!」
軽口を交わす声に、僅かに場の空気が緩む。カームを発ってから張り詰めていた緊張が、少しずつ解けていくのを感じた。
しばらく進むと、道が次第にぬかるみ始める。水気を含んだ草が、辺り一面を覆っていた。
「ここからが例の湿地帯だ。速度を落とすな。止まれば狙われる」
先頭を進みながらそう告げる。
「――ん?」
不意に、レッドⅩⅢが鼻先を風上へと向けた。
「どうした」
「血の臭いがする。それもかなり濃いな」
低く、そう告げられた瞬間、周囲の空気が僅かに張り詰める。
(――来るか)
義手を通じ、周辺の魔晄反応を素早く走査する。反応の大きさに、内心で僅かに眉を寄せる。これまで遭遇してきた敵とは、明らかに規模が違った。
泥水が大きく跳ねる。
次の瞬間、視界いっぱいに緑色の巨躯が鎌首をもたげた。
「――ッ、来た!」
全長は優に十メートルを超える。鱗に覆われた体表が鈍い光沢を放っていた。
「速度を落とすな、突っ切るぞ!」
叫ぶと同時に義手にグリモアを繋ぐ。
大蛇が大きく口を開き、こちらへと突進してくる。
「演算開始――擬似バリア!」
咄嗟に展開した障壁が、牙の一撃を辛うじて防ぐ。
「クソでけぇな、おい!」
バレットの銃撃が大蛇の胴体へと撃ち込まれる。だが、分厚い鱗に阻まれ、大した傷にはならない。
「弱点を探る。少し待て」
みやぶるマテリアへと魔力を通し、大蛇の構造を素早く解析する。仮想モニターに次々と数値が浮かび上がった。
「――弱点は氷だ。急所は頭部の付け根!」
「了解!」
クラウドがチョコボを駆り、大蛇の頭上へと回り込む。ティファも間合いを詰め、拳を構えた。
「エアリス、援護を頼む!」
「うん、任せて!」
エアリスの光弾が、精密に大蛇の眼球へと撃ち込まれる。怯んだ隙を逃さず、レッドⅩⅢが素早く懐へと潜り込んだ。
「今だ! 演算開始――擬似ブリザラ!」
グリモアへ限界近くまで魔力を注ぎ込む。放たれた冷気の塊が大蛇の頭部を直撃した。
「グァァァ……!」
苦悶の咆哮とともに、大蛇の巨躯が大きくよろめく。凍りついた鱗の一部が白く濁っていた。
「クラウド、決めろ!」
叫んだ声に、クラウドが頷く。
チョコボの背から身体を大きく浮かせた。
バスターソードが一閃する。
重い金属音とともに、凍りついた大蛇の巨躯が真っ二つに断ち割られていった。
断末魔の叫びを残し、泥水を撥ね上げながら、その巨体が崩れ落ちる。
「――片付いたか」
肩で息をしながら周囲を確認する。
「相変わらず無茶苦茶な一撃だな」
呆れ混じりにそう零せば、クラウドは剣を下ろしながら小さく苦笑した。
「褒め言葉として受け取っておく」
血の臭いに気づいたレッドⅩⅢの働きが無ければ、不意打ちを受けていたかもしれない。改めて周囲の警戒を怠らないよう、自分自身に言い聞かせる。
湿地帯を抜けた頃には、全員の装束が泥だらけになっていた。
「にしても、あの図体であんな速さとはな」
バレットがぼやくように零す。
「チョコボが無ければ、まともに逃げることすら出来なかっただろうな」
そう応じながら、荒れた岩肌の道を先へと進む。
しばらく進むと荒れた岩肌の坑道――ミスリルマインの入り口が見えてくる。
「この先を抜ければジュノンまでは、そう遠くない」
先頭を進みながらそう告げる。
坑道の中は薄暗く、埃っぽかった。松明の燃える音だけが静かに反響している。
「――随分と静かだな」
バレットが周囲を警戒しながらそう呟いた、その時だった。
「――待っていたぞ」
暗闇の奥から抑揚のない声が響く。
「――ッ!」
反射的に、義手へと魔力を込める。
姿を現したのは見覚えのある大柄な男だった。
「ルード……」
低くその名を呼ぶ。
かつての同僚は、いつも通りの無言のまま拳を構えていた。
「久しぶりだな。一人か?」
「……いや」
ルードの視線が、僅かに坑道の奥へと向く。
「――先輩は、こちらです!」
張りのある声とともに若い女が姿を現す。
見覚えのない顔だった。だが纏うスーツは間違いなくタークスのものだった。
「新人か」
短くそう評する。
「神羅カンパニータークス所属、イリーナです!」
胸を張りそう名乗った少女の目には隠しきれない敵意が宿っていた。
「――で、その新人が何の用だ」
淡々とそう問いかける。
「ルードだけならまだ話は分かる。だがわざわざ新人まで連れてくるとは思わなかったな」
「私が志願したんです」
イリーナが、一歩前へと踏み出す。
答えるより早く、ルードの巨体が地を蹴った。
「――ッ!」
太い拳が真横から迫る。咄嗟に身を捻り、紙一重で躱す。
「クラウド、ティファ! 援護に回れ!」
叫ぶと同時に、クラウドが横合いから斬りかかる。バスターソードの刃をルードは腕甲で受け流した。
「ちっ……硬いな!」
「速さで押すよ!」
ティファの拳が続けざまに叩き込まれる。だが、ルードは無駄のない動きで急所を守り続けた。
「――散れ!」
バレットの銃撃が割り込む。ルードは低く姿勢を落とし、着弾の隙間を縫って距離を詰めてきた。
「エアリス、下がって!」
「うん!」
エアリスが後方へ跳ぶと同時に、レッドⅩⅢが横から牙を閃かせる。ルードは身を捻り、それを紙一重で躱した。
「あなたが、ジュリアス・キングスレイ……」
乱戦の只中でイリーナの声が響く。
「タークスを裏切り、プレジデントを手にかけた大罪人」
「――評判は悪くないようで何よりだ」
肩をすくめながらも、クラウド達の戦況に意識の一部を割く。ルードの動きは、以前と変わらず堅い。数の利があるとはいえ、長引かせるべき相手ではなかった。
「悪びれもしないんですね」
イリーナの拳が微かに震えていた。
「私、あなたのこと聞いてました。優秀で、冷酷で、誰にも懐を見せない人だって」
「――何が言いたい」
「先輩達は、みんなあなたを認めてました。腕は確かだし、任務もそつなくこなす。多少掴みどころが無くても、信頼できる同僚だって」
拳を握りしめたまま、イリーナが続ける。
「なのに、その裏でずっと、私達を騙してたんですよね。
……リーシャさんの、仇」
その一言に思考が一瞬止まる。
「――なんだと?」
「知らないとは言わせません」
イリーナの声が震えを帯びる。
「私、リーシャさんに憧れてたんです。姉の親友で、実の姉みたいに慕ってました。将来に悩む私に、とても親身になってくれた……。
あの人があんな死に方をしたのは……あなたを庇ったせいだって聞きました」
背筋を冷たいものが走った。
(――なぜ、それを)
内心で素早く記憶を辿る。あの記憶は、誰にも語ったことは無かったはずだ。だが、タークス内で噂として広まっていても、おかしくはない。左腕を失った経緯を詳らかに知る者は、限られているとはいえ。
「あなたのために死んだ人がいるのに…… あなたは、こうして平気な顔で裏切って」
イリーナの瞳から堪えきれなかったものが一筋零れ落ちる。
「リーシャさんが死んだって聞いた時、私、何日も、まともに眠れませんでした。それなのに、あなたは……」
声が、次第に涙で震えていく。
「絶対に許さない……! リーシャさんの仇、討たせてもらいます……!」
叫びと同時に、イリーナが懐から短杖を抜き放ち、突っ込んでくる。
その言葉が引き金だった。
(――ふざけるな)
奥底に押し込めていたはずの何かが、一気に噴き上がる。
視界が赤く染まっていく。
「――お前に何が分かる」
低く、絞り出すようにそう告げる。
「知った風な口を利くな」
義手に限界を超えた魔力を注ぎ込む。
「ジュリアス……!?」
ルードと切り結んでいたクラウドの声が、遠くに聞こえた。だが止まらない。止まらなかった。
「――誰よりも、俺自身が分かっている!」
叫びながら、グリモアへと魔力を叩き込む。
「あいつを殺したのは俺だ……! その罪を、これ以上、他人の口から聞かされる筋合いは無い……!」
放たれた雷撃が、イリーナへと迫る。
「――させるか」
低い抑えた声とともに、ルードの巨体がクラウドとの間合いを瞬時に離れ、間に割って入る。
太い腕が、雷撃を正面から受け止めた。
「ッ……!」
火花とともに、鈍い音が響く。ルードの腕から僅かに煙が上がった。
「ルード先輩……!」
イリーナが悲鳴じみた声を上げる。
「……退け」
短くルードが告げる。
「……今のお前じゃ勝てない」
その一言に、僅かにプライドが疼く。だが、事実だった。限界を超えた魔力消費の代償か、視界の端が微かに揺らいでいる。冷静さを欠いた状態での連戦は、いずれにせよ得策ではなかった。
「離れろ、ルード……! これは俺の――」
「……終わりだ」
一言だけそう言い残すと、ルードはイリーナの肩を掴み、無理やり後方へと下がらせた。
「くっ……! 放して……! まだ……!」
抵抗するイリーナを、ルードは無言のまま引きずるようにして坑道の奥へと連れ去っていく。
「今のままで勝ち目がないのは、こちらも同じ……次は容赦しない」
低い声だけを残して。
二人の気配が完全に消え去るまで、動くことができなかった。
肩で荒く息をつく。義手の付け根に鋭い痛みが走っていた。限界を超えた演算負荷の代償だった。
「――ジュリアス」
静かに名を呼ばれる。
振り返れば、クラウドがこちらを真っ直ぐに見据えていた。ティファも、バレットも、エアリスも、レッドⅩⅢも、それぞれ言葉を失ったまま、こちらを見ている。
その眼差しの中に、恐れとも戸惑いとも取れる色を見つけてしまう。
無理もない。これまで見せてきた余裕のある態度とは、あまりにもかけ離れた姿だったはずだ。
「今のは……」
「――話すつもりは無い」
遮るようにそう告げる。
「今は先を急ぐ。それだけだ」
背を向け、坑道の奥へと足を進める。
「――ジュリアス」
クラウドの声が追いかけてくる。だが振り返らなかった。
「いずれ、全部話せって言ったよな。今のも、そのうちの一つか」
「……ああ」
短くそれだけ答える。
「だが話すつもりはない。これは、俺だけが背負う十字架だ」
それ以上何も言わせなかった。
(――焼きが回ったな)
内心で自嘲する。
誰にも悟らせずにいたはずの傷だった。それを、初対面の小娘一人に、これほどまであっさりと抉られるとは。
自分の感情の制御には、それなりに自信があったはずだった。それが、これほど呆気なく崩れるとは、思ってもみなかった。
(リーシャ……)
義手の付け根の痛みが、まるで共鳴するかのように疼く。喪失の記憶は、いつまで経っても色褪せてはくれない。
背後から、誰の足音も聞こえてこなかった。皆それぞれの距離感で、こちらを窺っているのだろう。
これまで積み上げてきた信頼が、今、僅かに揺らいでいる。その予感が拭いきれなかった。
(――それでも)
止まるわけにはいかない。
坑道の奥、僅かに差し込む光を目指し、ただ黙々と足を進めた。
坑道を抜けた頃には、既に日が傾き始めていた。ジュノンまではあと僅かな距離だったが、この時間からの突入は、あまりにも無謀だ。街道脇の小さな窪地に野営の準備を始める。
「今日はここで休む。ジュノンへの潜入は明日、態勢を整えてからだ」
淡々とそう告げれば、誰も異論を挟まなかった。
焚き火を囲みながらの食事もいつもより口数が少なかった。
「――ジュリアス」
食事を終えた頃、ティファが静かに隣へと腰を下ろす。
「なんだ」
「無理に聞き出すつもりはないの。でも辛かったら、いつでも話してね」
その言葉に、思わず視線を彼女へと向ける。
責めるでも詮索するでもない、ただ気遣うような眼差しだった。
「――何度聞かれても、答えは同じだ」
短くそれだけ答える。
「強情だなぁ……」
ティファは少しだけ困ったように微笑み、それ以上は何も言わなかった。
焚き火の炎がパチリと爆ぜる。
(――リーシャ)
胸の奥で、その名をそっと呼ぶ。
自分の未熟さゆえに失ったはずの命だった。その罪の重さは、今更、他人から突きつけられずとも、誰よりも自分自身が一番よく分かっている。
(そうだ、これは俺の罪。そして、世界はこんなにも、思い通りにはならない……)
星の見えない夜空をしばし見上げる。
明日にはジュノンだ。新たな情報と、新たな厄介事が待っているだろう。今は、それだけを考えることにした。
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Side クラウド
坑道を抜けた先、ジュノンへと続く岩肌の道を、一行は無言のまま歩き続けていた。
先頭を歩くジュリアスの背中は、いつも以上に多くを語らなかった。
(――リーシャ、って誰なんだ)
胸の内で、その名を繰り返す。
義手を失った経緯にまつわる、何かなのだろう。ジュリアスにとって決して軽い名前ではないことだけは確かだった。
隣を歩くティファも、時折、心配そうな視線を前方へと向けている。
「――なぁ」
小声でバレットが話しかけてくる。
「どう思う。あのジュリアスの様子」
「……分からない」
正直にそう答える。
「ただ、あんな顔、初めて見た」
抑えていたものが決壊するような、あの表情。復讐者としての冷徹な仮面の下に、まだ何か抱えているのだろう。あの日カームで自分の過去を語ってくれた時でさえ、あそこまでの動揺は見せなかった。
「話す時が来たら話してくれる、かもしれない。今は、それを待つしかない」
そう告げながらも胸の内には拭いきれない小さな棘が残っていた。
(――まだ何か隠してるんだよな、お前)
信頼していないわけではない。だがあの反応を見てしまった以上、以前と全く同じ気持ちではいられなかった。
一体、あの男は、これまでどれだけのものを一人で抱え込んできたのだろう。想像すると、少しだけ胸が痛んだ。それでも、無理に踏み込むべきではないと、頭のどこかで冷静な自分がそう告げていた。
エアリスも、レッドⅩⅢも、それぞれ何かを考えるように押し黙ったまま歩みを進めている。
「――ジュリアスさんの言う、リーシャって人。よっぽど大事な人だったんだろうね」
ふとエアリスがぽつりと零す。ジュリアスには聞こえないよう配慮した小さな声は、彼には届いていなかった。
「タークスってところは、そんな戦い方をする人たちばかりなの?」
「――さぁな」
バレットが素っ気なく答える。
「あいつらのことなんざ俺だって詳しくは知らねぇよ」
それぞれの想いを抱えたまま、一行は日が傾くまで黙々と歩き続けた。
やがて、先頭を歩くジュリアスの足が街道脇の窪地で止まる。今夜はここで休むことになるのだろう。誰も、それに異論は挟まなかった。
焚き火の準備をしながら、それとなくジュリアスの様子を窺う。
いつもと変わらない、淡々とした横顔だった。だが、その内側に、まだ何かを抱え込んでいるのだろうことは、容易に想像がついた。
夕暮れの空の下、遠くにジュノンの明かりが僅かに見え始めていた。
ガチバトルしすぎて、ツォンさんは出てくるタイミングを失いました