我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
十一番隊十席。痛いことと危険な戦いが大嫌いだが、今回は光四郎とともに朽木家別邸へ向かう。
白鷹光四郎
染華とは長い付き合いを持つ席官。彼女を守ることについては一切の迷いがない。
朽木ルキア
一護救出を目指す旅禍側の一人。染華とも以前から面識がある。
井上織姫
一護救出のため尸魂界へ侵入した現世組。一護に関することでは普段以上に感情が強く出る。
石田雨竜
織姫・ルキアと行動中の滅却師。冷静な判断力を持つが、一護救出について妥協するつもりはない。
はいッ!! 皆さんこんにちは、緋山染華です! 本日はジメジメした地下水道を抜け、朽木家別邸への突撃任務に特別同行しております!!
帰りたいです!!
もう地下水道は嫌。かといって、ここも嫌。
縁側でお茶とお菓子をいただくなら、喜んでお邪魔するのに。
どうして同じお屋敷で、こんなに待遇が違うのかしら。
「染華さん、静かに……! 敵に気づかれます」
おっと。今の実況は心の中ですので、光四郎君には聞こえておりません。さっきから袖を引っ張って帰ろうと訴えているのが、少々うるさいようです。
だって帰してくれないんだもの。
肩を寄せてくれるのはありがたいけれど、もっと大きな石の後ろへお願いしたい。
あなたの後ろでも構いません。できれば、すっぽり隠れる感じで。
「ひぃん……怖くて怖くて足がガクガクしちゃう……」
「ご安心を。いざとなれば、この命に代えても染華さんをお守りします……! ……それが、私の偽らざる気持ちです」
「ふふ……光四郎君ってば、本当に優しいのねぇ」
ええ! 皆さんお聞きになりましたか!? 頼れる男友達による護衛が確約されました!! これでもし斬られそうになっても、先に光四郎君が受け止めてくれます。素晴らしい。持つべきものは、よく鍛えたお友達です。
光四郎君、死ぬ時は一人で綺麗に死んでね。間違っても私を巻き込まないでね。
あなたの分まで長生きするから、そのあたりは安心していただいて大丈夫よ。
……何ですか、その非難の眼差しは。本人が命に代えてもと言ってくれたんですから、信じてあげるのが友情でしょう。私の美肌と命をよろしくお願いいたします!!
「……おっと、私が説得にあたります。若奥様、そこにおられるのは分かっております」
若奥様って呼べるの、便利ねえ。最初から親しそうじゃない。これなら話が早いかもしれない。お茶でも飲んで、そうですね、では帰ります、で終わらないかしら。
竹の陰から出てきたのは、三人。ルキアちゃんと、眼鏡の男の子と、ふわふわした女の子。
……あら?
なんだか想像と違うわね。もっとこう、顔中傷だらけで、口から火でも吐くような連中かと思っていたんだけど。男の子は青白い眼鏡のモヤシだし、女の子は胸が大きいほかは普通じゃない。
ルキアちゃんは、ちゃんと覚えています。薫子ちゃんをあんな目に遭わせた子です。
ここは間違えません。あの子の刀がこっちを向いたら、すぐ光四郎君の後ろへ戻ります。
「若奥様、ここはどうか大人しく投降してください。私が総隊長や白哉様へ取り成します。決して悪いようにはいたしませんので」
「……白鷹か!! しかし我らは、理不尽に囚われた一護を奪還するためにここまで事に及んだのだ。今更おめおめと引き下がるわけにはいかぬッ!」
むむ。声が大きい。帰ってくれる感じではありません。
光四郎君ったら、もう少し相手に分かりやすく言ってあげなきゃ。悪いようにはしない、なんて言われても、何が悪くて何が良いのか、この子たちは分かっていないんだもの。
ここは人生経験豊富な私の出番ね。好きな男のために無茶をしたくなるお年頃なのは分かるけれど、それで自分まで死んじゃったら何にもならないわ。優しく教えてあげましょう。
「――ルキアちゃ〜〜ん!! これ以上無駄な罪を重ねるのはおやめなさ〜い!! このままだと旦那様の処刑だけじゃなくて、あなた達まで一緒に首を刎ねられちゃうわよ!? 旦那は見捨てて、せめて自分一人だけでも助かる道を選ぶのが賢い女の生き方よ〜〜ッッ!!」
よし。これで分かるでしょう。
首ですよ、首。斬られたら痛いじゃ済まないのよ。好きな人を思い出して泣くにも、自分が生きていないと泣けないじゃない。さあ、刀をしまって。今なら私も一緒に帰れますので。
……あれ? 光四郎君?
何なの、その目。褒めてくれていいのよ。あなたが言いにくいことを、私が代わりに言ってあげたんだから。ちょっと、そんなに見ないで。やっぱり子持ちのおばさんが口を出すのはお嫌いかしら。
「――そんな……黒崎くんを見捨てろだなんていう卑劣な脅迫に、屈するわけないじゃん……ッッ!!!!」
……ひっ。
後ろの女の子、さっきまであんな顔だった? もう少し、にこにこしていなかった? 脅してなんかいないわよ。殺すのは私じゃないもの。殺される前に逃げましょうって、親切に――。
「私達は絶対に黒崎くんを奪還する!! 行くよみんな!! 相手は二人!! 白鷹先輩は軽く気絶させて拘束して――あの厚化粧の性悪女は、その場で殺して通り抜けるのッッ!!!! あの女は黒崎くんの処刑賛成派だよ!! 間違いなく万死に値するよッッ!!!!」
「ええーーーーッッ!? なんで私だけ即死ターゲットなのォォッッ!? 自分が処刑されないなら万々歳じゃないのよ普通ゥゥッッ!!??」
ちょっと待ちなさい! 厚化粧じゃありません! そもそも性悪って何よ。あなた今、人を殺せって言ったのよ!? 私なんて、逃げなさいって言ったのに!!
そして光四郎君は気絶で済むんですって。聞きました? この不公平。今すぐ役割を交換してほしい。私が軽く気絶しますから、光四郎君にそっちをお願いできませんか。
「……白鷹先輩は話せば分かってくれそうだしね。……狙うのは、あの無神経な女一人だ!!」
眼鏡まで!?
何よ、その弓。こっちへ向けないでよ。仲裁する気はないの? 見た目くらいは賢そうなんだから、女の子を止めてちょうだい。あなたも殺す方へ参加してどうするのよ!
「あの人は十一番隊の十席・緋山染華だ!! 昔から実戦を嫌ってサボり倒していると聞く、大した手練れではないはず!! すぐに片付けるぞッ!!」
全部知ってるじゃない!! だったら見逃してよ!!
実戦が嫌いなの! 今も嫌なの! それが分かっていて片付けるって、どういう教育を受けてきたの、この子たち!? 私の息子も人の話を聞かないけれど、さすがに母親の首を刎ねようとはしないわよ!
「いやああああああっっ!!!! なんで!? なんでよォォッ!? なんでそこで『一護を捨てて逃げる』って選択肢を選ばないのよバカなの!? 死ぬ気なのォォッッ!?」
「くっ……!! 染華さんは俺が命に代えてもお守りするッッ!!」
ありがとう光四郎君!! その背中、今だけは本当に頼もしいわ!! もう少し右、そう、あの弓も隠れるようにお願いします!!
皆さん、ただいま安全な場所から実況しております。先ほどの説得は、なぜかうまくいきませんでした。命の大切さを説いたら殺害を予告されました。納得できません。
光四郎君も何か言ってよ。あなたの大事なお友達が、厚化粧で無神経な性悪女呼ばわりなのよ。名誉の回復もお願いしたいけれど、ひとまず首を繋いでおく方を優先で。
……でも、このままずっと隠れていていいのかしら。
ルキアちゃんは卍解を使えるんでしょう? 光四郎君が負けたら、次は私よね。気絶させて縛るとか言ってるけど、三人で寄ってたかって来られたら、さすがに危ないんじゃない?
……三人。
ああ、そうか。ルキアちゃん以外の二人を、先に何とかすればいいんだわ。
よく見れば、眼鏡の男の子は相変わらず細い。あんな腕で、どれだけ弓を引けるのかしら。女の子の方も、怒鳴るのは上手だけど、戦うのが上手とは限らないわよね。
そうよ。怖い顔をしたからって、強いとは限らないのよ。うちの雷太も、口だけなら隊長たちにだって負けていないもの。勝てるかどうかは別の話だけど。
ルキアちゃんを相手にしなくてよくて、あの二人を捕まえればお手柄になる。しかも、私が自分から申し出れば、勇敢に戦ったことになるじゃない。
……金一封。
そんな言葉が頭に浮かんでしまいました。いえいえ、まずは任務です。任務を果たした結果として、特別ボーナスがいただけるなら遠慮はしない、というお話です。
何を買おうかしら。お菓子? 新しい着物? 働いた自分へのご褒美って必要よね。まだ働いていませんけれど、これから働きますので、先に考えておいても問題ありません。
それに、あの子には謝ってもらわないと。厚化粧だなんて失礼なこと、今のうちに訂正してもらいましょう。毎日のお手入れの成果です。塗って埋めているわけじゃないんです。
「光四郎君! 状況がこうなっては仕方ないわ!! 卍解を使うルキアちゃんは、同じ席官のあなたに任せる!! 私はあの弱そうな旅禍の二人を速やかに制圧してみせるわ!!」
決まりました。
自分でも惚れ惚れするほど頼もしい声。こういうところを雷太に見せてあげたかったわね。いつも怠けているみたいに言うけれど、お母さんだってやる時はやるのよ。勝てそうな時には、ちゃんとやるの。
あら、光四郎君。どうしたの? そんなに感激してくれなくてもいいのよ。目が潤んでるじゃない。
……やっぱり、三対一は怖かったのね。分かるわ。私も怖いもの。だから、怖い子をあなたに任せて、怖くない子たちを私が引き受ける。これならお互いに一人で三人を相手にせずに済むじゃない。素晴らしい分担です。
「染華さん…………!! わかりました!! 俺に若奥様の説得へ全霊を注がせてくれるその心遣い……やはり俺は、貴女を心の底から愛していますッッ!!!!」
はいはい、任せてちょうだい。説得でも何でも、そちらはよろしくね。
ふふふふふ……大成功よ!! 恐ろしい卍解持ちは光四郎君にお任せして、私はあの二人を捕まえる。帰ったら、ささやかな報告書を書けばいいのね。旅禍二名を単独で制圧、と。単独ってところは大きめに書いておきましょう。
どうせ二人とも、ルキアちゃんについてきたんでしょう。お友達を助けたい気持ちは立派だけど、死神を甘く見てはいけません。十一番隊の十席ですからね、私は。長いことこの席にいるんですから。
……ん?
光四郎君、今、最後に愛がどうとか叫んでいなかった?
■ 緋山染華の席次
十一番隊十席。
実戦そのものを好まず、昇進や名声にも積極的ではないため、長く現在の席次に留まっている。
戦闘を嫌うことと、戦闘能力が低いことは必ずしも同義ではない。
■ 白鷹光四郎と染華
長年にわたる友人関係。
光四郎は染華へ何度も好意を伝えているが、染華自身の恋愛面での自己評価が低いため、その大半を友情や親切として受け取っている。
■ 織姫から見た一護
織姫にとって一護の救出は、尸魂界の命令や自分自身の安全より優先される。
普段の穏やかな性格に反して、一護を意図的に害そうとする相手へは極端な判断を下す場合がある。
■ 十一番隊十席という立場
十一番隊は戦闘を重視する隊風を持つ。
その中で席官を長期間維持している時点で、少なくとも一般隊士を大きく上回る実戦能力が要求される。
本人がどれほど「戦いたくない」と主張していても、その事実自体は変わらない。