我こそは十四番隊隊長(自称)   作:かなりゆっくりめ

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戸川古男
妻・砕蜂を失い、自宅へ籠もっている。事件後初めて、捜査班と直接顔を合わせる。

藍染惣右介
砕蜂暗殺事件を追う五番隊隊長。古男本人から事件当日の事情を聞き出そうとする。

日番谷冬獅郎
合同捜査班の一員。古男への疑念と、彼を疑いたくない気持ちの間で揺れている。

涅マユリ
古男と卯ノ花による政治的な偽装工作という仮説を提示している。

更木剣八
合同捜査班の一員。複雑な政治的思惑には興味が薄いが、事件そのものには関心を持つ。


容疑者の反論と確定された下手人

「戸川君、すまないね。亡くしたばかりの辛いところに……押しかけてしまって」

 

「なに……構わないさ。入るが良い、皆の衆」

 

日番谷としては、少しくらい入るのをためらいたかった。つい先ほど、卯ノ花と鉢合わせたばかりである。泣き崩れているかもしれないとは考えていたが、あんな出迎えは想定していない。

 

マユリは早くも何か嗅ぎつけたつもりでいるし、剣八には遠慮というものがない。

 

この二人に任せれば、挨拶より先に何をしていたか聞くだろう。藍染から話を切り出してくれて、そこは助かった。

 

「……先ほど、門前で卯ノ花隊長とすれ違ったのだがね。ずいぶんと取り乱した様子だった。何かあったのかい?」

 

「ん? 検死の内容の報告を受けたついでに……久しぶりにマッサージをねだられてな。揉んでやっただけだ。まあ、こうして手を動かして何かをしている方が、気が紛れるというものさ」

 

「くくく……マッサージ、ねえ。あの着物の乱れ方と上気した顔を見て、ただの肩揉みだと信じる者がこの世にいるのかネ?」

 

「まあ、てめえが誰の肩を揉もうが俺に文句はねえがよ……あれだ。妻が殺された当日にやることとしちゃあ、世間じゃ不謹慎ってやつじゃねえのか?」

 

「ああ。到底、正気の人間のやることとは思えねえな」

 

剣八に不謹慎を説かれるとは、相当である。

斬り合いなら喜んで参加する男にも、参加したくない揉め事はあるらしい。

 

諸君も、常識の担当者が更木剣八になった時点で、この訪問の先行きを心配してくれるだろう。

ところが古男に反省の色はない。謝れと言っているわけではないが、せめてふざけずに答えられないのか。

 

「――クックック……我が深淵なる真意など、暗黒の魔王であっても見破れはしないのさ」

 

「またその中二病かよ……反吐が出るぜ」

 

朝は何も言えないほどの衝撃だったのかもしれない。そう思い直しかけていた日番谷には、余計に腹立たしい。

 

本気で言っているのか、答える気がないのか。いつもなら放っておく。だが今日は、砕蜂が殺された日なのだ。

 

「……で、君自身はどうするつもりだい? 現状、誰が砕蜂隊長を手にかけたのか全く手がかりがない。分かっているのは、隠密機動の総司令を無抵抗で仕留められる腕前を持つのは、少なくとも我々、隊長格の死神くらいしかあり得ない……ということだ」

 

「ふむ……まあ、そもそも蜂の子を正面から容易く殺害できる手練れとなれば、自ずと絞られるだろうな。――で? お前は何が言いたいんだ、藍染」

 

「問題は動機だよ。四十六室には彼女を排除したい動機があるが、隊長を暗殺する直接の実行手段がない。逆に、君を含めた我々隊長格には実行する力はあるが……彼女を殺して得をする者がいない。動機が皆無なんだ」

 

砕蜂の調査について、夫なら知っていることがあるはずだ。

思い当たる相手を一人でも挙げてくれればいい。日番谷はそう期待している。疑いたくて来たわけではない。

 

端末の記録は消えているが、会話まで消せるものか。昨日どこへ行くと言っていたのか、誰かと会う予定はなかったのか。聞きたいことはある。ふざけず答えてさえくれれば、無駄足にはならないはずだった。

 

四十六室には手段がないという点も、まだ引っかかる。命じる者と刺す者が別ならどうだ。隊長の誰かに命令が届いていても、自分には分からない。夫の証言から、その繋がりを見つけられないものか。

まずは聞く。腹を立てて帰るのは、その後でもできる。

 

「……なるほど。つまり、夫である俺もまた、容疑者の枠から外れてはいない……と言いたいわけだな?」

 

「当たり前だろ。妻が殺されたその日のうちに、別の女と肌を寄せて絡み合ってるようなイカれた野郎だからな。疑われて当然だ」

 

「ふむ。では冬獅郎……俺が愛する蜂の子を殺害するに足る、納得のいく動機とやらは何だ?」

 

答えろと言われれば、答えるしかない。ここへ来るまで散々疑っておいて、本人を前にした途端に言えなくなるのも卑怯だ。

 

日番谷にもためらいはある。間違っていたら謝って済む話ではない。だが、この男を外して考える理由も、もう見つからなかった。

 

「……政治的なカードだ」

 

「くくく……未曾有の凶行を四十六室の仕業に仕立て上げ、その罪を着せて護廷を煽動し、前代未聞のクーデターでも目論んでいるのではないかね? そうすれば、黒崎一護の処刑を力ずくで撤回させることなど造作もない」

 

マユリにためらいはない。むしろ自分の推理を本人に聞かせる機会を待っていたくらいである。日番谷には少々頼もしく、かなり不愉快だった。

 

怒鳴られる覚悟はある。追い出されても仕方がない。どちらにせよ、この質問への返事は聞いて帰る。

 

できれば、馬鹿な推理だと一蹴してほしい。死んでなどいないと言ってくれてもいい。

検死を拒んだ卯ノ花と示し合わせているのなら、今ここで種明かしをしろ。

 

散々振り回された分は怒鳴るが、砕蜂が生きているならその方がいいに決まっている。

それを願う自分にも気づいて、日番谷は落ち着かない。疑いながら、疑った通りであってほしいなどと。さっきまでの腹立ちに任せて、この男を裁くことはできそうにない。

 

「なるほど、実に面白い仮説だ。……だが、一護一人を助けるためだけに、我が妻を犠牲にするほどのことか? もし俺が政治的カードのために隊長格を始末するなら……蜂の子ではなく、真っ先に朽木白哉を殺害しているさ」

 

「……なに?」

 

それは予想していなかった。

 

無実を訴えるにも、もう少し聞こえのいい言い方があるだろう。これを白哉に聞かせたら、まず酔いは醒める。礼は言われまいが。

 

「あいつは五大貴族筆頭・朽木家の現当主だ。殺害した際の政治的打撃も、四十六室に擦り付ける罪の重さも、蜂の子の比ではない。何より……あいつはここ一週間以上、酒に溺れて泥酔している。通路で長刀を突き立てて暗殺するなら、隠密の長よりも白哉の方が遥かに容易かったはずだが?」

 

「ぐっ……」

 

反論できないのが腹立たしい。白哉の名誉のために何か言ってやりたくても、あの酔い方を見た後では無理がある。

 

しかも、白哉なら一護の処刑に反対している。四十六室に狙われたという話にも持っていきやすい。そこまで気づいてしまい、自分にも腹が立つ。人の殺しやすさを一緒になって考えてどうする。

 

マユリも面白くない。否定するなら、その案より妻を殺す方が優れていると証明せねばならない。研究の相談ならともかく、続ける話ではなかろう。いや、この男なら続けかねないが。

 

しかし、損得を持ち出した以上は認めるしかない。卯ノ花との仲を問い詰める方へ戻れば、今度は自分の推理を捨てることになる。何ともやりにくい。藍染に促されて来た時は、古男の返答の矛盾を拾えば済むつもりでいたのだが。

 

剣八の方は、白哉を殺す話などどうでもいい。砕蜂を仕留めた相手と戦いたいのであって、酔っ払いの始末に興味はない。人を殺す相談にしては、ちっとも面白そうな相手が出てこないのである。

 

「――だが。その涅と冬獅郎の邪推……筋としては悪くないな。一護を救い出すための手段としては、極めて有効だ。……乗らせてもらうとするか」

 

「な、なにッ!?」

 

待て。それをやったのではないかと問い詰めているのだ。今からやるとは聞いていない。

下手に黙っていると、自分たちの提案として持ち出されかねない。総隊長に、冬獅郎から良い知恵を借りたとでも言われたらどうする。

 

親切な捜査班のおかげで犯行計画が改善されました、などと報告できるわけがない。現場百回どころか、訪問一回でこの始末である。

 

「蜂の子を失ったこの状況を利用し、一護の命を助け出すのと引き換えに……中央四十六室と水面下で取引を交わす。隊長暗殺という前代未聞の醜聞だ、うやむやな手打ちでは済まない。当然……誰かの首が責任として必要になるだろうな。――もちろん、護廷十三隊の者の首ではない」

 

砕蜂のために犯人を探す気はないのか。

日番谷の聞きたいことはそれに尽きる。一護を助けることには賛成だ。自分も処刑には反対している。だからといって、妻を殺した相手を分からないままにして、取引で終わらせられるのか。

 

大前田にも、隠密機動の連中にも、納得できるはずがない。何より、古男自身はそれでいいのか。朝から考えていた問いが、ここへ来て全く別の意味になってしまった。

 

「……君は……一体何を企んでいるんだい?」

 

「――下手人は四十六室、あるいは奴らの息のかかった刺客である。その確定事項を盾に突きつけ、黒崎一護を完全赦免させる。……それで良いな?」

 

確定していない。そんなことは、古男にも分かっているはずだ。

否定を待つつもりもなさそうだった。藍染を見据えたまま、もう何も言わない。




■ 五大貴族筆頭・朽木家

尸魂界でも特に大きな政治的影響力を持つ大貴族。

現当主である朽木白哉本人を狙った事件が発生すれば、一隊長個人への襲撃を超え、尸魂界の政治体制そのものへ大きな衝撃を与える。

■ 「確定事項」

古男が今回用いた表現。

捜査上、中央四十六室が砕蜂暗殺を命じた事実はまだ立証されていない。

したがってここでいう「確定」は捜査結果ではなく、今後の交渉において古男が採用しようとしている政治的な前提を指す。

■ 政治的カード

事件そのものを外交・司法・政治上の交渉材料として利用すること。

事件から利益を得ることと、その事件を本人が引き起こしたことは必ずしも同義ではない。

事件発生後に生じた状況を利用する人物も存在するため、捜査では両者を区別する必要がある。

今後の展開について、尸魂界編のあとは

  • すぐ破面編がいい
  • バウント編とかも見たい
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