我こそは十四番隊隊長(自称)   作:かなりゆっくりめ

90 / 113
黒崎一護
中央四十六室によって処刑を命じられた死刑囚。仲間たちの救援を受け、死神・虚・滅却師の力を一つに束ねた新たな姿へ到達する。

戸川古男
八番隊五席。一護へ死神としての基礎から戦い方まで教えてきた師の一人。中央四十六室との交渉によって一護を救おうとしている。

有沢たつき
一護救出のため懺罪宮へ突入した現世組。古男から暗黒魔闘術を学んでいる。

茶渡泰虎
一護の友人。全身装甲形態「勝利の悪魔」を完成させ、仲間たちとともに一護救出へ参加している。

井上織姫
一護救出に加わった現世組。盾舜六花の能力を大きく発展させている。

朽木ルキア
一護の婚約者。救出のため尸魂界へ戻り、自身も大きな成長を遂げている。

石田雨竜
一護救出に参加する滅却師。霊子操作に関しては現世組でも突出した技量を持つ。


囚われのお姫様と四重の禁

この力なら届く。

 

刀を握る手にも、足にも、まだ余裕がある。背中の傷は痛むが、踏み込めないほどじゃねえ。さっきまでとは違う。先生の無敵が何だろうと、今度こそ――。

 

「やめろッ!! 二人とも!! これ以上やれば、瀞霊廷そのものが崩壊する!」

 

「止めてくれるな、藍染。惚れた女にここまで命を懸けられて、尻尾を巻いて下がることなどできん。貴様にも分かるはずだ」

 

「ああ……この期に及んで、ガキみてえに鈍感を気取ったりはしねえよ」

 

ルキアの気持ちは知っている。

 

織姫も、たつきも、友達だからで済ませていいとは思っていない。気づかなかったふりをすりゃ楽なんだろうが、こんなところまで来てもらって、それはできねえ。

 

「モテる男は業が深いな、一護」

 

「全くだぜ。ルキアと、井上と、たつき……三人分も背負わされちゃ、嫌でも気合が入るってもんだ!」

 

言ってから少し恥ずかしくなった。

もっとも、まずは帰らせてもらわねえとな。

 

「喰らえッ! 『クラヴィーア』ッッ!!」

 

左腕の弓を引き、頭上の光輪へ霊力を流し込む。集めた霊子が矢となって次々に飛び出し、先生のいる石段へ降り注ぐ。

 

通るとは思っていない。

 

さっきと同じように弾かれるなら、その間に距離を詰める。あの光と文字のどこまでが無敵なのか、刀で直接確かめてやる。

 

「光輪を増幅器として使ったか。出力は悪くない」

 

「だが、石田雨竜と比べれば射出が遅い。狙いも甘いな。現世で少し鍛錬を怠けたか?」

 

「授業してる場合かよッ!」

 

石田の弓が上手いことくらい知っている。あいつは滅却師だ。生まれた時からやってる奴と比べられても困る。

 

こっちは刀もあるんだよ。

 

斬月を引いて踏み込むと、先生の背後に馬鹿でかい人影が浮かんだ。金色に光って、剣を掲げてやがる。

 

誰だよ、お前。

 

いきなり知らねえ英雄を増やすんじゃねえ。

 

「はあああああッ!!」

 

漆黒の刃が上から来る。

受けた瞬間、手首が沈んだ。

 

「ぐ、おおおおッ……!」

 

重い。

 

足が石畳へめり込む。刀を傾けて逃がそうにも、胸まで押し下げられそうで動かせねえ。何だ、この重さ。あの後ろの金色の奴まで一緒に殴ってるんじゃねえだろうな。

 

「出力はいい。だが、筋力と霊圧が噛み合っておらん」

 

「力んだところへ霊圧を足せば強くなると思っているのか? 茶渡の打撃の方が、遥かに無駄がないぞ」

 

「ふざけんなァッ!!」

 

腕へ動血装を回す。

 

押されっぱなしでたまるか。斬月の柄を握り込み、脚から腰まで力を入れる。持ち上がった。これなら押し返せ――。

 

あっ。

刃が横へ逃げた。

 

押していた力の行き場がなくなって、身体が前へ出る。立て直す前に、鳩尾へ何かがめり込んだ。

 

「がっ……!」

 

息が出ねえ。

 

二歩、三歩と下がって、膝をつく。血を吐いても、腹の詰まりは取れなかった。

今の、当身か。刀を受け止めることばかり考えて見えなかった。

 

「霊圧を集める場所も、切り替える時機も遅い。有沢なら、今の隙に叩き込んできたろうな」

 

たつき。

 

あいつはもう動けねえんだぞ。そこまでやって俺を出したんだ。その前で、いつまでも膝をついていられるかよ。

 

刀を支えに立ち上がる。

 

「まだ……終わってねえ……!」

 

「お前に足りないのは、己を客観的に見る目だ」

 

「何だよ……」

 

「仲間たちより自分の方が強い。心のどこかで、そう思っているだろう?」

 

返事が詰まった。

 

俺が前へ出ればいい。

俺が勝てば、みんなを連れて帰れる。

 

さっきから、それしか考えていなかった。

 

「自信を持って戦うことが、そんなに悪いってのかよ……!」

 

「自負に見合う鍛錬をしていればな」

 

斬りかかれるはずなのに、足が出ない。また同じように叩き落とされる。

 

「お前がここへ捕らえられてから、あいつらは死に物狂いで修行を重ねてきた。俺はその場を見てはいない。だが、ここまでの戦いと残る霊圧を見れば分かる」

 

「だったら俺だって――」

 

「お前は今、仲間の中で最も弱い」

 

……は?

 

何を言ってんだ。

 

刀も弓も使える。虚の力だってある。

ばらばらだった力を、今はまとめて使えてるんだぞ。

 

それなのに、俺が一番下だってのか。

 

「生まれつきの力が大きい。死神も虚も滅却師も使える。だから多少扱いが雑でも、今までは勝てた」

 

斬月を見下ろす。

こんなに手に馴染んでいるのに。

 

ようやく全部を使えるようになったと思ったのに、それすら先生には足りないらしい。

 

「ここ最近、白鷹光四郎や朽木ルキア以外と、まともに鍛錬したか?」

 

光四郎との稽古は楽じゃなかった。ルキアとも戦った。何もしていねえわけじゃない。

 

だが、たつきみたいに身体を壊してまで強くなろうとしたかと聞かれたら。

井上に治してもらって、また同じところへ飛び込めたかと聞かれたら。

 

「……っ」

 

「繰り返すぞ。一護、お前は弱い」

 

もう聞いたよ。

そんなに何度も言わなくていいだろ。

 

「仲間を導いているつもりだったか? 実際のお前は、あいつらに命を懸けて救い出された、囚われのお姫様だ」

 

俺が。

助けてもらったことを否定する気はねえ。

たつきに抱き起こされた時、嬉しかった。生きていてくれて、会えて、やっと牢から出られて。

 

でも、お姫様はねえだろ。

 

……反論しようとすると、牢で待っていた自分しか思い浮かばねえ。

 

「仲間を助けたい気持ちは買う。だから牢へ戻れ。四十六室は俺がねじ伏せる。現世へ帰ったら、徹底的に鍛え直してやる」

 

先生に任せれば助かるのかもしれない。

その方が全員無事で済むのかもしれない。

 

分かってる。

だが、それで済ませられるほど割り切れねえ。

 

牢へ戻って、また誰かに助けてもらうのか。

 

「そんな……」

 

「そんなみっともねえ真似が、できるわけねえだろうがァッ!!」

 

仮面の口元へ霊圧を集めた。

刀で押し負けるなら、まとめて吹き飛ばす。弓が遅いなら、一発に全部を込める。

 

「吹き飛べッ! 『虚閃』ッッ!!」

 

これならどうだ。

無敵の演出だろうが、後ろにいる金色の知らねえ奴だろうが、全部押し流してやる。

 

「無駄だ」

 

光の中から声が返った。

 

「縛道の八十一――『断空』」

 

虚閃が止まる。

 

透明な壁に触れたところから光が散り、消えていく。

霊圧を注いでも、壁の向こうへ届かない。

 

「……何だよ、それ」

 

卍解の無敵ですらねえのか。

 

普通に鬼道で止められるのかよ。

 

口を開けたまま、息を吸うことも忘れていた。俺の攻撃が、片手で終わりだなんて。

 

「霊子操作では、石田雨竜に及ばず」

 

「攻撃を受け切る耐久では、茶渡泰虎に及ばず」

 

もう言わなくていい。

 

「力の集中では、有沢たつきに及ばず」

 

目の前が熱い。

 

泣きそうなのか、怒ってんのか、自分でも分からねえ。

 

「卍解の練度では、朽木ルキアに及ばず」

 

ルキアはそこまで来たのか。

 

あいつも俺を助けるために。

 

「そして、命を懸け合う殺し合いの覚悟では、井上織姫にも及ばない」

 

俺の知っているみんなを思い浮かべても、先生の言葉とすぐには重ならなかった。

だが、たつきは目の前で東仙を倒した。チャドも狛村の卍解を折っている。

 

知らなかったのは俺だ。

 

みんながどれだけ強くなったか、何をできるようになったか。確かめもしないで、自分が一番前に立つつもりでいた。

 

「それが今のお前だ、一護」

 

「だけど……俺は……!」

 

何を言えばいい。

 

助けたいとは、もう言った。

 

帰りたいとも言った。

 

どれだけ叫んでも、この刀が先生に届かなければ話が進まねえ。

 

持ち上げろ。

 

腕が震えていてもいい。もう一度構えろ。下げたまま黙っていたら、それこそ終わりだ。

 

「弱き者の言葉に、魂など宿らん。お前の心はまだ脆い」

 

顔を上げると、眉間のすぐ前に指先があった。

 

近い。いつの間に。

 

「縛道の九十九――『禁』」

 

背後へ両腕を引かれた。

 

黒い布が肘から手首まで巻きつき、鉄の針で留められる。肩が軋む。

 

「こんなもん……引き千切ってやるッ!」

 

全身へ霊圧を回す。

 

翼を広げ、脚を踏ん張る。布が少し緩んだ。いける。このまま力を――。

 

「縛道の九十九――『禁』」

 

今度は脚だった。

 

膝と足首をまとめて縛られ、踏ん張りを失う。転ぶ前に翼で身体を支えようとして、頭上からの声を聞いた。

 

「縛道の九十九――『禁』」

 

翼が畳まれる。

 

光輪まで布に巻かれて、背中へ引き寄せられた。霊子を集めようにも、広げる場所がねえ。

 

「縛道の九十九――『禁』」

 

まだやるのかよ。

 

四回目だぞ。

 

一回目でほとんど捕まってただろうが。

 

今度の布は仮面と胴まで覆った。地面へ叩きつけられ、胸から息が抜ける。起き上がろうとしたところへ鉄の楔が落ち、石畳へ縫い止められた。

 

「ぐっ……あ……!」

 

力を入れるほど締まる。

 

肩も、膝も、指も動かねえ。

 

死神、虚、滅却師。

 

全部揃えて来たのに、全部まとめて梱包された。しかも四重だ。

 

「九十九番を、無詠唱で四重だと……!?」

 

「あれほどの霊子を一瞬で編み込むなど、正気の死神の所業ではないヨ!」

 

「……あいつ、化け物かよ」

 

柄を握る指から力が抜ける。

 

もう手の感覚がはっきりしない。石に当たる乾いた音がして、黒い切っ先が目の前へ転がってきた。

 

すぐそこにある。

 

拾えねえ。

 

こんな近くにあるのに、指一本届かない。

 

「落ちろ、一護」

 

悔しくて、顔を上げたかった。せめて睨み返したかったが、頬を石畳から離すこともできなかった。

 

「安心しろ。お前を死なせるつもりはない」

 

そんな心配はしてねえよ。今言いたいのはそこじゃない。

 

たつきを。

 

早く、あいつを治してやってくれ。

 

「お前こそ、次代の護廷十三隊を背負う隊長になるべき死神なのだからな」

 

隊長。

 

もう分からねえ。せめて採用面接は起きてる時にやってくれ。

 

遠ざかる足音を聞きながら、もう一度腕へ力を込めた。

 

動かない。

 

先生の背中どころか、落とした刀にさえ届かなかった。

 

今度は俺が、たつきを連れて帰るはずだったのに。

 

……くそ。

 

何一つ、できてねえじゃねえか。




■ クラヴィーア

一護が自身の滅却師としての力を利用して放つ霊子射撃。

頭上に形成された光輪を増幅・収束機構として利用し、周囲の霊子を複数の光矢として射出する。

一護は滅却師として高い出力を持つが、純粋な霊子操作技術では長年鍛錬を積んできた石田に及ばない。

■ 動血装

滅却師が霊子を血管へ流し込み、身体能力と攻撃能力を強化する技術。

防御を担う「静血装」と対になる能力。

一護は死神・虚の能力と並行して使用できるが、各能力を同時に扱えることと、それぞれを最高水準で使いこなせることは別問題である。

■ 断空

縛道の八十一。

術者の前方へ高密度の防壁を形成し、攻撃を遮断する高位縛道。

一般的には八十九番以下の破道を完全に防ぐ術として知られるが、実際の防御性能は術者自身の鬼道技量や霊圧にも大きく左右される。

■ 縛道の九十九「禁」

最高位に属する縛道。

黒い霊子の布と鋲・楔によって対象の肉体を拘束し、行動を封じる。

本来それ自体が極めて高度な術だが、古男は今回、無詠唱のまま複数回重ねて使用している。

同じ縛道を重ね掛けすることにより、腕、脚、霊子翼、仮面など、一護の異なる戦闘手段を個別に封殺している。

■ 一護の複合形態

死神・虚・滅却師という、一護の中に存在する複数の力を同時運用した状態。

それぞれが別々の外部能力なのではなく、すべて黒崎一護自身に由来する力である。

今回、一護はようやくそれらを一つの戦闘形態へ統合したが、能力の統合と技術の完成は同義ではない。

■ 古男の一護評

古男は一護の潜在能力そのものを低く評価しているわけではない。

むしろ死神・虚・滅却師という複数系統の力を併せ持つ稀有な存在として高く評価している。

一方で、それぞれの能力を専門的に磨いてきた仲間たちと比較すると、現段階の一護は出力に技術が追いついていないと見ている。

そのため古男にとって今回の問題は「才能がないこと」ではなく、「巨大な才能に対して鍛錬と技術が不足していること」にある。

今後の展開について、尸魂界編のあとは

  • すぐ破面編がいい
  • バウント編とかも見たい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。