我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
八番隊五席。一護を再び拘束し、中央四十六室との直接交渉へ向かおうとしている。
山本元柳斎重國
護廷十三隊総隊長。古男とは護廷十三隊創設以前から続く古い関係を持つ。
朽木白哉
六番隊隊長にして朽木家当主。一護の処刑に反対し続けているが、現在は心身ともにかなり消耗している。
市丸ギン
三番隊隊長。白哉と行動をともにし、旅禍と死神双方の動きを追っている。
緋山染華
十一番隊十席。白鷹光四郎とともに朽木家別邸を訪れ、織姫たちと交戦していた。
井上織姫
一護救出を目指す現世組。染華との戦いは、いつの間にか当初とはかなり違う方向へ進んでいる。
朽木ルキア
一護救出のため尸魂界へ戻った白哉の妹。一護の婚約者としての立場を強く主張している。
白鷹光四郎
染華へ長年想いを寄せ続ける死神。本人の努力とは裏腹に、その恋路はいまだ極めて険しい。
四重の禁に沈んだ一護を残し、白亜の回廊へ向かう。
その前方に陽炎が揺れた。
炎は上がっていない。それでも、石畳から立ち昇る熱だけで誰が来たのかは分かる。
杖を突いた老躯は、かつて進路を塞いだ時と同じ場所へ立っていた。
「…………見事じゃ。その腕……まったく落ちてはおらんようじゃの」
「……あの程度で腕が落ちたかどうかもないだろう。お互いに……丸くなったじゃないか。なぁ? ――元柳斎。見た目だけなら、俺はまだまだ二十代の青二才よ」
言われた山本も、そこを訂正する気はなかった。
確かに顔だけは若い。
中身まで若返っているのなら、どれほどよかったか。
古男の背後には、拘束された一護と傷ついた教え子たちがいる。
眼前には、砕蜂を失った夫がいる。
「…………何を、そう昂ぶっておる」
「……妻を理不尽に殺されて、心が乱れん男がこの世にいると思うか?」
いつもの不敵な笑いは残っている。だが、瞳の奥には何もない。怒りを剥き出しにしている方が、まだ止めようもあった。
「…………………じゃが………その様子は………まるで、かつての…………」
「俺が今こうして、護廷十三隊などという生ぬるい組織の末席に座っているのは何故だ? ――他でもない、お前が土下座せんばかりに引き止めたからだろうが」
杖を握る指に力が籠もる。
去ろうとする背中へ辞令を差し出した。戦わずに暮らしたいという望みを退け、築いた組織の行く末を見届けろと迫った。
あの時は必要だった。
古男の力も、知恵も、存在も。
だが、その必要を押しつけた先にあるものが、今ここに立っている。
「ならば……これ以上、俺のやることに余計な口出しはするな。一護を捕らえて、お前の顔は十分に立ててやったはずだ。あいつら旅禍は、現世での俺の大事な教え子たちだ。……好きにさせてもらうぞ」
一護は拘束されている。
総隊長として求めるべき結果は得た。旅禍を捕らえるという命令も果たされている。
これ以上を求めれば、友として残された最後の線まで踏み越えることになる。
「……………わかった。中央四十六室への対応はどうするつもりじゃ」
「直接訴え出るための申請はすでに出してある。……そこの黒土と日番谷が、なかなか面白い取引の案をくれたのでな」
「涅(くろつち)だヨッッ!! 勝手に『黒土』などと土気色の下等生物みたいな漢字に改名するんじゃあないヨッッ!!!!」
発音は同じである。
誰も文字を書いていない。
それでも本人には、正しい字と間違った字の違いが聞こえたらしい。
日番谷としても訂正したい点はある。
自分たちは可能性を並べただけで、中央四十六室を脅迫する案へ正式に賛成した覚えはない。面白い取引の発案者として総隊長へ紹介されるのは、今後の経歴に少々困る。
しかし、口を挟める空気ではなかった。
「お主…………。いや………………すまぬ」
「――謝るな、元柳斎」
「……いや、貴様には俺に謝る資格など、最初から無いはずだ。――『死ぬまでこの瀞霊廷を護って戦え』……そう言って俺を縛り付けたのは、お前自身だろうが? ――友よ」
友と呼ばれたのは、いつ以来か。
山本には思い出せなかった。
千年という時間は長い。昨日のように覚えている戦いもあれば、名すら曖昧になった者もいる。あの頃の古男と並んで立った記憶は、どれほど時が過ぎても消えない。
だからこそ、手放せなかった。
その選択を今さら謝るなど、確かに身勝手だった。
「…………………すまぬ…………」
同じ言葉しか出なかった。
返事はない。
古男の足音だけが遠ざかり、白い回廊の奥へ消えていく。
今度こそ引き止めなかった。
◇◇
「おっとっと……朽木隊長、足腰ガクガクですやん。ほんまにここが別邸であってま――」
肩を借りながら庭へ入ったところで、白哉の足が止まった。
酔いのせいではない。
幻ではなかった。隣の市丸も同じ方向を見て、細い目をさらに細めている。
「卿ら………………そ、その破廉恥極まりない格好は、一体全体どういう了見だ……!?」
中庭では、瀞霊廷の規律が綺麗に死んでいた。
染華は全裸のまま胸を張り、同じく全裸の織姫と睨み合っている。
衣服を奪われたルキアは両手で胸と下腹部を隠し、二人から逃げるように蹲っていた。
その足元には、石田と光四郎。
大量の鼻血を流して意識を失っている。
白哉には、どこから叱ればよいのか分からなかった。
限界はある。酔った状態で裸の女三人、気絶した男二人、正妻争いを同時に処理する訓練など受けていない。
「あらァ! 良いところに来てくれたじゃない、白哉君ッ!! ちょうどアンタの客観的な意見を聞きたかったのよ! 私のこの完成された熟女ボディと、この小娘の無駄にデカいだけの果実……どっちが良い体をしてると思う!?」
回答次第では、十一番隊と旅禍の双方を敵に回す。
極めて危険な質問だった。
「朽木さんのお兄さんッ!! 申し訳ありませんが、黒崎くんは貴方の義理の弟なんかには絶対になりませんからねッッ!!!!」
こちらは身体の審査すら飛び越え、婚姻への異議申立てだった。
「お、お兄様ァァッッ!! 申し訳ございませぬッ!! 私は断じてこのような恥知らずな姿を晒す気など毛頭なかったのですが、この二人に無理やり引っ剥がされて……ッッ!!」
そして妹からの救援要請。
白哉は額を押さえた。
酒のせいで痛むのか、目の前の光景で痛むのか、すでに区別はつかない。
少なくとも飲み直して解決する問題ではなさそうだ。
「………………落ち着け、卿ら。……一護殿は、いずれ我が朽木家に迎え入れるべき正統なる義弟(予定)だ。……君は、一護殿の『側室』にでも収まりたい……そういう解釈でよいのかな、井上殿?」
「『正妻』ですッッ!!!! 側室だなんてふざけないでくださいッッ!!!!」
一護本人の意向は確認されていない。だが、この場にいる女たちにとって、その程度は些細な問題らしい。
白哉としてはルキアが正妻である。
織姫としては織姫が正妻である。
話し合いは、開始前から決裂していた。
「……………緋山殿は…………ご子息(雷太)がおられる身のはずでは?」
「は? それが私のこの素晴らしい体と何の関係があるのよ??」
関係がないと言われてしまった。
確かに、息子がいることと体形の審査に直接の関係はない。白哉の問い方にも問題があったのかもしれない。
だが、問題はそこではない。
年長者として、この騒ぎを止める側ではなかったのか。
本人には、その自覚が毛ほども見当たらなかった。
血の海に沈んだ光四郎へ目を向ける。
任務では常に冷静で、報告も的確。六番隊の四席として申し分なく、白哉に対する忠義も厚い。
恋愛に関してのみ、成果が何一つ出ていなかった。
「…………我が六番隊四席にして無二の友、白鷹光四郎は気立ても良く、剣の腕も立つ誠に良い男だ。……卿の『後添え(再婚相手)』としては、これ以上ない優良な男だと思うのだがな……」
「え……? まあ……良い奴だとは思いますけど……でも光四郎君ってば私よりずっと年下ですし……。だいたい、あの人は私のことなんて女として好きじゃないと思いますよ?」
白哉の視線が、再び光四郎へ落ちる。
哀れな……光四郎よ……。命を懸けた求婚すら、この女の脳内には届いておらぬのか……。
告白どころか、先ほどは本人の目の前で愛を叫んでいた。
命を懸けて守るとも言っていた。
あれだけ真っ直ぐな言葉を浴びても、染華の中では「親切な年下の男友達」に分類されたままらしい。
白鷹光四郎、六番隊四席。
剣術、忠誠心、事務能力はいずれも優秀。しかし…。
「まあそんな野暮用はどうでも良いわ! ねえ市丸君!! この瀞霊廷の中で一番の極上美人は私よねェッ!?」
「だったら私は、尸魂界・現世・虚圏を合わせた『三界一の超絶美少女』ですッッ!!!!」
織姫は対抗する範囲を三界へ拡大した。
虚圏側から候補者も審査員も来ていないが、本人が宣言した以上、暫定一位なのであろう。大きく出た者が勝つ大会になりつつある。
二人から視線を向けられた市丸には、悩む様子がなかった。
「――なに言うてはりますん。この世で一番の美人は、乱菊に決まってはりますやん」
「「ノロケかよッッ!!!!」」
見事に声が揃った。
もっとも、市丸には公平に選ぶつもりなど初めからない。世界中の美女を集めても、回答は同じだったはずだ。
白哉はこめかみを揉んだ。
このままでは話が進まない。
そもそも、何の話を進めているのかも見失いかけていた。
「……とにかく皆、衣服を着なさい。……ルキア。一護殿は男として、奥ゆかしく慎ましやかな貞淑なる女を好むはずだ。無暗に肌を晒すでない」
ルキアは落ちていた死覇装の残骸を拾い、胸元へ巻きつけた。
兄に言われたから従ったわけではない。先ほどから着るものを探していたところへ、ようやく会話の隙が生まれただけだった。
「いいえ! 兄様、それは違います! 一護は根が単純で子供っぽい男ゆえ、横からビシッと言葉で手綱を締めてやる芯の強い女がいなければ破滅いたします! 井上も有沢も、どうにも天然すぎてあやつの教育には向いておりませぬ! ゆえに……この私が……!」
「うむ! 実に素晴らしい着眼点だ、流石は俺の自慢の妹……ゴホンッッ!! ――朽木家の気高き養女として当然の心得だ。励め、ルキア」
言い直しは間に合っていない。
「……朽木隊長、酒の勢いも手伝って完全に身内贔屓のブラコン全開になってはりますわ……」
反論はなかった。
白哉にとっては身内贔屓ではなく、妹への正当な評価だった。
■ 戸川古男と護廷十三隊
古男は護廷十三隊創設期から山本と関わりを持つ人物。
初期護廷の戦乱を経た後は戦いから退き、静かな生活へ移ることを望んでいた。
しかし山本から護廷十三隊へ残るよう強く求められ、その後「戸川古男」の名で八番隊五席へ籍を置くことになる。
■ 八番隊五席
古男が護廷十三隊へ残る際に与えられた席次。
古男の実力を表した階級ではなく、本人が表舞台へ出ることを望まなかったことを踏まえた立場でもある。
そのため、現在に至るまで公式上は八番隊五席として扱われている。
■ 古男と山本元柳斎
千年以上にわたる旧友。
山本は古男の力と知恵を護廷十三隊に必要としていた一方、古男自身は戦い続ける人生を望んでいなかった。
二人の関係には友情だけでなく、「残ってほしいと願った者」と「残ることを求められた者」という古い負債も残っている。
■ 白鷹光四郎と緋山染華
光四郎は長年にわたり染華へ好意を伝え続けている。
しかし染華は自身が再び異性から本気で愛されるという発想そのものが薄く、光四郎の言動を友情や親切として処理する傾向がある。
そのため、かなり直接的な告白であっても本人へ正しく伝わらない場合がある。
■ 白哉とルキア
朽木白哉にとってルキアは朽木家へ迎えた義妹。
普段は当主として厳格な態度を崩さないが、妹への評価について客観性を失うことがある。
本人はそれを身内贔屓とは認識していない。
■ 市丸ギンと松本乱菊
幼少期から深い縁を持つ二人。
市丸に美女の優劣を尋ねた場合、審査対象や比較条件にかかわらず、回答が松本乱菊になる可能性は極めて高い。
今後の展開について、尸魂界編のあとは
-
すぐ破面編がいい
-
バウント編とかも見たい