我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
中央四十六室から処刑を命じられていた現世の死神代行。懺罪宮を出され、現在は志波家の別邸に滞在している。
井上織姫
一護救出に参加した現世組。戦時特例解除後は瀞霊廷の客人として扱われている。
有沢たつき
一護の幼馴染。東仙要との戦いを経て、現在は療養中。
朽木ルキア
一護の婚約者。一護を巡る現世組との争いは、救出後も終わっていない。
雛森桃
五番隊副隊長。志波家本邸への強行突入に参加した結果、思わぬ後始末を抱えることになった。
緋山雷太
五番隊三席。雛森とともに志波家へ突入した張本人。
戸川古男
八番隊五席。一護の処刑撤回と砕蜂暗殺事件について、中央四十六室へ直接訴え出ようとしている。
藍染惣右介
五番隊隊長。砕蜂暗殺事件の捜査に加わり、古男の中央四十六室への直訴にも関わる。
山本元柳斎重國の名において、発令されていた戦時特例は正式に解除された。
織姫、石田、茶渡、たつきら旅禍一行には、瀞霊廷の客人としての滞在が認められた。
一護も懺罪宮を出され、瀞霊廷内にある志波家の別邸へ移されている。
砕蜂暗殺の下手人を突き止め、中央四十六室への直接直訴によって処刑命令を覆す。
隊長たちの間では、その方針で話がまとまっていた。
ただし、別のところでは話がまとまっていなかった。
空鶴と都の手で吹き飛ばされた志波家本邸について、海燕のもとへ提出された報告書には、雛森の飛梅から最初の火が放たれたと記されていた。空鶴の薬丹火花が屋敷中へ粉末を撒いていた件については、一文字もない。
都の説明を信じた海燕から、多額の修繕費を請求されたのは雛森桃。見積書に並んだ数字は、副隊長の俸給を前提に作ったとは思えない額だった。
◇◇
「雷太くんッッ!! 全然クーデターとかの調査じゃないじゃないのォォッッ!! 私は雷太くんの言葉を信じて突入したのに……何なのよこの国家予算みたいな修繕請求額はァァッッ!!!!」
全身を包帯で巻かれたまま、雛森は隣のベッドへ請求書を突きつけた。
誘った張本人にも同じ請求が届いていると思っていた。少なくとも、一緒に海燕へ事情を説明するくらいはしてくれるものと考えていた。
ところが雷太の手元には、請求書どころか見舞いの果物しかない。
「ああ〜……あの夜の雛森副隊長の体の抱き心地は、正直そこまで良くはなかったが……中はぎゅうぎゅうと吸い付いてきて最高だったぜ……」
「ヤッてないッッ!! 私たちそんなこと絶対にヤッてないィィッッ!!!!」
昨夜、薫子を温めるために同じ布団へ入ったのは事実。しかし、それ以上のことなど何もしていない。
なぜ自分の貞操について弁明しなければならないのか。雛森にも分からない。雷太はもっと分かっていない顔をしていた。
「へっ……俺と薫子と雛森が三人全裸で同じ布団で寝ていたことは、すでに連中が知っちまってるからなあ」
「わかった!! わかりましたからもうやめてええええッッ!!!!」
「よろしい、素直で大変結構」
何もよくない。請求書の額も、昨夜の噂も、そのまま残っている。
枕に顔を埋めようとしたところで、甘い声が割り込んだ。
「緋山三席ぃ〜♡ こちらの剥き加減でよろしかったでしょうかぁ?」
豊満な女性隊士の手には、綺麗に皮を剥かれた林檎。
皿を差し出すために身を寄せると、死覇装の合わせ目から深い谷間が覗いた。
「ああ。だがお前、もう少しこっちへ寄れ。……胸が遠くて揉みづらい」
「はいぃ……♡ あっ……んぁっ♡」
「それはそれとして病室に女を侍らせて揉むんじゃないわよッッ!! なんで私がアンタと同室でこんな地獄を見せつけられなきゃいけないのよォォッッ!!??」
投げた枕は、林檎の皿を避けながら片手で受け止められた。負傷していても反射神経は鈍っていない。
「ま、世間からはそういう深い仲だと思われてるのと、藍染隊長から『雛森から片時も離れるな』と厳命されているからだな。……それと、俺は見ての通り圧倒的にモテるんだよ。知ってるだろ?」
雷太のベッドを囲んでいるのは、一人ではない。他隊から来た年上の女性死神たちが、果物を剥き、茶を淹れ、布団を直し、空いた場所を見つけては身体を寄せている。
雛森のベッドへ見舞いに来た者は、今のところ誰もいない。
病室の隅には薫子もいる。しかし、雷太の周囲へ割り込むことはできず、膝を抱えたまま座っていた。
シーツの端から、雷太の足先が覗いている。
薫子の指先は、床を這うようにそこへ伸びた。足の小指へ触れた途端、包帯に巻かれた身体がビクンと跳ねる。そのまま指を離さず、何度も甘く震えていた。
雛森には、もう何も言う気力が残っていない。
なお、この理不尽な負債を背負わされたことにより、雛森桃はのちに『瀞霊廷の歴史に燦然と名を残す冷酷非情な守銭奴』として覚醒していく。
貸した金は必ず取り立て、隊舎の備品を壊した者からは修繕費を徴収し、一文の使途不明金も許さない。
その始まりは、志波家から届いた一枚の請求書だった。
◇◇
縁側から深いため息が聞こえる。
一護は膝を抱えたまま、庭を眺めていた。
懺罪宮から出られた。仲間も無事。処刑の撤回へ向けて、隊長たちも動き始めている。
何もできないまま負けたことは忘れられなかった。
「そう沈むなよ、黒崎」
「てめえらは全員スカッと勝ったから満足かもしれねえけどよ……。俺は手も足も出ねえで完膚なきまでにボロ雑巾にされたんだぞ……」
「大丈夫だ、一護。……戸川先生には、俺も絶対に勝てない」
「いや、そういう勝った負けたのレベルの話じゃなくてだなあ……!」
茶渡に悪気はない。それくらいは分かっている。
もう一度ため息を吐こうとしたところで、襖が開いた。
「黒崎君黒崎君ッ!! これ見てこれッ!! ちょっと先に行った通りにある和菓子屋さんで買ってきたお団子なの! それに私がタバスコと練乳をたっぷり加えてアレンジしたから、二人で仲良く食べよ?」
織姫の皿には、白い練乳と赤いタバスコに埋もれた団子が並んでいる。
普通の団子だった時間は、もう戻ってこない。
返事を考えているうちに、横からルキアの声が入った。
「一護……この先へ少し歩いたところに『狭山料理店(薫子の実家)』という、なかなか美味い手作りの定食屋があるのだ。……その、二人きりで腹ごしらえに食べに行かぬか?」
こちらは普通の食事らしい。そちらへ頷きかけた途端、背中へ体重が乗った。
「一護〜〜っ。腹減った〜〜。なんか飯作ってくれよー。アタシは外食より、昔から食い慣れてるお前の手料理が食いたいんだよ」
たつきの腹から大きな音が鳴った。
飯くらい作ってやりたい。だが、ルキアを断れば二人きりという部分を気にしていると思われる。織姫の団子を断れば、間違いなく悲しませる。
しばらく頭を抱えた末、一護は三人の顔を順番に見た。
「……………………わかった。喧嘩すんな、一人ずつ順番にな。――まず、たつきに手料理を作って食わせる。そのあとルキアと一緒に定食屋へ行って、帰ってきたらデザートとして井上のお菓子を一緒に食べる。これで文句ねえだろ?」
「「「わかった」」」
返事は揃っていた。
酒瓶を持った海燕が縁側へ腰を下ろした。
「がっはっは! いいハーレムっぷりじゃねえか一護! いっそのこと、現世に戻らねえでこっちへ来ちまえよ! 現世で寿命を迎えて死ぬ前に、今すぐ霊体になっちまえば十三隊の死神として大歓迎してやるぜ! 家族も友達も全員まるごと尸魂界へ連れてこい、何とかしてやるって戸川の旦那も言ってたぞ!」
「誰が死ぬかァッ!! 俺は現世のピチピチの男子高校生だッッ!!」
なぜ救出された直後に、就職先と一家心中を勧められなければならないのか。
その横で、織姫は両手を頬へ添えた。
「……じゃあ黒崎君、今夜の寝床の添い寝は、まず私が一番最初に行くね♡」
「おい待て井上、ここは正妻争いの筋を通すのが先だろ! 一番乗りで牢を破ったアタシが最初に入るのが筋ってもんだ!」
昼飯の順番を決めた直後、今度は寝床の順番が始まった。
一護と添い寝する話なのに、一護へ意見を求める者はいない。
「ふっ……順番争いなど実に不毛だな。私はすでに現世において、何ヶ月も同じ部屋でじっくりと一護の体温を確かめ合っておるのだ。ここは初心な二人に先を譲ってやろう。……そして、私の番が回ってきた時に、あやつの部屋で晴れて『続き』を致すまでよ……」
織姫とたつきの顔から、揃って笑みが消えた。
一護は何も聞こえなかったことにして、庭へ目を向ける。ここで「続きとは何だ」と尋ねるほど命知らずではない。
「ねえたつきちゃん……朽木さんって、普段お堅い割に結構ムッツリだよね……?」
「ああ……。アタシたちはただ純粋に隣でゴロゴロ添い寝するつもりだったのに、あいつ一人だけ完全にエッチな本番の話をしてやがる……」
小声のつもりらしいが、全員に聞こえている。
「何を二人でひそひそと話しておるのだ……。ふむ、そうか、合点がいったぞ。仕方のない奴らめ」
「ん?? 何だよ急に」
「男女の『初めて』が不安で堪らないのであろう? よいか、この私が手本を見せてやろうではないか。私もつい昨夜、染華から直々に教わったばかりの深遠なる真理なのだが……子作りのためには、まず男のアレを女のここへ力いっぱい――」
「そう言えば朽木さん……昨日まで『フレンチキスしたら子供ができる』って本気で信じ込んでたんだった……」
◇◇
卓上には、中央四十六室からの書状が広げられていた。
「……四十六室への直接直訴に際し、戸川君への『隊長二名の随行』を許可する……か」
藍染は書状から目を上げた。
「そういうことだな」
直訴の内容は、砕蜂暗殺事件に関する釈明の要求と、一護に下された処刑命令の撤回。
随行を許された隊長は二人のみ。誰を選ぶかによって、四十六室へ与える印象も変わってくる。
「フン、誰を連れて行く気かネ? 無論、私は絶対に御免被るヨ!!」
「最初から貴様を呼ぶ気など毛頭ない」
「何だってェェッッ!? ここは普通、私の偉大なる頭脳を頼って『どうか同行してください涅隊長』と深々と頭を下げる場面だヨッッ!!!!」
「…………ツンデレかよ……」
「誰がツンデレだネェェッッ!!!! 私は極めて論理的かつ客観的な事実を述べているだけだヨッッ!!!!」
指を突きつけられても、日番谷は顔を逸らさなかった。
「――藍染、そして冬獅郎。お前たち二人に来て同行してもらいたい」
「……は? 俺? なんで俺なんだよ?」
自分の胸を指差した日番谷に対し、藍染は眼鏡の位置を直して頷いた。
「ふむ………わかったよ、戸川君。……四十六室の頑迷な老人たちを論理と政治力でねじ伏せるには、私の知恵が必要不可欠だということだね」
■ 戦時特例
旅禍侵入および黒崎一護の処刑を巡る混乱に対応するため、山本元柳斎重國の名で発令されていた非常時の措置。
今回の解除により、織姫たち現世組も敵性侵入者ではなく、正式に瀞霊廷の客人として扱われることになる。
■ 志波家別邸
瀞霊廷内部に存在する志波家所有の邸宅。
本邸とは別の建物であり、懺罪宮から解放された一護の一時的な滞在場所として使用されている。
■ 中央四十六室への直接直訴
今回、古男が求めている特別な申し立て。
主な議題は、砕蜂暗殺事件について中央四十六室へ説明を求めることと、黒崎一護へ下された処刑命令の撤回。
古男本人のほか、隊長二名の随行が許可されている。
■ 随行隊長
中央四十六室から認められた随行者は隊長二名のみ。
人数が限られているため、誰を同行させるかは単なる護衛の選択ではなく、直訴の内容や中央四十六室へ与える印象にも影響する。
■ 狭山料理店
狭山薫子の実家が営む料理店。
瀞霊廷内で手作りの定食を提供しており、ルキアも味を知っている。
薫子本人の普段の印象とは別に、料理店としては普通に評判が良い。
■ 志波家本邸修繕費
雷太と雛森の突入、およびその後の戦闘によって生じた志波家本邸の修繕費。
海燕へ提出された報告では、雛森の「飛梅」が発火の発端として扱われている一方、空鶴の「薬丹火花」に関する事情は記載されていない。
この一件は、後の雛森桃の金銭感覚へ極めて大きな影響を及ぼすことになる。
今後の展開について、尸魂界編のあとは
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すぐ破面編がいい
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バウント編とかも見たい