私の歌を聴けぇーッ!! 作:俺の小説を読めーッ!!
原作:僕のヒーローアカデミア
タグ:R-15 ガールズラブ オリ主 残酷な描写 アンチ・ヘイト 転生 憑依 クロスオーバー 超時空要塞マクロス マクロスF マクロスシリーズ ランカ・リー 勘違い 独自解釈 百合 女主人公
歌マクロス復活記念になります。2億達成おめでとうございます! クラファンお疲れ様でした! 微力ながら数十万は支援させてもらいました。
それはそうと、ヒロアカの個性設定とプロトカルチャーの設定的にありそうでなかったクロスオーバー。ランカちゃんにしたのは好みです。ランカちゃんにするかフレイアちゃんにするかどうかは、最後まで悩みました。
小説は5話終了の短編(予定)ですが、連載になるかもしれないし、ならないかもしれない。
――アイドルになりたかった。
偶像だと分かってる。
でもテレビの向こうにいる存在はいつも煌めいていて、笑顔に溢れていた。私には、それが何よりも眩しく見えた。
いつかアイドルになる。トップアイドルになって、みんなを笑顔にしたい。みんなを幸せにしたい。
そう夢見た私を、現実は許してくれなかった。
難病に侵された私は、アイドルという夢を捨てるしかなかった。新種の病気らしく、詳しいことは分からない。分かることは
少なくとも治癒法がないということだけは教えられて、だからこそ分かりたくなかった。現実を見たくなかったから。
いずれ声すら出なくなる。喋れなくなる。体も動かせなくなる。
筋肉が徐々に衰え、発声にも影響を及ぼしていく。
そして、いずれは命さえも蝕んでいく。
そんなの、もうアイドルにはなれない。
踊れない。歌えない。輝けない。
そんなアイドルは、もうアイドルとは呼べない。ただの病人。ただの一般人だ。
私は運がなかったのだと思う。恵まれて、環境もあって、才能もあって、ただ私に運がなかった。
母がトップアイドルで、父親はパイロットだった。
母の影響が強く、私も小さい頃からアイドルになるんだと決めてた。
トップアイドルの母から生まれた私は当然のように容姿にも恵まれていた。
絶世の美少女だなんて言われてたし、自分でも容姿は整ってると思ってた。
周りのみんなも私をアイドルみたいだと、アイドルになれると言ってくれて。
母もデビューを楽しみにしてくれていた。世間も母のようなすごいアイドルになるのでは、と私を期待してくれていた。
なのに、私は期待を裏切ってしまった。
みんなを裏切ってしまった。
病魔に侵されたその日を境に、私は心を閉ざした。
優しい言葉を掛けてくれる両親の言葉も友人の言葉も何もかも響かなくて。
そんな私でも唯一、感情が動く存在が居た。
それが、私の憧れの人。ううん、大好きな人。それこそ、愛してるとすら言えた。
例えアニメの世界であっても、その子は明るくて可愛くて天使のようで。心優しく純粋で不器用だけど一生懸命。でも辛い過去を持っていて。 異なる存在と心を通わせることができるがゆえに、人間とバジュラという異なる種族の間で葛藤することになった。
それでも前へと進んでいった子。
引っ込み思案なのに意思が強く、様々な困難や葛藤を乗り越え、命を懸けた戦場でも歌い続けるほどに成長していった。人間とバジュラ、両者の想いを背負いながら、それでも自分の歌を届けようとした女の子。
そして最終的には、銀河に名を轟かせるトップアイドルへと成長するほどに。
私もその子のようになりたかった。
いつか。
いつかは、今度こそはアイドルになりたい。
もっと大きな舞台で。
私の名前を刻めるように。
煌びやかな可愛らしい衣装に身を包んで、輝くステージの上でみんなを照らしてみんなを笑顔にしたい。私の歌を届けたい。
日本中に。
世界中に。
宇宙に。
だから、だから最期に1回だけ。
1回だけ大きな舞台で歌いたかった。
残りの私の人生全部をここで使い切ってもいいと思ってた。
馬鹿な真似だと言われるかもしれない。
その夢を捨てられたら良かったのかもしれない。
でもそれはもう、私を形成する、みんなと私が紡いだ私の
最期の最期に私という『歌姫』はこの世界に確かに存在したのだと、誰かの心に刻みたくて。
今までの、これからの全部をたったの1曲に注ぎ込む。
“生き残れない”と分かった私が描いた、自分の死と哀しみと、憧れを詰め込んだオリジナル曲。
それを歌おうとした私は――病魔の進行によって、命を落とした。
夢半ばに。
歌うことすら許されずに。
命を燃やし尽くすことすら出来ずに。
最期の最期まで私はステージに立つことすら許されなかった。
最期の最期まで神様は、私を助けてくれなかった――。
そう思ってたのに。
ブラックアウトしていた視界が戻った瞬間、突如として“前世の記憶”が頭の中に溢れ出した。
ベッドから転げ落ちるようにして床に頭をぶつける。
それを気にする余裕はなく、ふらふらとした足取りで、無意識のうちに鏡の前に立った。
そこに映るのは、緑色の髪をした幼女。
くりっとした愛らしい赤い瞳。ショートヘアの両脇から垂れ下がった髪は、まるで犬の耳のように見える。
後ろ髪はリボンで結ばれ、頭頂部付近にはいわゆる『アホ毛』とも呼ばれるものがぴょこんと伸びていた。
私の記憶に、最も刻まれた少女。
私がその姿を、見間違えるはずがない。
ランカ・リー。
マクロスFに登場するメインヒロインの一人。地球人とゼントラーディ人のクォーターで、バジュラと心を通わせる特異な力がある。
ある意味マクロスFという物語は彼女の成長物語と言っても過言ではなく、男性主人公の恋愛相手としてのヒロインというだけでなく、本当の意味での
マクロスFの物語が始まる11年前、5歳の頃にバジュラによって壊滅させられた第117次大規模調査船団の生き残り。
その際に母を亡くし、家族とも離れ離れになってしまう。
そのときの悲惨な体験が原因で解離性健忘を患って、当時の記憶を失っており、その出来事は彼女にとって深いトラウマとなっている。
実は出生前に、母親の胎内にいた際に母親が感染していたバジュラ由来の『V型感染症』の影響を受けている。
その結果、ランカちゃんの体内にはV型感染症の原因となる細菌――フォールド細菌が脳に移動せず、腹部に定着し、通常の感染者とは異なる共生関係を築いている。
そのため通常の感染者とは異なり、命に関わるような症状は現れない。
そして初期の頃は自覚していなかったものの、バジュラと心を通わせる特異な能力を持っており、それがマクロスFにおいて重要な役割と鍵を握ることになる。
特に彼女の歌は、分かりやすく解釈すると種と種の壁を超えた“コミュニケーション”とも呼ぶべき力であり、相手の心に寄り添う“共感”の力。その反面、フォールド波を介してバジュラとつながることで、彼らの感情や意志まで感じ取ってしまう。
その力が、作中でも彼女に難しい判断を迫ることにもなった。
マクロスとは関係なくなるけど、ある世界線ではいある人物に“ガンダム”と認定された力だ。
最終的にはもう一人の歌姫や仲間たちと共に、歌を通じてバジュラとの相互理解に大きく貢献し、人類とバジュラの未来を切り開いていく一人になる。
それがランカ・リーという少女の物語。
媒体によって違うところはあるけれど、だいたいは同じだ。
――知識はある。物語としては知ってる。
でも記憶がない。
何も思い出せない。
前世の私の記憶はある。
この世界でも同じく、ランカちゃんは第117次大規模調査船団で起きた事件の記憶を失っていた。だから、知識として知っているだけで、自分自身の経験として思い出せるものは何もない。
バジュラの襲撃をもう受けたのだと思う。
既に年齢は5歳。
オズマさんとの生活の記憶は残っている。けれど、事件そのものの記憶はない。原作と同じように、あの出来事が原因で記憶を失っているのだろうか。
彼女の心を溶かすことになった要因のパインケーキの記憶が深く刻まれていることから、時系列的にはパインケーキの後。
なら、間違いない。
いずれ戦争は再び起きてしまう。
大好きなランカちゃんになれた。
なれた。
なってしまった。
その事実が、私の心に次々とナイフのように突き刺さっていく。
「あ……ああ……」
声も、体も、全部自然と動く。
私の体じゃないのに、私の体で。
私の心じゃないのに、私の心で。
私の記憶じゃないのに、私の記憶で。
夢だと思いたくても、目の前で動く体が夢ではないと否定する。
「いやぁああああああ!!」
心が耐えきれなくなった私は悲鳴に近い声を上げていた。
目から涙が流れ、止まらなくなる。
体の震えが止まらず、ただその場で頭を抱えて蹲ることしか出来ない。
「ランカ!? 目を覚ましたのか――どうした!? 怖い夢でも見たのか!?」
そんな私の悲鳴を聞きつけたのかやってきた人物が視界に入る。
記憶と変わらない、記憶の中で何度も見た姿。
画面越しに見ていた人物が、今は目の前にいる。
改めて突きつけられる現実。
ランカちゃんの義兄であり、彼女を引き取って妹同然に接してくれたオズマ・リー。
やっぱりこの世界は、マクロスなのだと。
同時に頭が僅かに痛み、私になる前のランカちゃんが高いところから落ちて、
「ごめんなさい……ごめんなさいッ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいッ――!」
貴方の妹を奪ってしまって。
大切な人を殺してしまって。
憧れの人を私が望んだわけじゃなくても、殺してしまった。
前世じゃない。
ランカちゃんにそんな設定はない。
私がランカちゃんになれるはずがない。
いずれ人類とバジュラの架け橋になり、大人になった頃にはトップアイドルになっているランカちゃん。
そんな彼女が世界には必要なのに、私は彼女を殺した。彼女を奪った。彼女が居なければバジュラと人類は争い続ける。
私は死ぬことすら許されない。
私が死んだらランカちゃんも死ぬ。私はこの罪を永遠に背負わなければならない。
謝る以外に何が出来る?
泣く以外に何が出来る?
ただあるがままの感情を垂れ流すしか、私には出来なくて。
「大丈夫、大丈夫だランカ。何があったんだ? ゆっくりでいい、俺に話してみてくれないか?」
そんな私を、
違う、違うよ、お兄ちゃん。
私はランカちゃんじゃないの。私がお兄ちゃんに優しくされていい理由なんて……。
「俺はランカのお兄ちゃんだ。どんなことだって力になる」
「おに、いちゃん……」
――本当にこの人は、良い人だ。
ランカちゃんが兄として慕ってるのが、改めてよく分かった。
「――ごめんなさい」
だけどまだ、私に話せる覚悟がないから。
まだこの現実を受け止めきれないから。
私はただ謝ることしか出来なかった。
まるで自分の事のように辛い顔をするお兄ちゃんを、見ないように。
でないと私は、この人を頼ってしまう。
私は、取り返しのないことをしてしまったというのに。
◇
まだ子供の身体だから、泣き疲れて寝てしまったんだと思う。
ベッドに寝かされていて、目が覚めた時はもう夜になっていた。
改めて鏡の前に立つと、そこに映ってる顔は変わらない。
いや変化は起きてる。
それは瞳に光がなく感情が消えたように無表情になってしまったランカちゃんの顔。
――ああ、また戻ってしまった。心を閉ざしていた頃のランカちゃんに。
お兄ちゃんにあんな姿を見せちゃった。
ごめんなさい。またお兄ちゃんに辛い思いをさせちゃった。
知ってるくせに。
分かってるくせに。
目の前の鏡に手を伸ばして、そっと触れる。
そうしたってランカちゃんに触れるわけじゃ、ないけれど。
ねぇ、ランカちゃん。貴女は私を許してくれないと思う。
どう生きたらいいか。
どうしたらいいか。
私には分からない。もし私の中でまだ貴女が生きているのなら、私はこの身体を返してあげたい。
アイドルになりたい夢はあるよ。前世じゃ結局、道半ばで終わったから。
トップアイドルになれなかったから。
でも、貴女を奪ってまで叶えたい夢じゃない。アイドルの世界は確かに厳しい。誰もが夢を叶えられるわけじゃない。誰かが選ばれれば、誰かが選ばれない。場合によっては、その人の人生を狂わせてしまうことだってある。
だって、奪い合いだから。全員がトップアイドルになれるわけじゃない。全員がアイドルになれるわけじゃない。
だけどこれとそれは、違う。
私は死んでもいい。もとより夢を諦めて、死んだ身だから。
でもランカちゃんにはこれからがあるから。
もしバジュラがやってこなかったとしても、貴女はいずれ好きな人が出来るから。
その恋が報われることをただ願うだけで、それだけで私は良かったのに。
こういう形じゃなくて、近くで、傍で見るだけでよかったのに。
貴女の恋を応援するだけの立場でよかったのに――
『――アイモ アイモ
ネーデル ルーシェ』
体が覚えている。心が覚えている。魂が覚えている。全部、全部覚えている。
自然と口ずさむその歌。フレーズだけじゃない。音程もリズムも全部覚えている。
ランカちゃんにとって宝物とも言える思い出の歌。この身体の記憶にも残っている、唯一の歌。私の記憶関係なく、この曲は覚えている。
星間飛行やライオンなど有名な曲ばかりが知られてるけれど、マクロスF全体ではこの曲はとっても重要な曲。
『ノイナ ミリア
エンデル プロデア』
『フォトミ』
夜の闇に包まれたベランダ。
私の知ってる
その歌は、“アイモ”。
『ここはあったかな海だよ』
この曲はバジュラが数億年に一度の繁殖期に別銀河の群れに向けて歌う“こいのうた”。
“アイモ”は“あなた”を意味する。
ランカちゃんがアイドルとしてスターダムを駆け上がるきっかけとなる曲でもあって、作中でも何度も歌われる。それはどの媒体であっても。
マクロスFという物語の中でも重要な意味を持つ曲だった。
『ルーレイ ルレイア
空を舞う ひばりはなみだ』
『ルーレイ ルレイア
おまえはやさし みどりの子』
そして、この曲はランカちゃんにとって大切な子守唄でもあった。
『アイモ アイモ
ネーデル ルーシェ』
『ノイナ ミリア
エンデル プロデア』
『フォトミ』
今の私にとっては“彼女”に向ける
『ここはあったかな海だよ』
自然と涙が溢れる。
歌を歌ったら気持ちが落ち着いた気がする。考えられるようになった気がする。
結局私は、アイドルが大好きなのだろう。
歌が大好きなのだろう。
音楽を愛してるのだろう。
その音楽のためなら、一度命を失うことになっても構わないと思えるほどに。死ぬかもしれないと分かっていながら、それでもたった一度でいいから、音楽のために、ステージに立とうとしたほどなのだから。
それが無理だったとしても。
だけど何をどうしても、ランカちゃんは戻ってこない。歌ったら戻ってくるなんて、奇跡は起きない。そんなことが起きるのは、所詮フィクションの世界だ。現実に奇跡は、そう簡単に起こらない。
私がやるべきこと。
やらなくちゃならないこと。
それは、バジュラとの対話。
それが1番、私がやらなくちゃならないこと。この身体は必ず狙われる。最悪なのは私の歌が利用されてしまうこと。バジュラを銀河支配のために利用しようとする存在がいる。そして、そのために私の歌を利用しようとする者もいる。
私はその誰かを知っている。そうなればこの世界は滅んでしまう。バジュラも可哀想だ。
彼女に成り代わってしまったなら、私は生きなくちゃならない。彼女の代わりに使命をやり遂げなきゃ。
私は私の使命を果たさなくちゃならないんだ。
死にたくても死ぬわけにはいかないから。
だから泣くのはこれが最後。
最後にしなくちゃ。強くならなくちゃ。泣いちゃ、ダメなんだ。
ごめんなさい、ランカちゃん。勝手だけれど、私は私なりに貴女になってみせるから。
だから――
『キューッ!』
「……え? きゃあ!?」
光る何かが顔に飛びついてきた。
視界を塞がれた私は、驚いて体を大きく揺らす。
手摺の上で何とか体勢を立て直そうと思ったけど、外側に落ちたら危険と分かっていた。
だからあえて抵抗せずに内側へ転げ落ちた。
でも内側だったから良かったけど、尻もちをついてしまったわけで。
お尻が痛い……。
お尻の痛みとは別で、目が開けられない。
顔が覆われてるような感触があるため、両手でそっと抱えるように持つと、小動物ほどの大きさのナニカが居た。
全身に黄緑色の体毛が生え、リスのような太い尻尾。頭部にはふたつの黒い目と赤い頭頂目。そして胸元からは、細い触手が伸びていた。
それはまるでバジュラの幼体のようで。
「もしかして、アイ君……?」
『キュー』
小さく頷く彼。
なんで。
出会いが違う。
テレビと劇場版でも違うけど、こんなすぐには出会わない。
もうバジュラが……?
でも、そんな様子はない。特別襲来が来たってわけではなさそう。バジュラは個々の個体が完全に独立しているわけではなく、群れ全体で一つの生物のように振る舞う性質を持っている。クイーンを中心にフォールド波を介して意思を伝達し、群れとして行動する。
だから意思を伝達できるランカちゃんはリトルクイーンと称されたことも。
この子は、私の知っているマクロスFでランカちゃんの傍にいたアイ君によく似ている。
けれどまるで自分がアイ君だと分かっているかのように、私の言葉に反応していた。
「……慰めてくれるの?」
『キュッ』
返事をするような鳴き声。
自分のお尻を軽く擦りながら立ち上がった私は、彼を見つめる。
私の歌はバジュラと心を通わせる。
もしかしたら私の歌を聴いて、私の感情に気づいたのかもしれない。
なんでこの子がここに居るのか分からないけれど。
それに今はもう無くなってるみたいだけど、歌ってる時は私の体はオーラを纏ったように発光していた。時空を超えて伝わる波動の“フォールド波”。
バジュラ由来の力だけど、もしかすると、フォールド波が高まったことで起きた現象なのかもしれない。けれど、私にも原因は分からない。
ただ普通に歌うだけじゃそうはならないはずなんだけど、感情が無茶苦茶になってたからそれが原因かな。
そもそも発光するなんてことあっても、フォールド細菌が定着しているのは私の腸内、つまりお腹のあたりだし。
作中では体が光るなんてことは起きず、あくまで映像演出上の現象。
もしかしたら私の知るマクロスの世界じゃない可能性が大きく出てきたため、設定も違うのかもしれないけど。
それでも、生きるって決めたなら。
「私はアイドルになる。
この日決めた決断を、私は忘れることはない。
きっとこれが私の
そのためにもいつまでも罪の意識に苛まれて何もしない訳にはいかないんだ。
両手で頬を叩くと、ヒリヒリとした痛みが頬に広がる。
そんな私を心配するように鳴くアイ君を、そっと胸に抱き寄せた。
この子の存在も、私にとって大切だ。アイ君だと自覚してるのはちょっと気になるけれど、バジュラと分かり合うためにもこの子との時間も大切にしなきゃ。それに私を慰めてくれた恩返しもしないとね。
――見ててね、ランカちゃん。私の歌を必ず銀河の果てまで届かせてみせる。
いつか貴女と同じ
◇
次の日の朝、覚悟を決めた私は緊張した面持ちで声を掛ける。
怖い。怖いけど、話さなくちゃ。
ランカちゃんとして生きると決めたならこの人にだけは伝えておかないといけない。
「お兄ちゃん」
「……ランカ?」
「大事な話があるの」
きっとこのことは本当は墓まで持っていかなくちゃならないんだと思う。
だけど私は、ランカちゃんを愛している。だからこそ、彼女を家族として愛してくれているこの人にまで嘘をつきたくなかった。その嘘は、この人の愛情を無碍にしてるみたいで嫌だったから。
だから私は――全部を話した。
後悔は、ない。
「別の人生を歩んだ記憶がある……か」
「……ごめんなさい」
「……ランカ」
手を伸ばされるのを見て、肩が震える。
拒絶される恐怖。
彼女ではない私はこの人に言い返せることはない。
それがきっと、私の罰なのだから。
何を言われても受け止められるように。たとえ殴られたとしても、それを受け入れられるように。
私は目を固く閉じていた。
「よく頑張ったな」
「え……?」
そんな私の思いとは裏腹に、優しい手つきで頭を撫でられる。
理解が及ぼなかった。
なんで。
どうして。
私は私で、ランカちゃんじゃないのに。貴方の妹じゃないのに――。
「こんなことを話すのは勇気が必要だったと思う。確かに荒唐無稽な話にしか聞こえないかもしれない。でも、
「お兄ちゃん……」
「それに……俺が思うに、ランカはランカだと思うんだ」
「え……?」
お兄ちゃんの言ってる意味が分からず、混乱する私をお兄ちゃんは優しい眼差しで、諭すように告げる。
「ランカはもう一人の自分が俺の知るランカを殺したと言っていたが、俺は1つになっただけで生きてるんじゃないかって」
「1つに……?」
「もし本当に別人になったんだとしたら、俺の知っているランカとは全く違う人間になっているはずだ。だけど、俺から見れば今のお前はランカなんだ。まぁ少し、年齢に対して大人びているようには感じるが」
そう言われて心が軽くなったような気がした。
確かに私は今、演じたりなんてしてない。
これでも素の自分を出してるはずなのに、仕草や表情、ありとあらゆるものが前世の私らしさがない。
前世の私はもっと暗かった。現実に絶望して期待をしなくなって、世界が灰色に染まっていた。
私らしさがあるとすれば、せいぜい5歳の子供らしくないってところだろう。そもそも私の前世が中学生で亡くなってるから、あまり大人らしくないというのもあると思う。
本編終盤のランカちゃんみたいな状態に、5歳の状態でなってるって感じ。
ただもしお兄ちゃんの言葉が正しいなら――私の中で生きてるの? ランカちゃん。
それとも本当に1つになっただけ、なのかな。
分かんない。分かんないけど。
私は、生きていいのだろうか?
「ただ別の人生を歩んだ記憶があるだけの、俺の大切な妹だ。それに変わりは無い。これまでもこれからも、お前は俺の妹だ」
「っ……おに、ちゃん……。うん……うん、ありがとう……!」
そんな私を肯定する言葉に、私はお兄ちゃんの胸の中で静かに涙を流した。
自分で自分を肯定することと、誰かに肯定してもらうことは別の話だ。
ランカちゃんを誰よりも近くで見てきたこの人がそう言ってくれるなら、私は生きていてもいいのだと思えた。
ううん、違うのよね。私一人じゃない。私はこれから、ランカちゃんと一緒に生きるんだ。
必ず生き残る。
生き残って、幸せになってやる。それが私がランカちゃんにしてあげられること。
改めてそう決意した時、胸が温かくなった。
それは、私の中でランカちゃんが微笑んだように。
例えそれが気のせいだったとしても、不思議と心地が良かった。
◇
それはそうと、落ち着いた頃にアイ君の存在がバレた。
元々隠すつもりはなかった。
だからこそ、アイ君のことはペットとして私が責任を持って飼うとお兄ちゃんに説明して受け入れてもらったけど、お兄ちゃんにはバジュラと交信する手段はないはずなのに、何だか息が合ってたように見えた。
なんでだろう?
そこは不思議だったけど、異変に気づいたのは私が目覚めて数日後。
そもそもずっと違和感はあった。
本来の私の出身地は、すでにバジュラによって壊滅させられている。
だからこそ、最初は納得してた。
けどここはどう見たって超長距離移民船団、マクロス・フロンティアの中ではない。本来はフロンティアで生活し、新天地を目指して航行している最中というのがマクロスF。ちなみに25番目の長距離移民船団。
最終的にはバジュラの本星とされる惑星を発見し、バジュラより譲り受けることになるんだけど……。
まずマクロス・ギャラクシーは惑星エデンから。フロンティアは地球から出発してるはず。
なのに
空は本物の空。偽りの空なんかでもない。
ここは間違いなく日本で地球……みたい。人口が明らかに多すぎるから、フロンティアには数十億もの人を受け入れるキャパまではない。だから複数の移民船団がある。
何よりマクロスにおいて地球は1度壊滅してる。共存を始めた人類とゼントラーディによって地球の復興は進んだけれど、種の保存を目的として宇宙移民が始まったのがあの世界。
マクロスFにおいても宇宙移民が始まってまだ約50年ほどしか経っていない。
続編のマクロスΔでも地球じゃなくてブリージンガル球状星団に位置する惑星のうち、主な舞台となるのはワルキューレとΔ小隊の拠点である惑星ラグナと、メインヒロインのフレイア・ヴィオンの故郷にして、Δにおいて敵勢力の「ウィンダミア王国」の母星である惑星ウィンダミアIV。
だから地球を舞台にした作品ではないはず。
7でも確かバロータ3198XE第4惑星とマクロス5船団が銀河系中心近傍のS1350N3605宙域で発見して命名した惑星ラクスとかだけど、後者は消滅したはずだし。
ただマクロスシリーズの船団は地球を再現してるため、純粋に再現してる可能性もある。
とすれば、私が知っているマクロスFの世界とは違うのかもしれない。
恐らく私が死んだ後に世に出てきた新しいマクロス世界なんだと思う。
Fから8年後のΔですら先史文明のプロトカルチャーに遺伝子操作された種族たちが星々で独自の文化を創りつつある時代とされてたはずだから、この世界も同じくいろいろな種族がいるみたい。
動物から人間に尻尾が生えてたり宇宙人みたいな見た目だったり虫みたいだったりとか。
恐らくプロトカルチャーに遺伝子操作されて生み出された存在たちが交配して生まれたのが現状なのかな。
だからΔのその先の未来と考えたらおかしくはない……かも?
でもそうなれば私の存在が説明つかない。直接登場こそしないけどシリーズは繋がってるため、当然バジュラと人類に起きたことや歌姫の存在は知られてる。
私がまだ幼いと考えたら、Fより未来の世界だと矛盾が起きてしまう。
かと言って過去なら過去で私生まれてないし。
となると、新しく作られたマクロスFの新作? 独立したマクロスFの世界?
少なくともマクロスFは2059年の物語。でもこの世界は8年後のマクロスΔ、2067年よりも
まぁ年代に関してはそれほど気にしなくていいかもしれないけど……。
どっちにしても、人気を考えたら改めて再構成したって考えてもおかしくはないかな。でも劇場版がある意味それだし……時の迷宮は違うし。
うーん、つまり……。
『キュー?』
「あ、うん。大丈夫だよ、アイ君。ありがとう」
頭に指を当てて私が考え込んでいたのを心配したのか、アイ君は心配そうに鳴きながら、胸元から伸ばした細い触手で私の頬をぺちぺちと叩いてきた。
私は返事をする代わりに、その小さな頭を撫でる。
結局悩んでも分からないよね。正直パンクしそうだった。前世の最期が中学生だった私じゃ難しいことは分からない。
この子が居るってことはバジュラは存在してるだろうし、もっと成長したらシェリルさんのことを知ることになるはず。
とにかく今は私の知らないマクロスFの世界と思っておくのが無難かな。お兄ちゃんも居るしね。流石にマクロスやマクロス7なんてことはないと思う。
それはそれで始まりの歌姫で戦争を終わらせた伝説のアイドルであるミンメンさんや本当の意味で歌で戦いを終わらせたバサラさんに会ってみたいけど。
クロスオーバー系統なら有り得るかな? 特にバサラさんとは仲良くなれそう。あの人の歌に対する情熱は凄まじいから。
とにかく私は早いうちに“超時空シンデレラ”として有名になっておきたい。
本編が始まるより早くになっていたら後の苦労も多少は軽減出来るかも。孤立状態を避ける方向で行った方がいいだろうし、私としてもバジュラと和解する方向で行きたい。
地球と変わらないなら動画投稿とかして、私の名前を売り出そう。本編同様に映画に抜擢される可能性よりも向こうから出て欲しいって言ってくれた方がいいもんね。
人前で歌うのは緊張するし恥ずかしいけど……ランカちゃんの引っ込み思案なところもちゃんと一緒みたい。
なんでかそれが凄く安心する。
これが私だったら緊張はするけど恥ずかしいという感情はなかった。
だってアイドルは人前で歌ってこそ輝くと私は思ってたから。
だけどそれをするのはまだまだ先だ。
17歳で成人だから、小学生くらいから始めればいいかな?
歌の力を強くしておいた方が和解も早くなるかも。原作なんて関係ない。どうせならバサラさんみたいに私の歌を響かせよう。
『戦争なんてくだらねぇぜ!』なんてね。
そうすれば亡くなった人たちも救えると思うもん。
少なくともマクロスF本編開始は高校生になってから。
仮にここが私の知らないマクロスFの新作だったとしても、私は必ずバジュラと和解して見せる。
銀河に響かせるよ、私の歌!
――ところで、個性って何? ヒーローとヴィランって何?
新しい設定でも取り入れたのかなぁ?