王位を継ぎそうにない好みのショタ第3王子を成長するまで愛でて放流する気だったのに気付いたら王妃にされて囲われてしまったんだけれども(白目) 作:ステラ
と
【魔帝】
最強の魔法士の称号は2人も要らない
手傷を負いながらクレスを無傷で守り抜いたコンラッドだったが、その命の炎は間もなく燃え尽きようとしていた。
失った左腕から流れる血が止まらない、顔色も青ざめており利き腕に縛り付けた剣が身体の震えでカチカチと音が鳴り続けている。
すぐ後方に追っ手が迫っていた。
「ダメだ、死ぬな……死なないでくれ……っ!」
「王よ……貴方様を守り抜く使命、守れそうにありません……申し訳……ありませ……ん」
「何を言うんだ! お前は我が国最高の騎士だ、こんな所で死ぬものか!」
クレスにとってコンラッドはただ剣の師匠ではない、シンシアがいない時ですら誰よりも傍に侍り続けたこの男の事をいつの日からか父親の様に慕ってきた。
ボタボタと流れていく命の雫を必死にせき止めようと紐でキツく縛り上げ、なけなしの魔力で回復魔法を掛け続け閉じそうな瞼をこじ開け続ける。
シア程の才能が僕にあれば……そう嘆いても現実は変わらない。
ほんの僅か死ぬ時間を先延ばしにしているだけ。
だがクレスが己の力不足を嘆く必要はない、これだけの重傷を治す事など治療を専門に学んだ治癒魔法士の中でも一握りだけなのだから。
「ここで少し休むぞ。傷さえ塞げばまだ何とかなる、もう少しすれば護衛隊と合流出来る。だからそれまで───「それまで生きていられましょうか?」っく!」
コンラッドを抱え横に飛び去る。
僅かに時間を空けて雷光が先程まで居た場所を通過し、切り裂かれた大気が爆ぜる音が鳴り響いた。
「あらあら、避けられてしまいましたか……クス♪」
「くっ……!」
明らかにワザと外したその一撃は、怯えまどう獲物を甚振る捕食者としてのサガであった。
簡単に消せる、それではつまらない。だから必死に楽しませてくれる?
そういう感情が透けて見える……だからこそ、まだ諦める訳にはいかない。
「……君の名前は聞いた事がある【破滅の魔女】カンタレラ。ラウギリーに所属してるとは聞いていなかったが」
「所属ぅ? そんな訳ないじゃない、私は雇われの傭兵よ……大金でね」
これだけね? と片手で金のマークと桁を作る軽い様子のカンタレラからは実直さを感じられない、もしかしたら金を積めば裏切ってくれるだろうか。
試す価値はある。いや、試すしかない。
「その金額なら僕は倍を出そうじゃないか、どうだろうか? 君にとって悪くない取引だと思うが」
「本当ですか? それは素晴らしい提案ですね」
で す が
果たして交渉は───決裂した。
コンラッドが重体を押してクレスの前に出て、剣を掲げる。カンタレラの放った雷が剣を中程から焼き切り落ちた剣先を粉々に消滅させた。
「これでも信頼第一でやってきてましてね、裏切りたい気持ちはありますけど今回は……残念ながら」
「お逃げ下さい……王よ……っ!」
「っ……!!」
最後の力を振り絞りクレスの前に立つコンラッド、その背中はもはや生きる事を諦めていた。目に涙が滲む、忠臣の最後の願いを無駄にしない為に走り出した。
たっぷりと距離が離れるまでカンタレラは何もしようとしなかった、薄ら笑いを浮かべて折れた剣を此方に構える誇り高い騎士へと侮蔑の視線を送っていただけ。
こうまでして稼いだ時間がどれだけ意味があるの?
そう口に出さずとも態度が雄弁に語っていた。
「あなた1人なら生きられたでしょうに、そうまでする価値があったのですか? 私がこの後追い掛けて始末するというのに。分かりかねますね」
カンタレラの周囲に雷の光球が生成される、一つ一つが先程まで放たれていた雷撃に等しい威力を持ったそれら合計10発をたった1人へと放つ。
敵といえど素晴らしき力を持った存在への彼女なりの賞賛であるそれは、狙われている当人からすれば死の宣告に他ならなかった。
(俺1人なら生きられる?……とんだ買い被りだ、これだけの魔法士を相手に俺ではどうせ生き残れんよ)
この敵を相手に主君が生きていられる時間を1分1秒でも多く稼がなくてはならない。
そのため文字通り決死の思いで積み上げた成果が過分な評価に繋がっていると思えば、騎士としては無念だが戦士としては悪くない最後だと思えた。
「さようなら♪」
全てが同時に放たれる。
全てを覆い尽くす光の奔流と爆音を最後に───コンラッドの意識は途絶えた。
粉塵が巻き上がる。
カンタレラは直ぐにその違和感を察した、己の雷魔法が直撃しておいて粉塵が起こる筈が無い。全てを破壊し尽くす魔の雷こそが己の魔法だからだ。
故にこれは自分の魔法が作り出した結果ではない。
「私の魔法を打ち消した……? 誰です!」
その叫びに合わせるように舞い上がっていた粉塵を吸い上げるように砂嵐が巻き起こり凝縮されていく、目に見えるほどに圧縮された小さな嵐、その塊を手にする人影が映る。
空に浮かびその背中に途方もない魔力で構築された鮮やかな六枚羽を持ち、嵐をも掌中に収めるレベルの魔法士。ここまで条件が揃えば阿呆でも分かる。
この世界広しと言えど【魔帝】の名を知らぬ魔法士など存在しないのだから。
「どうも、わたくしですわよ?」
「……クク! まさか、来たのか【魔帝】シンシア!!」
「その呼び名は───」
気に入りませんわね。
小さな嵐が解放されカンタレラを飲み込まんと風の猛獣が牙を剥いた。
なんか知らないけどコンラッドが死に掛けてるからチョチョイと腕を生やして回復魔法を掛けて岩陰に放置しておく。護衛が先にやられてどうしますの?
全く、もう少しやる男だと思っていたのにガッカリですわ。
どうも、わたくしですわよ。
本日はここ国境線近くで決裂した和平交渉会場跡からお送りしますわ〜!
「あら、今ので死なないのですね?」
「そよ風に吹かれて死ぬバカは居ないわぁ……フフフ」
わたくしの暴風を真正面から撃ち抜くとは思っても居ませんでしたわ、この方ってば師匠とタメを張れるレベルの魔法士ですわね。
ならば手加減は不要、わたくしが今出せる全力の一撃でとっとと倒して陛下を連れ帰って寝ますわよわたくしは。全く、誰が好き好んでこんな面倒くさい魔法士の相手なんかしなくてはならないのですか。
マジつれぇですわ。
「こうしてお前と戦場で出会えるとはな、なんという幸運! この私【破滅の魔女】カンタレラがお前を必ず殺してやる!
「……ッ!!」
ローブの奥から這い出た紫紺の蛇が膨大な電力を身に纏い巨大な雷蛇となった、これは使役魔法? それとも召喚魔法? 分からない。
ただ一つだけ分かる確かなことは、この魔法に込められた悍ましい魔力がわたくしの風を散らす毒の様な効果を発揮しているということだけ。他でもない風に特化したこの魔法は、通常の構成とは一線を画するモノである筈。
「ソレってもしかしてわたくしの
「そうよ! 私の望みはお前を超え世界に私の名を、この【破滅の魔女】の名を刻み付ける事なのよ! それが狙いでこんな茶番に乗った!!」
「……ッ!」
あらやだストーカーだったのね。
ごめんなさい、わたくしショタ以外と付き合う気は無いしそもそも貴方の様に歳を取った方は好みでは無いのです。
「お前が出てこないと聞いた時はガッカリしたけど金払いは良かったから不満はなかった、けどこうしてここでお前に会えたなら十分よ! もう金なんかいらない、お前を殺して私の力を証明するの! この【破滅の魔女】カンタレラの名を!」
「……ッ!」
くっ、マズイですわね。
まさかここまで
戦慄が走る……このままではわたくし勝てない……いいえ負けてしまうかもしれない。
「まさか、わたくしと
「ハハハハハ!」
だって初めてですもの。
このわたくしと。
【魔帝】と呼ばれるわたくしと。
互角のレベルで酷い渾名を持った魔法士に会えるだなんて……!!
ダメだ、わたくしには出来ない。
こんな酷い渾名を持った相手と戦うだなんて……ッ! わたくしには出来ない……っ!!
わたくしと(同等のセンスの無い酷い渾名に関しては)互角……と言ったところですわね。
この女もう少し真面目に戦うべきである(ド正論)