前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜 作:オカノヒカル
ガレス・ロズベルは、共同治安艦隊の中型艦にある会議室へ通された。
窓はない。
中央に机があり、その向こうには二人の男が座っている。
壁際には武装した警備員。
銃口はこちらへ向いていない。
それでも、扉の前から動く気もないらしい。
「領主閣下のご協力が必要です」
正面の男が端末を操作した。
机上へ文書が並ぶ。
「先に私を安全圏へ移せ」
「現在も閣下の安全確保を継続しております」
「では、これは何だ」
ガレスは文書を送った。
本星港への共同治安艦隊入港許可。
本星防衛権の一時委任。
第一艦隊と第二艦隊への武装停止命令。
ステーション17周辺の共同安全管理。
そして、
「待て」
ガレスの指が止まった。
「《アーク・ロズベル》を一時管理下へ置くとは何だ」
「未登録高出力機関および兵装の安全検査に必要な措置です」
「第一艦隊まで武装を止めろというのか」
「治安正常化までの一時措置となります」
ガレスは文書を閉じた。
「断る」
男は表情を変えなかった。
「もちろん、閣下へ署名を強制するものではありません」
ガレスの肩から、わずかに力が抜ける。
その直後、壁面に映像が出た。
カレド南半球。
巨大な爆発痕が残った砂漠。
「ただし、ロズベル領内の治安状況は、現在も極めて不安定です」
「……それを消せ」
「さらなる安全確保措置を避けるためにも、早急な正常化をお勧めいたします」
ガレスが男を睨んだ。
「それを脅迫というのだ」
「現状をご説明しております」
男の声は、最初から最後まで変わらなかった。
**
『解析結果を更新』
ノアの箱舟型投影が主画面脇で明滅した。
『砂漠への戦略投射弾発射記録と、共同治安艦隊各艦の兵装反応を照合しました。同種兵装の発射能力が確認されている艦は、現時点で一隻です』
星図上で一つの艦影だけが赤く囲まれる。
「ほかの艦も先ほど、兵装出力を上げていたな」
『通常対艦兵装、迎撃兵装、防御系の戦闘準備反応と判断します』
「なら、地上へあれを落とせる船は一隻だけか」
『確認できている範囲では肯定』
一隻潰せば、少なくとも同じ兵器をもう一度地上へ撃たれる心配は減る。
セラが別の表示を開く。
「戦略投射弾を《アーク》へ撃ってくる可能性は?」
『物理的には可能です。ただし、長距離軌道投射を前提とした兵装であり、通常対艦誘導弾より発射準備に時間を要します。機動艦艇への使用では迎撃または回避される可能性が上昇します』
「大きな船を撃つより、動かない星を脅す方が向いているのか」
「簡単に言えばそうです」
セラはそこで、共同治安艦隊中央後方の表示を指した。
「こっちはガレス領主です」
『領主認証信号を継続捕捉。ガレス・ロズベルは当該中型艦へ収容されている可能性が高いと判断』
戦略兵器を持つ艦とは別だ。
「主砲で撃つわけにはいきませんね」
「分かっている」
「確認しただけです」
「兄上ごと焼く趣味はない」
「そこまで疑ってません」
本星側の配置も動いていた。
第一艦隊は、クレインが指揮する軽巡洋艦二隻と駆逐艦四隻が、港の外側で戦闘線を作っている。
旗艦の重巡洋艦はまだ修理中だ。
第二艦隊では、ハイゼンの旧式軽巡洋艦を港側へ残した。
火力で第一艦隊についていける船ではない。
その代わり、民間船の退避航路と軍港の間に位置させ、抜けてきた敵への対応と救難に回す。
本星側にいるフリゲートは、港湾管制と避難船の通信中継。
補給工作艦は軍港から出していない。
戦闘が始まれば、壊れた艦は必ず出る。
直す船まで前へ出して壊す必要はない。
「クレイン」
回線を開く。
〈こちらクレイン〉
「兄上の船まで近づきたい」
〈第一艦隊が正面を押す。その間に《アーク》で入るか?〉
「そのつもりだった」
セラが首を振った。
「敵中央を抜ける必要があります。第一艦隊もまだ修理が終わった艦ばかりじゃありません。力押しは危険です」
〈聞こえた〉
クレインが短く答えた。そしてすぐに代替案を出す。
〈なら、第一艦隊で無理に敵艦隊の隙を突くのはやめる。ここから射程内の敵の前衛を押さえる〉
「頼む」
俺はガレス兄上のいる艦を見る。
「とにかく、揚陸隊を送り込める距離まで行く必要がある」
「そこへ行くまでが一番難しいんですが」
「そこは考える」
「今ですか?」
「まだ時間は――」
『警告』
ノアの声で、話が止まった。
赤く囲まれていた戦略投射艦に新しい表示が重なる。
『戦略投射艦に、先ほどの発射時と同一系列の反応を検出』
セラの顔が変わった。
「また砂漠を?」
『弾道予測を開始』
主画面上に細い線が伸びる。
カレドへ。
だが、今度は南半球へ向かわない。
線は本星港近くへ落ちていった。
『予測照準域を表示』
港湾外縁の軍事管制区。
大型の物流設備と軍用輸送施設が並ぶ場所だ。
そのすぐ外には、民間倉庫。
輸送業者の居住区。
医療施設。
避難民の一時収容区画まである。
『推定被害範囲内に民間区域を含みます』
セラが小さく息を吸った。
「……今度は、人がいます」
「ああ」
通信を開く。
「こちらはロズベル領軍第二艦隊司令、レオン・ロズベル。地上への照準を解除しろ」
数秒後、共同治安艦隊から男の声が返った。
〈現在、ガレス・ロズベル領主閣下との正常化協議を実施しています。ロズベル領軍が武装停止に応じれば、安全確保措置を継続する必要はありません〉
「照準を外せ」
〈第一艦隊および第二艦隊の武装停止を確認後、発射準備を解除します〉
回線を切った。
『戦略投射兵装、発射準備進行。発射まで推定五十一秒』
「通常兵装で、あの艦を止められるか」
『通常対艦誘導弾では、発射設備を時間内に確実に無力化できる保証がありません』
「主砲なら」
『可能です』
セラが俺を見た。
「司令」
「ああ」
「撃てば、次に主砲を使えるのは約五時間後です」
分かっている。
セラはガレス兄上の乗った艦を星図へ並べた。
「あの艦は共同治安艦隊の中央より後ろです。この一発をここで使えば、そのあと私たちは、主砲なしであそこまで入らなければなりません」
「そうなるな」
「それでも撃ちますか?」
本星側の被害予測を見る。
赤い範囲の中に、いくつもの居住区画がある。
「地上の人間を賭けにはできん」
セラは一度だけ目を閉じた。
「了解しました。主砲発射準備」
『主砲支持軸、基準範囲内』
「冷却系、正常」
『艦首軸線、目標へ固定』
《アーク》が姿勢を変える。
今回は射線の先にカレドはいない。
艦首の分厚い装甲扉が開いていく。
その奥で、長い砲身が姿を見せる。
黄金の術式が艦首から中央主骨格へ走った。
支持軸。
外骨格。
中央骨格。
前に撃った時は、返ってくる力の道が細すぎた。
今は違う。
一本へ集まった力を、船全体へ逃がす。
『治安部隊、戦略兵器発射まで推定二十三秒』
「撃て」
《アーク》の主砲が火を噴いた。
艦橋の床が沈む。
白い光が宇宙を引き裂き、戦略投射艦の防御へ直撃した。
一瞬だけ、敵艦を包む光が膨れ上がる。
耐えたように見えた。
次の瞬間。
白光が防御を突き破った。
戦略投射艦の船体下部前方――大型の投射設備がまとめて消し飛ぶ。
装甲が内側からめくれ上がった。
巨大な破口から、赤熱した構造材と機材が噴き出す。
遅れて二度、三度と閃光が走った。
投射設備へつながっていた出力伝達部が連鎖的に破裂し、船体側面の装甲板が何枚も吹き飛んでいく。
艦の前半部が炎と破片に包まれた。
姿勢制御を失った巨体が、ゆっくりと横へ傾く。
『戦略投射設備、反応消失』
まだ爆発は続いている。
『前部兵装区画、大破。主電力経路複数遮断。戦闘管制機能、大幅低下』
「推進器は?」
『後部主推進系に反応あり。ただし姿勢制御能力は著しく低下しています』
敵艦は沈んではいない。
だが、もうこちらへ砲口を向けられる状態でもなかった。
共同治安艦隊の列から外れ、破片を撒き散らしながら回転していく。
「同じ兵装を使える船は」
『現時点で、ほかに確認されません』
カレドへ伸びていた赤い照準線が消えた。
あの船はもう地上へ撃てない。
その代わり。
『主砲、冷却工程へ移行。支持軸検査開始』
表示の一角に時間が出る。
『再射撃可能予測――四時間五十九分後』
「これで主砲は使えません」
「分かっている」
「念のためです」
兄上が五時間も大人しく待っていてくれるとは思えなかった。
**
共同治安艦隊から通信が来た。
〈ロズベル領軍による当艦隊への攻撃を確認した。共同治安活動に対する明確な武力行使と判断し、当艦隊は自衛措置へ移行する〉
ついさっき、星へ戦略兵器を落とした連中が言うと、なかなか味わい深い。
「クレイン」
〈聞いている。第一艦隊、迎撃開始!〉
宇宙が光った。
共同治安艦隊の前衛から、対艦誘導弾が一斉に放たれる。
第一艦隊の駆逐艦が前へ出た。
〈駆逐艦一番、二番、迎撃弾展開! 三番は《アーク》右舷へ抜ける高速艦を止めろ!〉
クレインの命令が回線を走る。
迎撃弾同士が宇宙でぶつかり、小さな閃光がいくつも生まれる。
残った誘導弾へ駆逐艦の速射砲が追いつく。
軽巡洋艦二隻は、その後ろから敵前衛へ射撃を返した。
第一艦隊だけではない。
〈司令、ハイゼンです〉
第二艦隊の旧式軽巡洋艦から通信が入った。
〈港側へ抜けようとした小型艦を一隻確認。こちらで牽制します。救難艇の退避も続けます〉
「無理に追うな」
〈もちろんです。うちの船で追いかけっこは勘弁してもらいたい〉
「それでいい」
本星側のフリゲートも、退避中の民間船と港湾管制の間で通信をつないでいる。
軍港では、第二艦隊の補給工作艦が外部修理ドローンを展開したまま待機中。
第一艦隊の補給工作艦も、その近くにいる。
『左舷より粒子兵装』
ノアの警告。
白い線が《アーク》へ伸びる。
シールドが受け、船体が揺れた。
「右舷からも来ます!」
セラが叫ぶ。
別方向。
今度はビーム。
正面だけなら、これまでの防御でも受けられる。
左右から同時となると面倒だった。
俺は艦内を流れる術式を見る。
装甲へ刻んだ線。
外骨格。
主骨格。
炉を作った時に覚えた。
流れ込む場所と通る道を決め、必要な量だけ流せばいい。
自分でずっと押し続ける必要はない。
「ノア。《アーク》の防御用術式を全部つないでくれ」
『要求内容を確認』
「艦首だけでは足りない。船全部だ」
「船全部?」
セラがこちらを見る。
「司令、何をするつもりです?」
「防御魔法だ」
「魔法ですか? 主砲はこれ以上撃てませんよ」
「防御魔法と言っただろ」
時間がない。
俺は壁へ手を触れた。
エーテルを流す。
艦首の術式が光る。
その光を装甲の継ぎ目、白い外骨格、中央ブロック、艦尾、放熱板へ通し、船全体へ道を伸ばした。
『未登録防御領域を確認』
黄金の光が《アーク》を包む。
『領域、艦全周へ拡大』
右舷へ敵のビームが刺さった。
装甲へ届く直前。
光が曲がった。
黄金の膜に沿って船体表面を滑り、熱だけを薄く散らして消える。
続いて粒子流。
正面から来た誘導弾の爆発。
全部が同じ膜へぶつかった。
『右舷装甲温度上昇、許容範囲』
セラがシールド表示を見る。
「……シールド?」
すぐに別画面を開いた。
「違う。シールドジェネレーター、ほとんど出力上がってない……」
「だから防御魔法だ」
「そこを今、納得したくないんですが!」
次は左。
左舷側へ流れを厚くする。
右を少し薄く。
艦首へ回していた分を後方へ。
敵が撃つ場所へ合わせて、エーテルの流れを変える。
古い盾を持って走り回るより、盾そのものを船の周りへ動かす方が早い。
悪くない。
**
セラには、それがシールドにしか見えなかった。
灰色の《アーク》を包む、薄い黄金の膜。
敵の光が触れるたびに、熱が横へ逃げる。
粒子流が曲がる。
爆発の圧力まで広い範囲へ散っていく。
なのに。
「シールド出力、平常値……」
『既存シールド設備の大幅な出力上昇はありません』
「やっぱり司令の……」
そこまで言って、セラは口を閉じた。
セラは船体負荷、外骨格、冷却、制御系の表示を順に切り替える。
その中で、一つだけ妙な数字があった。
「ノア。主制御端末三番の内部温度」
『上昇中』
「上昇率は?」
数字が表示される。
セラの顔から表情が消えた。
「高すぎる」
防御魔法が端末を直接動かしているわけではない。
既存の制御系が、船体各所の異常なエネルギー移動を追って補正と再計算を繰り返し、古い端末へ処理が集中していた。
「三番の補助処理を切って。監視だけ残します」
『実行』
負荷が下がらない。
「冷却系は?」
『冷却流量低下。制御弁応答遅延』
セラは端末の裏側を思い出す。
古い電力変換部。
冷却管。
圧力逃がし。
全部、何度も自分で開けた場所だ。
「手動バイパスを開けて!」
『応答なし』
「まずい……」
主制御端末三番は、レオンのすぐ横だった。
正面表示へ集中している。
彼は気づいていない。
「司令、そこから離れてください!」
「今動くと右舷が薄くなる」
「違います! 端末が持ちません!」
『警告。主制御端末三番、内部圧力上昇』
もう弁を開けても間に合わない。
セラは席を蹴った。
二歩。
レオンの制服を掴む。
「司令!」
引いた。
その瞬間。
端末の背面が破裂した。
高温の気体。
焼けた金属片。
衝撃。
レオンがいた場所へ、太い破片が突き刺さった。
その横で、セラの身体が床へ落ちた。
胸の下が熱い。
呼吸がうまくできない。
何か言おうとした。
声にならない。
レオンが倒れていない。
それだけを確認した。
身体から、力が抜ける。
『警告。副官セラ・ヴィルナーの生命反応、急速に低下』