前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜 作:オカノヒカル
『目標艦、加速継続』
星図の中央で、ガレス兄上を乗せた中型艦が遠ざかっていく。
『現在の航路を維持した場合、対象艦はハイパーレーン進入口へ到達します』
「入られる前に追いつけるか?」
『現在の戦闘加速を継続すれば可能です』
ノアが進路上へ赤い表示を重ねた。
『ただし、共同治安艦隊所属艦による迎撃線を通過する必要があります』
「見えている」
『共同治安艦隊、戦闘可能艦二十三。前衛七隻、中央主力十隻、後方六隻。先ほど主砲で損傷させた戦略投射艦一隻は戦列外です』
もとは二十四隻。
一隻潰しても、まだこちらより多い。
前衛七隻は第一艦隊と撃ち合っている。
中央の十隻も、本星側へ向いたまま動けない。
後方六隻。
そのうち一隻が、兄上を乗せて逃げている。
そして、その間に俺たちを止めようとする艦がいる。
後ろでは第一艦隊が、共同治安艦隊の主力を本星側へ押しとどめている。
「操舵、そのまま追え」
「了解。追尾継続」
主画面の端で、高速艦二隻が進路を変えた。
こちらへ向かってくる。
「ノア。セラは?」
『医療区画にて経過観察中。生命兆候、安定』
よし。
「司令官」
リーネが薄い端末から顔を上げた。
「セラから伝言を預かっています」
「何だ」
「『艦首を壊したら、始末書と資材発注書を私の代わりに百ページほど書いてもらいます』だそうです」
「元気そうだな」
リーネが小さく笑った。
「ええ。書類の心配ができるくらいには」
なら、しばらく寝かせておけばいい。
艦橋へ戻ろうとしたら、今度こそ医療班に止めてもらおう。
リーネは端末へ視線を戻した。
「推進系や冷却はノアに任せます。わたしは骨だけ見ておきますね」
「頼む」
「ええ。《アーク》の骨は、少し癖がありますから」
艦首盾頭。
白い外骨格。
中央を通る主骨格。
いま必要なのは、この古い船がどこまで無茶に耐えられるかを判断できる人間だった。
『共同治安艦隊、高速武装艦二隻が迎撃針路へ移行』
クレインから通信が入る。
〈レオン司令。そちらへ二隻回った!〉
「確認した」
〈まだ射程内だ。片方はこちらで牽制する。だが、これ以上離れれば届かんぞ〉
「ああ。十分だ」
〈なら行け。こっちは任せろ!〉
後方から第一艦隊の射撃が伸びた。
こちらへ向かっていた高速艦一隻が回避を強いられ、進路を外す。
残った一隻はそのまま来た。
第一艦隊の射程表示が、少しずつ後ろへ離れていく。
ここから先は俺たちだけだ。
『正面より対艦誘導弾』
「防御、前へ三割増し」
『未登録防御領域、再配分』
《アーク》を包む黄金の膜が、正面だけ少し厚くなる。
誘導弾が突っ込んだ。
一発。
二発。
爆発が艦首を包む。
光が晴れた時、《アーク》はまだ同じ方向を向いていた。
『艦首装甲温度、許容範囲』
『右舷より粒子兵装』
「今度は右か」
正面へ寄せた分を戻し、そのまま右舷へ厚くする。
青白い粒子流が黄金の膜へ触れ、大きく横へ逸れた。
船体へ届いた熱だけが装甲表面を走る。
『右舷装甲温度上昇。航行に支障なし』
左後方に警告。
今度はビームだった。
「左後ろ」
『再配分』
黄金の膜がまた動く。
敵は正面からだけ撃ってくるほど親切ではない。
なら、撃たれた場所を厚くすればいい。
「操舵、そのまま」
「了解!」
灰色の巨艦は速度を落とさない。
敵高速艦が右前方へ回り込む。
『対象、射撃姿勢へ移行』
「右舷副砲。あいつをどかせ」
副砲が旋回する。
敵艦の進路へ砲撃が走った。
一射目をかわす。
二射目も外れる。
三射目が敵シールドを叩いた。
そこへ通常対艦砲が続く。
『対象艦、姿勢制御出力低下』
敵艦がこちらの正面から外れていった。
追わない。
目標は一隻だけだ。
ガレス兄上を乗せた中型艦。
『対象艦との距離、縮小中』
その艦から通信が入った。
〈《アーク・ロズベル》へ警告する。当艦にはガレス・ロズベル領主閣下が乗艦している。これ以上の接近は、領主閣下の安全を脅かす行為と判断する〉
「なら返せ」
〈領主閣下は当艦隊の保護下にある〉
「本人を出せ」
返答が止まった。
数秒待つ。
兄上の声は聞こえない。
「保護している本人とは話せないらしいな」
〈領主閣下は現在、重要な協議中である〉
「そうか」
回線を切った。
『ガレス・ロズベル領主認証端末、活動継続』
「今は何をやっている?」
『共同治安艦隊への本星港緊急入港許可文書。認証確認手続き進行中』
最初に港か。
あれが通れば、共同治安艦隊は領主本人の許可を得たと言って本星へ入ってくる。
その後ろには、もっと面倒な書類が並んでいるはずだ。
「進みが遅いな」
『ガレス・ロズベル本人の意思による遅延か、認証手続き上の遅延かは判定不能』
「兄上なら、自分の権限を渡したくないだけだろう」
領民のためというより、自分の権限を渡したくなくて粘っているのだろう。
そのおかげで、こちらには時間ができている。
兄上らしい。
「グレッグ」
揚陸区画へ回線を開く。
〈はい、司令〉
「接舷できれば乗り込めるか」
〈そのための揚陸隊ですからな〉
「向こうが扉を開けてくれると思うか」
〈思いません〉
「なら入口はこちらで作る」
グレッグが一拍だけ黙った。
〈了解しました〉
どうやって、とは聞かなかった。
俺は目標艦の表示を拡大する。
「ノア。兄上の位置は」
『領主認証信号、艦内熱源、電力分布を照合。艦中央部付近と推定』
「詳しい設計図は」
『取得できません』
「兄上のいる区画から離れていて、炉心や主推進器も巻き込まない場所はあるか?」
リーネが敵艦の外形図を引き寄せた。
「少し待ってくださいな」
熱源。
主推進器。
大型電力経路。
小型艇らしい反応。
ノアが集めた情報を重ね、リーネが一つずつ外していく。
「後部側面でしょうね」
一点が強調された。
「領主認証信号からは十分離れています。炉心と主推進系も外せる。大きな熱源がないので、作業区画か小型艇格納区画に近いと思います」
「そこへ行く」
「接舷するの?」
「ああ」
リーネは相対位置を見た。
「向こうが受け入れてくれれば、ですけれど」
「接舷口は使えないな」
「そうでしょうね」
「なら、穴を開ける」
リーネの指が止まった。
「……穴?」
「《アーク》で」
青灰色の目がこちらを向く。
「まあ」
一拍。
「ずいぶん大きな工具をお使いになるのね」
「使えるか?」
「使い方次第です。敵艦を沈めない。中の人も生かす。それでよろしいのね?」
「そうだ」
「でしたら、衝突条件を決めます」
ノアが両艦の相対速度と質量差を表示する。
リーネがそこへ敵艦の構造推定を重ねた。
『相対速度候補を表示』
「上は切ってください。速すぎます」
表示の一部が消える。
『下限を再計算』
「そこも不要です。遅ければ外板を潰すだけで止まります」
残った範囲は狭かった。
リーネが帯状に強調する。
「この範囲です」
「ここなら穴が開く?」
「外殻と、その内側を一枚か二枚。中央骨格までは届かせない想定です」
彼女は操舵席へ顔を向けた。
「操舵士さん。相対速度がこの帯へ入ったら、その時点で減速を止めてください。わたしの指示は待たなくて結構です」
「了解。設定範囲を受領」
『衝突条件を操舵系へ共有』
「随分手際がいいな」
「船をぶつけるだけなら簡単ですもの」
リーネが少し笑った。
「壊しすぎないようにぶつける方が難しいの」
「道具は壊れる物だ」
彼女が《アーク》艦首の防御表示を見る。
「あの防御魔法は、実体衝撃にも使えるのね?」
「ああ。前の世界では、魔物の爪や剣も防いでいた」
リーネが敵艦を見る。
「相手がずいぶん大きくなっていますけれど」
「使える力も増えた」
「では、衝突時に返ってくる力を艦首全体へ散らしてください。残りは盾頭から外骨格、主骨格へ逃がします」
「全部魔法で止めなくていいのか」
「むしろ困ります。船体へどんな荷重が残っているのか分からなくなりますから」
「分かった」
『対象艦、回避機動開始』
兄上を乗せた艦が右へ逃げた。
ようやくこちらの狙いに気づいたらしい。
「操舵、追え」
「了解! 対象艦、右へ回避!」
『試作二号、艦首姿勢制御系へ補助出力』
姿勢制御スラスターの反応が揃う。
《アーク》の巨体が大きな弧を描いた。
相手ほど速くは曲がれない。
だから、曲がってから追わない。
『対象艦、右方への回避継続を予測』
リーネも表示を指した。
「そのまま右へ逃げますね」
「操舵。先に右へ」
「了解!」
敵が曲がった先へ、《アーク》の艦首が回り込む。
中型艦がさらに針路を変えた。
〈《アーク》! 直ちに進路を変更せよ! 衝突するぞ!〉
敵から通信。
「分かっている」
〈ならば停止せよ!〉
「ガレスを返せ」
〈領主閣下は当艦隊の保護下にある!〉
「なら保護したまま待っていろ」
回線を切った。
『対象艦との距離、急速に減少』
全周防御はまだ残している。
右舷から来た小口径砲を受け流す。
左後方から一発。
そちらへ少し流す。
『左舷外装に被弾。装甲区画への貫通なし』
「無視する」
「了解!」
もう周囲の敵艦も、大きな砲は撃ちにくい。
主画面の中で、《アーク》とガレス兄上の艦が重なり始めている。
『衝突予測点、目標艦後部側面へ収束』
「減速開始!」
操舵士が主推進器を絞った。
『相対速度低下』
距離表示が急速に減っていく。
リーネは構造値だけを見ている。
『設定範囲まで四秒』
敵艦の外装が大きくなる。
『三』
相手が最後の回避を試みる。
試作二号の補助を受けた艦首姿勢制御が追従した。
『二』
『相対速度、設定範囲へ進入』
「減速停止。相対速度維持!」
操舵士が即座に切り替える。
ここからだ。
「ノア。全周防御を絞る。全部、艦首へ」
『未登録防御領域、再配分』
《アーク》を包んでいた黄金の膜が動いた。
左右から薄れる。
艦尾から消える。
そのすべてが艦首盾頭へ幾重にも重なっていく。
『艦首正面へ極端集中。側面および艦尾防御、最低水準』
リーネが距離表示を見る。
「この距離なら、もう横へ逃がす必要はありませんね」
「ああ」
「前だけなら、こちらで持たせます」
『対象艦シールドまで十二秒』
敵艦の防御場が目前へ広がった。
青白い光と、艦首を覆う黄金の膜が触れる。
『対象艦シールド接触』
船体が震えた。
『反発力上昇』
押し返す力が来る。
正面から受けない。
右へ。
左へ。
敵シールド表面の流れを、艦首の外へ押し流していく。
青白い防御場が大きく歪んだ。
『対象艦防御場、局所出力低下』
中央に穴が開くように、防御場が薄くなる。
リーネがそこを指した。
「そこなら通れます」
「操舵。このまま」
「了解!」
敵艦の外装が迫る。
装甲板の継ぎ目まで見えた。
もう逃げ場はない。
『接触まで三秒』
「総員衝撃に備えよ!!」
黄金の防御を艦首へ固定する。
リーネの声は変わらなかった。
「綺麗に開けてくださいな」
『二』
艦首盾頭が、敵艦の横腹を埋め尽くす。
『一』
艦首盾頭が、敵艦の横腹へ突き刺さった。
『衝突』
床が跳ねた。
身体が拘束具へ叩きつけられる。
艦橋の照明が一瞬消えた。
どこかで固定の甘かった何かが飛ぶ。
船体の奥から、巨大な金属を無理やり曲げた振動が伝わってきた。
黄金の防御魔法が艦首へ返る衝撃を左右へ散らす。
それでも全部は消えない。
白い外骨格が軋む。
艦首盾頭が歪む。
『対象艦外装破断』
主画面に敵艦の構造推定が出る。
外板が内側へ潰れた。
フレームが折れる。
その奥。
隔壁へ《アーク》の艦首が達する。
リーネの声だけが静かだった。
「一枚目、破断」
まだ止めない。
『対象艦内部隔壁損傷拡大』
「まだ」
《アーク》の艦首がさらに食い込む。
割れた外装板が左右へ押し開かれる。
「二枚目――」
リーネが数値を見る。
すぐに顔を上げた。
「そこまでです。推進を止めてください」
「操舵!」
「主推進停止!」
『主推進器停止』
もう一度、大きな振動が来て、それから止まる。
《アーク》の艦首は、敵艦の横腹へ深々と食い込んでいた。
『対象艦外殻、開口』
『第三隔壁手前で艦首侵入停止』
「兄上のいる区画は?」
『ガレス・ロズベル推定所在区画への構造損傷、軽微』
よし。
リーネが結果を見て、小さく息を吐いた。
「……まあ」
少し笑う。
「本当に、穴だけ開いたわね」
「頼んだとおりだ」
「ええ。計算したのはわたしですもの」
端末を閉じかけて、また開いた。
「実際に戦艦で試す方がいるとは思いませんでしたけれど」
「成功したならいい」
『《アーク》損傷を報告』
まだあった。
『艦首盾頭、局所変形。外骨格固定部三か所、許容値超過。艦首姿勢制御スラスター一基停止。防御術式節点、過負荷』
リーネが自艦の船体図を確認する。
「白い骨は持ちました」
「なら問題ないな」
「ただし、もう一度はお勧めしません」
「一度で足りる」
「それなら安心しました」
さらに艦首を拡大する。
「でも、艦首、壊れましたね」
「壊れたというほどか?」
「セラなら壊れたと判定すると思います」
「百ページか」
「たぶん増えますよ」
困った。
ガレス兄上より、そちらの方が少し怖い。
『対象艦、離脱噴射開始』
敵艦の推進器が動いた。
《アーク》の艦首を抜こうとしている。
「離れますね」
「固定できるか」
「できます」
リーネは即答した。
「外骨格の作業用クランプを二基。非常用係留も二本」
「ノア」
『作業固定具、展開』
白い外骨格の一部が動く。
工廠作業用の大型クランプが伸び、裂けた敵艦の外装へ噛み込んだ。
もう一方も反対側へ。
太い係留ワイヤが射出され、破断したフレームへ食い込む。
『固定具、ロック』
敵艦が推進器を吹かす。
二隻まとめて揺れた。
離れない。
『対象艦離脱、失敗』
「便利だな、この船」
「元は工廠規格ですから。こういう仕事の方が得意なのかもしれませんね」
戦艦で敵艦に穴を開けるのが工廠仕事かどうかは、聞かないことにした。
『周辺敵艦、主兵装射線変更』
主画面で、こちらへ向いていた敵艦の一部が砲口を逸らした。
『一部兵装、射撃停止』
「向こうも撃ちにくくなったみたい」
「兄上を保護しているからな」
リーネが敵艦を見た。
「便利な言葉ね。保護って」
「ああ」
俺は揚陸区画へ回線を開いた。
「グレッグ」
〈なんでしょう? ずいぶんと大きな衝撃でしたが〉
「入口は開いた」
ヘルメット越しのグレッグが、外部映像を見たようだ。
〈ずいぶん立派なのを作りましたな〉
「狭いよりいいだろう」
〈違いありません〉
揚陸区画の隔壁が開く。
強化揚陸装甲が一機ずつ動き出した。
「優先順位を確認する。兄上を生きたまま確保。領主認証端末を押さえる。進行中の承認手続きを止めろ」
〈了解〉
「兄上には、帰ってから話がある」
グレッグが短く笑った。
〈でしょうな〉
回線の向こうで、隊員たちが裂けた船体へ移る。
減圧した区画。
非常灯。
押し潰された外装。
その間を、強化揚陸装甲が進んでいく。
『揚陸部隊、対象艦船体内へ侵入』
グレッグのヘルメット映像が主画面の一角へ出た。
床も壁も歪んでいる。
破片が浮いていた。
その先に、閉じた緊急隔壁。
〈第一区画へ入ります〉
「任せる」
強化揚陸装甲の一機が先行する。
隔壁脇から敵の保安兵が出た。
短い射撃。
揚陸装甲の盾に弾が当たる。
〈武器を捨てろ!〉
グレッグの声が響く。
一人が後退。
もう一人が撃ち続ける。
グレッグ隊は正面から撃ち返さず、左右へ展開した。
壁際から一人を押さえる。
もう一人も武器を弾かれた。
〈第一区画確保〉
早い。
さすが専門家だ。
『ガレス・ロズベル領主認証端末、手続き進行』
「どこまでだ?」
『本星港緊急入港許可文書。本人確認手続き継続』
グレッグたちは次の隔壁へ向かう。
その先で警告表示が増えた。
『対象艦内で武装要員の移動を確認』
〈歓迎されてますな〉
「手土産はないぞ」
〈こちらも持ってません〉
強化揚陸装甲が隔壁の左右へつく。
切断工具が動き始めた。
『ガレス・ロズベル、生体認証開始』
「グレッグ」
〈分かってます。次の隔壁、突破します!〉
工具が隔壁へ食い込んだ。
反対側には敵兵が集まっている。
そのさらに奥に、ガレス兄上。
『領主認証、生体確認進行』
俺は星図を閉じた。
見るのは、グレッグたちの映像だけでいい。
兄上が署名を終える前に、あと何枚か扉を壊す必要がありそうだった。