前世が大魔道士だった俺、宇宙戦艦を魔改造して銀河を成り上がる 〜退役寸前のゴミ艦隊ですが、魔法で動かせば最強です〜   作:オカノヒカル

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第33話 逃げた領主を連れ戻せ(前編)

 本星港緊急入港許可。

 

 その文字が、ガレスの前に浮かんでいた。

 共同治安艦隊の中型艦。

 

 会議室の端末には、生体認証済みを示す表示が灯っている。

 残っているのは本人による最終意思確認と、正式な電子署名。

 

「領主閣下。生体認証は完了しております」

 

 向かいに座る男の声は、まだ穏やかだった。

 

「残るのは最終承認のみです」

「待て」

「何をお待ちになるのでしょう」

「この承認で認めるのは、共同治安艦隊の本星港への入港だけだな?」

「まずは、本星港の安全確保です」

 

 ガレスの指が止まった。

 

「まず?」

「その後、第一艦隊および第二艦隊の武装停止、ステーション17の共同安全管理、《アーク・ロズベル》の安全検査について協議を進めます」

「やはり全部ではないか!」

 

 

 ガレスが端末から手を離した。

 

「港を開けたあと、私の艦隊まで取り上げるつもりだろう!」

「治安正常化に必要な措置です」

「断る!」

 

 男の眉が、ほんの少しだけ動いた。

 港も艦隊も、領主である自分の命令が届かなければならない。

 

 その時、床が揺れた。

 

「何だ!」

「問題ありません」

 

 警報音が会議室にも流れ込んでくる。

 ガレスが立ち上がった。

 

「問題がない船は、こんな警報を鳴らさん!」

 

**

 

 グレッグのヘルメット映像が揺れた。

 

〈第二分隊、右通路。第一分隊は俺と来い〉

 

 強化揚陸装甲が、裂けた隔壁の向こうへ進む。

 敵艦内は非常灯だけになっていた。

 

 こちらが開けた穴から近い区画は減圧している。

 空気の残っている区画との境目には、緊急隔壁が何枚も下りていた。

 

『前方隔壁裏、熱源四』

「聞こえたな。対装甲兵器に気をつけろ」

〈了解!〉

 

 隔壁脇から小型カメラが伸びる。

 すぐに撃ち落とされた。

 

「ちゃんと抵抗してくるな」

〈治安部隊ですからな。海賊より装備はまともです〉

「褒めている場合か」

〈敵を馬鹿にすると死人が出ますので〉

 

 もっともだ。

 

 グレッグが手で合図する。

 

 強化揚陸装甲の一機が前へ。

 隔壁がわずかに開いた瞬間、その隙間から対装甲弾が飛んできた。

 

 盾へ直撃。

 装甲が大きく揺れる。

 

〈右!〉

 

 別班が側路から射撃。

 敵の銃口がそちらへ向く。

 その間に前衛が隔壁へ取りついた。

 

〈開けろ!〉

 

 切断工具が走る。

 金属が赤く焼ける。

 

 敵側も待ってはいなかった。

 隔壁の向こうで足音が動く。

 

『武装要員、後退』

〈追うな!〉

 

 グレッグが止めた。

 

〈入口を取ればいい! 横道へ釣られるな!〉

 

 隔壁が崩れる。

 揚陸隊が一気に入った。

 

 床へ伏せた敵兵が武器を放した。

 

「抵抗をやめた者は撃つな」

〈了解しました、司令〉

 

 武器を置いた人間まで殺す理由はない。

 

 グレッグ隊が先へ進む。

 

『ガレス・ロズベル領主認証プロトコル、継続中』

「どこまでだ?」

『最終意思確認待機』

「グレッグ」

〈聞こえてます〉

「急げ」

〈急いでおりますよ、司令〉

 

 映像の中で、次の隔壁が近づいた。

 

**

 

 また振動が来た。

 今度は先ほどより近い。

 

 会議室の壁に、艦内警報が表示される。

 

「侵入部隊、第二保安区画を突破!」

 

 通信音声が響いた。

 ガレスの顔が上がる。

 

「……レオンか?」

 

 向かいの男は答えない。

 その沈黙だけで十分だった。

 

 ガレスが笑った。

 

「なら、この書類に署名する必要はない!」

「領主閣下」

「レオンが来ているのだろう! なら私を本星へ戻せ。話はそれからだ!」

 

 先ほどまでの青ざめた顔は消えていた。

 自分で状況を変えたわけでもないのに、もう勝ったつもりらしい。

 

 男の視線が卓上端末へ落ちる。

 

「時間がありません。承認してください」

「断る!」

「このままでは、本星の安全を保証できません」

「レオンが何とかする!」

 

 ガレスが胸を張った。

 

「そもそも《アーク》も第二艦隊もロズベル領軍だ。領主である私を守るのは当然だろう!」

 

 男の表情から、初めて穏やかさが消えた。

 

**

 

『警告』

 

 ノアの声。

 

『領主認証端末からデータ消去処理を検出』

「何を消している」

『協議記録、提示文書、認証履歴を含む複数領域』

 

 諦め始めたか。

 

「グレッグ。端末を壊させるな」

〈了解!〉

 

 ヘルメット映像が走る。

 最後の保安区画。

 

 そこだけ敵の人数が増えていた。

 

『隔壁前方、武装要員九。対装甲兵器二』

「多いな」

〈目的地がばれておりますな〉

 

 グレッグが盾役を前へ出す。

 

〈第一分隊、正面を押さえろ。第二分隊、左の保守通路へ。端末班は俺の後ろだ〉

〈了解!〉

 

 敵側から射撃。

 

 強化揚陸装甲の盾が火花を散らす。

 

〈撃ち合うな! 前へ詰めろ!〉

 

 グレッグ隊が壁際を進む。

 一人が対装甲兵器を構えた。

 

 その前に、側路へ回った隊員が銃口を向ける。

 

〈武器を捨てろ!〉

 

 敵兵が振り向く。

 

 一瞬迷った。

 兵器を床へ落とす。

 

〈そのまま伏せろ!〉

 

 もう一人は撃った。

 強化揚陸装甲が正面から受け、別の隊員が射線をずらす。

 

 敵が後退。

 

〈追うな!〉

 

 グレッグが怒鳴った。

 

〈扉だけ取れ!〉

 

 切断工具が隔壁へ食い込んだ。

 

『ガレス・ロズベル領主認証、最終意思確認画面を継続表示』

「まだ通ってないな」

『肯定』

 

 隔壁が内側へ倒れた。

 

〈行け!〉

 

**

 

「領主閣下。これが最後です」

 

 男が端末をガレス側へ向けた。

 

 本星港緊急入港許可。

 最終承認。

 

「承認してください」

「断る!」

 

 ガレスは椅子を蹴って後ろへ下がった。

 

「レオンが来ているのだろう!」

「領主閣下」

「私に触るな!」

 

 男が立ち上がる。

 

 その瞬間。

 外側の隔壁が吹き飛んだ。

 

「動くな!」

 

 強化揚陸装甲が会議室へ踏み込んできた。

 続けて数人の兵士が雪崩れ込む。

 

「二人、端末! 一人、領主閣下! 残りは入口を押さえろ!」

 

 先頭の男――グレッグは、ガレスには駆け寄らなかった。

 真っ先に向かったのは、卓上の認証端末だった。

 

「外部線を切れ!」

「了解!」

 

 兵士が端末脇の接続部を開く。

 男が声を荒らげた。

 

「やめろ!」

 

 だが遅い。

 通信ケーブルが物理的に引き抜かれ、端末の表示が次々と切り替わった。

 

 本星港緊急入港許可。

 最終承認――未成立。

 

 ガレスは大きく息を吐いた。

 

 助かった。

 

 やはりレオンは来たのだ。

 

「遅いぞ!」

 

 グレッグが振り返る。

 

「申し訳ありません」

「こいつらを全員拘束しろ!」

「そのつもりです」

 

 当然だ。

 ガレスは乱れた服を直した。

 

「すぐ《アーク》へ戻るぞ!」

「はい。本星へお戻りいただきます」

「当然だ!」

 

 ようやく話の分かる者が来た。

 

 本星へ戻ればいい。

 

 あとは領主府へ戻り、何が起きたのか調べればよい。

 共同治安艦隊についても、レオンから事情を聞けばいい。

 

 何より、自分はまだ領主なのだ。

 

 ガレスは胸を張った。

 

 ところが、グレッグは端末の確保を確認すると、ガレスへ近づいてきた。

 

「司令から、生きたまま連れ戻せと言われていますので」

 

 ガレスは眉をひそめた。

 

「……何だ、その言い方は」

「俺は命令どおり運ぶだけです」

「私は領主だぞ!」

「存じております」

 

 返事は丁寧だった。

 グレッグはそのまま命じる。

 

「領主閣下を確保。撤収準備」

「了解!」

 

 兵士たちが動き出す。

 

 ガレスは口を開きかけた。

 

 自分は領主だ。

 ここで命令するのは、自分のはずだった。

 

 だが誰一人として、ガレスの次の言葉を待ってはいなかった。

 

**

 

『領主認証端末、外部接続消失』

 

 一拍置いて、ノアが続ける。

 

『本星港緊急入港許可――最終承認未成立』

 

 間に合った。

 

 俺は椅子へ背を預けた。

 少しだけ力が抜ける。

 

 映像の中では、グレッグ隊が会議室を完全に制圧していた。

 

 ガレス兄上が何か言っている。

 グレッグは政治の話をする気がないらしい。

 

 それでいい。

 

『認証端末確保を確認』

「中身は」

『取得を開始』

 

 表示が増える。

 

 ガレス兄上の生体認証履歴。

 本星港緊急入港許可。

 第一艦隊と第二艦隊への武装停止案。

 ステーション17の共同管理。

 Fランク結晶の採掘・保管管理。

 《アーク》の一時管理と技術監査。

 協議記録。

 そして、その消去処理。

 

 全部残っていた。

 

『取得データを複製。《アーク》内記録領域へ保存』

「第一艦隊にも」

『照合用複製を送信します』

 

 これで、あとから「兄上が自分から協力しただけ」と言われても困らない。

 

**

 

 共同治安艦隊所属中型艦の艦長は、損傷表示を見ていた。

 

 後部側面に大穴。

 ロズベルの旧式戦艦が食い込んでいる。

 揚陸部隊は艦内へ侵入。

 保安区画は二つ突破された。

 ガレス・ロズベルの所在区画も失った。

 

「領主は」

「ロズベル側に確保されました」

「認証端末は」

「外部接続を遮断されました」

 

 副官の返答が短い。

 

 艦長は目を閉じた。

 こんな任務ではなかった。

 

 辺境の弱小自治領。

 古い艦隊。

 領主本人を押さえ、惑星へ脅しさえかければ終わる。

 

 そのはずだった。

 

 実際には、戦略投射艦を撃ち抜かれた。

 旗艦を失った第一艦隊は崩れない。

 

 第二艦隊の《アーク》は単艦で迎撃線を抜けてきた。

 最後には戦艦そのものを横腹へ叩き込まれた。

 

「保安部隊を再編しますか」

 

 副官が尋ねる。

 艦長は答えなかった。

 

 艦内図を見る。

 

 赤い区画。

 失った認証端末。

 確保された領主。

 

「何を取り返す?」

 

 副官が黙る。

 

「領主も、認証も失った。戦いを続けて何が戻る?」

「……降伏しますか」

「そんな命令は受けていない」

 

 艦長は損傷表示を閉じた。

 

 共同治安艦隊に加わったからといって、艦籍まで消えたわけではない。

 この艦にも、乗員にも、帰るべき自治領がある。

 

「だが、ここで死ねとも言われていない」

 

 副官を見る。

 

「艦内保安部隊へ。抵抗を停止しろ」

 

**

 

〈司令〉

 

 グレッグから通信が入る。

 

「どうした?」

〈向こうが撃つのをやめました〉

 

 グレッグの映像の先で、敵兵が武器を床へ置いている。

 

『対象艦内武装反応、急速に低下』

 

 外部通信が入った。

 

〈《アーク・ロズベル》へ。当艦は作戦継続能力を喪失した。艦内抵抗を停止する。乗員への攻撃停止を要求する〉

「武器を置いているなら撃たない」

〈了解した〉

 

 それだけで通信は終わった。

 外を見る。

 

 共同治安艦隊本隊でも動きが出ていた。

 

 こちらへ向いていた艦が、少しずつ距離を取っている。

 第一艦隊はまだ本星側の防衛線を維持している。

 

 ハイゼンたちも港側に残っている。

 

 戦略投射艦は前半部を大破したまま、支援艦の補助を受けて後退を始めていた。

 まだ戦える艦は多い。

 

 だが、領主も認証端末も失っている。

 向こうが戦闘を続ける理由は薄い。

 

 少しして、共同治安艦隊から全体通信が入る。

 

〈ロズベル領軍へ通達する。現在の状況下では、共同治安活動の継続は困難と判断した。本件については星系連合関係機関へ裁定を求める。共同治安警戒線を解除する〉

 

 最後まで敗北とは言わないらしい。

 

「了解した」

 

 クレインからすぐ通信。

 

〈追撃しますか〉

「しない」

〈よろしいので?〉

「退く相手に兵を使う理由はない。それに、もともとは同じ星系連合の味方だ」

 

 本星も艦隊も残り、兄上も取り返した。

 追撃して損害を増やす必要はない。

 

「各艦、追撃禁止。救難と損傷確認を優先」

〈了解!〉

 

 共同治安艦隊が離れていく。

 俺たちは追わなかった。

 

**

 

 グレッグ隊の撤収を確認してから、《アーク》の作業固定具を外した。

 

『作業用クランプ、解放』

 

 白い外骨格のクランプが敵艦から離れ、二隻の間に隙間ができた。

 

 相手の中型艦は、姿勢を保つだけで精一杯らしい。

 証拠保全と乗員安全確認が終わるまで、港湾警備側で監視することになった。

 

 あの船は港湾警備側に任せ、こちらは中に残った記録の保全を優先する。

 

『《アーク》損傷再確認。艦首盾頭局所変形。外骨格固定部三か所損傷。艦首姿勢制御スラスター一基停止。防御術式節点複数に過負荷履歴』

「増えてはいないな」

『衝突後からの重大損傷増加なし』

「ならいい」

 

 通信が入った。

 

〈司令〉

 

 セラだった。

 

「起きていていいのか?」

〈聞きました〉

 

 嫌な予感がした。

 

「何を?」

〈艦首。壊したそうですね〉

「少しだ」

〈始末書、書いてくれますよね?〉

 

 なんだかその声が恐ろしく聞こえる。

 

「百ページのやつか? 多くないか?」

〈艦首の部品はいくつあると思っているのですか?〉

「資材発注書は?」

〈別です〉

「増えたな」

〈最初から別です〉

 

 通信が切れた。

 

 セラがあれだけ喋れるなら、始末書くらいは書こう。

 

 百ページは多い気がするが。

 

**

 

 グレッグがガレス兄上を艦橋へ連れてきた。

 

 両脇には揚陸隊員。

 

 拘束具までは付けていない。

 

 領主認証端末は、もう兄上の手元にはなかった。

 

「レオン!」

「無事でよかった」

 

 心にもないことを言ってしまう。

 まあ、無事でよかったのは領主認証の方だが。

 

「よくやった!」

 

 兄上が大きく頷く。そして得意げにこう指示する。

 

「すぐ本星へ戻るぞ。第一艦隊にも追撃を命じろ!」

「追撃はしない」

「何?」

「もう退いている」

 

 兄上の眉が上がった。

 

「領主である私の命令だ!」

「兄上」

「何だ!」

「本星へ帰ろう」

「当然だ」

「逃げた理由を説明してもらう」

 

 兄上の顔が止まった。

 

「……何?」

「帰ってからでいい」

「逃げてなどいない!」

 

 思ったより早かった。

 

「領主の安全確保のための一時退避だ! 私が死ねばロズベル領全体が混乱する。安全な場所から指揮を継続するために移動しただけだ!」

「共同治安艦隊の船の中から?」

「奴らが私を騙したのだ!」

 

 そこは事実かもしれない。

 少なくとも、兄上が喜んであの会議室へ入ったわけではない。

 

「なら――兄上が本星を離れたことも調べるまでだ」

 

 ここだけは、うやむやにするつもりはなかった。

 

「私は領主だぞ!」

「だからだ」

 

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