「ん……? なんだ、この空気の重さは……?」
広大な赤黒い大地。地平線の先には、見慣れた森や街道ではなく、崩壊した高層ビル群の残骸と、怪しく紫色に発光する巨大な結晶体が点在している。風に乗って運ばれてくるのは、草木の匂いではなく、焦げ付いた鉄と硝煙、そしてどこか鼻につく化学物質の臭気だった。
「主ー! ここどこー? スイ、お腹すいたー!」
「おいムコーダ、ここはどこだ? 異界の気配がするぞ。それに……妙に不快な魔力が漂っておる」
革製のバッグからぷにぷにと顔を出したスイが揺れ、巨大な漆黒の毛並みを持つフェンリルのフェルが、警戒するように喉を鳴らす。ムコーダの肩の上では、ピクシードラゴンのドラちゃんがパタパタと羽をはためかせていた。
「おいおい、ニンリル様たち……『ちょっと手違いで転移先がズレちゃった★』なんて言ってたけど、これ完全に別の世界じゃないか!?」
頭を抱えるムコーダ。しかし、過ぎたことを悔やんでも始まらない。幸いなことに、女神たちのお詫び(というか口止め料)として、ネットスーパー機能の「特別拡張枠」が解放されていた。なんと、あの夢のテーマパーク型巨大スーパー「コストコ(Costco)」の10年分会員権利と特別直送枠が追加されたのだ。
「まあ……元の世界に戻る方法を探すにしても、まずは腹ごしらえだな。スイも腹減ってるし、フェルも不機嫌になると怖いし」
ムコーダは手慣れた手つきで画面(ネットスーパーの光るウィンドウ)を開いた。追加された「Costco」のタブをタップすると、そこには大容量の肉やスパイス、見たこともないビッグサイズの調味料がズラリと並んでいる。
「よし……今日は奮発して、あっちの世界で狩っておいた『ブラッディホーンブル』の極上スネ肉と、コストコで仕入れた大量の玉ねぎ、超特大カレールーを使って、特製ビーフカレーを作るか!」
**【調理開始:異世界×コストコ仕様の特大ビーフカレー】**
* **手順1:** 大鍋にコストコ特製のカークランドシグネチャー・オリーブオイルをたっぷり引き、みじん切りにした大量の玉ねぎ(約3kg)を飴色になるまでじっくり炒める。
* **手順2:** 別のフライパンで、一口大(フェル用は拳大)に切ったブラッディホーンブルの肉に塩コショウを振り、表面に強火で香ばしい焼き目をつける。
* **手順3:** 大鍋に肉と大量の水、隠し味にコストコで購入したプルコギのタレ(少量)と赤ワインを投入し、圧力をかけて肉がホロホロになるまで煮込む。
* **手順4:** 火を止め、数種類のカレールー(辛口・中辛ブレンド)を溶かし込み、仕上げにバターを投入してコクを出す。
グツグツと音を立てる巨大な鍋から、芳醇でスパイスの効いた、暴力的なまでに食欲をそそる香気が立ち上る。赤茶色の荒野に、およそこの世界には存在するはずのない「究極の家庭料理の匂い」が爆発的に拡散していった。
「うおーっ! いい匂いー! スイ、早く食べたいー!」
「む……この肉の煮込まれた匂い、いつにも増して素晴らしいな。早く寄こせ、ムコーダ!」
「おいおい、俺の分もちゃんと大盛りにしてくれよな!」
「はいはい、ちょっと待って……」
ムコーダが深皿に山盛りの白飯を盛り、溢れんばかりのカレーと煮込まれたデカい肉を盛り付けようとした、その時だった。
**カチッ、カチカチッ――。**
乾燥した金属音が、四方八方から同時に響いた。
「――動くな。全員、手を上げろ」
冷徹で、どこか機械的な少女の声。
ハッと周囲を見渡したムコーダの顔から血の気が引いた。
いつのまにか、自分たちの周囲をぐるりと取り囲んでいたのは、異様な異彩を放つ少女たちの集団だった。
身に纏っているのは、近代的な軍服やタクティカルギア。そしてその手には、黒く鈍い光を放つアサルトライフル、サブマシンガン、スナイパーライフル――地球のミリタリー雑誌でしか見たことがないような「本物の銃器」が完璧な射撃態勢で突きつけられていたのだ。
(えええぇぇぇぇ!? 銃!? 軍隊!? なんで少女たちが銃持ってんの!?)
「指揮官閣下、及び本部への連絡未完了。未知の生態反応(巨大狼型、浮遊竜型、不定形スライム)並びに、未知の男性1名を検知」
「警告:コーラップス(崩壊液)汚染区域内における許可なき調理行為および高濃度芳香物質の拡散は、敵性ユニット(鉄血工造および正規軍)を引き寄せる危険性があります」
鋭い眼光で銃口を向けてくるのは、グリフィン&チェイサー社所属の戦術人形(T-Dolls)たち――AR小隊の面々、そして近隣の警戒にあたっていたグリフィン基地の部隊だった。
「ちょっと待ってくれ! 銃を下げてくれ! 俺たちは怪しい者じゃない! ただの旅の商人……いや、料理人で――」
「だんまりを決め込む気? ……と言いたいところだけど」
小隊のリーダー格である少女(M4A1)が、ぴく、と鼻を蠢かせた。
彼女の横に立つ、感情の薄そうな少女(AR-15)も、フードを被った少女(SOPMOD II)も、眼光が鋭いまま……しかし、その視線はあきらかにムコーダの顔ではなく、**彼の後ろにある巨大な鍋**に注がれていた。
「……ねえ、M4。あの鍋に入っている物体は何? 我々のデータベースにある『21世紀初頭の旧時代カレー』に類似しているけれど、分析される成分スペックが異常よ」
「う……うそ……メンタルモデルの処理速度が……香気成分の解析だけでメモリの80%を占有……!? なにこれ、なにこの美味しそうな匂い……!」
「お腹……鳴ってないけど、メンタルが『食べろ』って叫んでるううううっ!!」
銃を構えていたはずの戦術人形たちの隊列が、目に見えてグラつき始めた。
彼女たちは普段、戦場での補給として無機質な「高エネルギー栄養バー」や「保存食(MRE)」しか口にしていない。一応味覚センサーはあるものの、「食の感動」とは無縁の過酷な極東戦線を生きていたのだ。
そこへ突如として現れた、異世界の魔獣の極上肉と、地球の最高峰コストコ食材が融合した「特製ビーフカレー」。
彼女たちの最新型メンタルモデル(人工知能)は、未だかつて経験したことのない食の至高の香気に直撃され、システムエラー寸前のオーバーヒートを起こしかけていた。
「あの……もしよかったら、食べる……?」
ムコーダがおずおずと、深皿に盛ったカレーを差し出す。
「……警戒を怠るな、と言いたいところですが……」
M4A1はゴクリと存在しない唾を飲み込むと、震える手でスプーンを受け取った。
そして、一口。
トロトロに溶けた玉ねぎの甘みと、スパイスの芳醇な刺激。そして何より、ホロホロと口の中でほどけるブラッディホーンブルの濃厚な肉の旨味が、彼女の感覚モジュールを駆け抜けた。
「――っ!?!?!?」
M4A1の瞳が大きく見開かれ、手に持っていたアサルトライフルが地面にポロリと落ちた。
「な……なんですか……これは……!? メンタルモデル内に、見たこともない幸福感のデータログが溢れて……! 処理が……処理が追いつきません……っ!」
「ちょっとM4!? しっかりしなさい! ……んぐっ!? な、なにこれぇぇぇぇ!! 美味しい! 美味しすぎる!! 鉄血のボスを倒した時より脳汁出る!!」
「ずるい! 私にも頂戴! あむっ……うわああああん! 生きてて良かったああ(人形だけど)!!」
一瞬にして崩壊する戦術人形たちの規律。
厳めしい銃口はすべて地面に投げ捨てられ、彼女たちは涙を流しながらカレーの皿に群がり、猛烈な勢いでスプーンを動かし始めた。
「うまーい! おかわり! ムコーダ、おかわりちょうだい!」
「私にも! 演算処理がすべて『カレー』で埋まりました! 補給をお願いします!」
「スイの分なくなっちゃうー! スイも食べるー!」
「おい待て人間ども! 我の肉を横取りするな! それは我の分だぞ!!」
フェルがグルルと威嚇するが、極東戦線で死線を潜り抜けてきた戦術人形たちは、カレーの美味さによるアドレナリン(?)で恐怖心を完全に麻痺させていた。フェルと戦術人形たちによる、前代未聞の「カレー争奪戦」が勃発する。
「あはは……まあ、喜んでくれたなら良かったけど……」
苦笑いするムコーダ。しかし、彼はまだ気づいていなかった。
このカレーの強烈な香気と、戦術人形たちが発した異常な通信データ(「至高のエネルギー体を発見」「メンタル修復率100%突破」などという誤送信ラジオ)が、この荒廃した極東地域の「さらなる勢力」を引き寄せてしまっていることに――。
遠くの丘の上。
双眼鏡でムコーダのキャンプを覗き込む、漆黒の装甲に身を包んだ「鉄血工造」の高級幹部人形(アルケミストやイントゥルーダー)。
さらにその奥、巨大なホバー戦車とともに忍び寄る「正規軍(コンベンショナル・アーミー)」の特殊部隊。
そして、通信を聞きつけて基地から自ら足並みも荒くダッシュで向かってきているグリフィンの「指揮官」。
「……ん? なんだか遠くから、すごい数の地響きが聞こえるような……?」
ドラちゃんが空中でピクッと耳を澄ませる。
フェルもカレーを口の周りに付けたまま、フンと鼻を鳴らした。
「ムコーダ、うっとうしい羽虫どもが大量に近づいておるぞ。……まあ、我が全て焼き払ってやっても良いが、まずはそのおかわりを寄こせ」
「いやいや焼き払うな! っていうか、なんか戦車みたいなのまで見えない!?? ちょっと待ってくれー!!」
壊滅的な崩壊液の荒野で、世界を揺るがす「至高の飯テロ」が幕を開けようとしていた――。
### 第2幕:異界の武威と、極東支部の取引
「ターゲット確認……鉄血工造(Sangvis Ferri)幹部ユニット、および正規軍前線機械化部隊。——て、おいおい、冗談でしょ!? なんでこんな大群が押し寄せてきてるのよ!?」
AR-15がスプーンを投げ捨て、銃器を構え直して悲鳴を上げた。
丘の向こうから地響きを立てて迫ってくるのは、黒く禍々しい自律戦闘兵器群——鉄血の精鋭たち。さらには重装甲ホバー戦車を擁する正規軍の最新鋭部隊までもが、カレーの芳香と異常通信の光源を目指し、完璧な包囲網を形成しつつあった。
「指揮官! 救援要請を送る間もありません! 各員、戦闘準備——」
M4A1が叫びかけた、その時だった。
「ぬう……うるさい羽虫どもめ。我が食事の邪魔をするなと言ったはずだぞ」
ジロリと横目で軍勢を睨みつけたのは、口の周りにカレーをつけたままの巨大な漆黒の狼——フェンリルのフェルだった。
「ドラ、スイ。行くぞ。あんな小汚い鉄の塊ども、さっさと片付けておかわりを貰うのだ」
「おーっ! おいらのメシの邪魔は許さねぇぞ!」
「スイ、あいつらポイポイしていいー? スイのカレー、とられないようにするー!」
「え? え? ちょっと待ちなさい、あなたたち正気!? 相手は正規軍の重装甲兵器なのよ!?」
AR-15の静止も虚しく、三匹の魔獣(+スライム)が一斉に飛び出した。
そこからの光景は、もはや「戦闘」と呼べる代物ではなかった。一方的な惨劇、あるいは「災害」である。
ドラちゃんが超音波のような高速移動で空を翔けると、最前線のホバー戦車群の真上でバチンと小さく手を叩いた。瞬間、超広範囲の風魔法『エア・スラッシャー』が放たれ、分厚い複合装甲を誇る大型戦車が、まるで豆腐のようにサイコロ状に切り刻まれていく。
「な……ッ!? 戦車の装甲を、素手(風魔法)で……!?」
間髪入れず、スイが巨大化しながら突撃。「えーい!」という可愛い声とともに放たれたのは、ネットスーパーで仕入れた食材で強化された超強力な酸の液。鉄血の足軽ユニットや装甲歩兵にかかった瞬間、ジュワアアアッ!という恐ろしい音とともに、超合金のフレームごとドロドロに溶けて消え去った。
そして真打、フェルが悠然と一歩を踏み出し、天に向かって遠吠えを上げる。
「——『万雷の轟(ライトニング・ボルテックス)』」
ゴゴゴゴゴ……!!
空が割れ、極東の焦土に数多の巨大な雷撃が降り注ぐ。それは崩壊液汚染区域の天候すら力任せに塗り替える神威の雷。鉄血の幹部ユニットも、正規軍の精鋭機械化部隊も、一瞬にして超高熱の雷光に呑み込まれ、蒸発するように消滅した。
わずか数十秒。
先ほどまでグリフィン基地を数個壊滅させられるほどの絶望的な大軍勢が存在していた場所には、ただ黒く燻る焦げ跡だけが残されていた。
「……あ」
M4A1の手から、再びアサルトライフルが滑り落ちた。
AR-15も、SOPMOD IIも、ポカンと口を開けたまま開いた口が塞がらない。戦術人形たちの高度な演算ユニットが、目の前の現実を処理しきれずにフリーズを起こしていた。
「ふむ、この程度か。軟弱な鉄くずどもめ。おいムコーダ、約束通りおかわりだ!」
「スイもー! ポイポイしたからお腹減ったー!」
「おいらも大盛りで頼むぜ!」
「はいはい、分かったから……! ちょっとみんな、やりすぎだってば……」
頭を抱えるムコーダの元へ、一台の軍用オフロード車両が激しいドリフトとともに猛スピードで滑り込んできた。
バタンとドアが開き、降り立ってきたのは、グリフィン&チェイサー社極東支部の司令官——**如月陽太郎(きさらぎ ようたろう)**であった。
「おいおいおい! 異常な高エネルギー反応と崩壊液濃度の急低下を感知して飛んできてみれば……なんだこの惨状は!? 鉄血の主力部隊が全滅して……って、え? そのデカい狼とドラゴンは何なんだ!?」
陽太郎は目を白黒させながら、散らばる鉄血の残骸と、呑気にカレーを食う魔獣たち、そしてオタオタしているムコーダを交互に見つめた。
「指揮官閣下……!」
M4A1が我に返り、敬礼を捧げる。
「報告します。彼らは異世界からの渡航者……と思われます。我々は彼らの……その、極めて高度な栄養供給物(カレー)に誘発されて接触し、そのまま救援されました」
「異世界……? 栄養供給物……?」
陽太郎は眉をひそめたが、ミリタリージャケットのポケットから通信機を取り出すと、基地の広域センサーと照合した。確かに、空間歪曲反応と、この世界には存在しない高濃度の純粋魔力粒子が観測されている。
「……なるほどな。わけが分からんが、お前たちがタダ者じゃないことだけは理解した。俺はグリフィン極東支部司令官、如月陽太郎だ」
「あ、どうも……ムコーダと申します。うちのフェルたちが暴れてすみません……」
陽太郎は顎に手を当て、鋭い眼光でムコーダを見つめた。
「ムコーダさんと言ったな。単刀直入に言おう。お前たちが元の世界に戻りたいなら、俺たちも全面協力する。うちの技術班とメンタルネットワークを使って、お前たちの神様……だっけか? 『ニンリル』とかいう存在との超空間通信の回線を繋ぎ直す手伝いをしてやってもいい」
「本当ですか!? 助かります!」
「ただし——条件がある」
陽太郎はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、後ろのトラックの荷台を指さした。そこには、激戦を終えてボロボロになり、無機質な保存食に飽き飽きしている極東支部の戦術人形たちがズラリと控えていた。
「うちの戦術人形(女の子たち)はな、毎日毎日、味のない高エネルギーバーと泥水みたいな合成プロテインで過酷な戦場を生き抜いてるんだ。さっきM4たちのデータログを見たが……お前の作る料理は、彼女たちのメンタル修復率を脅威の100%まで回復させる特効薬になる。……なぁ、ムコーダさん。我が極東支部の人形全員に、とびきりの『温かい料理』を振る舞ってくれねぇか? それが、交渉の条件だ!」
ムコーダは一瞬呆気にとられたが、腹を空かせた戦術人形たちの健気な視線(と、すでにコストコタブレットを開いて『次は肉だ! デザートだ!』と催促してくるフェルたちの視線)を受け、苦笑しながら頷いた。
「……分かりました! 料理なら任せてください。極東支部のみなさんに、一生忘れられないようなフルコースをご馳走しますよ!」
### 第3幕:極東支部・大饗宴の開幕!
グリフィン極東支部の広大な仮設設営地。普段は緊張感と硝煙の匂いが漂う基地の広場に、巨大な野外厨房が組み上げられた。
ムコーダはネットスーパーの「Costco拡張枠」および通常のネットスーパーを全開にし、地球と異世界の至高の食材を大量に召喚していく。
「よしっ! 人形のみんな、そしてフェルたちも満足させるフルコースを作るぞ!」
「主ー! スイ、お手伝いするー!」
「おいムコーダ、肉を忘れるなよ! ガッツリとした肉だぞ!」
「分かってるって! それじゃあ、どんどん作っていくよ!」
#### 【1品目:北海道男爵いものいももち(明太チーズ & カマンベール)】
「まずは前菜がわりに、手軽に食べられる温かい北海道の名物料理からいこう!」
ムコーダはホクホクに蒸かした北海道産男爵いもを大量に潰し、片栗粉と少しの塩を加えて滑らかになるまで捏ね上げる。それを円盤状に成形する際、中に仕込む餡を2種類用意した。
一つは、コストコで仕入れた濃厚な**カマンベールチーズ**の塊。
もう一つは、ピリッと辛い**博多明太子とチェダーチーズ**を和えた贅沢な明太チーズ餡。
フライパンにたっぷりのバターを溶かし、両面がキツネ色になり、表面がカリッとするまで香ばしく焼き上げる。仕上げに甘辛い醤油ダレをサッと絡め、パリッとした高級海苔を巻き付ければ完成だ。
「さあ、出来たよ! 『北海道男爵いものいももち』2種だ!」
戦術人形たちが恐る恐る手を伸ばし、一口かじる。
**パキッ、モチッ……ジュワァァァッ!**
「んんんんっ!?!?」
前線で冷酷な狙撃手として知られるWA2000が、目を見開いて倒れそうになった。
「な、何よこれ……! 外はカリッとしてるのに、中はモチモチで……中から熱々の濃厚なチーズが溢れ出てくるじゃない!! 明太子のピリッとした辛さと海苔の香りが、甘辛いタレと合わさって……脳の回路が溶けそう……っ!」
「カマンベールの方も凄まじいです……! バターの風味とジャガイモの素朴な甘みが絶妙にマッチして、メンタルモジュールの負荷が一気に軽くなっていく……!」
カリーナ(支援官)も頬を赤らめて感動の声を上げる。
#### 【2品目:夏野菜のグリルサラダ】
「こってりした料理の前に、新鮮な野菜で口を整えてもらおう!」
次にムコーダが取り出したのは、赤や黄色のパプリカ、ズッキーニ、ナス、アスパラガス、そして甘みの強いプチトマト。これらを大きめにカットし、コストコのオーガニックオリーブオイルと塩胡椒、クレイジーソルトを振りかける。
これを高熱のグリル板で一気に焼き上げ、表面に香ばしい焦げ目をつける。仕上げにバルサミコ酢を煮詰めた特製ドレッシングと、削りたてのパルミジャーノ・レッジャーノを贅沢に振りかけた。
「色鮮やかで綺麗……! 崩壊汚染区域じゃ、こんな生々しいフレッシュな野菜なんて絶対に見られないわ……!」
フォークでズッキーニを口に運んだAR-15が、その瑞々しさに息を呑む。
噛んだ瞬間にジュワッと弾ける野菜本来の甘みと水分。グリルされた香ばしさとバルサミコの酸味が、彼女たちの味覚モジュールを心地よく刺激する。
「野菜なんてただの栄養素だと思ってたのに……こんなに美味しいなんて……!」
#### 【3品目:のどぐろの炭火焼き】
「次は魚だ! 日本海が誇る高級魚『のどぐろ(アカムツ)』の炭火焼きだよ!」
ムコーダはネットスーパーの特選鮮魚コーナーから取り寄せた、脂の乗り切った巨大なのどぐろに粗塩を振り、炭火の上でじっくりと焼き上げる。
皮目がパリッと芳しく焼き上がり、じわじわと溢れ出す上質な脂が炭に落ちて、煙とともにたまらない香りを撒き散らす。
「ふむ! この魚、ただの魚ではないな! 脂の乗りが半端ではないぞ!」
ドラちゃんが嬉しそうに空中でくるくると回転する。
添えられた大根おろしに少しの醤油を垂らし、ふっくらとした白い身と一緒に口へ運ぶ。
「……ッ!? 柔らかい……! 口に入れた瞬間、身が解けて脂がとろけていく……!」
「皮の香ばしさと塩加減が完璧よ! 魚の脂って、こんなに上品で甘いの……!?」
戦術人形たちは、まるで宝物を味わうかのように、一口一口を噛み締めながらのどぐろを堪能した。
#### 【4品目:奥久慈しゃもの北京ダック風丸ごとロースト】
「さあ、ここからが肉料理の本番だ! まずは日本のブランド鶏『奥久慈しゃも』を贅沢に丸ごと使ったローストだ!」
引き締まった肉質と深い旨味が特徴の奥久慈しゃも。ムコーダはその表面に水あめや香辛料を塗り込み、皮がパリパリになるまでじっくりと専用のロースターで丸焼きにした。
焼き上がった丸鶏は、黄金色に輝く芸術品のような仕上がり。これを中華の「北京ダック」スタイルで提供する。
パリッパリに焼き上がった芳醇な鶏皮と身を削ぎ切りにし、コストコで購入した薄焼きのパオズ生地(カオパービング)に乗せる。そこに細切りのキュウリ、白ネギ、そして甘辛い特製の甜麺醤(テンメンジャン)をたっぷりと添えて、クルッと巻いて差し出す。
「はい、手で持ってガブリと食べてみて!」
「いただきます……あむっ」
M4A1が大きな口でかぶりつく。
**パリッ……ジュワッ!**
「き……皮のパリッとした食感の後に、噛めば噛むほど溢れ出てくる奥久慈しゃもの濃厚な旨味……! 甘辛いタレとネギのシャキシャキ感が完璧なハーモニーを奏でています……! 美味しい……美味しすぎます、ムコーダさん!」
「おいムコーダ! この丸ごとの肉、我にも寄こせ! 皮だけではなく肉も美味いぞ!」
フェルが丸ごと一羽を豪快に噛み砕き、その極上の歯応えと肉汁に大満足の遠吠えを上げた。
#### 【5品目:あぐー豚のテキサス風スペアリブ】
「まだまだ行くぞ! 次は沖縄のブランド豚『あぐー豚』の超特大スペアリブだ!」
旨味成分であるグルタミン酸が通常の豚の数倍含まれるという「あぐー豚」。その骨付き骨太肉に、コストコで購入した特製のバーベキューソース(スモーキーで甘みのあるスパイスソース)をこれでもかと塗りたくり、オーブンでじっくりと時間をかけて焼き上げた。
表面はこんがりと焦げ目がつき、濃厚なBBQソースがカラメル状に絡みついている。
「うおおお! これぞ男の肉料理! アメリカンな香りがたまらんぜ!」
陽太郎司令官が真っ先に飛びつき、骨を手で持って肉にかぶりついた。
**ホロリ……ッ!**
「ぶはっ!? 肉が……肉が骨からスルッと外れる!? なんだこの柔らかさは!?? あぐー豚の脂がめちゃくちゃ甘いのに、全否定したくなるほどスモーキーなソースが絡みついて……ビール! 誰か冷えたビールを持ってこい!!」
「スイもそれ食べるー! スイ、お肉大好きー!」
スイはプルプルの体を伸ばし、骨ごとスペアリブをパクリ。
「甘くておいしいー! お肉トロトロだよー!」
#### 【6品目:叙々苑のタレで味付けしたブラッディホーンブルのシカゴ風ブリスケット】
「そして、本日の肉料理のメインディッシュ! 異世界の最高級魔獣『ブラッディホーンブル』のカタバラ肉(ブリスケット)を、あの有名焼肉店『叙々苑』の特製タレでじっくり仕込んだ、シカゴ風ローカル・ブリスケットだ!」
ムコーダがドンッとまな板の上に置いたのは、数時間かけて弱火で燻製焼きにされた、漆黒の肉の塊。
表面には「ブラックバーン」と呼ばれる旨味の凝縮した焦げの層が形成されているが、ナイフを入れると……中は信じられないほど綺麗なピンク色の肉汁が溢れ出してきた。
そこに、コストコで購入した**叙々苑の特製焼肉のタレ(特選すりごま・ニンニク入り)**をたっぷりとかける。
「……さあ、召し上がれ!」
極厚に切り分けられた肉が、全員の皿に配られる。
「……これは……言葉が出ないな……」
普段は冷静沈着な指揮官・陽太郎も、その肉の断面から立ち上るニンニクと香ばしい醤油、そして魔獣肉の圧巻の存在感にゴクリと息を飲んだ。
全員が一斉に肉を口に運ぶ。
**ドォォォォン……!!**
静寂ののち、広場全体に爆発的な歓声が上がった。
「な……なんという肉汁の暴力……! 叙々苑のタレのコクと甘みが、ブラッディホーンブルの強烈な肉の旨味を完全に引き立てているわ……!」
「脂が重くない……! スモーキーなのに、タレの和風の旨味が絶妙にマッチして……噛むたびに幸福感が脳内を満たしていく……っ!」
「おかわり! ムコーダ、おかわりだ!! この肉、我の人生(魔物生)の中で三本の指に入るぞ!!」
フェルが興奮のあまり尻尾を激しく振り、グリフィンの仮設基盤がガタガタと揺れた。
戦術人形たちも、普段のミリタリーなクールさはどこへやら、口の周りをタレだらけにしながら、夢中でブリスケットを貪り食っていた。
#### 【7品目:ハーフカットメロンクリームソーダ〜器のメロンも頂きます〜】
「みんな、肉をいっぱい食べた後は……別腹のスペシャルデザートだ!」
熱気むんむんの広場に、ムコーダが最後に運んできたのは、見ているだけで歓声が上がるような極上のスイーツだった。
使用するのは、ネットスーパーで取り寄せた高級クラウンメロン。
贅沢にも**メロンを丸ごと半分にカット**し、中の種をくり抜いて、そのまま「天然の器」にする。
そこに、コストコのキンキンに冷えた強炭酸メロンソーダを注ぎ込み、丸くくり抜いたメロン果肉を浮かべる。
さらにその上に、濃厚な北海道産ミルクのソフトクリームを山盛りに絞り出し、真っ赤なチェリーをちょこんと乗せた。
「うわああああっ! なにこれ、めちゃくちゃ可愛い!!」
「本物のメロンを器にしてるの!? 夢みたい……!」
戦術人形たちの目がキラキラと輝く。
ストローでシュワシュワの炭酸とソフトクリームが溶け合ったソーダを吸い込み、スプーンで器であるメロンの果肉を削り取って食べる。
**サクッ……ジュワァァ……ッ!**
「冷たくて甘くて……炭酸がシュワッとして……メロンの果肉がジューシーで最高ぉぉぉ……!」
「お肉の後のこの爽やかさ……最高すぎるわ……!」
「んふー♪ スイ、これだーいすき! 甘くてシュワシュワするー!」
スイも大喜びでメロンの器ごとペロリと平らげていく。
### 第4幕:ニンリル様の乱入と、新たな旅立ちへの引き
極東支部の広場は、幸福感と満腹感で満たされていた。
戦術人形たちは誰もが満足げに腹をさすり(メンタル修復率100%達成の通知が全員の視界にポップアップしていた)、陽太郎司令官は「こんな美味いメロンクリームソーダ、人生で初めて食った……」と涙ぐんでいる。
「ふう……みんな喜んでくれて良かったよ」
ムコーダが汗を拭っていると、突然、彼の頭上(空間の切れ目)から、聞き覚えのある「あの声」が響き渡った。
『ちょっとおおおおおっ!! ムコーダ!! 何よその豪華な料理は!! ズルいわよ! 私たちを置いておいて、そんな美味しそうなメロンのデザートやらお肉やら食べてるなんてええええっ!!』
空中に浮かび上がる、女神ニンリルの光るホログラム(のような神気)。
「あ、ニンリル様! 手違いで変なところに飛ばしたお詫びにコストコ枠をくれたのは感謝してますけど、おかげで大変な目に遭いましたよ!?」
『う、ぐぬぬ……! それはちょっと計算ミスだったというか……でもでも! 私たちにもその「メロンクリームソーダ」と「いももち」と「シカゴ風ブリスケット」を奉納しなさい! 今すぐ!! じゃないと元の世界に戻してあげないんだからねっ!』
「はいはい、分かってますって。ちゃんと女神様たちの分も残してありますから」
ムコーダが苦笑しながら、あらかじめ用意しておいた「特注・奉納用コストコ大容量パック(メロンクリームソーダ5個付き)」を祭壇に捧げると、光とともに一瞬で消え去った。
『うひょーーーっ! 流石ムコーダ! 話がわかるわね! よーし、すぐに転移の魔法陣を起動してあげるわ!』
光の柱が、ムコーダたちの足元に広がっていく。
「おいおい、もうお別れか! 寂しくなるな、ムコーダさん!」
陽太郎司令官が力強く握手を求めてきた。
「お前のおかげで、うちの人形たちのメンタルは過去最高に良好だ。いつでも極東支部に遊びに来てくれよ! 歓迎するぜ!」
「ありがとうございます、陽太郎さん。みなさんも、お元気で!」
「ムコーダさん、ありがとうございました! この味、絶対に忘れません!」
M4A1たちが笑顔で手を振る。
光が激しさを増し、ムコーダ、フェル、スイ、ドラちゃんの身体が宙に浮き上がっていく。
「よし、これでやっと見慣れた異世界に戻れるぞ……」
安堵の息を漏らしたムコーダ。
——しかし。
**『あ、ちょっと待って……魔法陣の座標軸、また間違えちゃったかも……きゃっ★』**
「え……?」
ニンリルの焦った声が脳内に響いた瞬間、空間がぐにゃりと歪んだ。
「ちょっとニンリル様あああああーーーーーっ!?!?!」
ムコーダの絶叫が、極東の空に虚しく響き渡る。
目を開けると、そこは荒涼とした極東の地ではなく——怪しいネオンが輝き、高層ビル群が立ち並ぶ、見知らぬ近未来都市の路地裏だった。
「……おいムコーダ。ここはどこだ? また妙な匂いがするぞ」
「主ー? スイ、また違うところ来ちゃったー?」
「うそだろ……おい、ネットスーパー……開くか? ……あ、開いた。Costcoの隣に、なんか『新機能:ナイトシティ特選ギア・サイバーパーツ市』とか増えてるんだけど……!?」
帰還への道のりは、まだまだ遠そうであった——。