メガニケの極東にムコーダは驚く

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極東のニケに食べ物は……

極東の空は、いつだって灰色の雲に覆われている。

地上を覆い尽くす異形の機械生命体「ラプチャー」と、それを迎え撃つために人類が造り上げた少女型の決戦兵器「ニケ」。荒廃した地上での奪還戦は、常に死と乾いた硝煙の匂いに満ちていた。

だが――今、この前線基地の荒野に漂っているのは、およそ戦場には不釣り合いな、甘く芳醇な焼きたてパンの香りと、鼻腔を激しく刺激するスパイスの香りだった。

「んむ……!? な、なんだこれは……! 外側の生地はザクザクと心地よい音を立て、中はまるで雲のようにふわふわではないか……! そしてこの、口いっぱいに広がる芳醇な甘みと、ジューシーな果実の香りは……!?」

「アニス、口のまわりメロンパンのクッキー生地だらけになってるぞ。……しかし、言いたいことはわかる。このカレーパンという食べ物も異常だ。外側のカリッとした揚がり具合に対し、中の具材の濃厚さ……スパイスの奥行きが幾重にも押し寄せてくる。これが……地上に存在したという『本物のパン』なのか……!?」

ミリタリー仕様の無骨な装甲車のかげで、二人のニケ――アニスとネオンが、目を輝かせながら猛烈な勢いでパンを貪っていた。

その前で、顔を蒼白にして震えている男が一人。

異世界から手違いで飛ばされてきた気弱なサラリーマン、ムコーダである。

「た、助かった……のか? 急に妙な鉄のバケツみたいな怪物(ラプチャー)に囲まれて、そのあとごつい銃を持った女の子たちに包囲された時はどうなるかと思ったけど……」

ムコーダの背後では、伝説の神獣フェンリルのフェルが、興味なさそうにフンと鼻を鳴らした。

『ふん、あの鉄の羽虫どもなど、我の雷撃一発で灰燼に帰したものを。主(あるじ)がいちいち怯えるから面倒なことになるのだ』

『スイもねー、あのおっきい虫さん、びゅーって溶かしたよー!』

『おう! 俺の突撃でも一発だったぜ!』

バッグの中でぷにぷにと揺れるスライムのスイと、ムコーダの肩の上で腕組みをするピクシードラゴンのドラちゃん。従魔(フェミリア)たちは余裕綽々だが、ムコーダの胃の痛さはピークに達していた。

そもそも事の発端は、異世界の女神ニンリルたちへのお供え物の最中に起きた、神界の「手違い」だ。

甘味に目が眩んだ女神たちが魔法の操作を誤り、次元の歪みが発生。気づいた時には、草木も生えぬ荒廃した世界へと投げ出されていたのだ。

「……おい。お前たち、少し落ち着け」

呆れ顔で部下のニケたちを制したのは、この部隊を率いる指揮官――風間シンペイだった。

シンペイは帽子を目深にかぶり直し、手元の端末でムコーダの身元を照会しようとしたが、当然ながら「該当データなし」の表示が明滅するだけだ。

「俺はアークの前線指揮官、風間シンペイだ。……さて、突如空から現れ、謎の巨大モンスター(フェルたち)を従え、さらには見たこともない超高カロリーかつ極上の『生の焼き菓子』を差し出してきた怪しい男よ。尋問したいことは山ほどあるが……まずは礼を言わせてくれ。部下たちがこんな笑顔を見せたのは久々だ」

「は、はぁ……どうも。俺はムコーダと言います。その、怪しい者じゃないんです! 本当にただの通りすがりの……料理が得意なだけの一般人でして……」

ムコーダは冷や汗を流しながら、必死に弁明した。

咄嗟に手持ちの固有スキル『ネットスーパー』を開き、茨城県の「道の駅さかい」コラボコーナーで仕入れていた『究極のメロンパン』と、老舗「東陽軒」の『カレーパン』を渡したのは正解だったらしい。だが、彼女たちの食べっぷりは異常だった。

シンペイは深くため息をつき、腕を組んでムコーダを見つめた。

「ムコーダ……お前、自分が渡したものがこの世界でどれほどの価値を持つか、分かっていないようだな」

「え? いや、まあ美味しいパンですけど……そんなにすごいんですか?」

「すごい、どころの話ではない」

シンペイの言葉に、パンを口いっぱいにほお張っていたアニスが「ふはっ」と息を吐きながら身を乗り出してきた。

「ちょっとムコーダさん!? 知識を疑うわよ! この地下都市『アーク』において、本物の生鮮食品や焼きたてのパンがどれだけ狂った超高級品か知らないの!? アークで私たちが普段食べてるのなんて、味がほとんどしない『合成タンパク質ブロック』か、化学的に栄養だけ調整された『ソイプロテインペースト』なんだからね! パフェの味を再現したって言われて出されるペーストなんて、甘いだけで石油みたいな後味がするのよ!?」

「せ、石油……!?」

ムコーダは思わず引きつった声を上げた。

メガニケの世界――人類が地下都市「アーク」へと逃げ延びた世界における食料事情は、極めて劣悪かつ極端だった。

地上を失ったことで広大な農地や牧場は全滅。太陽光も届かない地下では、生鮮食品の栽培・育てるコストが天文学的数字になる。

結果として、アークの一般市民やニケたちに供給されるのは、微生物培養タンパク質や遺伝子組み換え大豆をベースにした「完全合成食」だ。

味覚を満足させるためのフレーバー(香料)は存在するものの、それはどこまで行っても「化学的に作られた模造品」に過ぎない。

本物の野菜、本物の肉、本物の果物、そして「発酵させた生地を窯で焼いたパン」など、アークの上層部や一部の超富裕層(中央政府の幹部クラス)しか口にできない、国家予算級の超超高級品なのだ。

「ニケである彼女たちは、ボディの維持に人間以上のエネルギーと……何より『精神の安定』を必要とする」

シンペイは静かに語る。

「ニケの脳は元々人間のものだ。過酷な戦場、人権の薄い扱い、そして『食事の喜びの欠如』は、彼女たちの精神を徐々に蝕み、最終的には『思考転換(マインドスウィッチ)』を引き起こして発狂させる。だからこそ、味のある食べ物……いや、お前がくれたような『圧倒的な幸運を感じさせる本物の食糧』は、彼女たちにとって兵器以上の価値を持つんだよ」

「そんな……食事一つで発狂だなんて……」

ムコーダは胸が痛むのを感じた。

自分にとって「美味しいものを食べること」は旅の最大の楽しみであり、フェルたちとの絆そのものだ。それを奪われ、科学薬品のようなペーストで戦わされている少女たちの環境は、あまりにも残酷すぎた。

「そこでだ、ムコーダ」

シンペイは真剣な眼差しでムコーダの目を見た。

「明後日、この極東支部の前線基地で、各部隊のニケやアークの要人、さらには巡回中のピルグリム(地上を流浪する孤高のニケたち)までもが参列する『極東合同戦線会談』が行われる」

「かいだん……ですか?」

「表向きは今後の地上奪還作戦の協議だが……実態は連戦で疲弊しきったニケたちの士気維持と、各部隊の利権調整だ。ピリピリとした空気の中、少しでも不満が爆発すれば暴動になりかねん。指揮官たちの間でも頭を抱えていたんだが……お前、さっきのパンみたいな『本物の料理』を、会談の場でふるまうことはできないか?」

「ええっ!? いやいやいや! 何十人、何百人もいるんでしょ!? 一一般人の俺にそんなパーティー料理みたいなの無理ですよ!」

ムコーダは手をぶんぶんと振って拒否しようとした。

だが、その時――ムコーダの脳裏に、ある「システム更新」の通知が閃いた。

(……あ、待てよ?)

ムコーダは慌てて、頭の中に浮かぶ『ネットスーパー』のUI(操作画面)を確認した。

異世界でレベルが上がり、資金も潤沢になったムコーダは、先日気まぐれで「とある契約」を更新していたのだ。

(そうだ……! 異世界にいた時、地球の『ネットスーパー』で、期間限定の「コストコ(Costco)特別提携コーナー」が開放されてて……年会費10年分を前払いして、大量買い出し枠を解放したばっかりだったんだ!)

コストコ。

言わずと知れた、アメリカ発祥の超大型会員制倉庫型店。

そこにあるのは、一般的なスーパーとは一線を画す「規格外の大容量」と「圧倒的な高品質」の食材たち。

特大のディナーロール、巨大なプレコックド・ロティサリーチキン、キロ単位で売られるプルコギ用牛肉、巨大なホールピザ、大量のサーモンフィレ、そしてアメリカンサイズのスイーツたち――。

「(これなら……! 料理を一から作らなくても、ネットスーパーのコストコ枠から大量に温めるだけ、切り分けるだけで、信じられない量の『超絶絶品料理』が一瞬で用意できるんじゃないか……!?)」

ムコーダの顔に、ニヤリとした(そしてどこか諦めに似た)笑みが浮かんだ。

「風間さん……ちなみに、その会談に出席するニケの人たちって、どれくらい食べるんですか?」

「ニケの代謝率は高い。特に戦闘前後は人間の三倍以上のカロリーを消費する。それが数十人ともなれば……山のような食料が必要になるが……」

シンペイが言いかけた瞬間、ムコーダは胸を張って言い放った。

「任せてください。量と味に関しては……地球の……いや、俺の『スキル』の底力を魅せてあげますよ!」

「な……本当か、ムコーダ!?」

「ええ! ただし、調理スペースと大量の加熱用の設備(コンロやオーブン)は貸してくださいね。あと、フェルたちの分の肉も用意しなきゃいけないんで!」

『む、主よ。我の肉もその『こすとこ』とやらの肉になるのか?』

フェルが耳をぴくつかせた。

「ああ、フェル! コストコの「USAプライムビーフ・肩ロース塊肉」とか「プルコギビーフ」だぞ! 濃いめのタレで炒めた肉を白飯と一緒に食ったら、ほっぺた落ちるぞ!」

『ほう……そこまで言うか。ならば期待してやろう』

『スイもー! おいしいお肉いっぱい食べたいー!』

ムコーダの宣言に、アニスとネオンは抱き合って歓喜の悲鳴を上げた。

「やったぁぁぁ! 合成ペーストじゃない、本物の肉! 本物の料理よ――っ!」

「マスター! 私、この戦いが終わったら(終わってないけど)、カレーパンとメロンパンを主食にして生きていきます!」

「おいおい、気が早すぎるぞお前たち……」

シンペイは苦笑しつつも、その瞳には強い希望の光が宿っていた。

滅びかけた世界「メガニケ」の極東支部。

殺伐とした戦場に、異世界の食材と、地球が誇る超大型倉庫店「コストコ」の最強大容量グルメが殴り込みをかける。

果たして、味覚を失いかけたニケたちは、コストコの「ハイローラー」や「プルコギ」、「ロティサリーチキン」の前に無事でいられるのか!?

そして、会談に現れるであろうクセモノ揃いのニケたち(と、噂のピルグリム)の反応は――!?

「よし……腹をくくるか。まずはコストコのページを開いて、メニューの組み立てからだな!」

ムコーダは腕をまくり、仮想ウインドウに踊る「COSTCO」の赤と青のロゴを力強くタップしたのだった。

極東支部の前線基地は、今やかつてない重苦しい熱気に包まれていた。

荒廃した地上のただ中に突如として組み上げられた特設の野外会場。集まったのは、幾多の死線を潜り抜けてきた極東支部の主力部隊、アーク中央政府から派遣された要人護衛部隊、そして噂を聞きつけて現れた流浪のニケ「ピルグリム」たちであった。

誰もが武器を手に抱え、冷ややかな視線を交わし合っている。ラプチャーとの絶え間ない闘争、アーク内部での政治的思惑、そして「マインドスウィッチ」の恐怖。ニケたちの精神はいつだって破綻の寸前だ。

「おい、指揮官風間。本当にこんな場所で会談を始めるつもりか? ニケたちも要人たちもピリピリしている。一触即発だぞ」

副官のニケが風間シンペイに緊張した面持ちで耳打ちする。

「心配いらん。俺たちの秘密兵器が、そろそろ準備を終える頃だ」

シンペイが不敵に笑うと同時に、風向きが変わった。

ごおぉぉぉっ――!

心地よい炭の爆ぜる音と共に、会場全体に解き放たれたのは……暴力的なまでに濃密で、甘く、香ばしい「肉と醤油とハーブと煙」の重奏(アンサンブル)だった。

「な……何だ、この匂いは!?」

「硝煙の匂いじゃない……? 脳が、身体が、勝手に熱を帯びていく……!?」

殺気立っていたニケたちが一斉に首を回す。その視線の先には、エプロン姿で巨大なバーベキューコンロと特製鉄板の前に立つ男――ムコーダの姿があった。

「よしっ、フェル、スイ、ドラちゃん、準備はいいか? ニケのみなさん、そして指揮官さん! 異世界&地球の超贅沢食材でお贈りする『極上バーベキューフルコース』、焼き上がりだ!!」

ムコーダが叫ぶと同時に、異次元の宴の幕が切って落とされた。

**一品目:プルコギベアとラクレットのフィリーチーズステーキサンド**

最初に運ばれてきたのは、巨大なバゲットに溢れんばかりの肉とチーズが挟み込まれた、超ド級のサンドイッチだった。

「最初はこれだ! コストコの大人気メニュー『プルコギ』をベースに、異世界で狩った最高級のベア(熊)肉を極薄切りにしてミックス! 甘辛い特製タレで香ばしく炒め上げたところに、熱々にとろけたスイス伝統のラクレットチーズを惜しげもなくぶっかけた『フィリーチーズステーキサンド』だ!」

「なっ……熊肉とプルコギのハイブリッドですって!?」

アニスが一番に飛びついた。

表面がパリッと焼けたバゲットをガブリと噛みちぎる。

その瞬間、濃厚な甘辛タレを纏ったやわらかな肉汁が、溢れんばかりのチーズとともに口内で爆発した。ベア肉特有の深い旨味とコクが、甘辛い醤油ベースのタレと溶け合い、さらにそこに濃厚でクリーミーなラクレットチーズがトロリと絡みつく。

「んんんんんっ~! 何これぇぇぇ!? 肉のジューシーさが半端じゃない! 甘辛いタレとチーズの塩気が、カリカリのパンの中で奇跡の融合を果たしてるわ! 合成プロテインブロックしか知らなかった私の脳が、解脱しちゃう~!!」

「む……むぐっ! アニス、ずるいぞ! 私も……んんっ!? この香ばしさと肉汁の量、完全に兵器(チート)です! 弾薬(プロテイン)補給どころの騒ぎではありません!」

ネオンもメガネを曇らせながら、口いっぱいにサンドイッチを頬張る。

**二品目:のどぐろのシカゴ風炭火焼き**

肉の熱狂が冷めやらぬ中、次に網の上でチリチリと皮を焦がしたのは、まるまりと太った高級魚「のどぐろ(アカムツ)」だった。

「次は魚だ! 日本の高級魚『のどぐろ』を、アメリカ・シカゴ風のダイナミックな炭火焼きにした! 燻製ハーブソルトとガーリックバターを塗り込み、強火の炭火で皮目をパリッと、身はジューシーに焼き上げている!」

滴り落ちる脂が炭に落ちるたび、香ばしい煙が立ち上る。

「魚だと……? 海の食材など、地上奪還を果たしていない我々にとっては幻の存在……」

眉をひそめていたピルグリムのニケが、差し出された皿を恐る恐る口に運ぶ。

皮を箸で割った瞬間、閉じ込められていた大量の上質な脂が溢れ出した。

「〜〜〜っっっ!?」

一口食べた瞬間、彼女の瞳が大きく見開かれた。

「ふんわり……いや、トロけるような柔らかさだ! 炭火で燻されたハーブとニンニクの香味が脂の甘みを引き立て、噛む必要すらないほど身が口の中で解けていく……! これが、本物の『海の恵み』なのか……!」

**三品目:あぐー豚のカリフォルニア風スペアリブ**

「まだまだ行くぞ! 三品目は『あぐー豚のカリフォルニア風スペアリブ』だ!」

ムコーダが掲げたのは、骨付きの巨大な豚あばら肉。沖縄が誇るブランド豚「あぐー豚」の骨付き肉を、オレンジジュース、ハチミツ、スモークパプリカ、そして特製BBQソースに一晩じっくり漬け込み、じっくりと炭火で焼き上げたものだ。

『主よ! それだ! その肉を我に寄越せ!』

フェルが待ちきれない様子で身乗り出す。

『スイもー! 骨のついたお肉たべたいー!』

「はいはい、フェルたちの分は特大サイズで焼いてあるからね! ニケの皆さんもどうぞ!」

かぶりついたニケたちの口から、悲鳴に似た歓声が上がった。

あぐー豚ならではの上質で甘みのある脂と、カリフォルニア風ソースの柑橘系の爽やかな酸味、そして焦げたBBQソースのコク。骨からほろりと外れるほど柔らかく煮焼きされた肉は、噛むたびに旨味の奔流となって押し寄せる。

「骨の周りの肉が一番美味いって本当だったのね……! 甘くて酸っぱくて、スパイシーで……手も口もベタベタになるけど、手が止まらないわ!」

**四品目:叙々苑のタレに漬け込んだプライムビーフのテキサス風ブリスケット**

宴のボルテージが最高潮に達する中、ムコーダが持ち出したのは、まるで丸太のような巨大な牛肉の塊――コストコが誇る最高格付け「USAプライムビーフ」の肩バラ肉(ブリスケット)だ。

「さあ、肉料理の真打ちだ! 高級焼肉店『叙々苑』の特製もみダレにじっくり漬け込んだプライムビーフを、低温の煙で何時間も燻製焼きにした『テキサス風ブリスケット』だ!」

ムコーダがナイフを入れると、外側の黒く香ばしい燻製層(バーク)の中から、飴色に輝くロゼ色の肉が現れた。断面からは溢れんばかりの肉汁が滴り落ちる。

分厚くスライスされた肉が皿に盛られ、ニケたちや風間シンペイ、そしてアークの要人たちに配られる。

「叙々苑のあの甘みとコクのあるゴマ油香るタレが、じっくりと燻製された超高級牛肉の奥深くまで染み込んでいる……! 噛んだ瞬間、肉繊維が解け、濃密な肉の旨味とタレの味わいが怒涛のように押し寄せてくるぞ……!」

シンペイが目を見張り、呻くように言った。

「これが……これが地球の『BBQ』の完成形か……! アークのどんな高級料亭でも、こんな芸芸たる旨味は出せん!」

**五品目:アトランティックサーモンの握り寿司(生・炙り・漬けの3種)**

こってりとした肉料理の連続のあとに提供されたのは、一転して瑞々しい和の極みだった。

「こってりしたものの後はこれだ! コストコの新鮮な『アトランティックサーモン』を丸々一羽(フィレ)仕入れて、その場で握り寿司にした! 醤油でそのまま食べる『生』、バーナーで表面を香ばしく煽った『炙り』、特製出汁醤油に漬け込んだ『漬け』の3種盛りだ!」

ツヤツヤと光るピンク色のサーモンと、ネットスーパーで調達した山形県産「はえぬき」のシャリ。

「寿司……! 昔の文献でしか読んだことがない幻の料理……!」

ニケたちが一貫を口に放り込む。

生のサーモンは、口に含んだ瞬間に脂がまろやかに溶け出し、さっぱりとした酢飯と絡み合う。

炙りは、香ばしい煙の風味と溶けた脂の甘みが鼻を突き抜ける。

漬けは、出汁の旨味がぎゅっと凝縮され、サーモンのねっとりとした食感を最大限に引き立てていた。

「なにこれ……脂が乗ってるのに全然しつこくない……! 酢飯の甘酸っぱさと生のサーモンの旨味が、口の中で解けて消えていく……! 幸せすぎて、泣きそう……」

戦場で心をすり減らしていたニケたちの目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。それは単なる食事ではなく、失われた「人間の温もり」そのものだった。

**デザート:ハーフカットメロンクリームソーダ~器のメロンも頂きます~**

「さあ、最後は別腹のデザートだ!」

ムコーダが最後にテーブルに並べたのは、誰もが歓声を上げる芸術的なスイーツだった。

完熟の高級メロンを豪快に真っ二つにカットし、種をくり抜いた凹みに、キンキンに冷えた炭酸ソーダと、コストコの巨大な濃厚バニラアイスクリームをドカンとトッピング。そこに真っ赤なチェリーを添えた贅沢極まる逸品だ。

「メロンを丸ごと器にして、中の果肉をスプーンで削りながら、シュワシュワのソーダとトロトロのバニラアイスと一緒に食べてくれ! 『ハーフカットメロンクリームソーダ』だ!」

「きゃぁぁぁぁぁっ! かわいくて超豪華ーっ!」

アニスたちがスプーンを突き立てる。

冷たいバニラアイスのコク、シュワシュワとはじける炭酸の爽快感、そして果汁溢れる本物のメロンのフレッシュな甘み。それらが一体となって口いっぱいに広がる。

「果肉が……果肉が果汁の塊よ! アイスとソーダが混ざり合ったところがシャリシャリして、メロンの贅沢な甘さと混ざり合って最高のハーモニーを奏でてるわ! 器のメロンまで全部食べられるなんて、夢みたい……!」

会談の場は、もはや緊張感など微塵もない、笑顔と感動に満ちた大宴会場と化していた。

不仲だった部隊同士が肩を組み合って肉を分かち合い、頑なだったピルグリムのニケもメロンクリームソーダを幸せそうに頬張っている。マインドスウィッチの危機など、美味しい料理の前には影も形もなかった。

「……すごいな、ムコーダ」

風間シンペイが感極まった様子でムコーダの肩を叩いた。

「お前の料理は、ただ腹を満たすだけじゃない。戦いの中で心を失いかけていたニケたちに『生きている喜び』を取り戻させてくれた。この会談は大成功だ。極東支部の絆は、これで盤石になったよ」

「ははは……喜んでもらえたなら何よりです。やっぱり、美味しいものはみんなで笑って食べるのが一番ですからね」

ムコーダがほっと胸を撫でおろしていると、満腹になってお腹を叩いているフェルとスイ、ドラちゃんが寄ってきた。

『ムコーダ、次はあの『すーぱー』の巨大なピザとやらも食わせてみよ』

『スイねー、甘いあいす、もっとたべたいー!』

『俺はあのブリスケットって肉、もっとおかわりしたかったぜ!』

「はいはい、わかったから! 次元が戻ったら、またいくらでも作ってやるからさ!」

荒廃したメガニケの世界に差した、ひとときの温かな光。

異世界のネットスーパーと一人の料理好きサラリーマンの存在は、硝煙漂う戦場に、決して消えない最高の思い出と「希望の味」を刻み込んだのだった。

 


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