その憑依先、既に死体につき 作:憑依転生って?
なんかめっちゃ伸びてるなと思ったらルーキー日間ランキングに載っていたようです。
皆様、こんな稚拙な作品を読んで頂き、ありがとうございます。
また、高評価や感想、誤字報告など、大変嬉しく思っております。
皆様の反応を糧にドパガキの私はムキムキになって執筆できますので、これからもよろしくお願いいたします。
鋼人七瀬と出逢うつもりではあったのだが、鋼人七瀬から放たれる、今まで感じたことのない異質な雰囲気にあてられ身体が強張ってしまう。意外にも冷静に働く脳は、この剣呑な気配を殺気なのだと理解した。
視線を動かし警察の方も見るが、黒い靄から発生したことに驚きを隠せず目を見開いていた。
二人が違う理由で動けなくなっていることなど気にせず、カツカツとヒールを鳴らしながら此方へ向かってくる鋼人七瀬。その右手に持つ、見るからに重量のある鉄骨を軽々と振り上げ、警察の方へ振り降ろそうとしていた。
警察の方はまだ動けそうにない。それも当然だ。怪奇な現象を目の当たりにしたのだ。不可解な現象に遭遇すれば身体も硬直してしまう。
私もそうだった。
ああ、このままだとあの警察は死んでしまう。あの鉄骨が本物と同じというなら、頭に当たれば生きている人間は死ぬに決まっている。
それなら!
硬直していた身体は何時の間にか解け、咄嗟に伸ばした手は警察の腕を掴んだ。そのまま身体を後ろに倒すように引っ張り、警察の人が上になる形で両方とも地面に伏した。
倒れたと同時に、鋼人七瀬の鉄骨は警察の人が元々いた空間を抉るように振り下ろしたが、それは空を切り、地面をガリガリと削るだけに終わった。
ようやく再起動した警察の人が声を荒げる。
「クソッ、あれは一体何なんだ!」
解答を求めている疑問ではなく、自身を落ち着かせるために怒鳴ったようにも聞こえたが、私がそれの解答を教えられるため、端的にあれが鋼人七瀬という亡霊だと伝える。
「亡霊? じゃあ今までの目撃証言は全部、あの亡霊の仕業だと」
そうですそうです。だから私は鋼人七瀬と関係ないんですよ。そう発言しようとしたが、途中で横っ腹に蹴りをぶち込まれて、言葉にする予定の息が漏れながらゴロッと横へ転がる。
何すんねんまだ話してる途中でしょうがっ!と横を見た瞬間に、私と警察が元いた場所目掛けて、ヒュンっと風を切りながら鉄骨が振り降ろされた。
鋼人七瀬は鉄骨を引き上げ、此方へ顔を向けた。鉄骨に付着していたコンクリートの欠片がパラパラと落ちた。
なぁるほど。どうやら警察の人は鉄骨から逃れるために、警察の下敷きになっていた私を蹴って回避してくれたらしい。警察の人も蹴った勢いで、尻餅を搗きながらも逃れられたようだ。
でもそれってあなたのでっけぇ背中で見えなかったから避けられなかったんですよ? もっと小さくなってね!
警察の人が立ち上がるのを確認して、私はゴロゴロと七瀬から離れるように転がって距離を充分にとってから立ち上がった。
全く意図などしていなかったのだが、二手になるように避けたため、結果として鋼人七瀬の左手側を私、右手側を警察の人で挟む形の立ち位置となった。
警察の人は鋼人七瀬へ視線を留めながら私に話しかけてくる。
「七瀬かりん、お前はここから離れろ。こいつの相手は俺がする」
キュン……。かっこいいこと言うじゃん。ちょっとばかし私の乙女心が揺さぶられたぜ。でもそれって死亡フラグって言いません? 大丈夫そ?
まぁ逃げろと言われても、怪異相手に怪異初心者の警察が相対など無理だと思うのでその提案は却下だ。え? 私も初めてじゃないかって? 私はノーカンだよそんなことも分からんのか。
さっきから警察の人ばっか狙ってるし、また警察の人を狙って私に背中を向けた瞬間に羽交締めして行動妨害するのが得手だとみた。
逃げる様子のない私に対し若干舌打ちしたように見えた警察の人だが、それ以上は言わずに鋼人七瀬の動きを注視していた。
鋼人七瀬が右手に持っていた鉄骨を上へと持ち上げる。そして、そのまま━━私へ振り向きながら横薙ぎに鉄骨を振りかざした。
やっべ、私に来ることを失念していた。
そんな反省する暇もなく、鉄骨が胸部へと吸い込まれる。
私の視界が一瞬、黒く塗りつぶされた。
感じたのは熱。次に痛みが走り、それが激痛となって私の飛びかけた意識を繋ぎ止めた。
警察の人が雄たけびを上げながら鋼人七瀬へと突っ込むのが視界に映るが、視界が全体的にぼやけているし、声も遠い。
身体を無理矢理起こして、ぼやけた視界で自身の肉体の状況を確認すれば、自身の立派に実っていた豊胸は無惨にも抉り取られて、血肉を覗かせていた。胸部の損傷は右肩に向かうにつれて酷くなり、右肩にいたっては骨は完全に外れ、筋肉のいくつかの筋だけで胴体とギリギリ繋がっているような、何とも凄惨な状況だった。
警察の人は、鉄骨を持つ右手へ向けて鉄骨を打ち払うために蹴りを放つが、その攻撃は霊体である鋼人七瀬に透過され、透かされる。
鋼人七瀬は振り向きざまにそのまま鉄骨を横薙ぎするが、警察の人は、自分の攻撃が透かされたことを理解した時点で素早く距離を取っていたため、回避していた。
結果として、鋼人七瀬は私に背を向ける形となったが、鋼人七瀬に羽交締めを仕掛けようにも足がまともに動かず、立ち上がるのは難しい状態だった。立ち上がれたとて、右腕が肩から下が完全に動かない状態では羽交締め出来たとしても、拘束にもならないだろう。
完全に読み違えた。その結果、最悪な状況へと導かれてしまった。
私は幽霊のため、もしかしたら鋼人七瀬に撲られても死ぬことはないかもしれない。しかし、警察の人は違う。鋼人七瀬に一撃当てられたら死ぬのは確実だ。
私を置いて逃げてくれたら訳ないのだが、私のことを人間だと思っている警察の人は、私を置いて逃げることはないのだろう。
今も、鋼人七瀬に対して一定の距離を保ちながらも近づくのは、鋼人七瀬の近くで倒れている私へ攻撃が向かわないようにヘイトを買っている証拠だ。
私は動けず、警察の人も逃げ出すことのできない状況。本当に最悪な状況になってしまった。
反省している暇などない。どうにかして私たち2人とも助かる方法を探るため頭を無理やりにでも回すが、状況は思考を許さず、速やかに展開していく。
最初に動いたのは警察の人だった。保持していた距離を、その大きな図体に似合わず腰を落としながら素早く移動し懐へ入ると、鋼人七瀬の胸元へと手が伸びる。柔道で見たことのある動きだ。背負い投げをするのだろうか。しかし、霊体である鋼人七瀬を掴むことは━━。
そのまま胸元のドレスを掴んで背負い投げしてた。
そのまま鋼人七瀬は転がり、その右手に持っていた鉄骨が放り出される。
鋼人七瀬は鉄骨を取りに行こうと腹這いになるが、警察の人は素早く伸ばされていた右手を掴んでひねり、動かないように馬乗りになって拘束していた。
……えっ。どうやって? えっ、えぇ? ど、どどど、どうやって?
ポカンと口開けて吃驚している私を他所に、地面へ鋼人七瀬を押さえつけながら、手錠を取り出して腕へと装着していた。
いやいや、どうやって持ったんだ。だってさっき透けてたし。ええぇ〜。
「なぁ、先ほど鋼人七瀬のことを亡霊と称していたな」
うぇ、あはい。そうッスね。てか、おい。私のこの凄惨な状況で良く話しかけられたな。普通は急いで救急呼ぶものじゃないのかよ。
「普通の人間なら、肩から胸まであれだけ削られて生きていられるわけがない。まして、もう治り始めているからな」
えっ。治り始めてんの? うわホンマや右肩はまだ全然だけど、胸辺りは治り始めてる。なんかもう骨の位置戻って薄皮張り始めてて草。てか肋骨見えてたんだ。こわー。
……ちなみに私の自慢の豊胸は、大分離れたところに落ちております。こんな物理的な方法で貧乳になるとは、この孔明の目をもってしても見抜けなかった。
「それで、幽霊同士なら触れると思ってな。お前の血で塗れたドレスの部分は掴めるんじゃないかとやってみたんだ」
結構博打だったがなんとかなって良かった、ですか。いやこいつの胆力舐めてました。今日から兄貴って呼んでいいスか。ガチでかっけース。マジで。
というか、私の血ってそんな効果あるのかよ。使う場面絶対少ないぞ。
「やめろ、やめろ。幽霊と知り合いになるつもりは無い」
手錠は掛けられなかったのか、私に携帯電話を取り出すよう願い出る警察の人。応援でも呼ぶんスか。ウッス、自分やらせてもらうッス。でもちょっと待ってくだせぇ。まだ腰が抜けちゃって。まだ立てないので、もうちょい頑張って抑えててください。
プラプラと筋繊維で繋がり揺れる右腕を気にしながら、頑張ってハイハイで警察の人の方へ向かっていると、空からバサバサと羽ばたく音が聞こえた。
『七瀬殿ぉ!探しましたぞぉ!』
このピンクな気配……門助か! おっせぇ登場だが丁度いい。ちょっと頼みたいことが。
『おおぉ、なんと惨い状態に……お労しや……』
……オイ。それは飛んでいった私の両乳だ。私本体じゃねぇぞこの野郎。確かに綺麗に並んで例のマウスパッドみたいな感じになってるが。
『なんと! この状態でも喋られるとは……大丈夫です七瀬殿。儂めが治るまでの間、貴方様のことを守りましょうぞ』
おい変態クソジジイ! 流石にそのネタするにはグロ過ぎて看過できねぇぞジジイ!せめてそれをやるには眼鏡とかにしろクソジジイ!
それと私の本体は乳だと言いてぇのか?! ケツもでけぇわボケェ! ぶっ殺すぞ!
『ホッホ☆ 妖怪にとってはお茶目なネタですぞ』
ふふ、キレそ☆
そんなクソみたいな会話を繰り広げていた私たちを見て警察の人は一言「誰と話しているんだ?」だった。なーんで私は見えて、ジジイは見えないんすかね。私が異常ってことやな。ガハハ。
いやそんなことよりも、頼みたいことがあるんだよ。
門助、おひいさまとやらを呼んでくれ。もうこれ私ではどうしようも出来ないわ。
『いいのですかな?』
良い。幽霊である私が困っているんだ。おひいさまに頼ってしまおう。
というわけで、この件はおひいさまって人に頼ることにします。なんか妖怪退治の専門家らしい人がいるらしいので、そっちに任せちゃいましょう。多分、今回の件を警察に持って行ったってどうしようもないでしょう?
「なんの話をしてたかは知らんが、こちらとて被害は出ているんだ。怪異とて俺は解決するまで関わるつもりだ」
うーん、じゃあいいんじゃないスかね? 色々被害出ているんだし。
警察の人は今も尚、鋼人七瀬を組み伏せて動かないようしていた。鋼人七瀬もめっちゃ動いて抜け出そうとしているが、ガッチリとホールドしていて動きそうにない。すっげぇな、歴戦の柔道家や。
感心しながらノッソリとハイハイで移動しながら近づいていると、鋼人七瀬の右手が塵化し始めた。おや、お帰りか? よしよし帰れ帰れ。
左手から鉄骨が出現し、関節を無視して馬乗りだった警察の顔面へ振り上げられた。
……は?
破砕音。人から鳴ってはいけない音が聞こえた。
立ち上がった鋼人七瀬は、倒れ伏した警察の人を睥睨するように数秒ほど顔を向けると、そのまま塵となって消えた。
嘘だろ嘘だろ、嘘だ!
おい爺さん! 携帯電話を取り出して119に連絡しろ! 私の耳元に当て続けろ! できるか?!
『は、はいぃ!』
あんな無理な体勢からの攻撃だ。深くはないはずだ! ……そうであってくれ!
息は……!
心臓は……!
どっちも動いてない、どっちも動いてない!どっちも動いてないってことは!
気道確保を優先、してから心臓マッサージで、AEDが必要か? こんな場所にあるのか?
プラプラと繋がっていなかった右腕を優先して繋がるように意識すれば、ミチミチと嫌な音と痛みを伴いながらも動くようになった。これで心臓マッサージは出来るはずだ。
頼む。頼む……! 人が死ぬのなんてもう見たくないんだ。頼む、頼むって! 生きてくれ!
生きてくれ!
必死の救急活動を終え、やっと考えが纏まるようになったのは救急車が去った後だった。
救急の指示に従い、救急車が来るまでの間、ひたすらに心臓マッサージを続けていた。
救急車が来たとき、私の姿を見えていない様子だった救急救命士の人たちは周囲をいくらか確認していたが、警察の人の状態から、人探しを諦めて病院へと走っていった。
出来る限りのことはしたはずだ。AEDは出来なかったが、指示で言われた内容は全部した。
途中から電波が悪くなったのか言葉が伝わらなくなっていたが、……いや、次第に私の声が届かなくなったのか? 多分、力を使いすぎたのだろう。足元が靄のようになって見えなくなっていることから、それが伺えた。
『……おひいさまのところに向かいますか?』
……ごめん、暫くは立てそうにない。
自分の不出来さに呪い殺したくて仕方ない。完全に油断した。私も一目散に押さえるのに参戦していれば、あの一撃は防げたのではと、もしもの出来事が脳内を巡っては、暢気にしていた自身の愚かさに嫌になった。
前と何も変わっていない。
……あっ。警察の人の携帯電話、持ったまんまだ。
返さないとなぁ。
いつの間にか、蛙の鳴き声は止んでいた。
なんかオリ主ちゃんの生前がチラチラと見え隠れしましたね。これからも小出しする予定です。
一応プロットは完成させたので、鋼人七瀬編までは書けそうです。
あとは執筆時間を設けられるかの戦いですね。応援してやってください。
それでは、皆様。
御機嫌よう。さようなら。グッバイ。