『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第十話 新たなる鬼殺隊士

藤襲山での最終選別から、数日後――。

 

朝靄の漂う狭霧山。

 

長い試練を終えた竈門炭治郎は、懐かしい山道を一歩、また一歩と歩いていた。

 

身体は傷だらけだった。

 

腕にも、脚にも、まだ包帯が巻かれている。

 

それでも足取りは軽かった。

 

帰ってこられた。

 

生きて帰ってこられた。

 

そして――。

 

「鱗滝さん!」

 

「炭治郎……!」

 

山小屋の前に立っていた鱗滝左近次は、炭治郎の姿を認めた瞬間、駆け寄った。

 

「よく……よく戻ってきたな」

 

「はい!」

 

鱗滝は何も言わず、炭治郎の身体を強く抱きしめた。

 

「……!」

 

炭治郎は驚いた。

 

面越しでも分かる。

 

師の肩が震えていた。

 

「心配を……かけました」

 

「馬鹿者……」

 

その声は、僅かに震えていた。

 

「生きて戻ってくる。それだけでいい」

 

「……はい」

 

炭治郎の目にも涙が浮かぶ。

 

その時だった。

 

「……お兄ちゃん?」

 

小さな声が聞こえた。

 

「禰豆子!」

 

振り返った炭治郎の目に映ったのは、布団から身体を起こしている妹の姿だった。

 

「お兄ちゃん……おかえりなさい」

 

「禰豆子……!」

 

炭治郎は駆け寄り、妹の手を握る。

 

温かい。

 

ちゃんと、生きている。

 

「ただいま、禰豆子」

 

その再会を、鱗滝は静かに見守っていた。

 

やがて炭治郎は、藤襲山での出来事を一つずつ話し始めた。

 

手鬼のこと。

 

錆兎のこと。

 

真菰のこと。

 

そして――。

 

「錆兎も真菰も、最後は笑っていました」

 

「……そうか」

 

鱗滝の拳が僅かに震える。

 

「二人とも……ようやく、逝けたのだな」

 

「はい」

 

炭治郎は深く頭を下げた。

 

「二人から伝言を預かっています」

 

「……何と言っていた?」

 

「『鱗滝さんによろしく』と」

 

しばしの沈黙。

 

やがて鱗滝は空を見上げた。

 

「……そうか」

 

それだけを呟いた。

 

だが、その声には長年抱えていた師としての痛みと、僅かな救いが滲んでいた。

 

その数日後。

 

「カァー! カァー!」

 

二羽の鎹鴉が狭霧山へ舞い降りた。

 

「炭治郎! 善逸! 刀、到着!」

 

「刀……!」

 

炭治郎と善逸が外へ飛び出す。

 

そこには刀箱を抱えた隠の隊士たちが立っていた。

 

「お待たせしました。あなた方の新しい日輪刀です」

 

炭治郎は緊張しながら刀を抜いた。

 

鞘から姿を現した刀身は――。

 

漆黒。

 

光を吸い込むような、深い黒色だった。

 

「黒……」

 

善逸が目を丸くする。

 

「なんだか炭治郎らしいじゃん」

 

「そうかな?」

 

「うん。真っ黒で、真っ直ぐで、なんか頑固そう」

 

「それ褒めてるのか?」

 

「褒めてるよ!」

 

その横では善逸も自分の日輪刀を抜いていた。

 

刀身には鮮やかな稲妻を思わせる刃紋が走っている。

 

「おお……!」

 

善逸は目を輝かせた。

 

「雷だ……!」

 

「お前の呼吸に相応しい刀だな」

 

低い声が響いた。

 

「獪岳さん!」

 

炭治郎が振り返る。

 

縁側には鳴柱・獪岳が座っていた。

 

その隣には、藤の花の香りを纏った胡蝶しのぶ。

 

獪岳は立ち上がると、炭治郎の刀を受け取って光にかざした。

 

「漆黒か」

 

刀身をじっくりと眺める。

 

「珍しい色だ。だが――悪くねえ」

 

「本当ですか?」

 

「ああ」

 

獪岳は炭治郎を見る。

 

「お前の性格には合ってる」

 

「性格……?」

 

「頑固で、妙に真っ直ぐで、何度叩き潰されても立ち上がる」

 

「……」

 

「黒い刀ってのは、そういう奴が持つと案外強い」

 

炭治郎は嬉しそうに刀を受け取った。

 

「ありがとうございます!」

 

しのぶも微笑む。

 

「黒は、どの呼吸に適性があるのか判断しにくい色とも言われています。でも――」

 

しのぶは炭治郎を見る。

 

「私は、この刀が炭治郎くんによく似合っていると思いますよ」

 

「しのぶさん……!」

 

「ええ。芯の強さも、温かさも」

 

炭治郎は照れながら頭を掻いた。

 

その横で獪岳は善逸の刀を見る。

 

「善逸」

 

「はいっ!」

 

「雷の刃紋が出たからって浮かれるなよ」

 

「はい!」

 

「雷の呼吸は速い。だからこそ、判断を間違えれば自分が死ぬ」

 

「……はい」

 

「お前は怖がりだ」

 

「うぐっ……」

 

「だが、怖いからこそ生き残ろうとする」

 

善逸が顔を上げる。

 

獪岳は、ほんの僅かに口元を緩めた。

 

「その臆病さを恥じるな。生き残るために使え」

 

「……兄貴」

 

善逸の目が潤む。

 

「俺……頑張るよ」

 

「泣くな」

 

「だってぇ……!」

 

「泣く暇があるなら刀を振れ」

 

「はい!」

 

二人の前に、畳まれた隊服が置かれる。

 

黒を基調とした鬼殺隊の隊服。

 

炭治郎と善逸は、それぞれ袖を通した。

 

「……」

 

炭治郎は自分の姿を見下ろす。

 

これまで着ていた服とは違う。

 

腰には日輪刀。

 

背中には羽織。

 

もう、自分はただの炭焼きの少年ではない。

 

鬼殺隊士だ。

 

「今日からお前らは正式な鬼殺隊士だ」

 

獪岳が告げる。

 

「刀を持つってことは、同時に責任を背負うってことだ」

 

炭治郎は真っ直ぐに獪岳を見る。

 

「はい!」

 

善逸も震えながら頷いた。

 

「……はい!」

 

その時。

 

「カァー! カァー!」

 

炭治郎の鎹鴉が大声で鳴いた。

 

『竈門炭治郎! 我妻善逸! 初任務!』

 

『北北西! 北北西ノ町へ向カエ!』

 

『少女ガ消エル! 少女ガ次々ト消エテイル!』

 

炭治郎の表情が引き締まる。

 

「初任務……!」

 

善逸は一瞬で青ざめた。

 

「えええええ!? もう!? 隊服着たばっかりだよ!?」

 

「善逸!」

 

「嫌だぁぁ! 俺、もうちょっと家で休みたい!」

 

「行け」

 

獪岳の一言。

 

「はい……」

 

善逸は即座に姿勢を正した。

 

炭治郎は思わず笑う。

 

「善逸、行こう!」

 

「炭治郎ぉぉ……!」

 

二人が歩き出す。

 

その背後から獪岳の声が飛んだ。

 

「炭治郎!」

 

「はい!」

 

「善逸!」

 

「はい!」

 

「どれだけ不細工な戦い方になっても構わねえ」

 

獪岳は腕を組む。

 

「勝て」

 

二人の足が止まる。

 

「そして――」

 

獪岳の眼差しが鋭くなる。

 

「絶対に生きて帰ってこい」

 

炭治郎は深く頭を下げた。

 

「はい!」

 

善逸も涙を拭いながら頷く。

 

「絶対……帰ってくる!」

 

「よし」

 

獪岳はそれ以上何も言わなかった。

 

二人が山道を駆け出していく。

 

しのぶが、その背中を優しく見つめる。

 

「立派になりましたね」

 

「……ああ」

 

「あなたの育てた後輩たちですよ」

 

「違えよ」

 

獪岳は少しだけ照れたように顔を背ける。

 

「俺が育てたんじゃねえ」

 

「では?」

 

「アイツら自身が、泥の中から這い上がってきたんだ」

 

しのぶは微笑む。

 

「それでも、あなたが与えた言葉は、きっとあの子たちの力になっています」

 

「……」

 

獪岳は答えない。

 

ただ、遠ざかっていく二人の背中を見つめていた。

 

「……死ぬなよ、バカども」

 

その声は小さかった。

 

けれど、確かな願いが込められていた。

 

炭治郎と善逸は、新たな日輪刀を携え、初めての任務へ向かって走っていく。

 

その胸にあるのは、鬼への恐怖だけではない。

 

守りたい人がいる。

 

帰る場所がある。

 

そして――。

 

自分たちを信じ、背中を押してくれる先輩がいる。

 

霹靂の雷に導かれ、慈雨の温もりに支えられた若き鬼殺隊士たち。

 

その長い戦いの旅は、今ここから始まった。

 

【最終選別編・完】

 

 

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