『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第十話「終わらぬ夜」

脱線した無限列車は、荒野を何度も跳ねながら横倒しになり、ようやく停止した。

 

轟音が消えたあとに残ったのは、砕けた車体と舞い上がる土煙。そして、あまりにも静かな夜だった。

 

「う……ぐっ……!」

 

炭治郎は腹部を押さえながら、荒野の地面に倒れていた。

 

魘夢との戦いで深く負った傷に加え、列車の横転による衝撃まで重なっている。呼吸をするたびに腹の奥が焼けるように痛み、身体を起こそうとしても力が入らない。

 

「炭治郎!」

 

遠くから伊之助の声が響いた。

 

「炭治郎、大丈夫か!? おい、返事しろ!」

 

「……伊之助……俺は、大丈夫……」

 

「大丈夫な奴がそんな顔してるかよ!」

 

伊之助が駆け寄ろうとする。

 

しかし、その前に黄金色の羽織が翻った。

 

「待て、嘴平少年!」

 

炎柱・煉獄杏寿郎だった。

 

煉獄は炭治郎の隣に膝をつくと、傷口を確認する。

 

「竈門少年、意識はあるな?」

 

「はい……でも、血が……」

 

「ならば慌てるな。傷そのものを恐れる必要はない。まずは呼吸を整えろ!」

 

煉獄の声は力強かった。

 

その声に導かれるように、炭治郎は目を閉じる。

 

吸う。

 

吐く。

 

吸う。

 

吐く。

 

痛みに乱れていた呼吸を、少しずつ一定に戻していく。

 

「そうだ! その調子だ!」

 

煉獄は炭治郎の腹部に手を当て、傷の状態を確かめながら言葉を続ける。

 

「血管を意識しろ。力を無駄に使うな。傷口を押さえつけるだけではない。身体そのものを落ち着かせるのだ!」

 

「身体を……」

 

炭治郎は必死に集中した。

 

自分の鼓動。

 

血液の流れ。

 

腹部の傷。

 

そして、そこから失われていく生命力。

 

一つ一つを感じ取る。

 

「……止まれ……!」

 

炭治郎が歯を食いしばった。

 

やがて、傷口から流れていた血が少しずつ弱くなっていく。

 

「よし!」

 

煉獄が満足げに頷いた。

 

「見事だ、竈門少年!」

 

「……できた……!」

 

炭治郎自身も驚いていた。

 

「ありがとうございます、煉獄さん……!」

 

「うむ! 生き残るために使えるものは何でも使え! 剣士にとって、己の身体もまた重要な武器だ!」

 

その言葉に、炭治郎は力強く頷いた。

 

「はい!」

 

その時だった。

 

ザッ……。

 

砂を踏みしめる音がする。

 

振り返ると、黒地に金色の雷模様が刻まれた羽織が土煙の向こうから現れた。

 

「……ようやく止まったか」

 

鳴柱・獪岳。

 

その手には、すでに抜かれた日輪刀が握られていた。

 

「獪岳さん!」

 

「おう」

 

獪岳は炭治郎の姿を一瞥する。

 

「腹をやられたか。生きてるなら上出来だ」

 

「はい。煉獄さんに止血してもらいました」

 

「そうか」

 

獪岳は短く答えた。

 

だが、その視線は炭治郎ではなく、暗闇の向こうへ向けられていた。

 

「……まだ終わってねえ」

 

「え?」

 

炭治郎が眉を寄せる。

 

獪岳は刀を握る手に力を込めた。

 

「喜んでる場合じゃねえって言ってんだよ」

 

「獪岳……」

 

煉獄も立ち上がる。

 

獪岳の表情を見た瞬間、煉獄は察した。

 

彼は警戒している。

 

それも、先ほどの魘夢とは比較にならないほどの何かを。

 

「どうした?」

 

「……匂いが違う」

 

炭治郎の鼻にも、少しずつ異変が届き始めていた。

 

焦げた鉄。

 

血。

 

鬼の匂い。

 

だが、それだけではない。

 

もっと濃い。

 

もっと重い。

 

肌にまとわりつくような、異様な圧力。

 

「なんだ……この匂い……」

 

炭治郎の身体が震えた。

 

その瞬間――。

 

ズンッ!!

 

大地が沈んだ。

 

「なっ……!?」

 

伊之助が目を見開く。

 

「地震か!?」

 

「違う!」

 

獪岳が叫んだ。

 

「構えろッ!!」

 

ドォォォンッ!!

 

荒野の一角から、猛烈な土煙が巻き上がった。

 

その煙の向こう。

 

ゆっくりと、一つの影が姿を現す。

 

桃色の髪。

 

全身に刻まれた紺色の刺青。

 

そして、異様なほどに澄んだ金色の瞳。

 

男はまるで散歩でもするような足取りで、こちらへ近づいてくる。

 

「……素晴らしい」

 

男は笑った。

 

「下弦の鬼を倒したのか。しかも、これほどの若者たちが……」

 

炭治郎の背筋に、凍りつくような悪寒が走る。

 

「鬼……!」

 

煉獄が刀を抜いた。

 

獪岳も同時に構える。

 

バチバチバチッ!!

 

青白い雷が日輪刀から迸った。

 

「テメェ……何者だ」

 

獪岳が低く唸る。

 

男は答えた。

 

「俺の名は猗窩座」

 

そして、その瞳に刻まれた文字が月明かりを受けて浮かび上がる。

 

『上弦』

 

『参』

 

「……上弦の参」

 

炭治郎の喉が鳴った。

 

魘夢とは、明らかに違う。

 

存在そのものが別次元だった。

 

立っているだけなのに、空気が震えている。

 

獪岳は刀を握り直した。

 

「下弦を倒して、ようやく一息つけると思ったら……今度は上弦かよ」

 

口元が不敵に吊り上がる。

 

「上等だ」

 

煉獄もまた、静かに刀を構えた。

 

「獪岳!」

 

「ああ」

 

二人の柱が並び立つ。

 

炎と雷。

 

その背後には、傷つきながらも立ち上がろうとする炭治郎たち。

 

猗窩座はそんな彼らを見渡し、嬉しそうに笑った。

 

「いいぞ……実にいい」

 

「強者が揃っている」

 

「俺は強い者と戦うことが好きだ」

 

その言葉を聞いた瞬間、獪岳の目つきが変わった。

 

「……強者?」

 

刀身に雷が集束する。

 

「勘違いすんなよ、鬼」

 

青白い雷光が夜の荒野を照らした。

 

「俺たちは強くなるために戦ってんじゃねえ」

 

一歩。

 

獪岳が前へ出る。

 

「守るために強くなったんだ」

 

煉獄も一歩前へ。

 

「その通りだ!」

 

炎の気配が爆発的に膨れ上がる。

 

「ここから先は、貴様を竈門少年たちの前へ通すわけにはいかない!」

 

猗窩座の笑みが深くなる。

 

「ならば――」

 

拳を構える。

 

「その覚悟、俺に見せてみろ!」

 

夜の荒野に、凄まじい殺気が激突した。

 

無限列車の悪夢は終わった。

 

しかし――本当の戦いは、ここからだった。

 

下弦の壱を討ち取った炭治郎たちの前に現れたのは、鬼舞辻無惨が誇る最強の鬼の一角。

 

上弦の参・猗窩座。

 

そして、炎柱・煉獄杏寿郎と鳴柱・獪岳。

 

二人の柱が並び立つ夜は、まだ終わらない。

 

むしろ――これからが、本当の夜明け前だった。

 

 

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