コレン奮闘記 ―― 秘密多き魔法使いの少年   作:mogatoku

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07 7 必要の部屋を求めて ―― 事務員と台帳とスクイブと

 

※用語解説

○必要の部屋

 ホグワーツ校舎のどこかにある伝説の部屋の一つ。

 必要な人の前に、必要な時に、必要な部屋の姿で現れる超便利な部屋。

 二次創作でも大人気!

 漏らしそうな人の前にトイレとして現れることが多いため、使った人は多いけど、気付かれてないらしい。

 

――

 

 ホグワーツの敷地内ではマグルの作った機械類は作動しない。

 だから腕時計は動かないし、工作機械も動かない。

 電卓も使えない。

 

 ――でもそれじゃ困るんだ。

 

 僕は魔術具の製作に工作機械を使う。

 だから工作機械が動かないと魔術具が作れないんだ。

 

 魔法で作れば良いじゃないかって?

 杖の魔法で作った魔術具じゃダメなんだ。

 

 魔術具製作が進まないと、僕の準備が進まない。

 そうなると救えるはずの人が救えなくなるかもしれない。

 

 ではどうする?

 

 ――そこで『必要の部屋』だよ。

 

 必要の部屋なら、きっと僕の前に“工作機械が動く部屋”として現れるはず。

 つまり工作機械が使える。

 何処にあるのかは、映画の記憶を見ても分からない。

 

(なんか偶然見つけてたけど…)

 

 ――とにかく、見つけるんだ。

 

 僕には“前世の自分”の記憶がある。

 彼は、異世界に転移するまでは、海外進出する日本企業のために不動産を手配する仕事をしていたんだ。

 

 というわけで僕は今、とある人の前にいる。

 食事中だけど、話しかけちゃえ。

 

「おはようございます、エバートンさん。少しお話ししても良いですか?」

 

 彼女はアナベル・エバートン。

 事務員の魔女だよ。

 映画には出てこない人だけど、考えてみれば学校が教員だけで成り立つわけないよね。

 この人なら、僕の知りたいことを知ってるはず。

 

「おはよう。あなた名前は?」

 

 後ろにまとめた髪はハーマイオニーと同じ色だ。

 

「僕はコレンティン・ジロードと言います。エバートンさん」

「わたしを覚えているのね」

「ええ、いつもフィルチさんの隣の席に座っていらっしゃいますね」

「教授じゃないからね。それで何の用?」

 

(実は『必要の部屋』の場所を知りたいんです…)

 

 なあんて正直に話したりしないよ。

 僕はあくまでおしゃべりに来たんだ。

 

「随分と早く食事してらっしゃるから、どうしてなのかなと」

「先に済ませるんですよ。人混みが苦手でね」

 

 そう言って食事を続けるエバートンさん。

 僕は意味のないおしゃべりを始める。

 

「そうですか。それでホグワーツの経費は魔法省から出てるって聞いたんですけど、そうなんですか?」

 

 向かう方向の分からないおしゃべりというのは、時に男子をイライラさせるけど、女子にはしてもまず問題にならないんだ。経験的に。

 話題選定の主導権がこちらにありさえすれば、僕はちゃんとついていける。自分で話してるわけだからね。

 相手に主導権を取られると途端についていけなくなるけど……

 

「ええ、そうよ。だからホグワーツには授業料はないの」

 

 そう。ホグワーツは無料なんだ。

 

「魔法省がおカネを出しているということは魔法省がボスなんですか?」

 

 すると魔女は眉をひそめた。

 

「ホグワーツのボスは校長先生よ。校長先生に指図できるのは理事会ね。ビッグボスだわ。魔法省も口を出すことはできるけど、理事会を通じての口出しになるわね」

 

 つまりホグワーツは魔法省から金をもらっているのに、口は出させないという独立した教育機関だ。

 

(そんなことはもう知ってるけど)

 

 これはあくまで、ただのおしゃべりだ。

 

「エバートンさんのお仕事は経理ですか?」

「経理も仕事の内ね」

 

 彼女はパンをちぎって、平然と口に放り込んでいる。

 

「庶務もですか?」

「庶務? それは何?」

 

 ちょっとだけ眉が動いた。

 

(え? 知らない?)

 

「学校ではたぶん、建物や備品の管理、文書の発行などの仕事です」

 

 まさか、存在しないなんてことはないよね?

 

 すると彼女は頭を傾けた。

 

「建物は校長先生が、備品はそれぞれの教授が担当しているわ。文書のやりとりなどもみな先生方が自分でやっているわね」

 

 つまり、教員任せなんだね。

 

 ――では、そろそろいいかな?

 

 ここでようやく、僕は目的の話を切り出すことにした。

 

 え?

 今までのやりとりは何なのかって?

 

 それは、印象をぼやかすためだよ。ワトソン君。

 

“コレンは必要の部屋を探してる”って気付かれたくないんだ。

 エバートンさんにはあくまで「あの時、いろんなお話をしたわ」っていう印象を持ってもらいたいんだよ。

 

「すると備品台帳や建物台帳を管理しているのはどなたですか?」

 

 狙いどおり、エバートンさんは特に表情も変えずに、食べ物を口に入れてもぐもぐしながら考えている。

 

「そんなもの聞いたことがないねえ」

「そうですか…」

 

 やっぱりそうなのか…

 

(そうじゃないかなとは思ったよ…)

 

 でも映画にはエバートンさんは出てこなかったから、もしかして台帳も出てないだけで実際はあるかもと思ったんだよ。

 ハズレたけど!

 

「何か探してるの?」

 

 おっと。ここで「何でもありません」なんて答えたらダメよ。

 それでは何かを隠していることが明白で、印象が付いてしまう。

 だから子供らしい理由を話すんだ。

 

「はい、秘密の部屋とか必要の部屋みたいな、そういう伝説の部屋も、台帳を見れば書いてあったりするんじゃないかなと思いついたんです」

「それで台帳を見たいのねえ」

「はい」

「ホグワーツは古い学校よ。台帳なんか無いわよ」

 

(そうか…無いか…)

 

 ――いや、作ろうよ! ちゃんと管理しようよ!

 

 僕はそう叫びたかった。

 でも無いものは仕方がない。

 

(あれば話は早いと思ったんだけど…)

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

 僕が礼を言うと、それまで興味なさそうだったエバートンさんの顔が真剣な表情に変わった。

 

「ミスター・ジロード」

 

 え? 何?

 急に興味をもたれても困るんですけど…?

 

「コレンと呼んでください」

「コレン」

 

 ちょっと言いづらそうにしている。

 何だろう?

 

「メグがジロード商会に雇われたそうね」

 

 メグ!

 やっぱり!

 彼女の親戚だったか!

 

「マーガレット・エバートンさんですか? はい、従業員です」

 

 そう。

 メグというのは、人付きのするおばさんで、とても仲良くしてもらってるんだ。

 

「メグを雇ってくれて感謝しているとお父様に伝えてくれる?」

 

 僕はちょっと嬉しくなった。

 

「はい! 毎週手紙を書くので、それに書きましょう!」

「メグはわたしの姉なの」

 

 どこか恥じ入るような表情になった。

 

(おお。それは知らなかったよ!)

 

 親戚だろうとは思ったけど。

 

「そうだったんですか。メグとはよく話します」

 

 メグにはとっても世話になってる。

 精霊魔法のことはまだ秘密だから話すわけにはいかないけど、メグは僕以外で最初に使えた人なんだ。

 

「ありがとう。ジロード商会はスクイブを何人も雇っているというのは本当なのね」

 

 スクイブ――“魔法が使えない魔法族”のことだ。

 

「ええ、マグルに任せられない仕事がありますから」

 

 精霊魔法の実験とかね。

 

「メグはその…家族からつまはじきにされていたのよ」

 

 それは少しだけどメグから聞いてる。

 僕の声も沈む。

 

「そうらしいですね。スクイブは毛嫌いされているようです」

 

 そうなのだ。

 他のスクイブ従業員もそう話していたし、二人の家庭教師のうち、マグルの教科を教えてくれるエリオットも話していた。

「自分がスクイブだったせいで両親が離婚した」って。

 スクイブが置かれている環境は厳しい。

 

「あなたの一族にはスクイブはいないの?」

 

 ジロード家はこの厄介事をどう扱ってるの?

 そう言われた気がする。

 

「さあ聞いていません。祖父母がフランスから逃げてきた時に、親戚はほとんど殺されたと聞いていますので」

 

 ジロード一族は、魔法が使えようと使えまいと、みんな殺された。

 お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは、かろうじて逃げ延びることができた。そしてロンドンで暮らし始めて、父さんとジョージ叔父さんが生まれたんだ。

 

「そう…大変だったのね」

「苦労したと聞いてます」

 

 聞くんじゃなかったって顔をしてる。

 僕はすぐに話題を戻すことにした。

 

「父はこれからもスクイブの従業員を増やしていくつもりですので、メグが孤立するようなことはないと思います」

 

(だから心配ありませんよ)

 

 そういう意味で伝える。

 

「あなたのお父さんは変な魔法使いなのね」

 

 変な魔法使い――スクイブを普通に雇用する魔法使い。

 

(どこが変なの?)

 

 と言いたくなるけど、我慢してここはスルーだ。

 

「そうらしいですね。僕にとって父は普通ですけど」

 

 需要と供給が合致したから雇ってるんだ。

 そして、それは“普通のビジネスマン”だよ。

 スクイブだろうが魔法使いだろうが魔女だろうが、必要なら雇うし、必要なければ雇わない。

 それだけのことだよ。

 

「あら、ごめんなさい」

「いえ、僕には他の魔法使いの方が変わってるように見えてますので、お互い様ですよ」

「あら、あなたも変なのね」

 

 そうかな?

 

「変わってるというよりも、実業家らしいんだと思います。魔法族には実業家は少ないですから」

 

 僕はこの辺で切り上げることにした。

 

「お話しできて楽しかったです。ありがとうございます」

「わたしも話ができて良かったわ」

 

 それにしても、意外なところに繋がりがあったよ。

 父さんも「なるべく知り合いを増やせ」って言ってたけど、こうやって増やしていくと、そのうち何かの役に立つかもしれない。

 

 まあ、目的は達成できなかったんだけどね。

 

(よし! 事務の人がダメなら、別の手段だ!)

 

「あ、そうだ!」

 

 朝食を取り始めた僕は、すぐに思いついた。

 

 ちょうどお年寄りのハウスエルフと知り合ったばかりだよ。

 

 ――というわけで尋ねてみた。

 

「ディークが教えなくても、必要の部屋は本当に必要な時に現れます」

 

(ハウスエルフは教えてくれなかったよ…)

 

 やっぱり歩き回って見つけるしかないのか…

 よし、今日の授業が終わったら校舎を歩き回るぞ!

 

 ――必要の部屋は必ず見つける!

 

 僕はそう決意しながら、急いで朝食を済ませ、初日最初の授業に向かった。 

 

 ――でも授業には集中しないだめだぞ、コレン!

 

 

 そう自分に言い聞かせて授業に臨んだんだけど……

 

 

 魔法史のカスバート・ビンズ教授は幽霊だった。

 

 なんで幽霊が授業を持ってるんだよ!

 死んでも引退しないんじゃ、後ろに控えている人はどうしたら良いんだよ?

 

「それでは続きから始めます」

 

 映画の記憶に出てこない教授だ。

 初日の授業でいきなり「続きから始める」とはどういうこと?

 教室がざわついてるよ。

 

「今日が初めてですよ。ビンズ教授」

 

 生徒の一人が指摘した。

 

「なにを言ってるのですか、ミスタ・ウィリアムズ」

「僕はスミスです。ザカリアス・スミス」

「わたしをからかうのはやめなさい。ミスタ・ウィリアムズ」

 

 なんだこいつは! と教室がまたざわつく。

 

「では128ページから。まずは…」

「あの、ビンズ教授!」

 

 僕は手を挙げた。

 

(この世界の魔法の歴史について、実は考えてることがあるんだ)

 

 これを話す相手がいるとしたら、それは魔法史の教授しかいない。

 

「何かね、ミスタ・サッカレー」

 

(サッカレーじゃないよ!)

 

「魔法の起源について質問があります!」

 

 まさかこの件が噂で広まるとは思いもせずに、僕は自分の考えをぶつけたのだった。

 





次回の投稿は明日の予定です。
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