『隣人GV ―もしもスパイディの影響を受けたGVなら―』 作:幸田市
予約設定ミスってた
休日の朝は、いつもより少しだけ遅く始まる。
決まった時間に鳴る目覚ましもなければ、フェザーから急かすような通信もない。窓の外では、既に活動を始めた街の音が遠くに聞こえていたが、それも閉じた窓を一枚隔てれば、どこか他人事のように穏やかだった。
GVがリビングへ顔を出した時には、シアンはもう起きていた。
テーブルには簡単な朝食が並び、エリーゼ1がパンを小さく千切りながら食べている。モルフォはシアンの肩口より少し高いところに浮かび、テレビから流れる朝の情報番組を、見ているのかいないのか分からない顔で眺めていた。
「おはよう」
「おはよう、GV」
「おはようございます、GVさん」
『遅い』
「休日くらいいいでしょ」
モルフォから早速飛んできた言葉へ返しながら、GVは椅子を引いた。
席につく。
シアンが横目でGVを見る。
ほんの一瞬。
けれどGVは気付いていた。
「何?」
「……別に」
「今見てたでしょ」
「見てない」
「見てたよ」
「自意識過剰」
「ひどいな」
GVは笑いながらパンへ手を伸ばす。
シアンは何でもない顔をしていたが、本当は確認していた。
顔色。
目の下。
眠そうかどうか。
夜中に起きたような様子がないか。
少し前までなら、それを隠すことなく「昨日は?」と聞いていた。
けれど、毎朝聞くのも違う気がしていた。
GV自身が話したくなった時に話せるようにしておく。
心配しないわけではない。
心配するかどうかは自分が決める。
ただ、その心配をどう伝えるかまで毎回同じである必要はなかった。
「昨日はまあまあ寝られたよ」
GVが言った。
シアンが止まる。
「……何で分かったの」
「見てたから」
「見てないって言ったじゃん」
「じゃあ気のせいかな」
「その言い方ずるい」
『どっちも面倒くさいわね』
「モルフォは黙ってて」
『はいはい』
シアンはGVを見る。
「夢は?」
「少し」
「そっか」
「でも起きなかったと思う」
「覚えてない?」
「途中から」
GVはジャムを塗りながら言う。
「前よりはマシ」
「なら、よかった」
「うん」
それ以上は聞かなかった。
GVもそれ以上は話さなかった。
短い。
でも、以前より少し自然なやり取りになっている。
シアンはそれでいいと思った。
食事が進む。
しばらくして、GVが何気なく尋ねた。
「今日どうする?」
「今日?」
「何か予定あった?」
「ないけど」
「じゃあ買い物でも行く?」
シアンはそこで一度、口を閉じた。
これまでなら。
「GVはどこ行きたい?」
と聞いていた気がする。
GVが行くなら行く。
GVが選んだものを見る。
GVに合わせる。
嫌だったわけではない。
むしろ一緒にいられるなら、それで十分だった。
でも。
もっと自分のことを知ってもらいたい。
そう決めた。
「わたし、商店街の方行きたい」
シアンが言った。
GVが一瞬だけ目を瞬く。
「商店街?」
「うん」
「何か買うの?」
「見たい店がある」
「へえ」
「何、その顔」
「いや」
GVは少しだけ笑う。
「シアンから行きたい場所言うの、珍しいなって」
「悪い?」
「全然」
すぐに返ってきた。
「じゃあ行こうか」
「……うん」
シアンも頷いた。
胸の奥に、ほんの少しだけ嬉しさが広がる。
たったそれだけのことだ。
自分から行きたいと言った。
GVがいいよと答えた。
それだけ。
『早速やってるわね』
モルフォの声が頭上から落ちてくる。
「何が」
『別に』
「絶対分かって言ってるでしょ」
『何のことかしら』
「その顔むかつく」
GVは首を傾げる。
「何の話?」
「GVには関係ない」
「最近それ多くない?」
「気のせい」
『気のせいじゃないわよ』
「モルフォ!」
GVは苦笑する。
「まあいいけど」
シアンは朝食へ戻ろうとして、思い出した。
「あ、帰ってきたら映画の続き見るからね」
「映画?」
「この前途中だったやつ」
GVの手が止まる。
「……スパイディ?」
「うん」
「アメイジング?」
「そう」
「今日?」
「今日」
GVの表情が目に見えて変わった。
「絶対?」
「そこは絶対って言うんだ」
「いや、スパイディだから」
「意味分かんない」
「これは言える」
「何、その信頼」
「だってアメイジングだよ?」
「タイトル言えば全部説明できると思ってる?」
「少なくとも僕には」
「GV基準じゃん」
シアンは呆れる。
でも。
ちょっと面白い。
好きなものの話になると、本当に分かりやすい。
任務の時とも、人を助けている時とも違う。
ただ好きな映画の話をしている少年の顔になる。
「じゃあ帰ったら見るよ」
「最初から?」
「途中からでいいでしょ」
「最初から見よう」
「何で」
「前半からのピーターの変化が――」
「まだ朝だから」
「まだ全然説明してないけど」
「夜聞く」
GVが少し驚く。
「聞いてくれるの?」
「……うん」
「本当に?」
「何でそんな嬉しそうなの」
「いっぱい話すよ」
「ちょっと後悔してきた」
『遅いわよ』
「モルフォは何で分かるの」
『アタシも聞かされたことあるもの』
「シアンだから実質初めてでしょ」
『そういう問題じゃない』
◇
朝食が一段落した頃だった。
「あの……」
控えめな声。
エリーゼ1だった。
「どうしたの?」
シアンが振り向く。
エリーゼ1は少しだけ迷った様子で、手元のカップを見ている。
「今日、わたしも……買い物へ行ってみたいんです」
「いいんじゃない?」
GVはほとんど間を置かずに答えた。
エリーゼ1が顔を上げる。
「本当ですか?」
「何か欲しいものあるの?」
「少しだけ」
「じゃあ僕らも商店街行くから、一緒に――」
「あ」
「何?」
「いえ……」
エリーゼ1がまた言葉を探す。
「できれば、一人で行ってみたいなって」
GVの表情が変わった。
拒絶ではない。
驚いただけだった。
「一人で?」
「はい」
「そっか」
GVは一度頷く。
エリーゼ1は、そのまま少し不安そうにGVを見る。
「駄目ですか?」
「いや?」
「え?」
「一人で行ってみたいんでしょ?」
「はい」
「なら、いいと思う」
エリーゼ1の肩から少し力が抜ける。
シアンもその様子を見ていた。
GVは何かを思い出したようにパンを置く。
「……ただ」
「はい」
「一個だけ確認していい?」
「何ですか?」
GVの声は変わらない。
「皇神に狙われる可能性が、まだ完全になくなったわけじゃない」
エリーゼ1の表情が少し固まった。
シアンも真面目な顔になる。
それは避けて通れない。
ここへ来たからといって、皇神との問題が全て終わったわけではない。
エリーゼという能力者が皇神にとってどういう価値を持つか。
生命輪廻という第七波動がどれほど特殊なのか。
それを考えれば、所在が知られた時に何も起きないとは断言できない。
「……そう、ですよね」
エリーゼ1が呟く。
「怖い?」
GVが聞く。
エリーゼ1は少し考えた。
「少し」
「うん」
「でも」
手を握る。
「行ってみたいです」
GVは頷いた。
「分かった」
「いいんですか?」
「エリーゼがそうしたいなら」
それから少し考える。
「じゃあ、どうやったら安全に行けるか聞いてみようか」
「誰に?」
「フェザー」
シアンも納得する。
「そっか。皇神が今どう動いてるか、こっちじゃ分かんないもんね」
「うん」
GVは端末を取り出した。
「エリーゼは、それでいい?」
「はい」
「何かすごい監視とか付けられるの嫌なら、それも先に言っていいからね」
「……はい」
「僕らが勝手に決める話じゃないし」
端末を操作する。
数回の呼び出し音。
『はい、モニカ』
「おはよう」
『おはよう。どうしたの?』
「ちょっと相談」
『GVが相談って言うと身構えちゃうわね』
「何で?」
『普段、相談する時ってだいたいもう何か起きてるから』
「今日は何も起きてないよ」
『本当に?』
「本当」
モニカは少し笑った。
『じゃあ珍しい日ね』
「どういう扱いなの僕」
「だいたい合ってるよ」
シアンが横から言う。
「シアンまで」
『で、どうしたの?』
「エリーゼのこと」
モニカの声色が少し変わった。
『何かあった?』
「いや。今日一人で買い物に行ってみたいって」
『ああ』
「僕もそれ自体はいいと思うんだけど、皇神がエリーゼをまだ探してる可能性あるでしょ」
『そうね』
「エリーゼ本人にも話した。それでも行ってみたいって」
『なるほど』
「何かいい方法ないかな」
『ちょっと待って』
モニカが端末を操作する音が聞こえる。
『今、周辺の記録見るから』
「お願い」
しばらく待つ。
GVはエリーゼ1を見る。
緊張している。
でも、先ほどの「行ってみたい」は取り消していない。
やがてモニカの声が戻る。
『現時点では、そっちの周辺で皇神の不自然な動きは確認されてない』
「今は?」
『少なくともフェザーが掴んでる範囲ではね。エリーゼを探してるって直接分かる通信もない』
「じゃあ大丈夫かな」
『そこまでは言えない』
「だよね」
『可能性がゼロになったわけじゃないし』
その時。
通信の向こうから別の声が入る。
『話は聞こえた』
「アシモフ?」
『私だ』
どうやら近くにいたらしい。
『エリーゼはそこにいるのか?』
「いるよ」
GVは端末をテーブルの中央へ置く。
『エリーゼ』
「……はい」
『外出先は?』
「商店街です」
『時間は?』
「まだ決めてません」
『長時間ではない?』
「はい。買い物だけなので」
『OK』
アシモフは短く答えた。
「何かできそう?」
GVが尋ねる。
『商店街なら、こちらの監視範囲からも遠くない』
「監視って皇神の方?」
『皇神の動向だ。そちらの買い物を覗く趣味はない』
「あ、そう」
『少し警戒経路を寄せることはできる。モニカ』
『うん。近くを通るチームに一応共有しておく』
「護衛付ける?」
『不要だ』
アシモフは即答した。
『目立つ』
「確かに」
『皇神側の動きが確認されていない段階で、こちらから大人数を付ければ逆効果だ』
「じゃあ連絡手段?」
『それでいい。緊急回線を設定しろ』
モニカが答える。
『エリーゼの端末から一操作でこっちへ繋がるようにしておくよ。位置情報も、その時だけ送る形にしようか』
GVがエリーゼを見る。
「どう?」
「それなら……大丈夫だと思います」
『決まりね』
「ありがとう」
『礼は帰ってきてからでいい』
モニカは軽く言う。
アシモフは続けた。
『もし皇神関係者を見掛けても、自分から確かめに行く必要はない』
「はい」
『離れろ。必要ならこちらを呼べ』
「分かりました」
短い。
危険がある。
だから備える。
それだけだった。
アシモフはエリーゼが外へ出る意味について何も語らない。
GVも求めていない。
必要なのは、現実にある危険を少しでも減らす方法だった。
「じゃあ、これなら行けそうだね」
GVがエリーゼ1へ言う。
「はい」
「本当に行く?」
確認する。
エリーゼ1は今度こそ迷わなかった。
「行きたいです」
「了解」
『モニカ、設定を』
『今送った』
エリーゼの端末が小さく鳴った。
『使い方は簡単だから、あとで確認してね』
「はい。ありがとうございます」
『グッドラック』
アシモフ。
それだけ残して通信から離れたらしい。
GVは少し笑う。
「相変わらず急だな」
『アシモフだからね』
「じゃあまた何かあったら」
『了解。今日は何も起こさないでよ』
「僕が起こしてるわけじゃないよ」
通信を切る。
シアンがGVを見る。
「結局、普通に行けそうじゃん」
「うん。よかった」
エリーゼ1も少し嬉しそうだった。
「ありがとうございます、GVさん」
「僕は聞いただけだよ」
「でも」
「じゃあモニカたちにも帰ったら言おう」
「はい」
そこで。
エリーゼの表情が急に変わる。
「ちょっと待ちなさいよ」
エリーゼ3。
「何?」
シアンが振り返る。
「アタシなら別にそんな心配いらないわよ」
「今1が話してたんだけど」
「1は1。アタシはアタシよ」
「身体同じじゃん」
「関係ない!」
GVが苦笑する。
「じゃあ3なら何かあっても大丈夫?」
「当然でしょう!」
「なら安心だね」
「……は?」
「何?」
「何で急に任せるのよ!」
「今大丈夫って」
「言ったけど!」
「じゃあいいじゃん」
「そういう問題じゃないわよ!」
シアンがため息を吐く。
「面倒くさいなあ」
「アンタに言われたくない!」
「何で!」
『朝からうるさいわね』
モルフォまで加わる。
GVは笑いながら残っていたコーヒーを飲んだ。
危険が完全になくなったわけではない。
何かが起きる可能性はある。
それでも。
できることを考えた。
今日一人で買い物に行きたい。
そんな小さな願いを、小さなまま叶えられる。
それで十分だった。
◇
家を出たのは、朝より随分日が高くなってからだった。
エリーゼ1も一緒に歩く。
商店街までは同じ方向だから、入口までは三人で行くことにした。
「端末持った?」
GV。
「はい」
「設定確認した?」
「はい」
「緊急回線は?」
「ここですよね」
「そう」
「GV」
シアンが横から割り込む。
「何?」
「何回確認するの」
「まだ三回くらい」
「十分だよ」
「でも初めてだし」
「フェザーにも相談したじゃん」
「そうだけど」
エリーゼ1が小さく笑う。
「大丈夫ですよ、GVさん」
「……ならいいけど」
「心配性」
シアンが言う。
「シアンに言われると複雑だな」
「何で」
「僕が夜中起きる度に来てた人が」
「それとこれは違う!」
「そう?」
「違う!」
エリーゼ1がまた笑う。
そんなやり取りをしているうちに商店街の入口へ着いた。
休日らしく、人通りは多い。
エリーゼ1が少しだけ緊張した顔になる。
GVが気付いた。
「途中まで一緒に行く?」
「……」
エリーゼ1は道の先を見る。
それから首を振った。
「ここから、一人で行ってみます」
「分かった」
GVはそれだけ答える。
シアンが少し意外そうに横を見る。
もっと何か言うと思っていたのかもしれない。
「何かあったら連絡して」
「はい」
「帰ったらどうだったか教えて」
「はい」
エリーゼ1が一歩進む。
そして振り返った。
「行ってきます」
GVは手を上げる。
「行ってらっしゃい」
シアンも笑う。
「行ってらっしゃい」
エリーゼ1は人の流れの中へ入っていった。
少し歩いて。
こちらを振り返る。
GVはまだ見ていた。
エリーゼ1が小さく手を振る。
GVも振り返す。
さらに歩いて。
角を曲がる。
見えなくなる。
「……」
「ついていかないよ」
シアンが言った。
「分かってるよ」
「一瞬足動きそうだった」
「動いてない」
「顔が動いてた」
「顔が動くって何」
「心配してたってこと」
「そりゃするよ」
GVは肩を竦める。
「でも、一人で行きたいって言ってたからね」
「うん」
シアンもエリーゼが消えた角を見る。
「じゃあ、わたしたちも行こ」
「シアンの行きたいところ?」
「その前にちょっと見て回る」
「了解」
二人で歩き出す。
◇
商店街は休日らしい賑わいだった。
大きなショッピングモールのような洗練された統一感はない。
野菜が店先へ山積みにされている店。
昔ながらの看板を残した喫茶店。
新しくできたらしい小さな洋菓子店。
玩具屋。
古本屋。
色々な店が、少しずつ違う時間を生きているように並んでいる。
「こういうところ久しぶり」
シアンが辺りを見回す。
「そう?」
「GVとはあんまり来ないじゃん」
「普段スーパーで済ませるからね」
「だから今日はこっち」
「シアンが行きたい店ってどこ?」
「もう少し奥」
「先に行く?」
「まだいい」
シアンは小さな店を覗く。
「適当に見ながら行きたい」
「じゃあそうしよっか」
数十メートル歩く。
「あら、GVくん」
声を掛けられた。
GVが振り返る。
「あ、こんにちは」
八百屋の女性だった。
「あらまあ」
女性の視線がシアンへ移る。
「今日は彼女とお出掛け?」
「え?」
「違います!」
シアンの返事がGVより早かった。
女性が楽しそうに笑う。
「あら、ごめんなさい」
「今日は一緒に出掛けてるだけで」
シアンが慌てて続ける。
GVは少し遅れて理解した。
「ああ、そういう」
「GVは黙ってて」
「何で?」
「余計なこと言いそうだから」
「何も言ってないよ」
「ならそのまま」
女性がまた笑う。
「仲いいのねえ」
「まあ、一緒に住んでるので」
「GV!」
「事実でしょ?」
「言わなくていい!」
「何で?」
「何でも!」
シアンの顔が少し赤い。
女性は面白そうに二人を見る。
「それよりGVくん、この前ありがとね」
「何かしました?」
「ほら、店の裏まで荷物運んでくれたじゃない」
「ああ」
GVは思い出した。
「でもあれくらい誰でもやりますよ」
「誰でもっていうけど、あの量一人で持っていったのはあんただけよ」
「たまたま通っただけです」
「そういうことにしとくわ」
女性が店へ戻る。
二人も歩き出す。
シアンがGVを見る。
「何?」
「何でもない」
「何か言いたそう」
「別に」
「それ今日何回目?」
「数えないで」
少し先へ進む。
「お、GV」
魚屋の男性が手を上げる。
「こんにちは」
「この前の婆ちゃん、無事だったぞ」
「自転車の?」
「そうそう。お前が途中まで送ったやつ」
「ああ、よかった」
「ありがとな」
「別に僕は何も」
「付き添ったろ」
「家の近くまでです」
「十分だ」
また先。
「あ、お兄ちゃん!」
今度は小学生くらいの男の子。
「こんにちは」
GVも手を上げる。
「この前ありがと!」
「何だっけ?」
「ボール!」
「ああ、木の上の」
「また取って!」
「また引っ掛けたの?」
「まだ!」
「なら引っ掛けないでね」
「はーい!」
走り去る。
シアンはずっと横で見ていた。
数分後。
「GV」
「何?」
「どんだけ知り合いいるの」
「知り合いってほどじゃないよ」
「みんなGVのこと知ってるじゃん」
「近所だから」
「近所だからって、普通あんなにお礼言われる?」
「たまたまじゃない?」
GVは本気で言っている。
シアンは呆れた。
でも。
少し嬉しかった。
「……なんか、いいね」
「何が?」
「こういうの」
「こういうの?」
「みんな、GVのこと普通にGVって呼ぶんだね」
「そりゃそうでしょ」
「そうだけど」
シアンは周囲を見る。
「蒼き雷霆とか、フェザーの能力者とかじゃなくてさ」
「そんなの近所で言われたら困るよ」
「そうじゃなくて」
少し考える。
「ただ、近所のGVなんだなって」
「僕はずっと僕だけど」
「分かってる」
それでも。
シアンには少し特別に思えた。
誰かの救出対象だった自分。
組織の能力者だったGV。
そんな二人が、休日の商店街を歩いている。
GVは店の人に呼び止められて。
この前はありがとう、と言われて。
「……いいな」
「だから何が?」
「何でもない」
モルフォが現れる。
『顔がもうファンなのよ』
「うるさい」
「何?」
GVが聞く。
「GVには関係ない!」
「僕の話してなかった?」
『してたわよ』
「モルフォ!」
◇
少し歩いたところで。
GVの足が止まった。
シアンも止まる。
視線の先。
年配の女性が、両手いっぱいの買い物袋を持っていた。
何度か持ち直している。
重そうだ。
シアンはGVを見る。
GVもシアンを見る。
「……行くんでしょ」
「まだ何も言ってないよ」
「顔で分かる」
「じゃあちょっと待ってて」
「わたしも行く」
「いいの?」
「いいから」
二人で近づく。
「すみません」
GVが声を掛ける。
「あら?」
「荷物、重くないですか?」
「大丈夫よ。すぐそこだから」
「よかったら持ちますよ」
「悪いわよ」
「僕らも歩いてるだけなんで」
シアンが横を見る。
女性が指した方向は、シアンが行きたい店とは少し逆だった。
GVは気付いている。
でも、普通に言っている。
「じゃあ……一つだけお願いしようかしら」
「はい」
GVが受け取る。
まだ女性の手にはいくつも残っている。
「それも持ちます」
「これは大丈夫よ」
「でも」
「GV」
「何?」
「一個寄越して」
「大丈夫だよ」
「また大丈夫って言った」
「荷物くらいはいいでしょ」
「そういう問題じゃない」
「シアンも荷物あるじゃん」
「軽いから」
GVが持っていた袋を一つ奪う。
「二人で持った方が早いでしょ」
「まあ、それはそうだね」
女性が二人を見る。
「仲いいのねえ」
「そう見えます?」
GV。
「見えるわよ」
「へえ」
シアンは無言で前を向く。
『耳赤いけど』
「黙って」
『今アンタにしか聞こえないように言ったじゃない』
「余計悪い!」
女性の家まで歩く。
大した距離ではない。
着くと、何度も礼を言われた。
「本当にありがとうね」
「いえ」
「お嬢ちゃんも」
「……はい」
「二人とも気を付けて」
別れる。
商店街へ戻る道。
「予定遅れちゃったね」
GVが言う。
「うん」
「ごめん」
「何で謝るの」
「僕が声かけたから」
「そこはちょっと怒ってる」
「やっぱり」
「でも」
シアンが止まる。
GVが見る。
「でも?」
「……何でもない」
「また?」
『どうせ「でもそういうところが好き」って言いたいのよ』
「モルフォ!」
「何?」
「何でもない!」
「何で僕毎回怒られてるの?」
◇
商店街の中心へ戻った時。
小さな泣き声が聞こえた。
GVが先に気付く。
シアンもすぐそちらを見る。
店と店の間。
幼い子供が一人で立っている。
周囲を見回しているが、誰かを探している様子だった。
「迷子かな」
シアンが呟く。
「多分」
GVは近づく。
でも、いきなり触れたりはしない。
少し離れた位置でしゃがむ。
「どうしたの?」
子供がGVを見る。
目元は赤い。
でも答えない。
警戒している。
GVは急かさない。
「知らない人に名前言っちゃダメって言われてる?」
子供が小さく頷いた。
「じゃあ言わなくていいよ」
子供が少し驚いた顔をする。
「お父さんかお母さん探してる?」
頷く。
「はぐれた?」
もう一度。
「そっか」
GVは周りを見る。
「じゃあ、近くのお店の人に一緒に聞いてみる?」
子供は迷っている。
「嫌なら、ここで待っててもいいよ」
「……」
「どうする?」
しばらくして。
小さく頷く。
「分かった」
GVが立つ。
その瞬間だった。
子供の周りの空気が揺れた。
店先の紙袋がふわりと浮き上がる。
吊り下げられていた小さな飾りも揺れる。
周囲の何人かが驚いてこちらを見る。
「あ……」
子供自身も顔色を変えた。
「ごめんなさい」
咄嗟に謝る。
近くの人が、一歩だけ距離を取った。
第七波動。
それほど大きなものではない。
おそらく不安定になった感情に反応した。
GVは変わらなかった。
「何で謝るの?」
子供が顔を上げる。
「だって……」
「びっくりしただけでしょ」
「……」
「お母さん探そっか」
それだけ。
能力のことを聞かない。
制御できるのかとも言わない。
怖くないとも言わない。
ただ。
さっきまで迷子だった子供を、そのまま迷子の子供として見ている。
シアンは、少し離れたところからそれを見ていた。
「……」
知っている。
こういう人だ。
知っているのに。
何度見ても、胸に来る。
『シアン』
「何」
『顔』
「今話しかけないで」
『はいはい』
「ほんっとに……」
『もういい』
「まだ何も言ってない!」
『もう分かるのよ!』
子供を連れて近くの店へ行く。
店員へ事情を話し、迷子の放送を頼む。
GVは子供が不安そうにしている間も、無理に元気づけようとはしなかった。
「もうすぐ来ると思うよ」
「……うん」
「ここで待つ?」
「うん」
シアンも隣へ来た。
「大丈夫」
子供がシアンを見る。
「わたしたちも一緒に待ってるから」
少しして。
慌てた様子の女性が走ってきた。
子供が顔を上げる。
その後は早かった。
母親は子供を抱きしめ、何度もGVとシアンへ頭を下げた。
「本当にありがとうございます」
「いえ。見つかってよかったです」
GVはそれだけだった。
子供もGVを見る。
「お兄ちゃん」
「何?」
「ありがとう」
「どういたしまして」
少し迷う。
「……怖くなかった?」
「何が?」
「さっき」
GVは一瞬考える。
「びっくりはしたよ」
子供の顔が少し曇る。
「でも、それだけ」
「……」
「今度また困ったら、近くの人にちゃんと言えばいいからね」
「うん」
「じゃあね」
手を振る。
親子を見送る。
そして何もなかったように歩き出す。
シアンが隣へ並ぶ。
「……それだけ?」
「何が?」
「いや」
「お母さん見つかってよかったね」
「……うん」
また。
GV本人にとっては、それだけなのだ。
迷子がいた。
困っていた。
手伝った。
能力者だったかどうかは、それより後。
シアンが知っているGVそのものだった。
『言えばいいのに』
モルフォ。
「何を」
『そういうところが好きって』
「言わない!」
『何で』
「まだ言わないって決めてるから!」
「何の話?」
GVが振り向いた。
「聞かないで!」
「僕の話?」
「聞かないでって!」
「分かった」
素直に前へ戻る。
シアンはさらに恥ずかしくなった。
◇
「今度こそ行こ」
シアンが言った。
「どこ?」
「わたしの店!」
「まだ言ってなかったね」
「言ったらまた何か起きそう」
「僕のせい?」
「半分くらい」
「理不尽だなあ」
その時。
「見つけたぞ、ガンヴォルト」
シアンが止まった。
GVも止まる。
「……」
シアンはゆっくり振り返った。
「言ったそばから」
「僕何もしてないよ」
そこにいたのはアキュラだった。
鋭い目。
いつもの態度。
そして。
手に持っているものだけが、どう考えても場違いだった。
「……何でミニ四駆持ってるの?」
GVが真顔で聞く。
「貴様には関係ない」
「いや僕に声かけたよね」
アキュラの手には、以前とは明らかに違うマシン。
外観からして手が加えられている。
「先日の勝負」
アキュラが言う。
「あれで終わったと思うな」
シアンが顔をしかめた。
「……は?」
「何だ」
「今日、GVと出掛けてるんだけど」
「知ったことか」
「こっちは知ったことなんだけど」
アキュラはシアンをほとんど気にせずGVへ視線を戻す。
「勝負しろ、ガンヴォルト」
「今?」
「今だ」
「僕、シアンと予定あるんだけど」
シアンの胸が一瞬だけ跳ねる。
ちゃんと言った。
自分との予定がある、と。
それだけで少し嬉しい。
しかし。
「知ったことか」
アキュラの一言で、全部吹き飛んだ。
「それさっきも聞いた!」
シアンが怒る。
GVはアキュラのマシンを見る。
「でもそれ、前と全然違うね」
「当然だ」
「ローラー変えた?」
「当然だ」
「モーターも?」
「見れば分かるだろう」
「ギア比も調整した?」
「貴様に言われるまでもない」
GVが少し笑う。
「めちゃくちゃハマってるじゃん」
「研究しただけだ!」
「それをハマってるって言うんじゃない?」
「違う!」
「いや、結構」
「黙れ!」
シアンは二人を見る。
アキュラは明らかに本気だ。
以前の遊びを、遊びのまま終わらせなかったらしい。
「アキュラ」
「何だ」
「どれくらいやってたの?」
「答える必要はない」
「三日?」
GVが聞く。
「……」
「一週間?」
「黙れ!」
「一週間っぽいね」
「ガンヴォルト!」
「怒るってことは当たり?」
「貴様は黙れと言っている!」
シアンはため息を吐く。
行きたい店。
映画。
今日の予定。
全部まだ残っている。
でも。
GVの顔を見る。
楽しそうだ。
アキュラのマシンを見て、完全に興味を引かれている。
「……一回だけ」
シアンが言った。
GVが振り向く。
「いいの?」
「一回だけなら」
「シアン」
「ただし」
アキュラを見る。
「勝っても負けても終わり」
「何故貴様が決める」
「今日GVと予定あるから」
「だからそれが何だ」
「ほんっとムカつく!」
「シアン落ち着いて」
「GVが言わないで!」
「僕?」
アキュラは鼻で笑う。
「一度で十分だ」
「今言ったからね」
「私が負ける前提で話すな」
「前回負けたから来たんじゃないの?」
アキュラが黙る。
GVが少し笑う。
「シアン強いなあ」
「GVも笑わない!」
◇
近くの模型店には、以前からミニ四駆のコースが置かれていた。
三人で入る。
アキュラは迷わずコースへ向かった。
店員もマシンを見て少し驚いた顔をする。
「かなり調整してますね」
「必要な改良を施しただけだ」
「これ、結構速そう」
GVが横から覗き込む。
「触るな」
「触ってないよ」
「近い」
「見てるだけ」
「邪魔だ」
「じゃあこっちから」
「そちらも同じだ!」
シアンは腕を組んで見ている。
「もう仲いいじゃん」
二人が同時に振り返る。
「どこが?」
「どこがだ!」
「息合ってるし」
「合ってない」
「断じて違う」
「また合った」
「シアン!」
「貴様!」
「何でわたしまで!」
アキュラは気を取り直してマシンを置く。
GVも自分のものを準備する。
「先に試走する?」
「不要だ」
「本当に?」
「計算に狂いはない」
「その台詞、ちょっと危ないよ」
「黙って見ていろ」
アキュラのマシンだけで走らせる。
スタート。
一気に飛び出した。
「速っ」
GVが声を上げる。
シアンも目を見開く。
「何これ」
「当然だ」
アキュラは腕を組んだ。
直線。
明らかに速い。
最初のコーナーも抜ける。
次も。
「本当に速いね」
「前回のような無様は晒さん」
「結構気にしてたんだ」
「黙れ」
「でもアキュラ」
「何だ」
「次のコーナー結構きつ――」
飛んだ。
マシンが。
綺麗に。
コースの外へ。
「……」
沈黙。
「……飛んだ」
シアンが言った。
「飛んだね」
GVが続けた。
「……」
アキュラは何も言わない。
ゆっくりマシンを回収する。
「大丈夫?」
「黙れ」
「速度上げすぎじゃない?」
「黙れ!」
「でもさ」
「黙れと言っている!」
シアンが口を押さえる。
肩が震える。
「笑うな!」
「だって……!」
「笑うな!」
「自信満々だったのに……ふふっ」
「今のは試走だ!」
「試走いらないって言ってたじゃん」
「状況が変わった」
「便利だね、その言葉」
アキュラは工具を取り出す。
GVがまた目を輝かせる。
「工具まで持ってきたんだ」
「当然だ」
「本当にハマってるよね」
「違う!」
「もう認めればいいのに」
「これは技術検証だ!」
「一週間やって?」
「一週間とは言っていない!」
「じゃあ何日?」
「答えん!」
アキュラはマシンを分解し始める。
GVもしゃがむ。
「ここ重くない?」
「分かっている」
「ローラーの位置、少し下げた方がよくない?」
「貴様に言われるまでもない」
「でも干渉してる」
「……」
「ほら」
「得意げな顔をするな」
「してないよ」
「している」
「気のせいじゃない?」
「その言い方を使うな!」
GVまで本格的に見始めた。
二人でマシンを挟み、ああでもないこうでもないと言い合っている。
シアンは数歩離れて立つ。
「……」
『あーあ』
モルフォが横へ出る。
「何」
『取られたわね』
「取られてない!」
『今日、GVと出掛けてたはずよね』
「そうだよ!」
『今完全にアキュラと楽しそうだけど』
「……」
否定できない。
GVは明らかに楽しんでいる。
アキュラも口では文句ばかりだが、本当に嫌ならとっくにGVを追い払っているはずだ。
『帰る?』
「帰らない」
『待つの?』
「……それも嫌」
シアンは自分のマシンを見る。
以前使ったもの。
「もういい」
『何が』
「わたしもやる」
『え?』
シアンはコースへ向かった。
「GV」
「何?」
「わたしも出る」
GVが少し驚く。
「シアンも?」
「何その顔」
「いや、やらないと思ってた」
「待ってるだけも暇だし」
アキュラが一瞥する。
「貴様が?」
「何」
「好きにしろ」
「その言い方むかつく」
シアンは自分でマシンを調整し始める。
以前の経験があるから、何も分からないわけではない。
ただ。
「……これ」
少し悩む。
GVを見る。
「GV」
「何?」
「ここだけ教えて」
「どこ?」
GVが近づこうとする。
「その角度では抵抗が増える」
アキュラが先に言った。
シアンが顔を上げる。
「聞いてない」
「見れば分かる」
「じゃあどうすればいいの」
「そこを下げろ」
「これ?」
「下げすぎだ」
「細かい」
「勝ちたいなら当然だ」
シアンは言われた通りに少し戻す。
「こう?」
「……まあいい」
「何その上から」
「聞いたのは貴様だ」
「GVに聞いたんだけど」
「間違った調整を見過ごす方が気になる」
GVが笑う。
「なんだかんだ優しいね」
「黙れ!」
「今日それ何回目?」
「数えるな!」
シアンは思わず笑った。
少し前まで、アキュラとこんな時間を過ごすことになるとは思わなかった。
本人に言えば全力で否定するだろう。
それでも。
戦うためではない。
憎しみをぶつけるためでもない。
ミニ四駆。
ただそれだけで、三人が同じ場所にいる。
変な感じだった。
◇
準備が整う。
三台。
アキュラ。
GV。
シアン。
「本当にこれで最後だからね」
シアンが念を押す。
「勝者が決まればな」
「今度は試走じゃないよ」
「分かっている!」
「じゃあ行こうか」
GVがマシンを置く。
三人がスタート位置につく。
店員が合図する。
三。
二。
一。
一斉に飛び出した。
「速っ!」
シアン。
やはりアキュラが速い。
直線では圧倒的だった。
GVが追う。
シアンは少し後ろ。
「ちょっと二人とも!」
「シアン、次内側!」
「見てる!」
「ライン広いよ!」
「分かってる!」
アキュラは一言も喋らない。
真剣そのもの。
コーナー。
今度は飛ばない。
先ほどの調整が効いている。
「いける」
GVが呟く。
「当然だ!」
「喋った」
「貴様!」
その隙にGVが少し追いつく。
「余所見してるから」
「ガンヴォルト!」
「ミニ四駆で名前叫ばないでよ」
シアンは後ろから追う。
速度では勝てない。
それは分かっている。
だから無理に速くしなかった。
コースから飛ばない。
安定して走る。
最後まで残る。
「……まだ」
終盤。
アキュラが先頭。
GVがすぐ後ろ。
シアン。
最後の難しいコーナー。
アキュラのマシンが僅かに浮く。
「っ」
以前ほどではない。
でも姿勢を崩した。
後ろのGVも回避しようとして速度を落とす。
「今!」
シアンのマシンが内側を抜けた。
「あ」
GV。
「何!?」
アキュラ。
そのまま。
ゴール。
一番最初に線を越えたのは。
「……わたし?」
シアンが固まる。
店員が笑う。
「一着ですね」
「……勝った?」
「勝ったね」
GVが言う。
シアンの顔が一気に明るくなった。
「やった!」
「おめでとう」
「見た? 今の!」
「見てたよ」
「最後抜いた!」
「安定させたの正解だったね」
「うん!」
シアンは嬉しそうにマシンを回収する。
そしてアキュラを見る。
「……」
アキュラは無言。
「アキュラ?」
「もう一度だ」
「一回だけって言った」
「これは別だ」
「何が」
「今の勝敗は不完全だ」
「負けた人みんなそれ言う」
「黙れ!」
「帰るよ」
「待て!」
「今日はもう終わり!」
「再戦だ!」
「次!」
「何?」
「次会った時!」
アキュラが止まる。
シアンはマシンを持ち上げる。
「その時またやればいいじゃん」
「……」
「今度も勝つけど」
アキュラの眉が動く。
「言ったな」
「言った」
「次はないと思え」
「ミニ四駆で物騒な言い方しないで」
GVが横から突っ込む。
「次は叩き潰す、貴様もだ『電子の謡精』」
「ミニ四駆だよね?」
「当然だ!」
「ならいいけど」
少し笑う。
店を出る。
◇
外へ出てもしばらく、アキュラと帰る方向が同じだった。
シアンは自分のマシンを眺めている。
「さっきの最後、結構よかったよ」
GVが言った。
「ほんと?」
「うん。速さで無理しなかったのが」
「アキュラより向いてる?」
「そうかも」
「聞こえているぞ!」
後ろから声。
シアンが振り返る。
「まだいたの!?」
「それはコッチのセリフだ」
「ついてきてるのかと思った」
「誰が貴様らなど」
数十メートル先。
道が分かれる。
アキュラが別方向へ行こうとする。
「アキュラ」
「何だ」
「次来る時、先に連絡して」
「...何故貴様に」
「今日みたいに急に来られると困るから」
「オレは貴様に用はない」
「GVに用あるならわたしにも関係あるの」
アキュラがシアンを見る。
GVが横から口を挟む。
「何か保護者みたいになってない?」
「GVは黙ってて」
「はい」
「……理解不能だ」
アキュラは吐き捨てるように言った。
そして少しだけ間を置く。
「次は貴様ら二人とも負かす」
「はいはい」
「待て、軽く流すな!」
「次ね!」
シアンが手を振る。
アキュラは不満そうな顔のまま去っていった。
『随分仲良くなったじゃない』
モルフォ。
「誰が?」
『三人』
「別に」
「僕は楽しかったよ」
「GV!」
『ほら』
「GVはすぐそういうこと言う!」
「楽しかったのは本当だよ」
シアンは言葉に詰まる。
「……わたしも勝ったから楽しかったけど」
『はいはい』
「何!」
◇
「今度こそ店」
シアンが宣言した。
「はい」
「もう誰かいても無視する」
「困ってる人でも?」
「……それは」
「どうする?」
「意地悪」
「ごめん」
「GVが行くならわたしも行くけど」
「いいの?」
「いい」
『早速予定守れてないじゃない』
「うるさい!」
その時。
遠くから。
妙に派手なエンジン音。
シアンの足が止まった。
「……何」
GVも音の方を見る。
「なんか派手だね」
「嫌な予感する」
そして。
「シアァァァァン!」
「帰ろう」
「店は?」
「反対側から行く」
GVが苦笑する。
派手な車両が近くへ止まる。
降りてきたのは。
デイトナ。
「待て待て待てぇ! 今日は喧嘩じゃねえ!」
「じゃあ何」
「見りゃ分かんだろ!」
シアンは見る。
分からない。
デイトナの手には大きな花束。
背後では、どこから仕込んだのか小さな演出まで上がっている。
周囲の人が振り返っている。
「……何これ」
「すごいね」
GVが素直に言う。
「感心しないで!」
「だってすごくない?」
「すごいけど!」
「だろォ!?」
「デイトナも乗らない!」
デイトナは胸を張る。
「シアン!」
「何」
「オレとデートしようぜ!」
「行かない」
「即答!?」
「うん」
「せめて三秒くらい考えろ!」
「考えても同じだから」
「いいレストランを取ったんだ!景色もいい! 今日は全部オレ持ちだ!」
「行かない」
「じゃあ遊園地!」
「行かない」
「映画!」
「今日GVとスパイディ見る」
「何ィ!?」
デイトナがGVを見る。
「何でお前がそこにいるんだガンヴォルトォ!」
「最初からいたよ」
「そういう意味じゃねえ!」
「むしろデイトナが後から来たんだけど」
「シアンは黙っててくれ!」
「何でわたしが!」
デイトナがGVを指す。
「おいガンヴォルト!」
「何?」
「お前、シアンとデートしてんのか!?」
「デート?」
GVは普通に首を傾げた。
シアンは反射的に否定しようとする。
「違――」
そこで。
止まった。
違う。
今日のこれは。
まだ。
「……今日はまだ違う」
GVがシアンを見る。
「まだ?」
デイトナも止まる。
「まだ!?」
モルフォまで姿を現す。
『まだって言ったわね』
「うるさい!」
「シアン?」
「何でもない!」
「今日何回目?」
「数えないで!」
デイトナは何かに気付いたように顔を上げる。
「じゃあオレなら今からデートにできるじゃねえか!」
「だから行かないって!」
「何でだよ!」
シアンは一瞬だけ黙った。
デイトナが嫌いだから。
それでも説明にはなる。
でも。
もっと簡単だった。
今日は。
「GVと一緒にいたいから」
言った。
自分で。
その瞬間。
GVが黙った。
デイトナも黙る。
シアン自身も、自分が口にした言葉を遅れて理解した。
『言うじゃない』
モルフォだけが楽しそうだ。
「変な意味じゃない!」
『まだ何も言ってないわよ』
「……!」
「シアン」
「何!」
GVが少し笑う。
「いや、何でもない」
「何その顔」
「別に」
「絶対何か思った!」
「シアンが僕と一緒にいたいって言ったから」
「……悪い?」
「全然」
そして。
「嬉しいよ」
「……」
シアンの顔が赤くなる。
モルフォが何か言おうとする。
「モルフォ黙って」
『まだ何も』
「黙って!」
一方。
デイトナは頭を抱えていた。
「マジかよ……」
「ごめん」
シアンが言う。
「いや」
デイトナは花束を見る。
明らかに悔しそうだ。
けれど。
「嫌がってる女引っ張ってっても楽しくねえしな」
シアンが少し驚く。
GVも見る。
「諦めるんだ」
「何だその顔!」
「いや。もう少し粘るかと思った」
「オレを何だと思ってんだ!」
「派手な人」
「そこじゃねえ!」
「間違ってはないでしょ」
「シアンまで!?」
デイトナは一度息を吐く。
「ただし!」
「まだあるの?」
「次はもっとすげえ誘い方してやる!」
「改善するとこそこじゃない!」
「演出の問題だと思ってるんだ」
「当然だろ!」
「違うから!」
「次は今日の三倍は持ってくる!」
「何を!?」
「全部だ!」
「分かんないよ!」
最後まで派手だった。
来た時と同じくらいの勢いで去っていく。
音が遠くなる。
しばらく二人とも黙っていた。
GVが口を開く。
「嵐みたいだね」
「毎回来る度に疲れる……」
「でも」
「何」
「ちゃんと断れるようになったね」
シアンが少し驚いた。
「何それ」
「前より、自分がどうしたいか言うようになったなって」
「……そう?」
「うん」
GVは普通に言う。
シアンはその顔を見る。
「今日は僕といたい、っていうのも」
「……うん」
「そっか」
「何」
「嬉しいって言ったでしょ」
「何回も言わなくていい!」
「一回しか言ってないよ」
『顔真っ赤』
「モルフォ!」
◇
今度こそ。
本当に。
シアンの目的地へ向かう。
「もう誰も来ないで」
「祈ってるの?」
「祈ってる」
「僕も祈ろうか」
「GVが祈ると逆に誰か来そう」
「どういう扱いなの」
前方から人影。
シアンが警戒する。
「……」
「そんな目で見なくても」
「誰?」
大柄な男。
GVが気付く。
「カレラ」
「……今度はカレラ」
「今日はよく会うね」
「嬉しくない!」
カレラも二人に気付いた。
「む」
足を止める。
「奇遇であるな、ガンヴォルト」
「久しぶり」
「息災であったか」
「まあね」
カレラの視線がシアンへ移る。
そして。
二人。
買い物袋。
商店街。
少し考える。
「以前の一戦について――」
そこまで言う。
止まる。
「……なるほど」
GVが首を傾げた。
「何が?」
「いや」
カレラは腕を組む。
「今日はやめておこう」
「何を?」
シアンが思わず聞く。
「貴殿を見掛けたゆえ、少々手合わせを所望しようと思ったのだがな」
「やらないの?」
「うむ」
「……何で?」
「無粋であろう」
シアンが止まった。
GVも少し驚く。
「カレラがそういうの気にするの、ちょっと意外だな」
「小生を何だと思っている」
「強い人見つけたらすぐ戦いたがる人」
「否定はせぬ」
「否定しないんだ」
シアンが呟く。
「されど、戦いにも時がある。連れとの時間へ割り込んでまで所望するものでもあるまい」
「……」
シアンがカレラを見る。
「カレラさん、いい人じゃん」
「何を今更」
「今日会った中で一番空気読んでる」
GVが笑う。
「比較対象がアキュラとデイトナだからね」
「……なるほど」
カレラまで納得した。
「いや、納得するんだ」
「あきゅら?殿ならまだしもデイトナ殿であれば、やむなし」
「ちょっと面白い」
「何がだ」
カレラはGVを見る。
「ではな、ガンヴォルト」
「うん」
「次に相見える時は、改めて一手所望する」
「平和な方法ならね」
「ふっ」
カレラが笑う。
「相変わらずであるな、貴殿は」
「カレラもね」
「では」
そのまま去っていく。
シアンは背中を見送る。
「……評価上がった」
「そこまで?」
「今日初めて誰にも邪魔されなかった」
「会話はしたよ?」
「空気読んで帰ってくれたからノーカン」
「厳しいな」
「今までが酷すぎたの!」
◇
「ここ」
やっと。
本当にやっと。
シアンが足を止めた。
小さな雑貨店。
大きくはない。
店頭には、色の違う小物や文房具、生活雑貨が並んでいた。
「ここだったんだ」
GVが店を見る。
「うん」
「シアン、こういう店好きなんだ」
「……うん」
シアンはそこで。
少しだけ意識して言い直す。
「好き」
GVが見る。
「そっか」
「何」
「いや」
「変?」
「全然」
店へ入る。
外の賑やかさから少し離れる。
シアンは棚を見る。
小さな置物。
アクセサリー。
雑貨。
文房具。
色々。
「これ可愛い」
シアンが一つ手に取る。
「シアンこういう色好きなんだ」
「うん」
「知らなかった」
「言ってなかったし」
「じゃあ今日知った」
「……うん」
嬉しい。
ほんの少し。
でも。
これがしたかった。
自分のことを知ってもらう。
「GVは?」
「僕?」
「何が好き?」
「この店で?」
「うん」
GVも棚を見る。
「うーん」
「ない?」
「そんなことないよ」
少し歩く。
「これとか」
小さな金属製のチャーム。
派手ではない。
シアンは意外そうに見る。
「こういうの?」
「何」
「もっと機械っぽいやつ選ぶと思ってた」
「僕を何だと思ってるの」
「ジーノと似た感じ」
「それはジーノに失礼じゃない?」
「GVには?」
「僕にも失礼だよ」
「どっちも?」
「どっちも」
二人で笑う。
シアンはまた棚を見る。
GVも横で。
それぞれのものを見ながら。
「シアン、これは?」
「それはあんまり」
「何が違うの?」
「なんか違う」
「難しいな」
「GVだってスパイディのスーツで色々言うでしょ」
「それとは全然違うよ」
「同じだよ」
「違う」
「何が」
「まず――」
「夜聞く!」
「まだ一個しか言ってないよ」
「今始めたら店閉まる」
「そんなに喋らないよ」
「信用ない」
シアンは笑う。
そして。
一つのキーホルダーを見つける。
派手すぎない。
GVが持っていても不自然ではなさそう。
手に取る。
見る。
GVを見る。
「これ」
「何?」
「あげる」
GVが止まる。
「僕に?」
「うん」
「何で?」
一瞬。
シアンは考える。
ありがとう。
いつもお世話になっているから。
助けてもらったから。
理由はいくらでも作れる。
でも。
「……あげたいから」
それだけ言った。
GVが少し驚いた顔をする。
「理由それだけ?」
「ダメ?」
「いや」
GVは首を振る。
「嬉しい」
シアンが顔を逸らす。
「ならいい」
「ありがとう」
「うん」
それで終わり。
でも。
それがいい。
恩返しではない。
何かをしてもらったからでもない。
自分が。
GVにあげたい。
それだけ。
会計を終える。
店を出る頃には、空が少しずつ夕方へ近づいていた。
◇
「思ったより遅くなったね」
GVが空を見る。
「誰のせいだと思ってるの」
「アキュラ?」
「半分」
「デイトナ?」
「二割」
「カレラ?」
「ゼロ」
「じゃあ残り三割僕?」
「最初の人助け」
「そこかあ」
「あと迷子」
「それも僕?」
「GVが最初に行ったから」
「でもシアンも一緒にいたじゃん」
「じゃあ二割」
「減った」
シアンが笑う。
「でも」
「何?」
「今日は楽しかったからいい」
GVも少し笑う。
「僕も」
少し歩く。
「スパイディ、間に合うかな」
GVが言った。
シアンが振り向く。
「覚えてたの?」
GVが本気で驚いた顔をした。
「忘れるわけないでしょ」
「そこまで?」
「アメイジングだよ?」
「だからその説明で何が分かるの」
「全部」
「GVにしか通じないって」
「でもシアンも見たことあるでしょ」
「一回ね」
「じゃあ分かるよ。あのウェブスイングの動きとか、ピーターの未完成な感じとか、機械式のウェブシューターも――」
「待って」
「何?」
「もう始まってる」
「何が?」
「オタトーク」
GVが一瞬黙る。
「……今のは前置きだけど」
「怖いなあ」
「まだ全然だよ」
「それが怖い」
「夜聞いてくれるんでしょ?」
「言ったけど」
「じゃあいっぱい話す」
「量は約束してない」
「そこは交渉しよう」
「何の交渉」
◇
家へ戻る。
「ただいま」
「ただいまー」
玄関を開ける。
少しして、エリーゼ1が顔を出した。
「おかえりなさい、GVさん、シアンさん」
「ただいま」
「エリーゼ!」
GVがすぐ反応する。
「買い物どうだった?」
「大丈夫でした」
「何かあった?」
「ありません」
「変な人は?」
「いませんでした」
「道迷わなかった?」
「GV」
シアンが横から止める。
「質問多い」
「でも初めてだよ」
「一個ずつ」
「はい」
エリーゼ1は少し笑った。
「ちゃんと、一人で買えました」
小さな袋を見せる。
GVがそれを見る。
「おお」
「少し緊張しましたけど」
「うん」
「でも、楽しかったです」
GVの顔が緩む。
「そっか」
「はい」
「ならよかった」
シアンも笑う。
「フェザーには?」
「帰ってきたって連絡しました」
「早い」
「モニカさんが、帰ったら一応知らせてって」
「完璧だね」
「はい」
エリーゼ1は少しだけ誇らしそうだった。
それを見てGVも嬉しそうだった。
その時。
表情が変わる。
「で」
エリーゼ3。
「アンタたちは遅い!」
GVとシアンが同時に止まる。
「やっぱり怒られた」
「予想通り」
「何笑ってんのよ!」
「色々あって」
「何よ」
「アキュラがミニ四駆持ってきて」
「は?」
「シアンが勝って」
「は?」
「デイトナがシアンをデートに誘って」
「は?」
「カレラにも会った」
「……何その一日」
「私も途中からよく分かんなくなった」
シアンが言う。
「普通に商店街行ったんじゃないの?」
「そのはずだった」
「アンタら外出る度に何か起きてない?」
「僕に言われても」
「大体アンタ中心でしょうが!」
「今回はアキュラ以外僕関係ないよ」
「デイトナはわたしだし」
「それも大概ね」
エリーゼ3が呆れる。
やがて。
また表情が変わる。
「……帰った」
エリーゼ2。
GVを見る。
「うん」
GVは少し笑う。
「ただいま」
エリーゼ2はじっと見る。
「……いる」
「いるよ」
それだけ。
短い。
けれど。
シアンには、その一言が以前よりずっと穏やかに聞こえた。
◇
夕食を先に済ませた。
映画を見ながらでもいいとシアンは言ったが、エリーゼ3に「行儀悪いでしょうが」と一蹴されたからだった。
「意外とそういうところちゃんとしてるね」
GVが言った。
「何が意外よ!」
怒られた。
そして。
ようやく。
映画の時間。
シアンがソファへ座る。
「GV」
「はい」
「準備できた」
「今行く」
返事が速い。
少ししてGVが飲み物や菓子をまとめて持ってくる。
「何その装備」
「映画見るなら必要でしょ」
「戦いに行くみたい」
『GVにとっては似たようなものなんじゃない?』
「モルフォまで」
「始めるよ」
「待って」
GVが座る。
「どこから?」
「途中からでいいでしょ」
「最初から」
「やっぱり?」
「最初から」
「何で」
「最初のピーターから見ないと」
「前見たじゃん」
「もう一回」
「GVは何回見てるの?」
「覚えてない」
「そんなに?」
「数えるものじゃないでしょ」
「普通は数える前にそんな見ないよ」
結局。
最初から。
『アメイジング・スパイダーマン』が始まる。
シアンは横を見る。
GVは静かだった。
意外だった。
もっと最初から喋ると思っていた。
画面に集中している。
「……」
数分。
「あ、ここ好き」
「早い」
始まった。
「何が?」
「この頃のピーター」
「まだスパイダーマンになってないじゃん」
「だからいいんだよ」
GVは画面を見たまま話す。
「最初から完成したヒーローじゃないでしょ」
「うん」
「普通に怒るし、失敗するし、自分の感情で動くし」
「うん」
「格好悪いところもある」
「好きなのに結構言うね」
「そこが好きなんだよ」
「……へえ」
「力を手に入れた瞬間、急に何でも正しくできる人になるわけじゃない」
シアンは画面とGVを交互に見る。
「失敗して、間違えて、それでも少しずつ変わってく」
「GV」
「何?」
「もうオタトーク始まってる」
「聞くって言ったじゃん」
「言ったけど、思ったより早い」
「まだ全然だよ」
「全然なの?」
不安になる。
でも少し笑っている。
映画が進む。
ピーターがスパイダーマンとして動き始める。
GVの反応もさらに分かりやすくなる。
「ほら、ここ」
「何?」
「動き」
「動き?」
「ウェブで移動する時」
「うん」
「ただ前に飛んでるんじゃなくて、全身使って向き変えるんだよ」
「……そこ見るの?」
「見るよ」
「普通もっと話とかじゃない?」
「話も見るよ」
「全部見るんだ」
「好きだから」
GVは真顔。
「あとアメイジングは動きが結構蜘蛛っぽいんだよね。姿勢低くしたり、壁にいる時の身体の形とか」
「細かい」
「そこがいいんだよ」
「スーツは?」
「好き」
「即答」
「最初の方のスーツも好きだけど、目の形とか質感とか――」
「待って待って」
「何?」
「今それ説明し始めたら映画進まない」
「止めてないよ」
「GVが横で喋ってると集中できない」
「じゃあ一回止める?」
「もっと進まないじゃん!」
『面倒なオタクね』
「モルフォは黙ってて」
『シアンもさっき言いそうだったわよ』
「言ってない」
「顔が言ってた」
「GVまで!」
それでも。
シアンは嫌ではない。
むしろ少し楽しい。
「ウェブシューターが機械なのも好き?」
「好き」
「やっぱり」
「何、そのやっぱり」
「GV、機械とか好きそうだもん」
「雑だなあ」
「違う?」
「違わないけど」
「ほら」
「でもそこだけじゃないよ」
「じゃあ何?」
シアンが聞く。
GVが少しだけ考えた。
画面を見る。
「……助ける相手を選ばないところ」
シアンの表情が少し変わる。
「それ?」
「うん」
GVは続ける。
「スパイダーマンって、大きな事件の時だけヒーローなわけじゃないんだよ」
「うん」
「街で困ってる人がいたら助ける」
「知らない人でも?」
「知らない人でも」
「重要な人じゃなくても?」
「むしろ、そういうのが好き」
GVは少し笑う。
「世界の命運とかじゃなくて。目の前で誰か困ってたら、ちょっと手を貸す」
「……」
「力がすごいから好きっていうより、その力をそういうことにも使うのが好きなのかも」
シアンはGVを見る。
今日。
店の荷物を運んだ。
迷子の子供を助けた。
以前にも。
自転車で困っていた人。
ボールを木に引っ掛けた子供。
知らない人たち。
「それ、GVじゃん」
口から出た。
GVが見る。
「僕?」
「うん」
「いやいや」
「何」
「僕はスパイダーマンみたいに格好よくないよ」
「そこじゃないよ!」
「じゃあどこ?」
「人助け」
「僕?」
「今日だけでも何人助けたと思ってるの」
「そんな助けた?」
「荷物のおばあちゃん」
「あれは荷物持っただけ」
「迷子」
「一緒にお母さん探しただけ」
「前に商店街の人たちにも色々やってたじゃん」
「あれも大したことじゃないよ」
「それ!」
シアンが指を差す。
「何?」
「そういうところ」
「どういうところ?」
「GVにとっては全部大したことじゃないんでしょ」
「だって大したことじゃないし」
「でも助かった方は覚えてる」
「……」
「今日もそう」
シアンは少しだけ熱くなっていた。
「迷子の子が能力者って分かっても何も変わんなかった」
「それは」
「普通のこと?」
「僕には」
「ほら」
シアンは笑う。
「だからGVがスパイディ好きなの、分かる気がする」
GVが少し黙る。
「別に、スパイダーマンに影響受けたから人助けしてるってわけじゃないよ」
「知ってるよ」
「なら」
「でも」
シアンは画面を見る。
「そういう人が好きなんでしょ」
「……うん」
「そういう生き方が好きなんでしょ」
GVも画面へ目を戻す。
「そうかもね」
「なら、やっぱGVじゃん」
「何か恥ずかしいな」
「何で」
「自分をスパイダーマンに重ねられるの」
「わたしが勝手に言ってるだけ」
「そうなんだけど」
GVは少し困ったように笑った。
「でも僕、あんなに上手くないよ」
「何が?」
「全部」
「またそういうこと言う」
「本当だよ」
「じゃあ」
シアンが少し考える。
「完璧じゃないところも一緒なんじゃない?」
「それ褒めてる?」
「GVがさっき好きって言ったところ」
「ああ」
「失敗したり、間違えたりするけど、それでも助けるんでしょ」
「……」
「なら一緒」
GVは何も言わなかった。
少しして。
「シアン」
「何?」
「映画見よ」
「逃げた」
「逃げてないよ」
「顔ちょっと恥ずかしそう」
「気のせい」
『出た』
「モルフォ!」
◇
しばらく映画が進む。
GVはまた細かいところで反応する。
「今の好き」
「また?」
「ウェブの使い方」
「さっきと違うの?」
「全然違う」
「何が」
「さっきは移動。今のは――」
「待って、分かった。違うんだね」
「聞かないの?」
「聞くけど短く」
「難しい」
「何で」
「話したいところ多いから」
「面倒なオタク」
「とうとう言った」
「でも」
シアンは笑う。
「嫌いじゃないよ」
GVが一瞬止まる。
「……オタトークが?」
「うん」
「本当に?」
「GV、楽しそうだし」
「そう?」
「分かりやすい」
「自分じゃ分かんないな」
「めちゃくちゃ分かるよ」
シアンは画面を見る。
「もっと話していいよ」
「本当に?」
「ただし」
「何?」
「映画は止めない」
「……」
「今止めようと思ったでしょ」
「ちょっと」
「禁止」
「じゃあ喋りながら見る」
「それはそれでうるさそう」
「どうすればいいの」
「ほどほど」
「一番難しい」
それでも。
GVは話す。
ピーターの不器用さ。
ヒーローとしての未熟さ。
人との距離。
街を移動する時の軽やかさ。
蜘蛛らしい姿勢。
機械式のウェブシューター。
画面の見せ方。
全部。
シアンは途中から内容そのものよりも。
GVが話しているところを見る方が楽しくなっていた。
普段は人の話を聞くことが多いGV。
シアンが話せば聞いてくれる。
エリーゼが困っていれば聞く。
誰かに悩みがあれば聞く。
でも。
自分の好きなもののことになると。
こんなに喋る。
「……ふふ」
「何?」
「何でもない」
「また?」
「続けて」
「何で笑ったの」
「楽しそうだなって」
「好きだからね」
「知ってる」
「スパイダーマンは――」
「そこじゃなくて」
「何?」
「何でもない」
「気になるな」
「映画!」
「はい」
◇
途中。
エリーゼ1もリビングへ来た。
「何を見てるんですか?」
「スパイダーマン」
GVが答える。
「すぱいだーまん……」
「知らない?」
「名前は聞いたことあります」
「面白いよ」
「そうなんですか?」
「まずこのピーターが――」
「GV」
シアンが止める。
「何?」
「初めての人にいきなり全部説明しない」
「全部じゃないよ」
「今から全部行く顔だった」
「どういう顔」
「さっきわたしが見た顔」
『目が光ってたわね』
「そんなに?」
エリーゼ1が少し笑う。
「GVさん、好きなんですね」
「うん」
「すごく好き」
シアンが代わりに答える。
「何でシアンが」
「今日ずっと聞いたから」
「まだ半分くらいだよ」
「何が?」
「話してないところ」
「まだあるの!?」
「いっぱい」
シアンが頭を抱える。
エリーゼ1がさらに笑った。
◇
映画は予定より時間が掛かった。
主な原因はGVだった。
「ちょっと待って」
「止めないって言ったじゃん!」
「今のもう一回だけ」
「何回目?」
「二回?」
「もっと」
「そう?」
「五回くらい」
「そんな止めた?」
「止めた!」
「でも今のスイング――」
「さっきも聞いた!」
「違う。今のはカメラの動きが」
「別の話なの!?」
『だから面倒なオタクなのよ』
「モルフォは何でずっといるの」
『シアンが見てるからよ』
「じゃあシアンが見終わったら?」
『帰る』
「どこに?」
『細かいこと気にしない』
GVは映画を戻す。
「ここ」
「はい」
「この高さから下に落ちる感じ」
「うん」
「そこからウェブで振り子みたいに」
「うん」
「速度乗せて――」
「GV」
「何?」
「楽しそう」
「だから好きなんだって」
「うん」
シアンは笑う。
「知ってる」
映画再開。
数分。
「ここも――」
「止めない!」
「まだ手動かしてない!」
「顔で分かる!」
「それ便利だね」
「GVに覚えた!」
◇
ようやく映画が終わった。
シアンはソファへ背中を預ける。
「……疲れた」
「映画見ただけなのに?」
「半分GVのせい」
「何で」
「ずっと喋ってたから」
「でも聞いてくれたでしょ」
「聞いた」
「どうだった?」
「映画?」
「うん」
シアンは少し考える。
「前より面白かった」
GVの顔が明らかに明るくなる。
「本当?」
「うん」
「やっぱり解説が――」
「それは違う」
「違うの?」
「GVがどこ好きなのか分かったから」
GVが少し止まる。
「僕?」
「うん」
「映画の感想じゃなくない?」
「いいじゃん」
「まあ」
「スパイディのことも前より分かったし」
「でしょ?」
「でも」
「何?」
「GVのことも前より分かった」
GVが目を瞬く。
「何で?」
「好きなものの話、あんまりここまで聞いたことなかったから」
「ああ」
「すっごい喋るね」
「……ごめん」
「何で謝るの」
「うるさかった?」
「うるさかった」
「ごめん」
「でも楽しかった」
GVが止まる。
「だからいい」
「……そっか」
「うん」
シアンは少しだけ照れながら続ける。
「また見ようよ」
今度はGVが少し驚いた。
「いいの?」
「うん」
「次どれにする?」
「早い!」
「スパイディ他にもあるから」
「次はわたしが選ぶ」
「スパイディの中から?」
「違う映画でもいいでしょ」
「ああ、もちろん」
「交代」
「じゃあシアンが好きな映画?」
「それもいいかも」
「教えてよ」
シアンの胸が少し暖かくなる。
「うん」
「今度見よう」
「約束ね」
「それは約束できる」
「そこは自信あるんだ」
「映画だから」
「何その基準」
二人で笑う。
また。
次の予定ができた。
帰った後にやること。
一緒に見るもの。
次に話すこと。
シアンが望んでいたものが、少しずつ増えている。
◇
GVが飲み物を片付けるために席を立った。
その瞬間。
「ねえモルフォ」
『嫌』
「まだ何も言ってない!」
『聞かなくても分かる!』
「何が!」
『今日のGVがどうだったとかでしょ』
「……」
『ほら!』
「でも聞いてよ」
『一緒にいたのよアタシも!』
「迷子の子の時さ」
『見てた!』
「能力者って分かっても全然態度変わらなくて」
『見てた!』
「おばあちゃんの荷物も」
『見てた!』
「ミニ四駆でわたし勝った時も」
『見てた!』
「すごい嬉しそうにおめでとうって――」
『見てた!』
「デイトナ断った時も嬉しいって」
『聞いてた!』
「雑貨屋でプレゼントあげたら」
『それも見た!』
「で、スパイディの話してる時めっちゃ楽しそうで」
『それ今まで二時間くらい見せられた!』
「二時間も喋ってない!」
『体感よ!』
「でもさ」
『まだあるの!?』
「好きなものの話してるGV、ちょっと可愛くなかった?」
『ほら来た!』
「何!」
『結局それ!』
「何が!」
『GVはすごい、GVは優しい、GVはカッコいい、今日はそこにGVは可愛いまで追加された!』
「全部同じ日に言ってない!」
『日が違えばいいの!?』
「違う!」
『何が!』
「今日のは今日のGV!」
『昨日は昨日のGVって言ってたじゃない!』
「違うもん!」
『どこが!』
「全部!」
『雑!』
シアンが頬を膨らませる。
「でも今日、本当にGVのこと一個知れた」
『一個? あれだけ聞いて?』
「細かいスパイディの話じゃなくて」
『うん』
「GVが、何であんなにスパイディ好きなのか」
モルフォは少し表情を変える。
「誰でも助けるところが好きなんだって」
『……まあ、GVらしいわね』
「でしょ?」
『顔』
「何」
『嬉しそう』
「だって」
シアンは少し声を落とす。
「やっぱり、GVがそういう人なのって、誰かに言われたからじゃないんだなって思った」
『うん』
「スパイダーマンが好きだから真似してるとか、そういうんじゃなくて」
『うん』
「GV自身が、そういう人をいいと思ってる」
今日のGVを思い出す。
エリーゼが一人で買い物に行きたいと言った時。
危険があることを伝えて。
それでも行きたいか聞いた。
行きたいと言われたから。
どうやればできるかを考えた。
商店街。
知らない老人。
迷子の子。
誰かを勝手に決めつけない。
「……そういうところなんだよなあ」
『はいはい』
「またそれ!」
『何回同じ着地するのよ!』
「違う!」
『何が違うの』
「今日はちゃんと理由増えた!」
『好きになる理由が毎日増えてるって話?』
「……」
『黙るな』
「それは」
『何』
「……そうかも」
モルフォが呆れた。
『重症ね』
「何で!」
『最初は可愛いと思ってたのよ』
「何が」
『アンタが「ほんっとにGVは……もう」ってやってるの』
「今は?」
『めんどくさい』
「ひどい!」
『だって毎回最後には惚気になるじゃない!』
「惚気じゃない!」
『じゃあ何』
「……感想?」
『もっと悪いわよ!』
シアンは笑う。
でも。
本当に。
今日また一つ知った。
GVの好きなもの。
GVが好きなものを好きな理由。
そういうものを。
『でもまあ』
「何」
『アンタがGVのこと知りたいって思って聞いてたのは、いいんじゃない』
「……うん」
『今度はアンタの好きなもの見せるんでしょ』
「うん」
『ならいいじゃない』
モルフォが少し笑う。
『毎回アタシに報告しなければ』
「それは別」
『何でよ!』
「聞いてほしいから!」
『嫌よ!』
「モルフォはわたしなんでしょ!」
『だから余計に知ってるのよ!』
リビングへGVが戻ってくる。
「また喧嘩してる?」
「してない!」
『してる!』
「どっち?」
「モルフォが悪い」
『シアンが悪い』
「僕、戻ってこない方がよかった?」
「来て!」
『来ないで!』
「難しいなあ」
◇
夜が深くなった。
それぞれが自分の部屋へ戻る。
GVも自室へ入った。
机の上へ、今日買ったものを置く。
そして。
シアンにもらったキーホルダー。
「……」
手に取る。
高価なものではない。
特別な理由を聞いたわけでもない。
ただ。
あげたいから。
そう言っていた。
「……あげたいから、か」
何となく。
その言い方が嬉しかった。
何かのお礼ではない。
助けたからでもない。
借りを返すためでもない。
シアンがそうしたかったから。
今日のシアンは、そういうことをよく言っていた。
商店街へ行きたい。
この店へ行きたい。
今日はGVと一緒にいたい。
また映画を見たい。
次は自分が選ぶ。
「……」
少し変わった。
GVにも分かる。
以前より。
シアンが自分のしたいことを言うようになった。
それは。
嬉しかった。
「今日は楽しかったな」
自然に出る。
エリーゼが一人で買い物へ行った。
商店街を歩いた。
近所の人に声を掛けられた。
荷物を持った。
迷子を手伝った。
アキュラとミニ四駆をやった。
シアンが勝った。
デイトナが派手に現れた。
カレラが妙に空気を読んだ。
雑貨屋へ行った。
シアンからキーホルダーをもらった。
家へ帰った。
スパイダーマンを見た。
シアンが話を聞いてくれた。
「……喋りすぎたかな」
今更思う。
結構喋った。
途中で何度も止められた。
映画も何度か止めた。
「次は気を付けよう」
本当にできるかは分からない。
それでも。
シアンは楽しかったと言ってくれた。
また見ようとも。
「また一緒に見たいな」
口にする。
すぐに出た。
恋愛的にどうなのか。
そんなことはまだ分からない。
シアンが自分をどう思っているのか。
たぶん。
何となく分かっている部分はある。
でも。
それを自分が勝手に決めるものでもない。
自分の気持ちも。
大切だから。
一緒に暮らしているから。
助けたから。
それだけで名前を付けるものではないと思う。
だから今は。
楽しかった。
また一緒に行きたい。
また映画を見たい。
もっとシアンの好きなものも知りたい。
それでいい。
GVはキーホルダーを見る。
「どこ付けようかな」
少し迷う。
結局。
普段から持ち歩くものへ付けることにした。
しまい込むより。
その方がいい気がした。
◇
シアンも自室へ戻っていた。
ベッドへ座る。
「……疲れた」
色々あった。
本当に。
朝の時点では、ただ商店街へ行くだけだった。
それが。
エリーゼの外出。
アキュラ。
ミニ四駆。
デイトナ。
カレラ。
そして映画。
「……でも楽しかったな」
シアンは小さく笑う。
今日。
自分の好きなものを一つ知ってもらった。
行きたい店。
好きな色。
気になるもの。
それから。
GVに何かをあげたいと思う自分。
自分から言えた。
そして。
自分もGVの好きなものを知った。
スパイダーマン。
それ自体は前から知っていた。
GVが好きなのも。
でも。
何が好きなのか。
どうして好きなのか。
今日初めて、あそこまで聞いた。
「……ほんと、喋るんだから」
思い出して笑う。
普段はあんなに人の話を聞くのに。
自分の好きな話になったら止まらない。
次は何を話すのだろう。
今度は自分の映画を見せる。
どんな反応をするのだろう。
それも楽しみだった。
そして。
今日のエリーゼ。
一人で買い物へ行きたい。
GVはすぐに止めなかった。
危険がある。
それを隠しもしなかった。
その上で聞いた。
それでも行きたいか。
エリーゼが行きたいと言ったから。
じゃあ、どうすれば行けるかを考えた。
フェザーへ相談した。
モニカも。
アシモフも。
危険がないとは言わなかった。
ただ。
できる範囲で備えた。
そして送り出した。
「……やっぱり」
シアンは思う。
GVは誰かの気持ちを勝手に決めない。
自分の時も。
そうだった。
だから。
自分も。
GVの気持ちを勝手に決めたくない。
でも。
「好きになってほしいな」
小さく言う。
それは言える。
自分の願いだから。
そのために。
自分のことを知ってもらう。
GVのことも知る。
一緒にしたいことを増やす。
帰ってきたら。
話したい。
見たい。
やりたい。
そんなものを。
少しずつ増やしていく。
今日も一つ増えた。
映画。
「次、何見せようかな」
考える。
GVが帰ってきた時。
ただ。
シアンが待っているから帰らないと。
ではなく。
シアンと話したいから。
シアンと続きを見たいから。
シアンのところへ帰りたい。
そう思ってもらえたら。
きっと嬉しい。
「……よし」
シアンは一人で頷く。
『何がよ』
突然モルフォ。
「うわっ!」
『何よ』
「今日はもうGVの話禁止って言って消えたじゃん!」
『消えたとは言ってない』
「びっくりした!」
『で、何を一人で頷いてたの』
「言わない」
『どうせGVでしょ』
「……」
『ほら』
「違う!」
『間があった!』
「違うって!」
『はいはい』
「その言い方やめて!」
◇
その日は。
世界を揺るがすようなことは、何も起きなかった。
大きな施設を壊したわけでもない。
誰かと命を懸けて戦ったわけでもない。
守るべき世界について答えを出したわけでもない。
一人で買い物へ行きたいと言った。
どうすれば行けるかを考えた。
商店街を歩いた。
荷物を持った。
迷子の子供と母親を探した。
ミニ四駆を走らせた。
派手な誘いを断った。
道で知人と会った。
雑貨を見た。
プレゼントを渡した。
家へ帰った。
映画を見た。
好きなものについて、少し喋りすぎた。
ただ。
それだけの一日。
けれど。
きっと。
GVにとっては、そういう一日こそが日常だった。
誰かの英雄になる前に。
誰かの王になる前に。
フェザーの戦士になる前に。
能力者である前に。
困っている誰かがいれば、少しだけ立ち止まる。
誰かが自分で歩きたいと言えば、危険ごと奪ってしまうのではなく、一緒に歩ける方法を探す。
名前も知らない誰かの荷物を持つ。
泣いている子供の隣にしゃがむ。
強敵だった相手と玩具で競い合う。
くだらないことで笑う。
好きな映画の話をする。
そして。
日が暮れたら。
帰る。
次にしたいことがある場所へ。
話したい相手がいる場所へ。
また明日も帰りたいと思える場所へ。
誰かの上ではなく。
誰かの前でもなく。
ただ。
誰かの隣へ。
それが。
蒼き雷霆ガンヴォルトの――
隣人の日常だった。
――色鮮やかな花が咲く、皇神の研究施設。
「これが、ViVid……」
能力者を制御するために使われる特殊植物。
GVは、その培養設備を破壊する。
だが――
「S.E.E.Dが……ない?」
その花は、誰かを縛るためだけのものではなかった。
「……僕が壊したから?」
現れた能力者、ストラトス。
「ずっと痛ェんだよ!」
助けるとは、何なのか。
殺さないことは、本当にそれだけで正しいのか。
第二十話
「彩花」
「……何て言えばいいのか、分からない」
次回も、グッドラック。