異世界の深い森から、突如として都会のコンクリートジャングルへ――。
伝説の魔獣フェンリルのフェルが「ふむ、久々にあの国の空気を吸いたくなった」などと宣い、森の奥深くにあった謎の古祠の転移陣を適当に起動させたのがすべての始まりだった。
光が収まった瞬間、ムコーダ(向田剛志)の視界に飛び込んできたのは、異世界の緑豊かな大自然ではなく、見慣れた日本の街並み。西日がビル群を茜色に染め上げる、夕方の住宅街の路地裏だった。
「ちょ、ちょっとフェル!? ここ、日本じゃないか! どういうことだよ!?」
「ぬ? 案外簡単に戻れるものだな。どれ、肉の匂いはせんか……」
「あるわけないだろ! っていうか、スイもドラちゃんもいるんだぞ!? 目立ちすぎるって!」
「あるじー? ここどこー? お空が四角いよー?」
「おおっ! なんか見たことねえ建物がいっぱいあるぞ! スイ、あっち行ってみようぜ!」
「こら! ふたりとも動き回っちゃダメだ!!」
異世界の従魔たち――フェンリルのフェル、プルプルと揺れる巨大ぷにぷにスライムのスイ、そして小型の竜ピクシードラゴンのドラちゃん。あまりにも異様すぎる一行を抱え、ムコーダは胃が痛くなるような焦燥感に苛まれていた。
早く元の世界に戻らねば、大惨事になってしまう。ムコーダがフェルに詰め寄ろうとした、まさにその時だった。
「――ねえ、今日の練習だけど、蔵に行く前に商店街でパン買っていかない?」
「いいねえ! やまぶきパンのチョココロネ、久しぶりに食べたいな!」
「あはは、香澄ちゃんは本当にチョココロネが好きね」
路地の角から、楽し気な女子高生たちの話し声が近づいてくる。下校途中と思われる、楽器ケースを背負った少女たち――Poppin'Party(ポッピン パーティー)のメンバーだった。
「うわっ、誰か来る! フェル、伏せろ!隠れるんだ!」
「む? なぜ我が隠れねばならんのだ」
ムコーダの焦りも虚しく、路地の角を曲がってきた戸山香澄、花園たえ、牛込りみ、山吹沙綾、市ヶ谷有咲の5人と、ムコーダ御一行は正面から鉢合わせてしまった。
「〜〜♪ ……あ」
「……え?」
ぴたり、と全員の足が止まる。
ポピパの面々の視線が、ムコーダを通り越し、その背後に鎮座する存在へと注がれた。
大人の背丈を遥かに超える巨大な体躯、白い毛並み、そして威風堂々たる存在感を放つ神獣フェンリル。
その傍らで浮遊する、体長数十センチの可憐なミニドラゴン。
足元で「あるじー?」とご機嫌に揺れる足元サイズの巨大な青いぷよぷよ。
「……ね、ねえ有咲。あれって、新しい巨大な犬の着ぐるみ……とかかな?」
「な、わけねーだろ!! どう見ても本物の化物じゃねーか!! なんだよあれ!? 竜!? スライム!?? っていうか、奥のやつデカすぎんだろ!!」
「ひやあぁぁぁ!? た、食べられちゃいますぅぅ!!」
「りみりん、落ち着いて! 私が守るから! ……って、どうやって!?」
パニックに陥りかけるポピパの5人。それだけではない。運悪く、すぐ後ろを歩いていた別のバンドメンバーたち――Roseliaの湊友希那、氷川紗夜、今井リサ、宇田川あこ、白金燐子。そしてRAISE A SUILENのレイヤ、ロック、マスキング、パレオ、チュチュまでもが路地に入ってきたのだ。
「あら、香澄たち、何を騒いで……っ!?」
「な、なんですのあの生き物は……!?」
「うそ……マジで!? 超デカいんだけど! かっこいい――じゃなくてヤバいって!!」
「ひっ……! 燐子、後ろに……!」
「う、うん……っ!」
総勢15人の少女たちが、一瞬にして硬直する。
その緊迫した空気を察したのか、フェルが「ふん」と面倒くさそうに鼻息を鳴らした。
**『フシューッ……!』**
ただの鼻息。しかし、神の加護を受けし伝説の魔獣の息吹だ。強烈な威圧感(プレッシャー)の風が路地裏を吹き抜け、少女たちの前髪を大きく揺らす。
「っ……!?」
「くっ……なんという威圧感……! 身体が、動かない……!」
「あこ、友希那さんの前に出ちゃダメ! リサ姉、これヤバいって!」
「チュチュ様、お下がりください! 危険です!」
「な、何なのよあいつ! 演出!? 演出なの!? わけが分からないわよ!」
一触即発。恐怖で悲鳴すら出ない少女たちと、完全に怪しまれているムコーダ。このままでは警察どころか自衛隊が出動する騒ぎになり、最悪の場合、少女たちに怪我をさせてしまう。
(ヤバいヤバいヤバい!! どうする!? 何か……何か気を逸らすものは……肉!? いや、フェルは美味いものなら何でも食う! 今の季節、日本で、手軽に手に入って、フェルたちが絶対に喜ぶ激ウマな食べ物は――!?)
ムコーダはパニック状態の頭を高速回転させ、必死の思いで『ネットスーパー』のスキルを発動した。
脳内に浮かぶ見慣れた画面。検索窓に、今の時期の日本の風物詩を叩き込む。
(これだ!! マクドナルドの出前(デリバリー)……じゃなくて、ネットスーパーの特設コラボ枠にある【マクドナルド・秋限定メニュー】!!)
ムコーダは迷わず、大量の「月見バーガー」「チーズ月見」「芳醇月見」「フルポテ」「コーラ」をカートにぶち込み、確定ボタンを押した。
瞬時にムコーダの足元に現れる、香ばしいソースと揚げたてポテトの香りを漂わせる大量の紙袋。
「フェル! スイ! ドラちゃん! 飯だ! 飯にするぞ!!」
「む……? この匂いは……!」
「ごはんー!? スイ、ごはんたべるー!」
「おおっ!? なんか香ばしくて良い匂いがするぞ!」
ムコーダは素早く紙袋を破り開け、月見バーガーを包み紙ごと(フェルには一瞬で剥がして)差し出した。
「ほらフェル、食え! 日本の秋の味覚、月見バーガーだ!」
フェルは差し出された巨大な肉厚パティとプルプルのタマゴ、濃厚なトマトクリームソースが挟まれたバーガーをガブリと一口で丸呑みした。
咀嚼すること数秒。フェルの目が、カッと見開かれる。
『むおおおっ……!? こ、これは……! 濃厚なソースと、この黄色い丸いフワフワしたものの食感、そしてジューシーな肉の旨味が渾然一体となって口の中に広がる……! うまい! うますぎるぞムコーダ!』
「スイにもちょうだいー! むしゃむしゃ……おいしいー! プルプルたまご、おいしいよー!」
「うひょー! このソース、コクがあってサイコーだな! パティも肉汁がすごいや!」
先ほどまでの殺伐とした気が嘘のように吹き飛び、ガツガツと月見バーガーを貪り喰う異世界の怪物たち。フェルは勢いそのままに、コーラをゴクゴクと飲み干し、プハッと満足気な息を吐いた。
「ふぅ……満足したぞ。ムコーダ、おかわりだ」
「はいはい、分かったから! 落ち着けって!」
その光景を、ポピパ、Roselia、RASのメンバーたちは、狐につままれたような顔で見つめていた。
「……た、食べてる……」
「あの巨大な狼が……月見バーガーを……美味そうに……」
「っていうか、お兄さん……どこからあの大量のマック出してきたの……?」
危機を脱したことに胸を撫でおろし、へなへなと座り込みそうになるムコーダ。
しかし、これで一件落着……とはいかなかった。
静まり返った路地裏で、すたすたと前に歩み出る一人の少女がいた。
Roseliaのボーカル、湊友希那である。
「友希那さん!? 危険です!」
紗夜の制止を聞かず、友希那はまっすぐフェル……ではなく、フェルが美味そうに鼻を鳴らしている姿、そしてスイのプルプルした愛らしさ、そして何よりムコーダに向かって、その力強い瞳を向けた。
「あなた……いま、何もない空間からあの食べ物を取り出したわね?」
「えっ? あ、いや、これはその……手品というか……」
「誤魔化さなくていいわ。私には分かる。あなた、ただ者ではないわね」
友希那は腕を組み、凛とした声で、予想だにしなかった「提案」を口にした。
「私たちのスタジオライブ……いいえ、今週末の合同野外フェスのフードエリア。そこで、あなたのその『料理』を出店してみないかしら?」
「「「えぇぇぇぇぇええええっ!???」」」
路地裏に、ムコーダとバンド女子たちの叫び声が響き渡った。
フェルの気まぐれで始まった異世界からの里帰り。
月見バーガーで事なきを得たはずが、なぜかガールズバンドたちのフェスに飯屋として巻き込まれることに――!?
「ちょっと待ってください! 俺、ただの一般人ですよ!? フェスで店を出すなんて無理ですって!」
「断る理由は? フードのクオリティは先ほどの狼の反応を見れば明白よ。それに……」
友希那の視線が、満足そうにお腹を叩くフェルと、ポピパのメンバーに抱っこされて「うにゅー?」と気持ちよさそうに目を細めているスイに向けられる。
「その可愛らしい音楽の『特別ゲスト』たちも、観客を大いに沸かせてくれそうだわ」
「スイちゃん、すっごくモチモチして気持ちいい〜〜!」
「ドラちゃんさんも、なでなでさせてくれるの〜? かわいい〜!」
「へへん、だろー? もっと撫でていいぞ!」
いつの間にかポピパ勢に完全に毒気を抜かれている従魔たち。
果たしてムコーダは、無事に元の世界へ帰ることができるのか? それともガールズバンドフェスで伝説の「異世界屋台」を爆誕させてしまうのか――!?
秋晴れの空の下、臨海副都心の特設野外ステージには、地鳴りのような歓声が響き渡っていた。
「みんなー! 今日は思いっきり楽しんでいってねー!」
弦巻こころの弾けるような叫びとともに、ハロー、ハッピーワールド!(ハロハピ)のステージが幕を開ける。ステージ上を所狭しと駆け回るこころ、薫、育美、花音、そして着ぐるみのミッシェル。その圧倒的な多幸感に満ちたパフォーマンスは、会場全体の熱気を一気に最高潮へと押し上げていた。
続いて登場したのはAfterglow。美竹蘭の力強くも繊細な歌声と、夕焼けを思わせるエモーショナルなサウンドが観客の心を揺さぶる。さらには、倉田ましろ率いるMorfonicaの幻想的なバイオリンロック、MyGO!!!!!の激情を叩きつけるような痛切なアンサンブル、そして舞台のトリを飾るAve Mujicaの重厚かつ耽美な世界観――。
それぞれのバンドが放つ熱量が、秋の心地よい風に乗って会場全体を包み込んでいた。
だが、この日のフェスで音楽と同じ、いや、それ以上に凄まじい熱気を帯びていた場所がある。
フードエリアの一角に設置された、巨大なテントブース――【ムコーダ監修:特製ローストビーフ丼】の屋台だ。
「はい、ローストビーフ丼のお客様、お待たせしました! タレ多めでお渡しします!」
「ちょっと、スタッフさん手際良すぎない!? 行列全然減らないんだけど!」
ブースの裏手で、ムコーダ(向田剛志)は大量の汗を拭いながら、目まぐるしく動く調理スタッフたちに指示を出していた。
発端は数日前。Roseliaの湊友希那に押し切られる形で参加が決まったこのフェス飯出展だが、さすがにムコーダ一人で何千人分もの料理を作れるはずがない。そこで、フェス運営が用意したプロの調理スタッフチームに、ムコーダが秘伝のレシピとタレの黄金比を伝授。ネットスーパーで大量に調達した特選牛肉と、ムコーダ特製の醤油ベースニンニク玉ねぎダレ、そして絶妙な火入れのノウハウを伝えたことで、完璧な大量調理システムが完成していた。
「すっごい匂い……! 友希那さん、これ本当にあのお兄さんが監修したの?」
「ええ。彼の料理に対するこだわりと食材の引き出し方は本物よ。……それにしても、素晴らしい出来ね」
出番を終えたバンドメンバーたちが、続々と楽屋裏の専用テントに集まってくる。
器に盛られたのは、薄切りにされたしっとり艶やかなローストビーフが、まるで大輪の薔薇のようにご飯を覆い尽くした逸品。頂点には新鮮な卵黄が鎮座し、甘辛く香ばしい特製ダレが黄金色に光っている。
「いただきまーす! ……んんんっ! 美味しいっ! お肉がすっごく柔らかくて、タレと卵黄が絡んで……幸せ〜!」
戸山香澄が目を輝かせて頬張れば、隣で山吹沙綾も目を丸くする。
「お肉の火の通り加減が絶妙だね。噛むたびに旨味が溢れてくるよ。これ、プロの味だよ……!」
「ふふん、私の見込んだ通りね。これで観客もバンドマンも、全員の胃袋は満たされたわ」
友希那は満足げに頷き、自身も一口食べてそのクオリティの高さに目を細めた。
一方、屋台の裏側にあるVIP(?)スペースでは――。
『むぐっ……むぐっ……! ふむ、なかなかやるではないか。あの人間どもの手際も悪くない』
巨大な体を横たえ、特注の超巨大ボウルに盛られた大量のローストビーフ丼(肉だけ)を豪快に平らげているのはフェンリルのフェルだ。
「スイもー! このタレのごはん、だーいすき! お肉もやわらかいねー!」
「へへん、俺様はタレをたっぷり絡めた肉をまとめて食うのが好きなんだぜ!」
スライムのスイとピクシードラゴンのドラちゃんも、専用の器で大満足のご様子。
暴れることもなく、ただひたすらに美味い肉を食い続ける神獣たちの姿に、最初は怯えていたスタッフたちも「……なんか、すっごく行儀の良いお客様だな」と、次第に癒やしを感じ始めていた。
イベントは大盛況のうちに終了。すべてのステージが終わり、夜の帳が降りる頃――会場裏のプライベートスペースでは、全出演バンドが一堂に会する伝説の「大打ち上げパーティー」が始まろうとしていた。
「みなさん、本日のフェス、本当にお疲れ様でしたー! カンパーイ!」
香澄の乾杯の発声とともに、大打ち上げBBQがスタートした。
広大なスペースに用意されたのは、複数の大型炭火コンロと、プロ仕様の調理台。そこに集まったのは、Poppin'Party、Roselia、RAISE A SUILEN、ハロー、ハッピーワールド!、Afterglow、Morfonica、MyGO!!!!!、Ave Mujicaという、総勢40名以上のガールズバンドメンバーたちだ。
「さあさあ! ライブの後は腹が減るだろ! 今日はムコーダさんが最高のお肉を用意してくれたからね!」
弦巻こころがテンション高く叫ぶ。
ムコーダは苦笑しながら、周囲の視線が届きにくい大型テントの中へ入った。
これから出す食材は、ネットスーパーの物だけではない。異世界から持ってきた、最高級の魔獣肉たちだ。
(さて……アイテムボックスの中身を確認するか)
ムコーダは脳内で自身の能力『アイテムボックス』を開き、保存されている食材のリストを再確認する。時間の経過が完全に停止するこの魔法のストレージには、今日のために厳選された極上の肉と作り置きの料理がぎっしりと詰まっていた。
* **ブラッディホーンブルの肩バラ**:6kg × 2ブロック
* **フェルが仕留めたコカトリス**:3羽(下処理済み)
* **オークのバラ肉ブロック**:5kg × 3ブロック
* **アース・ドラゴンのモモ肉**:4kg × 2ブロック
* **【作り置き鍋】ブラッディホーンブルのビーフカレー**:大鍋 1缶
* **【作り置き鍋】オーク肉の豚汁**:大鍋 1缶
* **【作り置き鍋】ワイバーンのビーフシチュー**:大鍋 1缶
(よし、完璧だ。あとはネットスーパーで不足している調味料と野菜、それに〆の食材と食後のスイーツを調達すればいいな)
ムコーダは素早くネットスーパー画面を操作し、以下の食材を追加購入した。
「ほりにしのアウトドアスパイス(プレーン&辛口)」「のどぐろの干物」「北京ダック用の皮(春餅)・白髪ネギ・きゅうり・甜麺醤」「サンチュ・エゴマの葉・サムジャン・ニンニクスライス」「富士宮やきそばセット(蒸し麺、肉かす、だし粉、専用ソース、紅生姜)」「マーラータン用の夏野菜セット(茄子、ズッキーニ、パプリカ、空心菜、トウモロコシ)と麻辣スープの素」「タマリンドジュース」「道の駅さかいの究極のメロンパン」「バニラアイスクリーム」。
「よし、準備完了! フェル、ドラちゃん、スイ、ちょっと手伝ってくれよ!」
『ぬ? 我は食う専門だぞ』
「フェルには美味い肉をいっぱい焼いてやるから!」
『……ならば良し。焼き加減を誤るなよ』
テントから続々と運び出される巨大な肉の塊と、異様な熱気を放つ大鍋に、手伝いに来たバンドメンバーたちから悲鳴に似た歓声が上がった。
「な、なにこれぇぇぇ!? お肉のサイズがおかしいよ!?」
ロック(朝日六花)が叫ぶ。
「これ、何の肉ですか……? ブラッディ……? アース・ドラゴン……!?」
白金燐子がメニューのメモを見て目を丸くする。
「ふふ、野蛮で魅惑的な食材ね。私たちの宴にふさわしいわ」
祥子(モーティス)が優雅に微笑むが、その瞳は肉のサイズ感に少なからず圧倒されていた。
「みんな、今日はとことん食べるわよ! ムコーダさん、調理の仕指示をお願い!」
今井リサが腕まくりをして調理台に立つ。彼女を筆頭に、沙綾やモカ、レイヤといった料理が得意なメンバーが助手として名乗りを上げた。
「はい! まずは作り置きの大鍋3つをコンロにかけて温め直します! それと並行して、どんどん豪華な肉料理を作っていきますよ!」
ムコーダの号令とともに、異世界食材と日本の食文化が融合した、前代未聞の大BBQ大会が開幕した。
大型コンロに火がくべられ、炭が真っ赤に起こされる。
最初に温められたのは、ムコーダが異世界で作り置いていた3つの巨大な鍋だ。
蓋が開けられた瞬間、夜の空気に解き放たれる強烈な香気。
「うわあぁぁぁ……! なにこの匂い、めちゃくちゃ濃厚……!」
要楽奈(MyGO!!!!!)が吸い寄せられるように鍋に近づき、鼻をヒクヒクさせる。
一つ目は**【ブラッディホーンブルのビーフカレー】**。
じっくりと煮込まれたブラッディホーンブルのホロホロの肉と、スパイスのコク、玉ねぎの甘みが完璧に溶け合った濃厚なカレーだ。
二つ目は**【オーク肉の豚汁】**。
脂の乗ったオークのバラ肉から出た極上の出汁と、大根、人参、ごぼう、豆腐に旨味が染み込んだ、身体の芯から温まる和の逸品。
三つ目は**【ワイバーンのビーフシチュー】**。
高級赤ワインとデミグラスソースで時間をかけて煮込まれたワイバーン肉は、スプーンがすっと通るほどの柔らかさ。コラーゲンたっぷりの濃厚なシチューに、バンドメンバーたちから「これ、高級レストランの味じゃん……!」と溜息が漏れる。
「鍋を温めている間に、メインの炭火焼きにとりかかります!」
ムコーダが最初に取り出したのは、ブラッディホーンブルの肩バラ肉(ブリスケット)12kg分だ。
ここで躍り出たのは、ピクシードラゴンのドラちゃんだった。
「ここは俺様に任せろ! 特製スパイスを擦り込んで、弱火でじっくり表面を炙るんだろ!?」
「おう、ドラちゃん頼むぞ! ほりにしのスパイスをたっぷり振って……」
**【ほりにしのスパイスで焼き上げたドラちゃん特製ブラッディホーンブルの炭火焼きブリスケット】**
ドラちゃんが空中から器用に「ほりにし」の万能スパイスを肉全体に振りかけ、口から吐き出す絶妙な加減の龍の炎(ドラゴンブレス)と炭火の遠赤外線で、肉の表面をパリッと香ばしく焼き上げていく。
『ほう……あの万能の粉末と、ドラの炎の組み合わせか。香ばしさが際立っておるな』
フェルが鼻を鳴らしながらじっと見つめる。
焼き上がったブリスケットを厚切りにカットすると、中からは溢れんばかりの肉汁が噴き出した。
ガーリック、醤油、塩、そしてハーブの香りが効いた「ほりにし」が、ブラッディホーンブルの濃密な赤身の旨味を極限まで引き立てている。
「う、美味い……! 肉の味がめちゃくちゃ濃いのに、スパイスのおかげで全然重くない!」
チュチュが目を輝かせて肉を頬張り、コーラをガツンと飲み干す。
続いて登場したのは、フェルが仕留めて下処理済みの**【コカトリス3羽】**。
ムコーダはこれを豪快に丸ごと炭火の上で回転させながらじっくりと皮目を焼き上げた。
**【コカトリスの北京ダック風炭火焼き】**
パリパリに焼き上がったコカトリスの香ばしい皮とジューシーな肉をそぎ切りにし、ネットスーパーで調達した春餅(チュンビン)の上に載せる。そこにシャキシャキの白髪ネギとキュウリを添え、濃厚な甜麺醤(テンメンジャン)をたっぷりと回しかけ、包んで食べるスタイルだ。
「わあ、おしゃれ……! こうやって巻いて食べるんだね!」
倉田ましろ(Morfonica)が手元で綺麗に包み、口へ運ぶ。
「んんっ……! 皮がすっごくパリパリで香ばしい! 甘辛いタレとネギの爽やかさが、ジューシーな鶏肉と完璧に合ってます!」
「これ、いくらでも食べられちゃいますね……!」
二葉つくしも笑みをこぼす。
さらに焼き網の上には、ネットスーパーから取り寄せた**【のどぐろの炭火焼き】**が並ぶ。
白身のトロと呼ばれる高級魚のどぐろ。炭火で炙られた皮目から脂が弾け飛ぶ音が心地よい。
「お魚もあるのは嬉しいねえ。ふっくらしていて、塩加減が最高だよ」
山吹沙綾が焼き立てののどぐろをほぐしながら笑う。
そしてBBQの定番、ガツンと食欲を刺激する**【オーク肉のサムギョプサル】**。
5kgのオークバラ肉ブロックを厚切りにし、カリカリになるまで鉄板で焼き上げる。溢れ出た脂でキムチとニンニクスライスを一緒に炒め、フレッシュなサンチュやエゴマの葉で包み、特製のサムジャン(包み味噌)をのせて一気に口へ放り込む。
「ん〜〜〜っ!! これこれ! この脂の甘みとキムチの辛さ! サンチュで包むから後味さっぱりで永遠にいけるやつ!」
宇田川巴がビール(※未成年はジュース)のグラスを掲げながら大絶賛する。
「リサ姉、これご飯欲しくなるやつだよ!」
「はいはい、あこちゃん。ご飯もちゃんと炊けてるわよ〜」
さらに、口直しとして登場したのは**【夏野菜のマーラータン】**。
彩り豊かな茄子、ズッキーニ、パプリカ、空心菜、トウモロコシを、痺れる辛さと華やかな香りが特徴の麻辣スープでサッと煮込んだ本格的な薬膳スープだ。
「はぁ……辛い! 辛いけど、痺れるような花椒の香りと夏野菜の甘みがクセになる……!」
八潮瑠唯(Morfonica)が汗を拭いながらもスプーンを止めることができない。
「ライブで熱くなった身体に、この辛さが効くわね……」
千早愛音(MyGO!!!!!)もふーふーと息を吹きかけながらスープを味わう。
そして、肉料理の真打ちとして投入されたのが**【アース・ドラゴンのモモ肉】**だ。
**【アース・ドラゴンのステーキ・ほりにしのスパイス仕立て】**
地竜(アース・ドラゴン)のモモ肉は、超高級牛肉をも上回る極上の肉質を誇る。
ムコーダは厚さ数センチのステキサイズにカットした肉に、「ほりにしスパイス(辛口)」を惜しみなく振りかけ、強火の炭火で一気に表面を焼き固めた。
ジュー「「「「ゴクッ……」」」」
その場にいた全員が、煙とともに立ち上る極上の香りに生唾を飲み込んだ。
ナイフを入れると、驚くほど吸い付くような柔らかさ。断面は美しいローズピンク色だ。
『む! アース・ドラゴンか! こればかりは我も譲らんぞ!』
フェルが身を乗り出し、焼き上がったステーキの山を一気に平らげていく。
「あるじー! スイにもドラゴンのステーキちょうだいー! 柔らかくておいしいー!」
「へへっ、俺様の肉だ! いただきます!」
バンドメンバーたちにも、サイコロ状にカットされたステーキが配られた。
「……っ!? なんて旨味……! 噛んだ瞬間、肉汁が波のように押し寄せてくるわ……!」
湊友希那が目を見開き、震える声で呟く。
「こんな美味しいお肉、食べたことないよ……! スパイスのピリッとした辛さが、お肉の甘みを完璧に引き立ててる……!」
高松燈(MyGO!!!!!)も、一口一口を噛みしめるように大切に味わっていた。
宴もたけなわ、メインの肉料理が一段落したところで、ムコーダが大きな鉄板を持ち出した。
「さあ、ガッツリ食べた後は、〆の焼きそばといきましょう! 静岡名物、**【富士宮やきそば】**です!」
熱々に熱した鉄板に、オーク肉の脂(ラード)と「肉かす(豚の脂身を揚げたもの)」を投入。
そこにモチモチとした極太の蒸し麺とキャベツを加え、ネットスーパーで調達した専用の濃い口ソースを回しかける。
ジュワァァァァッ!!
香ばしいソースの焦げる匂いが、夜風に乗って広がる。
仕上げにたっぷりの削り節(だし粉)と紅生姜を添えれば、完成だ。
「うわあぁぁ! この麺、すっごいコシがある! 肉かすのコクと出汁の粉が絡んで、お腹いっぱいのはずなのにどんどん入っちゃう!」
市ヶ谷有咲がハフハフと息を吐きながら夢中で鉄板焼きそばを頬張る。
「焼きそばにだし粉をかけるなんて、面白いアイデアね。食感が良くてとても美味しいわ」
三角初華(Ave Mujica)も笑顔を見せる。
「ふぅ……食べた食べた! もうお腹破裂しそう!」
戸山香澄がお腹を叩いて笑う。
だが、甘いものは別腹だ。
ムコーダが最後に取り出したのは、キンキンに冷えたデザートとドリンクだった。
**【タマリンドジュースと道の駅さかいの究極のメロンパンとアイス盛り合わせ】**
グラスに注がれたのは、甘酸っぱく爽やかな「タマリンドジュース」。肉料理の脂っぽさを一気に洗い流してくれる、スッキリとした酸味が心地よい。
そして大皿に盛り付けられたのは、茨城県の「道の駅さかい」で大人気の「究極のメロンパン」。
外はサクサク、中はふんわりとしたメロンパンを軽く炙り、温かいパンの間に冷たい「バニラアイスクリーム」をたっぷりと挟み込んだ、至高のひんやり&あたたかスイーツだ。
「きゃぁぁあーっ! メロンパンにアイスクリーム!?? 絶対美味しいやつじゃん!!」
パレオ(RAS)が飛び上がって喜ぶ。
「温かいメロンパンのバターの香りと、冷たいバニラアイスが溶け合って……最高……」
白金燐子がほうっと幸せそうなため息をつく。
「タマリンドジュースの酸味が、スイーツの甘さと絶妙にマッチしてるね。ムコーダさん、天才じゃない?」
今井リサが感心したように頷く。
『む……この甘いパンと冷たい白い塊の組み合わせ……悪くないな』
フェルもメロンパンアイスの山を一口でペロリと平らげ、満足そうにヒゲを擦った。
「すーいもアイス大好きー! メロンパンサクサクしておいしいねー!」
スイも身体をパステルピンク色に変色させながら、嬉しそうにぷよぷよと揺れている。
大満足の宴が終わり、夜空には満天の星が輝いていた。
「はぁ〜……本当に凄まじい一日だったわね」
満腹になり、芝生の上でくつろぐバンドメンバーたち。
香澄やこころはスイを抱き枕のようにしてゴロゴロしており、スイも「きもちいいー」と楽しそうだ。
ムコーダは片付けをしながら、ふうと息をついた。
(一時はどうなるかと思ったけど、なんとか誰も怪我せず、料理も喜んでもらえて良かった……。さて、そろそろフェルにお願いして、元の世界に帰る方法を探さないと……)
そう思い、フェルの方へ歩み寄ろうとしたその時だった。
「――ねえ、ムコーダさん」
声をかけてきたのは、Roseliaの湊友希那だった。
その隣には、Ave Mujicaのドロリス(初華)や三角初華、さらにはRAISE A SUILENのチュチュまで並んでいる。
「な、なんですか……? もうお肉は残ってないですよ?」
ムコーダが身構えると、友希那は真剣な眼差しで、静かに首を振った。
「肉のことではないわ。……あなた、この後どうするつもり?」
「え? いや、どうするって……元の世界(異世界)へ帰る方法を探して、帰ろうかと……」
「そう。なら、ひとつ『提案』があるの」
友希那は腕を組み、不敵な笑みを浮かべた。
「私たちの音楽と、あなたの料理。そして、その規格外の従魔たち。今日のフェスでの相乗効果は、私たちの想像を遥かに超えていたわ。観客の熱狂、そして私たちのパフォーマンスの質……すべてにおいて、あなたたちの存在が起爆剤となった」
「はぁ……?」
「来月、世界規模で開催される『ワールド・バンド・グランドフェス』があるの。日本代表として私たちが出場するのだけれど――」
友希那はムコーダに一歩歩み寄り、その目をまっすぐに見つめた。
「あなたたちも、私たちの『専属フードプロデューサー』兼『特別演出チーム』として、一緒に世界へ来ないかしら?」
「「「ええええええええええええっ!?????」」」
ムコーダの絶叫が、夜の臨海副都心に響き渡った。
「世界!? 専属!? いやいやいや! 俺、ただの異世界放浪者ですよ!? なんで世界規模のバンドフェスに同行しなきゃいけないんですか!?」
「断る権利はないわ。これは、私たちの音楽をさらに上のステージへ引き上げるための、絶対に必要なオファーよ」
「チュチュ様も認めてあげるわ! あなたの肉料理があれば、我がRASのパフォーマンスは1000%の力を発揮できる!」
「ふふ、世界中の美味しい食材を、ネットスーパーとやらで探すのも楽しそうじゃない?」
女子高生バンドマンたちの圧倒的な推進力と圧に、後ずさりするムコーダ。
「フェル! ドラちゃん! スイ! ヤバいぞ、早く元の世界に帰るぞ!!」
ムコーダが助けを求めて振り返ると――。
『む? 世界フェスとな? そこに行けば、さらに珍しい肉や美味いものが食えるのか?』
「おいおいムコーダ! 世界の美味いもの、俺様も食べてみたいぞ!」
「あるじー! スイ、もっと色んなところいきたいー!」
「お前たちまで乗り気になってどうするんだぁぁぁぁぁっ!!!」
果たしてムコーダは、無事に異世界へ帰ることができるのか?
それとも、ガールズバンドたちとともに「世界」という新たなステージへ連行されてしまうのか――!?
迷走と爆食の「異世界×バンド」狂想曲は、さらなる大混乱へと続いていく!
(幕)