Fate/magi sister's 冬木の天秤 作:高島智明
新たな拠点である冬木市内深山町の武家屋敷に潜伏した「魔術師殺し」は、早速、優先して倒すべきターゲットと見做したランサー陣営を誘き出すべく策を謀り始めた。
無論、ランサーのマスターであるケイネス・エルメロイ・アーチボルトは最初に拠点としたホテルを爆破されて以降、新たに設けた拠点を隠蔽していた。
だがしかし、その警戒は魔術による探査かサーヴァントによる偵察を想定しており、魔術を使用しない人間のエージェントによる探索などは想定外だったのである。
結果、衛宮切嗣のアシスタントである久宇舞弥に発見されてしまった。
舞弥からの報告を受けた切嗣は、だがしかしケイネスが魔術の陣地を構える拠点を強襲するなどという選択はしなかった。
それよりも、拠点の外に誘(おび)き出して片付ける積もりだったのである。
どうやって誘き出すか、は案外と容易だった。
ケイネスは聖杯戦争に於いて、魔術師としての真っ当な魔術合戦を想定しており、従うサーヴァントも真っ向からのサーヴァント同士の決闘を欲していた。
さして工夫もしないセイバー陣営の挑発に乗って、ランサー陣営は拠点を出て来て、正面衝突に乗ったのである。
ランサー陣営が愚かだった訳では無かった。
ランサーから受けた手傷の癒えない呪いのかかったままのセイバーに対してランサーは、もしかしたら互角以上かも知れない程に戦っていた。
そして、ケイネスは自らが編み出した水銀魔術には、魔術師同士の決闘に於いての絶対の自負が在った。
事実、ケイネスと対峙した切嗣は水銀魔術に対して無防備にすら見えた。
だがしかし、只1つ未知の事実が在った。
敵は「魔術師殺し」だったのだ。
「魔術師殺し」が、迫る水銀魔術に対して古臭いとすら思える銃から放った銃弾が命中した瞬間、勝利を確信すらしていたケイネスの魔術回路に異変が起こった。
起源弾ー狙った魔術師が行使する魔術を狙って撃ち込めば魔術回路ごと破壊する「魔術師殺し」の必殺の弾丸だった。
魔術回路を破壊されてのた打ち回るケイネスに、許婚だった筈のソラウ・ヌァザレ・ソフィアリがしがみ付いた。
介抱しようとするのか、と「魔術師殺し」ですら瞬間は思った。
だがしかしランサー、真名はディルムッド・オディナの「愛の黒子」に魅了されランサーへの恋情に狂っていたソラウは、ランサーを自らのものにするべくケイネスから令呪を奪おうとしたのだ。
次の瞬間には其れを見破った「魔術師殺し」は、容赦無くソラウの魔術回路も起源弾で破壊した。
マスターからランサーへの魔力の供給は完全に断ち切られた。
こう成ってしまえば、単独行動スキルを持つクラスでも無いランサーは現界し続けることも出来ない。
セイバーに対して互角以上とすら言える戦いを続けていたランサーも、無念の言葉を残して消失して行った。
同時に、セイバーの手傷も癒えた。
「キリツグ…この様な戦い方は…」
冷徹なマスターは「これが僕の戦い方だ」とすら答えず沈黙していた………。
……。
…脱落したマスターを保護する教会に収容されたケイネスとソラウは監督役の手配した手当てを受けていた。
実は、この2人が早々に脱落したことで監督役自身が命拾いしていた、などとは異なる世界線のことを知らなければ知らない。
そのことが、言峰1家の未来にどの様な「蝶の羽ばたき」を齎すかも。
*
ウェイバー・ベルベットは、未だサーヴァント・ライダーと共にマッケンジー家に潜伏していた。
「ロード・エルメロイ」とまで呼ばれた恩師が魔術師としては死んだも同然に成った結果、未来の自分が「ロード・エルメロイⅡ世」と呼ばれることに成る、とは夢にも知らずに。
*
ランサーを倒してセイバーたちが帰宅すると、アイリの容体は更に悪化していた。
それが彼女が「聖杯」だからとはセイバーは知らず、切嗣は愛妻を犠牲にする決意を固めてしまっていた。
アイリは屋敷の土蔵に横たわり、セイバーに依頼して魔法陣を描かせた。
「この魔法陣に横たわっていれば、まだ我慢出来るの」
アイリはセイバーには、そう依頼した。
この魔法陣を描いたことが、セイバーそして、切嗣の「息子」にどの様な「運命の夜」を齎すか、セイバーは英霊ではあっても予言者では無かった。