ボーン、ボーン――。
古ぼけた時計の鐘が鳴る。
時刻は22時を指していた。
ロビーのソファーに腰掛けながら、ぼーっと時計を眺め、呟く。
「そろっちまったなぁ……」
ついさっきまで、この旅館で起きた事件について、一人ずつ話を聞いていた。
最初は単純な事件だと思っていたわけじゃねえ。だが、話を聞けば聞くほど、妙なことばかりが積み重なっていった。
誰かが嘘をついている。
いや――正確には、ここにいる全員が何かしらの嘘をついていた。
事件解決は、喜ばしいことばかりじゃない。
犯人を捕まえて、被害者の無念を晴らす。それが刑事の仕事だ。だが、その過程で明らかになるのは、誰かの隠したくなるような事情だったりする。
金を借りていた者。
誰かを庇っていた者。
自分の立場を守るために、事件とは直接関係のないことまで隠していた者。
どうも今回は、その類の事件らしい。
俺は手帳を取り出し、これまでに聞いた話を頭の中でもう一度整理する。
16時から17時30分の間に起きたと思われる殺人。
鍵のかかった部屋。
開いていた窓。
現場に残された【足跡】。
そして、あの【名刺】と【髪紐】。
最初に見つけた時は、それぞれが別々の意味を持っているように思えた。
だが、話を聞いていくうちに、それらが少しずつ繋がってきた。
【髪紐】は誰の物だったのか。
【名刺】はなぜ現場に落ちていたのか。
あの【足跡】は、本当に犯人が外から侵入した証拠なのか。
そして――誰が、何のために嘘をついたのか。
それらを一つずつ拾い上げていけば、ようやく一つの答えが見えてくる。
だが――もう十分だ。
これ以上、一人ずつ話を聞いて回る必要はねえ。
俺は手帳を閉じる。
「さて……そろそろ、終わらせるとするか」
口に出してみると、不思議と気持ちが落ち着いた。
ここまで来たなら、もう迷っている場合じゃない。
もちろん、俺の推理が間違っている可能性だってある。
それでも、刑事としてここまで調べた以上、最後まで自分の推理を信じるしかねえ。
立ち上がり、ロビーを見回す。
ここにいる全員が、事件の関係者だ。
そして、その中に一人だけ――
「女将さん、悪いが皆をロビーに集めてもらえるかい」
「はい……」
その表情にも、いつもの旅館の女将らしい落ち着きはなかった。
無理もねえ。
自分の旅館で殺人事件が起きて、その犯人がまだこの中にいるんだからな。
やがて、一人、また一人とロビーへ集まってくる。
最初に現れた者もいれば、部屋から出ることをためらっているように見える者もいた。
不安そうな顔。
何かを恐れる顔。
そして、何かを隠している顔。
俺は誰一人として見逃さないように、集まってくる全員の表情を眺めていた。
これまで聞いた証言を思い返しながら、それぞれの顔を見る。
灯。
真綾。
斉木。
啓介。
遠谷。
そして、女将の鈴。
誰もが何かを抱えていた。
だが、その中にいる一人だけが――人を殺した。
全員が揃ったところで、俺はゆっくりと立ち上がった。
ロビーにいる全員の視線が、俺へと集まる。
「さて……」
全員の顔を見渡す。
さっきまで聞こえていた小さな物音すら、今は妙に大きく感じられる。
誰も口を開かない。
俺も、すぐには言葉を続けなかった。
ここから先は、もう誤魔化しは無しだ。
今まで隠していたことも、ついた嘘も、全部ひっくるめて答えを出す。
「
誰かが息を呑んだ。
俺は構わず続ける。
「もちろん、俺の推理が間違ってる可能性もある。だが、俺はこれまでに聞いた証言と、現場に残された証拠を全部合わせて考えた」
そして、一度だけ大きく息を吐く。
――犯人は、この中にいる。
俺は一人ずつ、その顔を見た。
視線を逸らす者。
じっと俺を見返す者。
不安そうに手を握りしめる者。
それぞれの反応を確かめるように、ゆっくりと視線を移していく。
そして最後に、俺は一人の顔を見つめた。
「犯人は――」
1. 遠谷智也
2. 南房灯、雲空真綾
3. 斉木勇太