転生ショタ、リゼロ世界でお姉さんハーレムを築く 作:Guiltylowe
ロズワール邸で迎える四度目の朝。昨日手に入れた『
それでも、朝食だけは自分で取り寄せなかった。
客室の扉を開けて入ってきたフレデリカが、盆を片手にいつもの穏やかな笑顔を浮かべる。昨日、「フレデリカお姉さんが持ってきてくれた方が嬉しい」と言ったら、本当に持ってきたのだ。
「おはようございます、ショウタ様。お目覚めになる頃かと思いまして、こちらで召し上がれるようご用意いたしましたわ。まだお眠いのでしたら、無理に起きなくても構いませんよ」
「フレデリカお姉さん、僕のこと甘やかしてる?」
盆を置いていた手が一瞬だけ止まった。けれど、否定はしない。フレデリカは困った子を見るように目を細め、そのまま寝台の縁へ腰を下ろした。
「そうかもしれませんわね。ですが、ショウタ様は放っておきますと食事まで見えない手に運ばせて、寝台から一歩も動かなくなりそうですもの。でしたら、わたくしがきちんとお世話をした方が安心ですわ」
「やっぱり甘い」
「……否定しづらいですわね」
ショウタは満足した。
ペトラとは最初から違う。昨日のペトラは、触れられるたび驚き、恥ずかしがり、一つずつ自分の中で許す範囲を増やしていった。だから馴らしていく面白さがあった。
フレデリカには、それが必要ない。
最初に屋敷へ来たときからフェロモンは強く効いている。数日一緒に暮らし、好きだ可愛いだと何度も言われれば、元々面倒見のいい彼女がショウタへ甘くなるのは早かった。礼儀が悪ければ叱るし、駄目なものは駄目と言う。それでも最後には食事を持ってきて、服を整え、眠そうなら休ませようとする。
何より、フレデリカは最初からショウタ好みの『お姉さん』として完成していた。長身で、働き慣れた身体には華奢さとは違うしなやかな強さがあり、それでいて近づけば人を包み込むような柔らかさがある。長い金髪も綺麗だし、穏やかに笑った口元から覗く鋭い歯も好きだった。
だから今回は、育てる必要がない。
もっと自分へ甘くして、その完成したお姉さんをそのまま欲しい。
『聖餐』を使えば、誰かとの大切な関係を食べて、ショウタをそこへ置くことだってできる。けれどフレデリカには使うつもりはなかった。ガーフィールを気にかける姉で、ペトラを教える姉分で、屋敷の誰かが困れば自然に世話を焼く女だからこそ、ショウタはフレデリカを気に入っているのだ。その部分を別のものへ置き換えたら、欲しかったお姉さんそのものが変わってしまう。
なら、今のまま自分を好きにさせればいい。
「フレデリカお姉さん」
「はい?」
「今日、仕事しないで僕のお世話してよ」
「まあ。ずいぶん大胆なお願いですこと。わたくしにもお仕事がございますのよ?」
「もうだいたい僕の手がやってるよ」
言われて初めて思い出したように、フレデリカが廊下へ視線を向ける。扉の向こうでは『
「……まさか、そのために昨日から屋敷中のお仕事を覚えさせていたのですか?」
「うん。フレデリカお姉さんが暇になれば、僕と遊べるでしょ」
あまりに迷いのない答えだったからか、フレデリカはしばらく黙ったあと、耐えきれないように笑った。
「本当に、欲望へ正直な方ですわね。仕方ありません。ペトラの指導とわたくしにしかできない仕事を終えたあとでよろしければ、今日はいつもよりショウタ様のお相手をいたしましょう」
「やった」
「その代わり、わたくしがお仕事をしている間はお利口になさってくださいませ」
「触るのは?」
「……程度によりますわ」
最初からそれだった。
駄目ではない。
程度による。
昨日一日かけてペトラから引き出した答えへ、フレデリカはもう立っている。
昼前になる頃には、ショウタの狙い通り二人で過ごす時間は増えていた。雑務の大半を『
もっと近くで見たくなる。
「フレデリカお姉さん。その歯見せて」
「また歯ですの?」
「好きだから」
「この歯をそこまで気に入ってくださる方は、ショウタ様ぐらいですわ」
以前なら少し隠していた口元を、今はもう隠さない。自分が気にしているところを本気で可愛いと言われることが、嫌ではなくなっているのだろう。
ショウタはそのまま両腕を伸ばした。
「抱っこして」
「……ショウタ様は、わたくしを本当にお姉さん扱いなさいますのね」
「お姉さんだから好きなんだよ」
フレデリカは少しだけ照れた。
それでも断らず、長椅子からショウタの身体を軽々と抱き上げる。戦えるほど身体能力の高いフレデリカにとって大した重さではないのだろう。視界が高くなり、腕の中へすっぽり収まる。身体が近づけば、服越しにも体温と柔らかな重みが伝わってきた。
ショウタが嬉しくなって首へ腕を回すと、フレデリカも落とさないよう抱く力を少し強める。
「満足なさいました?」
「うん。フレデリカお姉さん、すごく好き」
「まあ……そのように真っ直ぐ言われますと、さすがに困ってしまいますわ」
「フレデリカお姉さんも僕のこと好きでしょ」
そこだけ返事が少し遅れた。
否定するなら簡単だ。
けれどフレデリカは否定せず、腕の中のショウタを一度見下ろしてから、困ったように微笑んだ。
「そういうことは、女性に直接尋ねるものではございませんわ」
「違う?」
「……違うとは申し上げておりません」
十分だった。
そのまましばらく抱かれていると、談話室の扉が開いた。書類を抱えたエミリアが入ってきて、フレデリカの腕に収まっているショウタを見るなり足を止める。少しだけ目を丸くし、それから何か面白くなさそうに唇を尖らせた。
「……ショウタくん、なんだか今日はすごーく甘やかされてない?」
「フレデリカお姉さん優しいよ」
「それは知ってるけど。昨日まではフレデリカもすごーく忙しそうだったのに、今日はずっとショウタくんの近くにいるし……なんだかちょっとずるい」
言ってから、自分で嫉妬したことに気づいたらしい。エミリアは少し照れながらも言葉を撤回せず、フレデリカがショウタを下ろした長椅子の反対側へ腰を下ろした。
「別にフレデリカを独り占めしちゃ駄目って言ってるんじゃないの。でも、ショウタくんが誰かとばっかり一緒にいると、私だって寂しいんだからね。私のこともちゃんと忘れないで」
「忘れてないよ。エミリアお姉さんも好き」
「うん。ならいいの」
それだけで機嫌を直し、エミリアはショウタの髪を一度撫でた。そのまましばらく書類を読み始め、反対側ではフレデリカが茶を注ぐ。ショウタ本人は二人の間に寝転がっているだけだった。
屋敷の向こうでは『
自分から女を追いかけるどころか、だんだん女の方からショウタのいる場所へ集まるようになってきていた。
素晴らしい。
午後、フレデリカが厨房で茶菓子を用意している間にも、単純な作業は『
「ショウタ様。つまみ食いはいけませんわ。まだ皆様へお出ししていないでしょう?」
「一個だけ」
「先ほども同じことを仰って、もう三つ召し上がりました」
「じゃあフレデリカお姉さんのことつまみ食いする」
「もっといけませんわ」
即答された。
ただし、怒ってはいない。
笑っている。
ショウタは菓子ではなく、今度はフレデリカの前まで自分で歩いていった。見上げれば、やはり大きい。近づくと穏やかな表情も、口元の歯もよく見える。
「触っていい?」
「今度はどこでしょう?」
「顔」
フレデリカは一度だけ瞬き、それから少し腰を屈めた。
「……どうぞ」
今度は『
もっと近づきたくなる。
「キスしていい?」
初めて、フレデリカの余裕のある笑顔が少し止まった。
ペトラのように慌てはしない。けれど頬へ置かれたショウタの手を見て、それから本人へ視線を戻すまでには少し時間がかかった。
「……ショウタ様は、本当に段階を飛ばすのがお好きですこと」
「駄目?」
「駄目と申し上げれば、きちんとおやめになります?」
「うん」
そこは迷わず答えた。
フレデリカはそれを聞いて少しだけ目を細め、最後には自分からもう一度腰を屈めた。
「でしたら、一度だけですわよ」
背伸びしても届かなかったので、最後はフレデリカの方から距離を埋めた。
短い口づけだった。
それでも離れたあとの空気は、さっきまでとは明らかに違った。フレデリカはほんの少し頬を染め、口元へ手をやる。ショウタがすぐ「もう一回」と言えば、今度は笑いながら首を振った。
「一度だけと申し上げたでしょう? 続きが欲しいのでしたら、もう少しお利口にしていてくださいませ」
完全な拒絶ではなかった。
むしろ続きがある言い方だった。
ショウタはそれで満足した。
夕方までの間に、二人の距離は少しずつ変わった。ショウタが『
それより面白かったのは、フレデリカの方から甘くなっていくことだった。
髪が跳ねていれば直す。服が乱れていれば整える。ショウタが少し眠そうにしていれば、「こちらへいらっしゃいますか?」と膝まで貸そうとする。ショウタが甘えれば甘えるほど、「仕方のない方」と言いながら世話が増える。
そして夜、屋敷の仕事が終わった頃。
ショウタが客室で待っていると、扉が叩かれた。
入ってきたフレデリカは、昼間までのメイド姿とは違っていた。仕事用にまとめていた髪を下ろし、寝支度に近い軽い装いへ着替えている。用事があるならメイド服のままでもいいはずなのに、わざわざ仕事を終えた姿で、一人でショウタの部屋まで来た。
それだけでも、何をしに来たのかはだいたいわかった。
「来た」
「来ましたわ」
「僕のお世話?」
「いいえ。今日のお仕事は、もう終わっておりますもの」
フレデリカは自分の手で扉を閉めた。
少しだけ照れたように、それでも逃げずにショウタを見る。
「今ここにいるのは、メイドとしてではございませんわ」
「じゃあフレデリカお姉さんとして?」
「ええ」
「つまみ食いしていい?」
フレデリカは一度呆れたように目を閉じた。
それから、昼間よりずっと柔らかく笑う。
「一つだけ訂正いたします。つまみ食いというものは、本来こっそり少し味を見ることでしょう?」
「うん」
「今夜のわたくしは、少しだけで済ませるつもりはございませんわ」
その言葉の意味を考える必要はなかった。
今度はフレデリカの方から距離を縮めてきた。
昼間の短い口づけとは違う。
これから二人が何をするのか、どちらにもわかっている近づき方だった。
ショウタが首へ腕を回せば、フレデリカも自分から抱き寄せる。『
むしろ、離れかけた一本を自分から引き寄せた。
その瞬間、ショウタには十分わかった。
今夜はもう、許される場所を探して一つずつ進む必要はない。
フレデリカ自身が、ショウタともっと近くなりたくてここへ来たのだ。
扉が閉じてから先、二人がすぐ眠ることはなかった。最初はいつものようにショウタを甘やかす余裕を残していたフレデリカも、長い時間を一緒に過ごすうち、少しずつその余裕を失っていった。ショウタ本人の腕と何本もの『
一度落ち着いても、それで終わりにはならなかった。隣へ横になり、髪を撫で、笑い合い、どちらかがもう一度近づけばまた距離が消える。その繰り返しで夜は深くなり、ショウタが途中で眠りかけた頃には、今度はフレデリカの指が髪を梳いていた。
「……本当に、手のかかる方ですこと」
「嫌?」
「いいえ。今夜はもう、好きになさってくださいませ」
そこでまた、二人の距離がなくなった。
結局、眠りについたのがいつだったのか、ショウタは覚えていない。
ただ翌朝、目を開けたときにもフレデリカはすぐ隣にいて、ショウタの腕だけでなく『
フレデリカが目を覚ましたのは、ショウタがもう一度寝ようとした直前だった。いつもきっちりまとめている長い髪は寝台へ広がり、仕事中にはほとんど見せない無防備な顔でショウタを見つめる。それから昨夜を思い出したのか、ほんの少し頬を染めた。
「おはようございます、ショウタ様」
「おはよう。今日もお世話して」
「まあ。昨夜あれだけわたくしを困らせておいて、朝一番のお言葉がそれですの?」
「だってフレデリカお姉さん、僕のお世話好きでしょ」
フレデリカは返事の代わりに、乱れたショウタの髪を指で整えた。
それから額へ短く口づける。
「ええ。困ったことに、思っていたよりずっと好きなようですわ」
朝食の時間になって二人が食堂へ現れれば、ペトラは一目で何かを察したらしい。フレデリカの服装も髪もいつも通り整っている。それでもショウタへ向ける目だけが昨日より明らかに甘く、襟元が少し乱れていれば会話の途中でも直し、飲み物が減れば頼まれる前に注ぐ。
ペトラは二人を何度か見比べたあと、じっとショウタを睨んだ。
「……ショウタ。今日、わたしのところにもちゃんと来てよね」
「『
「手だけじゃなくて本人!」
フレデリカが笑った。
少し離れた席ではエミリアまでそれを聞いて、「じゃあ私のところにも来てね」と当然のように話へ加わる。
屋敷の向こうでは『
男たちは『
ラムは『聖餐』によって最愛の姉としてショウタを甘やかし、ペトラは見えない手がなくなる方を物足りなく感じるようになった。
そしてフレデリカまで、もうただの優しいメイドお姉さんではない。
仕事が終われば、自分からショウタの部屋へ来る女になった。
異世界へ来て、まだ四日。
それだけしか経っていないのに、ずいぶん住みやすい屋敷になった。
残っている女は――。
「次はベアトリスかぁ」
禁書庫を思い浮かべる。
他の女とは違って、あの精霊だけはまだ露骨にショウタを歓迎していない。フェロモンの効き方も薄く、何よりスバルとの結びつきが強い。
つまり、手強い。
だからこそ少し面白そうだった。
異世界生活四日目。
メイドお姉さんまで、しっかりつまみ食いした。