戦場整理中、オルク所持品より記録帳一冊を回収。
内容は、帝国兵の日記形式を模倣した私的記録と判断。
敵性種族資料として保管指定。
オレの日記
一日目
死んだインゲンから、ちっこい本を拾った。
弾も入らねえし、刃もついてねえ。だが、そいつは上着の奥に大事そうにしまっていた。
中を読むと、飯を食ったことや、雨が降ったことが書いてある。インゲンは、その日にあったことを字にして残すらしい。
最後には「明日も無事でありますように」とあった。
その次からは真っ白だ。まだ使える。
オレもやることにした。
ボスに見せたら
「そんなモン書いてるヒマがあったら弾ァ詰めろ!」
と言われた、なのでグロッツにやらせた。
それから今日のぶんを書いた。
きょうは、たまをつめた。
初めてにしちゃ、よく書けた。
二日目
日付というのも書くらしいが、今日は何日なのか誰も知らねえ。
だから、本を拾った日を一日目にした。明日は三日目だ。これなら間違えねえ。
スクラップの山から赤い鉄板を見つけた。
メクに「こいつは速えぞ」と教えたら、「車輪もねえのに走るか」と言いやがった。
夕方、グロッツがオレの昼飯を盗んだ。
あいつは赤い鉄板に飛び乗って、坂を滑って逃げた。
追いつけなかった。
明日、メクにこのページを読ませる。
三日目
本日は偵察を行った。
前の持ち主がこう書いていたので、真似した。
インゲンの基地を見つけた。高い壁に、鉄の門。見張り台にはでかい銃が据えてある。中でも大勢が歩き回っていた。
ここまで揃えておいて、オレらに黙っていやがった。
ボスに知らせると、牙をむいて笑った。
「明日は早えぞ」
戻ってから弾を詰めた。チョッパの刃も研いだ。ゴルザグはトラックの前に鉄の角を溶接していた。
明日のぶんまで書きたくなった。
だが、まだ門をぶち抜いてねえ。
楽しみのために取っておく。
四日目
トラックがひっくり返った。
門にはまだ届いていなかった。
ゴルザグは運転席から這い出すと、「予定どおりだ!」と怒鳴った。せっかくつけた鉄の角が地面に刺さっていた。
何の予定だったのかは聞けなかった。見張り台が撃ち始めたからだ。
みんなで駆けた。
インゲンの銃は、光る弾がびゅんびゅん飛んでくる。暗いうちに襲ってよかった。どこに敵がいるか、よく分かる。
見張り台の下から、降りてこいと怒鳴った。
ボムが降ってきた。
話の早えやつだった。
この本にも穴があいた。
文字のねえところで助かった。
五日目
基地はオレらのものになった。
ボスが一番高い建物に登って、旗を立てた。そこは昨日、オレが屋根を撃ち抜いたところだったので、途中で片足が沈んだ。
笑い声がした。
ボスは穴から抜け出すと、そいつを旗竿でぶん殴った。
倉庫で飯を見つけた。四角い缶に入っていて、噛んでもなかなか開かねえ。
撃ったら開いた。
中身は壁についた。
グロッツが別の缶についている輪っかを引くと、ふたがぺろんとめくれた。
あいつはオレの顔を見て、黙ってそいつを差し出した。
利口なグロッツだ。
食ったあと、空き缶をくれてやった。
六日目
本日は天候晴朗なり。
前の持ち主は、戦った日にも天気を書いていた。オレは忘れていた。今日はきちんと書く。
朝は晴れていた。
昼にメクの作業場が吹っ飛んだ。
煙で空が見えなくなって、ボルトと鉄板が降ってきた。でかい扉が食堂の屋根に刺さった。
メクは顔を煤だらけにして出てきたが、両手で抱えた何かをボスに見せびらかしていた。
あれは明後日には撃てるらしい。
天気のところを直しておく。
晴れ。のち、スクラップ。
拾いに行ったら、いいボルトがあった。
七日目
外れの土手でインゲンと撃ち合った。
向こうは石の陰。オレは壊れたトラックの後ろ。
あいつが撃つと車が光った。こっちが撃つと石が欠けた。昼過ぎには車も石も、ずいぶん小さくなっていた。
ところが肝心のインゲンには当たらねえ。
弾倉を替えていると、向こうが頭を出して何か叫んだ。聞こえねえから顔を出したら、また撃ってきた。
ちょっとカシケーやつだった。
日が傾くころ、そいつが片手を上げた。
オレも上げた。
すると、向こうは土手の向こうへ消えちまった。
終わりの合図だったのかもしれねえ。
知っていれば、手なんか上げなかった。
八日目
メクのビッグシュータができた。
長い銃身に、ごつい弾倉。持つと腕にずっしりくる。どこから剥がしてきたのか、取っ手にはインゲンの祈り文句が残っていた。
試し撃ちしたら、祈り文句が焦げて読めなくなった。
的は粉々だ。
台もなくなった。
その後ろの小屋からゴルザグが飛び出してきた。
いい具合だったが、途中でビッグシュータがひしゃげて、弾が出なくなった。
メクが覗き込んだ。
「銃身がもたねえ」
「じゃあ増やせば良いじゃねえか」
あいつの顔がぱっと明るくなった。
明日もここへ来よう。
九日目
インゲンが来ねえ。
土手にもいねえ。道路にも動くものがねえ。ボスは見張り台に椅子を持ち込んで、ずっと遠くを睨んでいる。
隣のモブと殴り合った。
きっかけは忘れた。ゴルザグの歯が折れたので、拾ったやつとゴルザグでもうひと勝負になった。
悪くはなかった。
だが、あの土手のインゲンが、仲間を連れて戻ってきたらもっとよかった。
新しいビッグシュータは、今度はちゃんと撃てる。
持っていく弾薬箱まで決めて、もう二度も詰め直した。
あと、相手だけだ。
十日目
朝っぱらからグロッツがわめいていた。
うるせえので黙らせようとしたら、道の向こうを指さした。
土煙だった。
高いところへ登った。
インゲンだ。
前に逃げた連中もいるのかもしれねえ。だが、あんな数じゃなかった。
道路いっぱいに歩兵がいる。旗が揺れている。トラックが次々に丘を越えてくる。
レマン何とか戦車。
その後ろにも戦車。
おい、あれを見ろ。あのでけえのだ。横にもダッカがついてやがる。上の砲は、オレらのトラックより長えんじゃねえか。
後ろの丘では大砲を並べていた。
何門あるのか数えようとしたら、最初の一発が来た。
見張り台の下が吹っ飛んだ。
腹の底まで響く音だった。
ボスが椅子を蹴飛ばした。
笑っている。
メクはオレの銃に最後のボルトを叩き込んだ。ゴルザグがエンジンをふかしている。あちこちで雄叫びが上がる。肩がぶつかる。誰もどきゃしねえ。みんな門へ押し寄せている。
また大砲が鳴った。
壁が崩れた。
出口が増えたぞ。
インゲンども、準備してやがったんだな。
あれだけ集めるのに、時間がかかったんだな。
よし。
待った甲斐があった。
今日は書くことが山ほどできる。
続きは帰ってからだ。
最高の――
Waaaaagh!!〈いくさだァァァア!
の始まりだ!!