超能力の特訓は苦難を極めました。何しろあの日以来超能力は一切発現しないのです。
一縷の望みをかけて挑んだ坊ちゃんとの再戦には前回同様軍団員の介入によってあっさり負け、正体もバレ、私は無事学校中の笑いものとなり、旦那様には息も絶え絶えになるまで殴られ、1週間物置に閉じ込められました。(今まで従順にしていた分の反動がヤバかったです。)
あの時と同じ困難な状況に陥っても、私が長時間願っても、太陽と月と母なる宇宙に祈っても、超能力は私を助けてはくれませんでした。
かかる困難が足りないのでしょうか。
そうに違いありません。これまでさんざダドリー軍団にはひどい目に遭わされてきたのに、あの時しか使えなかったのですから。
ま、下手なピンチの度に使えてしまっていたら旦那様によってとっくに家を追い出されていたでしょうけど…
私は困難方面での修行を諦め、(今の状況以上の困難はなかなか思いつきません)先人の知恵を借りることにしました。
つまり本を読み始めました。 色々と読んでみましたが、最近出版されたものでは感情の高ぶりやストレス、強い意思などによって起こるとするものが多かったです。
なるほど、足りないのは困難ではなくストレス。
2度同じ状況を経験して結果が違ったのはこれが原因ですか。
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科学には再現性という言葉があって、簡単にいうと、同じ条件下で同じ結果が出るかどうかの指標で、これが十分ならその現象は必ず起きるものと言っていい、というものです。
ただでさえ人によって個人差がでそうな超能力実験で、よりによって鍵となるのが条件を揃えづらいストレスとかいう操作の難しい値で、当時の研究者は頭を抱えたことでしょう。
下手したらわざと実験困難であるふうに言ってごまかそうとしていると懐疑論者達に叩かれかねません。
かくいう私も、あまりにもあの事件に再現性がないようであれば、あれは超能力ではなく、私の意思によらない何かの偶然であると考えざるを得なくなってしまいます。
なんとしても研究の端緒をつかみたい…どっかに私がとんでもないストレスを感じるようなものが転がっていやしないか…
そう、このときの私にはストレスを望む余裕すらありました。超能力が起こらなかったのは当然とすら言えましょう。
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その数週間後くらいから、立て続けに超能力が起こるようになりました。
タオル仮面の正体がバレてからというもの発散先を失った私のストレスは凄まじく、度々超能力と化して家の物を壊したり、坊ちゃんを突き飛ばしたりしました。
厄介なのは、この力、全く制御ができないということです。
超能力は爆弾のようなもので、私が耐え難いと感じたときに発動し、制御する間もなく収まってしまいます。
最初は怖がっていたダドリー軍団もこの爆弾さえ爆発してしまえば後は何ということもないことを知ると、むしろこれまで以上に私をいたぶるようになりました。
こうならないように表立っては抵抗してなかったっていうのもあったんですけどね…超能力を使ったことが旦那様にバレたり、あまつさえ家で使ってしまった時には、大抵気を失うまで殴られたあと部屋に閉じ込められました。
優等生としてたまに罵られる程度だった日々が懐かしいです。
一度危険人物として認識されてしまった以上、もう一家からの心証を回復することは叶わないでしょう。
旦那様は家族を非常に大切になさる方なので、一家に危害を加えかねない者を決してお許しになりません。
しかし、未だ私は追い出されていませんでした。
これは本当にどういうことなのでしょうか。
それは、確かに家から8歳の子供を追い出したとなればご近所の印象は悪いでしょう。しかし、それでいえばこれまでもだいぶ印象は悪かったのです。
私が坊ちゃん達によくいじめられていることはご近所では有名ですし、(坊ちゃんには世間体という概念がないので)何なら旦那様に殴られている姿すら何度か見られたことがあったはずです。(旦那様は普通でないものに遭遇されたとき、世間体を忘れてしまわれます)
それでもまだ一度も通報されていないのですから、人里も捨てたものじゃありませんね(皮肉)
とにかく、迅速に新たなストレス発散方法を見つける必要がありました。
このままじゃ私、多分いつか死んじゃうので。
まあ最悪逃げればいいので死にはしないんですけど。
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私は閃きました。
坊ちゃんに仕返しできないなら、坊ちゃん以外に仕返しすればいいじゃない。
これまでなんとなくボスである坊ちゃんしか狙ってなかったですけど、よく考えたらダドリー軍団には私を殴ってきた人が他にもたくさんいるじゃないですか。別に主犯だけを狙わなくたっていいんです。まずは、そう、あの子とかどうでしょう。一番私を殴らなかった子で、軍団内では私との面識は一番ない、多分あんまやる気ないけど仕方なく参加してる部活みたいなノリで来てる子です。あの子ならちょっと脅してもバレないのでは…?
私は頭がおかしくなってしまいました。
なんですか「ちょっとくらいバレないのでは?」って。バレるに決まってるでしょうタオル仮面事件の時学校中でどんだけからかわれたか覚えてないんですか?
最近は体を鍛えつつなんとか私とバレずに仕返しをする方法を考えていました。
運動にはストレス発散効果があるはずですが、さすがにこんなんじゃ何の癒しにもなりません。
仕返しは絶望的に思えました。ただでさえ最近は超能力なんて謎の力を身につけてしまったので、坊ちゃんは自分の身に起こる不都合なことを全て私のせいとして旦那様に言いつけます。
当然、その都度私は折檻を受けるので、もはや頭のなかで密かに坊ちゃんをボコボコにするくらいしか仕返しの方法が思いつきません。
正直、最近私は脱走計画を練っています。
前から密かに受けていた内職の報酬が貯まっていて、電車賃くらいにはなるのです。
後はまあ、なんとかして、ほら、引き取ってくれる人を見つけるとか…?
……はい。
ま、そんなすぐに取り組まなくたっていいでしょう。まだ我慢できます。
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なんかもうどうでもよくなってきた
朝起きて、ぼーっとしながらご飯作って、
ぼーっとしながら坊ちゃんに殴られつつ用意して、
ぼーっとしながら旦那様の愚痴聞いて、
ぼーっとしながら学校行って、
ぼーっとしながら軍団の皆様の言うこと聞いて、殴られて、
ぼーっとしながらいつの間にか超能力発動してて軍団員の方一人突き飛ばしてて、
ぼーっとしながらまた殴られて、なんか気づいたら家に帰ってて、
ぼーっとしながら坊ちゃんの帰りを待って、ご飯作って、
ぼーっとしながら坊ちゃんと話して、帰ってきた旦那様の愚痴聞いて、超能力使ったことを報告して、意識が戻る頃にはもう朝で、
ぼーっとしながら部屋から出て…
習慣となってしまえば、何ということのない日常でした。旦那様が私が超能力を使ったという度お怒りになるのは申し訳ないですが、それももはや日課のようなもので、最近はもう報告するまもなく気づいたら朝で部屋の中、なんてこともあります。
無理に解決しようとしたのがいけなかったんですね。
昔、私はこのままでは死んでしまうんではないかと思い現状打破の道を探っていましたが、何の成果も得られず、結局時間が解決してくれました。
旦那様もそのうち私が日に一度は超能力を発動してしまうことに慣れて、私に皆様を害する気がないことをわかってくださるでしょう。
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なんだか騒がしいですね。
帰宅途中、何やら川のそばで騒いでいる一団を見かけました。
見れば、男の子が蛇を川に投げ込もうとしています。
……?
なんか頭痛くなってきました。
最近時たま頭が、具体的にいえば額の謎の傷跡が(私の額には特徴的な形の傷跡があります。)痛むことがあるのですが、今なんか凄い痛くなってきました。
何急に。まさか私の中の動物愛護精神あふれる部分が暴走を始めた…?
坊ちゃんがフィッグさんちの飼い猫にエアガン撃ってるの見た時もなんとも思わなかったのに?
大体最近はただでさえ四六時中思考がもやに包まれているような感じで、誰が何しようとあんま気にしていませんでした。
……………え?
ちょっと待って私そんな状態だったんですか?
頭が痛すぎて逆に頭が冴えてきました。
ここ最近の私の状態を思い出していきます。
――いやめっちゃヤバい状態じゃないですか。
感情の麻痺と思考力の低下、視野狭窄。
あのまま行ってたら普通にうつ病まっしぐらでした。あぶな。
見知らぬ蛇さんに感謝ですね。いやホントに。
お礼に助けてあげましょう。
なんて思ってたらもう川に投げ込まれてしまっていました。
全速力で駆けると、なにか膜を突き抜ける感覚があって、私は音速を超えました。
そのまま水の上を走り、命の恩人こと恩蛇さんを拾い上げると向こうの土手へ放してやりました。
「ありがとう少年」
蛇はお礼を言うと去っていきました。
……超能力ってすごい…
その思考を最後に、私は頭が痛すぎて気絶しました。
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そういうわけで、私は超能力が使えるようになりました。
なんか蛇のことを考えていると突然頭が痛くなってきて、痛みで失神するまでは結構自由に何でもできます。
怪我の回復、物の移動、瞬間移動などができ、
頭痛も抑えられることがわかってからは実質無制限に使えるようになりました。
一番いいのは、そうやって自分の意思で超能力を使っていれば不意の暴発を防げることです。
後はストレス発散手段をこれで見つけられれば完璧です。
そういうわけでもう脱走のことは考えていません。それは確かにあの精神状態のままでは取り返しのつかないことになっていたかもしれませんし、今でもその危険はのこっていますが、私は超能力の可能性を高く評価しています。
きっとなんとかなるはずです。