いつの日かの連邦捜査部シャーレ。
当番で来ていた生徒は三人だった。
トリニティ総合学園、ティーパーティーの美園ミカと桐藤ナギサ。
そしてワイルドハント芸術学院の桜井ミヨ。
三人は執務室で、先生と書類を整理していた。
すでに当番で何度か顔を合わせており、お互いに名前くらいは知っている。
だが、まだ親しいというほどでもない。
そんな微妙な距離感だった。
先生は整理された書類を確認しながら顔を上げる。
そしてふと呟いた。
“そういえば”
“似ているよね”
「何が?」
ミカが反応する。
先生はミヨを見る。
次にミカを見る。
最後にナギサを見る。
“ミヨってさ”
「はい……?」
“ミカにも似てるし”
“ナギサにも似てるよね”
数秒間の沈黙。
真っ先に口を開いたのはミカだった。
「あー!」
椅子から立ち上がる。
「分かる!」
ミヨがびくっと震えた。
「えっ」
「目元とか!」
ミカはずいっと顔を近付けた。
「ほら、なんとなく似てない?」
「ひっ……」
ミヨが一歩下がる。
「そ、そんなことは……」
その横でナギサが興味深そうにミヨを眺めていた。
そして静かに口を開く。
「確かに」
「でしょ?」
「目元の雰囲気はミカさんに少し似ていますね」
「そうそう!」
ミカが嬉しそうに頷く。
「それに髪も」
「髪?」
ミヨが首を傾げる。
「ええ」
ナギサは頷いた。
「柔らかそうですし」
「うんうん♪」
「こう……ふわりとしていると言いますか」
“……なるほど”
先生も何となく納得する。
ナギサはしばらくミヨを見つめた。
そして少し考えるように付け加えた。
「ですが色合いは私に近いですね」
「色合い?」
「はい」
ナギサはミヨの髪を指差した。
「落ち着いた色ですから」
「あー」
ミカも改めて見比べる。
「言われてみればそうかも」
「全体的な印象もそうですね」
ナギサは少し考える。
「ミカさんほど賑やかな印象ではなく」
ミカがむっとした。
「なんかちょっと気になるんだけど?」
ナギサは気にせず続ける。
「ですが、私ほど硬い印象でもありません」
ナギサは結論づける。
「ちょうど中間くらいでしょうか」
ミカが勢いよく手を叩いた。
「つまり!」
ミヨは少し嫌な予感がした。
「私の妹だね!」
「飛躍してません!?」
思わず声が出た。
ミカはケラケラ笑う。
「だって似てるし♪」
「そういう問題では……」
「いえ」
ナギサが割り込む。
「ミカさんの妹、という表現には異論があります」
ミヨは少し安心する。
さすがに常識人だった。
「ミヨさんは私の妹ですから」
安心は三秒で終わった。
「増えました……」
「いいえ」
ナギサは冷静な声色で言う。
「私は事実を述べているだけです」
「事実ではありません……」
「そうでしょうか」
「そうです……」
「先生」
ナギサが振り向く。
「どう思われますか」
“ミヨは急に姉が増えて大変そうだね”
「先生ぇ……」
助けを求める視線。
しかし助かりそうにない。
その時、執務室の扉が開いた。
「なんだか、騒がしいね」
ティーパーティー最後の一人、百合園セイアだった。
室内を見回す。
楽しそうなミカ。
真面目な顔のナギサ。
そして疲れ切ったミヨ。
状況はだいたい察した。
ただ、なぜそうなったのかは分からなかった。
そうして三人から事情を聞いたセイアは、ミヨを一瞥する。
そしてミカを見る。
ナギサを見る。
数秒考えた後、
「ううん」
ミヨの顔が明るくなる。
ようやく味方が。
「確かに少し似ているね」
「セイアさんまで!?」
四対一になった。
セイアは肩を竦めながら言う。
「ある人は鏡を見て自分を探す」
沈黙。
「ある人は他人の中の自分を探す」
さらに沈黙。
「そしてある人は」
セイアは静かに続ける。
「似ている誰かを見つけると」
「見つけると?」
ミカが問いかける。
「関係性を疑うだろうね」
「関係性?」
ミカはよくわかっていないようだ。
「そもそも人はなぜ似ていることに意味を見出すと思うかい?」
皆、沈黙する。
セイアが続ける。
「春に咲く花があるだろう?」
「うん?」
ミカが首を傾げた。
「秋に咲く花がある」
さらに沈黙。
「色が似ている」
「はい」
ナギサが頷く。
「形も似ている」
「はい」
「だが」
セイアは紅茶を見つめた。
「それでも誰も同じ花だとは思わない」
ミヨは少し考える。
「……つまり?」
「人は似ているものを見ると」
セイアは小さく笑う。
「違いを探すより先に、関係を見出してしまうんだ」
「血縁かもしれない」
「憧憬かもしれない」
「あるいは」
「単なる偶然かもしれない」
ミカが言った。
「セイアちゃん……」
「なんだい?」
「何言ってるが全然わかんない♪」
「……そうか」
セイアは少し肩を落とした。
「君にも分かりやすく話したつもりだったのだが……」
「かなり失敗してると思います……」
ミヨが小声で言った。
セイアは肩を落としながら話を続けた。
「さて」
セイアは紅茶を一口飲む。
「それを決めるのは私ではないだろう」
「つまり?」
ミカが聞く。
「分からない」
「分からないの!?」
「分からないとも」
セイアは平然としていた。
「だがミカとナギサが彼女を妹にしたがっていることだけは認めよう」
「そこは分かるんだ……」
セイアは小さく笑った。
「まあ」
「?」
「似ている者同士が互いを気に掛けるのは、案外自然なことかもしれないね」
ミヨが固まる。
ミカが考える。
ナギサも考える。
数秒後。
「あ」
「なるほど」
「私達がミヨさんを気にしているという話ですね」
「そういうこと!」
ミヨだけが顔を覆いながら言った。
「もう帰っていいでしょうか……」