6日(金) 入学式。
8日(日) 本作開始。
9日(月) オリエーテーション期間、部活見学・仮入部期間開始。
14日(土) 本入部開始。午前中3対3。青葉城西との練習試合決定。ジャージ、サポーター類配布。
15日(日) 挨拶回り。
17日(火) 放課後、青城の第三体育館で練習試合。
18日(水) 放課後、東峰旭と西谷夕が部活復帰。宇内天満の試合を見る
20日(金) 町内会チームと練習試合。
23日(月) 部員1人1人に講評。
27日(金) 音駒高校、ゴールデンウィーク中の合宿についての説明(28~30日 梟谷グループ 5月3~6日 宮城)
28日(土) 1日練習スタート。寝ることの重要性を説明する。
5月に入った。
1日は合宿で使うだろうドリンクとかテーピングなんかの消耗品の買い出しに行って、今日の放課後から実際にバレー漬けの生活が始まる。
わざわざ泊まる必要ないだろって距離に住んでるけど、まあそれはそれ、これはこれ。
「はい! では今日から合宿ですね! 怪我の無いよう気を付けつつ今の皆よりも成長した姿で音駒高校との練習試合に臨みましょう!
そして、合宿の間若林先生にもご協力頂くことになっています。改めてご挨拶をして頂きますね!」
若林先生と家庭科部の皆さんが合宿のご飯を作ってくれることになってる。ありがたやーありがたやー。
「はい、皆こんにちは~。武田先生からご紹介して頂いたようにこの合宿期間では朝、昼、晩と食事面でサポートしていきまーす。
食べるのも強くなるために必要なことだからどんどん食べて下さい。事前の調査で苦手な食べ物も聞いてはいますが、栄養バランスを考えると食べた方が良いよってものもあるので苦手を克服していきましょう。アレルギーは別ね。命に関わるから。
それでは今日含めて5日間宜しくお願いします!」
「「「お願いします!」」」
取り敢えず挨拶だけして若林先生は去って行った。
そして、武田先生がキャットウォークに吊されてる【飛べ】って書いてある横断幕の方を見て俺達も横断幕を見る。
「内沢クリーニング店で修繕をお願いした横断幕が返却されました。どんどん強くなっていきましょうね!」
「「「はい!」」」
「よーし、じゃあ始めるぞー。いつも通りアップは丁寧にな。澤村」
「はい! 烏野ー! ファイ!!」
「「「オォーッス!」」」
合宿開始ー!! うぉー!!
◆
同時刻、音駒高校男子バレー部は軽く調整をした後に明日からの合宿についてのミーティングを行っていた。コーチの直井学の説明も終わる。
「――と、こんな感じだ。今日は早めに寝て明日に備えろよ」
「「「はい!」」」
「ぬぐぐ、俺も仙台行きたかったです! 牛タン食いたかった!」
バレーボールを始めて約1ヶ月の灰羽リエーフは拳を机に叩き付けて遠征にいけない悔しさをぶつけた。
「おいリエーフ! 遊びじゃねえって言ってんだろ!」
「分かってます! 分かってはいますけどやっぱり練習試合出たいっす!」
「そのやる気は認めるけど、基礎が身についてないから怪我する可能性が高い。絶対に駄目」
「研磨さぁ~ん!」
「やめろリエーフ!」
「いてっ!? 夜久さぁ~ん!」
「女バレ顧問の中里先生に見て貰うように頼んであるから基礎練だけはやっておけよー。録画して貰ってるからな」
「「「はい!」」」
音駒高校男子バレー部の部員数は20人を超える。旅費や宿泊費の都合上、どうしても居残り組が存在していた。
居残り組の1人である灰羽リエーフが孤爪研磨に抱きつこうとしたが、夜久衛輔が間に入って止めた。その様子を見て猫又育史は笑う。
烏養一繋が倒れて以来、久方ぶりとなる烏野高校との練習試合の開催。しかも孫である猫又繋護が進学しているときた。どうしても期待せずにはいられない。
息子の猫又明育がバレーボール以外に楽しみを見いだしたことに落胆した事があったが、まさか孫と陣営を違えて対戦する事になるとは思いもしなかった。人生70年、何が起こるか分からない。
「そういえば烏野には猫又監督のお孫さんがいるんですよね?」
「ん? ああ、そうだな」
「どんな感じなんですか? 〝庵里の化け猫〟って聞いたことはありますし、千葉の庵里中と言えば、関東大会常連校なので強いはずなんですけど。全国もたまーに行ってますし。あと梟谷にも結構いましたし。どんな人なんですか?」
その質問に直井学が答えていく。
「どうせゴールデンウィーク中に会うしな。先入観ない方が楽しくなるだろ。ってことで会ったときのお楽しみだ。
……んー、まあ、そうだな。若いときの猫又先生にそっくりだ。写真見せてもらってビックリした」
「写真見てみたいっす! そんで早くお目にかかりたいっす!」
「そう言って貰えるのは嬉しいが、冷静にな。
まずは今日帰ってすぐに休むこと。それで明日の集合時間に遅れないようにしろよ。遅れたら先行くからな」
「「「はい!」」」
生徒達を宥めるが、猫又育史はそれでも歓喜に震えていた。
因縁の好敵手である烏養一繋そっくりの孫の繋心と自分の孫ではあるが烏養の血も引く猫又繋護との対戦。
猫又育史はこの場にいる誰よりもその日を待ち望む。念願のゴミ捨て場の決戦を。
「あ、そうそう。
前にも言ったけど、俺の息子と結婚した烏養の娘――つまり義理の娘だな――が合宿期間中サポートしてくれる。合宿を有意義に過ごして欲しいと言ってくれてるから、その厚意に甘えよう。
しっかりと挨拶とお礼を伝えるようにな」
「「「はい!」」」
そして、宮城県に音駒高校がやってくる。
◆
今日の練習を終えて合宿用施設に到着。ここに来るのは初めてか。
そういえば母さんは音駒の方の手伝いをしにいくって朝言ってた。洗濯とかお昼ご飯の調達とか? 俺のこと変な風に言わないよな?
「うへー、相変らずぼろっちぃな」
「でも、こういう施設があるのは嬉しいよな。通学も案外疲れるし」
「はー、早く風呂入りたい」
「「「そんなことよりカレーの匂い! 超美味そう!」」」
合宿が楽しみすぎてまだまだ元気な翔陽、飛雄、田中先輩とノヤ先輩がバタバタ駆けていった。
「おい! 遊びじゃないんだぞ! 縁下!」
「はい!」
キャプテンと縁下先輩も4人を追いかけていった。月島は冷笑混じり、俺と山口は苦笑しながら着いていく。
「明日から本格的に合宿なのに良くやるよね、あの4人」
「見てるだけで疲れるー」
前の1日練習で分かってたけど、翔陽は寝相悪い。この2人にも伝えなきゃ。
「……こう言っちゃなんだけど、多分雑魚寝じゃん? 翔陽の隣だと蹴られそう。寝相悪いし」
「「…………」」
2人も思い至ったのか、特に月島がものすげえいやーな顔をした。
「はぁ~~~~、マジ最悪。夜中起こされたら布団でぐるぐる巻きにしてやろ」
「『トイレ~っ!?』とか言いそう」
「確かに」
3人で笑ってると、施設の中から「若林先生と潔子さんが作ったカレー!?」って田中先輩とノヤ先輩の大声が聞えてきた。中の様子が想像つく。
「ああいうの止めた方が良いっていつ気づくんだろうな」
「さぁ? こっちに迷惑掛けてこないなら何でも良いよ」
「そんなことよりお腹減ったー」
山口すんげぇー。今ナチュラルに先輩の恋路を〝そんなこと〟呼ばわりした。いや、まあ俺の優先事項もお風呂か夕ご飯なんだけど。あと勉強。
合宿施設の割り当てられた部屋に荷物を置いて食堂に向かうと、マスクと調理用手袋をして割烹着を着た武田先生、若林先生と清水先輩が配膳をしていた。今日の夕ご飯はカレーとゆで卵が入ったサラダ、フルーツポンチみたいだ。匂いだけで分かる、絶対に美味い奴じゃん!
武田先生達が俺達に気づく。
「皆さん、今日の練習お疲れ様でした! 3人で沢山作ったのでいっぱい食べて下さいね!」
「「「はい!」」」
今度は若林先生が口を開いた。
「はぁ~い、腹ぺこボーイズ! お腹減ってるか~い?」
「「「減ってます!!」」」
「それは何より。強い身体作りの為に沢山食べること!」
「「「オォーッス!」」」
皆適当に空いてる席に着きはじめて、俺は角に座った。左には翔陽、左前には山口、正面には月島が席に着いてる。一見静かそうに見えるけど、翔陽の隣にはノヤ先輩、翔陽の正面で山口の右側には飛雄が座ってるから絶対にうるさくなる。
俺はただ、角に座りたかっただけなのに…………! いっただっきまーす!!
・7時くらいから朝食と食休みを兼ねて当日のメニューの説明
・8時くらいから11時くらいまでアップとボールを使わないトレーニング
・11時くらいから13時まで昼食と昼寝、各試合の分析などの座学
・13時から18時までボールを使った練習
・18時以降は夜ご飯と食休みを兼ねた今日の練習の振り返り、お風呂、フリータイム
こんな感じでやるぞーって説明があったのは良いけど、早速翔陽と影山がやらかした。
裏門の方をちょっと歩くと、傾斜50度くらいで20m程続く心臓破りの坂があってダッシュをするトレーニングで張り合った2人はゴール地点を越えていなくなる。……あー、マジかぁ。
「だっはは! やるなぁ! 日向と影山!」
「だな!! 流石だぜ!!」
「田中! 西谷!」
「……コーチに話さないとな」
「だな」
……そう笑ってやれるのも今のうちですよー。あーあ。
体育館で色々準備をしていた烏養コーチに2人がどっか行ったことを伝えると、烏養コーチはここ1ヶ月で見せたことが無い位厳しい表情をした。その表情に田中先輩とノヤ先輩でさえもびびり散らかしてる。
「…………それで? あいつらは何処行ったんだ?」
「すみません、そこまで分からないです」
「そうか。……っち」
よくある指導者とか先輩がやる恐怖型の部活にはさせないように心がけてる烏養コーチが俺達の前で初めてと言っても過言じゃ無い舌打ちを繰り返した。……俺の前ではやるか。やるな、うん。
「……おまえ達は続けてくれ。俺は知り合いに電話して色々当たってみるから」
「あっ、はい。行くぞ!」
「「「は、はは、ははは、はい…………!!」」」
仏頂面の烏養コーチを残してさっきの坂まで戻り始める。すると、スガ先輩に話し掛けられた。
「もしかして烏養コーチってめっちゃ怖い?」
「そりゃあ祖父ちゃんの孫ですからね。強面なことと口が悪いことを自分でも自覚してるから意識して気を付けてます。『おまえら荷物まとめて帰れ』位言うと思いますよ。あと自分達にも」
「……だよなー」
自分勝手なことやるなって言われてるのに何聞いてたんだよ、あの2人。あーあ、知ーらね。
車で配達していた烏養コーチの友達が偶然翔陽と影山を見つけて高校に送り届けてくれた。時間にして約2時間。基礎トレーニングをしてへばってる時だ。
「すみません、戻りました! ……ぁっ」
「どうしたんだよ、影山? ……ぁ」
……マジぃ? あの2人意気揚々と戻ってきたんだけど。自分達がやったこと分かって無い感じかな? えー、あの2人高校生だよな?
キャプテンとスガ先輩は安堵の目、俺と月島は冷ややかな目。
大多数がガチ切れしてる烏養コーチにびびって萎縮してて「おい、おまえらやべーぞ!」って目で教えてて、2人はやっと今の部の雰囲気に気が付いた。
「影山、日向、こっち来い」
「「……はい」」
どんどん顔が死んでいく影山と翔陽が〝烏野の烏養〟って呼ばれてる祖父ちゃんそっくりの顔に怒気を含ませて烏養コーチの元へ走って行く。何も指示は出されてないけど俺達も集合するような形を取った。
はい、じゃあお説教開始です。
「なあ、お前ら何やってんの? 俺『こういうメニューでやります。こういう意図があります』って朝伝えたよな? 時間見たら分かると思うけど基礎トレーニングやってんだよ。
やる気無いならお前ら荷物纏めて帰って良いぞ」
「っ! ……っ!!」「っ!? 嫌です!」
「『嫌です』じゃねえんだわ。
コーチの指示も聞けない。キャプテンの指示も聞けない。そんで自己中やる様な奴に協調性が必要なバレーボールってチーム球技出来る訳ねえだろうが。
コートの中の6人が1つのボールを落とさないように協力しないといけねえスポーツがバレーボールだろうが。
自己中なお前らにはバレーボール向いてねえよ。辞めて違うスポーツやったらどうだ? バドミントンとかテニスで2人で競ってろ。退部届けならここにあるから今ここで書け」
「「っ!!」」
影山と翔陽は握りこぶしを作ってただただ堪えてる。2人にとっては〝死の宣告〟と同じだよね。俺もそうだけど。
そして、今度はキャプテンとスガ先輩に矛先が向いた。
「なあ、澤村、菅原」
「「はい」」
「お前らキャプテンと副キャプテンだろ? だったら後輩が好き勝手やらないように纏めないといけねえ立場なんじゃねえの?
お前ら2人がこいつらに舐められてるからこんな風に自己中野郎になっちまうんだよ。部を纏める立場としてちゃんと規律を守らせろ。これじゃあ部活以前の問題だ。おまえら3年だろ?」
「「はい。すみませんでした」」
「ん」
キャプテンとスガ先輩は頭を下げる。それを見て烏養コーチはまた矛先を影山と翔陽に戻した。キャプテンとスガ先輩が頭を下げたのを見て2年生の表情もやばい。
「お前らの好き勝手が部全体に広がって、遂にはこうしてキャプテンと副キャプテンが頭を下げる形になってる。影山と日向、おまえ達のせいなんだぞ? おまえ達がやらかしたんだ」
「「……はい」」
「散々言ってるけど、バレーボールって1人じゃ出来ないんだよ。コートの中にいる6人全員が一致団結して勝とうとしないと勝てない。
自己中な行動がチームに負けをもたらすってのをしっかりと学んでくんねえかな。協調性を持ってくれ、頼むから。
おまえらもう高校生だろ? やっていいこととやっちゃいけないことをそろそろ学ぶべきなんじゃないか?」
「「……はい」」
影山はとにかく、翔陽がグズグズ鼻を鳴らし始めた。……正直どこかでやらかすと思ってた。2人ともすぐに熱くなるし。
「他のメンバーもそうだからな。『遊ぶときは遊ぶ、集中するときは集中する』ってしっかりとメリハリを付けろ。じゃないと怪我をする。
……まあ? 今までみたいに仲良しこよしやるのもバレーだからおまえ達がそれでいいんなら良いんだけど。公式戦には出ないでただバレーやるだけの活動でも良いんだ、俺は見ないし。
メニュー考えるから、その間お互い何が駄目だったのか話し合え」
「「「はい」」」
そして、烏養コーチは武田先生と清水先輩と一緒に体育館を出て行った。残された俺達は重々しい空気で死にそう。
「集合しようか」
「「「……うす」」」
日当たりが良いところに集まって13人で円を作る。
これから大反省会だ。小中でやったし割と良くある光景だと思う。この1ヶ月やらない方がおかしかったけど。
「まず、そうだな。日向と影山に聞きたいんだけど、俺達の『待て!』って言葉は聞えてたか?」
「「……すみません、聞いてませんでした」」
「そうか。……悪いな、情けないキャプテンで」
「そんなことないです!」「そんなことないっすよ、大地さん!」
「さっきコーチも言ってたけど、俺とスガがしっかりしてたら後輩が好き勝手しないんだよ。申し訳ない」
「俺も。悪いな」
「「「っ……!」」」
キャプテンが頭を下げて、スガ先輩も続く。2年生、特に田中先輩とノヤ先輩はやべえ顔してる。何かあったらぶち切れそう。
そして、顔を上げたキャプテンが口を開いた。
「高校最後の年って言うのもあるし、中学生の時の全国に行った近所の烏野の先輩達みたいに全国に行きたいんだ。あのオレンジコートに立ちたい。
でも、それは俺だけなのかもしれない、自分の気持ちだけ押しつけてたのかもって。この機会に皆の意見聞いても良いか?」
「「「はい」」」
スガ先輩がキャプテンに続いた。
「じゃあ、俺から。
俺も大地と同じで、この2年間どんだけ他校から【墜ちた強豪 飛べない烏】なんて言われてきても諦めてなかった。今年は5人有望な後輩が入ってきて青葉城西との練習試合にも勝った。今年なら全国に行けるかもしれない。……いや、全国に行くんだ。そう思ってる。
だからこの1年俺達3年に協力して欲しいんだ。頼む」
「「スガ……」」「「「スガさん……!」」」
スガ先輩がまた頭を下げて、特に田中先輩とノヤ先輩が誰かぶん殴るんじゃないかって位顔が一段険しくなった。他の2年生もそう。慕われてない先輩だとこうはならない。その点ギスギス感が無いのは良いチームではある。弱いけど。
次は東峰先輩が話し始めた。
「あー……。そうだな。
俺もそう。4つ上に小さな巨人がいて、烏養監督が離れてからも烏野で全国に行くんだって思って烏野に来た。やっぱり諦められねえよ。皆で全国目指すんだ」
「「おう」」「「「はい!」」」
続いて2年生、田中先輩が挙手をして2年生の1番目になった。
「まずは大地さん、スガさん、旭さん。今まですんませんした!」
「いきなりどうした」
「さっき烏養コーチの話を聞いて思ったんすけど、俺は大地さん達に甘えてたんだと思います。俺達がバカやっても見逃してくれる、みたいに。
俺も烏野は強豪校って思って入学して、去年1年間大地さん達とやってきて、やっぱ勝ちてえっす。これからシンキイッテンします!」
「「おう」」「頼むぞー」
「はい!」
「じゃあ次は俺ッス!」
そう言って、田中先輩とおんなじように憤怒の表情をしたノヤ先輩が声を荒げる。
「俺も龍と同じで、大地さん達に甘えてました! サーセン!!
去年とか3月の県民大会みたいに負けるのはごめんっす! やっぱり勝ちてえ! 気持ち入れ替えます!!」
「「「おう」」」
「力!」
「……おう」
続いて縁下先輩。
「……そうですね。俺は去年烏養監督とかOBの練習に耐えられなくて1回逃げました。でも、バレーって楽しくて、勝てるとやっぱり嬉しい。
青城に勝ったみたいに、白鳥沢とか他の強豪校にも勝って全国行きたいです。実力つけてコートに立って1点でも2点でも自分の力で獲って今の烏野に貢献します」
「「「おう」」」
「……じゃあ俺が」
木下先輩と目配せし合って、成田先輩が控えめに続いた。
「俺も縁下と同じで去年練習から逃げました。戻った時には烏養監督はまた離れられて。
大地さん達は復帰を認めてくれてユニフォームもすぐ着られた。でも、4月になって後輩達が入ってきて、レギュラー争いが始まって。
……バレーやってるからにはやっぱり試合に出て自分の手で点数稼ぎたい。気持ち入れ替えます」
「「「おう」」」
そして、最後に木下先輩が口火を切った。
「俺は旭さんや田中みたいにパワーが有るわけじゃ無い。月島みたいに身長も有るわけじゃ無い。影山みたいに超絶的なトス能力も無い。西谷とねこみたいにレシーブ力が有るわけじゃ無い。
でも、バレーって楽しくて、逃げた後にもう1回ちゃんとやりたいなって戻った時にはもう遅かったです。
4月になって1年にスタメン取られてしかも青城にも勝った。やっぱり悔しいですし、俺だって試合に出たい。その為にも俺も実力付けて試合に出たいと思います」
「「「おう」」」
2年生が終わって、一旦キャプテンが纏めた。
「……そうだな。『部員が少ないから』、『後輩に嫌われたくないから』って日和ってた部分があった。でも、やっぱり最高学年としてなあなあにするべきじゃ無かったな。コーチが言ったみたいにメリハリ付けていこう」
「「「はい!」」」
「そんな訳で俺達が不甲斐なくてごめんな。その上で1年にも負担掛けてたと思う。これからはちゃんと注意していくからそのつもりでいてくれ」
「「「はい!」」」
「はい。……あの、さっきはすいませんでした」「俺も! すみませんでした」
翔陽と飛雄が頭を下げて、スガ先輩が2人の頭を撫でた。
「これからは注意していこう。皆で今の烏野高校排球部を作っていくんだ。おまえ達3人もだからなー」
「「はい!」」「はい」
「うん、頼むよ」
残りの俺達にも言い聞かせるようにして、スガ先輩は何度か頷いた。そしてキャプテンが話し始める。
「青城、白鳥沢、伊達工……。宮城県内の強豪校を全部倒して俺達は全国に行く。目標はオレンジコート、更にはセンターコートだ。優勝旗とトロフィーを烏野に持ち帰る。
その為にも毎日集中していくぞ。まずは音駒戦に向けて練習だ!!」
「「「はい!」」」
「烏野ー! ファイ!!」
「「「オォーッス!」」」
チーム作りがやっと始まったかな。
◇
烏野高校男子バレー部一同が反省会をしている一方で、武田一鉄、烏養繋心と清水潔子もまた3人で彼らの話し合いを聞いていた。
「コーチ、あの……」
「ん? どうした、清水」
「入部当初に比べて纏まってきたと思いますけど、『澤村達が舐められてる』とは? 良いチームだと思いますけど……、理由を聞かせて貰っても構わないですか?」
「まあ、そうだな。
武田センセに聞きたいんだけど、授業中授業の妨害とかする生徒ってどうする? 烏野って治安良いからそういうの少ないと思うけど」
「? もちろん注意しますよ?」
「だよな。じゃあ例えば匂いのするカップラーメンとか食べる奴もか?」
「ええ、もちろん。……ああ、なるほど、〝他人への迷惑〟ですか」
「そういうこった」
武田一鉄も納得した一方で、彼はいまいち把握してない清水潔子に補足説明を始めた。
「そうですね。
清水さんは、寝てしまう生徒と例えば大音量で音楽を聴いたり、烏養君が例えた匂いのするカップラーメンを食べるなど、授業中にどちらの生徒とその場に居合わせたくないですか?」
「…………? 後者です」
「それは何故でしょう?」
「私が授業に集中出来なくなるからです。……ああ、なるほど、だから〝自己中〟なんですね」
合点がいった清水潔子を見て大人2人は満足げに頷く。
「今回日向と影山がやった事はバレー部全体に迷惑を掛けてるし、もしあいつらが不審者に遭遇だとか交通事故に巻き込まれたり、あるいは誰かとぶつかったりなんて考えると、バレー部だけじゃなくて烏野高校全体に迷惑を掛ける可能性があった。
スポーツに怪我はつきものだし、どんなに注意しても怪我するときはする。ましてや、ロードワークって学校外に出るんだよ。校内よりも危険が増える。
その時に町内の人とか他校生とのトラブルが有れば、バレー部が廃部する可能性とか学校にクレームが入ることだって考えられる。そうすりゃ公式戦には出られねえ。
俺としても車の通りが少ない、かつ安全な道を選んでるし、バレー部を応援してくれてる町民に『何かあったら助けてくれ』とも頼んである。学校外の人が応援してくれてるだけでも部活の運営が上手くいくからな」
一呼吸置いて、烏養繋心は本題に入った。
「本題の『澤村達が舐められてる』だが、清水は澤村達が〝修正〟っていって暴力とか振るう姿を想像できるか?」
その質問を聞いて、清水潔子は2年間ともに過ごしてきた3人を頭に浮かべ、すぐに否定する。あの3人はそういうことをしないと2年間を通して理解していた。
「いえ、絶対にあり得ません」
「俺もそう思う。だから、後輩からも『どんなに好き勝手やってもその場で注意されるだけ』って学習しちまってる、田中とか西谷とかな。
日向と影山を加えた4人が烏野を盛り上げるムードメーカーでチームの中核を担ってるのは確かだ。でも、『自分の行動が何を起こすか?』については考えられてねえ。いわゆる責任能力だな。
全国に行くようになったらインタビューだとか注目される機会は増えるし、バレー部が烏野の顔になってそれ相応の振る舞いを求められる。そういうのは日頃から気を付けていかないとできねえ。
バレーが強くても、品位に欠けてたら『烏野高校ってさー、なんか微妙だよねー』みたいに全国出場を祝われない高校になっちまう」
烏養繋心は呼吸を整えて更に続けた。
「あと、強豪校の場合は3年がしっかり部の雰囲気を作ってるから後輩はそれに付いていくだけで良いんだよ。体力面で付いていくだけで精一杯って言うのもあるけど。
この時期の1年は体力作りが基本だろうし、体格面でも高1と高3は違う。
でも、ウチは1年をスタメンに加えるほど選手層が薄い。技術面でもメンタル面でも発展途上でお互いに探り探りの状態の中、『自分がどう思ってるか?』を話し合う時間は取ってかないとな。
特に『3年が何処を目指してるのか?』を共有してくれねえと下級生がどうしていいか分からねえ。チームってのはそういう積み重ねだ。お互いの主張を聞いて『じゃあこうしよう、ああしよう』ってな」
再び烏養繋心は息を整え、自分の考えを纏めていく。
「俺はさっき澤村と菅原を叱った。
3年は部を纏めようとするし、去年1年間一緒にやってきた2年は『俺達が1年を注意してなかったから先輩達が叱られた。これからはちゃんとしないと』って心を入れ替える。そうすりゃ大なり小なり1年はその雰囲気に乗れる、はずだ。……まあ、そうじゃないと県ベスト8すら残れねえけど」
「……なるほど」
「だから清水も気づいたことがあれば外から言ってくれ。決定率とか成功率なんかは逆に外からじゃないと分からねえから。
それに見た感じ清水の一言は俺と武田先生以上に効くはずだし。……調子に乗りそうな気もするけど」
「分かりました」
田中龍之介と西谷夕は清水潔子を〝女神〟のように接している節がある。その事を思い出しては3人苦笑する。
「焦る必要はねえけど、でもインハイ予選はもう1ヶ月後で他の高校は3年2年を中心にチームとしてまとめの時期に入ってるだろう。
その点今のウチは個人の技量もチーム力も成長中だ。少しずつやっていかないとな。そういうことで武田先生も清水も宜しく頼む」
「そうですね!」「はい」
「ん」
気合いを入れている武田一鉄と清水潔子を見つつ、烏養繋心は「……ぶっちゃけインハイは間に合わないだろうから春高に向けて少しでも経験値を積んでいきたい」と内心で続けた。
やはり口で言うほど全国大会進出、そして勝ち抜いていく事は容易いことではない。
◇
反省会が終わって、キャプテンとスガ先輩、翔陽と影山の4人が烏養コーチ達の所に行って戻ってきた。「ちょっと良いですか」って武田先生が前置きしてからお説教を始めていく。
「影山君と日向君に質問です。高校生って子供だと思いますか? 大人だと思いますか? 2人の考えを教えてくれませんか?」
「「「……?」」」
どういうこった? ……ああ、なるほどね。
「子供、だと思います」「えっ、俺は大人だと思います」
「なるほどなるほど。影山君は子供、日向君は大人と。
良く議題に挙がるこの問題ですが、正直人によって考えが変わってくるでしょう。僕個人としては子供から大人に変わりつつある時期で、子供でも大人でもあるし違うともいえる時期だと思っています」
「「……はぁ」」
何言いたいのか分かんねーって顔してるな。そういう所だぞ。
「君達がこうしてバレーボールに打ち込んでいる一方で、アルバイトをして自分の好きなものを買うためにお金を稼いでいる高校生もいます。
16歳にはバイクの免許、18歳には車の免許を取れるので取得する人もいるでしょう。
そして、高校を卒業したら社会に出て働き始める人、あるいは専門学校や大学などで将来の為の勉強をする人もいる。
君達は〝まだ〟高校生ではありますが、同時に〝もう〟高校生なんです。大学生や社会人から見れば高校生はまだ子供ですが、園児や小中学生から見たら立派な大人だ」
「「……はぁ」」
まだ何が言いたいのか分からないのかよー。
「何が言いたいかというと、大人になろうとしているこの時期にいっぱい挑戦して下さい。
正しければ我々大人が褒めますし、間違っていたら今回のように叱ります。君達にはその権利がありますからね。そうして『自分の起こした事への責任と解決策』を考えるようになっていきましょう」
「「……はい」」
ここでやっとピンときたようだ。
「何事も無かったから幸いですが、例えば交通事故や野生動物との遭遇、考えたくありませんが不審者など学校外には危険がありふれています。
もし生活に影響が出るほどの怪我を負ってしまったら当然君達の好きなバレーボールをすることは出来なくなりますし、保護者の方だって悲しむでしょう。
あるいは、誰かと衝突して怪我を負わせる可能性もあった。特に影山君は身長が高いですから加害者になり得る可能性がある。
『人の話をきちんと聞く』、『自分勝手な行動を取らない』、『周囲への気配りをする』という3点をこれから実践していけるように頑張っていきましょうね」
「「……はい!」」
「それでは今回の落とし前を付ける、ということで額を出して下さい」って武田先生が続けて影山と翔陽にデコピンをした。
「っ!」「……っ!」
「交通事故に遭ったらもっと痛いですよ。今後は気を付けましょう」
「「……はい!」」
忘れた頃にやりそうだな、この2人。
「良し、じゃあちょっと早めに終わらせて昼飯にしよう。軽くダウン取っとけ」
「「「はい!」」」
ま、怪我が無くて良かったよ。
◆
一方、迷子になった孤爪研磨が日向翔陽と偶然出会い、合流して全員揃った音駒高校一同が今回の宮城県合宿で利用する烏野総合運動公園合宿所に到着すると、猫又育史が施設前に佇んで彼らに手を振っていた中年の女性に声をかけた。
この女性、今回の合宿で音駒高校男子バレー部のサポートをする猫又美繋である。
「お養父様!」
「美繋! 今回は頼むな~」
「こちらこそ宜しくお願いします! 直井君も久しぶり!」
「お久しぶりです、烏養さん。今回はよろしくお願いします!」
「はーい!」
昨日、猫又育史から「合宿で助っ人を呼んである」と言われていた音駒高校男子バレー部一同はすぐに「ああ、あの人が」とピンときた。
マネージャーがおらず、どうしても練習に参加できない部員が出てしまうため、猫又美繋の申し出はとても助かっていた。
「黒尾、挨拶」
「はい! 挨拶するぞー、並べー」
「「「はい!」」」
部員一同がズラッと整列する。
「気を付け! 合宿中お世話になります! よろしくお願いします!」
「「「お願いします!」」」
直井学に挨拶するように促された音駒高校男子バレー部一同は猫又美繋と向かい合って挨拶した。猫又美繋は朗らかに微笑む。
「はい、音駒高校男子バレー部の皆さんはじめまして!
ここにいる猫又先生の息子と結婚した旧姓烏養美繋って言います! 猫又さんでも烏養さんでもどっちでも良いですよ~。
皆さんの食事や洗濯といったサポートをさせて頂くので、何か有れば声掛けて下さいね。それでは実りある4日間にして下さい!」
「ん、ありがとう。
……と、まあそんな感じで合宿に集中出来るようにお願いした。失礼の無いようにな」
「「「はい!」」」
「施設の確認と荷物置いたらお昼にしよう。食べたら練習始めるぞ」
「「「はい!」」」
直井学と音駒高校男子バレー部一同は宿泊施設の中に入っていく。猫又育史と猫又美繋は彼らの後についていった。
「真緒達もこっちに来るのに悪いな」
「家からここまでそんなに時間かからないですし、お義父さんの頼みですし。音駒高校の特権だと思って下さい。ずっといるわけじゃ無いですけど。
……そうそう。お父さんが気になってるみたいですけど送迎しましょうか?」
「何から何まで悪いな。頼む」
「はーい!」
そう言って、猫又美繋は食堂へと昼食の配膳に向かって、猫又育史は自分の荷物を置きに行った。
音駒高校男子バレー部の宮城県合宿が今始まる。
◆
夜ご飯を食べ終わってお風呂の時間になった。3年生から風呂に入って今は2年生が風呂に入ってる。
合宿施設で寝泊まりしてる部屋で、ミュートに設定したタブレット端末で6年前のインターハイ予選決勝の白鳥沢戦を見ながら中間テスト対策の勉強をしていると、飲み物を買ってきたらしい月島と山口が戻ってきた。
月島がすんげー顔をして、山口がそんな月島を宥めてる。もしかしたら翔陽と何かあったのかもしれない。
「おかえりー」
「ん」
「……俺も先輩達が風呂入ってる間に課題やっとこ。ツッキーは?」
「……僕もやる」
2人も自分のリュックから勉強道具を出して俺の方に来た。汗まみれの状態で布団に入りたくないよね、分かる! ……まあ翔陽達が布団に向かって飛び込んじゃったんだけど。キヨ君がいたら絶対に発狂してたと思う。
ふと気がついたように山口がタブレットを指差してきた。
「そういや、その試合いつの? まだ見てないよね」
「そうだね。この試合は6年前のインターハイ予選決勝。宇内先輩が1年の時の試合。……試合には出てないけど」
「え」「……6年前?」
珍しく月島が興味深そうに反応してきた。「見る?」って聞いてみると2人とも静かに頷く。
俺達と同じく勉強中のキャプテン達に声をかける。
「すみません! ちょっと音出して良いですか?」
「外まで聞えないようにな! ……まあ誰もいないはずだけど」
「いたら怖いわ!」
「合宿名物の怪談でもやる?」
「いやだいやだ、スガ好きだなーホラーもの」
「だって面白いじゃーん」
3年生3人が盛り上がり始めたから取り敢えずお礼を言っておく。
許可も貰ったし、山口と月島が見やすいようにタブレットを向けた。家にデータが残ってるから2人に貸そう。20回以上は見たからこの試合の内容も頭に入ってる。
「1セット取られて今2セット目の中盤くらいかな。そろそろ……」
「そろそろ?」
山口が聞く前に、試合中に動きがあった。
なんとなく月島に似ている180cm越えの背番号11番の先輩がピンチサーブで出る。ちょっと緊張して顔が強張ってるかな。でも大丈夫。
『あきてる、ナイッサー!』『1本!』『おまえなら決められる!』『いつも通りな!』
『はい!』
〝あきてる〟と呼ばれた11番の先輩はキャプテンからボールを受け取ってエンドラインへ。
主審の笛が鳴って、数回深呼吸したら11番の先輩はジャンプサーブを打って、白鳥沢のバックライト側のサイドライン際際にノータッチエースを決めた。烏野の点になる。
『よっしゃー!!』
『良くやった! もう1本決めたれ!』
『はい!!』
コートにいる5人にもみくちゃにされながら、11番の先輩はまたボールを受け取った。その表情から嬉しさとバレーが楽しいって感情が伝わってくる。いいな、俺も試合でたい。
2本目のサーブは白鳥沢のリベロから点を取って、3本目は白鳥沢のエースのスパイクが決まって白鳥沢の点。11番の先輩はメンバーチェンジでコートを離れた。
……あ、やべ。つい夢中になっちゃった。慌てて2人の顔を見ると――。
「……どういう顔?」
――びっくりやら嬉しさやら泣きそうやら色々混じった表情の2人がタブレットをガン見してた。特撮とかでヒロインの絶体絶命のピンチにヒーローが現れた時みたいな顔だ。月島がこんな表情するとは思ってなかったから新鮮すぎる。
……もしかしたらこの〝あきてる〟って月島の兄ちゃんとか? あー、よくよく見てみれば顔のパーツとか似てるかも。
俺は何も見てないし、何も気づいてない。そうしよう、良し。
「……この試合、DVDに焼いて7日か8日持ってこようか? 2人の分」
「っ! お願い!」「……お願い」
「オッケー。11番の先輩1セット目にも決めてるし、3セット目にもピンサーで出るからタブレット使って良いよ。俺もう覚えてるし」
「ありがと!」
「いーえ」
さて、続き続きー。……翔陽と影山、中間テスト大丈夫なんだろうな? ゴールデンウィーク明けたらすぐだぞ? 推薦取れるように90点以上取らねば。
◎
5月4日。
ゴールデンウィークを活かして、猫又明育、猫又真緒、猫又美緒、込田彩音の4人は新幹線を使って仙台まで来ていた。更に車で迎えに来た猫又美繋と合流して烏養一繋らの家を訪れる。
「お祖父ちゃーん! お祖母ちゃーん! 久しぶりー!」
「テレビ電話で会話したばっかだろー?」「良く来たねぇ、何にも無いけどゆっくりしてって頂戴ねぇ」
猫又繋護とは毎日会ってはいるものの、千葉県に住んでいる猫又真緒と猫又美緒にはなかなか会えない。思った以上に烏養一繋と烏養典子は孫の訪問を楽しみにしていた。そして孫の将来の嫁も。
「明育も真緒も彩音ちゃんもいらっしゃい。ここら辺ホント何もねえけどな。ゆっくりしてってくれ」
「お邪魔します、お義父さん」「お邪魔しまーす!」「お邪魔します、お祖父様、お祖母様」
烏養一繋と烏養典子は快く4人を迎え入れて、4人は荷物を家の中へと運び入れる。人口密度が増えたことで家の中に活気が戻ったようだ。
「真緒と彩音ちゃんはめんこくなったねぇ。すっかりお姉さんだ。美緒も美繋に似てきたね」
「本当? 私達めんこくなった?」
「なったわよぉ~」
「ふひひ、やったぜー彩音」
「ね~」
イェ~イと言いながら猫又真緒と込田彩音はハイタッチする。ふと思い出したように込田彩音が烏養典子に問いかけた。
「あ、私ばっけ味噌食べてみたいんですけど、お家にありますか?」
「あるよぉ~。繋護も好きだからね。作り置きしてるんだ」
「あ、やった。楽しみです」
「千葉だと作れるのか分からないけど、レシピも教えちゃうわねぇ」
「ありがとうございます!」
女性陣が盛り上がってる一方で、男性2人もコソコソと話し合っていた。
「して明育よ。頼んでたものは?」
「ええ、こちらに」
猫又明育は来る前に買ってきた宮城県ではなかなか手に入らない日本酒を烏養一繋に手渡して、2人であくどい笑みを浮かべる。
お酒が好きな男性陣は今から夜の晩酌を楽しみにしていた。
「はいはい、お酒は程々にねー」
「って言いつつお前も好きな銘柄頼んでるじゃねえか」
「だって私もお酒好きだもーん」
「つまみ頼むぞー、美繋ー」
「仕方ないなあ、もぉー」
毎日のように連絡は取り合っていても、やはり直接会う以上の喜びは無い。猫又明育と猫又美繋もどこか気が緩んでいた。
「あとお義兄さんや繋心君にも渡しておいて下さい」
「おう、いつも悪いな」
「いえいえ。繋護の無茶にも応えてもらってますし。明後日楽しみですね」
「だな」
烏養一繋の家に遊びに来たのももちろんあるが、やはり烏野高校と音駒高校の練習試合の観戦も楽しみにしていた猫又明育達であった。
何はともあれ、猫又明育達のゴールデンウィーク後半戦が始まる。
◎
4月のまる1ヶ月を使って練習強度を高めていったこともあって、1人も怪我とかスタミナ不足で脱落することなく合宿に打ち込めてる。
そして、今日は練習終わりにユニフォームを配られた。
キャプテンが1番。
スガ先輩が2番。
東峰先輩が3番。
ノヤ先輩が4番。
田中先輩が5番。
縁下先輩が6番。
木下先輩が7番。
成田先輩が8番。
影山が9番。
翔陽が10番。
月島が11番。
山口が12番。
そして俺が13番。
13番の黒とオレンジ色のユニフォームが手元にある。明日使うのはオレンジだから後で返すけど。
……なんというか、烏野に来たって実感がやっと湧いた気がする。ああ、やっと着れるんだって。
ちなみに音駒の白をメインに赤で装飾したユニフォームが烏野と音駒合わせた4種類のユニフォームの中で一番好きだ。あれ、超格好いいんだよねー。千葉の習志野にある高校とも似てるけど。
1年で集まってあーだこーだ感想を言い合う。
「繋護もオレンジなんだなー。ノヤっさんと同じ!」
「リベロだからね。逆に1日の中の2戦目とかは翔陽達もこっち着るはず。そんで俺が黒い方着るよ」
「日向は色主張しすぎだよね」
「おい月島ァ! なんか文句あんのか!」
「別にー」
ああああ。どうしてすぐにちょっかい出すんだ月島は。1ヶ月弱でこれ? 本当に3年間大丈夫? 月島が先輩とかやばくねー?
そんな事を考えてるうちに山口が決まり悪そうに話し掛けてきた。
「13番……番号変わる?」
「いやいや。
ユニフォーム着られるなら何番でも良いし、中学でもリベロは13番と14番って決まってたから違和感ない。逆にしっくりくる」
「ほへー。うちとは違うんだ」
「烏野もちょっと違うんだよね。庵里の4番はエースだった」
「うん、うちもリベロは5番だった」
「学校によって違うよなー」
「学校毎の特色見つけるのも楽しいよね」
「分かる!」
学校によっては鉢巻きとか付けてるし、オーダーシューズで統一したり。色んなチームがあって楽しいんだよね。「あー! あれ真似したーい!」ってなって取り入れる。
「おーし、全員ユニフォーム渡ったなー。
ま、試合分析で見ることはあっても直接手元にあるのじゃ全然ちげえだろ。ウチは13人で全員ユニフォームを着られる訳だけど、部員数が多いと14人までに限られるし、ユニフォームを着ても試合に出られるのはリベロ含めて7人だからレギュラー争いが発生するわけだな。
ユニフォームを貰えて試合に出られる奴、ユニフォームを貰えても試合に出られない奴、ユニフォームを貰えずに試合にも出られない奴の3パターンに別れる。
〝ユニフォームの重み〟って言うのをしっかりと実感するように。
ユニフォームには自分自身の努力の成果と同時に着られない奴と保護者の無念だったり、学校の顔だとか色々積み重なってるぞ。
チームの代表としてユニフォームを着てるって自覚を持つこと。いいな?」
「「「はい!」」」
「そんで、明日は音駒との練習試合だ。そう〝練習試合〟だ。つー訳で色々試していこう。
時間的には7、8セットやるように話し合ってるから1試合目2試合目3試合目みたいな感じで分けていく。
全員出すからな。この合宿で得た成果を1つでも発揮できるように!」
「「「はい!」」」
そんな感じでポジションの確認をしていく。
1つ目
1 キャプテン 10 翔陽 5 田中先輩
3 東峰先輩 11 月島(ノヤ先輩か俺) 9 影山
試合終盤の影山がサーブの時にキャプテンが山口と交替。木下先輩のピンチサーバー。影山が前衛の時にスガ先輩との限定的なツーセッター。田中先輩と縁下先輩の交替。
6回ある交代権を上手く使って試行錯誤していく。
それに、リベロに関しても相手との相性で考えていくらしい。
2つ目
3 東峰先輩 11 月島 2 スガ先輩
1 キャプテン 7 成田先輩(ノヤ先輩か俺) 5 田中先輩
スガ先輩をセッターに考えた時のローテーションだ。3月以前のローテーションに近いらしい。
東峰先輩の突破力と月島の高さで最初から点をもぎ取る。
3つ目
3 東峰先輩 11 月島 2 スガ先輩
9 影山 7 成田先輩(ノヤ先輩か俺) 1 キャプテン
常に前衛のアタッカーの枚数を3枚にするツーセッターを導入したローテーションだ。影山の攻撃力も活かせるから上手くハマれば強い、はず。あと身長が高いローテーションでもある。
〝練習試合〟だからね、色々と試していこうって感じだ。
「勝ち上がれば上がるだけ他校から分析される可能性は高くなる。その時に意表を突いたローテーションやメンバーだったらそれだけで動揺させられる、『思ったのとちげえ!?』ってな。
そして、宮城県と全国を勝ち進んでいくためにはここにいる15人全員の力が必要だ。自分の長所を活かして1点でも2点でも多く取れ!」
「「「はい!」」」
「よーし、じゃあ乱打形式で1つ目のローテから確認していくぞ。まずは西谷がレギュラー組だ!」
「ウィッス!」
Aチームはキャプテン、東峰先輩、田中先輩、影山、翔陽、月島とノヤ先輩だから向こう側のコートに入る。
Bチームはスガ先輩、縁下先輩、成田先輩、木下先輩、山口と俺。
レフトは縁下先輩と木下先輩。
センターは成田先輩と山口。
ライトはスガ先輩と俺。
「Bチームからのサーブで、Aチームが3回決めたらローテを1つ回す。どんどん回してポジションに慣れていけよ!」
「「「オォーッス!」」」
「Bチームは1人2回ずつサーブ打っていってAチームにガンガンプレッシャーかけていけ。Aチームはそれぞれ違う選手のサーブにとにかく慣れていけ!」
「「「はい!」」」
「良し、じゃあ猫又からサーブだ。サービスエース狙ってけよ」
「はい!」
さーて、何処を狙おうかな。
◎
猫又明育達が烏養一繋らの家に遊びに来てあっという間に2日経過した。4日は仙台を中心にした仙台城跡地や伊達政宗に由来する観光スポット、5日はみちのく三大桜名所の1つである岩手県北上市の展勝地の桜を中心に巡っていた。
「あー、明日帰りたくなーい」
「ねー」
「冬は寒いぞー、あんまり降らねえけど雪だって千葉よりもずっと積もるしよ。千葉からこっちに移住はちと辛いだろ。何にもねえし」
「うぅー……!」
和室で烏養典子と猫又姉妹、込田彩音がじゃれつきながら一家団欒し、その時間を楽しむ。
ゴロゴロと畳の上を転がっている猫又真緒がふと気が付いたように上半身を起こした。
「じゃあさ、お祖父ちゃんとお祖母ちゃん今度千葉に来てよ!」
「あ、いいじゃん、ね? ね? 良いでしょ? お祖父ちゃん、お祖母ちゃん!」
「そういや、あんまりゆっくりしたことはねえか」「あら、良いわねぇ」
猫又姉妹は好反応を示す烏養一繋と烏養典子に怒濤の説得を試みた。
「ほら、今回制服は持ってきてないからさ。あと文化祭にも来てよ!」「そうそう、大学祭も一緒に廻ろう? ね?」
「何時だ?」
「私は9月後半」「私達は10月前半」
「ま、時期があったら泊めさせてくれ。明育もいいか?」
「ええ、もちろん。父さんにも伝えておきます」
「そりゃあ楽しみだ」
「「「やったぜ」」」
子供達3人はハイタッチして喜び、烏養一繋は中学時代の自分に「ビックリすると思うけど、将来化け猫と親戚になるぞ」と伝えたい気持ちで溢れた。人生何が起きるか分からない。
「お父さん、明日は何時くらいに着けば良いんだっけ?」
「ん? ああ、こういう時って9時スタートで17時終わりで体育館借りるのが普通だから、大体10時くらいから練習試合始めると思うぞ。9時半過ぎに到着すれば問題ねえだろ」
「そういう訳です。
朝出発したらそのまま家まで帰ることになるから忘れ物無いようにね」
「「「はーい!」」」
5年ぶりの烏野高校と音駒高校の練習試合が遂に明日行われる。
◎
最近行われたVNLやアジア選手権でタイムアウトの際に選手同士でコミュニケーションを取っている様子が見られたと思います。
インハイ、国スポ、春高を見ていても、学年関係なくコミュニケーションを取れている学校が勝ち上がっていっている印象があります。
バレーボールはチームスポーツなのでね。やっぱりコミュニケーションは必須です。
私自身も「自己主張はどんどんしよう。でもワガママにはなるな」と毎日のように言われていました。なかなか難しいんですけどね。