孫悟空が少年ウーブと修行の旅に出てから1年が過ぎた。
2人がどこにいるのかは誰にもわからない。
そんなある日、地球に、もう何度目かもわからない危機が訪れた。
10年前、魔人ブウに殺された暗黒魔界の王ダーブラ。
ダーブラの死後、暗黒魔界を支配したその娘カダブラ。
女王となったそのカダブラが、こちらの世界の征服に乗り出してきたのである。
カダブラは触れると石になってしまう雨を世界中に降らせて、地球上を大混乱に陥れた。
いち早くカダブラの邪悪な気を感じたトランクスが単身迎え撃ったが、カダブラはダーブラよりもはるかに強く、トランクスはあえなく返り討ちにあった。
遅れて駆けつけた孫悟飯も、修行不足が災いした。
思わぬ苦戦を強いられ、傷だらけのトランクスを連れて神様の神殿に逃げるのが精一杯だったのである。
石化の雨を降らせる暗黒の雲は、いまや地球全土を覆いつくそうとしていた。
アニメ版や昔の劇場版、DAIMAとか超とかGTとか、あとゲームとかの設定は拾っておりません。
ゆえに、設定とか各キャラの行動原理とかが一般的なそれに反旗を翻しているかもしれませんが、作者が納得がいくこと最優先で書いておりますので、あぁそうなんだ…と思って飲み込んでください。
一番重要なことですが、ドラゴンボールなのにバトルシーンありません笑。
「――兄ちゃん! トランクスくん! しっかりして!!」
チチと牛魔王を連れて神様の神殿に逃げてきた孫悟天は、2人の姿に思わず声を上げた。
幼馴染のトランクスは全身傷だらけで気を失っている。
兄・孫悟飯は、意識はあるが左腕を失う重傷を負っていた。
「ぎゃーー! 悟飯! トランクスも、あんたたち大丈夫け!?」
チチが悲鳴を上げて大騒ぎし始めた。
おかげで少し冷静さを取り戻した悟天は、地球の神様デンデの姿を探して神殿にいる者たちを見渡した。
優秀なナメック星人であるデンデは、どんな傷でもすぐに回復できる力を持っている。
だが神殿にいるのは素早く避難してきたクリリンと18号、そのふたりの愛娘マーロンの3人。
あとはもともと神殿に住んでいるピッコロと、神様の付き人であるミスター・ポポのあわせて5人だけだ。
「ねえデンデくんは!? 兄ちゃんもトランクスくんも、デンデくんに早く治してもらわないと!」
しかしミスター・ポポはまったく表情を変えない。
「残念、孫悟天。神様、今、地球にいない。ピッコロが、神様に頼まれて代わり務めてる」
「ええっ。デンデくんがいないってどういうことなの!?」
代わりに答えたのは、腕組みしたままのピッコロだった。
「…3000年に一度、界王様が主催する北銀河の神の親睦会があってな。デンデは今、それに出席中だ。おそらく界王神様も来賓として参加されている…界王も界王神様も気の長い方々だからな、下手したら10年くらい帰って来んかもしれん」
「なんでこんな時にそんなのやってるの! じゃ、じゃあ仙豆は? カリン様っていう人が作ってるんでしょ、仙豆!」
「…それがな、悟天」
今度はクリリンが言いにくそうに口を開いた。
「さっきオレがカリン様のところに行ったんだけど、近ごろ不作で今は1粒もないそうなんだ」
「そんな!」
「仕方ないだろ。オレたち当たり前のように仙豆を使ってたけど、あれは本当はとんでもない貴重品なんだ」
…がーん。
悟天が呆然としていると、悟飯がゆっくりと身体を起こした。
腕を失った時の出血のせいで、その顔色はひどく悪い。
「…安心しろ悟天。トランクスは命に別状はないし、僕もポポさんに手当てしてもらったからもう大丈夫だ」
「平気って…左腕をなくしてるんだよ、兄ちゃん!」
悟飯は無理やり笑みを作った。
「そんなことより、今はあのカダブラってヤツをどうやって倒すかだ…」
「悟飯。そいつは本当におまえでも倒せないほどの強敵なのか?」
ピッコロが静かに尋ねると、悟飯は表情を硬くしてわずかにうつむいた。
「…すみません、僕の修行不足です」
敗北の理由を理解している悟飯に、ピッコロは何も言うことができない。
「違います、ピッコロさん…悟飯さんのせいじゃないですよ…」
いつ目を覚ましたのか、トランクスが辛そうに声を上げた。
「悟飯さんはオレをかばってヤツの唾を喰らったんです。そうしたらみるみるうちに腕が石化し始めて、やむなく悟飯さんは自分で左腕を…。すみません悟飯さん、オレのせいで」
「気にするなトランクス。君のせいじゃない…おれの修行不足だ」
悟飯は穏やかな声で答えたが、今は地球で一番強いと言っていい悟飯の負傷は神殿にいる者たちの心に暗い影を落としていた。
「それにしても悟飯。おまえ、その身体でよくトランクスを連れて逃げてこられたな?」
「太陽拳ですよクリリンさん。昔ナメック星で、太陽拳のおかげでフリーザの部下から逃げられたことがあったじゃないですか」
「ああ…そう言えばそんなこともあったっけな」
2人のやり取りを聞いたピッコロが顔を上げた。
「太陽拳で逃げ切れたと言うことは、カダブラというヤツは気を察知することはできないようだな。ならこの神殿にいれば安全と言っていいが…問題はこの危機をどうやって凌ぐかだ…」
「ねえ、父さんは? 父さんはどうしたんだろう!?」
悟天が叫んだ。
それは、この場にいる者たちが心の中でずっと思っていたことだった。
「カカロットは今、地球にはいない」
一同が振り向くと、そこにはいつの間にかベジータが立っていた。
タンクトップ姿のベジータは、今の今までトレーニングをしていたようだ。
「…父さん。来てくれたんですね」
ベジータは横たわったままつぶやいたトランクスを一瞥すると、すぐに興味を失ったように悟天たちを見渡した。
片腕を失っている悟飯を見てわずかに眉間にしわを寄せ、あからさまに舌打ちをする。
「え、えーと…ベジータさん。父さんが今地球にいないってどういうこと…?」
悟天が恐る恐る尋ねると、ベジータは不愉快そうに鼻を鳴らした。
「アイツの気は地球のどこにも感じない…そんな事もわからないのか」
「え? そうなの、ピッコロさん?」
「ベジータの言うとおりだ。悟空は今、地球にいない…大方ウーブを連れて別の星で修行しているんだろう」
「そうか…はは、どおりでお父さんの気を感じないわけだ」
悟飯もまた、悟天と同様に父の地球不在に気付いていなかった。
悟飯は自分に呆れて嗤うほかはなかった。
「じゃ、じゃあベジータさん、父さんや兄ちゃんの代わりにそのカダブラってヤツを…」
「甘えるな」
ベジータは最後まで聞くことなく悟天を一喝し、悟飯をにらみつけた。
「悟飯。そのカダブラってヤツはどのくらいの強さだ?」
「…セルの倍くらいです…」
ベジータは呆れて悟飯から目をそらした。
「俺は今さらそんな雑魚を相手にする気はない。悟飯、おまえが何とかしろ」
「はい」
「ちょ、ちょっとベジータさん! 兄ちゃんはこんな大怪我してるんだから、戦うなんて無理に決まってるでしょ!」
「なら、おまえが何とかしたらどうだ、悟天」
「…え…」
悟天は固まった。
「えーと…ほら、ぼくなんかのチカラじゃとても…」
「おまえといいトランクスといい、フュージョンに頼りすぎだ。反省するんだな」
「なに言ってるだ、ベジータ!」
チチがキレた。
チチはサイヤ人を怒鳴りつけることができる、稀有な地球人の1人である。
「ええかベジータ、悟空さやおめえが何度も地球を守ったからって、悟飯や悟天それにトランクスも地球を守らなきゃいけねえって道理はねえだ! この子たちはおめえや悟空さの代わりじゃねえだよ!」
悟飯が残った右腕でチチをそっと制した。
「いいんだ母さん。これは僕がお父さんの息子だからじゃなくて、僕に戦う力があるから…だから僕がやるべきことなんだ」
悟飯は自分に言い聞かせるようにそう言った。
「…じゃ、じゃあ兄ちゃん。せめてドラゴンボールで怪我を治してから…」
悟天の言葉に、クリリンが静かに首を振った。
「考えてみろ悟天。悟飯とトランクスにドラゴンボールを使ったら、石にされた人たちを元に戻すのに1年かかっちまう…そんなに時間が掛かったら、石にされた人たちが壊れちまったりする可能性が高いだろ?」
悟天は子どものころのことを思い出した。
魔人ブウの事件の時、ふざけていたトランクスが石像にされたピッコロをうっかり倒してしまい、ピッコロの身体が粉々になってしまったことがある。
ナメック星人のピッコロだから無事に再生することができたが、石にされた人たちを1年ものあいだ野ざらしにしていたら、どんなことがあるか確かにわからない。
「で、でもさクリリンさん、ドラゴンボールで叶えられる願いは3つでしょ? だったら兄ちゃんとトランクスくんに願いを使ってもまだ1つ…」
「いや…まだこのあと何が起こるかわからない。ドラゴンボールの願いはなるべく取っておいた方がいい。…そうだろ、ピッコロ」
「…カダブラの魔力は地球上の人間を一度に石化できるほどだ…ドラゴンボールの願いを3つ分使っても、地上の人間たちすべてをもとに戻せるかはわからん…」
「そんな! 兄ちゃんが今カダブラを倒せなかったら意味ないじゃないか!」
ピッコロは考え込んだ。
悟天の言う事にも一理ある。
だが、過去の戦いで何度もドラゴンボールに助けられてきた戦士たちは、どうしても今神龍を呼び出すことにためらいがあった。
それにそもそも今、ドラゴンボールは地球全土に散らばっている。
ドラゴンレーダーがあっても7つ集めるにはどうしても時間がかかってしまう。
“…やはりドラゴンボールは、おれたちが集めて保管しておくべきだったか…?”
ピッコロは心の中で、自分たちの判断はやはり甘かったのかと自問した。
魔人ブウに関する記憶を世界中の人々から消した後、神龍の存在を知る者たちは、ドラゴンボールは自分たちが集めて管理していた方がよいのではないか…と考えたことがあったのだ。
しかし、その考えは神様であるデンデが却下した。
「ドラゴンボールはみなさんだけのものではありません。集めれば誰にだって使う権利があるものです。ドラゴンボールはすべての人に公平であるべきです」
「…デンデくんの言うとおりね。仕方がないわ、ドラゴンボールの位置はわたしがレーダーで確認しておいて、なにかあったら対処することにするわ」
ブルマがデンデの意見に同意したことで、ドラゴンボールは再び世界中へ飛び散っていったのだ。
「だったらさ、ナメック星にもドラゴンボールってあるんでしょ? そっちのドラゴンボールを使わせてもらって兄ちゃんの怪我を治せばさ…」
食い下がる悟天に、今度は悟飯が首を振った。
「それもできないんだ、悟天。瞬間移動が使えるお父さんがいない以上、ナメック星に行く方法がない。僕たちじゃナメック星がどこにあるのかすらわからない…」
「…そんなぁ…」
落胆する悟天の声を聞きながら、クリリンはすがる思いでピッコロを見た。
「…なぁピッコロ、おまえ、カダブラってヤツを何とかできないのか? 修行はずっと続けてきたんだろ?」
だが、ピッコロの苦渋の表情は変わらない。
「残念だがな…おれの力ではカダブラには及ばない…」
「…こうなったらオレとおまえでフュージョンしてみるか…? そうしたら少しは戦えるようになるかもしれないぜ?」
「…フュージョンは同じくらいの体格の者同士が気を全く同じ大きさにして初めて使える技だ。気の調節はともかく、おまえとおれでは体格が違い過ぎる。フュージョンは誰でも使える便利な技ではないんだ」
「…そうか…じゃあ本当にもうどうしようもないってことか…?」
「よし! わかったよクリリンさん、ピッコロさん!」
覚悟を決めた悟天が叫んだ。
「こうなったらぼくが修行して強くなって、カダブラと戦うよ!」
「なんだと?」
「ほら、精神と時の部屋だよ! ブウの時、ぼくとトランクスくんはあそこに数時間しか入ってないからさ、こっちの時間で1日くらい修行したらきっとぼくも強く…なれるんじゃ…ないかな? はは…」
情けないことに、悟天の自信は言っているうちに尻すぼみになっていく。
ピッコロは、内心冷や汗をかきながら大きく首を振った。
「…残念だが悟天、それも無理だ。精神と時の部屋の入り口は、あの時破壊されたままだ…」
「ええっ! もう10年も経つのに直ってないの!?」
「無理を言うな! デンデが天才でも、異空間に通じる穴を開けて固定しておくのはそう簡単なことではないんだ!」
「……」
部屋の扉を壊したのはピッコロであることを、悟天は覚えている。
だがピッコロのあまりの剣幕を見ると、それを口に出す勇気はなかった。
とにかく、状況は八方ふさがりである。
「もういい、悟天。時間の無駄だ」
黙って聞いていたベジータが強い口調で言った。
「あとは悟飯になんとかさせる。おまえはトランクスをブルマのところに連れて行け。おまえにできることはそれだけだ」
チチに支えられてどうにか身体を起こしている悟飯は、ベジータを見上げた。
ベジータは有無を言わせぬ眼力で悟飯をにらみつけている。
「悟天、ベジータさんの言うとおり、トランクスを早く連れて帰ってやってくれ。あとは兄ちゃんが何とかする」
「…兄ちゃん…」
きっぱりと言い切った悟飯は、ピッコロに覚悟を決めた眼差しを向けた。
「ピッコロさん、食事をとらせてもらえませんか? 今のままでは失った血が足りなくて力が出せません」
「…ポポ、頼めるか?」
「わかった。ちょっと待ってろ」
ポポの姿が神殿の中に消えると、クリリンが悟飯に向き直った。
「すまないな悟飯。セルの時といい今度といい、いつも悟空とおまえを頼ってばかりで…」
「気にしないでください。クリリンさんだって、ナメック星で何度も僕やお父さんのことを助けてくれたじゃないですか」
「そう言ってくれるとありがたいけどよ…でもそうだな、あの時も大変だったよな。ベジータもまだ悪人で、散々オレたちをひどい目にあわせてくれたしな」
「…チッ」
からかうようなクリリンの一言に、ベジータが忌々し気に舌打ちする。
そんなやり取りで、神殿の空気は少しだけ和らいだ。
「食事、たくさん作った。みんなも食べろ」
ポポが山のような食事を持って戻ってきたころには、悟飯の周りに仲間たちの輪ができていた。
ベジータは離れたところでそっぽを向き、18号も興味なさげに振る舞っているが、2人も悟飯を気にかけていることはよくわかる。
誰も悟天のことを見ていなかった。
悟天は黙ってトランクスを抱き起こした。
「…悟天。どうしただ?」
悟飯の世話をしていたチチが、もう一人の息子の様子に気づき声を掛けた。
「何でもないよ。母さん、ぼくトランクスくんをカプセルコーポレーションに連れて行くよ」
「…悟天?」
トランクスを背負った悟天は、神殿の床を蹴って西の都へと飛んだ。
* * *
西の都のカプセルコーポレーション・ブルマの邸宅。
トランクスは、最新の医療機器に囲まれた自室のベッドに横たわっていた。
呼吸器をつけられて、ようやく落ち着いて静かに眠っている。
ひととおりの世話を終えたブルマは、ベッドの傍らで丸椅子に縮こまっている悟天に目をやった。
「…もう大丈夫よ、悟天くん。トランクスもサイヤ人の血を引いてるから回復は早いわ。この子を抱えて神様の神殿から飛んできたんじゃ、悟天くんも疲れたでしょ。あっちでひと休みしなさい」
「…あ、ぼくはここにいます。トランクスくんが心配なんで」
「そう? まぁ無理にとは言わないけど…」
席を立ちドアノブに手を掛けたブルマは、しかし思い直して悟天に振り返った。
「心配しなくても大丈夫よ、悟天くん。悟飯くんだってお父さんほどじゃないけど地球の危機を救ったことがあるし、いざとなったらベジータだっているわ。だから安心しなさい」
「あ、はい…」
「あなたは運がいいのよ。地球に何かあっても孫くんやベジータ…悟飯くんだっているんだから」
「はは…そうっすね…」
悟天は無理やり笑ってそう答えた。
そっとしておいた方がよさそうだと察したブルマは、静かに部屋のドアを閉じた。
悟天はさすがに落ち込んでいた。
今のブルマの言葉も、見事な駄目押しになった。
“はぁ~。ブルマさんにもぼくは戦力外か…”
治療機器が規則正しく鳴らす電子音を聞きながら、悟天は眠っているトランクスの横顔を見つめた。
トランクスとは幼少のころ、よく対決ごっこをして遊んだものだ。
加減のないごっこ遊びは荒野の岩を壊したり地面に大穴を開けたり、地球に災害レベルのダメージを与えた。
だがそんなことはお構いなしに夢中で戦いごっこを繰り返すうちに、2人はどんどん強くなった。
いつの間にか、髪が金色になり力がいくらでもあふれてくる不思議な姿…超サイヤ人に変身することもできるようになっていた。
あのころは強くなることが嬉しく、誇らしく、そしてもっとすごいことができるようになりたいと、いつもわくわくしていたものだ。
しかし、成長した今の悟天は戦いに興味はないし、別に強くなりたいとも思っていなかった。
対決ごっこも、正義の味方ごっこも卒業した。
今の悟天は修行して強くなることよりも、明日のデートで女の子とどこへ行くかのほうが重要だ。
いつ起こるかわからない危機に備えるのは、別に自分じゃなくていいだろう。
だが、悟天にも自負するところはあった。
自分だって、父のように超サイヤ人に変身することができる。
トランクスとフュージョンすれば、兄やベジータさえ到達できなかった超サイヤ人3にだってなれる。
強さに興味がないだけで、自分は相当強いはずだという自信はあるのだ。
だから、神殿でのみんなからの扱いはさすがにこたえた。
いくら楽天的でマイペースな悟天でも、ここまで期待されていないとわかればやはり落ち込む。
“…でも魔人ブウの時、ぼくだって役に立たなかったわけじゃないと思うけど…”
悟天は心の中でつぶやいた。
ゴテンクスは魔人ブウを倒すことはできなかったが、みんなの期待に十分応えていたはずだ。
トランクスだってきっとそう思っている。
悟天は、片腕を失っていながらそれでも仲間たちに頼られている兄の姿を思い出した。
“…まぁ、界王神って人のところですごい修行した兄ちゃんはぼくより全然すごいしな。それにほんとに小っちゃい時から何度も命懸けで戦ってたらしいし、頼りになるもんな…”
悟天は、悟空が生き返るまで父のように慕っていた兄に思いを巡らせた。
実は魔人ブウとの戦いでは悟飯も役に立ったと言えるか微妙なところなのだが、そのあたりの経緯を悟天はあまりよくわかっていない。
“…せめてトランクスくんが元気だったらなぁ”
“ぼくってフュージョンしなかったらいる意味ないのかな…“
悟天は深いため息をついた。
その時、南の方角で気が一気に膨れ上がった。
悟天の身体がいち早く反応した。
“兄ちゃんの気だ!”
増幅していく悟飯の気に呼応するように、もう一つ邪悪な気がどんどん大きくなっていく。
「…戦いが始まったんだ…!」
悟天は正邪二つの気に意識を集中した。
気の大きさを比べると、かろうじて悟飯の方が上だ。
“でも、いくら兄ちゃんでも片腕で戦えるのかな…!?”
悟天は、血が足りなくて力が出ないと言った、覚悟を決めた兄の顔を思い出した。
「…いくら兄ちゃんでも、やばいよ!」
悟天は南の空へ飛び出そうと窓枠に手を掛けたが、その動きはぴたりと止まった。
戦いが怖いからではない。
“トランクスくんが足を引っ張るくらいじゃ、ぼくが行ったって邪魔なだけだ…”
悟天は振り返ってベッドのトランクスを見た。
あたりまえだがフュージョンして戦えるような容態ではない。
「…あー! ぼくどうしたらいいんだ!」
悟天は頭を抱えて部屋の中をうろつきまわった。
うろつきながら、悟天は全身が映る大きな鏡に気がついた。
鏡の中の自分は、情けなく見苦しく、ただうろたえている。
自分はなんて不甲斐ないのだろう。
「ああ~、見かけだけはこんなに父さんと似てるのにな~! せめてトランクスくん以外の誰かとフュージョンできればな~!!」
悟天は思わず叫んだ。
そして、鏡の中の自分と目が合った。
…ん?
フュージョン?
兄と同じく、孫悟空の戦いの才を継ぐ悟天の脳裏に、閃きが来た。
* * *
「…どうなんだピッコロ? 悟飯は勝てそうなのか…?」
ピッコロは先代の神から受け継いだ千里眼の力で悟飯とカダブラの戦いを見ている。
クリリンは生唾を飲み込みながら尋ねた。
「…いい勝負をしている。だが勝てるかどうかは紙一重だな…。まさかカダブラが気を扱えるとは誤算だった…!」
「いくら悟飯でも片腕じゃあな…じゃ、じゃあオレが加勢に行ったらなんとかなるかな…?」
「…いや、残念だがおれたちが行ってどうにかなるレベルの戦いではない」
クリリンは、腕組みして立っているベジータの方を振り返った。
「…な、なぁベジータ。おまえの気持ちもわかるけど…悟飯を助けに行ってやってくれないか?」
ベジータは鋭い眼光でクリリンを見返した。
「俺の気持ちがわかると言うのはどういう意味だ、クリリン」
クリリンは考え考え、自分の思いを言葉に変える。
「…オレずっと思ってたんだけどさ、悟空のヤツ、今地球がピンチだってこと絶対気がついているはずなんだ。
アイツ、宇宙のとんでもなく遠い星でも気を探れるんだぜ? 悟空が今どこにいるのかわからないけど、悟飯がこれだけ気を高めて戦ってたら、アイツ絶対気がついてるはずなんだ。
…ピッコロもベジータも悟空と同じでさ、少なくとも悟空がウーブを一人前の戦士に鍛え上げるまでは、悟飯やトランクスたちに地球を任せたいって考えてるんだろ? いつまでも自分たちが地球を守るべきじゃないってさ…」
「…フン。この程度がピンチだなんて甘いにもほどがある」
ベジータは仏頂面で答えた。
「なあ、ピッコロはどうなんだ?」
「…だが実際のところ、これ以上地球の危機をほおっておく訳にもいくまい」
「…チッ」
ベジータはため息まじりで、神殿へ来てから何度目かわからない舌打ちをした。
その時である。
「――おい、なんだよこの気は!?」
クリリンが叫ぶより早く、ピッコロとベジータは西の都の方角を見ていた。
大きな気がゆっくりと放出されている。
「ピッコロ! こいつは悟天の気だよな? …アイツまさか、悟飯の加勢に行く気か?」
「…この程度の気では悟飯の足手まといにしかならん…。悟天のヤツ、何を考えている」
次の瞬間、悟天の気が猛烈な勢いで高まった。
その気は、ベジータが一瞬驚くほど大きい。
ピッコロたちが戸惑う中、強大な悟天の気は凄まじいスピードで移動し始めた。
言うまでもなく、悟飯とカダブラが戦う荒野に向かっている。
瞬く間に悟飯のもとへたどり着いた悟天の気は、さらに爆発的に、圧倒的に増大した。
ピッコロは全身の震えを止めることができなかった。
「な、なんだこのバカげたほどでかい気は…アイツまさか超サイヤ人3になったのか…? なに? ――かめかめ波、だと!?」
神殿から見える、見渡す限りの黒い雲。
地平線の向こうで、その雲を突き破りエネルギーの火柱が立ち上がった。
閃光が神殿を貫く。
続けて衝撃波が神殿を襲い、駄目押しのように暴風が吹き荒れた。
チチや牛魔王は吹き飛ばされないよう、必死であたりの物にしがみつく。
“――なんて気だ、悟天のヤツ!”
さすがのベジータが舌を巻いた。
やがて閃光は消え、神殿の揺れも治まり始めた。
悟天が放出した莫大な気が消えていき、見渡す限り広がっていた黒雲も少しずつ晴れていく。
気を感知できない18号は、マーロンを抱きしめたままつぶやいた。
「…クリリン、どうやらこれは…」
「ああ、18号。悟天が勝ったんだ」
暗黒魔界の女王カダブラは敗北し、野望とともに完全に消滅した。
* * *
数分後、悟天は戦闘で疲れ切った悟飯に肩を貸して神殿に戻ってきた。
「いや~、ぼくさ、子どものころ、かめはめ波のことかめかめ波だと思っててさ…慌ててたからとっさにそう言っちゃったみたい。ホラ、超サイヤ人3ってすぐ時間切れになっちゃうからさ、けっこう焦ってたんだよ」
悟天はごまかし笑いをしながらそう言った。
かめかめ波については、神殿に戻る途中で悟飯に指摘されていたらしい。
「そこはどうでもいいんだけどよ…悟天、おまえなんでその恰好してるんだ? その服って…」
クリリンが悟天に、その姿のことを尋ねた。
「あ、コレ? むかし父さんに聞いたら、メタモル星人っていうフュージョンを教えてくれた人たちの服なんだって」
「いや、そこのところじゃなくてよ…」
クリリンとやり取りする悟天を、ピッコロは何も言わずに見つめて考えていた。
全身を光らせている悟天の気。
超サイヤ人のような、暴力的ともいえる力の放出とはまったく違う。
まるで気が肉体と一体化しているようだ。
だが今の悟天には、さらにまだ別の違和感がある。
観察し続けて、ピッコロはようやく違和感の正体に気がついた。
生まれた時から変化しないというサイヤ人の頭髪だ。
ボサボサで大きく外へ広がった髪型。
今の悟天の髪型は、先ほどまでのおしゃれなスタイルとは違い、悟空のそれとそっくりである。
だが、それはいい。
もともと悟天は悟空とほぼ同じ髪型なのだ。
だが、何かが決定的に違う。
“…髪が…左右同じにはねているな?”
ピッコロは悟天に感じる不自然さの理由を理解した。
さらによく見れば、悟天の顔にも違和感があった。
普通なら人間の顔は、例えば目や眉、耳などの形やつき方が左右でわずかに違う。
なのに、今の悟天はまったくの対称だ。
「悟天。今のおまえはゴテンクスではないな? おまえ、誰とフュージョンしたんだ?」
ピッコロが発した問いに、悟天は頭を搔いた。
「あー、今のぼくは、え~と…ゴテンテンとでも言うのかな?」
その言葉に、全員の頭の上にクエスチョンマークが浮かんだ。
「…悟天。おれたちにわかるように説明しろ」
ピッコロが尋ねると悟天…いや、ゴテンテンはまた頭を掻いた。
「ホラ…ぼくってトランクスくんとフュージョンしないとあんまり強くないじゃない? だから、じゃあ1人でフュージョンできないかな~って思って、駄目もとでやってみたんだよ。自分の気の半分でエネルギーのかたまりを作って…その気で大きな鏡を包み込んで、鏡に映った自分と『フュージョン・ハッ』ってやってみたら、…できちゃった」
…はぁ?
てへへ…と笑うゴテンテンに、一同は唖然とするほかなかった。
ンなバカな、と突っ込む気にもならない。
発想があまりにもアホだ。
だが。
同じくらいの体格の2人が、気の大きさを全く同じにコントロールして合体のポーズを取り人差し指を合わせる。
それが、二人の戦士が一人になってパワーアップするフュージョンの条件である。
確かに鏡に映った自分なら体格は完璧に同じだし、人差し指も必ず合わせられる。
気の大きさが全く同じ、という条件も満たしている。
しかし…だからと言って、鏡相手でフュージョンは成立するのだろうか?
ピッコロもクリリンもベジータも悟飯も、疑問が頭の中を渦巻いた。
しかし目の前には、ゴテンテンと名乗る悟天とはどこか違う悟天がいる。
その気の大きさを感じ取れば、それはフュージョンのおかげだと考えざるを得ない。
悟天本人も一人フュージョンが本当にできると思っていなかったらしいのが、なんだか救いのような気がする。
「…ま、まあ…とにかく、悟天のおかげで地球の人間たちが救われたのは確かだな…」
とりあえずピッコロが場をまとめると、チチは我慢できずにゴテンテンに駆け寄って抱きついた。
「悟天! なんだかよくわからねえけどよくやったぞ! おめえも悟空さや悟飯みてえに地球の危機を救っただな! すげえぞ悟天!」
「はは…ちょっと、母さん恥ずかしいよ…」
そうは言いながらもゴテンテンは満更でもなさそうだ。
そのタイミングで、制限時間を過ぎたゴテンテンのフュージョンが解除された。
耳をつんざくチチの悲鳴が神殿に響く。
「ぎゃーっ、悟天おめえどうしただーっ!」
『『え? なに、母さん?』』
悟天はまわりを見渡した。
自分を見ているみんながドン引きしている。
ピッコロどころか、ベジータすらドン引きしている。
『『え? みんなどうしたの?』』
「…ご、悟天。おまえ、すごいことになってるぞ…?」
悟飯が、悟天を指さしながら言葉を絞り出した。
悟天もまた絶叫したのは、ミスター・ポポが持ってきた大きな鏡で自分の姿を見た時である。
鏡の向こうの孫悟天は、半身の2人になっていた。
* * *
幸い神殿にいる者たちは、想像するだけで顔が歪むような身体の断面は見ないですんだ。
足りない方の半身は、柔らかく光る気がかたち作って補っていたのである。
だが、左右半分ずつの身体がシンクロして口を動かし話す姿は相当に気持ちが悪い。
マーロンはその場で失神した。
『『ピッコロさんっ、ドラゴンボール! お願いだからぼくにドラゴンボール使わせてっ!』』
鏡で自分の姿を見た悟天は大慌てで叫んだ。
「い、言っただろう…石にされた地球人を元に戻すのが先だ…」
『『でもぼく、こんな姿で1年もどうしたらいいんだよ! クリリンさん、なんか言ってよ!』』
「悟天…気持ちはわかるが、やっぱり地球の人たちをこのまんまにしとく訳には…」
『『そりゃそうだけど、ぼくだってこんな姿で1年も我慢できないよっ!?』』
「…それは…気の毒だと思うけどよ…」
『『それはないよ、勘弁してよクリリンさんっ!』』
「…な、なぁ、悟天…?」
悩むクリリンを見かねて悟飯が声を掛けた。
「…勉強なら兄ちゃんが教えてやるから、あきらめてこのまま神殿で1年過ごしたらどうだ…?」
『『やだよっ! ぼく明日はデートの約束あるんだから、今日中にもとに戻れないと困るんだよ! …あ、でもこれ、うまくやったらいっぺんに2人の女の子とデートできたりするかな…?』』
「悟天っ! そったらことしたら母さんが許さねえだぞっ!」
『『じょ、冗談に決まってるだろっ、こんなんじゃ彼女だってぼくを見て逃げ出しちゃうよ!』』
「…悟天、勉強は2倍できて成績上がるかもしれないぞ…?」
『『に、兄ちゃん、今はそういうこと言ってる場合じゃないだろっ!』』
神殿中が孫家のやり取りにぽかんとする中、ベジータが今日で一番大きい舌打ちをした。
「…まったく、カカロットの一家はどこかのネジが一本外れてやがる」
『『何言ってんだよベジータさん! トランクスくんだって付き合ってる女の子いっぱいいて、ブルマさん、トランクスは誰に似たんだっていつも呆れてるんだからねッ!』』
「――純粋なサイヤ人は浮気なんかせんわッ!」
ムキになって言い返すベジータの姿を見て、クリリンはようやく全身の強張りがほぐれていくのを感じた。
傍らでは、自分より早くマーロンに駆け寄った18号が愛娘を抱き起こしている。
大切な家族が無事ですんだことに、クリリンは心の底から安堵した。
「はは…なあピッコロ。悟天には気の毒だけど、とりあえずはこれで無事解決…ってことでいいよな?」
「…そんなわけがなかろうッ!」
ピッコロは思わず叫んだ。
ピッコロには、神様の代理人としてこれからやらねばならないことが山積みである。
まず、石にされた地球人をもとに戻す。
ゴテンテンが破壊した地球のダメージ…荒野だったとはいえ、それも放っておけるレベルではあるまい。
仙豆の不作も深刻だ。
デンデが帰ってきたら、精神と時の部屋も急いで再建しておくべきだろう。
そして、悟飯の腕の治療と、悟天をもとに戻す。
ピッコロは深い深いため息をつき、心の中でつぶやいた。
…まずはとにかく、ドラゴンボール探しからだ。
* * *
「…そりゃみんな大変だったんだな、ピッコロ」
「…まったく、おまえが地球にいれば話は簡単だったかもしれんものを…!」
後日。
ようやく全ての問題に解決の目途が立ち、疲労困憊のピッコロの前に孫悟空が姿を現した。
自分が不在にしていた間の地球の危機の顛末。
その話を聞きに、瞬間移動して神殿にやってきたのだ。
今ごろ姿を現した悟空は、息子たちの奮闘を感心しながらも面白そうに笑って聞いている。
そんな悟空の様子を見ていれば、ピッコロの口から恨み節の一つも出てこようというものだ。
「でもよ、鏡を使って一人でフュージョンなんてホントにできるのか?」
「…ブルマは『フュージョンの隙を突いた』と言っていた」
「なんだそりゃ?」
「…コンピューターのシステムやプログラムには、エクスプロイトと言って、仕様上の弱点や想定外の挙動を利用して予想外の結果や現象を引き出す方法があるそうだ。フュージョンという技の原理にもそういう隙があったのだろうとな…わかりやすく言えば、一人フュージョンは『バグ技』ということらしい」
「ピッコロ、おめえ何言ってるのかわからねえぞ」
「おれだってわからんわっ!」
ピッコロは思わず怒鳴った。
「…だがよかったな悟空? これでおまえも、さらに強くなる方法がわかったわけだからな?」
「いや、そいつはオラのやり方じゃねえし、やらなくていいかな。…それでよピッコロ、なんでフュージョンが解けた悟天は身体が半分で2人になっちまったんだ?」
悟空はピッコロの皮肉に気付かず次の質問をした。
ピッコロは腕組みをして言葉を選ぶ。
「…これもおれにはまったくわからん。ただ、フュージョンという技が、ゴテンテンを悟天と悟天の気だけの二つに分けることができずに…ごちゃ混ぜで分けてしまったんだろう。なんせゴテンテンはもともとが一人だからな…うまくできなくても仕方あるまい。…おそらく、これも『バグ技』というヤツだな」
「…へぇぇ」
理解したのかしていないのか、悟空はいかにも適当な顔で相槌を打った。
「…で、その後悟天と悟飯はどうなったんだ? ドラゴンボールでもとに戻れたのか?」
「いや…地球の人間たちをもとに戻すには2つ分の願いの力が必要だった。だから残りの1つで悟飯の腕を治した」
「じゃあ悟天はそのまんまなのか…そいつはちょっと気の毒だな。でもよ、ピッコロ」
悟空は首をひねった。
「なんだ」
「…悟飯に使った最後の1つの願いで誰かがナメック星に行って、あっちのドラゴンボールを使わせてもらえばよかったんじゃねえか?」
「――あ」
ピッコロは、あんぐりと口を開けて呆けた。
“そうか…! あの時、おれは気が動転していてそのことに気がつかなかった…!”
ピッコロは自分の失策と、それに気づいていなかったことへの動揺を、悟空に悟られないよう必死で耐えた。
そんなピッコロの苦闘に気づかず悟空はしばらく首をひねっていたが、まぁそこは悩むところでもないかと割り切ったらしい。
「じゃあピッコロ、オラ瞬間移動でナメック星に行ってドラゴンボールを使わせてもらってくる」
「ま、待て悟空っ」
ピッコロは、額に指を当ててナメック星人の気を探ろうとした悟空を止めた。
「なんだよ、ピッコロ」
「悟天のことならもう解決している、大丈夫だ。アイツはもう、自分のことは自分で何とかできる大人だ」
「?」
ピッコロは、これから言う台詞への気恥ずかしさを咳払いでごまかした。
「アイツは、おまえの知らないところで成長したんだ」
* * *
『『…フュージョン、ハッ!!』』
悟天はあきらめなかった。
閃いたのだ。
そうだ。
もう一度フュージョンすれば、今度はもとどおりに分離できるんじゃないのか?
悟天はその閃きをすぐに行動に移した。
ピッコロがドラゴンボールを7つ揃えて戻るまで、ぼんやり待っている気にはとてもなれない。
幾度となく失敗が続いた。
もとどおりに戻れるかは運任せだ…と、悟天はすぐに悟った。
だが、やるしかない。
やり続けるしかない。
フュージョンが解けるたびに、悟天は気と肉で全身つぎはぎだらけの二人…に分離した。
運が良ければ比較的きれいな…上半身と下半身の二人であったり、身体の前後で分かれた二人に分離することができた。
だが、それでは何の意味もない。
悟天は何度も絶望に囚われかけ――しかしあきらめることをしなかった。
悟天はひたすらに、フュージョンを繰り返した。
やがて陽は沈み、そして昇ってきた。
約束の時間には、もう間にあわない。
だが、間にあわないのであれば、少しでも早くデートをすっぽかした女の子に謝りにいかなくてはならない。
その誠実な思いだけが、悟天の身体を突き動かしていた。
三日三晩、神殿に悟天の声が響いた。
『『フュージョン、ハッ!』』
『『フュージョン、ハッ!!』』
『『フュージョン、ハッ!!!』』
床には悟天の流した汗が水たまりになっている。
「がんばれ。孫悟天」
ひたすらフュージョンを繰り返す悟天。
その姿を、ミスター・ポポだけが見守っていた。
その顔は、どこか優しい無表情だった。
* * *
4日目の朝。
138回目のフュージョン解除で、悟天はもとの姿に戻ることができた。
孫悟天は、やはり運がいい。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。
牛魔王ファンの方、台詞一つもなくてすみませんでした。