何回やり直してもお嬢様が救えない~今度のお嬢様は、なぜか私を離してくれない~   作:名もなきそば付き

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三章の表紙イメージです。AI画像ですのでご注意ください。


第四十話☆気まずかったお茶会

 俺が教会から戻ると、お嬢様はまだ学園にいらした。

 迎えの馬車は中庭の門で待っている。御者に挨拶すると、まだお茶会の途中だと教えてくれた。

 借りた部屋の前まで行き、戸口の係へ声をかける。

 中には令嬢たちの話し声があった。

 話が途切れるたび、茶碗を置く音だけが聞こえた。

 お嬢様が戸口の俺に気づき、手を上げられる。

 

「戻ったのね。もう少し待てる?」

「はい。こちらでお待ちします」

 

 俺が廊下へ戻ろうとすると、主催した令嬢が席を勧めてくれた。

 先日の招待の件で、フィオナと話した方だった。

 

「先生方にお借りした部屋ですから、人数が少し増えても構いませんわ。よろしければ」

 

 お嬢様が俺へうなずかれる。

 俺は礼をし、用意された椅子へ座った。

 卓にはフィオナとお嬢様、それに三人の令嬢がいる。クラウディア様も誘われたが、工房の説明があるので来られなかった。

 机の端には小さな焼き菓子が並び、紅茶が人数分注がれている。

 フィオナは俺を見ると嬉しそうにした。

 隣の令嬢が、領地から持ってきた果物の話を続ける。

 

「乾かして保存するものですから、王都でも召し上がれます。ただ、生のものとは少し味が違いますの」

「そのまま食べるんですか」

 

 フィオナが尋ねた。

 

「ええ。お菓子にも入れます」

「私の家でも、母が小さく切ってパンへ入れていました。もしかしたら似ているかもしれません」

 

 令嬢は自分の皿から、菓子を一つ示した。

 フィオナはその菓子を一口食べてから答えた。

 

「もっと酸味がありました。こちらは甘いですね」

 

 ごまかさない返事に、令嬢が少し笑った。

 そのあと、持ってきた茶葉の話になった。

 主催した令嬢は、家で普段使うものと、客へ出すものが違うという。香りの強いものは、菓子へ合わせると分かりにくくなるらしい。

 フィオナは茶碗を少し持ち上げ、香りを確かめた。

 

「こちらは、どんなお菓子に合わせるんですか」

「今日のような、少し甘いものに。もっと軽いお菓子なら、別のものもありますわ」

 

 令嬢は用意した茶葉の包みを見せた。

 包みを開き、使われている茶葉を順に説明してくれた。

 お嬢様も、屋敷では朝と夕方で違うものが出ることがあると話された。

 フィオナは大聖堂では大きな鍋で淹れることもあると言い、その違いに驚いていた。

 

「少しずつ淹れたほうが、よいのですか」

「人数によると思うわ。教会なら、一度に飲む方が多いでしょう」

 

 お嬢様が答えた。

 フィオナはうなずき、今度は店で買う茶葉のことを話した。

 主催した令嬢が、自分も店へ行って選んでみたいと言う。

 

「お家へ届くものが多いんです。どこで売っているか、あまり知らなくて」

 

 その話を聞き、フィオナの顔が明るくなった。

 王都の店なら、彼女のほうが知っている。

 店の場所を説明し、家の者に道を確認してもらえば案内できると答える。

 令嬢はそれでも嬉しそうだった。

 

 卓の端にいた別の令嬢が、庭で育てる花の話をした。

 茶葉に使うものではなく、見て楽しむための花だ。

 フィオナは色を尋ね、教会の庭にも似たものがあると言った。

 俺もその花を知っていたので、咲く場所だけを答える。

 フィオナと令嬢が、どのくらい日が当たる場所に植えているか話している。

 お嬢様は花の形を知らなかったらしく、令嬢の帳面にある小さな絵をご覧になった。

 

「この形なら見たことがあるわ。庭師に名前を聞いてみる」

 

 その言葉に、令嬢が笑った。

 今度は咲いたものを持ってくるという。

 ほかの令嬢も自分の庭にある花を一つ挙げ、話が続いた。

 沈黙がなくなったわけではない。

 でも、誰かが考えている間を、急いで埋めなくてもよくなっていた。

 俺も勧められたものをいただいた。

 果実を砂糖で煮てから使っているらしく、焼いても中が柔らかい。

 お嬢様が俺の顔をご覧になった。

 

「お好きなほう?」

「はい。おいしいです」

 

 主催した令嬢へ礼を言うと、彼女はほっとしたようにうなずいた。

 卓の上で料理の話が続く。

 初めから親しく話せたわけではなかったらしい。それでも、全員が何か答えられる話題なら、言葉が少しずつ増えた。

 

     ☆

 

 お茶を注ぎ足す頃、フィオナが教会の仕事について聞かれた。

 聖女候補として何を教わっているか。その質問に、彼女は日々の診療と授業のことを答える。

 

「治療の術を使うのですか」

「はい。先生に診ていただいて、私にできる分を担当しています」

「では、頼めばいつでも治していただけるのかしら」

 

 令嬢の声には、悪気はなかった。

 教会へ頼むことと、目の前の聖女候補へ頼むことが同じなのか、知らないのだろう。

 フィオナは茶碗を置いた。

 

「その場で分かるものなら、お手伝いできるかもしれません。でも、詳しく診ていただく必要があるなら、診療室へご案内します」

「お忙しい方を待つより早く済むのではなくて?」

 

 フィオナが困ったように笑った。

 俺は返事をする前に、お嬢様の声を聞いた。

 

「早いかどうかだけでは決められないでしょう。何の怪我かも分からないのだから」

 

 質問した令嬢はお嬢様を見た。

 

「それはそうですわね」

「フィオナにも授業があるもの。いつでもと言われたら困ると思うわ」

 

 お嬢様が付け加える。

 フィオナはうなずいて、もし困ることがあれば先生へ一緒に話すと答えた。

 令嬢も茶碗へ手を伸ばした。

 俺はお嬢様の横顔を見た。

 彼女にも同じことを言っていただけるとは、以前は思わなかった。

 

「ノエル」

 

 呼ばれて顔を戻した。

 

「診療室の場所を聞かれているわよ」

 

 主催した令嬢が、学園の診療室の場所を尋ねていた。

 俺は謝り、診療室の場所と診療を受けられる時間を答えた。

 教会の診療時間も伝えた。

 令嬢は自分の帳面へ書いて、お茶を飲み直した。

 

     ☆

 

 お嬢様が帰る時刻になると、話を切る場所を確かめて立たれた。

 俺も席を立つ。

 フィオナは立ちかけたが、主催した令嬢へ目を向けた。

 

「私はもう少し伺っていてもよいですか。教会へ戻るまで、まだ時間があるので」

「もちろんですわ」

 

 返事を聞いて座り直す。

 お嬢様は別れの挨拶をし、戸口へ向かわれた。

 俺も令嬢たちへ礼を言う。

 廊下へ出たところで、主催した令嬢が追ってきた。

 

「セレスティア様、先日はありがとうございました」

「もう聞いたわ。今日は誘っていただいたのだから、私がお礼を言うところでしょう」

 

 お嬢様が少し笑われる。

 令嬢は手を合わせ、まだ戸の向こうにいるフィオナを見る。

 

「すぐ仲よくお話しできると思っていました。でも、何を伺えばよいか分からなくて」

「初めてなら、そういうこともあるわ」

「今日のように、少しずつでよいのでしょうか」

「私はよいと思う」

 

 令嬢の肩が緩んだ。

 お嬢様は次の授業のことを一つ話し、ではまた明日と告げられた。

 俺はその横へ並び、馬車へ向かった。

 歩いている間、お嬢様は何か考えていらした。

 

「お疲れになりましたか」

「少し。でも嫌だったわけではないの」

 

 そうおっしゃって、机の上にあった菓子の話をなさる。

 領地ごとに食べるものが違うことを、令嬢の口から聞くのは楽しかったらしい。

 俺は焼き菓子の味を思い出し、今度は屋敷でも作っていただけるかもしれないと答えた。

 

「同じでなくてもいいわ。あの方のお家のお菓子なのだから」

 

 もっともだった。

 俺は馬車の戸を開け、お嬢様が乗られるのを待った。

 

     ☆

 

 その夜、フィオナから短い紙が届いた。

 今日のお茶を終え、無事に教会へ戻ったこと。誘ってくれた令嬢と、次の実習について話したこと。

 最後に、授業で聞いた言葉を一つ確かめたいと書いてある。

 俺はお嬢様へも紙をお見せした。

 読み終わったお嬢様は、その言葉なら先生から聞いたと言われた。

 

「明日、私から話してもいいわ」

「ありがとうございます」

 

 俺が礼を言うと、なぜあなたがお礼を言うの、と返された。

 代わりに頼んだつもりではなかったが、聞かれたことを解決していただいたので、自然に出てしまった。

 お嬢様は紙を俺へ返し、椅子へ腰を下ろされた。

 

「私から話すと言ったでしょう。そんなにかしこまらなくていいわ」

「はい」

 

 俺は明日の予定へ、紙を一枚挟んだ。

 フィオナの話を聞く時間と、お嬢様の稽古の時間は重ならない。

 仕事で休む授業についても、今日借りた書き取りで補える。

 お嬢様が手を伸ばし、俺の帳面の端へ触れられた。

 

「今はお茶の時間でしょう」

 

 俺は帳面を閉じた。

 卓には二人分の皿がある。お嬢様は昼の菓子とは違うものを選んでいらした。

 

「こちらは、何が入っているのでしょうか」

「食べてから当ててみて」

 

 小さく切って口へ入れる。

 果実ではなく、細かく砕いた木の実だった。焼いた香りが強い。

 俺が答えると、お嬢様は正解だと笑われた。

 もう一つの皿から、ご自分の分を取られる。

 お茶はまだ温かかった。

 

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