旅立つ幼馴染を見送ったTS薄細美少女の俺。十年後、スラム街の娼館にて再会を果たす 作:しゃふ
「……アルスの野郎。
書き置き一つで消えやがって」
「次会ったときはただじゃ置かないわ。
ちゃんと、お別れも言えてないのに」
リーズレットを連行し、全てを終わらせたダグラスとジェルナー。
宿に帰った彼らが見たものは、空っぽになった彼の部屋だった。
『十年前、拾ってもらった恩は一生忘れません。
本当に、ありがとうございました』
そんな言葉で締めくくられる手紙を受け止めるため、ダグラスは高らかに宣言する。
「おい、全員集めろ。
今夜は飲むぞ。
あの馬鹿の分もな、全員で」
S級パーティ黒狼と番犬。
十年前に拾った小さな狼は、ずいぶんと成長したらしい。
集められた者たちは、それぞれの想いを抱えながら、夜の酒場へと繰り出して行く。
「……やっと帰ってきたと思えば、こそこそとこんなものを置いていきやがって」
『店長へ。
勝手に逃げちゃってごめんなさい。
今まで、本当にありがとうございました。
拾ってもらって、働かせてもらって。
厳しいこともいっぱい言われたけど、でも、誰よりも優しくて、勝手だけど、お父さんみたいに思ってました、
約束、ちゃんと守ります。
妹さんの分まで、しっかり、生きます。
ほんとうに、ありがとうございました。
P.S オムライス、すっごく美味しかったです。娼館が潰れたら、お店出しちゃいましょう。もし、そうなったら、とくべつに食べにいってあげます。
きっと、今度は家族みんなでですよ』
「こっちは娼館のみんなに……もう、急すぎるわよ」
店のバックヤード。
コソコソとした物音に気付いた彼らが見たものは、小さな少女の背中と、残されたいくつもの手紙だった。
「今なら、追ったら間に合うんじゃないかしら。
お別れの挨拶くらい、できると思うわ」
「……いい。
首輪が外れたらここに来るなと言ったのは、俺だ」
上を向いた店長の顔に、ハニイは背を向ける。
男という生き物をよく知っている彼女は、無粋なことはしなかった。
「開店の準備をする。
ハニイ、リルカを起こしてこい。
今日は、経理を教え込むぞ」
「はいはい、私がしてくるから。
店長さんはここで休んどきなさいね」
店に戻るハニイ。
彼女とて、思うものはいくつもある。
何十年と生きても、別れというものに慣れることは、ないのだから。
「しあわせに、なれよ。
……リーナ」
バックヤードには、もう一人しかいない。
うずくまり、大粒の涙を床に落とす男をからかう少女は、もうこの場にいないのだ。
少しだけ、静かになった娼館リユニオン。
出会いと別れを繰り返しながら、彼らは今日もまた夜の街で淡く輝くのだろう。
——そして、私は。
「そろそろベッド、行こうよ、アルス」
「……ん、そうだね」
街をずっと、南に下った先にある小さな休憩地。
冒険者たちを支援するためにあるいくつかの宿の一つに、私たちは泊まっていた。
今は夜。
それも、深夜といってもいい時間だ。
旅の疲れはあるけど、せっかく良い部屋を取ったのだ。
……今日は、いっぱい可愛がってもらわないと困る。
そう思って、ドーンと、アルスの方へとダイブしたときだ。
「腕、太くなったね」
「え?」
唐突に、アルスに言われた。
「ほら、ブレスレットもピッタリ入ってる。
筋肉も、ちょっとだけついてるかな」
「……まじ?」
言葉を聞いて、私は自らの腕を見る。
……たしかに、なんかちょっと太くなってる気がする。
いや、決しておデブになってるとか、そういうのじゃないけど。
でも、前の棒切れ状態よりは、マシになってるのは確かだ。
「おっぱいは大きくならないのにね」
わたしは若干複雑な気持ちになりながら、自らの身体に視線を落とす。
……白い肌は、ちょっとだけ焼けてきてるし、なんか腰とかにも肉がついてる気がする。
てか、わりと標準体型だ。痩せ型ではあるが。
最近はその、夜もあんまりバテなくなったし、少しは成長してるのかもしれない。
ま、おっぱいは相変わらずないけど。
……うむ、こうなったら、アルスに大きくしてもらうしかない。
そう思いながら、私はすっと、脱ぎ捨てた服を近くに投げた。
「……ん、あるす、しない、の?」
少し複雑そうな顔をしているアルス。
私は心配になって、彼の顔を覗き込んだ。
ど、どうしたのだろう。
まさか、その、引かれてたりするだろうか。
こう、わりと最近は、その、猿みたいに盛ってるし。ちょっと、えっちな子って思われてたりするのかな。い、いや、そんなことない。というか、えっちなのはアルスも同じだし、えーと、その、決して私だけというわけでは——
謎の言い訳を繰り返す私。
そんな姿を見てか、アルスが声を放った。
「思ったんだけど、さ」
「う、うん」
「……避妊魔法の効果、もう切れてるよね」
……あ。
「え、えと、なんの話、カナ」
私はぴゅーぴゅーと口笛を吹く。
薄々は気づいていたこと。
でも、言ったら、この身体の火照りをどうにかすることができなくなるんじゃないかって、言えなかったこと。
「ほ、本番はしてないし、大丈夫、のはず。
ちょっと、触れたりはしてるけど、その、できては、ない、はず」
私はいじらしく声を溢しながら、アルスを見つめる。
そう、毎日のように行為を繰り返している私たちでも、まだ、本番と言える行為はしていない。
アルスの英雄を迎え入れるためには、まだ少々、心の準備が足りてないといいますか、その、恥ずかしいと言いますか。
真っ赤になる顔。
う、わたしだけ、大騒ぎなんてずるい。
アルスの方も、ちょっとくらいテンパってくれないと。
そう思って、彼の顔を覗いたとき。
「……リーナは子ども、何人欲しい?」
耳元で、囁かれる。
「へあっ!?」
い、いきなり人数なんですかアルスさん。
そ、それは、その、なんといいますか、ひゃ。
どうしようもなく火照る身体に、耳にかかるアルスの息。
こうなってしまったら、もう、私の脳はちゃんと動いてくれない。
だから、私は言ってしまった。
……自らの、本音を。
「——八人」
瞬間、押し倒された。
「……アルスぅ、抱っこしてー。
腰が、ゴリゴリいってるよ。」
「も、もうちょっとだから我慢しよ?
ほら、あそこの看板までだから」
内股の足を引きずりながら、私は歩く。
辺り一体に広がるのは、緑の草原。
隣のアルスと喋りながら、私たちは道なき道を進んでいた。
旅の目的地。
それは、南にある故郷の村。
そして、ここはその最後の分かれ道だ。
「ふぅ、やっと着いた。
……あー、なんか見覚えあるなぁ、ここ」
「うん。
十年ぶりだけど、案外覚えてるんだね」
故郷の村の名前が刻まれた看板の右側。
その先にある景色を私たちはよく覚えていた。
何度も一緒に駆け回った思い出の地。
若干、ノスタルジックな気分に浸りつつも、私はぎゅっと、彼の手を握った。
「看板を右に行けば、僕らの村がある。
一応の、旅の終着点だ」
「逆に左に行けば、まだ見ぬ大地。
ふふ、なんかすっごくロマンチックだね」
隣のアルスに笑いかける。
草原の先にある分岐点。
うむうむ、とっても冒険って感じで悪くないじゃないか。
「せーので指差して決めよっか。
どっちの道に行くか。
好きな方を指差すってことで」
「おっけー。
ま、もう決まってるでしょ」
選ぶ道先。
私の答えはとっくに決まっている。
それはきっと、アルスも同じだろう。
「「——せーのっ!」」
一致した指先。
それを確認した私たちは、再度顔を合わせた。
「やっぱ私たちは気が合うね」
「だね。
じゃ、行こっか、まだ見ぬ冒険を求めて」
こうして、私たちは歩き出す。
今度は離れることなく、ずっと二人で、いつまでも。
——いや。
「……アルス、大好きだよ」
「うん。僕もだよ、リーナ」
きっとすぐ、一人増えることになるだろう。
『旅立つ幼馴染を見送ったTS薄細美少女の俺。十年後、スラム街の娼館にて再会を果たす』完
ということでこれにて完結になります!
投稿遅れちゃってごめんなさい!風邪引いてました。
完結は完結なのですが番外編的なのはちょくちょく書いていこうかなと思います。
……全年齢じゃ描けないエッチなやつとか。
そのときはこっちでもお知らせするのでお気に入りはそのままの方がいいかもしれません。
改めてここまでお読みいただきありがとうございました。
評価、お気に入り、感想、ここすき等々、物凄く執筆の励みになっていました。良ければ完結記念に色々ポチッとしていただけると嬉しいです(強欲)
では、また会いましょう!