クリスマスの夜。
そこから4日経った。
俺はまだ雪ノ下の家にいる。
とんでもなく爛れた生活をしている。
詳しくは言わないが、とんでもなく爛れた生活をしている。
ホントはめちゃくちゃ詳しく言いたいが、とんでもなく爛れた生活をしている。
昨日から俺の携帯に小町からのお怒りメールとお怒り留守電が掛かりまくっているし、親からの着信も来てる。
流石にヤバいと思って俺が帰ろうとすると、雪ノ下が『もうちょっとだけ一緒にいましょう?』なんて言うものだから帰れていないのだ。帰れるわけがない。
そして結局、また泊まってしまった。
朝起きるとベッドに雪ノ下の姿はなかった。
温もりも感じないし、俺よりもだいぶ早く起きてる様だ。
昨日の夜も遅くまで色々してしまっていたので、今の時間は朝というよりも昼前になっている。とりあえず朝ごはん兼昼ごはんを雪ノ下と食べようとリビングに行く。
小町が居た。
痺れを切らした小町は雪ノ下からマンションの住所を聞き出して俺を迎えにきたそうだ。笑顔だけどキレてるなこれ。キレてる小町なんていつぶりだろうか。よし、帰ろう。
こうして俺と雪ノ下の5泊6日に及ぶ初夜は終わった。
小町を後ろに乗せて自転車二人乗りで家に向かう。ちなみに二人乗りは禁止だから良い子は真似しない様にね。
「もう!お兄ちゃんと雪乃さんの事だから2、3日は泊まるかなーって思ってたけど泊まりすぎだよ!年越しまで泊まるつもりだったの!?」
「流石に年越し前には帰るつもり……だったぞ。たぶん。絶対。」
「絶対嘘じゃん!お父さんもお母さんも、お兄ちゃんが雪乃さんのこと乱暴にしてないか心配してたんだからね!」
「俺がそんな事するわけないだろ。というか親なら俺の心配をしろよ。可愛い息子が帰ってないんだからまずそっちだろ。なんで雪ノ下の心配してんだよ。」
「だってお兄ちゃんより雪乃さんの方がお母さんと仲良いもん。」
いつのまにか雪ノ下は比企谷家でのヒエラルキーに入り込んでいた様だ。小町が言うには、現在の比企谷家のヒエラルキーは決まっていて、
母>小町>雪ノ下>カマクラ(猫)>俺≧父
らしい。雪ノ下は猫が好きなのでカマクラは出世した。俺と親父はとうとう猫に負けてしまったのだ。比企谷家の最下位を俺と親父が争っているが、雪ノ下に愛されてる俺が一歩リードしている。父親の威厳は比企谷家に存在しない。
家に帰ると、親からは特に何も言われなかった。雪ノ下は俺の家に入り浸っていたし、なるべくしてなったというだけのことだしな。俺達は1年半以上経ってから結ばれたわけで、世間的には健全過ぎるスピードだ。とやかく言われるものでも無い。とはいえ年頃の男女が何日も部屋に閉じこもっているのは不健全ではあるので、一旦剥がされたわけだ。
戻ってきたはいいものの、年末は特にやることが無い。
親も休みで家に居るが、だからと言って親と何かするという訳でもない。
お袋は小町と料理したり話したりし、親父は本を読み、俺は寝転がってゲームをしている。
カマクラが俺の上に乗ってきた。
俺より立場が上になった事を自慢しにきたのだろう。
よく見るといつもよりふてぶてしい顔をしている。
猫の重さに我慢しながらゲームをしていると小町が話しかけてきた。小町が話しかけるとカマクラはどこかに行ってしまったので、ほんとに立場を理解してるのかもしれんな。
「お兄ちゃん、今年はお正月どうするの?」
「どうするって、いつもと変わらんだろ。」
小町と一緒に近所に初詣をして、その後は小町の福袋狩りの荷物持ちだ。両親は初詣に興味がないらしいので来ない。俺だって興味はないんだけど、小町を1人で行かせるわけにはいかんからな。
「そうじゃなくて雪乃さんのこと。」
「雪ノ下次第だな。去年は家の手伝いがあったらしいし、今年もあるんじゃないか?そういや今年はまだ話聞いてなかったし後で連絡しとく。」
雪ノ下家の年末年始は忙しい。議員であり社長でもあるお偉いさんだ。去年は雪ノ下も忙しかったようで、三が日も会えなかったくらいだ。
「その必要はないわ。今年は姉さんが全てやってくれるから、年末年始ずっと一緒にいれるの。喜びなさい。」
「わ!雪乃さんだ!やったー!初詣一緒に行きましょー!」
「そうね。小町さんのオススメの福袋教えて欲しいわ。」
いつの間にかリビングに雪ノ下がいて、小町とワイワイ話してる。そうか、今年は一緒にいれるんだな。楽しみだ。ん?ちょっと待てよ?
「雪ノ下、どうやって入ってきたんだ?チャイムなってなかったぞ。」
「普通に玄関から入ったのよ。当たり前じゃない。」
「鍵掛かってただろ。ピッキングでも覚えたのか?」
「失礼ね。普通に鍵を使って入ったわ。」
「なんでウチの鍵を持ってんだよ。」
「お義母様から頂いたのよ。」
うちの家族は雪ノ下を信用し過ぎじゃないか?
まあ雪ノ下は信用できるから俺も文句はないけど。
「にしても意外だな、雪ノ下(陽乃)さんが全部やってくれるなんて。雪ノ下と一緒に年末年始過ごすの楽しみにしてそうだったのに。」
雪ノ下さんも俺と同じくらい雪ノ下の事が好きだ。雪ノ下さんも普段は大学生で忙しい。こういう機会を逃す人では無いはずだけど。
「私達に気を遣ってくれたのよ。その代わりに比企谷くんをどこかで1日貸し出す約束をしたから、姉さんと話しておいてね。」
「勝手に俺の1日を交渉材料にするなよ。人権問題だぞ。」
「何言ってるの?比企谷くんの人権は私の物よ。」
「人権まで渡した覚えはない……」
もしかしたら人権を失ってしまったから俺は猫(カマクラ)に立場で負けたのだろうか。カマクラがまた俺に擦り寄ってきたので威嚇しておいた。人権を失ったとしても俺は人間だ。人間を舐めるなよ!!
俺がカマクラと戯れていると、雪ノ下は俺の両親に挨拶をしに行くようだ。やはり雪ノ下は礼儀正しい。カマクラも雪ノ下を見習え。そして俺を敬え。さっきから顔がふてぶてしいぞ。
「今年も色々とお世話になりました。こちらつまらない物ですが。」「いいのよ雪乃ちゃん!こっちこそ八幡が毎日迷惑かけてるでしょ〜あの子捻くれてるから!」「いえ、私も彼には毎日……」「いえいえ…」
横目で雪ノ下と両親の挨拶を眺める。マジで仲良いな。お袋なんて俺と話す時より笑顔だし。
「それで、こちらをお願いしたくて」「あら、私達でいいの?」「はい。ぜひお義父様とお義母様にお願いしたいです。」「やだ、嬉しいわ…。これからもよろしくね。」
……………なんか、見覚えある紙渡してるんだけど。
「雪ノ下。それ、いま何してるの?」
「婚姻届の証人欄のサインをお願いしたのよ。婚姻届書いたじゃない。忘れたの?」
「覚えてるよ。俺達が18歳になったら出そうって話じゃなかったっけ?」
「だから今のうちにサイン貰っておくのよ。」
「急ぎ過ぎだろ…。それに、雪ノ下の家族に会ってからって言ってなかったっけ?婿入りがどうとかで揉めるだろうからって。」
「ここに来る前に少し話したけれど、案の定揉めたわ。だからお義父様とお義母様にサインを貰っておくのよ。出してしまえばこっちのものよ。」
「それ大丈夫なのかよ……」
俺の親は涙を流しながらサインを書いていた。なんか感動的なシーンだけど、これ絶対あとで揉めるやつだろ。親同士でなんとかできるならいいけど、俺を巻き込まないでくれよ。
こうして俺と雪ノ下の婚姻届はいつでも提出できる状態になり、雪ノ下が用意していためちゃくちゃゴツイ額縁に額装され、俺の部屋に飾られることになった。ちなみに鍵付き。誰が他人の婚姻届を盗むんだよ。
年末年始は雪ノ下は比企谷家にお泊まりする。雪ノ下は今は一人暮らしなので、家帰っても一人は寂しいだろうというお袋の配慮だ。もちろん俺の部屋で。隣の部屋の小町に耳栓を使って寝るように言ってみたら殴られた。
そうして年末は過ぎていき、例年通りに年越しの瞬間に小町がジャンプをすることで、比企谷家の一年は締め括られた。小町はもう中3なのに、いつまでこれやるんだろうか。
初詣。
雪ノ下と小町のおめかしが終わったので一緒に神社に向かう。ちなみに俺には用意されてない。比企谷家は男にはとことん雑な扱いしかしないのだ。
「あっ、きた!ゆきのん、ヒッキー、小町ちゃん、あけおめー!今年もやっはろ〜」「やっはろ〜です!結衣さん!」「あけましておめでとう、由比ヶ浜さん。」「結衣、その挨拶は年始くらいやめろし」「いいじゃんいいじゃん」
時間を合わせて生徒会メンバーとも現地合流した。
由比ヶ浜のやっはろ〜は年始でも使えるんだな。万能だ。
残念ながら戸塚はテニス部メンバーと他の神社に行くらしい。戸塚は家も遠いから仕方ない。材木座も呼んだけど戸塚が居ないなら来ないらしい。まぁ、このメンツだと材木座は居辛いよなぁ。葉山は雪ノ下が言うには雪ノ下さんと一緒だとか。マジで俺は男友達いなさ過ぎる。折角だからこれもお祈りしておこう。
今年のお祈り内容は雪ノ下のこと。今年受験の小町のこと。俺の男友達のこと。強欲に3つもお願いしておいた。
俺がお祈りを終えると、隣では一色がめちゃくちゃ祈ってた。長い。長いよ。俺が参拝する前から祈ってたのにまだ祈る事あるのかよ。迷惑なので引きずり下ろす。生徒会長としての自覚を持て。
「先輩!まだ私祈ってたんですけど!」
「長いんだよ、どんだけ祈るつもりだ。」
「108個考えてきたんですよ!まだ20個くらいだったのに!」
それは煩悩の数だ。賽銭一つで神を酷使させ過ぎだろ。
「もうちょい絞れよ…ちなみに何お願いしたんだ?」
「とりあえず富と名声と力ですね。もっと欲しいです。」
海賊王にでもなるつもりか?小町は総武受けるって言うけど、俺が卒業すると一色が小町の先輩になるんだよなぁ、めちゃくちゃ心配だ。
「生徒会長なんだから充分持ってるだろ……それと、来年は俺の妹が総武に入るから仲良くしてやってくれ。」
クイッと目線を向ける。小町が俺に気付いて手を振ってくる。うん、やはり可愛い。せっかく生徒会に入ってるんだし、小町に声掛けた男は死刑にする校則でも作るか。
「え、先輩の妹さんなのに可愛い。ありえないです。私が確保します!はやく妹さんを私に紹介してください!会長命令です!」
「生徒会長って教えたくないなぁ……やだなぁ………」
「なにブツブツ言ってるんですか!ほら行きますよ!」
女ばっかりの集団だ。話題は尽きないし、やる事も尽きない。福袋狩りや年始セール、限定品。買いたい物も山程ある。俺はひたすら荷物持ちをするだけ。年始は人混みも凄いので雪ノ下とイチャイチャすることも出来んし、やっぱり材木座を無理やりでも連れてくるべきだったな……。
年始のイベントもひと段落つき、今日は三が日最終日。
やっと家でゆっくりできる。正月特番でもみながらダラダライチャイチャしようかと思っていたら、雪ノ下が制服着て部屋から降りてきた。何故に?
「比企谷くんも着替えなさい。私の実家に行くわよ。」
「それはいいけど、なんで制服?」
「服装のマナーがどうこう言われると思うから、制服で行くのよ。学生にとっては制服が1番の礼服よ。」
「そんな厳しいのか…。」
「母さんは厳しいわ。でも、ちゃんと礼節を守っていれば問題ないわ。ほら、早くしなさい。」
なんだかんだ雪ノ下の実家は行くのは初めてだ。雪ノ下からはメイドやら執事が居て邪魔だから来る価値はないと言われてたけど、興味はある。雪ノ下が生まれて育った家。雪ノ下を育てた両親。会うのが楽しみだ。