Fate/sn×銀英伝クロスを考えてみた   作:白詰草

120 / 120
姫君と騎士王の休日、再び

「わたしもちゃんと魔術の勉強をしてればよかった……」

 

 ファンシーショップの店先で、イリヤがぽつりと呟いた。

 

「金ピカみたいに、アーチャーを受肉できたかもしれないのに……」

 

 真剣な眼差しに、士郎は背筋が寒くなった。

 

「イリヤ、それはやめといたほうがいいと思うぞ……」

 

「あら、どうして?」

 

「だ、だってさ。イリヤに将来好きな人が出来て、結婚するとき困らないか?

 アーチャーを連れて一緒に住めないだろ?」

 

 きょとんとした大きな赤い瞳が、士郎を見上げる。

 

「連れていくって、わたしの家に住むのに?」

 

 士郎は目を瞬いた。そういえば、じいさんもそうだったっけ。

 

「余計に旦那さんが大変になると思うけどな……」

 

 イリヤが首を傾げた。

 

「んー、イリヤの好きなテレビで説明するとさ。

 サザエさんに、すごく頭のいい兄さんがいるようなものだろ?

 兄さんとサザエさんは、とっても仲がいいんだ。

 代わりに、優しいフネさんも、ムードメーカーのカツオくんや

 ワカメちゃんもいない」

 

「ナミヘーさんは、アハトお爺様?」

 

「そうそう。イリヤのじいちゃんは、波平さんみたいに気さくな人か?」

 

 イリヤは眉を寄せ、首を振った。

 

「ううん」

 

「磯野さんちがこうだったら、マスオさん、大変だと思わないか?」

 

 イリヤは頷くしかなかったが、すぐに閃いた。

 

「じゃあ、タマならいいんじゃない?」

 

「タマぁ?」

 

 イリヤが手に取ったのは、くたりとした素材のぬいぐるみだった。やる気のなさそうな顔をした白猫だ。

 

「これにアーチャーのタマシイを移しちゃうの」

 

「そんなことできるのか?

 それもちょっとどうかと思うけどなぁ……」

 

 士郎の常識論に、しろいこあくまは澄まし顔で囁いた。 

 

「ずっとじゃないわ。勉強して、もっといいやりかたを考えるもの。

 リンの魔力の節約にもなるよ」

 

 士郎は考え込み、とぼけた顔の猫を凝視した。

 

「……緊急避難としてはありかも。遠坂ボロボロだしなあ……」

 

 ふと視線を転じると、色違いのぬいぐるみが並んでいる。三毛に茶トラ、そして黒。

 

「だったらこっちのほうがいいんじゃないか? そっくりだ」

 

 持ち上げられた黒猫に、イリヤとお供のセイバーは吹き出した。

 

「シロウ、サイコーよ!」

 

「ええ、本当に似ています。よくぞ見つけましたね」

 

「……イリヤお嬢様。不穏なことをおっしゃらないように。

 衛宮士郎とセイバーも、失礼なことを言うんじゃない」

 

 苦りきった顔で注意するのは、執事服がぴたりと決まったアサシンである。 褐色の肌の偉丈夫は、パステルカラーの店内で浮いていること夥しい。執事と名乗ったからには、イリヤの我がままに振り回されるのは必然だった。

 

「拉致監禁と大差なかろう。彼の部下が、赤いカスケードを作りかねん」

 

「カスケードって何さ。カスタードとは違うのか?」

 

「――貴様、ちゃんと勉強しておけ。

 分からない言葉に生返事して、冬のテムズ川に蹴り落される羽目になっても

 知らんぞ」

 

「……それ、おまえの体験か?」

 

 アサシンは無言で目を逸らし、セイバーが助け舟を出した。

 

「シ、シロウ、カスケードは水の流れる階段のことです。

 そうそう、カスタードといえば、あの大判焼きは実に美味でしたが」

 

「お、おう、サンキュ。大判焼きは帰りに買おうな」

 

 セイバーが拳を握りしめたのは、マスターの感謝と大判焼きとどちらに反応したのだろうか。

 

 イリヤは執事服の裾を引っ張った。 

 

「ねえ、どうして水が赤いの?」

 

「水ではないからだよ」

 

 はぐらかすような答えに、衛宮姉弟の眉が寄る。

 

「階段に赤い水が流れるってこと?」

 

「でも水じゃないんだろ」

 

 今度はセイバーが視線を逸らした。

 

「……彼の宝具ならば、容易いでしょうね。

 恐らくは、ランサー相手に出したあれです」

 

 士郎とイリヤは棒立ちになった。

 

 アーチャーの宝具の一つは、千人以上もいる騎士たちの集団だった。赤薔薇の紋章の白い鎧に、金剛石の斧を携えた、一騎当千の猛者たちだ。 

 

 ものすごく、よく切れそうだった。――人体が。それが、階段を流れる赤い水の正体なのだろう。

 

「わかったな。滅多なことは言わないように」

 

 紅白と金が小刻みに上下動し、白はそのまましょんぼり頭を垂れた。

 

「うう、アーチャーはやめとくね。じゃ、シロウはどれがいい?」

 

「俺もか!? それはやめてくれ」

 

「じゃ、こっちならいい?」

 

 差し出された柴犬のぬいぐるみに、セイバーの表情が解ける。

 

「何と愛らしい……。イリヤスフィール様はセンスがいいですね」

 

 士郎は座り込みたくなった。

 

「だからセイバー、そういう問題じゃないんだ。俺の魂の危機だ」

 

 そんな寸劇にエミヤは額を押さえた。

 

「……まったく、付き合っていられんよ」

 

 小さな義姉は、艶然と微笑んだ。

 

「大きいシロウのも選んであげるから、すねないの。

 ねえ、これはどう?」

 

 イリヤが抱き上げたのは、妙に鋭い目つきの、実物より大きいシャム猫だった。セイバーは力強く頷いた。

 

「完璧です」

 

「でしょ? ねえ、セイバーはどれが好き?」

 

「え、では、あの獅子が……」

 

 時を超え、母から娘に受け継がれる、騎士王との休日。微笑ましいが、ついて行けない大小の衛宮士郎だった。




第82話でエミヤがぶら下げていた、ファンシーショップの袋の正体です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

“黒”の紅茶《完結》(作者:山中 一)(原作:Fate/)

Fate/Apocryphaを取り扱った作品がないなと思って書きました。▼ケイローン先生は出てきません。代わりに紅茶さんが“黒”の陣営に召喚されます。▼一旦区切りましたが、気が向いたのでちょこちょことやっていこうかなと思いなおしました。▼更新は気まぐれになります。▼


総合評価:28588/評価:8.96/完結:52話/更新日時:2015年03月29日(日) 18:27 小説情報

小学生に逆行した桐山くん(作者:藍猫)(原作:3月のライオン)

プロとして大成して、八冠まで成し遂げた桐山零くんが、逆行してあの事故の直後(小学3年生)に戻る話です。▼2回目の人生。幸田家には迷惑はかけられない!と施設に入った上でプロ棋士を目指します。▼大人として、プロ棋士として生きた数十年の記憶がある彼の行く手を阻めるものは居ない…。周囲と将棋界に嵐を巻き起こしながら、桐山くんは理想の対局を求めて突き進んでいきます。▼…


総合評価:33637/評価:9.26/連載:87話/更新日時:2026年03月02日(月) 00:03 小説情報

せっかくバーサーカーに憑依したんだから雁夜おじさん助けちゃおうぜ!(作者:主(ぬし))(原作:Fate/zero)

Fate/ZEROの雁夜おじさんがあまりに気の毒!虚淵さん、アンタって人はー!▼そんなことを考えつつ眠りについた男は、気がついたら第四次聖杯戦争のバーサーカーになっていた!▼「ああ、きっとこれは夢だな。夢なら好き勝手にしてやろう。雁夜おじさんが幸せになるエンディングへと導くのだ!!」▼原作知識を生かしつつ、雁夜おじさんのために奮闘する挙動不審なバーサーカー。…


総合評価:42140/評価:8.22/連載:33話/更新日時:2022年06月23日(木) 12:43 小説情報

成り代わりリンクのGrandOrder(作者:文月葉月)(原作:Fate/)

 気がついたら、ハイラルにて『リンク』という金髪碧眼の少年になっていた元ゼル伝プレイヤー。▼ 躊躇いながらも、成ってしまったからには『リンク』に恥じない生き方をしようと努めた彼は、ゼルダ姫に会い、マスターソードの主となり、『勇者リンク』その人として戦いの運命に投じることとなる。▼ 自らが『リンク』となったことで、その運命の過酷さと理不尽さを思い知った彼は、『…


総合評価:30374/評価:8.35/連載:143話/更新日時:2023年12月17日(日) 14:24 小説情報

ゲマトリア(偽)(かぼちゃ)の青過ぎる空(作者:それがダメなら走っていこう)(原作:ブルーアーカイブ)

「やって見せろよ先生、なんとでもなるはずだ!」▼ネットミームで有名な踊るカボチャ偽マフティーの姿でブルアカ世界に転生してしまった男。▼ヘイローも無ければシッテムの箱ことアロナちゃんもおりゃん。▼清廉さの欠片も無く原作知識を悪用し小金を稼ぐことを思いつくが……▼天国にも地獄にも行けないカボチャ。▼偽物の偽物の偽物の明日はどっちだ。▼あ、偽マフティーになってしま…


総合評価:27047/評価:9.12/完結:84話/更新日時:2025年03月09日(日) 22:30 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>