魂の情報を知覚するために、彼の遺した魔法をアレンジする。
魂と言っても何を定義にするか、その時点で不明瞭な部分は大きい。
私は強い。でも天才ではない。それでも、会いたい人がいる。
だから私は魔法を極めることにした。
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「うーん、手詰まりね……」
寝食を忘れて十年研究に没頭したけれど、手がかりすら掴めずにいた。
一人でやれることには限界がある。ましてや未踏の領域に入ることなど、たかだか彼の手本に倣っただけの私ができる業ではない。
「……よし、決めた」
──私でダメなら、外部の手を借りよう。
ということで、彼の遺産を全世界に公開することにした。
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レティ教は今や世界の三大宗教に名を連ねている。私はただ、血が流れることとあの花畑が吹き飛ばされることを憂いだだけなのに。
そんなわけだから姿を隠して行かなければ買い物すらできなくなっていた。神様になりたいと思ったことはないのだけれど。
だけど今回ばかりは有名人になったことが功を成した。彼の遺産。魔法の記録を全世界に公開すると、文化レベルがめきめきと上昇していく。
独りは寂しい。それでも、待つのは得意になっていた。
何か成果が上がれば様々な国と共有し、戦争のきっかけになりそうなものは揉み消す。そうして過ごす内に、彼を喪って1990年が経過していた。
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「行ってくるわね、サレク」
今日も食事を摂り、家をピカピカに磨き上げ、私は外に出た。
「あら……?」
珍しい。花畑に先客がいた。温かな日差しに目を細め、座っている。
「隣、いい?」
「……ん? あ、はい。どうぞ」
魔力に充ち満ちている女の子だった。この感じ、かなりの腕前と見て取れる。
「綺麗よね。ここ」
「そうですね。……あなたは?」
「私? 私はレティ。しがない魔法使いよ」
「わあ奇遇ー、わたしも魔法使いなんです」
久々に気を遣わないやりとりができた。その気楽さが胸にこみ上げる熱を放った。
「貴方の名前は?」
「わたしは『アリム』です。よろしくお願いします、レティさん」
それからはたわいないおしゃべりに興じた。こうして誰かと語らえることは、胸の痛みを和らげてくれる。
「おーい、アリムー!」
「あっ、『ポートグラム』。ちょうど良かった」
「誰かと待ち合わせしていたの?」
「はい。あ、『ケザミ』も来たんだ」
「…………」
それから仲良くなるのは早かった。ポートグラムくんとケザミくんは男の子。アリムちゃんがいい緩衝材になってくれた。
「レティさんはどれくらい前からここにいるんですか?」
「そうね……ざっと1990年くらいかしら」
「なあケザミ、レティさんってやっぱり……」
「……ああ」
「レティさんって神様なんですか?」
「ちょっ、アリム!」
「直接聞くか普通……」
「あはは、いいのいいの。でも神様になったのは周囲が勝手に担ぎ上げたからで、私は特に何もしてないよ」
「いや何もしてないは無理があるぞレティさん。あんた文明の発達にどれだけ貢献してきたと思ってるんだ。ただでさえ調停者やってるのに」
「それもこれも、大好きな人のためよ。私は薄情だから、それぐらいの理由でしかないわ」
「……誰なんですか?」
「サレク。魔法の開祖にして、私のことを受け入れてくれた人よ。……今はもうこの世にいないけど」
「なるほど読めてきたぞ。そのサレクさんの遺言でここまで頑張ってきたんだな」
「少し違うわ。私は待ってるの。待ち人がいるの。その人が……サレクが生まれ変わるまで、待つって決めた」
「……いや、レティさん、もう一つの魂を持ってませんか」
「……え?」
瞬間、私の脳内に激震が走った。
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「あっ、きたきた。おーい、レティさーん!」
「おはよう、アリムちゃん。それで、早速本題に入りたいのだけど」
私の中に彼の魂がある。その事実が未だに信じられなかった。仮にそれが事実なら、早急にやらなければいけないことがある。
「今日は二人はいないの?」
「はい。ちょっと席を外してもらってます。それで、魂についてなのですが……」
曰く、魂の認識は最近になって方法が開発されたとのこと。とはいえあまりにも未知の分野なので魂を勝手に弄くるのは禁止されているとのこと。
「そのサレクさんって凄い人ですね。魂に干渉する魔法まで究明してるなんて」
「ええ。彼は私の知る中で最も優れた魔法使いだったから」
一応、彼の使用していた魂から情報を抜き取る魔法は公表されている。しかしあまりにも難易度が高いため誰も手を出せなかった。
「それで、恐らくなのですがそのサレクさんの魂がレティさんの周りを漂っているのだと思われます。もうとっくに転生してもいいのに」
「……ありがとう。なら、私も腹を括るわね」
謝りたかった。無意識下だというのは言い訳にならない。私は彼を内に閉じ込めて、離れることを許さなかった。それでいて独りは嫌だと喚いていた。
贖罪になんてならないけど、サレクが望むなら何度でも殺されてもいい。
だから私は禁忌に手を伸ばす。私の力、魔法全てを用いて。
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「……ごめんなさい、サレク」
貴方が望むなら、何度でも死のう。何度でも殺されよう。
全ての命は土に還る。なら、大地から命を生み出すことだってできる。
花畑の中、地面に手を当てる。そして私の能力と魔法をフル活用して、
「……っ、はぁ、はぁ……」
ほぼ無尽蔵の私の体力を以てしても息が切れるほどの労力。集中力と疲労がとめどなかった。
それでも、再び貴方に会うために。
「アリムちゃん、お願いできるかしら」
「はい。……緊張するなー」
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魂のみとなっていたが、なんとなく大切なことは覚えていた。
自分は、自分を捕らえている誰かを幸せにするために存在している。なのであれば、この苦痛も甘んじて受け入れよう。
「ん……?」
記憶が蘇る。そして、光が見える。自分は、果たして──
『サレク』
それが自分の名。何か大切なことを忘れているような……。
『サレク』
その声を聞くだけで、喜びに打ち震える。
『サレク……!』
呼ばれている。であれば、行かなければ。
「ん……」
「ッ、サレクッ!」
呼びかけられている。背後には
……ああ、そうか。自分は彼女を幸せにするために生まれてきたのだった。
「サレク……!」
「……ああ。ただいま、レティ」
ぼんやりとしながら宙を眺める。……服を着たいな。あ。魔法で着せてもらった。
「あ、貴方は、私に囚われても、離れないで、憎まないでいてくれたの……?」
「言っただろう。傍にいると」
「……触れて、いいの?」
「君が望むなら」
確かめるように互いの手のひらを合わせると、彼女は決壊したように抱きしめてきた。
「あああ……! サレク、サレク! 会いたかったぁ……!」
「……すまない。待たせてしまったか」
「いいの。全部私の所為なの。……っ、サレク……!」
泣き咽ぶレティ。軽く背を叩きながら、原作キャラのアリムにサムズアップをしてみせた。
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「綺麗ね」
「そうだな」
かつて自分が眠っていた花畑にて、自分たちは新たな誓いを立てようとしていた。
「ねえ、サレク。私、何年経っても貴方が好き」
「そうか」
「もう貴方を離したくないの。だから、私の寿命……半分、受け取ってくれる?」
「随分大盤振る舞いだな」
「……貴方が拒絶するなら、それでもいいの。答え、聞かせてくれる?」
「言ったはずだ。俺は、君のために生きる」
「じゃあ、これからも、ずっと一緒」
繋がれた手から正体不明の力が流れるのを感じる。これが彼女の努力の結晶なのだと思うと感慨深いものがあった。
「サレク。大好き。これからもずっと、傍にいて」
「俺でいいのなら」
花弁が風に攫われていく。
これから長い人生だ。まあ、君が傍にいるのなら、きっと大丈夫だろう。
花々は美しさを放ちながら、俺たちを祝福していた。