スキル『日本』。初期は『勤勉になるだけ』のゴミだったが、開花するにつれ、ゼロ戦、忍者、和食、台風……いくらなんでも強すぎて、みな頭を抱えてる‐センエース‐ 作:閃幽零
18話 暴れろ、百鬼夜行!!
最初に異変に気づいたのは、ドーンの魔導兵団に属する、一人の神官系魔法使いだった。
「……っ」
堀の縁で障壁を張っていたその神官は、ふいに手を止め、死霊系統の鑑定魔法を使った。
その結果、
「アンデッドだ……大量のアンデッドがわいている!」
「なに!?」
「数が……多すぎる……先ほどの砲撃で死んだ兵たちが、霊化しているのか……?」
「馬まで……死霊化して……敵についている……な、なんで……」
「くそ馬どもがぁ! 世話してやった恩を忘れるとは、やはり畜生か!!」
隣にいた別の神官が、声を荒らげた。
「ばかな! 係争地《けいそうち》で、死が熟《じゅく》してアンデッドがわくことはある! だが、戦の最中に、それが起きた例など……聞いたこと……」
そこへ、魔導兵団長が怒鳴りつけた。
「学者みたいな疑問はいらん!! とにかく、死ぬ気で対処しろぉおお!」
神官たちが、一斉に手をかかげた。
「聖光陣《せいこうじん》ランク6!」
「浄霊祈願《じょうれいきがん》ランク5!」
「破邪結界《はじゃけっかい》ランク7!」
白い光が、あちこちで弾ける。
何もなかったはずの空間から、ぎゃっ、と短い悲鳴が上がり、黒い煙が、ふっと消えていく。
一体、また一体と、見えない妖怪たちが、光に焼かれていった。
★
その頃、本陣では、カバノンが、馬上で額を押さえていた。
(……なんだ、これは……)
体が、熱い。
それなのに、背筋には、ぞくぞくと寒気が走っている。
視界が、わずかに揺らぐ。
城の輪郭が、陽炎《かげろう》のように、二重にぶれて見えた。
頭の芯が、鈍く痛む。
考えようとするたびに、思考が、泥の中をかき分けるように重くなる。
さらに、腹の奥で、ぎゅるり、と嫌な音が鳴った。
下腹を、内側からねじり上げられるような痛み。
(ぐっ……な、なんだ……変なものは何も食っていないのに……あ、あの時以上の腹痛……っ! ……ぐぅうう! ふざけるなぁあ! に、二度と、漏らしてたまるか……!)
カバノンは、歯を食いしばり、全身の力を下腹に集めた。
「カバノン主席、お顔の色が……」
「……も、問題ないぃい」
カバノンは、手綱を握り直した。
いくら体調が悪かろうと、戦場での将は凛としていなければならない。
「ぁ、アンデッドがわいている、と神官どもが騒いでいたな……まさか、呪われたのか? 私が? 私ほどの高レベルを呪えるとは……くっ……なんなんだ、この土地は……まったくもって、忌々しい」
ぐらりと、体が傾きかける。
それを、鞍の上で、どうにかこらえた。
「……西側の進みが遅い。ゼイ殿下に、土魔法の使い手を300ほど回すと伝えろ。……東側は、あと少しだ。急がせろ」
熱に浮かされた頭で、それでも、カバノンは指示を出し続けた。
★
昼を過ぎたころ。
当初の見込みよりは遅れた。
それでも、ロス軍とは比べものにならない速さだった。
「堀、埋まりましたぁ!」
伝令の叫びが、平原に響き渡った。
その瞬間、城を包んでいた光の膜が、ゆらりと大きく揺らいだ。
ちかちかと、弱々しく明滅する。
そして、ふっと、ろうそくの火を吹き消すように、消えた。
「……よし」
カバノンが、熱と腹痛で赤らんだ顔のまま、薄く笑った。
「ひ……被害は?」
「埋め立ての間に、およそ10万がやられました。……残っている兵は、40万ほどかと」
「……十分だ」
その隣で、ゼイが、ゆっくりと馬から降りた。
「あとは、私がやろう」
ゼイは、城に向かって、右手を掲げた。
全身から、膨大な魔力が噴き上がる。
蘇生でレベルを失ったため、かつての力には及ばない。
それでも、ロスに匹敵するだけの魔力が、渦を巻いて、ゼイの手のひらへと集まっていく。
「帝王流星《ていおうりゅうせい》ランク9!!」
――空が、金色に裂けた。
雲を突き破り、金の炎をまとった岩の塊が、いくつも、いくつも、城へと降りそそいでいく。
障壁は、もう、ない。
一つ目が、天守の屋根を砕いた。
二つ目が、白い壁を突き破った。
三つ目、四つ目が、石垣を、根元からえぐり取った。
崩れ落ちる城が、淡い光の粒になって、ほどけるように、空へと溶けていく。
土煙が晴れた時、
城は、跡形もなかった。
★
崩れ落ちてくる石垣も瓦も、センたちに触れる寸前で、光の粒になって消えていく。
気づけば、センたちは、何もない平原の上に立っていた。
センは、頭をぼりぼりとかきながら、
「くそ! 壊されるの早ぇよ! ちくしょう!」
もう、隠れる石垣はない。
撃ち下ろせる狭間《さま》もない。
平原の向こうには、40万の軍勢が、黒い壁のように広がっていた。
忍者兵たちは、クナイを握り直し、口寄せの獣を足元に従え、正面の大軍を、じっとにらみつけている。
センは、深く息を吸い込むと、そばに控えていた霊馬に、
(人間のアホな戦争につき合わせちゃって、ほんと、すいやせんねぇ)
深々と一礼してから、そっとまたがった。
「ここからが正念場だ! ゼイとカバノンを殺す!」
ミシャも、霊馬の首筋に、そっと手を添えながら、
「すまない、助かる」
そう言って、霊馬にまたがり、センの隣に並ぶと、声を張り上げた。
「総大将の首を取れば、敵は崩れる! 狙うは二人の首だ! 全員、私に続けぇ!」
「「「「「おおおおお!!」」」」」
突撃開始と同時に、
センは、空を見上げた。
(来い……ゼロ戦!)
轟音が、空を裂いた。
翼に赤い丸を描いた機体が、まっすぐに急降下してくる。
機首から火線が走り、土煙の線が、敵陣の中央を一直線に駆け抜けた。
「鉄龍だぁあ!」
「障壁を張れ! 盾を上に――ぐぁあ!」
隊列に、一本の裂け目が走る。
ゼロ戦が空の彼方へ飛び去るのと入れ替わりに、
(続けて来い……紫電改!)
太く、重い唸りが、空を震わせた。
ずんぐりとした機影が、ゼロ戦の開けた裂け目を、さらに押し広げるように突っ込んでくる。
ゼロ戦の比ではない火線が降りそそぎ、裂け目の両側にいた兵が、まとめて吹き飛んだ。
「二体目だと!?」
「報告では、鉄龍は一体だけと――」
紫電改が去ったあと、敵陣の真ん中に、本陣へと続く一本の道ができていた。
「行けぇえええ!」
霊馬にまたがったセファイラの忍者兵たちが、道へとなだれ込む。
先頭を駆けるのは、ミシャ。
その後ろには、彼女が口寄せで呼び出した、八つの首と大きな翼を持つ大蛇――『ヒドラ』が、地をうねるように追いすがっていた。
八つの首が吐き出す毒霧が、道の両脇に立ちこめ、押し寄せてくる敵兵の足を、次々と止めていく。
だが、道の先には、まだ、何万という兵がいる。
左右からも、すぐに隊列が押し寄せてくる。
1000に満たないシノビ騎兵だけでは、とても本陣までは届かない。
(出し惜しみしてる場合じゃねぇ……来い! 万華鏡・英雄列伝!!)
――光が、はじけた。
忍者兵たちの先頭に、十本の光の柱が立ち上がる。
その中から、十人の英傑が、静かに歩み出てきた。
英傑たちのそばには、霊馬も姿を現していた。
センが徹底して礼を尽くしたおかげか、霊馬たちは、惜しみなく力を貸してくれている。
「「「「「「「「「「影分身ランク10」」」」」」」」」」
10人が、あっという間に100人になった。
騎乗したまま分身すると、馬まで一緒に増えるという、ありがたい仕様。
最初に動いたのは、宮本武蔵だった。
霊馬で一気に敵前まで駆け抜け、飛び降りざまに、二刀を抜き放つ。
次の瞬間には、前を塞いでいた兵の列が、まとめて崩れ落ちていた。
本多忠勝の蜻蛉切《とんぼぎり》が、騎兵を馬ごと薙《な》ぎ払う。
雷電の張り手が、重装兵を盾ごと吹き飛ばす。
弁慶は、降りそそぐ矢を全身で受けながら、一歩も退かない。
「な、なんだ、あの凶悪な兵たちは!」
「止まらねぇ……斬っても、斬っても……!」
「化け物だ……あれは、人間じゃない……!」
英傑たちが切り開いた道を、セファイラの忍者兵たちが、さらに押し広げていく。
本陣までの距離が、みるみる縮まっていった。