スキル『日本』。初期は『勤勉になるだけ』のゴミだったが、開花するにつれ、ゼロ戦、忍者、和食、台風……いくらなんでも強すぎて、みな頭を抱えてる‐センエース‐ 作:閃幽零
20話 加速度的に地球はまわる。
(これで終わりじゃねぇ! ……切り札はまだある!!)
センは、ミシャを、ひょいと抱き上げた。
「セ、セン!? まさか、また飛ぶ気?!」
「しっかりつかまっててください!! こい! 毘沙門天《びしゃもんてん》の剣翼《けんよく》!!」
センの背後で、白銀の刃が、次々と宙に生まれた。
重なり合い、左右へ大きく広がり、一対の翼を成す。
手の中の千本桜が、光になってほどけ、翼へと吸い込まれていく。
翼が、羽ばたいた。
地面が、一瞬で遠ざかる。
ミシャが、センの首に、ぎゅっとしがみついた。
上空100メートルほどのところで、センは停止した。
眼下に広がる、25万の軍勢。
その中心で、将軍たちに守られながら、こちらを見上げる、カバノンとゼイ。
センは、背後の剣翼に、残った力のすべてを注ぎ込んだ。
「乱桜《みだれざくら》・閃華繚乱《せんかりょうらん》!!!」
空が、刃で埋まった。
桜の刃紋を浮かべた日本刀が、センの背後に、次々と現れる。
日の光を照り返す無数の切っ先が、すべて、真下を向いていた。
「……いけ。カバノンとゼイを殺せ!!」
千本の刃が、一斉に、空を蹴った。
刃の群れは、戦場の真ん中で、巨大な渦となって回転し始める。
うなりをあげる、鋼の暴風。
巻き込まれた兵たちが、鎧ごと、盾ごと、細切れになって宙に舞う。
「うわぁああああ!」
「逃げろ! 逃げ――がはっ!」
「障壁が……障壁が、もたない……!」
刃の嵐は、平原を這うように進みながら、敵陣を、端から端まで喰らい尽くしていく。
そして、本陣へと到達した。
何重にも張られた障壁が、一息に、まとめて裂ける。
将軍たちが、剣を構えて立ちはだかる。
だが、前から、横から、頭上から、同時に襲いかかる千の刃を、防ぎきれるはずもない。
「ぐぁああっ!」
「ずぁああああ!!」
カバノンの肩が、深く裂け、
ゼイの脇腹が、刃に貫かれた。
剣の嵐に刻まれながらも、
ゼイとカバノンは、倒れなかった。
すさまじいダメージを受けたが、死んではいない。
口から血をあふれさせながら、なんとか耐えている。
「ぐ……ぉお……」
「ぁあ……」
残った将軍たちが、自らの体を盾にして、二人の前に立ちはだかる。
魔導兵たちが、血を吐きながら、障壁を張り直し続ける。
(くそっ……死ねよ……! あと少し……あと少しなのに……!)
――その時。
センの背後で、剣の翼が、ちかちかと明滅を始めた。
(……っ! ま、待て……まだ……!)
翼の端から、刃が、光の粒になってほどけていく。
戦場を荒れ狂っていた刃の台風も、勢いを失い、次々と消えていく。
体の奥からあふれていた力が、すうっと引いていった。
センの体が、ゆっくりと高度を下げていく。
やがて、つま先が、焼け焦げた土に触れた。
最後の一枚が消えると同時に、センは、膝から崩れ落ちそうになった。
(くそ! 短すぎる!! せめて5分ぐらいは使わせてくれよ!!)
どうにか踏ん張って、ミシャを地面に下ろし、顔を上げる。
刃の台風が通り過ぎた跡には、数えきれない亡骸が転がっていた。
かなりの数を削ることに成功した……が、
その向こうには、まだまだ、黒い壁が残っていた。
残り……15万。
そして、その中心には、
「ぐ……ぅう」
「はぁ……はぁ……」
傷だらけのまま、それでも確かに立っている、ゼイとカバノンの姿があった。
(……ゼロ戦も、紫電改も使った。英雄列伝も、千本桜も、百鬼夜行も……大和も、もう出せねぇ……剣翼も、今、切れた……)
センは、自分の手のひらを見下ろした。
(……もう、何も……残ってねぇ……)
日が、西へ傾き始めていた。
その赤みを帯びた光の中で、15万の軍勢が、ゆっくりと半円を描くように広がっていく。
焼け焦げた平原に立つ、センとミシャを囲い込むように。
本陣の中央から、カバノンが、馬を進めてきた。
肩の傷には、すでに布がきつく巻かれている。
熱に浮かされた顔は赤く、丸眼鏡のひびの奥で、目だけがぎらついていた。
腹の奥では、相変わらず、ぎゅるぎゅると不穏な音が鳴り続けている。
カバノンは、
「ここまで削られるとは、思っていなかった……」
平原を埋め尽くす亡骸を見渡し、それから、センとミシャへと視線を戻した。
「だが、さすがに、もう切り札は残っていないようだな」
「……」
センは、答えなかった。
ただ、奥歯をかみしめ、カバノンをにらみつける。
カバノンは、その視線を、心地よさそうに受け止めた。
「ここまで、よく抗った。あっぱれだ」
穏やかな声だった。
まるで、出来のいい生徒をほめる教師のような。
「跪《ひざまず》いて命乞いをするなら、温情を与えてやろう」
ミシャの肩が、わずかに揺れた。
しばらく、ミシャは、何も言わなかった。
やがて、ゆっくりと膝をつく。
両手を地面につき、焼け焦げた土に、額をこすりつけた。
「……私のことは、どうしてくれてもいい」
かすれた声が、震えていた。
「どうか……民だけは……」
カバノンは、土下座するミシャを、見下ろした。
そして、喉の奥で、くつくつと笑った。
「馬鹿め、冗談だ」
ミシャの背中が、こわばる。
「皆殺しに決まっているだろう。よくも、これだけ甚大な被害を与えてくれたな……さすがに、もう慈悲の心はみじんも残っていない」
それを聞いて、センは、歯ぎしりしながら、
(……そもそも、てめぇらが攻めてこなけりゃ、被害もくそもなかっただろうが……)
拳が、ぎりぎりと震える。
カバノンは、笑みを消した。
丸眼鏡の奥の目が、冷たく、粘りつくように、ミシャを見下ろす。
「私に何度も恥をかかせておいて、ただで済むと思うな。貴様のものは、すべて破壊する。民も、国も、何もかもだ。そのうえで、貴様の心も体も、とことんすり潰す。……それが、私の復讐だ」
(ふざけんな……くそぼけがぁ……)
センの視界が、怒りで、赤くにじんだ。
――その時。
世界の声が聞こえた!!
――0.0000000000003559秒――
――固有スキル『日本』が進化。
――神スキル『転生の城塞都市《じょうさいとし》ラピュタ』を獲得!!!!
効果:人が可燃ゴミのようだ!!