レニーは扉をノックする。沈んだ顔で扉を開けたヴィルに、レニーは手を挙げた。
「もう少し泊めてくれる?」
ヴィルは瞬きを繰り返し、目をこする。そして再度レニーをまじまじと見た。
「幽霊か?」
「そう。化けて出た」
挙げている手の指を別々に動かしてみる。幽霊を見たことはないので、どうアピールすればいいかわからなかった。
そのうち、気まずくなる。
「……冗談。倒してきた」
レニーは手を下ろして、普通に会話することにした。
「嘘だろ……」
「勝てないとは言ってないでしょ」
ヴィルは額を抑える。
「待て。トパーズ冒険者でも無理で依頼料が村じゃ払えないから詰んでたんだぞ」
「ギルドの支援にも限度があるだろうしね」
「……信じられねえ」
「ま、ギルド職員に来てもらって調査してもらうさ。残党いるかもしれないし、オレも残る。で、泊まっても?」
「あぁ。大丈夫だ。入れ」
「ありがとう」
中に入るとヴィルはイスに座り、頭を抱えて肘をテーブルにのせた。
「少し待ってくれ」
「いくらでも」
レニーは立ったままヴィルの様子を見た。
ゆっくり、大きくため息を吐いて手で座るように促してくる。レニーはイスを引いて座った。
「等級聞いてなかったな。そういや」
「ルビー」
「ルビーだから勝てたのか? いやでもソロだぞ」
「実力はあっちのほうが上だったね」
「ならどうやって」
「どうにでも。やりようはいくらでも考えるさ」
相手の領域だと誤認させつつ自分の領分に引きずり込む。いつもやっていて慣れている手段だ。
もしグルーマが少しも油断しない人間であったのなら別の手を考えただろう。
「……ありがとう」
「仕事しただけさ。ギルド所属だしね」
依頼外の調査や問題の解決もギルド所属冒険者の仕事だ。割に合わない分は普段のサポートや特権で補える。
「……帰ってきた息子には少しでも気分良く過ごしてほしかった」
「部屋が綺麗なのはそれで?」
「あぁ。今でもやっちまう。死んだ顔を思い出して眠れないときは、逆に帰ってきてほしいと思っちまって余計にな」
レニーにはその心情はわからなかった。ただひどく寂しいことだと、レニーは思う。
「お前さんが出てから晒し首しか頭に浮かばなかった。だから……帰ってきて嬉しいよ」
涙を流し、鼻をすする。
「……息子も、そうだったら良かったのになぁ」
涙を流し続けるヴィルに、レニーは言葉をかけることはしなかった。
ただ黙って、そばに居続けた。
○●○●
レニーの所属するギルド、ロゼアの酒場にて。レニーはいつも通り食事をしていた。グルーマ討伐の報酬は予想以上だった。隠していた宝の存在が大きいだろう。ほとんど持ち主がおらず、自由にできたため、レニー自身も使えそうな魔法紙をいくつかもらい、残りは売却か返還対応をお願いした。魔法に精通していた敵であったからこその、思わぬ収穫というやつだ。
「──でもレニーくんより早いなんてちょっと見てみたかったかも」
レニーの向かい側にはフリジットがいた。
「早いだけさ。対抗心燃やしてたみたいだし」
「そうなの」
でなければ不意打ちで使えるはずの早撃ちを初手で見せつけたりしない。メイガスは魔法を誇りに思っている。相手が得意としているものが魔法に関係あれば、己の魔法で打ち負かしたいという欲求が出てくる。
それなら倒す手段を考えることは簡単だ。
どこぞの
「いつも言うけどあんまり危ない橋渡らないようにね」
「わかってる」
フリジットは呆れ顔でレニーを見る。
「わかってるだけでしょ」
じとーっとした視線を送られ、レニーは目をそらす。
「……ハイ」
「もー」
頬をふくらませるフリジットに、レニーは他の話題を振ることにした。
「ところで村は大丈夫そう?」
フリジットは頷く。
「レニーくんのおかげで少しずつ活気が出てきてるみたい。良かったね」
「そうだね」
レニーはヴィルのことを思い出す。
子どもを失った苦しみは一生消えないだろう。何かしら気持ちに区切りがついて、少しは前向きになれることを祈るしかない。
レニーには子どもがいるわけではないし、苦しみを癒やすほど寄り添ってあげられるわけではない。
レニーは冒険者だ。脅威を取り除くことはできても、人を救えるわけではない。
こういうときは人の強さを信じるしかないのだ。