魔物をなぎ倒す。
剣をかざしながら、ノアはやけに動きやすい自分の体に驚いた。三日、技を教わっただけのはずだが、強くなれた気がする。それに。
「ノア!」
駆け寄るメリースに、振り返る。速度重視の魔書はノアの傍で浮いていた。戦っている最中もこまめにサポートが入っていた。敵を怯ませ、ノアの一撃を手助けしたり、牽制をして足止めをしてくれたり。おかげで随分戦いやすかった。
ノアは手をあげてメリースとハイタッチをする。
「ナイスサポート。いいね、新しいスタイル」
「でしょう!?」
嬉しそうなメリースについ、つられてしまう。
『どうだミヤモトを継ぐ気があるか』
最終日のミヤモトの言葉を思い出す。
『人の業だ。お前さんが継がなくとも似たようなもんは湧いてくるさ。だから好きにしろ。それでももっと力がほしくなったら……
あの領域に、途方もない強さにしか思えないが――ミヤモトのいる高みへ、ノアは到れるのだろう。だからミヤモトはあんな提案をしてきたのだ。
しかし、ミヤモトの剣は孤独の剣である気がした。
強くなれることは得のはずだ。しかし、答えも出せず、ぼんやりと帰ってきた。
『オレはどうせ冒険者だからね』
レニーの言葉を思い出す。あの言葉はやけに、腑に落ちた。きっとノアは、
メリースの顔をまじまじと見る。
「何よ、そんな見つめてきて」
「……いいや。何でもないよ。帰ろうか」
「うんっ」
二人並んで歩く。
きっとノアは、
○●○●
「やけに気合いの入った髪型ですね」
「え、そうですか?」
モーンはフリジットへ顔を向ける。フリジットの左サイドの髪はハートの形に結ばれており、耳のすぐ前にハートマークがあるような髪型になっていた。それ以外はいつものストレートヘアとあまり変わりないが、ハートの存在感が大きい。
「いつも思うんですけど、かなりの種類の髪型ご存知ですよね」
「いろいろ勉強していますから。モーンさんもしますか?」
左の髪を撫でながら聞いてみる。
「いえ、わたくしそういう歳でもないので……」
似合うと思ったのだが、遠慮がちに断われた。
「えぇー、モーンさん絶対似合いますよ。ハート小さめにしてアレンジ加えたら目立ちませんし」
「いえ、とてもとても……娘にしてあげられたらいいですかね。後でやり方教えていただいても」
「ぜひぜひ。親子でお揃いなのもとっても良いと思いますよ。お子さんっていくつでしたっけ」
モーンは思い出すかのように上を見た。冒険者を引退したのは結婚と、子どもができたからだ、と聞いている。
「双子で息子も娘も五歳ですね」
「きっと可愛いんでしょうね」
「えぇ、とっても」
にっこりと返すモーン。
ギルドの扉が開き、見知った顔がやってくる。
レニーだった。
「やぁ」
「レニーくん、こんにちは」
レニーはフリジットを見つめる。瞬きをしてから、小さく口を開いた。
「可愛いな」
ぼそりと、呟かれる。
「ふぁぶっ!?」
急に顔が熱くなって、つい顔に手を当てる。
「え、何? も、もう一回言って?」
聞き間違いかと思って、人差し指を立てながらレニーに聞く。レニーは首を傾げた。
「なんか言ったっけ?」
きょとんとするレニー。
「可愛いっておっしゃってましたよ」
モーンがレニーに対してはっきり言う。フリジットがばっとモーンへ顔を向けると、受付の見えないところで親指を立てていた。
「あぁ、髪型可愛いなって。口に出てたのか」
レニーは隠すわけでも照れるわけでもなく、驚いたようにこぼす。
「あら、無意識で言ってしまうほどフリジットさんが可愛いんですね」
「そそそんなこと! そんなことないよね! レニーくん?」
ぶんぶんと首を振りながらレニーに助けを求めた。
レニーは肩をすくめる。
「否定しろっての? オレに?」
困ったように、少し寂しげに、レニーが言う。
「……えと……」
どうしよう。何も言えなくなっちゃった。
「依頼、報告しても?」
気まずそうにレニーが切り出してくる。
「あぁ、はい。受けます、受けますとも!」
バン、と受付を叩き、前のめりになってレニーの報告を受け始める。
「……やっぱりわたくしもやってみようかしら」
隣で、そんなモーンの呟きが聞こえた。