生き返ってもコミュが下手! ~熱血系ホビーアニメ主人公になろうとしてるクセにハンデスデッキ使ってるヤツ~ 作:河葛幸狸/スーパー巨大特濃葛根湯
オリジナル要素が増えます。
「そういやオメェら、大会は出ねぇんデスか? 調べたが明日乃は一つも名前出てこないし、夢丹も入学してからはご無沙汰みてぇじゃねぇか。大きい規模のはも少し先にしても、地区の市民大会なら区のヴェルサスリングでほとんど毎週やってんだろ。大会は精霊への絶好のアピール場だ。ヴェルサス試験前に出とけ」
人気の少ない放課後の食堂にて、簡易ボードを挟み対面に座ったオッチャンが、手札を見ながら何気なく尋ねてきた。
ランチ制度を賭けた一戦(賭けた覚えは無く流れで戦ったが、まあ勝ったらおじゃんになったので賭かってたんだろう)以来、放課後は時々営業時間外の食堂に顔を出して、こうやってオッチャンとヴェルサスしているのだ。
本当にめちゃくちゃ嬉しい……! 思わず涙ぐむ程だ……!
実技授業以外で何回も戦ってくれる相手って、今までは翔だけだったからなぁ。
「あ〜、俺はちょっと事情があって出てなかったけど……今は出ようと思えば出れるぜ」
それはそれとして極めて痛い所を突かれた俺は、思わずサレンダーしかけた。
大会なんて人が集まる場所にぼっちで行けるワケないぜ!
「ないぜ!」って胸張るとこじゃないんだよな。
「えへへ、実は僕も緋色と仲良くなってから、ついつい一緒に遊ぶのを優先しちゃってて……緋色が出るなら、もちろん一緒に出るよ」
とはいえこれは俺だけが抱える問題でもないらしく、隣に座ってオッチャンの出してくれたポテトを箸でつまむ翔に顔を向ければ、そちらもイタズラがバレたような顔で頬を掻いていた。
か、翔……! なんたる熱い友情……!
俺は今、猛烈に感動している……!
確かに思えば休日もどちらからともなく誘って遊び回ってほとんど一緒に居るのだから、翔だけ大会に出てるハズもなかった。
どうも大会に出る習慣が無かった俺に付き合わせちゃってたらしい、大変申し訳ねぇや。
ついでとばかりにポテトを一本差し出されたので、ありがたく頂く。うめ……うめ……。
「フゥン……? ま、事情が解決したならサッサと出とくことデスね。試験前に強いカード仕入れとくのは悪くねぇぜ。そのカードがお前を助ける事もある」
──往々にして、運命ってのはそういうもんだ。
オッチャンはそう言うと、犬歯を剥き出しにして獰猛に笑うのだった。
なるほどなぁ〜?
でもまぁ確かに、翔が来てくれてぼっちじゃないなら大会に出ない理由もない。
それにオッチャンと戦ってから、新たにパックから出るようになったカードも試してみたいし、新デッキを試すには良い機会だ。
視線を合わせた俺と翔は、二人して口角を上げて頷きあった。
が、それはそれとして……。
「笑顔こえーってオッチャン。そんなだから普段食堂来ない女子に『学内にコック姿の凶悪な不審者が居ます!』って職員室へ駆け込まれるんだぞ。【悪略】で【がらがらどんを食べた怪物】忘却領域送りで」
「っがあ゛あ゛ああぁぁ一番いる時にピンポイントで抜くのやめろ! 怯える相手にサービススマイル送っただけなのに、なんで走って逃げられるんだよ!」
そんなワケで次の日曜日。
俺と翔は、毎週末開かれる地区大会へとやって来ていた。
学校のソレと変わらない規模のヴェルサスリングは、観戦席も含めて想像以上の人入りとなっている。
「おわーっ! 毎週開催の大会でもこんなに人が来んのかぁ!」
「ホントに初めてなんだねぇ。まあ年齢別でトーナメント組まれるからさ。観戦趣味の人は朝から晩まで見て帰ったりするらしいし、毎週こんなもんだよ」
会場となる市民ヴェルサスリングは、市民会館的な機能が付随した公的ヴェルサス場だ。
凄いよな、カードゲーム対戦会場が主で市民会館が従な事なくない? 流石に逆だろ。
まあでも隣り合った市の市長がエインシュリアで予算を奪い合ったりしてるらしいし、それを思えばこの扱いもさもありなんと言ったところか。
……さもありなんとか言うとる場合か?
時折無性にこの世界で生きていくのが不安になるぜ……。
就職面接で社長に負けて永年給与無し雇用とかになったらどうしよ……。
「中学生の部はこちらになりまーす!」
「あっ、もう受付開始してるみたいだよ。ほら、行こ緋色」
「おっと、わりぃわりぃボーッとしてたわ! おーし、記念すべき初大会、気合い入れて行くぞー!」
「ふふ、おー!」
プルプルと頭を振り、考えるだけムダな今世のリアリティラインについての思考を追い払うと、俺と翔は揃って拳を上げて受付へ突撃するのだった。
さぁて、俺の新しい試みは、果たしてどんな胸踊る名勝負を生み出してくれるだろうか!
「対戦ありがとうございました!」
「は、はいへん……はりはほうほはいはひた……」
なんでか試合中からどんどん呂律が回らなくなった対戦相手と、頭を下げ合う。
いや良いデッキっすねぇソレ!
【白髭王ニャンコロ二世】を主軸としたネコデッキだけど、たぶん適性としてトークンが増やしにくいカードに寄ってるんで、代わりに『キメラ』種族を『ネコ』として運用してるんすよね?
ネコ単体でシナジー充分あるからなかなか模索されない方向だけど、その分発展性があるジャンルだと思っててぇ〜。
「う、うわーん! 解剖の結果内臓褒められて喜ぶモルモットは居ねぇよ!」
早めに終わったし次の試合まで雑談でも……と、感想を言いながら近寄るも、どうしてか彼は泣きながら胡乱なことを叫び、走り去っていってしまった。
うむむ、またダメかぁ。
一、ニ回戦の相手に引き続き、三人目も撃沈である。どうして……?
新カードの内の一つもまだ使えてないし……こっちは流石に今の俺じゃあ条件厳しすぎたかもなぁ。
もしかしてココでならと思ったが、やっぱり大会でも変わらずヴェルサスが終わるとみな脱兎の如く走って行ってしまう。
あまりにもみんな同じ挙動をするものだから、この世界ではそういうもんなのかと思い一回同時に走り出して追走したこともあるのだけど、そん時は同級生が大泣きしてしまったからなんか他の理由があるっぽい。
『対話』自体はきちんと出来るんだけど、その後仲良くなるための雑談に入るのが難しいんだよなぁ!
うーむ、これはもしかしてなんだけど……。
もしかすると俺は何かひどい勘違いをしていたのではないか?
もしかして俺は…………。
『対話』での相手への理解度が、足りていないんじゃあないだろうか?
そもそも対戦相手が不明な理由で走り去るのなら、その理由を不明でなくする事がまず第一だろう。
みんなが走り去ってしまう理由を先んじてヴェルサスの中で見つければ、相手の勝ち筋を潰すように先手を打って対策ができる。
いや、うん、そうだな! これは我ながらかなり慧眼な気がするぞ!
そうかそうか、雑談の為にはまず話す「口」と思っていたが、足りなかったのは本当は見抜く「目」だったのだ。
思えば俺の目指す熱血系主人公だって日頃は抜けていても、大事なことは誰よりも目敏く見逃さない頼もしさがあった。
ただ性格を真似ているに留まらず、そういった人として大切な部分も取り入れていくべきだったのか。
なるほどなぁ〜! そう考えれば納得だ!
どうして中学に入るまでその事に気付なかったのか、むしろ今じゃそっちの方が不思議だぜ!
たかだか二回戦にして、既にエインシュリアのみならず人生における重要な気付きまで得られてしまった。
それもこれもこの地区大会に出たおかげだ。
この運命を引き寄せてくれたであろうカードの精霊とやらに、俺は手を合わせてなむなむと祈りを捧げるのだった。
「対戦、ありがとう、ございました……」
そうしていると耳に飛び込んできた聞き覚えのある声に、俺はふと顔を上げる。
「おっ、七獄さんじゃん!
「あっ……明日乃、か……」
視線の先で隣の対戦台からとぼとぼと降りてきたのは、黒髪おかっぱに黒いパーカー黒いスカート黒いタイツと黒尽くめの女子。
それは、俺と同じ属性を持った唯一のクラスメイト『七獄 えんさ』であった。
「ほい、メカコーラ」
「あ、ありがと……って、そうだ、お金」
「おう」
次の試合まで時間があったので、飲食OKな廊下のベンチでちょっと座って話すことになった。
なったというか、した。
なんせ彼女は『俺と対戦する』という条件を満たしていないので即座に走り出さなかったからな。
俺は走って逃げない相手となら普通に話せるし、こうしてちょっと座らないかと誘えるのだ。
まあその弱点ももはや克服したも同然だがな、フフフ……!
「……三回戦突破おめでとう。次はもう準決勝じゃん」
「おう! ありがとな! まあ今んとこアグロめの相手に当たってないから、対戦相手との噛み合いが良かったのはあるけどさ」
プルタブを開けず、手の中でコーラの缶を弄びながら、彼女は勝利を祝いでくれた。
そっちはどうだった? みたいな事は言わない。
彼女が先ほど惜しくも破れてしまったのは知っていたから。
敗北のショックから立ち直るまで声をかけないでおくべきかとも思ったが、そのひどく思い詰めたような顔を見たら、なんだか危なっかしくて放っておけなかったのだ。
明るいヤツとなにか話すことで、その落ちた気分が少しはマシになれば……そんな風に考えるのは、いささか自分に都合が良すぎるだろうか。
それでも俺は、クラスメイトで唯一同じ【闇】適性を持つ仲間として、彼女を励ましたかった。
「七獄さんは今回は何のデッキ使ってたんだ?」
「……『マーメイド』デッキだよ。物量で攻めるつもりだったのに……半端な出力になって、相手の部族に競り負けた」
「そっかぁ〜。マーメイドは打ち消しやドローの魔法と相性が良いだけに、使い勝手の良い素材の多さが逆にデッキ構築の壁となって、ブン回りにくさにも繋がっちゃうんだよな。難しいデッキにチャレンジしててすごいと思うぜ!」
この世界においてデッキを褒められる事は、とにかく大変喜ばしい事なのだと俺は感じていた。
プレイングの良し悪しなんかももちろん嬉しいことだが、そもそもデッキを組めるということは最低限そのカードの精霊と通じ合っている証左だからだ。
「……他に道があれば、チャレンジなんかしなくてもいいもんね」
けれど、どうも彼女にとってそこは、また違う意味を持っていたらしい。
おわ゛ーっ! マズい! なんだかとっても地雷っぽい!
ダメだ、やっぱまだまだ俺にコミュ二ケーションは難し過ぎる!
と、とりあえず話題を変えなきゃ……!
「いやぁ、にしてもホントに人多いんだな! 俺大会来るの初めてだからさ、正直地区大会なんてもっと小規模だろってナメてたぜ」
「あー、初めてなのな……なんか、意外だな」
「そうかぁ? まー確かに、俺もできたら出たかったのは確かだしな〜」
「……うん、意外だよ。いっぱい大会出て、いろんな人と戦ってきたから……そんなに強いのかと、思ってた」
なんだか歯切れの悪い言葉を並べながら、彼女は目を伏せて手元のコーラの缶に視線を落としている。
ひどく力の篭もっていない、まるで萎みかけた風船から最後の空気が抜けるかのような声だった。
「……世の中、不公平だよね。大会にも出てなかった
本当に恨めしそうに、この世の全てが憎い、つまりもちろんお前も憎いとでも言いたげに、絞り出すような声が彼女の口から漏れ出る。
その眉間は深く寄り、まなじりは引きつって、吐き出される息は上がり、口元は戦慄いている。
……な、なんかもっとすごいの踏み抜いた……?
「なんなんだよ……なんでなんだよ……アタシとお前の、なにが違うんだよッ!」
握りしめられたコーラが手の中で潰れて、ブシュッと内側に閉じられていた炭酸が吹き出した。
中に閉じ込められていた圧力が、一つのきっかけをもって外側へ爆発的に放出されている。
「なんにも上手くいかない! 生まれた瞬間から、初めて人と話した時から、初めてのパックを剥いた時から! ……誰かとエインシュリアでカードを交わした時からッ!」
地面に叩きつけられた缶が、踏みつぶされて形を変える。
どろりと流れ出た黒い液体は、ベンチの暗がりからうぞうぞと這い出た真っ黒な粘体が吸い上げて、サラと粒子になり消えた。
「全部全部全部! まるで決まってたみたいに!! 人生は失敗で、アタシは出来損ないだった!」
突然のことに気が動転しそうになっていたが、しかし耳に飛び込む彼女の叫びを脳で理解する度に、どんどん俺は冷静になっていく。
胸の中でずっと燃えていた炎が、まるで風に煽られたみたいに揺れる。
「……ずっと、お前みたいに、上手くできな、かった……」
夜風に晒された灯火がほんの一瞬揺らめいて消えるように、陽が落ちれば夜が来るように、瞬く瞼の裏に光が届かないように。
穏やかで静かで、他に誰もいない孤独に満ちた、果てのない茫漠たる暗闇が、俺の胸に広がった。
ほんの一時だけ、もしくは飽きもせずまた。
温度の無い黒の中に、俺の輪郭が融け始める。
「……なんか、スッゲー分かるな。七獄さんの気持ち」
「ハ、ハァ!? 何適当言って……っ! 私が怖くて使えない【闇】を使ってんのに、なんでか友達も居て、エインシュリアも上手くて、その上明るく生きてるお前なんかに……!」
泣いている。
涙は溢れていないけれど、彼女は頭を振り回すように号哭を上げている。
俺のように、泣いている。
涙流さぬままにその命を終えた、つまらなく滑稽な男のように、今彼女は泣いている。
ひどく懐かしく、そして彼女が憐れだった。
同じ道を歩いていた人間として、憐れまずにはいられなかった。
きっと彼女も、あの日の俺を見たら憐れんだだろう。
そういう風にしか、遠く同じ道の上に立つ同類たちと相憐れむ事でしか、他者と感情を向き合わせられない。
そんな道が、俺達の足元で繋がっていた。
「運命に愛されたお前なんかに、アタシみたいな出来の悪い人間の気持ちなんかわかるわけ無いんだ……!」
「分かるさ、嫌というほどに」
スゥ、と自身の体温が下がったのが分かった。
あの日に魂だけ戻ったみたいに。
ズルを咎められて、再びセーブ地点からやり直しになったみたいに。
この生命が終わりへと漸近してゆく。
何時だって帰れるあの部屋の床に、俺が再び倒れ伏す。
頬に当たるひやりとしたフローリングは、十年経ってもまだココにあった。
◇ ◇ ◇
「分かるさ、嫌というほどに」
アタシは驚いて顔を上げた。
なぜなら、目の前に居たはずの相手が、突然別の誰かに変わったと思ったからだ。
けれど依然としてそこには、同じクラスの赤髪の小さな男の子が座っている。
だというのに。
さっきまでのややデリカシーに欠ける、考え無しで底抜けに陽気な声を出していたクラスメイトは……同じ声の、知らない人になっていた。
叩きつけた八つ当たりに呼応して返ってきたその人の声は、小学二年の冬に病院で触れた祖母の枯れた腕を思い起こさせた。
「周りができるのを見て、どうして自分がこうなのか学校の机に座り毎日考える。毎朝鏡の前に立つのが辛くて、自分の目さえ見れなくなった。なんにもないからこそ、持っている人を嫌いになってしまいそうになる……そんな自分が、一番嫌いなのに」
小さく呟かれる一つ一つの情景が、アタシの目を通した一人称視点で過ぎ去ってゆく。
同じ経験をした者以外には絶対に知り得ない、心の底の失意まで彼はアタシに開示した。
誰にも見せたくない、アタシだって抱えてる同じ傷跡を、彼はアタシの為に外気へ晒してみせた。
それはあまりにも優しい、聖人にしか成し得ない考えられぬほどの挺身であると、アタシの中で
「【闇】を握るのは、怖い?」
「……小学校に入る頃くらいから、段々周囲の目が怖くなった。なんだか悪い事をしてるみたいな、コイツとやると『コレ』なんだよなみたいな……そういう気持ちが、透けて見えたから」
アタシを見つめる彼の瞳は、さっき睨みつけた時と変わらず、血のように鮮烈な真っ赤をしている。
だというのに、どうしてかアタシにはそれが、底のない昏い穴のように黒々と輝いて見えた。
見詰めれば吸い込まれてしまいそうなその穴を、なのに恐ろしいと思えない。
理解の及ばぬ暗がりならば恐れられるが、自身の弱さに理解を示す
「そっか」
瞬間。
フッ、と彼の雰囲気がさっきの明るさを取り戻した。
「……じゃあ見せてあげるぜ、七獄さん。あなたと俺がこの世に生まれ落ちた日に持たされたモノの、本当の使い方を。その力が持つ……誰かの心を照らし出す輝きを」
さぁ、立って。観戦席で見ててくれよ。
あなたの為の、俺のエインシュリアを。
囁かれるその言葉に従って、アタシはまるで夢の中みたいにフラフラと指定の席へ着いた。
中学生の部、準決勝が始まる。
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【もう一度だけ】フレーバーテキスト──『死が不幸ならば、生は幸福だったはずではないか』