妖精と聖剣使い   作:使い手なない

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第89話「二人のS級初任務」

 

 X780年。

 

 フィオーレ王国、マグノリア。

 

 妖精の尻尾。

 

「エルザ、準備はできましたか?」

 

「はい!」

 

 ギルドの入り口で、エルザ・スカーレットが力強く頷いた。

 

 十五歳にしてS級魔導士となった彼女は、今日、初めてのS級依頼へ向かう。

 

 その隣には、黒髪のハーフツインテールを揺らす少女。

 

 イリス・アストレアが立っていた。

 

「ふふっ。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」

 

「い、いえ! 緊張などしていません!」

 

「おや?」

 

 イリスが微笑む。

 

 エルザは少しだけ頬を赤らめた。

 

「……少しだけです」

 

「ふふっ」

 

 その様子を見ていたマカロフが、満足そうに頷いた。

 

「エルザ。今回の依頼はおぬしが主体じゃ。イリスねえちゃんは、あくまで万が一のための同行者じゃからな」

 

「承知しています!」

 

「うむ。頼んだぞ」

 

「はい!」

 

 エルザは胸を張った。

 

 そのとき。

 

「エルザー!!」

 

 ナツが駆け寄ってきた。

 

「すっげえ魔物が出たら、俺にも教えろよ!」

 

「お前は留守番だ」

 

「なんでだよ!?」

 

「私の初任務だからだ」

 

「くそー!」

 

 その横で、グレイが笑う。

 

「せいぜい頑張ってこいよ、エルザ!」

 

「言われなくても、そのつもりだ」

 

 エルザが答える。

 

「エルザお姉ちゃん、気をつけてね!」

 

 リサーナが手を振った。

 

「うむ。必ず無事に帰ってくる」

 

 イリスも笑顔で手を振る。

 

「それでは、行ってきますね」

 

「いってらっしゃーい!」

 

 賑やかな声に見送られ、二人はマグノリアを出発した。

 

◇

 

 今回の依頼先は、フィオーレ王国北部の山岳地帯。

 

 古代遺跡の調査中、危険な魔物が出現し、調査員たちが内部に取り残されたという。

 

 依頼内容は、調査員の救出と魔物の討伐。

 

 報酬も危険度も、通常の依頼とは一線を画していた。

 

「……なるほど」

 

 馬車に揺られながら、エルザは依頼書を読み返していた。

 

「魔物の種類は不明。遺跡内部の構造も完全には把握されていない……」

 

「難しそうですね」

 

 隣に座るイリスが、のんびりと答える。

 

「はい。ですが、必ず達成してみせます」

 

「ふふっ。頼もしいですね」

 

 エルザは依頼書を畳んだ。

 

 そして、少し迷ってから口を開く。

 

「……イリスさん」

 

「はい?」

 

「一つ、聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「もちろんです」

 

「イリスさんは、初めて難しい依頼を受けたとき、怖くありませんでしたか?」

 

 イリスは少し目を瞬かせた。

 

 そして、懐かしそうに微笑む。

 

「怖かったですよ」

 

「……え?」

 

「私も、最初から何でもできたわけではありませんから」

 

 イリスは窓の外へ視線を向けた。

 

「初めての依頼では、失敗しないように何度も準備を確認しました。危険な魔物と戦うときも、緊張したものです」

 

「イリスさんでも……」

 

「はい」

 

 イリスはエルザを見つめる。

 

「でも、怖いからこそ慎重になれます。大切なのは、その気持ちに振り回されないことだと思いますよ」

 

「……なるほど」

 

 エルザは静かに頷いた。

 

「ありがとうございます」

 

「ふふっ。どういたしまして」

 

 それから二人は、しばらく他愛のない話を続けた。

 

 ナツとグレイの喧嘩。

 

 ミラジェーンとの張り合い。

 

 リサーナが作ったお菓子のこと。

 

 いつしかエルザの緊張も、すっかり和らいでいた。

 

◇

 

 数日後。

 

 山岳地帯の古代遺跡。

 

「……ここか」

 

 エルザは巨大な石造りの入り口を見上げた。

 

 周囲には崩れた柱や、苔むした石像が並んでいる。

 

 かつては立派な建造物だったのだろう。

 

 しかし、今では長い年月によって、その大部分が崩れ落ちていた。

 

「ずいぶん古い遺跡ですね」

 

 イリスが呟く。

 

「はい。まずは内部を確認します」

 

 エルザは剣を抜いた。

 

「イリスさん、行きましょう」

 

「はい!」

 

 二人は遺跡へ足を踏み入れた。

 

 内部は薄暗く、湿った空気が漂っていた。

 

 壁には古い魔法文字が刻まれている。

 

 エルザは足元を確認しながら進む。

 

 崩れた石材。

 

 巨大な爪痕。

 

 そして、床に残された引きずられたような跡。

 

「……大型の魔物がいるようです」

 

「そうみたいですね」

 

 イリスは穏やかに答えた。

 

 しばらく進むと、奥から微かな声が聞こえてきた。

 

「……誰か!」

 

 エルザが足を止める。

 

「今、声が……!」

 

「聞こえましたね」

 

「急ぎましょう!」

 

 二人が通路を抜けると、広い地下空間へ出た。

 

 そこには、崩れた石柱に囲まれた調査員たちの姿があった。

 

「助けに来てくれたのか!?」

 

「妖精の尻尾のエルザ・スカーレットです!」

 

 エルザが名乗る。

 

「皆さん、怪我はありませんか!?」

 

「軽い怪我だけだ! だが、ここから出られないんだ!」

 

 調査員の一人が奥を指さした。

 

「あそこに、化け物が……!」

 

 その瞬間。

 

「グルルルルル……!」

 

 低い唸り声が響いた。

 

 暗闇の奥から現れたのは、巨大な四足の魔物。

 

 全身を黒い甲殻で覆い、鋭い爪と牙を持つ異形の獣だった。

 

「……なるほど」

 

 エルザは剣を構える。

 

「イリスさん。調査員の方々のそばにいていただけますか?」

 

「はい。わかりました」

 

 イリスが頷く。

 

 エルザは一歩前へ出た。

 

「ここから先は、私が引き受ける!」

 

◇

 

「グオオオオオッ!!」

 

 魔物が咆哮した。

 

 次の瞬間、巨大な身体が突進してくる。

 

「換装!」

 

 エルザの身体が光に包まれた。

 

 現れたのは、防御に優れた重装の鎧。

 

 剣と盾を構え、突進を受け止める。

 

「くっ……!」

 

 凄まじい衝撃。

 

 足元の石畳が砕けた。

 

 だが、エルザは踏みとどまる。

 

「はああっ!!」

 

 剣を振るう。

 

 甲殻に火花が散った。

 

「……硬い!」

 

 刃が通らない。

 

 魔物は巨大な爪を振り下ろした。

 

 エルザは盾で受け流し、距離を取る。

 

 そのとき。

 

「危ない!!」

 

 調査員の叫び声。

 

 魔物が突然方向を変え、彼らのいる場所へ向かっていた。

 

「させるか!」

 

 エルザが地面を蹴る。

 

「換装!」

 

 軽装へ切り替え、一気に加速。

 

 魔物の進路へ飛び込んだ。

 

「はあああっ!!」

 

 鋭い斬撃が、魔物の前脚を打つ。

 

「グルアアッ!!」

 

 魔物が怯んだ。

 

 その隙に、エルザは調査員たちへ叫ぶ。

 

「今のうちに、あちらの通路へ!」

 

「わ、わかった!」

 

 調査員たちが走り出す。

 

 イリスはその様子を見守っていた。

 

 エルザは魔物の注意を引きつけながら、少しずつ戦う場所を移していく。

 

 崩れた石柱。

 

 狭い通路。

 

 そして、広い空間。

 

 エルザは周囲を見回した。

 

 ――ここなら。

 

「換装!」

 

 再び装備が変わる。

 

 今度は、複数の剣を空中に展開した。

 

「いくぞ!」

 

 剣が一斉に飛ぶ。

 

 魔物は甲殻で攻撃を弾いた。

 

 しかし、エルザは怯まない。

 

 次々と剣を放ちながら、魔物の動きを観察する。

 

 前脚。

 

 胴体。

 

 首。

 

 硬い甲殻の隙間。

 

「……見えた!」

 

 エルザの瞳が鋭く光った。

 

 魔物が再び突進する。

 

 エルザは正面から迎え撃たず、横へ跳んだ。

 

 そして。

 

「換装!」

 

 手にした剣が、細身の鋭い一振りへ変わる。

 

「はああああっ!!」

 

 甲殻の継ぎ目。

 

 そこへ、全力の突きを放った。

 

「グオオオオオッ!!」

 

 魔物が悲鳴を上げた。

 

 巨大な身体が揺らぐ。

 

 エルザは間髪入れずに踏み込んだ。

 

「これで――終わりだ!!」

 

 一閃。

 

 魔物の身体が大きく傾き、地面へ崩れ落ちた。

 

 轟音が響く。

 

 やがて、遺跡に静寂が戻った。

 

「……ふう」

 

 エルザは剣を下ろした。

 

 周囲を確認する。

 

 調査員たちは全員無事。

 

 魔物も完全に沈黙している。

 

「……よし」

 

 エルザは小さく頷いた。

 

 その背後から、柔らかな声が聞こえた。

 

「お疲れさまでした、エルザさん」

 

「イリスさん!」

 

 振り返ると、イリスが微笑んでいた。

 

「とても立派でしたよ」

 

「……ありがとうございます」

 

 エルザは少し照れたように笑う。

 

 しかし、すぐに真剣な表情へ戻った。

 

「一つ、聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「はい?」

 

「私の判断は……間違っていなかったでしょうか?」

 

 イリスは静かに首を横に振った。

 

「いいえ」

 

 そして、優しく微笑む。

 

「調査員の方々を守りながら、魔物の特徴を見極め、自分の力で討伐した。素晴らしい判断だったと思います」

 

「……!」

 

「もう、立派なS級魔導士ですね」

 

 エルザの表情が明るくなった。

 

「……ありがとうございます!」

 

 イリスは嬉しそうに頷いた。

 

「ふふっ。これからも頑張ってくださいね」

 

「はい!」

 

 こうして。

 

 エルザ・スカーレットの初めてのS級任務は、無事に達成された。

 

◇

 

 それから、一年が過ぎた。

 

 X781年。

 

 妖精の尻尾。

 

「やったわああああ!!」

 

 ギルドに、ミラジェーンの歓声が響き渡った。

 

「ついに! ついにあたしもS級よ!!」

 

 ミラジェーン・ストラウス。

 

 十六歳になった彼女は、S級魔導士昇格試験に合格したばかりだった。

 

「おめでとう、ミラ!」

 

 リサーナが笑顔で抱きつく。

 

「姉ちゃん! すげえぞ!」

 

 エルフマンも大喜びだった。

 

 そして。

 

「ふふん!」

 

 ミラジェーンはエルザの前へ立った。

 

「これであんたと同じS級よ!」

 

「そうだな」

 

 エルザが頷く。

 

「おめでとう、ミラ」

 

「……は?」

 

 ミラジェーンが目を瞬かせた。

 

「ちょっと! なんでそんなに普通なのよ!」

 

「普通に祝福しているだけだが?」

 

「もっと悔しがりなさいよ!」

 

「なぜ私が悔しがる必要がある?」

 

「むきいいいっ!!」

 

 いつもの言い争いが始まった。

 

 周囲から笑い声が上がる。

 

 その様子を見ていたメイビスが、楽しそうに手を叩いた。

 

「ふふっ! ミラちゃん、おめでとうございます!」

 

「ありがと、メイビスさん!」

 

「それで、初めてのS級任務なんですけど……」

 

 メイビスがにっこり笑う。

 

「約束どおり、私が一緒に行きますね!」

 

「……ああ」

 

 ミラジェーンの表情が、少し微妙になった。

 

「そういえば、そんな話だったわね」

 

「はい!」

 

「……本当に大丈夫なの?」

 

「もちろんです!」

 

 メイビスは胸を張った。

 

 その横で、マカロフが深く頷く。

 

「安心せい。メイビスねえちゃんが一緒なら、何の心配もいらん」

 

「……そう?」

 

 ミラジェーンは首を傾げた。

 

 いつもお菓子を食べている、可愛らしい金髪のお姉ちゃん。

 

 魔法に詳しいことは知っている。

 

 けれど、戦っているところは一度も見たことがない。

 

 ――本当に、この人が?

 

 そんな疑問を抱きながらも。

 

「……まあ、よろしくね」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

 二人は初めてのS級任務へ向かうことになった。

 

◇

 

 数日後。

 

 フィオーレ王国西部。

 

 人里離れた渓谷。

 

「……まったく」

 

 ミラジェーンは腕を組んでいた。

 

「なんでこんなところに魔物が集まってるのよ」

 

 今回の依頼は、渓谷に出現した魔物の群れの討伐。

 

 近隣の村へ被害が及ぶ前に、巣を排除する必要があった。

 

「ふふっ。ずいぶん多いですね!」

 

 メイビスが楽しそうに笑う。

 

「笑い事じゃないでしょ!」

 

 ミラジェーンが叫んだ。

 

 その直後。

 

「グルルルル……!」

 

 岩陰から魔物が現れた。

 

 一体。

 

 二体。

 

 さらに数体。

 

「……ふん!」

 

 ミラジェーンが不敵に笑う。

 

「ちょうどいいわ!」

 

「接収!」

 

 黒い魔力が身体を包む。

 

 悪魔の力を宿した姿へと変化したミラジェーンが、地面を蹴った。

 

「はあああっ!!」

 

 強烈な一撃。

 

 魔物が吹き飛ぶ。

 

 続けて、別の魔物を蹴り飛ばした。

 

「この程度!」

 

 次々と敵を倒していく。

 

 メイビスは少し離れた岩の上に座り、楽しそうに見守っていた。

 

「ミラちゃん、すごいですね!」

 

「当然よ!」

 

 ミラジェーンが胸を張る。

 

 やがて、最後の魔物が倒れた。

 

「ふう!」

 

 ミラジェーンは満足げに笑った。

 

「こんなものね!」

 

「お疲れさまでした!」

 

 メイビスが拍手する。

 

 しかし。

 

 その瞬間だった。

 

 渓谷の奥から、地響きが聞こえてきた。

 

「……何?」

 

 ミラジェーンが振り返る。

 

 巨大な岩壁が崩れ落ちた。

 

 土煙の向こうから現れたのは、先ほどまでの魔物とは比較にならない巨体。

 

 全身を黒い岩のような装甲で覆い、巨大な角を持つ異形の魔物だった。

 

「グオオオオオオッ!!」

 

 咆哮。

 

 大地が震えた。

 

「……なによ、あれ」

 

 ミラジェーンの表情が引き締まる。

 

 依頼書には、こんな魔物の情報はなかった。

 

「……まあ、いいわ!」

 

 ミラジェーンが拳を構える。

 

「まとめて倒してあげる!」

 

 地面を蹴った。

 

 強烈な拳が、魔物の胸部へ叩き込まれる。

 

 轟音。

 

 しかし。

 

「……っ!?」

 

 魔物はほとんど動かなかった。

 

 次の瞬間、巨大な腕が振り下ろされる。

 

「くっ!」

 

 ミラジェーンは咄嗟に回避した。

 

 地面が砕け散る。

 

「……硬すぎる!」

 

 再び攻撃する。

 

 だが、装甲はびくともしない。

 

 魔物が口を開いた。

 

 黒い魔力が集まっていく。

 

「……まずい!」

 

 ミラジェーンが身構えた。

 

 そのとき。

 

「ミラちゃん」

 

 背後から、穏やかな声が聞こえた。

 

「ここからは、私に任せてもらえますか?」

 

「……メイビスさん?」

 

 振り返る。

 

 そこには、いつもと変わらない笑顔のメイビスが立っていた。

 

「ちょっと待って! あいつ、普通の魔物じゃないわよ!」

 

「はい。そうみたいですね」

 

「だったら――」

 

「大丈夫ですよ」

 

 メイビスは微笑んだ。

 

 そして、一歩前へ出る。

 

「すぐに終わりますから」

 

 その瞬間。

 

 空間が、静かに歪んだ。

 

「……え?」

 

 ミラジェーンが目を見開く。

 

 魔物が黒い魔力を放とうとした。

 

 しかし。

 

「空間切断」

 

 メイビスが、小さく呟いた。

 

 次の瞬間。

 

 巨大な魔物の身体を、透明な線が走った。

 

 音もなく。

 

 抵抗する暇もなく。

 

 魔物の巨体が、斜めに断ち切られた。

 

「…………は?」

 

 ミラジェーンの口から、間の抜けた声が漏れた。

 

 巨大な魔物が崩れ落ちる。

 

 地響き。

 

 土煙。

 

 そして、静寂。

 

 メイビスは振り返った。

 

「ふふっ。終わりましたよ!」

 

「…………」

 

「ミラちゃん?」

 

「…………ちょっと待って」

 

「はい?」

 

「今、何したの?」

 

「空間を切ったんです!」

 

「……空間?」

 

「はい!」

 

 メイビスはにっこり笑った。

 

「魔物がいる場所の空間そのものを切断したので、硬い装甲も関係ないんですよ!」

 

「…………」

 

 ミラジェーンは、倒れた魔物を見た。

 

 そして、メイビスを見る。

 

 もう一度、魔物を見る。

 

「……ええええええっ!?」

 

 渓谷に、絶叫が響き渡った。

 

◇

 

 任務を終えた帰り道。

 

「……ねえ、メイビスさん」

 

「はい?」

 

「あなた、一体何者なの?」

 

 ミラジェーンが真剣な顔で尋ねた。

 

 メイビスは少し考えた。

 

 そして、いつもの笑顔を浮かべる。

 

「妖精の尻尾の魔導士ですよ!」

 

「……それは知ってるわよ!」

 

「ふふっ!」

 

「笑ってごまかさないで!」

 

 ミラジェーンが叫ぶ。

 

 メイビスは楽しそうに笑っていたが、やがて少しだけ真面目な表情になった。

 

「……ミラちゃん」

 

「何?」

 

「今日のこと、みんなには内緒にしてくれませんか?」

 

「……どうして?」

 

 メイビスは穏やかに微笑んだ。

 

「私は、みんなと普通に楽しく過ごしたいんです」

 

「…………」

 

「強いとか、偉いとか、そういうことを気にせずに」

 

 その言葉に、ミラジェーンは少しだけ目を細めた。

 

 そして。

 

「……わかったわ」

 

「本当ですか?」

 

「ええ」

 

 ミラジェーンは笑った。

 

「あたしたちだけの秘密ね」

 

「はい!」

 

 メイビスが嬉しそうに頷く。

 

「ありがとうございます、ミラちゃん!」

 

「……でも」

 

「はい?」

 

「今度、あの魔法について詳しく教えてもらうからね!」

 

「ふふっ。もちろんです!」

 

 二人は顔を見合わせて笑った。

 

◇

 

 数日後。

 

 妖精の尻尾。

 

「ミラ!」

 

 エルザが声をかけた。

 

「初めてのS級任務はどうだった?」

 

「……まあ、いろいろあったわ」

 

 ミラジェーンが答える。

 

「そうか。無事に帰ってこられて何よりだ」

 

「……ふん!」

 

 ミラジェーンは腕を組んだ。

 

「当然でしょ!」

 

 そのとき。

 

「ミラちゃーん!」

 

 メイビスが元気よく駆け寄ってきた。

 

「一緒にお菓子を食べませんか?」

 

「……あ」

 

 ミラジェーンは、思わずメイビスを見つめた。

 

 いつも楽しそうに笑っている。

 

 お菓子が大好きで、少し子供っぽいところもある。

 

 可愛らしい金髪のお姉ちゃん。

 

 けれど。

 

 ――あの魔法。

 

 ――あの一瞬。

 

 思い出すだけで、背筋が震える。

 

「……メイビスさん」

 

「はい?」

 

「……いえ、何でもないわ」

 

 ミラジェーンは小さく笑った。

 

「一緒に食べましょ」

 

「はい!」

 

 メイビスが嬉しそうに頷く。

 

 その様子を見ていたイリスが、静かに微笑んだ。

 

「……ふふっ」

 

 隣にいたマカロフが、小さく呟く。

 

「どうやら、知ってしまったようじゃのう」

 

「そうですね」

 

 イリスは頷いた。

 

「でも、いいことだと思いますよ」

 

「……そうか?」

 

「はい」

 

 イリスは、楽しそうにお菓子を食べ始めた二人を見つめる。

 

「メイビスにも、また一人、大切な仲間が増えたんですから」

 

 マカロフは少しだけ目を細めた。

 

「……そうじゃな」

 

 一方。

 

「ミラちゃん! このケーキ、とっても美味しいですよ!」

 

「……ふふっ。本当ね」

 

 ミラジェーンは笑った。

 

 そして、心の中で呟く。

 

 ――まったく。

 

 ――妖精の尻尾って、本当に変なギルドね。

 

 けれど。

 

 そんな場所が、彼女は大好きだった。

 

 こうして。

 

 エルザ・スカーレットとミラジェーン・ストラウス。

 

 二人の若きS級魔導士は、それぞれ初めての任務を終えた。

 

 一人は、憧れの剣士に成長を認められ。

 

 もう一人は、可愛らしいお姉ちゃんの恐るべき実力を知った。

 

 そして、二人を見守るイリスとメイビスは、これからも変わらず妖精たちのそばにいる。

 

 新しい時代は、もうすぐそこまで来ていた。

 




【こそこそ妖精話】
~お姉ちゃんの秘密~

 妖精の尻尾、昼下がり。

エルザ「……ミラ。最近、メイビスさんと仲がいいな」

ミラジェーン「ん? まあね」

エルザ「S級任務で何かあったのか?」

ミラジェーン「……別に?」

エルザ「そうか。ところで、メイビスさんは戦闘ではどんな魔法を使うんだ?」

ミラジェーン「…………」

エルザ「ミラ?」

ミラジェーン「……あんた、知らない方が幸せなことってあると思う?」

エルザ「……何の話だ?」

ミラジェーン「世の中って広いのね……」

エルザ「だから何の話だ!?」

 そこへ。

メイビス「ミラちゃーん! ケーキ食べませんかー!」

ミラジェーン「あっ、メイビスさん! 食べる食べる!」

エルザ「……私もいただこう」

メイビス「はい! 三人で食べましょう!」

 楽しそうに笑うメイビス。

 その姿を見つめながら、ミラジェーンは思った。

ミラジェーン(……あの人、あんなに可愛い顔して空間を切るのよね)

エルザ「……ミラ。なぜメイビスさんを見て震えている?」

ミラジェーン「……思い出しただけよ」

エルザ「何を?」

ミラジェーン「秘密♪」

エルザ「……むう」

メイビス「ふふっ! ミラちゃんとの秘密です!」

エルザ「……二人とも、ずるいぞ!」

 その日のエルザは、珍しく少しだけ拗ねていたという。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。

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