マジカル★エクスプローラー ちょいゲス風味 作:名無しのエロゲユーザー
引っ越し先は決まったものの、家具(毬乃さんがある程度準備して用意してくれるらしい)が搬入されるまで俺は花邑家に居候させてもらうこととなった。
今夜ははつみさんと合流し、市街地にある『花邑ホテル』で家族の顔合わせをする予定だ。
毬乃さんに市街地まで送ってもらう車中、俺は訓練の中でつかみかけた『魔力察知』と『気配察知』のスキルについて聞いてみたところ、やはりそれはスキルの発露であるようで、彼女からは「筋が良いわね」とお褒めの言葉を頂いた。
どうやらスキルは訓練しても適性が無ければ取得できないものが多く、聞いている限りその辺りはゲームと似ているらしい。毬乃さんによると派生していくスキルもあるとのことで、例えば『危険察知』(回避率微増)は『気配察知』からつながっていくようだ。
ただ、魔力察知や気配察知も万能ではないらしい。なぜなら俺が毬乃さんの魔力を察知しようとすると、その辺の一般人と同じ程度にしか感じることが出来ないからだ。
そのことを彼女に
さすがツクヨミの魔女だ。おそらく隠ぺいスキルが働いているのだろう。
スキルを過信することは禁物だな。
小一時間ほど車を走らせると車は市街地に到着した。
昼食を食べてから出てきたので、今の時刻は昼過ぎである。
「じゃ、また後でね。こうちゃん♪」
「はい、また」
いつの間にか『幸助君』から『こうちゃん』にランクアップしていた。
彼女は俺の口調が中々砕けてこないことが不満なようだが、会ってからの合計時間が数時間に満たないのに『ちゃん』になっていることのほうがどうかと思う。
でもこれが彼女なりの距離の詰め方なのだろう。彼女ほどの女性なら嫌な気はしないしな。
さて、会食まで数時間は自由行動だ。
この辺りは学園に近く、ゲームで出てきた地域とほぼ変わらない。俺は時間を潰すがてら、観光も兼ねてあちこちと散策することにした。
ゲームでは学園の外で活動することも多い。ダンジョンにもぐったり、おつかいクエストを消化したりすることで有用な武器やアイテム、仲間を増やしていくのだ。
そういう意味では、このあたりの地理を確認しておくのもいいだろう。
「ここが花邑ホテルか……」
しばらくブラブラしていると、今夜の待ち合わせ場所であるホテルに到着した。前世の帝国ホテルを思い出させるような高級ホテルだ。
ここで優雅に時間を潰すのも悪くは無いが、その場合、万単位でお金が飛ぶことになりかねない。
ママ活するときの集合場所はだいたいこういうホテルに入っている喫茶店が相場なので、金額帯もだいたいわかる。
コーヒー1杯で3000円というのを見て世の不条理を嘆いたものだ。
だが良いこともある。だいたいそういう時はホテルの上に部屋を取っていてくれることが多く、ベッドインまで近いことだ。
―――今日はベッドインの予定も無いからパスだな。近場をもう少し回ってみよう。
そう思って足を踏み出したとき、俺は目がくらむような閃光と爆音、爆風に襲われた。
咄嗟に飛んでくる割れたガラスやコンクリートのかけらをストールで防御するが、体勢を崩してしまう。
爆風が収まったのを確認して恐る恐る目を開けると、舞い上がった粉塵をかき分けるかのようにホテルから客が逃げ出してくる。どうやら花邑ホテルの1階で爆弾が爆発したようだ。
鼓膜を痛めたのか耳がキンキンするが、その隙間から悲鳴と怒号が聞こえてくる。
先ほど見ていた喫茶店からは火の手と黒煙が上がり、ホテルの出入り口は我先に逃げ出そうとする人、怪我を負って足を引き摺りながら必死に逃げている人で溢れ、混沌の極みと化している。
(事件か、事故か……?)
混乱している人々を見て逆に冷静になり、俺の脳内には考える余地が生まれた。
周囲を観察していると「パーティー会場が爆発した」という声が聞こえる。それが本当であれば、事件の線が濃厚だろう。だがゲーム開始前のことだから、そんな事件は俺の知識には無い。
そんなことを考えていると、救急隊でも消防隊でもない、見るからに怪しいスーツの一団が避難者の流れに逆らうかのようにそそくさとホテルの中に入っていく。
よく見ると耳の先がとがっている……エルフか? 確かにマジエクではメジャーな種族だ。本物?を見るのは初めてだな。
俺はつい反射的に彼らの後を追ってしまった。
▼
スーツの一団は他には目もくれずパーティー会場に入っていった。
俺は見つからないよう後をつけ、会場の入り口から中の様子を窺うことにする。
中にはスーツの一団と向かい合うかのように2人の女性と1人の男性が立っていた。先ほどの集団の目的はこの3人をどうにかすることだろう。
護衛のような女性に守られた金髪の少女が襲撃者に向かって叫ぶ。
「裏切り者! このような襲撃者に協力するとは、恥を知りなさい!」
「リュディヴィーヌ様は勘違いされているな。俺らは裏切ってなどいない、最初からこっち側だっただけさ」
リュディヴィーヌって……まさか襲われているのはあのメインヒロインの1人である「リュディ」なのか!?
彼女はトレーフル皇国という国の王女様で、ゲームでは彼女にまつわるイベントも多かったし、何より優秀な魔法使いだったからよく覚えている。ゲームでは出会った当初、「信頼していた人に裏切られた」と言って心を閉ざしていたが……まさかこれがその「裏切り」の場面か!
こんなにも早く、そして想定外の場面でヒロインに出会うとは。
それぞれに剣や銃らしき物を持った襲撃者たちがじりじりと包囲を狭める。
「諦めたらどうだ?」
「こちらにはクラリスがいるわ。人数では不利かもしれないけど、防御魔法に秀でた彼女がいる限り、騒ぎを聞きつけた人たちが駆け付けるまで持ちこたえることは可能……!」
「やれやれ、お嬢様は俺たちがそれをすんなりと許すと思っているのか?」
「どういう……」
その時、突然リュディの隣にいたもう1人の男のエルフがクラリスと呼ばれた女性騎士の背を手に持っていた剣で突き刺した。
彼女は手に持っていた剣を落とすと「がふっ」と血を吐き、地面に倒れ伏した。
「クラリス!? オーレリアン、何を……!?」
「クククッ……ふっははははははは! その顔が見たかった! 何年もガキのわがままに我慢してきた甲斐があったぜ!」
「オーレリアン、貴方も裏切ったのね! クラリス! クラリス!」
「さて、ここからはお楽しみの時間だ。安心してください、リュディヴィーヌ様。命までは取りませんよ。今はまだ、ですがね……」
リュディは泣きながらクラリスを抱き寄せるような形をとるが、それを見た襲撃者たちはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべつつ彼女ににじり寄る。
許せねぇ。
瞬間、俺は足元に落ちていたガレキの中から鉄の棒を拾い上げ、全身に肉体強化の魔法をかけると、ストールと服に硬化のエンチャントを付与した。
彼女たちから襲撃者たちの気をそらすため、わざと音を立てながら襲い掛かる。
「お前らぁぁぁぁぁぁ!」
「何も……ぐはぁっ!」
対応の遅れた奴から順に『第三の手』『第四の手』でぶちのめす。
十分に硬化出来ていたらしく、殴られた奴らは一撃で昏倒した。だが敵はまだ残っている。
時折銃弾や魔法が飛んでくるが、俺はストールで防御しつつ、敵の死角から死角に入るよう移動する。
強化した鉄の棒と『第三の手』『第四の手』で叩きのめしながらリュディたちに駆け寄ると、彼女たちと俺を守るためストールを遮蔽物として展開する。
襲撃者たちは銃や魔法でストールを攻撃するが、今のところ上手くさばけているようだ。
「あなたは……」
「俺のことはいい。あんたはトレーフルのリュディヴィーヌ殿下だな?!」
俺が強い口調で問いかけると、彼女はコクリと頷いた。
よく見ると爆発のせいか服は破れ、少し怪我もしているようで、走って逃げるという事は難しそうだ。
それにクラリスという女性を置き去りにもできない。
「攻撃に転じる間、あいつらを引き付けることは出来るか?」
「引き付ける……目くらましの魔法なら。でもクラリスが……」
「お嬢……様……わた、しが……『アイギス』を、唱えますので……」
かろうじて意識のあったクラリスが防御魔法を唱えるという。なら、それに頼らせてもらうしかない。
攻撃魔法が使えない俺は、相手が複数ならストールを畳んで『第三の手』『第四の手』を使うほか無いのだ。
「なら3,2,1でストールを解除するから、そのタイミングでそちらの方が『アイギス』を、俺が攻撃するタイミングで殿下が目くらましを頼む!」
「わかったわ……」
彼女は気丈に返事をするが、不安が声と顔に現れている。
「安心しろ。俺が守るから」
「へっ!?」
「いくぞ……3,2,1,今だ!」
「『アイギス』!」
「リュディ!」
「『フラッシュ』!」
彼女の頭を一撫でして俺は敵に向かって駆けだす。
タイミングを合わせて彼女の名を呼ぶと、襲撃者たちをリュディが放つまばゆい閃光が襲った。
隙だらけとなった彼らを俺は乱入してきた時と同じように第三の手、第四の手、そして手に持った鉄パイプでぶちのめすが、1人だけ、素早く体制を立て直したオーレリアンと呼ばれた男エルフだけが残った。
「貴様ぁぁぁぁぁぁ! なぜわれらの計画の邪魔をっ!」
「お前らの事情など知ったことか」
「死ねぇっ! 『ファイアストーム』!」
「避けて!」
オーレリアンは手元かららせん状に渦巻く炎を俺に向かって打ち出してきた。リュディの悲鳴に近い叫び声が聞こえる。
俺は手に持った鉄の棒を握り直し、呼吸を整えると、世界がスローモーションで流れる。
今なら、この世界なら、できるはずだ。
「天刃流『
繰り出したのは前世で通っていた道場の流派の技だ。
本来は相手が打ち込んできた竹刀を巻き取り弾き飛ばす技で、ある意味では一般的な剣術の内と言えるかもしれない。だが俺はそれを魔法相手でも出来るという直感があった。
迫り狂う炎の渦の先に鉄の棒を添えるように置き、エンチャントを施す要領で魔力の行き先を無理やり変更する。
ぶっつけ本番でやるようなことじゃないな。
しかし炎は俺の意図した通り、棒の先端を作用点にして俺の斜め後ろ上方に跳ね上がった。俺の目線の先にいるのは「ひぃっ!?」と叫び、引き攣った間抜け面を晒しているオーレリアンだけだ。
そのムカつく顔に向かって鉄の棒を振りぬくと、ごしゃりと鈍い音を立てて彼は吹き飛び、壁に打ち付けられ意識を失った。
死んだかな? まぁいいか。
俺は襲撃者たちの意識が無いことを確認すると、彼らを一か所にまとめてその辺にあった布やロープで拘束した。
「ふぅぅぅ……これでひとまずは良いか」
「大丈夫!? 怪我は!?」
「問題ない。殿下こそ大丈夫か?」
「私は問題無いけど……早くクラリスの手当をしなくちゃ」
俺は比較的清潔そうなテーブルクロスを選んで簡易的な包帯を作ると、彼女の傷を服の上から締め付けるように魔法で固定する。
リュディは泣きながらクラリスの手を握り、初級の回復魔法を彼女にかけている。
幸い、クラリスの刺し傷は急所を外れていた。止血して安静にしていれば救急隊が来るまでは十分に持つだろう。
あるいは毬乃さんが来る方が早いかもしれない。別れてからまだそれほど時間は経っていなかったからな。彼女なら傷跡一つ残さず回復できるだろう。
それまでの間、俺はリュディの傍らに座り、毬乃さんがやってくるのを待つことにした。
ふとスマートフォンを見ると、毬乃さんから鬼のように電話がかかってきている。
事件のことを聞き、俺が巻き込まれていないか心配になった、というところか。
すみません、巻き込まれるどころか事件の中心に向かって疾走していました。
お説教の1ダースくらいは覚悟しておいた方がいいだろう。
その後来た救急とトレーフルの人たちにリュディとクラリスを任せると、俺は駆け付けた毬乃さんと合流した。
「もう! 危ないことをして!」とぷんぷん頬を膨らませながらお叱りの言葉を受けたが、お褒めの言葉もいただいた。
毬乃さんは事件の後始末と放り出すことになってしまった仕事を片付けなければならないので家族3人での食事会は延期。
俺は簡単な事情聴取の後、別のホテルをあてがわれそちらに宿泊することになった。
Tips)
天刃流:主人公が前世で入門していた道場の架空の流派。なお師範の娘と懇ろな関係にあった。