第六章 魔法の絨毯と秘密の作戦
アグラバー王国の王宮。その一室にて、何とも奇妙な光景が広がっていた。
「「…………」」
部屋の中央に置かれた円卓。その上には大量の紙が散乱し、飲みかけの紅茶や、茶菓子の残りが並んでいる。そして、その机に突っ伏しているのは、アグラバー王国の国務大臣ジャファーと、アバブワのアリ王子……の格好をしたアラジンだった。
対照的に、そんな二人の向かい側では、王子とランプの魔人ジーニーが、今なお元気に話し合いを続けていた。
「……なるほど。それなら、姉上も喜ぶかもしれませんね」
「だろ!? いやぁ、王子様のアイディアは悪くないぜ!」
「でも、少し派手すぎませんか? 姉上は、あまり大げさなことをされるのが好きではありませんから」
「おっと、そうだった! じゃあ、もう少し控えめに……」
ジーニーが指を鳴らすと、空中に浮かんでいた巨大な花束が消え、代わりに小さな花が一輪現れた。
「……これならどうだ?」
「うん。良いと思いますよ」
「よっしゃ!」
ジーニーは嬉しそうに拳を握った。そんな二人の会話を聞きながら、ジャファーはゆっくりと顔を上げる。
「……殿下、……一つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「ん? もちろん。どうしたの、ジャファー?」
ジャファーは疲れ切った表情で、深々と溜息を吐いた。
「……何故、そこまで次々と案が浮かぶのでございますか?」
「え?」
「先ほどから、既に数十もの案を出しておられます。しかも、そのほとんどが私には到底思いつかぬものばかりです」
「……そうですか?」
「そうですとも」
ジャファーは額を押さえた。
「……よく考えてみれば、私は恋愛などしたことがありません。男女の機微など、分かるはずがなかったのです」
「……右に同じ」
隣で突っ伏していたアラジンが、力なく片手を上げた。
「……俺も、女の子を喜ばせる方法なんて知らないよ。ましてや、相手は王女様だぞ?」
「……情けない男だな」
「さっき自分も分からないって言っただろ!」
「私は国務大臣だ。恋愛に関する知識など、政務に必要ない」
「俺だって必要なかったんだよ!」
「貴様は今、必要になっているではないか!」
「だから困ってるんだろ!」
再び言い争いを始める二人を見ながら、王子は楽しそうに笑った。
「……あはは。二人とも、元気が出てきたようで何よりです」
「殿下! 笑い事ではございませんぞ!」
「そうだぞ! こっちは人生が懸かってるんだからな!」
「ごめんなさい。でも、僕だって恋愛経験なんてありませんよ?」
「「……は?」」
二人の声が重なった。
「いや。確かに殿下に恋愛経験がないのは百も承知ではありましたが。……では、何故そのような知識を?」
「創作物ですよ」
「……創作物?」
「はい。物語とか、そういうものです。恋愛を題材にしたお話って、結構ありますからね」
王子は何でもないことのように答えた。もっとも、彼が参考にしているのは、主に前世で読んだ小説や漫画、そして映画の知識である。無論、そんな事情を説明するわけにはいかないが。
「……なるほど。書物から知識を得られたと」
「そういうことです」
「……さすがは殿下。日頃の読書が、このような場面でも役立つとは」
ジャファーは感心したように頷いた。
「……いや、そこまで褒められることでもないと思うんですけど」
「何を仰いますか。知識とは、必要な時に活用できてこそ価値があるのです」
「……あはは」
王子は苦笑した。
……うん。まあ、間違ってはいないんですけどね。それにしても、ジャファーは本当に僕のことを高く評価してくれますね。
すると、アラジンは少し考え込んだ後、再び机に突っ伏した。
「……ああ、もう! 難しいことは分からないから、何か良い方法を考えてくれよ!」
「おいおい、アル! 主役がそれでどうするんだよ!」
ジーニーが呆れたように声を上げた。
「恋愛ってのは、本人の気持ちが一番大切なんだぜ?」
「分かってるよ! でも、どうすればいいか分からないんだって!」
王子は顎に手を当てた。
「それなら、少し方針を変えてみましょうか。姉は自由に外へ出たいと願っています。ですから、何かを贈るより、一緒に外へ出かける方が喜ぶんじゃないでしょうか?」
その言葉に、ジーニーが目を輝かせた。
「……おおっ! それだ!」
ジーニーが大きく指を鳴らした次の瞬間、部屋の中央に星空が広がり、煌びやかな夜の街並みが浮かび上がった。
「夜のデート! しかも、ただのデートじゃない!」
ジーニーは芝居がかった仕草で両手を広げる。
「空を飛びながら、世界中の景色を楽しむ! 誰にも邪魔されない、二人だけの特別な時間!」
「……空を飛ぶ?」
アラジンが首を傾げた。
「そう! そこで登場するのが、こいつさ!」
ジーニーが指差すと、部屋の隅で大人しくしていた魔法の絨毯が、嬉しそうに浮かび上がった。
「……なるほど。魔法の絨毯ですか」
王子が感心したように頷く。
「それなら、姉上も喜ぶと思います。王宮の外へ出るだけじゃなくて、空から街を見ることもできますから」
「だろ!? いやぁ、王子様とは気が合うねぇ!」
「……ただし、あまり危険な場所へ連れていかないでくださいね」
「もちろん! 安全第一でございます!」
ジーニーは敬礼した。そんな二人を見ながら、ジャファーは腕を組んだ。
「……ふむ。確かに、悪くない案ですな」
「……本当か?」
アラジンが顔を上げる。
「王女殿下が自由を望んでおられるのは事実だ。それに、王宮の警備を避けて外へ出るのであれば、空を飛べる絨毯は都合が良い」
「……おお!」
ジャファーは鋭い目付きでアラジンを睨んだ。
「……ただし、王女殿下に危険が及ぶようなことがあれば、ただでは済まさんぞ」
「分かってるって!」
「それから、無礼な言動は慎め。王女殿下は、この国の第一王女であらせられる」
「……はいはい」
「返事は一度だ!」
「はい!」
そんな二人のやり取りを見ながら、王子は笑った。
「……じゃあ、決まりですね」
ジーニーが勢いよく黒板へ文字を書き込む。
『第一作戦 魔法の絨毯で夜空のデート!』
「よーし! 作戦開始だ!」
ジーニーの宣言に合わせ、魔法の絨毯が元気よく上下へ揺れた。アラジンは少し緊張したように息を吐く。
「……よし。やってみるか」
そんな彼に、王子は微笑みかけた。
「頑張ってくださいね、アラジンさん」
「……ああ。ありがとな、王子様」
こうして、長時間に及んだ作戦会議は、ようやく一つの結論に辿り着いたのである。
そして、その日の夜。アグラバー王宮の一角にある、ジャスミン王女の私室にて、月明かりに照らされた庭園を眺めながら、ジャスミンは深い溜息を吐いていた。
「……まったく、お父様は」
昼間の出来事を思い出す。突然現れたアバブワのアリ王子。豪華な行列を引き連れ、父王から大歓迎を受けていた青年。また、自分の意思とは関係なく結婚相手を決めようとしている。そう考えるだけで、気分が沈んでしまう。
「……私は、誰かの持ち物じゃないのに」
ジャスミンは小さく呟いた。そんな時、
「……あのー」
「……え?」
聞き慣れない、いや、聞いたことがある声が聞こえ、振り返ると、部屋の外にあるバルコニーに、一人の青年が立っていた。
「……こんばんは」
豪華な衣装を身に纏った青年。昼間、父王が歓迎していたアリ王子だった。ジャスミンの表情が険しくなる。
「……あなた! 何をしているの!? ここは私の部屋よ!」
「いや、その……ちょっと話がしたくてさ」
「話すことなんてありません!」
「……まあ、そう言わずに」
「帰ってください!」
ジャスミンは毅然とした態度で言い放つが、アラジンは諦めなかった。
「……なあ。本当に俺のこと、覚えてないのか?」
「……え?」
その言葉に、ジャスミンは青年の顔を見つめる。どこかで見たような顔立ち。聞き覚えのある声。そして、何よりも、その話し方。ジャスミンは目を見開いた。
「……まさか、アラジン?」
アラジンは少し照れくさそうに笑った。
「……やっと気づいてくれたか」
ジャスミンは呆然と呟いた。
「嘘。だって、あなたは……処刑されたんじゃなかったの!?」
アラジンは頭を掻いた。
「……ああ。そのことか。実はさ、ジャファーが助けてくれたんだ」
ジャスミンは驚いたように目を瞬かせた。
「……ジャファーが? ……どういうこと?」
「処刑されそうになってた俺を、あいつが牢屋から出してくれたんだよ。まあ、おかげで色々やらされてるけどね」
アラジンは苦笑した。
「砂漠の洞窟に行かされたり、古いランプを探させられたり……」
「……ランプ?」
「まあ、そのおかげで助かったし、こうしてまた君に会えたんだけどさ」
アラジンは笑った。しかし、ジャスミンの表情は複雑だった。
「……ジャファーが、あなたを助けたの?」
「そうだよ」
「……そう」
ジャスミンは視線を落とした。彼女にとって、ジャファーは決して親しみやすい人物ではなかった。いつも厳しい顔をしていて、王宮の規則や礼儀にうるさい。弟の教育係としては優秀だと思っているが、自分に対しても遠慮なく苦言を呈するため、少々苦手な相手でもある。そんなジャファーが、父王から処刑を命じられた青年を助けたという。
……何故? しかも、その青年は王女誘拐の容疑で捕らえられた人物だった。ジャファーなら、王命に従って処刑を執行していてもおかしくなかったはずなのに。
「……ジャファーは、何て言っていたの?」
「ん? 仕事を引き受けるなら、命を助けてやるって」
「……仕事?」
「ああ。さっき言ったランプを探す仕事さ」
アラジンは肩を竦めた。
「まあ、色々あったけど、あいつも案外悪い奴じゃないみたいだぜ」
「……そう、なのかしら」
ジャスミンは困惑したように呟いた。ジャファーが何を考えているのか、彼女には分からない。しかし、少なくとも一つだけ確かなことがあった。
……アラジンは、生きている。その事実を改めて実感した瞬間、ジャスミンの目に涙が浮かんだ。
「……良かった。本当に、良かった」
ジャスミンは小さく微笑んだ。
「あなたが生きていてくれて……」
その言葉に、アラジンは目を丸くし、少し照れくさそうに笑った。
「……ああ。俺も、また君に会えて嬉しいよ」
二人の間に、穏やかな沈黙が流れた。やがて、アラジンが思い出したように口を開く。
「……そうだ。実は、君に見せたいものがあるんだ」
「……見せたいもの?」
「ああ。ちょっと、こっちに来てくれないか?」
アラジンが手を差し出す。ジャスミンは少し迷ったものの、その手を取った。すると、バルコニーの下から、一枚の絨毯がふわりと浮かび上がってきた。
ジャスミンは目を見開いた。
「……絨毯?」
アラジンは得意げに笑った。
「ああ。ただの絨毯じゃないんだ。空を飛べるんだぜ」
「……空を?」
「そう。君に、世界を見せてあげたいんだ」
アラジンは絨毯へと飛び乗り、もう一度手を差し出した。
「……どう? 一緒に行かない?」
ジャスミンは驚いたように絨毯を見つめ、ゆっくりと笑顔を浮かべる。
「……ええ!」
彼女はアラジンの手を取り、絨毯へと乗り込んだ。次の瞬間、魔法の絨毯はゆっくりと浮かび上がり、二人を乗せて夜空へと飛び立っていった。
魔法の絨毯から見下ろす夜のアグラバーは、美しかった。月明かりに照らされた街並み。無数の灯りが輝く市場。そして、遠くまで広がる砂漠の景色。ジャスミンは、初めて見る光景に目を輝かせていた。
「……すごい!」
「だろ?」
アラジンは嬉しそうに笑った。
「こんな景色、見たことないわ!」
「気に入ってくれた?」
「もちろん!」
ジャスミンは満面の笑みを浮かべている。その姿を見て、アラジンも自然と笑顔になる。
……良かった。どうやら、王子様たちの考えた作戦は成功らしい。それから二人は、夜空を飛びながら様々な場所を巡った。王宮の高い塔を越え、アグラバーの街並みを見下ろし、さらに遠くの国々へと足を延ばす。
魔法の絨毯は、二人の思いに応えるように空を駆け抜けていった。ジャスミンは、今まで知らなかった世界の広さに感動していた。王宮の外には、こんなにも美しい景色が広がっている。自分が知らない場所が、まだ無数に存在している。そして、……その景色を隣で一緒に眺めているのは、あの市場で出会った青年だった。
「ねえ、アラジン……ありがとう」
「……何が?」
「私に、こんな世界を見せてくれて。本当に、素敵な夜だわ」
アラジンは少し照れくさそうに笑った。
「……俺も、君と一緒に来られて良かったよ」
そうして、二人は夜空の下で、穏やかな時間を過ごした。やがて、魔法の絨毯は再びアグラバーへと戻り、王宮のバルコニーへ静かに降り立った。
「……楽しかったわ」
ジャスミンが名残惜しそうに呟く。
「ああ。俺も」
アラジンは笑った。
「……また、一緒に行けるかな?」
「……ええ。もちろん」
ジャスミンは嬉しそうに頷いた。二人はしばらく見つめ合い、やがてアラジンは魔法の絨毯へと乗り込んだ。
「……じゃあ、またな」
「……ええ。また」
ジャスミンが微笑むと、アラジンは夜空へと飛び立っていった。その背中を見送りながら、ジャスミンは小さく呟いた。
「……アラジン」
その表情には、先ほどまでの悲しみや怒りはなく、ただ、穏やかな笑みが浮かんでいた。
王宮へ戻る途中、アラジンは上機嫌だった。
「……いやぁ、最高だったな!」
魔法の絨毯の上で寝転がり、満天の星空を見上げる。
「……なあ、絨毯。あれ、結構いい感じだったよな?」
絨毯は嬉しそうに上下へ揺れた。
「だよな!」
アラジンは笑った。
「王子様たちに報告したら、きっと喜ぶぞ!」
そう言いながら、絨毯は王宮の中庭へと降り立った。アラジンは軽やかに飛び降りる。
「……よし。それじゃあ、まずは――」
しかし、その言葉が終わるよりも早く。
「……捕らえろ!」
「……え?」
突然、周囲から衛兵たちが現れた。
「……なっ!?」
アラジンが驚く間もなく、数人の衛兵が一斉に飛びかかり、彼の身体を押さえつけた。
「ちょ、ちょっと待てよ! 何だよ、いきなり!」
「黙れ!」
「……うわっ!? おい! 何するんだよ!」
抵抗しようとするものの、腕を押さえられ、あっという間に身体を拘束され、袋に詰め込まれてしまう。
「……確保いたしました!」
衛兵の報告に、一人の男が姿を現した。アグラバー王国の警備隊長、ラズールである。
「……ふん。やはり、貴様だったか」
「……その声、ラズールかよ!? 何で俺を捕まえるんだよ!」
「……黙れ、泥棒め!」
ラズールは険しい表情で言い放った。
「昼間から、どうにも見覚えのある顔だと思っていたが……まさか、処刑されたはずの貴様が、アリ王子などと名乗って王宮へ入り込んでいたとはな!」
「……げっ」
「しかも、今度は王女殿下の私室へ忍び込み、夜間に連れ出したというではないか! 貴様、本当に王女誘拐の犯人だったんだな!」
「いや、違うって! 今日はちゃんと本人の了承を得て誘ったんだよ!」
「黙れ! 貴様の言い訳など聞く必要はない!」
ラズールは衛兵たちへ命じた。
「……連行しろ!」
「はっ!」
袋に詰められたアラジンの身体が持ち上げられる。
「ちょ、ちょっと待て! せめて話を聞いてくれよ!」
「……問答無用だ!」
衛兵たちはアラジンを担ぎ上げ、連れていこうとした。その時、
「……あれ? 何をしているんです?」
穏やかな声が響いた。ラズールが振り返ると、そこには王子とジャファーが立っていた。
「……王子殿下! 国務大臣閣下!」
ラズールは慌てて姿勢を正した。
「……何かありました?」
王子が不思議そうに首を傾げる。
「はっ! 実は、王宮へ不法に侵入していた男を捕らえまして!」
「……不法侵入?」
「はい! 昼間、アバブワのアリ王子を名乗っていた男でございます!」
ラズールは誇らしげに報告した。
「しかし、その正体は、以前王女誘拐の罪で捕らえられた盗人、アラジンでございました!」
「……ああ、なるほど」
王子は小さく頷いた。そして、衛兵たちが担いでいる袋へと視線を向ける。
「……ああ。アラジンさんですね」
「……はい?」
ラズールが目を瞬かせるが、王子は何でもないことのように続けた。
「その人、僕のお客さんですよ。ですから、放してあげてください」
「……し、しかし、殿下!」
ラズールは慌てて声を上げた。
「この男は、以前、王女殿下を誘拐した容疑で捕らえられた者ですぞ! しかも、処刑されたはずの人間が、偽りの身分を名乗って王宮へ入り込んでいるのです!」
「うん。知っていますよ」
「……ご存じなのですか!?」
王子はにこりと笑った。
「全部、承知しています」
「…………」
ラズールは言葉を失った。そんな彼の隣で、ジャファーがゆっくりと口を開いた。
「……ラズール、その男を解放しろ」
「……しかし、閣下!」
「二度は言わん」
ジャファーは冷たい眼差しでラズールを見つめた。
「……その男には、現在、国家の未来に関わる極めて重要な作戦に協力してもらっている」
「……国家の未来、でございますか?」
「そうだ」
ジャファーは重々しく頷いた。
「この作戦の成否は、今後のアグラバー王国の行く末を大きく左右する。故に、貴様にも協力してもらいたい」
「…………」
ラズールは困惑してしまう。国家の未来に関わる重要な作戦。そのような重大な任務に、何故、街の泥棒が関わっているのだろうか? しかし、目の前にいるのは国務大臣と王子殿下である。しかも、二人とも至って真剣な表情をしている。
「……承知いたしました」
ラズールは渋々頷いた。
「……ですが、一つだけ確認させていただいてもよろしいでしょうか」
「……何だ?」
「……陛下は、この件をご存じなのでしょうか?」
その問いに、ジャファーの動きが止まった。王子も、少し考え込む。そして、にこりと笑い、
「……父上には秘密です。まだお話ししていません」
「……な、何故でございますか!?」
「色々と事情があるんですよ」
王子は穏やかに答えた。
「それに、今はまだ父上に知られると困るんです」
「……し、しかし!」
「ラズール」
ジャファーが低い声で呼び止めた。
「……殿下のご判断だ。貴様は従えばよい」
ラズールは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。国王に秘密の作戦。その中心にいるのは、以前王女誘拐の罪で捕らえられた盗人。
……どう考えても、怪しい。しかし、王子と国務大臣が揃って認めている以上、これ以上の追及は難しかった。ラズールは深々と頭を下げた。
「……承知いたしました。では、この男の身柄は殿下にお預けいたします」
「うん。ありがとう、ラズール」
王子は嬉しそうに微笑んだ。
「……ただし」
ラズールは鋭い眼差しで布袋を睨んだ。
「……もし、この男が王女殿下に危害を加えるようなことがあれば、私は容赦いたしませんぞ」
「もちろん。それは僕も同じです。姉上に何かあれば、僕も黙っていませんから」
「……承知いたしました」
ラズールは一礼した。そして、衛兵たちへ命じる。
「……解放しろ」
「はっ!」
衛兵たちはアラジンを地面へ下ろし、拘束を解いた。
「……ぷはっ!」
袋から顔を出したアラジンは、大きく息を吸った。
「……はあ、はあ……! 助かった……!」
アラジンはその場に座り込み、荒い息を吐いた。
「……まったく、何なんだよ!」
「……それはこちらの台詞だ、馬鹿者」
ジャファーが冷たく言い放った。
「貴様、何故、王女殿下の私室へ忍び込んだ? 王女殿下と会うためとはいえ、少しは方法を考えんか!」
「いや、でも、夜のデートを勧めたのはあんたたちだろ!?」
「だからといって、警備に見つかるような真似をするな!」
「無茶言うなよ!」
再び言い争いを始める二人。そんな様子を見ながら、王子は楽しそうに笑った。
「……まあまあ、二人とも」
「殿下!」
「王子様!」
「とりあえず、無事に帰ってきてくれて良かったです」
王子はにこりと微笑んだ。
「それで、アラジンさん。……姉上とのデートは、どうでした?」
その問いに、アラジンの表情が変わった。先ほどまでの疲れた様子が嘘のように、アラジンは満面の笑みを浮かべた。
「……最高だったよ!」
王子は嬉しそうに笑った。
「……それは良かった」
ジャファーも、僅かに表情を和らげた。
「……ふむ。ならば、作戦は成功したということか」
「ああ! ジャスミンもすごく喜んでくれたんだ!」
ジャファーは満足げに頷いた。
「なるほど……それならば、次の段階へ進めるな」
「……次?」
アラジンが首を傾げる。王子も、楽しそうに微笑んだ。
「もちろん。まだ作戦は始まったばかりですからね」
アラジンの表情が、ゆっくりと固まった。
「……え?」
「姉上と仲良くなれたのは良いことです。でも、結婚するには、まだ色々と考えないといけませんから」
「……そ、そうなのか?」
「当然であろう」
ジャファーが腕を組んだ。
「王女殿下との婚姻となれば、陛下の許可も必要だ。それに、貴様の身分についても整理せねばならん」
「……あ」
「何より、王位継承の問題が残っている」
アラジンはゆっくりと項垂れた。
「……まだ、そんなにあるのかよ……」
そんな彼の肩を、王子が優しく叩いた。
「……大丈夫ですよ、アラジンさん」
「……王子様?」
「僕たちも協力しますから。一緒に頑張りましょう」
アラジンはしばらく王子を見つめていたが、やがて苦笑した。
「……ああ。そうだな」
その答えを聞いて、ジャファーは満足げに頷いた。
「……よろしい。では、早速、次の作戦について話し合うぞ」
「……え? 今から?」
「当然だ」
「いや、もう夜中だぞ!?」
「時間は有限だ。無駄にするわけにはいかん」
「……嘘だろ……」
アラジンは頭を抱えた。そんな二人の様子を見ながら、王子は楽しそうに笑う。
「……あはは。じゃあ、まずはお茶を用意しましょうか」
「……殿下。今からでございますか?」
「はい。せっかくですし」
「……承知いたしました」
ジャファーは深々と溜息を吐いた。こうして、アグラバー王国の未来を左右する……かもしれない、奇妙な恋愛作戦会議は、再び始まることとなった。その頃、王女ジャスミンはというと、先ほどの夜空の旅を思い出しながら、幸せそうに微笑んでいた。そして、国王サルタンは、愛娘の結婚相手について頭を悩ませている。……そんな王の下を、訪れた人物がいた。
第七章 国王の本音と魔法のランプ
アグラバー王宮の一角にある国王の私室。その扉の前に立ったジャスミンは、少し緊張した様子で深呼吸をしていた。昨夜、アラジンと共に過ごした時間は、今でも鮮明に思い出せる。魔法の絨毯に乗って眺めた夜空。眼下に広がる街並み。そして、隣で楽しそうに笑っていた青年。
……アラジン。彼が生きていたことも、再び会えたことも、何もかもが嬉しかった。父王はアラジンの正体を知らないが、彼は今、アバブワのアリ王子として王宮に滞在している。どうしてそのようなことになったのか、詳しい事情はまだ聞けていないが、少なくとも父王は彼を結婚相手の候補として歓迎していた。
ならば、まずは自分の気持ちを伝えておこう。そう考えたジャスミンは、意を決して扉を叩いた。
「……お父様。ジャスミンです」
「おお、ジャスミンか。入りなさい」
部屋の中から、聞き慣れた父の声が返ってきた。
「失礼します」
扉を開けると、そこには椅子に腰掛けた国王サルタンの姿があった。
「おはよう、ジャスミン。こんな朝早くからどうしたのじゃ?」
「おはようございます、お父様。少し、お話があるのです」
「ほう?」
サルタンは興味深そうに首を傾げた。
「実は、昨日いらっしゃったアリ王子のことなのですが……」
「……アリ王子?」
ジャスミンは少し頬を赤らめながら、言葉を続けた。
「はい。私、あの方となら……結婚を考えても良いと思っています」
サルタンは黙り込んでしまった。ジャスミンは、てっきり父が大喜びするものだと思っていた。何しろ、これまで何度も結婚相手を勧めてきたのは父自身なのだ。その娘が、初めて自分から結婚を考えても良いと言い出したのである。しかし、父の反応は予想とは違っていた。
「……そうか」
「……お父様?」
「ふむ。アリ王子との結婚を考えても良い、と」
「……はい」
サルタンはゆっくりと頷き、静かな声で告げる。
「……その話は、少し待ちなさい」
ジャスミンは目を瞬かせた。
「どういうことですか? お父様は、私に結婚してほしかったのでは……」
「無論じゃ。お前には幸せになってほしいと思っておる」
「でしたら……」
「じゃが、その前に確認せねばならんことがある」
サルタンは椅子の背もたれに身体を預けた。
「……ちょうど良い。そろそろ来る頃じゃろう」
「……来る?」
ジャスミンが首を傾げた、その時だった。
「陛下。ジャファーでございます」
扉の向こうから声が響いた。
「入れ」
「失礼いたします」
扉が開き、ジャファーが姿を現した。その後ろには、王子と、豪華な衣装を身に纏ったアリ王子……すなわち、アラジンが続いている。ジャスミンは驚いたように目を見開いた。
「ジャファー? それに、あなたたちまで……?」
「……姉上?」
王子も、ジャスミンの姿を見て少し驚いた様子だった。
「おはようございます。姉上も呼ばれていたんですか?」
「いいえ。私は自分から来たのだけれど……」
ジャスミンは父へ視線を向けた。
「お父様。これは一体……?」
「ワシが呼んだのじゃ」
サルタンは落ち着いた様子で答え、王子が不思議そうに首を傾げる。
「父上。何か、急ぎのお話でもあるのですか?」
「うむ。お前たちに、少し聞きたいことがあってのう」
「……はあ」
王子はジャファーと顔を見合わせた。ジャファーも、何か心当たりがあるのか、僅かに眉を寄せている。そんな二人の隣で、アラジンは落ち着かない様子だった。
……何だろう。昨日の夜のことが、もうバレたのか? いや、でも、王子様たちが助けてくれたはずだし……。
アラジンがそんなことを考えていた、その時。
「……ラズール!」
サルタンが声を上げた。
「はっ!」
次の瞬間、部屋の左右にある扉が開き、武装した衛兵たちが一斉に雪崩れ込んできた。
「……え?」
王子が目を瞬かせる。しかし、彼が何かを言うよりも早く、衛兵たちは三人を取り囲んだ。
「……なっ!?」
「何をする!」
「お、おい! ちょっと待てよ!」
突然の出来事に、三人は揃って声を上げた。衛兵たちは容赦なく腕を掴み、王子とジャファー、そしてアラジンを拘束する。王子は驚愕した表情で国王を見つめた。
「……父上!? 一体、何の真似ですか!?」
「お父様!?」
ジャスミンも声を上げた。
「何をなさっているのですか!? 弟まで捕まえるなんて!」
「……静かにせい、ジャスミン」
サルタンは低い声で告げた。その声には、普段の穏やかさがなかった。
「……陛下」
拘束されているジャファーは、険しい表情で口を開く。
「これは一体、どういうことでございましょうか?」
サルタンは鼻を鳴らした。
「フン。……まだ白を切るつもりか、ジャファー」
「……何のことでございますか?」
「ラズールから、全て聞いておるわ!」
その言葉に、ジャファーの表情が僅かに変わり、王子も何かを察したように目を細める。
「……ラズール?」
「そうじゃ!」
サルタンは椅子から立ち上がり、三人を睨みつけた。
「貴様らがワシに隠れて偽の王子を用意し、ジャスミンを陥れ、王位を簒奪しようとしていることは分かっておる!」
「…………はい?」
王子が間の抜けた声を漏らした。
「……は?」
アラジンも呆然とする。ジャファーに至っては、あまりにも予想外の言葉に、一瞬だけ言葉を失っていた。
「……陛下。何を仰って……」
「とぼけるでない!」
サルタンが声を荒らげる。
「王女に近づくため、街の盗人を異国の王子に仕立て上げたのであろう! そして、ジャスミンと結婚させることで、王位を手に入れようとした!」
「……いや、父上」
王子が困惑した様子で口を開いた。
「ちょっと待ってください。そもそも、僕はこの国の王子ですよ? どうして王位を簒奪する必要があるんですか?」
「黙れ!」
「……ええ?」
「お前が、ジャファーと共に何かを企んでおることは分かっておる!」
「……いや、まあ、企んでいるというか……」
王子は困ったように眉を下げた。確かに、父に内緒で色々と進めていたことは事実である。だが、まさか国家転覆を企んでいるとまで疑われるとは思わなかった。
「……陛下!」
その時、ラズールが慌てて声を上げた。
「お、お待ちください! 私はそこまでは申し上げておりません! 私がご報告したのは、王子殿下と国務大臣閣下が、陛下に秘密で何らかの計画を進めておられる可能性がある、ということだけでございます!」
ラズールは必死に説明した。
「それに、アリ王子の正体が、以前捕らえた盗人アラジンであったことは事実ですが、王位の簒奪などという話は一言も……!」
サルタンは不機嫌そうに声を上げる。
「そんなことは分かっておる! じゃが、考えてもみよ! 街の盗人が、たった一夜にして異国の王子になるなど、普通ではあり得ん!」
「……それは、まあ……」
ラズールは言葉を濁した。確かに、その点については疑問が残っていた。アラジンがどのような方法で豪華な衣装や財宝、さらには大勢の従者まで用意したのか、全く分からなかったのである。
すると、サルタンは不敵な笑みを浮かべた。
「方法は限られておる。……例えば、これじゃ」
そう言って、懐から取り出したのは、古びた金色のランプだった。
「…………ッ!?」
アラジンの顔色が変わった。
「……なっ!?」
ジャファーも、思わず目を見開く。そして、王子はランプを見つめたまま、ゆっくりと口を開いた。
「……父上。それは……」
サルタンは満足げに笑った。
「ふふふ。どうじゃ? 驚いたか?」
ジャファーが声を上げた。
「何故、陛下がそのランプをお持ちなのです!?」
サルタンはジャファーへ視線を向けた。
「ほう? やはり、知っておったか。ならば、話は早い」
サルタンはランプを掲げた。
「これは、ただの古びたランプではない。伝説に語られる、魔法のランプじゃ!」
「……魔法のランプ? お父様、それは一体……」
ジャスミンが驚いたように呟いた。サルタンは娘へ視線を向けた。
「ジャスミン。お前は知らぬじゃろうな。……ワシは、若い頃は魔法や伝説に憧れておったのじゃ」
「……え?」
「各地に伝わる古い伝承を調べ、魔術に関する書物を読み漁り、時には自ら修行に励んだこともあった」
サルタンは、どこか懐かしむように目を細めた。
「この世には、常人には想像もつかぬ力が存在する。ワシは、いつかその力を手に入れたいと願っておった」
「……父上?」
王子は驚いたように父を見つめた。そんな話は、今まで一度も聞いたことがなかった。
「……じゃが」
サルタンの表情が曇った。
「ワシには、魔法の才能がなかった。どれほど修行しても、どれほど書物を読み漁っても、何一つ身につかなかった。伝説の秘宝を探し求めても、結局、何も見つけられなかった」
サルタンは自嘲するように笑った。
「……王としての務めもあった。いつまでも夢ばかり追いかけているわけにはいかん。そうして、ワシは諦めたのじゃ」
王子は黙って父の話を聞いていた。
……そうだったんですか。父が魔法に興味を持っていて、しかも、そこまで熱心に研究していたとは思わなかった。
「……それなのに」
サルタンの声が、次第に低くなっていく。
「……お前は、生まれながらにして魔法の力を持っておった」
「……僕?」
サルタンは王子を指差した。
「そうじゃ。王家に伝わる、砂を操る伝説の力! ワシがどれほど望んでも手に入れられなかった力を、お前は生まれながらに持っておった! しかも、ジャファーという優秀な魔法使いまで師としてつき、幼い頃から魔術を学んでおる!」
サルタンの視線が、ジャファーへと向けられた。
「……そしてジャファー。お前もじゃ」
「……私、でございますか?」
「そうじゃ。お前ほどの魔法使いが、息子の教育にばかり力を注ぐのか。……不思議に思ったこともあった」
「……陛下。それは……」
「分かっておる!」
サルタンは声を荒らげた。
「お前が息子のために尽くしてきたことは、ワシとて理解しておる! それが国のためになることだということも!」
その言葉に、ジャファーは口を閉ざした。サルタンはゆっくりと息を吐く。
「……じゃが、正直に言えば、妬ましく思ったこともあった。ワシが手に入れられなかったものを、息子は生まれながらに持っておる。ワシが望んでも叶わなかったことを、息子は当たり前のように成し遂げていく」
サルタンは王子を見つめた。
「……父親として、誇らしく思っておった。じゃが、同時に……羨ましくもあったのじゃ」
「……父上」
王子は困惑したように眉を寄せた。父が自分に対して、そんな感情を抱いていたとは思わなかった。確かに、父は昔から魔法の話になると妙に興味を示していた。皆には内緒で、自分が砂を操る様子を見せると、子供のようにはしゃいでいたこともあった。
……でも、まさか。
そんなことを考えている間にも、サルタンは話を続け、表情が明るくなった。
「……しかし! それも、今日で終わりじゃ! このランプさえあれば、全て解決する!」
サルタンは高々とランプを掲げた。
「ワシが長年求め続けてきた力も! 手に入れられなかった魔法も! 全て、このランプが叶えてくれるのじゃ!」
「……陛下!」
ジャファーの表情が険しくなる。
「お待ちください! そのランプは……!」
「……ふふふ」
サルタンは楽しそうに笑った。
「……見せてやろう」
そう言って、ランプの表面をゆっくりと擦った。すると、ランプの注ぎ口から青白い煙が噴き出し、部屋の天井へ向かって勢いよく広がっていく。
「……なっ!?」
ジャスミンが驚きの声を上げ、衛兵たちも、思わず後ずさる。やがて、煙は巨大な人影を形作り、その中から青い肌をした魔人が姿を現した。
「……はいはーい! お呼びでしょうか、ご主人様!」
ジーニーだった。いつもの陽気な声を響かせながら現れたジーニーは、周囲を見回した。
「……おっと?」
そして、拘束されているアラジンたちを見つけると、目を丸くした。
「……アル? 王子様? それに、ジャファーの旦那まで?」
「……ジーニー!?」
アラジンが声を上げた。
「お前、何でそっちにいるんだよ!?」
「いやいや、そりゃこっちの台詞だぜ!」
ジーニーは困ったように頭を掻いた。
「何がどうなってるんだ、これ?」
サルタンは満足げに笑った。
「……ふふふ。どうじゃ? これが、魔法のランプの力じゃ!」
「……父上! そのランプを、どのように手に入れたんですか?」
サルタンは楽しそうに王子を見つめた。
「気になるか? ……ふふふ。そうじゃろうな」
サルタンはランプを手の中で弄んだ。
「……昨夜、ラズールから報告を受けてのう。お前たちが、ワシに隠れて何やら企んでおるとな」
サルタンは不敵に笑った。
「アリ王子の正体は、以前捕らえた盗人アラジン。しかも、その男が突然、莫大な財宝を持つ異国の王子として現れたというではないか」
サルタンはランプを掲げた。
「……ならば、答えは一つじゃ」
ジャファーが呟いた。
「まさか、陛下……」
「その通りじゃ! 今朝早く、ラズールたちに命じて、アラジンの部屋からこのランプを持ってこさせたのじゃ!」
アラジンが叫んだ。
「……勝手に俺の部屋に入ったのかよ!? それじゃあ人のことを盗人呼ばわりできないじゃないか!」
「王宮の中じゃぞ? ワシの許可があれば、何の問題もあるまい!」
「いや、そういう問題じゃ……!」
王子が静かに呼びかけた。
「アラジンさん。……少し、黙っていてください」
アラジンが口を閉ざす。王子は、父の手にあるランプを見つめていた。
……まずいですね。ランプを奪われたことも問題ですが、それ以上に気になることがあります。
……父上は、ジーニーの存在を知っている。しかも、あの様子。ジーニーは父上を何と呼んだ? まさか、既に……。王子は慎重に口を開き、
「……父上。一つ、お聞きしてもよろしいですか?」
「……何じゃ?」
「……そのランプで、既に何かを願ったのですか?」
サルタンは、にやりと笑った。
「……ほう。気づいたか。流石に察しが良いのう」
王子の背筋に、嫌な予感が走った。
「……父上。まさか……」
サルタンはランプを握り締めた。
「……そうじゃ。ワシは既に、一つ目の願いを叶えてもらった」
王子の表情が変わり、次の瞬間、彼は拘束されていた腕を強引に振り払い、片手を父へ向けた。
「……父上! そのランプを!」
王子の足元から、砂が勢いよく噴き上がった。床の隙間から現れた無数の砂粒が渦を巻き、一本の腕のような形となってサルタンへと伸びていく。狙いは、父の手にある魔法のランプ。傷つけるつもりはない。ただ、これ以上ランプを使わせるわけにはいかなかった。しかし、
「……ふん」
サルタンは、ただ片手を翳しただけだ。しかし、たったそれだけで、王子の操っていた砂が、跡形もなく消し飛んだ。
「…………え?」
いや、正確には違う。砂そのものが消滅したのではない。王子の魔力によって形作られていた砂の流れが、外部から加えられた圧倒的な魔力によって、一瞬で押し潰されたのだ。その光景に、王子は目を見開いた。
「……魔法、ですか」
父が魔法を使った。
「……父上。今のは……」
サルタンは満足げに笑った。
「どうじゃ? 驚いたか?」
「……陛下!?」
ジャファーも驚愕していた。今の魔力の流れは、明らかに常人のものではない。長年魔術を研究してきたジャファーですら、王子の魔法をかき消すことは容易ではない。それを、魔法の才能がないはずの国王が、片手を翳しただけで成し遂げた事実に、ジャファーは青ざめた。
「……陛下。貴方は、一体何を願われたのですか……?」
「……決まっておろう!」
サルタンは両手を広げた。
「ワシが長年、夢にまで見た力じゃ! このランプを手に入れたワシは、すぐに魔人を呼び出した。そして、願ったのじゃ!」
サルタンの声が、部屋中に響き渡る。
「……この世界で、最も優れた魔法使いになりたいとな!」
王子は息を呑んだ。ジャファーは愕然とし、アラジンは何が起きたのか理解できない様子で立ち尽くしている。そんな三人を前に、サルタンは高らかに笑い始めた。
「……ふははははは!」
その身体から、凄まじい魔力が溢れ出す。部屋の空気が震え、周囲の家具が僅かに浮かび上がった。サルタンは、まるで子供のように嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
「これじゃ! これこそが、ワシの求めていた力じゃ!」
そして、両手を大きく広げる。
「……ふはははははははッ!!」
アグラバー王国の国王サルタン。長年、魔法に憧れながらも、その才能に恵まれなかった男。その男が今、魔法のランプの力によって、世界最高の魔法使いへと生まれ変わっていた。
第八章 暴走する魔力と別れ
アグラバー王国の国王サルタン。長年、魔法に憧れながらも、その才能に恵まれなかった男。その男は今、魔法のランプの力によって、世界最高の魔法使いへと生まれ変わっていた。国王の私室に、サルタンの高笑いが響き渡る。その身体から溢れ出す魔力は凄まじく、周囲の家具が宙に浮かび、壁に飾られていた絵画が激しく揺れていた。
「素晴らしい! 実に素晴らしいぞ! これが魔法! これこそが、ワシの長年求め続けてきた力なんじゃな!」
「……父上」
その光景を前に、王子は険しい表情を浮かべていた。
……まずいですね。父上が魔法の力を手に入れたこと自体は、別に悪いことではない。むしろ、長年の夢が叶ったのだから、息子としては喜んであげたいくらいだ。問題はその力の大きさだ。
世界最高の魔法使い。言葉にすれば簡単だが、その意味するところは決して小さくない。少なくとも、先ほど父上が見せた魔法は、僕の砂の魔法を一瞬で打ち消してしまうほどの威力を持っていた。
……でも、父上は世界最高の魔法使いの『力』を得ることができても、その『精神性』は得られていないように思える。それは、非常に危険なのではないか?
そんな王子の懸念をよそに、サルタンは満足げに両手を眺め、やがて、ゆっくりと顔を上げた。
「……さて。長年の夢が叶ったところで、そろそろ本題に戻るとするかのう」
「……本題、ですか?」
王子が首を傾げる。
「そうじゃ。お前たちがワシを欺き、王位を簒奪しようとしていた件じゃ!」
「……いや、父上。ですから、それは誤解で……」
「黙れ!」
サルタンが声を荒らげた。
「ワシは、全て分かっておる! お前たちが何を企んでいたのかも、誰がその中心にいたのかもな!」
そう言って、サルタンはアラジンへと視線を向けた。
「……まずは、貴様じゃ、アリ王子! いや、盗人のアラジン!」
突然名指しされたアラジンは、間の抜けた声を漏らした。
「……え? お、俺?」
「そうじゃ! 街の盗人風情が、よくもワシの娘を誑かしてくれたものじゃな!」
「いや、ちょっと待ってくれよ! 俺は別に……!」
「言い訳など聞かん!」
サルタンは片手を振り上げた。
「ラズール!」
「は、はっ!」
突然呼ばれたラズールが、慌てて姿勢を正す。
「この男を処刑せよ!」
「「「……なっ!?」」」
王子、ジャファー、ジャスミンの声が重なった。アラジンに至っては、完全に固まっている。
「……しょ、処刑、でございますか?」
「そうじゃ!」
サルタンは怒りに満ちた表情で言い放った。
「この男は、我が王国の法を幾つも犯しておる! 王族を欺いた罪! 王族の身分を騙った罪! そして、婚姻前の王女の私室へ、許可なく侵入した罪じゃ!」
サルタンの言葉が響いたその瞬間、奇妙な沈黙が流れた。王子は目を逸らした。ジャファーは額に手を当てた。ジャスミンは気まずそうに唇を結んだ。そして、ジーニーは何とも言えない表情で、ゆっくりとアラジンへ視線を向けた。
「「「「…………」」」」
……ああ。
……それは。
……やってたわね。
……それもガッツリ。
四人の表情が、見事なまでに一致していた。仲間だと思っている者たちの、そんな表情を見て、アラジンは慌てて声を上げた。
「……おい!? ちょっと待てよ! 何だよ、その顔!」
王子は困ったように頬を掻いた。
「……いや、アラジンさん。確かに、言われてみれば……」
ジャファーが重々しく口を開く。
「……残念なことだが、陛下の仰る罪状は、いずれも我が国の法に明記されている」
「……え?」
「特に、王族の身分を偽る行為は重罪だ。王宮への不法侵入とは、比較にならんほどにな」
「……お、おい」
「それに、未婚の王女殿下の私室へ、夜間に侵入した件も問題だ」
「いや、でも、ジャスミンは……!」
「……アラジン」
ジャスミンも、申し訳なさそうに口を開いた。
「私も、あなたが来てくれたことは嬉しかったわ。でも……」
「……でも?」
「……確かに、最初は勝手にバルコニーへ入ってきたわよね」
アラジンは絶句した。そして、最後の希望を託すようにジーニーへ視線を向ける。
「……ジーニー?」
「……いやぁ、アル」
ジーニーは両手を上に向け、お手上げのポーズを取りながら気まずそうに笑った。
「俺も色々と手伝ったけどさぁ……法律って言われちゃうとなぁ」
「おい! 庇ってくれよ!!」
アラジンの悲痛な叫びが、部屋中に響き渡った。
「そもそも、アリ王子になったのはお前の魔法だろ!? 夜のデートだって、みんなで考えたじゃないか!」
「……それは、まあ」
「王子様! あんたも何とか言ってくれよ!」
王子は腕を組み、少し考え込んだ。
「うーん。……情状酌量の余地は、十分にあると思いますけどね」
「そういう問題じゃないだろ!?」
そんなアラジンの叫びを聞きながら、サルタンの表情が険しくなっていく。
「……ふん。やはり、貴様ら全員が共犯というわけか」
「……あ」
……しまった。そういえば、今は冗談を言っている場合ではありませんでしたね。
「お父様!」
そんな中、ジャスミンが慌てて声を上げた。
「お待ちください! 確かに、アラジンが身分を偽っていたことは事実です! でも、私を騙そうとしていたわけではありません!」
「ジャスミン。お前は黙っておれ!」
「黙っていられません!」
ジャスミンは父へと歩み寄った。
「私は、彼の正体を知っています! 昨日の夜も、私が自分の意思で一緒に出かけたんです! だから、彼を処刑するなんて……!」
「……黙れと言っておる!」
サルタンが片手を翳した瞬間、ジャスミンの身体が僅かに震えた。彼女の瞳に、淡い紫色の光が宿る。
「え? ……お父、様……?」
ジャスミンは何かを言おうとした。しかし、その言葉が続くことはなかった。ゆっくりと瞳から意思の光が失われ、彼女はその場に立ち尽くしてしまう。その光景に、王子は目を見開いた。
「姉上? ……父上。今、何を……?」
「少し静かにしてもらっただけじゃ」
サルタンは何でもないことのように答えた。
「まったく。娘というものは、どうしてこうも父親の言うことを聞かぬのかのう」
「……陛下!」
王の反応に、ジャファーが声を荒らげた。
「今のは、精神干渉の魔術でございますか!?」
「ほう? 分かるのか、ジャファー」
「当然でございます! しかし、陛下! そのような魔術を、王女殿下に使用するなど……!」
「……黙れ」
サルタンの声が低くなり、今度はジャファーの身体にも、同じ紫色の光が纏わりついた。
「……ぐっ!?」
ジャファーは顔を歪める。強烈な魔力が、直接意識へと流れ込んでくる。思考を鈍らせ、判断力を奪い、術者の命令に従わせようとする強力な催眠魔術。しかし、
「……この、程度……!」
ジャファーは歯を食いしばった。長年、魔術を研究してきた彼にとって、精神干渉の魔術は決して未知のものではない。自身の精神を守るための術式も、当然ながら心得ている。だが、それでも、相手はランプの魔人の力によって世界最高の魔法使いとなった存在。培ってきた技術や経験ではどうにもならないほど、差が大きすぎた。
「……ジャファー!?」
王子が心配そうに声をかける。その声を聞いた瞬間、ジャファーは決断した。
「……殿下!」
「……え?」
ジャファーは、拘束されていた腕を強引に振り払い、手にしていた蛇の杖を王子へと向けた。
「……お許しを!」
杖の先端にある宝玉が、眩い光を放つ。
「……ジャファー!?」
王子が驚愕した、その瞬間。杖から放たれた魔法が、王子の額へと直撃した。
「……ぐっ!?」
王子は思わず後ずさったが、痛みはなかった。むしろ、胸の奥から何かがあふれ出すような、不思議な感覚があった。
「……これは……?」
王子は自分の胸元へ視線を落とした。
……何を? ジャファーが、僕を攻撃した? いや、違う。今の魔法には、敵意が感じられなかった。それどころか、どこか懐かしい魔力の感触が……。
「……ジャファー?」
王子が顔を上げるが、ジャファーは、既に動かなくなっていた。蛇の杖を握ったまま、その場に立ち尽くしている。その瞳には、ジャスミンと同じ紫色の光が宿っていた。
「……ジャファー!」
王子が叫ぶが、返事はなかった。
「……ふん」
サルタンは満足げに鼻を鳴らした。王子は父を睨みつけた。
「流石はジャファーじゃ。少々手間取ったが、ようやく静かになったわい」
「……父上! 今すぐ、二人の催眠を解いてください!」
「何じゃ、その口の利き方は!」
「姉上もジャファーも、父上のためを思って……!」
「黙れ!」
サルタンが怒鳴り声を上げ、王子は言葉を詰まらせた。
「お前まで、ワシに逆らうつもりか!」
……まずい。父の様子が、明らかにおかしい。いや、最初からおかしかったのかもしれない。長年抱えていた劣等感。息子への羨望。そして、突然手に入れた圧倒的な魔力。それらが、父の感情を歪めてしまっているのか?
どうすればいいのか。王子が必死に考えていた、その時。
「……パオォォォォッ!!」
突然、部屋の外から巨大な鳴き声が響いた。
「……何じゃ!?」
部屋の扉が勢いよく開かれ、巨大な象が飛び込んできた。
「……アブー!?」
アラジンが声を上げた。それは、ジーニーの魔法によって象の姿へと変えられていた、アラジンの相棒アブーだった。主人の危機を察したのか、アブーは巨大な身体を揺らしながら、サルタンへ向かって突進していく。
「……な、何じゃ、こやつは!?」
サルタンは咄嗟に片手を翳した。その瞬間、凄まじい魔力が放たれた。魔法が直撃すると、巨大な象の身体が、まるで木の葉のように宙を舞う。壁へと叩きつけられる直前、その身体が眩い光に包まれ、
「……ウキィッ!?」
小さな猿の姿で床に転がるのだった。アラジンは叫びながら駆け寄り、小さな相棒を抱き上げる。
「……アブー! おい! 大丈夫か!?」
「……ウキ……」
アブーは弱々しく鳴いた。幸い、命に別状はなさそうだった。しかし、その光景を見たサルタンの表情が、再び怒りに染まっていき、呆然と呟いた。
「猿? ……あの象が、猿になったじゃと?」
そして、ゆっくりとジーニーへ視線を向けた。ジーニーは引き攣った笑顔を浮かべることしかできなかった。
「おい、魔人。……これは、どういうことじゃ?」
ジーニーは困ったように頬を掻いた。
「いやぁ、その……ちょっとした、変身魔法ってやつでして……」
「……変身魔法? ……つまり」
サルタンの顔が、みるみる赤くなっていき、その声が震える。
「……あの象も、偽物だったということか? ワシを……また、謀ったということかッ!!」
サルタンの身体から、凄まじい魔力が溢れ出した。
「……父上!?」
王子が声を上げるが、サルタンは聞く耳を持たなかった。
「どいつもこいつも! ワシを馬鹿にしおって!」
部屋の空気が震え始めた。
「偽の王子! 偽の財宝! 偽の象! 何もかもが偽物ではないか!」
「……いや、父上! 落ち着いてください!」
「黙れ!」
サルタンは怒りに任せて両手を突き出した。
「……もう、我慢ならん!!」
その瞬間、両手の間に巨大な魔力の渦が形成された。眩い紫色の光。それは、先ほど王子の砂の魔法を打ち消したものとは比較にならないほどの魔力を秘めており、王子の顔色が変わった。
……まずい! あれは、駄目だ。あの規模の魔法を、こんな狭い部屋で放てば……!
「……父上! やめてください!」
王子が叫ぶ。しかし、サルタンは既に冷静さを失っており、巨大な魔力が、一気に解き放たれた。
「……消え失せろッ!!」
王子は咄嗟に動いた。アラジン、アブー、そして、催眠術によって動けなくなっているジャスミンとジャファー。彼らの姿が視界に入った瞬間、王子は迷うことなく、その前へと飛び出していた。
「……皆さん、下がって!」
王子は両手を突き出した。足元から、大量の砂が噴き上がる。
「……間に合えッ!!」
砂が渦を巻き、巨大な壁を形成していく。王家に伝わる、砂を操る伝説の力。王子が幼い頃から鍛え続けてきた魔法だった。しかし、異変が起きた。砂の流れが、突然乱れたのである。
「……え?」
普段ならば、自在に操れるはずの砂。それが、思いどおりに動かなくなっていた。王子は慌てて魔力を注ぎ込む。しかし、砂は不規則に渦を巻くだけで、まともな防御壁を形成しない。
……どうして!?
その時、王子の脳裏に、先ほどの光景が蘇った。ジャファーが、自分に向けて放った魔法。そして、幼い頃から感じてきた、あの懐かしい魔力。
……まさか、ジャファー。あなたは……!
しかし、それ以上考える時間はなかった。目の前には、既に父の放った魔法が迫っている。王子は片腕を後ろに向け、まずは身動きが取れなくなっているジャスミンとジャファーを砂で部屋の隅へと移動させた。
……よし。次はアラジンさんたちをッ!? そう思った瞬間、凄まじい魔力が、王子の身体へと直撃した。
「……がっ!?」
全身を、想像を絶する衝撃が貫いた。辛うじて形を保っていた砂の壁が砕かれ、王子とその後ろにいたアラジンたちは巨大な魔力の奔流に呑み込まれた。
「……殿下ッ!?」
ラズールが叫んだが、誰も動くことができなかった。王子たちは、魔力の竜巻に巻き込まれ、吹き飛ばされ、壁を突き破って王宮の外へ。さらに、その向こうにある建物の屋根を越え、遥か彼方へと飛んでいく。
その姿は、瞬く間に小さくなり、やがて、アグラバーの街並みの向こうへと消えていった。部屋には、破壊された壁から吹き込む風の音だけが響き、サルタンは、自分の両手を見つめていた。
……何じゃ? 今、何が起きた? ワシは、ただ、あの盗人を……。いや、違う。最後に、魔法の前へ飛び出してきたのは……。
「……あ」
サルタンの顔から、血の気が引いていく。
「お、王子は……? ワシの、息子は……?」
サルタンはゆっくりと顔を上げ、破壊された壁の向こうを見つめる。そこには、何もなかった。息子の姿は、どこにも見えない。サルタンは、再び自分の両手を見つめた。つい先ほどまで、あれほど誇らしく思っていた力。長年、夢にまで見た魔法。世界最高の魔法使いとなった証。
……その力で、自分は何をした?
「ワシは……、ワシは、何を……?」
返事はなかった。普段ならば、ここでジャファーが厳しい言葉を投げかけていただろう。国王としての責務を説き、冷静さを取り戻すよう諫めていたはずだ。あるいは、ジャスミンが怒りを露わにし、弟に何をしたのかと詰め寄っていたかもしれない。
しかし、その二人は今、サルタン自身がかけた催眠術によって、意思を奪われていた。ジャファーは動かず、ジャスミンも、何も言わない。サルタンを叱り、過ちを指摘する者は、今この場にはいなかった。
「……あの」
ジーニーが、恐る恐る口を開いた。しかし、何を言えば良いのか分からなかった。魔法のランプの魔人。あらゆる願いを叶えることのできる、強大な存在。しかし、今の主人はサルタンである。そして、その主人が、自らの息子を吹き飛ばしてしまった。
……どうすりゃいいんだよ、これ。
ジーニーは困惑した表情で、破壊された壁を見つめた。冗談を言うことも、いつものように陽気に振る舞うこともできなかった。
ラズールも同じだった。王宮の警備を任される立場として、王子の身に何が起きたのか、すぐにでも確認しなければならない。しかし、目の前にいるのは、世界最高の魔法使いとなった国王。しかも、その国王は今、自らの行いに愕然としている。何を言えば良いのか。どう動けば良いのか。ラズールには、判断できなかった。
サルタンは、その場に立ち尽くしていた。長年、夢にまで見た魔法の力。世界最高の魔法使いとなった喜び。その全てが、今や跡形もなく消え失せていた。残されたのは、たった一つ。自分の手で、愛する息子を傷つけてしまったという事実だけだった。
「……ワシは……」
サルタンは震える両手を握り締めた。
「……何ということを……」
その呟きに、答える者はいなかった。アグラバー王国の国王サルタン。世界最高の魔法使いとなった男は、今、生まれて初めて、自らが手にした力を恐れていた。
そして、この惨状を覗き見つつ、今すべきことを判断して行動した者たちも、存在していた。
「オイ、行くぞ絨毯。俺様の野望を叶えるためには、あの王子様が必要なんだよ!」
『ーーッ!』
「いや、ゴメン! やっぱスピードは加減しーーッ!?」