朱鳶たち特務捜査班は、あるホロウの前に集合していた。
「改めて説明します。このホロウ内部に違法薬物の販売グループが集まっているとされています。しかしこのホロウは入り組んでいて迷いやすい……そこで」
『僕たちの出番、というわけだね』
意気揚々と名乗りを挙げるボンプ。このボンプは伝説のプロキシ・パエトーンが操作するものだ。朱鳶の要請によって、パエトーンに今回の捜査に協力してもらうことになったのだ。
「ええ。後方支援、よろしくお願いします」
『任せてくれ、できるだけのことはするさ』
「さあ、それでは突入…」
『おっと、ちょっと待った!』
朱鳶たちがホロウに突入しようとしたところに待ったをかけたのは、ジョーカーであった。
「ジョーカーさん!?」
『上からの命令でな、今回の捜査は俺も協力することになった。もう少し急げば良かったな』
「そうなのか……ジョーカーどのが協力してくれるなら千人力じゃ。これはありがたい」
『おう、それなりの活躍はするつもりだぜ。……このボンプは?』
『初めまして、ジョーカーさん。僕たちは“パエトーン”。今回サポートさせてもらうことになっている』
『へえ、こいつぁ驚いた!伝説のプロキシが手を貸してくれるのか。ありがたい』
「それでは改めて……突入です!」
ジョーカーも加入したところで、朱鳶たちはホロウ内部に突入した。
それから。ホロウ内部は入り組んでいる上にエーテリアスが多く、朱鳶たちにも疲れの色が見えてきた。
「はあ……ここ、本当に入り組んでますね。それにエーテリアスも、弱いけど数が多い!」
「そうですね……」
『こればっかりは仕方ないな。青衣殿、ちょいと手伝ってもらえるか』
「うむ、了解じゃ。お主たちは体を休めるといい。その間、我らでホロウ内部の探索を行うでな」
「……すみません、ジョーカーさん、青衣先輩。そうさせてもらいます」
ジョーカーと青衣が去り、朱鳶とセス、そしてパエトーン入りのボンプがその場に残った。
『それにしても……あれが本物のジョーカーさんか。間近で見るのは初めてだけど、やはり強いな』
「流石だよな。前なんかパンチ一発で俺たちの苦戦したエーテリアスを撃破したんだから」
『そうだね、治安局最強と呼ばれるのが分かるよ。それに気遣いもありがたい。道中で何度も朱鳶さんたちや僕たちの状況を確認してくれていた』
「パエトーンさん、セスくん……」
パエトーン(アキラ)とセスがジョーカーについて語っていると、いつになく真剣な顔をして迫力のある朱鳶が近づいてきていた。何か地雷でも踏んでしまっただろうか。2人が硬直していると。
「……わかりますか!?」
「「えっ」」
「そうなんです、ジョーカーさんは強いだけじゃなくてとても優しいんです!!以前も捜査中に私や青衣先輩の体を気遣ってくれて、常に周囲に気配りができる人なんです!それに頭も良くて犯罪者を罠に嵌めるために策を考えてくれたりもして本当に頼れるんです!もう本当に完璧というか!あの人ほど頼れる人はそういません!」
『……朱鳶さんは、ジョーカーさんを尊敬しているんだね』
「それはもう!!」
「先輩、目が本気だ……」
(尊敬っていうより、推してるみたいだね)
(こら、リン)
『戻ったぞ、あっちのルートに裂け目が……何かあったか?』
「いえ、特には。2人がジョーカーさんのことを頼れると」
『はは、そうか。ありがとうな』
それからしばらくして、特務捜査班とジョーカーは薬物販売グループのアジトにたどり着いた。当然グループは抵抗し、戦闘に突入した。
「大人しくしろ!」
「誰が降伏するか!」
混戦状態になる中、ジョーカーは冷静に状況を見極めていた。そして見た。1人の男が、朱鳶に何やら注射を刺そうとしていたのを。
『朱鳶!!』
「ひゃっ……」
朱鳶を抱いて、ジョーカーはすぐさまその不審な動きを回避した。
「チッ……」
『それが何かは知らんが、嫌な予感がしたんでな。無事か?朱鳶』
「ひゃ、ひゃい……」
「今じゃ!!」
青衣の必殺技が炸裂し、グループは壊滅状態になった。ただ1人、ボス格の男を除いて。
『……投降する気は、なさそうだな』
「こっちも色々あるんでね。ただ……そうだな。ひとつ、話を聞いてくれないか」
「話?」
「うちの娘は……エーテル適正減退症候群なんだ」
『…………』
「だが知っての通り、あの病気は治療法がない。俺は誓った。どんな手を使っても娘を助けると。その結果開発したのがこれだ」
「それは……あなたたちが流通させている薬物では?」
「そうだ。その薬を打てばエーテルに侵され、急速にエーテリアス化する。だがそのエーテル成分を使えば、娘の病が緩和するんだ」
「なんだって……」
「この薬の研究を進めていけば、きっとエーテル適正減退症候群が治るかもしれない。協力する気はないか?」
「協力ですって……!?」
「あんたたちが見逃してくれれば、多くの患者が救われる。この薬はいらない犯罪者にでも投与すればいい。どうだい?」
朱鳶、セスは迷ってしまう。浅羽悠真をはじめ、あの病に苦しんでいる人々は多くいる。もし、それに対する薬が生まれるかもしれないとしたら?人の善い2人だからこそ、迷ってしまった。
『……ひとつ、聞かせてくれ』
「なんだ?」
『どうして、さっきそれを朱鳶に打とうとした』
「!!」
『お前は娘のためと言ったが……少なくともお前のお仲間は邪魔者を排除する道具としか思っていなかったようだが?』
「…………」
『それに。それほど大事な薬物を、どうしてあんな簡単にお前の仲間は朱鳶に打とうとした?そんな気楽に使えるものではないはずだ』
「ジョーカーさん……?」
『正直に答えろ。お前は……本当にあの病を緩和させようと思ってあの薬を作ったのか?』
「……ふふ、流石だな。娘がエーテル適正減退症候群なのは確かさ。だが……動機は違う。娘だけが苦しむのはおかしいだろ?だから……他にも同じ思いをする奴らを増やそうと思ったのさ」
「貴様……!!」
「だってそうだろう?どうして普通に生まれただけの娘があんな目に遭わなくちゃいけない?どうして10歳にも満たないのに死に怯えなきゃいけない?だったら、だったら……!!他の奴らも、同じ、目に……」
静かな拳だった。ジョーカーは音もなくボスに近づき、腹に拳を入れた。ボスの男は気絶し、倒れてしまった。
『……朱鳶』
「!! はい、確保します!!」
グループは一網打尽にされ、ボスも逮捕された。だが、特務捜査班の気持ちは晴れなかった。
「……あの男。どうしてあんなことを考えたのでしょうか」
『子を持つ親の愛情が……間違った方向に行ってしまった。そうとしか言えないな』
「すみません。もしジョーカーさんが助けてくれなければ、私は今頃……」
『朱鳶。これからもきっとお前はその善意に漬け込まれることがあるだろう。だがそれでも……その優しさを忘れないでくれ。その優しさで救われる人は、きっといる』
「はい、はい……!!」
ジョーカーが、朱鳶の頭を軽く撫でる。その優しい手のひらに、朱鳶はなんとも言えない気持ちになった。
『パエトーンさんも。ご苦労だったな』
『ああ。ジョーカーさんと一緒に仕事ができて光栄だったよ』
『だが……無茶はするなよ。若干声が疲れてるぜ』
『!!……すごいな。僕たちのことが見えてるのかい?』
『こう見えて俺は気配りを大事にしてるんだぜ。人間が長時間のホロウ探索で疲労が溜まらないなんてこと、あるわけないからな』
『ああ、しっかり休むよ。ジョーカーさんも休んでくれ』
『いや、俺はこれから都市秩序部の手伝いだ』
「はい!?まだ仕事あるんですか!?」
『ああ。セヴェリアンさんからの頼みだからな』
「兄貴………」
『んじゃ、俺はこれで。しっかり休んでくれ』
「ジョーカーさん!!」
朱鳶が、ジョーカーの手を握った。その大胆な行動に、全員が固まった。
「……その、ジョーカーさん。無理、しないでくださいね」
『……ああ。ありがとう』
ジョーカーは去っていった。その背中は、どこか孤独に見えた。
「朱鳶〜。おぬしずいぶん大胆なことをしたな?」
「べ、別にそういうことじゃ……ただ、私はジョーカーさんに無理してほしくなくて……」
『だが、朱鳶さんが自分から人の手を握るなんてね。正直驚きだ』
「それは……その。最初はジョーカーさんが知能構造体だからだと思っていたんです。でも……あの人は、すごく優しいから。」
顔を赤くして、照れながら話す朱鳶。その時の彼女は、まるで恋する乙女のようだった。
朱鳶
ジョーカーさん大好き。普通に触れるけどドキドキしちゃう。
ジョーカー
観察力・気配り、諸々優れている。
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