IS 西の男性操縦者   作:チャリ丸

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ごめんなさい(土下座)

完全に新しいR-18に浮気しておりました。あけましておめでとーっ!!

一年以内に投稿してるからセーフセーフ。
て、展開遅いけどセーフセーフ。





時間と世界

 

 

 

「本当に、分からないわ。そこまでズタボロになりながら後衛の策にかけて、そんな状態から勝てるつもりでいるの?」

「はぁ…、はぁ…!もち、ろん…僕たちが、最後に勝つ…!」

「言ったでしょう?冗談は、嫌いなのよ!」

「ぐぅッ……!」

 

 シャルロットの腹部にスコールの蹴りが深く突き刺さる。

 吹き飛ばされ、壁に激突して『輪廻の花冠』の装甲が欠けた。

 

「う、ぐ……!」

「可哀想ね、あなたも。親友だと思っていた人間に、この状態を救ってもらえずに見殺しにされるなんて」

「なに、か……勘違い、して、るよ……!僕はラウラのことを、ずっと親友だと思ってるし……何より、今この状況を救って欲しいとも思ってない……!」

「あら、そう」

「これが、僕の役、目……だからっ!」

「ボロ雑巾のようになって這いつくばるのが役目?そんな作戦聞いたことがないわ。立案者は誰?私が怒ってあげようかしら」

「…………おい」

 

 シャルロットが倒れたままで体力が減っていることをいいことに、彼女に浴びせられていくスコールからの罵詈雑言。

 その言葉に、戦いの途中ではあるが少しだけシャルロットの心が折れかけた、その時。

 シャルロットの後方で何かの準備に当たっていたであろうラウラが、無表情でスコールのことを睨みつけていた。

 

「何かしら。もしかして、もうあなたの出番?」

「違う、まだだ。……だが、その時になれば覚悟しておけ。私の大事な友を侮辱したことを、私は決して許さん」

「これから死ぬ子に、許してもらう必要はないわ」

「……そうか、分かった」

 

 それだけ聴き終えると、ラウラは再び目を閉じて集中し始めた。

 ラウラが目を閉じたとほぼ同時に、倒れ込んでいたシャルロットが立ち上がる。

 

「僕たちは、負けるためにここにいるわけでも、戦ってるわけでもない」

「そう。でも、あなたたちが勝てる未来はないわ」

「それはあなたの中だけでは、でしょうっ!」

 

 立ち上がったシャルロットが再びスコールへと肉薄する。

 世界初のデュアル・コア搭載機の『輪廻の花冠』のその最たる特徴は、二つのISが合体したことによる圧倒的なスタミナだった。

 

「いいえ。たとえそうであったとしても、実力の差で嫌でも理解するわ」

「はああぁぁっ!」

「ふふ。『プロミネンス』ッ!!」

 

 スコールの両腕に備わっている鞭が炎を纏い、シャルロットを襲う。

 離れれば全方位を対象とした熱波、そして近距離では火球とこの鞭が迫る。

 

「くっ、このぉっ!」

 

 近接デュアルブレード『ジキル・ハイド』を両手に持ち、瞬時加速で距離を詰めて少しずつではあるがスコールに迫っていく。

 だがそれでもやはり、機体の性能は上がっても操縦者同士の実力差が縮まることは無い。

 

「哀れね。……いえ、別に貴女がどうであれ、私がすることに変わりはないわ!」

 

 スコールの鋭い蹴りが、シャルロットの柔肌を切る。

 ISスーツに守られていた部分が切れ、鮮血が流れた。

 

「ふふっ。絶対防御とはいえ完璧ではないもの。血も出ちゃうわ」

「くっ…!」

「あら怖い。…あっ、そうね。貴女を傷つけちゃったら、彼が怒っちゃうわね。それは確かに怖いわ」

「……そうやっていつまでも、剣だけに怯えてた方が楽に終わりますよ」

「そう?楽しみにしてるわ」

「あぁ、楽しみにしていろ。だが、師匠の手は借りずとも、私たちがお前に鉄槌を下してやる」

「ふふ、期待してるわね。きっと、素晴らしい力を見せてくれるのね?」

 

 あくまでも笑みと余裕を崩さないスコール。

 圧倒的な力の差。地力でも、機体の性能でも、そして機体が誇る武装でも、全てに置いて優っているという自信があるのだ。

 

「正直、あなた達が残ってくれて嬉しいわ。イギリスと中国の子は、負けん気に溢れていて何をするか分からないもの」

「……それはつまり、僕たちなら何をしてくるか分かる、と?」

「えぇ。あなた達はあくまで考えられる範疇で動く。予想外の動きをしても、それは想定外じゃない。対応出来る範囲内よ」

 

 その余裕はシャルロットとラウラが基本的な動きを一切怠っておらず、基礎練習をサボっていなかったからこその、スタンダードすぎる責めのため。

 

「あなた達は、攻めてきても怖くはない」

 

 シャルロットを見下ろしながらそう告げたスコール。

 だが、その瞬間。

 

「グッ……ッ!?」

 

 彼女の身体が、その身に纏う『ゴールデン・ドーン』ごと真横に吹き飛ばされた。

 

「……な、何が……?」

「ようやくだ。待たせた、シャルロット」

「ううん。大丈夫だよ、ラウラ。行けるんだね?」

「当然。辺りの空間は把握した。援護は任せるぞ」

「うんっ!」

 

 呆気にとられるスコールと、先ほどまでとは違って笑顔で並び立つシャルロットとラウラ。

 ボロボロになっているシャルロットの目にラウラに対する恨みなどもちろんなく、好戦的な笑みを浮かべてスコールを見つめていた。

 

「さぁ、これからだ……」

「……ふふ。少しは、楽しめそうね…っ!」

 

 ラウラとスコールの言葉を皮切りに、両陣が勢いよく飛び出す。

 シャルロットとラウラの、反撃が始まる。

 

 

 ◇

 

 

「……ふぅ」

 

 地面から上の半球を全て埋め尽くすほどのエネルギー波。

 眼前でそれらに覆われたオータムを見届けた簪は肩の力を抜いた。

 

「初実践にしては、うまくいったかな」

 

 砂煙を巻き上げ続けるそこから目を切り、ISを解除する。

 先程までの戦法は、様々な武装をまるで手足のように同時に扱うため、肉体的にも精神的にも疲労が凄まじく溜まる。

 そのため、こうして適度な休息を取らなければならない。

 

「……お姉ちゃんは大丈夫だと思うし、とりあえず先に――」

「油断大敵火がボーボー、ってなぁ。クソがキィ……!」

「――っ!」

 

 進もうか、と考えたその時。

 ISを展開はしていないものの起動していた簪の視界に、突如として警告画面が現れた。

 そして、そのを聞くまでもなく簪は自分を狙っているものは分かっていた。

 

「くっ、まだ……!」

「詰めが甘ぇとこは、姉にもあいつにも似てねぇなぁ!」

 

 倒したはずの相手、オータムが展開していたISは、アラクネとは全く違うもの。

 敵の情報を得ようと視界に映るウインドウに目をやる時間も簪に与えることなく、オータムは攻撃を開始する。

 

「死ねや!」

「お前がな。『雷轟』」

 

 マシンガンの連射で確実に簪の命を狙っていたオータム。

 そんな彼女を、少し離れた場所でのアリーシャの時と同じく、時守の攻撃が襲った。

 

「何っ!?なんで、テメェがここに!」

「おんなじ質問しかできひんのかお前ら。あのチビをぶっ倒して助けに来た。ただそれだけや」

「くそ……!」

 

 不意打ちを不意打ちで止められ、オータムは自分が勝てないことを悟った。

 ISが完全に使える状態であればどうにかなったかも知れないが、今はできない。

 まして、憎たらしいがかなりの強さを持つマドカを倒してきた時守相手に、生身で勝ち目がないことを理解したのだ。

 

「んじゃ、眠っとけ」

「ぐああぁっ!」

 

 オータムの背後へと近づき、その首筋に電流を流すことで彼女の意識を断つ。

 膝から床に崩れ落ち、持っていた銃を蹴飛ばして簪の元へと歩み寄る。

 

「悪い。遅なってもたな」

「大丈夫。問題、ない」

「嘘ついたらあかんで」

「あうっ」

 

 時守が軽く簪の額を小突く。

 ほんの少しの力だけしか込められていないにも関わらず、簪はそれに押されて二、三歩ほど後ずさった。

 

「ほら、めっちゃ疲れてるやん」

「……別に押さなくても良かった」

「ん、それはごめん」

「お詫びに、ぎゅっとして」

 

 時守に両腕を伸ばし、上目遣いで頼む簪。

 彼女のその愛らしい行動を見て時守が我慢出来るはずもなく、簪が想定していた1.5倍の力が込められて抱きしめられた。

 

「剣、苦しい……」

「嫌やった?」

「……んーん。ヤじゃない。……怖かった。もう、帰りたい……」

「お疲れさん。俺も出来たら速攻帰ってみんなとコタツ入ってゆっくりしたいわ」

「それ、いいね。みかん食べながらアニメ見て、ボケーっとしたい」

 

 時守の胸に顔をうずめ、ただ彼の腕に抱きしめられ続ける簪の表情は、どこか安堵したことを感じさせるものだった。

 

「ま、それすんのは学校帰ってからになるけど、頑張れるか?」

「……ん。頑張ろうね」

 

 彼に向けてうっすらと笑みを浮かべて見上げる。

 疲労が溜まっていることは自分でもわかっていた簪だが、こうして自分の危機を救ってくれた彼を前に、泣き言は言わなかった。

 抱きしめられていた腕から自分の力で抜け出し、振り返って彼に背を向ける。

 

「うん。もう、大丈夫。とにかく今は、先に進もう。……あれ?」

 

 いつもなら自分の言葉に返事をしてくれる彼が、返事をしてくれない。

 そしてさらに、先ほどまでウインドウに表示されていた彼の位置情報や機体の情報が消えていた。

 不思議に思い振り返ると――

 

「……剣?」

 

 ――そこに、彼の姿はなかった。

 

 

 ◇ ◇

 

「ぐぅっ!そ、んな……ことが、あり得るはずがっ!」

「哀れだな。実際に、目の前で起きていることだろう」

「そんな……うぐっ、ま、また……!」

 

 時守が簪の前から消えたとほぼ同時刻。

 それまでは圧倒的な劣勢にあったラウラ・シャルロット組が、スコールを圧倒していた。

 

「そこっ!」

「きゃああああっ!いつまでも、調子に乗らないことねっ!」

「シャルロット、下がれっ!」

「させるはず――――」

 

 接近して大量の銃撃でスコールのSEを削るシャルロット。

 しかし、二人の間にある圧倒的な実力差に変わりはなく、吹き飛ばされた勢いをうまく利用してシャルロットに急接近するスコールを見て、ラウラが叫ぶ。

 その声を聞いたシャルロットが後退しようとしていたところに、スコールが迫る。

 

 瞬間。スコールが、操るIS『ゴールデン・ドーン』ごと静止した。

 

「ありがとラウラっ!助かったよ」

「これが今回の戦いにおける私の役割だからな。シャルロットは攻めに徹してくれ」

「うんっ。攻めは任せてねっ!」

「―――ないでしょうっ!……ま、また一瞬で……」

 

 シャルロットがスコールの近くから離れ、ラウラの元へと戻って来たとほぼ同時。

 スコールの動きが再開し、先ほどまでシャルロットがいた場所への『ゴールデン・ドーン』の尻尾による薙ぎ払い攻撃はもちろん空振りに終わった。

 

「だから言ったんだ。お前に鉄槌を下す、と。教官がお前たちにどういう気持ちで、どういう理由で手を貸しているかは分からん。だから、私たちはここにそれを聞きに来たんだ。その前に、貴様らは単純な敵だからな」

「ここに来ることを決めた時から、剣と楯無さんに協力してもらって、みんな強くなったんだ。簡単に負けるつもりはないよ」

「種明かしは流石にしないようね。でも、なんとなく理解できたわ」

 

 額に汗を浮かべ、頬にも伝う。

 そんなスコールの眼下では、ラウラが一切の油断を感じさせない表情で彼女を見つめていた。

 

「ドイツの第3世代機、『シュバルツェア・レーゲン』に搭載されているAIC。その拘束度は操縦者の集中力に依存する。……まさかとは思っていたけれど、あなたが私の周囲の空間ごと止めているのね」

「お見事、その通りだ。師匠命名『世界(ザ・ワールド)』だ。どうやら日本のコミックに出てくるキャラの技の名前らしいが、私のこれと酷似しているようでな。AICをかけた対象の時を止めるかのような静止力、と考えればそれより上かもしれないと言われたものだ」

「でも、その集中力を保つことができなければ止められない。そうでしょう?」

「あぁ、そうだ。止めてみろ。もっとも――」

 

 ふと、ラウラとの会話の途中に違和感を覚えるスコール。

 そして、先ほどまで自分と接近戦を繰り広げていた人物がラウラの近くから消えていることに気づいた。

 

「しまっ……!」

「――リミッターを外したシャルロットについていけるのなら、な」

「はああぁあっ!」

 

 気づいた時にはもうすでに遅く、背後からシャルロットが瞬時加速で一気に迫っていた。

 彼女が操るIS、『輪廻の花冠』は世界初のデュアルコアのISとなっている。

 ということはもちろん、機体のスペックや格納されている武装の性能も格段に上がっている。

 唯一第二世代である『ラファール・リヴァイブ』を操っている時ですら操縦技術で穴を埋めていた彼女が『輪廻の花冠』を完全に扱えるようになれば、正しく鬼に金棒なのだ。

 

「く、あぁああっ!……っ、に、逃げられない……っ!?」

「逃がすわけないだろう。ここで、決める!」

「うんっ!そのための、今までの守りだから!」

 

 射撃技術以上にこの数週間シャルロットが磨きをかけていたのが、操縦技術だった。

 第二世代である前の機体と比べてスペックそのものが完全上位互換と言ってもいいほどに跳ね上がった暴れ馬を、彼女はこの短い期間で完璧に扱えるようになったのだ。

 それこそ、速さに自信のある『白式』や第四世代の『紅椿』にも匹敵するほどの速度を手に入れていた。

 

「はあああぁぁあっ!」

「なっ、く、うぅ……」

「……今のシャルロットの攻撃でお前のSEは0になった。お前の負けだ。ISを解除しろ」

「まさか、まさか本当にここまでやるとは思わなかったわ」

 

 シャルロットの猛攻の勢いそのままに沈んだ『ゴールデン・ドーン』

 ラウラの言葉通りそのSEは枯渇しており、動力となるISを動かすエネルギーすらも尽きていた。

 半ば諦めの表情を浮かべたスコールが壁にもたれかかるようにして座る。

 その体にはもう、ISは展開されていない。

 

「私の周りの空間を止めることで、その中の時間を擬似的にでも停止、させる……。そして、最後のスパートのために、あえて余力を残すように立ち回ったあなたも、見事よ……」

「敵に褒められてもな」

「ラウラ、行こう。……もう動けないみたいだし、ISだって再起不能。他のとこの助けに行かなくちゃ」

「あぁ、そうだな。鈴やセシリア、もしもう始まっているなら嫁たちのところにも行かねばならん」

 

 くたり、と頭を垂れるようにして力なく降伏するスコール。

 その様子を見てラウラとシャルロットは敵意はなく、脅威ではないと判断し、駆け足でその場を去った。

 

「ふ、ふふっ……。本当に、面白い子たちね。まさかこの短時間でここまで成長するなんて」

 

 普段は真意が分からないような言葉をよく使うスコールだが、その言葉は彼女の心の底からくるものだった。

 キャノンボール・ファストの時やエクスカリバー事件の時と比べ、格段にその力、技術が向上している。

 明確な目標設定があり、期限が定められればこれほどに伸びるのか、というぐらいに力をつけたのだ。

 

「……でも、残念ね。あの二人はもう止められないわ。あなたたちにも、私たちにも。誰にも止められない」

 

 憂うような表情でシャルロットとラウラが駆けていった通路を見る。

 そこには、先ほどまでと変わらずどこか諦めたような表情があった。

 

「今までの全ては、篠ノ之束の手のひらの上。あの化け物に敵う人なんて、存在しない、わ……」

 

 そう一人零し、スコールの意識は落ちた。

 それと同時に、彼女の右手の中に収まっていた『ゴールデン・ドーン』の待機状態がゆっくりと、小さく輝きだした。

 

 




地道〜に、地道に続けます。
応援、よろしくお願いします。


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